2001年12月20日

政府の公務員制度改革に対する見解
−民主主義的制度改革のために−

公務員問題対策特別委員会

はじめに

 公務員制度改革の基本は、(1)戦前からの国民から遊離した「天皇の官吏」を制度的にも意識の面においても払拭し、公平性、中立性の立場から国民共同の事務を担いうるものとすること、(2)そのためには公務員労働者の市民的権利である労働基本権を保障し、それによって民主的公務労働の社会的価値を高めることにある。わが党はこの二つの立場からこれまで制度の改革に取り組んできた。

 しかし今般政府が進めようとしている制度改革は、このような観点を全く無視しているばかりか、国民共同の事務である公務労働を時の政権の思うままに左右しようとするものである。同時に政治経済のグローバル化への対応と銘うって、内政と外政を公務員制度改革を通して直結しようとするものである。つまりわが国の公務労働に市場競争原理を全面的に導入し、国際競争に勝ち抜く国内を整備すること。こうした制度改革のためには、公務員労働者の市民的権利である労働基本権については一顧だにしない。それどころか現在の最低限の保障措置でさえ減退させる。政府が進めようとしている公務員制度改革の本質はこの二点に尽きるといっても過言ではない。

 このような性格の制度改革について、わが党は以下のような観点から厳しく批判するものであり、国民共同の事務としての公務労働の一層の民主化と、それにかかわる公務員労働者の労働基本権保障を基本に、全面的に見直すべきものと考える。 

1 公務員制度の軌跡と民主的発展の未分化

(1)天皇の官吏にみる前近代性

 明治憲法下における公務員は制度的にも「天皇の官吏」とされることで、天皇制支配国家における公務遂行の屋台骨とされてきた。天皇制支配原理を支える公務員制度である以上、官吏たる国家公務員は社会的にもエリートとみなされ、特権性も保障された。そうした特権性を維持・継承する体制としてのヒエラルキーつまり官僚制が形成されることになった。したがってわが国においては、国家の近代化は近代官僚制の形成を伴うものではなかったといえる。

(2)法学系統の重視

 近代法治国家の条件は立法統治にある。このためいまだ200年に満たないわが国は明治以来、近代列強国家に仲間入りする条件として、ドイツ法体系の取れ入れにいそしんできた。とりわけ天皇制支配原理に立つ国家の統一的支配体制を整備するためには法学系統重視は不可欠な要因であったといえる。このため高等教育においても旧帝国大学中心の官学それも法学系統が重視され、現代にいたってもなお本質的な変化を見せることなく、公務員採用に引き継がれている。

(3)全体の奉仕者との乖離

 主権在民、議会制民主主義、平和主義を掲げる戦後の新憲法制定によってもこの官僚制は温存され、その基本にある公務員制度に根本的改革はなされなかった。「天皇制の官吏」から国民的統制への転換。これが公務部門における戦後民主化の基本的課題であったが、結局は手付かずのまま現在にいたっている。換言すれば「官僚制」の現状と戦後憲法が定める「公務員の全体の奉仕者」との乖離は今なお大きい。

(4)評価されるべき採用制度の独立性

 戦後の民主化が公務員制度において必ずしも皆無であったわけではない。公務員労働者の普遍的かつ市民的権利である労働基本権を保障した上での「全体の奉仕者」たる公務員制度確立の重要な課題の一つは、何よりも採用制度の中立性、公平性、成績主義の確保・保障にある。時の政権から独立した機関=人事院=によって前記3原則に基づいてなされる現行採用制度は、いわゆる「全体の奉仕者」たる公務員制度確立の基礎的条件の一つである。

2 戦後公務員制度の弊害露呈

(1)社会変化へのフレキシブルな対応性の欠如

 戦前からの遺物をほとんど温存させて生き残った公務員制度の弊害が顕著に表れるようになったのは、わが国が高度成長に入ってからである。公害問題に端的に示される国民の生活様式の都市的進展と経済成長至上主義との緊張関係のなかで、わが国行政は後者に傾き、都市問題、過疎問題への柔軟な対応能力に欠けることを露呈した。課題を把握し解決する先駆性と解決のための社会システムの体系的整備に遅れを見せたことは、薬害エイズや狂牛病問題そしてごみ問題等によく示されている。これは行政における割拠主義に埋没することで、地位の保全と昇進が図られる現行制度とそこで培われた意識に原因があることは明らかであろう。

