2001年10月16日
総務部会・政策審議会事務局
郵政事業の改革をめぐっては、民営化が持論の小泉首相が登場して以来、改めて議論が再燃した。政府での検討の場も複数発足し、各々平行して議論が進められている。
そのうちのひとつが小泉首相の私的懇談会で、今年6月に発足、郵政事業の将来的な経営形態について議論がなされている。また、8月には片山総務大臣の私的研究会が発足して年内をメドに、新たに設立する郵政公社の骨格を決める予定である。
郵政公社のあり方については、(1)職員は公務員、(2)国営で2003年4月設立、(3)中期経営計画の策定、(4)保有不動産の売買を可能(郵便局の廃止・新設を自由化)、(5)公認会計士などによる外部監査、(6)商品は国が支払いを保証、(7)新商品や保険料は認可制、といった方向で検討されている。
公社化移行にあわせて、小泉首相は片山大臣に、(1)独占事業としてきた信書(手紙)の集配業務を民間宅急便などへ開放、(2)現在免除されている法人税や固定資産税などの納税義務づけ、(3)預金保険料の支払いや金融当局による検査・監督、を検討するよう指示した。
また、郵貯の預入限度額や特定郵便局制度の見直し、なども今後の検討課題として議論が予想される。
郵貯・簡保の民営化といった将来的な郵政民営化については、地域分割や小口貯蓄銀行への衣替え、といった様々な提言がある。
国営公社に移行した後のあり方について「民営化問題を含め具体的な検討を進める」としているのが、小泉首相が主張する民営化議論である。首相は、2004年に民営化法案を提出したいとの意向とされる。
郵政事業には、(1)「郵便」=安価な全国均一料金とポスト投函制で、国民に最も身近な基礎的通信手段、(2)「為替貯金」=日本唯一の個人専門機関として、簡易・安全・確実な貯蓄手段、(3)「簡易保険」=加入時無審査で職業無制限、さらに即時払いの生命保険・個人年金、の三事業がある。
この三事業は、全国の小学校とほぼ同数の全国2万4000余の郵便局によって支えられ、全国あまねく公平に郵政サービスを提供している。また、寝たきりのお年寄りや障害者などへの福祉サービスも展開するなど、国民生活に最も身近な存在ともなっている。
郵政事業は国営であるが、国民の税金を一切使わない独立採算制をとっている。また、採算に合わない地域や事業が一部にあっても、全体として三事業一体の効率的な経営を行っているところに特徴がある。
1997年、社民党は、郵政事業について、国営維持と三事業一体を維持すべきとする見解(97.9.8「郵政行政についての考え方」党郵政行政特別委員会)を取りまとめた。
また、当時の自社さ政権は、国営維持と三事業一体との方針を政府与党間で確認し、行政改革会議最終報告には「三事業一体で5年後に郵政公社に移行」と明記された。これを受けて成立した「中央省庁等改革基本法」にも「民営化等の見直しは行わない」(第33条1項6号)と定めている。
2001年1月の中央省庁再編に伴って、郵政省の事業実施部門は「郵政事業庁」へと衣替えした。2003年には、国営の新たな公社として「郵政公社」に移行することが、すでに決まっている。
引受郵便物数の都道府県別割合を見ると、東京が全国の3分の1以上、大都市だけで6割を占める(1997年調査で、東京36.8%、大阪9.2%、愛知5.5%、埼玉3.8%、神奈川3.6%の合計で58.9%)。
また、郵便物の宛先は全国平均で、自県あてと他県あては半々であるが、地方ほど自県あての郵便物が多い(1997年調査で上位から、沖縄83%、北海道81.1%、大分80.1%、秋田80.0%など)。
民間事業者は、商業郵便物などをはじめ大都市部の大口利用者を中心に参入し競争する結果、この分野での料金は安くなる。
現在の宅急便は過酷な労働実態が支えており、今後競争が激しくなれば、コスト削減・人件費削減のため、今より悲惨な状況となると予想される。
郵政局別損益計算を見ると、黒字となっているのは東京、東海、近畿であり、地方ほど赤字額が大きい(1999年度試算では、北海道−322、東北−396、関東−55、東京1424、信越−121、北陸−39、東海31、近畿48、中国−66、四国−120、九州−357、沖縄−28億円)。
競争が行われ料金が安くなるのは、大都市部の大口が中心で、採算の合わない地方や小口利用者の料金は高くなると予想される。実際、郵便事業を民営化した欧米各国でもこうした事態となった。
