サヘルの森について

この原稿は、(財)日本緑化センター発行の「グリーン・エージ」2004年1・3月に掲載された原稿と武相友の会「地球に未来を」に2004年3月に提出した原稿を編集し、加筆したものです。

7.課題と今後の方向性

1)問題点と課題

(1)現地制度への適合

現地スタッフには、国連関係の団体や西欧のNGOのように多くの賃金を払っているわけではない。賃金にだけ頼って生活するのではなく、できれば植林や農業は自主的に始めてもらいたいし、日本人がいなくなっても続けられるような技術、体制づくりが必要であると考えてきた。援助に頼らず、自給を高める村おこしができればよいと考えていた。ただ、継続していくには、継続的に苗木を作り、配布、植林をする現地スタッフが必要となり、現地事務所、門番を含めて10人ほどに継続的、断続的に賃金(当初は作業に対する謝礼金的なものであった)を支払ってきた。

特に内戦後に諸制度の整備が進み、継続的な賃金の支払いとなると、税金納付、各種保険、最低賃金等の諸手続きやマネージメントが必要となってきた。このため、内戦前からの関わりであり、新たな制度との整合性もあって、不明な点も多く、現地に諸制度に精通した新たなスタッフの雇用が必要になって、事務作業、資金の増加が予想された。資金的な対策もあって、現地スタッフの雇用(賃金を支払っての)を2001年に一時中断した。

諸制度の理解と共に、少ない資金でいかに植林等の活動に対応するかが課題である。

(2)活動規模

規模をどうしていくか。砂漠化している場所は果てしなく広い。われわれの活動は、小規模、分散型であり、住民へ直接の働きかけの繰り返しである。サヘル地域の広大さから見れば、大海のほんの一滴の水のようなものであろう。いかに波紋を広げるかが課題である。

現地政府レベルやODAの活動も期待したい。ただ、巨大な資金を投入するだけでなく、住民の生活向上を踏まえた細やかな長期にわたる計画づくりとその実施の継続が必要である。活動規模は、資金とともにその国の経済状況、住民の生活レベルについても十分に配慮する必要がある。小さな経済圏の中で大きな資金を動かしすぎないことが必要である。住民の自立の方向を崩さず、これまでのような援助漬けにならないような活動体制作りが必要である。

(3)活動資金

長期にわたって、安定して使用できる活動資金の獲得が課題である。

会員からの会費収入や直接の寄付金は、会の活動目的、総会の決定に添って使用できるが、全体に占める割合は大きくない。会員は横ばい、ないし減少傾向にある。

多くは各種団体からの助成金に依っている。そのため、予算の金額が「自由」に使えるということではなく、多くの制約がある。金額的にもふんだんではない。経済的な不況も継続しており、寄付金も減少している。予算は単年度であり、かなり確定した事業でないと使いにくい。気象変動の大きさに加えて、移動する住民の状況など、不確定要素の多い場所でのソフト的な事業には対応しにくい。

助成金の申請は、会の活動計画に沿って適合する種類を選び、毎年申請している。多くの場合、海外活動部分の助成金は比較的出やすいが、国内活動部分の助成金(国内事務所費、郵送料等)はあまり期待できない。

(4)日本の技術と適正技術

日本の林業技術は、スギ・ヒノキという優れた植林材があり、これを中心に地域や立地、育林目的に合わせて、施業が組み立てられてきている。日本では地形的な急峻さ、積雪など厳しい場所も多いが、水条件、土壌条件にも比較的恵まれ、国土の3分の2が森林であり、森林面積の約40%を占める広大な植林地が形成されている。

マリの現地では、わずかの降水に加え、堆砂、侵食、風、乾燥、定期洪水、井戸掘りなどさまざまな技術的対応、対策が必要であるが、住民が持続的に応用できるような技術は数少ない。基本的には現地植物の生理、生態の理解とともに人々の生活の理解が必要であり、雨の状況、砂の動き、自然植生の生育の仕方、遊牧民の動物管理などから学び、試行錯誤しながら、現地での植林等を進めてきた。

長い根の長根苗とその植え方が適正技術のひとつの例である。これは不安定な砂丘部の植林の際に長い根の苗木を用いて、活着を確実に行う方法で、砂丘の中の水分条件、パイプを利用しての乾いた砂地の掘り方、パイプの底へのかん水、長根苗の植え方など一連の簡単な技術である。

粘質・シルト質の土壌基盤では雨季のわずかの降水はしみ込みにくく、地表面にたまって蒸発してしまう。そのような場所では、滞水が予想される低い場所に植え穴を掘っておき、降水をできるだけ深く浸透させた後、植林して、かん水なしで管理する方法も試みている。

