第1回公判を傍聴して


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第1回公判を傍聴して

関口達也


7月29日に行われた第1回公判。意見陳述として、小池弁護士が被災者である偉さんの経歴を述べた後、原告であり、被災者の母親である石井淳子さんの意見陳述があった。緊張のせいか、それとも心労のためか、その表情には若干の疲れが見える。それでも、淳子さんはゆっくりと立ち上がり、しっかりとした口調で用意した文章を読み始めた。

「(死亡が確認された際に)医師から渡された、偉が着ていた衣服を思わず抱きしめていました」

「できれば冷たくなった偉を一晩中でも抱きしめて、赤ちゃんのときのように子守歌でも歌ってあげればよかった」

突然、言葉を交わす間もなく息子を亡くした無念さ悲しさが、一言一言から伝わる。淳子さんも、さすがに読んでいて思い出すことがあったのか、後半には声を詰まらせる部分があったが、それでもしっかりと読み通し、最後にきちんと裁判長に向かい、「公正な判断をお願いします」と締めくくった。

これに対して被告側の弁護人が立ち上がり、反論を行った。

「本件訴訟の提起は誠に残念であり、不当である」

「偉さんは生き生きと楽しく働いていた」

そして、安全配慮義務違反、偉さんの死亡と業務との関係について完全に否定、原告の主張と真っ向から対立した。

しかし、本当に「残念」だと思うのであれば、なぜ原告の求めに応じて迅速に資料を提供するなどの措置を取らなかったのか。さらに、不誠実な対応の結果、原告は提訴に踏みきったのであって、それを「不当」とまで言いきるのは、無神経を通り越し非人間的であるとすら感じた。また、忙しく働いている姿はときとして「生き生きと楽しく働いている」ように見えるかもしれないが、だからといって過重で不規則な労働を強いてもかまわないというものではない。会社には、労働者の労働時間を管理する責任、健康に配慮する責任があるし、労働者には健康に働く権利があるのだ。

この日、私は初めて原告の淳子さんにお目にかかった。閉廷後、淳子さんから「息子がご迷惑をおかけしませんでしたか?」と声をかけられた。母親ならではの声のかけ方だと思った。私は、残念ながら被災者である偉さんとは面識がない。しかし、原告であり母親である淳子さんの人柄から被災者の偉さんがどのような人物であったかは容易に想像することができた。原告だけではない。偉さんの3回忌を迎えるに当たって作成された文集を読んで、彼がいかに多くの人に愛され、惜しまれながら亡くなったかを察することは決して難しいことではなかった。

今後、裁判が進むにつれ、様々な方の証言が必要になるだろう。偉さんのような悲劇を二度と起こさないためにも、どんな些細なことでも教えていただきたい。方法は、電話、ファクシミリ、電子メールなんでも構いません。そして、可能であるならば、ひとりでも多くの方に被災者の声を代弁していただきたい。

また、できるだけ多くの方に「リクルート過労死裁判を考える会」の活動に参加していただきたい。多くの人の「できること」を集め、支援の輪を広げていきたい。

そう思わずにはいられない公判だった。


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