(2)法学系統偏重による弊害

 政治・経済・社会における後進性を克服し、立法統治を実現するために法学系統が重視されたことはゆえなしとしない。しかし社会が発展した今日においては、公務員制度においても社会の多元性に見合った多元性が求められる。このことは公共事業一つをとっても環境保全や文化的価値意識が求められていることでも明らかであろう。

(3)国民的統制の欠如

 公務員制度が「全体の奉仕者」たる機能を発揮しうる制度として確立されるためには、日常的な国民的統制が制度的にも機能的にも保障されなければならない。この点では公務員制度は厳しい国民的統制にはおかれていないし、むしろ“閉ざされた制度”に近いものがある。これは一つには長期自民党単独政権によって、政治と行政との“一体化”が進められ、政治からの監視機能がほとんど機能していない点にある。いわゆる“政・官・業癒着”はこうした国民的統制が無力化していることの反映に他ならない。同時に公務員制度において、労働基本権の制約というマイナス条件があるとはいえ、内部監視機能を果たすべき労働組合が非力であることも否めない。

3 求められる公務員制度改革の五つの基本視点

 今後のわが国社会において、求められる公務員制度像とはとりもなおさず内外におけるわが国の国家像と表裏一体のものである。この視点を欠いた改革論は制度いじりに過ぎないものとなり、結局はわが国民主主義の発展と逆行するものとなる。

(1)わが国民主主義の発展に資する改革

 公務員制度が基礎をおく公務労働は国民共同の事務である。したがって国民共同事務の企画・立案・執行・評価という一連の意思決定及び執行過程に対する国民的統制(局長並びにそれと同等の職務に対する議会の承認制、労働組合による内部チェック、オンブズマンによる国民監視)の一層の強化・充実に資する改革が求められる。

(2)公務労働の分権化に資する改革

 公務労働は中央政府のみならず地方政府をも含むものである。したがって経済の拡大よりはその内容が問われている今日では、国民生活における中央政府の従来の役割は地方政府に移譲される地方分権が不可欠であり、制度改革もまたそうした地方分権化に資するものが求められる。

(3)市場競争原理の秩序化に資する改革

 わが国はWTO体制の下で市場競争原理に全面的に参入し、勝ち抜くことを政策の中心としている。このための国内改革これが現政府の目標となっているが、公務労働の価値はそれ自身が市場競争原理になじむものではない。同時に近代から現代への国家の発展過程からも分かるように、公務労働はそうした国内外における資本の競争原理に対する抑制と介入の重要な手段となっており、そうした役割拡大を担いうる改革が求められる。

(4)普遍的労働基本権を保障しうる改革

 上記三つの視点に資する改革であるためには、公務労働を担う公務員労働者の労働基本権も普遍的に保障されなければならない。担う者の権利保障なくして制度改革の民主性はない。

(5)パートナーシップの確立に資する改革

 公務員労働者は労働者としての権利保障を求める権利があるとともに、一方では「全体の奉仕者」として国民に対し、サービスを提供する役割りがある。この二つの役割りの結節点にあるものは労使によるパートナーシップであり、制度改革もこのパートナーシップの確立と充実に資するものでなければならない。

4 小泉内閣の公務員制度改革の性格と基本問題

 小泉内閣及び自民党は、本年12月25日、公務員制度改革大綱を定め、2005年までに改革を完了しようとしている。しかし現在構想されている内容はおよそ上記五つの視点とは無縁なものであり、容認しうるものではない。