郵便事業を民営化したドイツでは、採算のとれない地方を中心に郵便局が半分に減少した(2万8000あった郵便局が1万3500局に減り、人口1万人あたり約2局)。
日本では、郵便局が全国平均1.1qで行かれる距離に配置されている(人口1万人あたり約2局)が、過疎地域でのサービス提供をはじめ、すべての国民に保障すべきはがきや封書といった基礎的な通信手段の窓口が大幅に減ると予想される。
過疎地域を中心に郵便局が廃止に追い込まれることになれば、民間事業者に対して、ユニバーサルサービスや均一料金制の義務づけ、あるいは憲法21条に保障された通信の秘密との関係、なども議論されなくてはならない。
郵貯(個人預貯金の3分の1以上、約250兆円の残高)と簡保資金(約120兆円)は、現在自主運用され、多くが国債や財投債、地方債など、ノーリスク債権を中心に運用している。
現在日本の不透明な金融市場でリスクある金融商品に投資するようになれば、郵貯・簡保の安全性は失われる。
郵貯・簡保資金が特殊法人を資金面で支える構図が続いているとの批判から、郵政民営化は、財投・特殊法人改革の議論に合わせ主張されてきた。しかし、国債や財投債自体が罪悪視されるべきではなく、郵政民営化しても、無駄な公共事業や特殊法人など出口を見直さなくては、財政再建は達成できない。
金融ビックバン時代に金融機関や生保の店舗は次々統廃合されている。民間銀行が存在しない市町村が500を超え、民間生保では1800市町村に上り、都市部に店舗を集中させ不採算地域から撤退するという傾向は今後激化すると予想される。また、全国に2万近くある農協は、現在統廃合を進めており、窓口を僻地などからは撤退させる可能性もある。
一方、過疎地域には圧倒的に郵便局が多い(1996年調査で過疎の1199市町村において、郵便局74.7%・4689店、銀行等25.3%・1586店)。競争が激しくなれば、郵便局の果たしている役割が大きい過疎地などにおいて、窓口を維持することは難しくなる。
信頼して資金を委ねられる民間銀行は極めて少なく、大量の公的資金の投入を受けながら不良債権処理が進まない民間銀行への不信感は根強くある。
また、金融自由化の進んだアメリカでは、口座所有に手数料をかけるなど、低所得者を排除している。利用者を選別する傾向にあるこれからの民間銀行はますます信用されにくい。
郵便貯金は、若年世代より高齢者が、都市部より地方のほうが利用率は高い傾向にある。(1999年調査で、20歳代66.7%、60歳以上77.7%。東京都区部69.5%、町村76.8%)
簡保も同様の傾向にある。(同年調査で、29歳以下33.7%、60歳以上65.7%)また、民間生保は高額所得者ほど利用率が高い。(同年調査で、世帯年収1000〜1500万円では民間86.6%、簡保65.9%)
民間が利用者を選別し、また将来への不安が高まる中、とりわけ高齢者や地方のあいだでは、利回りのよい金融商品より、安全性や利便性を重視する人は少なくなく、むしろ増えていくと思われる。
少子高齢社会が急速に進展し、2025年には3人に1人が高齢者となるなかで、どこで年金を受け取るのか、即時払いの保険が身近にあるのか、などを考えると郵便局の果たしている役割は大きい。さらに、郵便局ネットワークを通じて、総合的な生活支援サービスを全国各地に保障していくことも、郵政事業に期待されている。
小泉流構造改革より国民生活を優先する観点からも、郵便局を社会的なインフラとして、住民への公共サービスの拠点として、積極的に活用していくことこそが今後の課題である。
国営では非効率で赤字が増大するため、民営化して解消すべきとの議論がある。まさに、そうした不採算部門を切ることこそが民営化であり、採算の合わないユニバーサルサービスを民間と同様に切り捨てることになる。また、三事業のうち一事業でも民営化すれば、経営が悪化し、不採算地域からの撤退を余儀なくされる。
全国に公平かつ効率的な郵政サービスを展開するためには、国営を維持し、三事業一体であることが求められる。
参院選での選挙違反事件に絡んで、大量の郵政職員が逮捕される事件が起きた。選挙違反の舞台となった特定郵便局のあり方の見直しは不可欠である。局長の多くが世襲制となっていたり、渡切費などの使途不明金が存在していたりと、早急に解決すべきである。
官僚の天下り先となっている公益法人の実態、あるいは、郵政ファミリーとも呼ばれ、郵政事業を独占的に受注する関連企業などについては、徹底して透明化し、情報開示すべきである。