2001年10月17日
外交防衛部会
アメリカがテロ行為に対して軍事報復をする国際法上の根拠はありません。テロ行為の首謀者が潜んでいるからといって、他国の領域内を攻撃すれば明らかにその国に対する武力行使となり、国連憲章違反となります。
国連憲章第2条によって、加盟国はあらゆる武力の行使を原則として禁止されています。武力行使が可能なのは唯一「自衛」のためだけであり、これも(1)国連安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、(2)遅滞なき「報告」の義務を伴って、例外的に認められているに過ぎません。国連憲章は、これ以外に現存しないものの「国連軍」による軍事的強制行動を理論的に認めているほか、安保理による「必要な措置」など国連による集団安全保障としての武力行使だけを認めています。
今回の安保理決議1368は武力行使を明確には認めておらず、アメリカのアフガン攻撃は国連の集団安全保障措置と位置づけることはできません。
そこで、アメリカのアフガン攻撃が自衛権の行使と言えるかどうかが問題となります。自衛権を行使するためには、正規軍またはそれに準じたものから国境を越えた攻撃を受けるか、それに匹敵する重大な武力攻撃を受けていることが必要です。対象が国家でない場合は国家の実質的な関与が証明されなければなりません。タリバーン政権がビンラディン氏を引き渡さないからといって、そのことだけで、アフガニスタンがアメリカに対して武力攻撃を行ったとみなすことはできないのです。したがって、アメリカがアフガニスタンを攻撃することは許されません。
また、自衛権を発動するためには「緊急性」と「均衡性」の要件を満たさなければなりません。過去の攻撃に対する反撃や予防的攻撃は自衛権の行使とは認められないのです。
そもそもテロ行為に対して、軍事報復をすることの実際上の効果も非常に問題です。
FBIはアメリカが軍事報復をすれば、新たなテロが行われる可能性が極めて高いとみている、との報道もありました。ローマ法王は、憎悪と報復の連鎖を断ち切る勇気をアメリカは持つべきだと述べました。アメリカの軍事報復は、テロをエスカレートさせるのではないでしょうか。軍事大国アメリカも今回のテロに対して無力でした。軍事力によってテロを根絶させることはできないのです。
社民党は、テロ行為にも反対ですが、軍事報復にも反対です。アメリカの軍事報復に法律上の根拠がないのであれば、それを援助することにも根拠はありません。アメリカでも反戦活動は活発です。軍事報復を支持することはできないと考えます。
ウサマ・ビン・ラディン氏は、1957年サウジアラビアの首都リヤド生まれと言われ、サウジの大富豪を父とするアラブ人です。大学生時代、アフガニスタンに侵攻したソ連軍と戦い、アラブ義勇兵の確保や輸送、訓練などの資金援助を行なってきました。ソ連撤退後はサウジやスーダンで土木、農業、貿易などの家業に戻りましたが、いわゆるイスラム過激派の支援を続け、そのことによってサウジ、スーダンを追われ、今、「賓客」としてアフガンのタリバン政権にかくまわれているとされています。
彼は「パレスチナ、レバノン、イラクなどイスラム世界でムスリム(イスラム教徒)の血が流されているのはユダヤと米国の仕業である」と主張、イスラム過激派に思想的な影響を与えています。米国は、世界各地での一連のテロ事件について「ウサマが黒幕」として、タリバン政権に対し、その追放・引き渡しを求めています。国連も同主旨の「タリバン制裁決議」を採択し、それがアフガン難民、餓死者を増やす原因ともなっています。
アフガン国民はソ連撤退後も内戦に苦しんできました。同国南部カンダハルを拠点にするタリバンは、山賊化した武装グループを次々に破って、国内の90%を支配、現在、北部で反タリバン勢力と対峙(じ)しています。「タリバン」は神学生「タリブ」という言葉の複数形で、イスラム原理主義に立つ「イスラム神学生による改革運動」と言い、同国民の大半を占めるパシュトン人で構成しています。タリバンの勢力拡大には、同じパシュトン人が多いパキスタンのあと押しがあったと言われています。
