全国ネットワークより文部科学省への申し入れ文書


2009年7月1日

文部科学大臣塩谷立殿

キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク
連絡先:事務局 笹沼朋子
Tel. 089-927-9000(代)、Fax 089-927-9226
〒790-8577 松山市文京町3番 愛媛大学法文学部総合政策学科


 私どもキャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワークは、大学でのセクシュアルハラスメントの防止と問題解決に取り組む教職員学生他、この問題に関心を持つ者たちのネットワークです。

 私どもは、今般明らかになった、京都教育大学生による集団準強かん事件と、それに関して京都教育大学がなされた対応について、非常に重大な問題があったと考えています。そして同時に、今回の事件は、いわば氷山の一角で、全国の各大学でも起こりかねないことと懸念しております。文部科学省におかれましては、頻発するこうした事件への適切な対応が大学ひいては文部科学省の社会的信頼を得るために不可欠であること、その前提として、あるべき対処と再発防止のための方策について、十分な認識を持つことが必須であることをご承知おき願い、その上で、該当大学および各大学に適切な通知や指導を行っていただきますよう、下記申し入れをいたします。


(1)大学は被害者救済と問題の解決に全力を尽くすべきこと。

 報道によりますと、京都教育大学は、女子学生の被害申告を受けて調査を開始はしたが、当事者の話が一部食い違ったため強かんにあたるか明確な判断ができないと、「公然わいせつ事件」であったと結論しています。「調査はしたが話が食い違うので判断できない」というのは、セクハラ調査で大学が常套の言い訳とするところですが、加害者側と被害者側の話が100%一致しない限り判断はできない、というのでは、調査はおよそするだけ無駄ということになってしまいます。そもそも、性暴力被害の問題では、被害者・加害者の主張が異なることは頻繁であり、とくに合意の有無について、被害者・加害者双方の主張を対等なものとしてみること自体に問題があります。大学は、性暴力被害を扱うにあたっては、そうした認識を持ったうえで調査に臨み、教育機関としての責任をもって判断を下すべきです。事態が深刻であり大学に調査能力が不足するのならば、被害学生の同意を得て、捜査機関にゆだね、事実関係を明らかにすることに大学として協力すべきです。

(2)大学は被害者を保護支援しつつ、警察に通報することも促すなどの措置を取るべきである。

 私どもは、上記(1)の通り、大学が性暴力被害について不適切な対応をしたことを遺憾と考えますが、しかし、大学は速やかに警察に届けるべきであった、と単純に申しているわけではありません。報道によりますと、文部科学大臣は、「訴えがあったらいち早く警察に知らせるべき」と発言されていますが、この発言が、「事情にかかわらず即警察に通報すること」として、文科省から各大学への指示として受け取られるとすれば、重大な問題があると危惧します。性暴力被害者からの相談を受ける際の鉄則は、被害者の立場に立つことであり、本人の意向を問うこともなく警察に通報するなどは、決してあってはなりません。言うまでもなく、それは、事件を隠すことに大学が加担せよ、というのではなく、大学がすべきなのは、被害学生を心身ともに支えつつ、警察に通報することを含め被害の回復のためにできることについて情報を与え、被害者の意思を尊重しつつ刑事告発の行動を促すことです。この点、とりわけ、大学を指導する立場にある文科省におかれましては、誤解を生じる指導や発言をされることなく、十二分な配慮をされることを求めます。

(3)大学の「教育的配慮」には、加害者処分に留まらない包括的な対応が不可欠である。

 京都教育大学は、今回大学が行った対処が教育的配慮によるものであったことを主張していますが、加害学生たちが停学処分の間に学童指導員のアルバイト等を行っていたことをみると、大学の行ったことは不十分きわまりないと言わざるを得ません。大学が、加害学生への教育的配慮を行うことが問題なのではありませんが、その教育的配慮は、このような卑劣な行為をなぜ起こしてしまったのかを反省させ、二度と繰り返さないよう教育することのはずです。単に停学処分という形式だけでそのような措置を一切取っていないのなら、大学の言う教育的配慮とは、加害性をごまかし甘い処置を行うことに他なりません。また、この事件は、90名近くの体育会系学生たちの宴会で、周囲に学生の居る場で起こっており、逮捕された学生だけでなく、他の学生達にも、性暴力を容認する雰囲気があったのではないか、それは体育会にもともとありがちなものではなかったか、等々を点検し、同様の問題が二度と起こらないようにすることが大学の果たすべき教育的責任であるはずです。

 非常に残念なことですが、大学における性暴力は何ら珍しいことではありません。今回の京都教育大学事件を稀なことと受け止めるのではなく、そのようなことが起きやすい大学、ひいては社会の問題を直視し、京都教育大学をはじめとする各大学は再発防止のために性暴力予防教育(デートDV予防を含む)をおこなうべきであり、文部科学省は、そのような指導にあたっていただきたく存じます。

(4)大学は、被害者の教育環境の回復に全力を挙げること。

 事件報道後、インターネット上を含め、被害を矮小化し、被害者を貶めるような発言も目立っています。こうした発言が被害者や周囲の学生たちにもたらす影響ははなはだ大きいものがあります。大学が、性暴力と人権侵害を許さない毅然とした態度を示すとともに、被害学生の心身の回復を支え、当該学生が真に良好な教育環境でふたたび勉学に励めるよう、最大限のサポートをするのは大学の重要な義務です。


 以上、文部科学省におかれましては、大学における性暴力問題について、問題の性質を十分に認識理解したうえで、京都教育大学ならびに全国の国公私立大学等に対して、指導や措置を行われますよう、お願い申しあげます。

 以上



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Last update:2009-07-03