トミニアン報告(2005) 4/5

執筆:小島通雅
2005年6月26日発行

倒れた樹の根から考える−水平根の働き

トミニアン近辺の村、何十年振りかの大風/突風で倒れたという。この木だけでなく、村周辺の畑の中や家のそばに点在していた大木が何本も根こそぎに。横や下から根を見ると太い直根が地中深くへ伸びていた様子はなく、下へ伸びかけても堅い層で横にへし曲げられている。浅い土壌に水平放射状に伸びた根が、広い範囲の土を把み養水分を吸収、同時にしっかりと踏ん張って地上部を支え、長い間かかってこの様な大木になった。大木で倒れているという事は、大木になる迄の長い期間倒れなかったという事でもある。養水分の吸収から見れば、倒れる時にちぎられて周囲の広い範囲に残されている膨大な量の細い根に較べて、この写真に写っている部分は単なる結節点程度といえなくもない。

今迄、地表近くは雨期には雨で湿るが1〜2ヶ月で乾き、根が吸収出来る水分はなくなる。乾燥地で生き続けるには、樹は年間通して水分のある深い所へ根を伸ばすことが必要。樹を植えるには、垂直な根を如何に早く深い所へ届かせるかが重要と、それに専心してきた。地表近くの水平放射状の根は、雨期に雨が降った時に自然に出る、伸びるもの。それが雨期とその後しばらくの間、盛んに活動して成育に大きく寄与するといった程度の表面的な理解だけだった。

しかし写真に見られるように根が重なり合うように上下、左右に伸びており、よく見れば細い根も数多くある。枝葉や幹に吹きつけた雨水が幹を伝ってこの根元に集まって地中にしみ込んで行く。風による幹や根株の揺れもその浸透を助長しよう。地下に入った水分は地上部の樹体による日陰、重なった根系によるマルチ効果などで蒸発は抑えられよう。又、根からの分泌−地上部からの季節的還流も考えられる。

こうした事から根元の土中環境は他の裸地部分のそれとは明らかに違ってくる。温湿度を始め、より安定した環境となり、微生物や小動物の棲む所、活動する所となって、地中へ種々な穴もあき、土壌の性質も変ってくる。古くなった樹木の根は枯損・分解され、又新しい根に再利用される。こうしてここに見るような根株が形成されるのだろう。明らかに、地中深くへ伸びた直根の周囲や地表下の浅い所を水平に長く伸びた根の先端付近とは、違ったことが起こっている。

こうした表土の浅い所では、乾期の水分を深い所の根でと考えることは無理。勿論、落葉することで水分消費量は減る。樹種によっては地上の幹に水分を貯めたり、地下に貯蔵根のようなものを持つものもある。考えてみると、この根株の部分は、乾期の水分供給の役割も担っているのではないか。もう少し言えば根元に形成されるこのエココンプレックスは樹木にとって一種の共生貯蔵根として機能していると見れなくもない。

試験地の表土はもっと浅く、こんな大木を何本も維持し得るような土壌・水分条件ではない。かん水その他の人工的な補助なしに継続的に生存、成育させ得る植生は、当面、低木疎林状のものだろう。しかしその植生の根元ではスケールは小さいが上に述べたような種々なことが起こり、ミクロな環境の変化として累積していく。30年50年後には豊かな樹林になるしそれを再び伐開して耕作のできる畑に戻せるかも知れないでしょう。