しかし、ビン・ラディン氏の逮捕やタリバン政権への制裁で、テロがなくなったり、問題が解決するとは思われません。それはイスラム圏の人々の苦しい生活やパレスチナ問題が深く関わっているからです。
パレスチナは、トルコとエジプトのシナイ半島に挟まれた地域です。第二次大戦後、ユダヤ人がその地の住民(大半がイスラム教徒)を追い出し、イスラエルを建国しました(48年)。その後、アラブ諸国・パレスチナ人との戦闘が続き、多くの難民や犠牲者を出しています。95年に「和平で解決」「パレスチナ人の自治」を合意しましたが、イスラエルの武力による占領が続いています。パレスチナ問題の和平解決では、中東などに大きな影響力を持つ日本がそのカギを握っていますが、今回、武力攻撃する米国に加担したとなると、こういった国々からも非難され、その役割を果たせなくなるかもしれません。
政府は、先の連続テロ事件に対する米国を中心とした軍事行動を支援するため、自衛隊をインド洋やパキスタンなどに派兵することができるとしたテロ対策特別措置法と自衛隊法改正案等を国会に提出しました。テロ対策法は、自衛隊の活動地域の拡大や武器使用の基準拡大など、PKO法や周辺事態法の枠をも超えて、憲法が禁じる武力行使や集団的自衛権の行使に限りなく踏み込んだ内容になっています。
今回の政府案では自衛隊の活動地域を「公海及びその上空」に加え、同意があれば「外国の領域」でも活動できると規定しています。先の周辺事態法の範囲をも超えて、自衛隊の海外での作戦行動を可能にしています。
自衛隊50年の歴史の原点を前身の警察予備隊から振り返ってみると、朝鮮戦争が起こって米国の要請を受けて必要最小限の実力組織というところから始まっています。他国からみて様々な規制条件が課せられ、いわゆる専守防衛で絶対海外に出ることはないとされてきました。ところが冷戦が終わって湾岸戦争が起こり、それに乗じて国際貢献という名の下にPKO(国連平和維持活動)に参加していこうというところから、専守防衛の第一の関門が破られました。第二関門は周辺事態法です。同法での「周辺」とは地理的概念ではないということでしたが、政府の見解では現実的にはインド洋とかペルシャ湾とかは想定してないとしてきました。それが今回の衝撃的なテロ事件によって、今度の法案ではインド洋からアラビア海、そして他国の領域にまで自衛隊を派兵できるとしています。これは、今までのPKOとも形が違うし、第三の関門がこじ開けられたといえます。
今回の事件は、これまでの国家と国家の戦争ではなくて、相手が不特定のテロ集団です。仮にパキスタンで自衛隊が医療活動であれ物資輸送をやるとします。パキスタンの中には、米国を好ましくないと思う様々なグループがあり、難民を装って自衛隊、米軍を問わず軍服を着た人間に対して、ゲリラ攻撃やテロ行為が行なわれることが十分想定されます。相手がテロ組織であるだけに、ここまでが戦闘地域と一線を画せるということは無意味です。パキスタンであれアラビア海であれ、相手側の意思と能力次第でどこでも戦場になり得ます。周辺事態法で議論された時、政府は、「戦闘地域には行かない、武力行使と一体化するところには行かない」と言い訳をしました。しかし、その論理は今回は通用しないのではないでしょうか。テロ対策法は、日本が他国での戦闘に組み込まれていく大変な危険性をもった法案といえます。
政府案では自衛隊に対して、軍事行動に入った米軍等に対して車両の修理などの役務や燃料など物品の提供をはじめ、武器・弾薬の輸送、戦闘員の捜索救助活動、被災民の救援活動など広範な活動を規定しています。
武器・弾薬の輸送は周辺事態法でも規定されていますが、今回の場合を見ると、事態の展開次第、相手の反撃の仕方次第では、武器・弾薬の「補給」も当然政府の側では視野に入れていると思います。
