トンブクトゥ地域(トンブクトゥ州トンブクトゥ県中央郡)
14、15世紀頃栄えたといわれる古都トンブクトゥは砂に囲まれた陸の孤島のような所だが、その南約10qには年間を通して水の流れの絶えぬニジェール河がある。河の両側には幅広い氾濫原があり、稲作が行れたり、家畜の格好の飼料供給地となっている。かつては増水時にその支流を水が遡ってトンブクトゥの町まで達していたという。その氾濫原に続いて小高くなった丘陵地があり、さらに遊牧民たちの生活する砂漠地帯へと続く。確かにこれがこの地域の自然景観であり、我々が現在目にするものではあるが、昔からそうであったわけではなく、また毎年同じように、あるいは年間を通じてそうであるわけでもない。
気づかなければ、町の周辺に広がる砂地も奥の砂漠に続くただの砂地に見えるが、雨の多い年にはスイカを作付ける所有者の決まった畑である。奥に延々と続く砂漠もそれら全てが砂漠(デザート)ではない。季節的に家畜の飼料となる草が生える砂漠(アカサ)と呼ばれる所や、緩やかに傾斜した裸地の一角には降雨の後しばらく沼地となるような所も混在している。
こうした沼地の周辺や先にふれた氾濫原に続く丘陵地などには、樹高のあまり高くない疎林が見られるが、明らかに人間や家畜の圧力に遭った結果こうした姿になっている。氾濫原にしても、昔から一本も樹木が見られないような所が続いていたわけでもないようだ。河沿いの集落の墓地周辺に残っているヤシ(ドーム)林のこんもりした姿などからみて、長い歴史の中で切り尽くされ、使い尽くされた結果だということがわかる。町の周辺に広がる畑などに点在するアカシア・アルビダ(Acacia albida)の巨木やサルバドル・ペルシカ(Salvadora persica)の老木から考えて、本来の自然植生は量的にも質的にももっと豊かなものであったことが容易に想像できる。
ファギビンヌ地域
ファギビンヌ湖は、かつては満々と水を湛えた湖で、その湖岸では豊かな半農半牧が営まれ、更に漁労民たちが小舟を操って漁が行われていた。わずか数十年前の話である。現在でもニジェール河の増水期にはトンブクトゥ、ディレなどから増水した水がファギビンヌ湖に向かう水路に入り、グンダムを通ってテレ湖に水を満たしながら、ビンタグングからファギビンヌ湖に水が流れ込んでいる。しかし、かつて満々と水を湛え漁労の民が小舟を操っていた湖とは程遠い現実がある。
現在は、流入水の多い年でもファギビンヌ湖の半分ほどの湖底を湿らす程度の水量であり、トウモロコシ、ソルガム、ミレットなどがその年、その場所の水分条件を考慮されながら作付けが行われている。しかし、流入水量は不安定で、ファギビンヌ湖の半分ほどが穀物生産に使われる年もあるが、流入口周辺だけでの耕作に限られることも珍しくない。
一般的にマリでの穀物生産は、雨季を利用した天水栽培で6月〜9月の雨季に栽培されるのが普通であるが、このファギビンヌ湖の営農形態は、雨季で増水したニジェール河の増水を待って水が流入することで成り立つために、1月からの栽培になる。主にトウモロコシの栽培から始まり、ソルガム、ミレットへと栽培が移行して行くが、これもその年の水条件に左右される。