(1)国民的統制の一層の空洞化

 「国家戦略スタッフ」の配置を掲げていることにも示されるように、政府の国家像は国際的市場競争に参入・勝ち抜くことにあり、そのための手段として“超特権的官僚層”を形成しようとしている。つまり国民的統制の及ばない官僚の“聖域”形成。これが政府の改革案の第1の性格であり問題点である。

(2)内閣による人事権の専横

 人事制度の設計・運用について内閣が主体的に行うとあるが、これは戦後公務員制度改革の積極面である第三者機関=人事院による人事制度の否定に他ならない。

(3)天下りの横行

 営利企業に対する再就職については、内閣が定める明確かつ厳格な基準に基づく大臣承認制とされているが、大臣承認制とは結局各府省の官房長等官僚トップ層による天下りの追認となることは明らかである。

(4)労働基本権の否定

 能力等級制度の導入等にみる人事制度の改革は、公務員労働者の基本的に権利に係わるもので、これら制度改変を行なうならば労働基本権保障は避け得ない問題である。

5 政府改革案における労働基本権問題に対する考え

(1)労働基本権の保障なき改革案

 政府の公務員制度改革案における最大の問題は、公務員労働者の労働基本権問題を不明にしたまま、公務員労働者の勤務条件を当局側が一方的に決定できる権限を拡大し、人事院の代償機能のみを大幅に縮小・減退させているところにある。国際労働基準に照らしても、労使が対等な立場で勤務条件決定の交渉ができるよう労働基本権を回復すべきである。

 仮にも労働基本権の制約に固執するならば、その代償機能として設置された人事院がこれまでと同様に機能を十分発揮すべきものであることは当然であり、こうした保障のない改革案はまさしく憲法違反そのものである。

(2)労働団体との交渉・協議なき改革案

 公務員制度改革の検討に当たって、日本政府は労働団体との十分かつ誠実な交渉・協議を通じて取りまとめることをILOの場において国際公約している。にもかかわらず、この間の労働団体との話し合いは、単に回数を重ねただけで十分な交渉・協議とはなっていない。このような政府の態度は国際的にも恥ずべきもので、許されるべきことではない。政府がこのまま「大綱」を決定すれば、「大綱」は決定手続きに瑕疵あるものと受け止めざるを得ないし、国際的にも批判を浴びるものと考える。

 ことはそれだけではない。この間、労働団体は労働基本権回復を強く訴えてきたが、この問題についての政府の意図は、労働団体に提示された文書等に照らせば、結局、労働基本権回復に消極的というよりは否定的と十分推察される。そうした本音を明らかにしないまま、職員団体の関心を労働基本権問題に向けさせ、個別交渉事項についての交渉を阻んできたことは、政府として不誠実極まりないものである。

(3)新給与制度の導入問題

(1)労使の交渉事項である

 新給与制度の導入においては、一定の基準の下で大臣がその裁量で給与管理を行なうとしている。しかし昇格基準や昇格枠及び業績給のランク区分や査定基準は、公務員たると否とを問わず、重要な勤務条件であって、当然労使交渉の対象事項である。

(2)不可欠な交渉体制の整備

 仮にこれらを予算あるいは法令で定めるとしても、その前段階で、各府省の大臣と当該労働組合は毎年相当な期間をかけて厳しく交渉がおこなわれることは明らかである。したがって、交渉を円滑に行い、公務秩序の維持や労使関係安定化の措置を整備することが先決課題となる。このことは本省のみならず、出先機関、施設機関等それぞれの段階で、当局側も責任ある交渉体制を整備する必要となる。

(4)評価制度導入問題

(1)客観的評価制度の機能保障

 新たに能力給を導入するためには、前提として透明かつ客観的評価制度が現実的に機能することが必要である。

(2)交渉事項たる評価制度

 評価制度自体も当然交渉対象となることは明らかである。

(5)人件費予算の設定問題

(1)人員枠設定も交渉事項

 人件費予算の決定に対し、各府省においては人員枠を設定することとされている。しかし人員枠はこれまたすぐれて勤務条件であり、労使交渉事項であるにもかかわらず、政府案では人員枠について内閣や各府省に決定権限が委ねられており、これに対する代償機能は人事院の意見の申し出のみとされている。このような申し出のみでは、現在の人事院による級別定数の制度と比べ代償機能が形骸化することは明らかである。労働基本権制約を仮に維持する場合であっても、このような形骸化することが明らかな措置は許されるものではなく、人事院の意見の申し出を遵守することを政府に義務づけることが必要である。