資材と資金が少ない現地の状況に合わせて、現地住民が持続的に実施できる技術をいかに作り上げ普及させるかが課題である。

(5)後継者の育成

現地では役人のようなある程度の教育レベルにある人々を対象にするのではなく、直接に村人を対象として、植林、苗づくりなどの活動を行っている。村人は日々の生活のために、農業、牧畜、小規模な商業、運搬作業等を行っている。このため、なかなか植林に取り組む人々は少ない。

それまでの生業をやめさせて賃金を払い、仕事として植林をさせることも可能である。ただ、それでは自立の問題もあり、日本人が去ったあとの継続性が小さいと考えている。

そこで、何度も村々を訪ねて苗木の配布、植林活動を見ながら、継続的に意欲を持って行う人々をさがし、協力を仰いでいる。

いかに多くの植林活動を行う後継者を育てられるかが、大きな課題である。

(6)国内の運営体制の強化

国内では、会の設立当初はNGOの活動団体も少なく、マスコミにも報道され、会員も増加していった。継続していると、目新しさがないので、ほとんどとり上げられなくなった。

国内での活動は、活動の報告会、自らの生活の見直しとして牛乳パックの回収と再生紙の配送、各種イベント参加、身体を動かしながらの技術研修と会員交流の定例活動、機関紙の発行などが行われている。これらを企画・運営するのは限られた会員、ボランティアスタッフであり、事務関係の負担が大きくなっている。

できるだけ多くの人々参加により、負担を軽減するための運営体制の強化が課題である。

(7)NGOの役割とは

2003年5月24日の朝日新聞に、「砂漠緑化 誰のために植林するのか」という留学生の投書があった。広大な牧草地を柵で囲んで植林するが、それではそこを利用していた遊牧民の生活が成り立たなくなる。砂漠化防止は現地に住む人々を主役とし、その生活と密着して、自立的な植林を助けるものであるべきだ、というものであった。

受け入れ先となる相手国の政府や行政機関が指示したから、すべてすばらしい企画・計画であるとは限らない。相手方は大きな援助が欲しいため、実情に合わなくとも大規模プロジェクトを希望することが多い。そのために成果を求めて、他の条件を無視し、現地住民の生活を脅かすことになる。NGOだけでなくODAも同様であるが、できる限り人々の生活や周囲の条件までを確認し、事業に対応すべきである。

さまざまな形態のNGOがあってもよいが、自分がどのような位置にいるのかを自覚する必要がある。公式に準備された人々との交流のだけでなく、できるだけ周辺の住民にも配慮したい。内政干渉であってはならないが、NGOは一方に偏らずより広い視野で事態を見ることができ、強引な権力行使の抑止にもつながる。外部からの「眼」の役割は大きい。

NGOへの期待は大きいが、植林の目先の成果を求めて植林本数や植林面積の数字だけが一人歩きしていることも感じられる。植林の成果が発揮されるのは時間がかかるものである。非効率的といわれても、人間と生活を大切にしながら、地域に適した方法で砂漠化防止を進めて生きたい。

2)これまでの活動と今後の方向性

(1)緑のネットワーク形成

ファギビンヌ湖周辺やトンブクトゥ近隣では、季節的に流入してくる水があるとはいえ、年間降水量200mm前後の半乾燥地域である。この地域でさまざまな試行錯誤はあったものの、人々の協力と幸運もあって樹木が生育し、森林が成立している。また、人々の樹木利用が天然林から植林(天然更新を含む)に移ることによって、減少しつつあった天然林の保存が、一部ではあるが、期待できるようになった。事実周辺の天然林では、植生の回復が見られる。もちろん、全域を樹林で覆うためには、降水量(流入水を含めて)が足りない。しかし、このような単木状、群生状、面状などなどさまざまな緑の形態を網状につなぐことによって、年変動の大きな気象の影響を直接に受ける農作物や草本飼料への依存比重を小さくすることが出来、生活の安定を高めることが期待できよう。

トンブクトゥから南へ300km付近のモプチ付近は、年間降水量が500〜600mmである。この地域は畑で毎年耕作を続けて生活を立てている定着農民と、ウシ等の家畜を飼い、季節的な移動を繰り返す生活で生きる遊牧民が混在する。

人々の生活は、降水の少なさや変動の大きさもあって、不安定であるし、砂漠化の危険は身近に迫っているといえる。当会では1993年から約8年間、モプチ州の幾つかの村(ファトマ、コンナ両郡)で人々の生活の向上、安定化を目指して活動を続けた。しかし、木を植える森づくりということで言えば、樹はなくなっている所もあるが、まだまだ村には樹があるという住民意識であり、村人の植林に対する意欲は十分に引き出せたとはいえなかった。

(2)土地利用の優先順位

農民と遊牧民が混在するこの地域では、定住している農民もヤギ、ヒツジ、ロバ、ウシ等を飼育しており、作物が植え付けられている時期の数ヶ月の農地部分を除けば、放牧地はいうまでもなく、宅地、休耕地、薪炭等の資材採取林、草のまばらに生えている丘陵地など、全ての土地は、飼育されている家畜が動き回っている世界である。農地ですら収穫が終われば、作物の残渣を食べさせるために、家畜を放している。