医療行為も、戦争の場合は厳しい見方をすると、一旦傷ついた兵隊を治療を施してもう一度闘いの兵力として再生させることであり、相手の能力と意思次第では攻撃の対象になります。例え赤十字の旗を立てていても、今回のように国際法も何も通用しないような手段をもって攻撃してくる相手からすると、そういう区別はしない可能性があります。
周辺事態法までは「後方地域支援」という用語を作って、「安全です。憲法に触れません」と言ってきました。しかし、今回は「地域」が抜けて後方支援という、軍事用語でいうと「兵たん支援」というようにはっきりしてきたといえます。兵たん支援という以上は前方か後方かの区別はなく、明らかにこれは武力行使とワンパッケージと理解すべきです。それを武力行使と一体化しなければいいんだというのは詭弁といわざるを得ません。
政府案は武器使用の基準を、これまでのPKO協力法などの規定を超えて、自衛隊員や同僚の身体の防護だけでなく「その職務を行うに伴い自己の管理下に入った者」も含めて使用できると拡大しています。
これまでのPKO法の場合は武器使用の基準は、自己に危害が加えられた時と厳しく制限されています。それが今回は「自己の管理下に入った者」に拡大されています。PKO法では、参加の条件として紛争の停戦と紛争当事国の了解が前提でしたが、今回は争いが終わったのではなくテロ集団やその支援グループという相手が見えない集団を相手にして、しかも軍事行動の対象となっているアフガニスタンのすぐ隣国という、いつ戦場になってもおかしくない所に出ていくわけです。防護のためとはいえ、理屈からすれば相手が持っている武器に合わせて自衛隊側の武器の種類も準備せざるを得ないという事になります。状況次第では、武器の使用に歯止めらしきものが無くなってしまうという大変な問題が出てきます。
テロ対策法の内容は、国際紛争の解決にあたって武力行使を禁じた憲法の規定を踏み破る危険性が極めて大きいといえます。
自衛隊法改正では、在日米軍や自衛隊施設を警護できる「警護出動」が追加され、さらに「防衛機密保全のための罰則強化」が出されています。
自衛隊法改正には、当初、首相官邸、国会、原発など重要施設を自衛隊が警護することが考えられていました。しかし、自衛隊の警護出動が自衛隊による戒厳状態といえるものとなるため、在日米軍と自衛隊施設に限定された経過があります。また防衛秘密にはありとあらゆるものが指定され、法を侵した者には現在の1年以上を5年とし、防衛庁の職員以外の人間にも適用をめざした一種の国家機密法となっています。
テロ対策法と自衛隊法の改正は、米国に協力する名目で一挙に集団的自衛権の行使、有事法制をこの国会で実現しようという危険な意図をはらんでいます。
数千万人もの犠牲者を出した第二次世界大戦の反省から、国連憲章も日本国憲法も戦争を禁止し、国際紛争の平和的解決と世界平和をめざしています。国連憲章は例外的に、国連加盟国に武力攻撃が行われた場合は国連が平和回復のため対応するまでは、自衛権または集団的自衛権の行使をしてもよいとしています。
分かりやすく言えば、集団的自衛権とは日本が武力攻撃を受けていないのに、例えばベトナム戦争に日本が武装した自衛隊を派兵して、アメリカのために戦うことです。今回の例では、日本が攻撃を受けていなくても米軍がタリバーン政権側から攻撃を受けた場合、タリバーンの攻撃を阻止するため自衛隊が実力(武力行使)でタリバーンに反撃することが集団的自衛権の行使となります。
政府は侵略を排除する必要最小限の自衛権は認められるとする一方、「主権国家である以上、集団的自衛権は国際法で認められるけれども、憲法第9条のもとで許される自衛権の行使は日本を防衛するため必要最小限の範囲にとどまるべきだから、集団的自衛権の行使はその範囲を超えるもので憲法上許されない」として、集団的自衛権の行使を否定してきました。
憲法9条は戦争をしませんと約束し、国と国のもめごとは武力に訴えるのではなく、平和的に話し合いで解決しますと宣言していますので、本来どんな形であれ、戦争に参加、加担することは憲法の一つの柱である平和主義に反することです。自衛隊が発足した時、参議院では自衛隊を海外に出動させないという決議も採択されています。