(2)各府省の交渉体制の整備

 各府省においても、人員枠の設定に関し労使交渉は必須となる以上、当局側の責任ある交渉体制の整備が必要となる。

(6)職務遂行能力基準の問題

(1)職務能力遂行基準も交渉事項

 新たな能力等級制度においては、職務遂行能力基準の設定が重要で、これが任用・給与等すべての人事管理の基準となっている。これもまた当然、交渉対象事項である。仮にこのような改革案を政府は「大綱」として決定するなら、政府はこれを速やかに労働団体に提示し、交渉に入るべきである。

(2)納得力ある基準設定

 労使協議を通して納得できる基準を設定すべきである。

6 公務員の採用、キャリア制度、天下り規制問題に対する考え

(1)公務員の採用、研修における政治支配の排除

(1)採用における政治的中立性の侵害

 郵政事業庁における組織的選挙違反事件あるいは外務省の裏金事件等からも明らかなように、公務員とは何か、公務員に求められるものは何かを「全体の奉仕者」の観点から見直す必要がある。

 公務員にとって重要なことは「全体の奉仕者」として、使命感をもって国民に対し、誠実、平等にサービスを提供することである。それには、公務員の採用が中立・公正なシステムの下で行なわれる必要がある。公務員の採用試験に関する企画立案を人事院から内閣に移管するとの政府案はは、公務員の採用試験が時の政権の意向に左右されることを意味するもので、独立機関による中立的採用という戦後公務員制度改革の積極的意義を制度的にも歴史的にも後退させるもので認められるものではない。

(2)時の政権の下僕化の排除

 公務員の職務執行が中立・公正に行なわれるためには、公務員の倫理研修や政治的中立性・公僕意識などに係わる研修の重要性が認識されなければならない。とくに幹部職員や幹部候補に対して公務員としての基本を徹底する必要があり、これら研修は第三者機関たる人事院の重要な役割である。

(3)国民生活を知る研修の充実

 現在府省から都道府県及び大都市を中心に多くの職員が出向(形式上は退職、再就職)している。これは府省にとっては自治体に対する影響力の確保、自治体にとっては府省からの有形無形の利益確保という側面がある。このような相互の利益体系としての職員交流を排し、職員1人で何役も兼ねる中小自治体の実態を経験する職員交流を行なうことも、今後の重要な研修課題である。

(2)廃止すべきキャリア制度と天下りの徹底規制

(1)不祥事の温床であるキャリア制度の廃止

 公務員制度改革において、まず第一に行なうべきことは、法的根拠もないまま慣習化されているキャリア制度を廃止することである。採用時から特権化されているキャリア制度による固定的な人事は、専門性と課題把握の先駆性と創造的問題解決能力が求められているこれからの行政にとって阻害要因となっている。同時に身分的特権化は意識面の特権性を生み、公務員の不祥事の温床となっていることは旧大蔵官僚を始めとする幾多の省庁の事例からも明らかである。

(2)公正な監視制度なき天下り

 政府案はキャリア制度を温存した上で、天下りについても実質緩和というよりは野放図化しようとしている。天下り問題については、まず当面、法に保障された60歳までの在職を保障し、特殊法人、独立行政法人、公益法人への天下りを禁止する必要がある。こうした制度的保障措置のないまま、天下り規制を実質緩和することは、今回の政府案がキャリアのキャリアによるキャリアのための改革であることを示したている。こうした性格の改革案であれば、天下りに対するこれまでの人事院による承認制度についてさらに強化すべきである。また仮に内閣がチェックするとする政府案であれば、今まで以上に国民が納得する公正な第三者機関設置による厳しいチェックが求められる。