樹を植え、森をつくろうとしたとき、土が深く、家畜が食べに来ないような場所なら、かなり乾燥した地域でも技術的には難しいいことではない。しかし、土が深く、土壌条件の恵まれている場所は、ほとんど全て農地として利用されており、食糧生産のために貴重な土地である。そこに地力を維持し、持続的な生産を図るために、大きな樹木を生育させて耕作する方法(アグロフォレストリーの1タイプ)を目指して木を植えることであれば別であるが、薪炭や柵等の資材、家畜の飼料確保のために良好な土地に樹を植えることは出来ない。土地利用の優先順位を考えて、土地利用を考える必要がある。

(3)荒廃地緑化の意義

おおよそ休耕地、放牧地、資材採取林、丘陵地等は、過度の利用や土壌侵食・流出の結果、土壌が薄くなり、岩が露出したり、土壌が堅くしまってハード盤状になったりしたいわゆる荒廃地で、樹木にとっても生育不能地・植栽困難地であることが多い。これらが面積的には広大で空間的な余裕は十分にあるが、家畜の支配する世界である。

このような地域の更なる侵食を食い止めて、将来のための地力を回復するためには、気象条件の変動をまともに受ける草本の植生被覆に加えて、永続性のある木本、すなわち低木、高木の比率を増やすことが不可欠である。

もし、村人の手で気軽に植え、確実の生育、成林させることができれば、将来心配される薪炭等の不足も解消できよう。また、干ばつの年にも家畜を死なせずにすむし、降り過ぎた年の水害も軽減され、何年後かには休耕地が農地として使えるようになることが期待できる。それが村や地域としてできれば、生活環境としても、生産環境としてもすばらしいことになるし、そう遠くない将来と予想された砂漠化も防げる可能性がでてくる。これは、当会の南の地域での目標の一つになりうる。

(4)アグロフォレスチャー

農作物−農地をベースにした生活文化の体系をAgriculture(農業)と呼ぶ。アグロ・フォレストリーは、林業と農業・畜産業・水産業が、同じ土地を同時に利用する土地利用形態をいう。さらに踏み込んで、農業・畜産業・水産業・林業等に脚を置いた生活文化の体系を、新しくAgro-forest(cult)ure(アグロフォレスチャー)と呼ぶことにしたい。自然の力、動植物の潜在力、それらの適切な組み合わせから出て来る相互促進、抑制作用等を生かしてのエコロジカルな生き方である、パーマカルチャーといわれるものの地域版と考えてもらってもよい。この複合的な生活文化はかつてそれぞれの地域で形作られていたのかもしれない。森林の減少、砂漠化の中で失われていったものもあるだろう。そのような生活文化の再生、新たな創出が今後の方向性の一つである。

ここ数年、定着農民と移動遊牧民が混在する社会での植林、岩盤・岩石の多い植栽困難な場所での植付け、家畜が動き回っている地域での植栽等について、現場の村でつながりのあるNGOの協力を得ながら、自主的活動(アクションD)として探ってきた。現在は見通しがついてきた程度であり、実際はそのような村に住み込んで、年間を通して村人の生活、村の構成や組織について理解を深め、土地利用の推移や家畜の行動パターン等を実感しながら実施したいところである。

本年は手始めにローカルなNGOと共同で、現場の村人ともに実際の作業を行いながらのワークショップでやってみたい。これによって村人達の活動意欲を引き出すとともに、われわれも村人から更なる情報を引き出したい。

(5)森と生きる為のワークショップ

これまでの活動と人材の確保、活動資金状況を踏まえて、日本人が現地に入り、ワークショップ形式で「砂漠化防止」につながる活動を推進したい。

その内容として次のような項目があげられる。

ア・適地適木の植栽方法

さまざまな村を対象として、岩石地、砂丘、畑地などで適正な樹種を選択して、雨季や乾季などの季節に合わせた植林方法のワークショップを開催する。

イ・炭窯作りと炭焼き

現地で入手可能な資材(ドラム缶や日干しレンガ)で炭窯を作り、希望者ができるように指導するが、基本的に天然木ではなく、植林木を利用して実施する。伐採した場所は植林や萌芽で再生させ、再び森づくりを行うという循環利用をつくりあげる。

ウ・他団体との協力

現地で活動している団体との連携をとり、技術の提供やワークショップに協力する。

エ・技能・技術の集積

劣悪条件での植林方法、雨水の有効利用、植栽条件に合わせた苗づくり方法等は未解明な部分が多く、これまでの砂丘の植栽方法、長根苗づくりに加えて、さまざまな技法開発、実験が必要である。

オ・新たな人材の確保

様々な機会を捕らえて、新規に活動に参加する人材を発掘・育成するとともに、会を支える持続的な活動参加者の幅を広げていく。