ところが政府は平和憲法や国会決議に背を向けPKO法で自衛隊の海外派兵に突破口を開き、周辺事態法では米軍に対し補給や輸送などの後方支援を行なうことまで可能にしました。政府は、自衛隊は日本が攻撃を受けた場合、日本を守るためにあると説明してきた「専守防衛」の原則にも反して、自衛隊の海外出動をどんどん進め、今度はインド洋までも自衛隊を派兵することになります。
今回の「テロ対策措置法(案)」には、自衛隊の行動範囲に制限はありません。武器の使用もPKO法や周辺事態法と比べ大幅に緩和され、自衛隊の管理下にある米兵などの傷病兵、避難民などを守るためにも使用でき、米兵を守るために戦闘をしなければならない可能性を大幅に高めています。さらに政府は自衛隊の活動は戦闘が行なわれない地域に限定していると言いますが、前線と後方を現場で区別するのは不可能です。戦闘が行なわれているからこそ武器・弾薬を輸送する必要が生じます。戦闘が行なわれているからこそ、米兵の捜索救助活動が必要となってきます。このように自衛隊が行なう協力支援は文字通り米軍の武力行使と一体として行なわれ、米軍と一緒の戦闘、そして米軍に対する攻撃阻止、つまり集団的自衛権の行使も否定していないところに大きな問題があります。
今回のテロ事件は、手段の残酷さや被害の大きさにおいて非常に衝撃的ですが、これは凶悪なテロ集団による国際犯罪です。従って過去の実例からしても、国際的な司法制度、国際法に基づいてまず犯人を特定し、捕捉し、裁判にかけて処罰をするという手順に従ってやるべきです。
イギリスで起こったパンナム機の爆破事件やルワンダの国際犯罪法廷、ユーゴのミロシェビッチ元大統領やカンボジアのポルポトに対する追求などの例にならって、国際的な枠組みで法律に基づいてきちんと処断していくことが必要です。
これが、入り口の所で米国が「これは新たな戦争だ」と規定してしまって、軍事的に報復するということになり、これに対して小泉首相がなんら冷静に検証することもなく、全面的にできる限り支援しますということで、まず自衛隊派兵ありきの議論になっています。
国際的なテロや麻薬などの犯罪については、国際的な司法・警察のチームプレーの枠組みをこの際きちんと強化していく必要があり、国連が中心になってやるべきです。ブッシュ大統領も触れていますが、情報の交換とか犯罪グループの資金源を断つとか、非軍事的分野で早急に取り組むべき課題が数多くあります。
また、難民の支援・救済や医療活動などは、自衛隊のような軍事組織が出ていっては事態をかえって複雑にしてしまうし、新たな危険をつくり出す可能性があります。
国連UNHCRなどの難民支援活動や,また日本を含めた諸外国のNGOは、今回の事件以前から十年二十年と長い間アフガニスタン国内で医療活動をしたり井戸を掘りなど生活支援活動を活発に行なってきました。こうした活動を各国がもっとお金や人を出し合って協力していくことが必要です。アフガニスタンであれパキスタンであれ、そこの国の風土、国民性、言葉、文化を理解し合いながら、今まで民間のNGOはやってきています。そこに、現地の事情も知らない自衛隊や他国の軍隊が入っていっても解決には結びつかないのです。
また、テロの根絶のための中長期的課題としては、凶悪なテロが次々と起こる土壌をなくしていくことを、国際協調、国際協力でやっていく必要があります。今回米国の経済力と軍事力のシンボルがやられた背景には、イスラエルとパレスチナの歴史的な問題や、中東問題に対する米国のこれまでの姿勢があります。中東やパレスチナ問題をもっと公正・公平に、そしてあくまでも平和的にどう解決していくのかということを抜きにして、一部の過激集団を軍事力で潰すだけでは根本的な解決には結びつきません。そのことに日本は国際社会の中でもっと知恵と力を出すことで貢献していくべきです。
憲法の平和主義に沿って、非軍事の分野で、日本が自信を持ってやれることはたくさんあるのです。