午前九時八分開議      ――――◇――――― <0001>=杉浦委員長= これより会議を開きます。  この際、お諮りいたします。  本日、最高裁判所白木刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 <0002>=杉浦委員長= 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。      ――――◇――――― <0003>=杉浦委員長= 第百四十二回国会、内閣提出、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の三案を一括して議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山本有二君。 <0004>=山本(有)委員= 最近における犯罪の特徴といたしまして、従来なかった傾向がございます。それは、申すまでもなくこれから審議をする組織的な犯罪でございます。  一つの特徴といたしましては、犯罪と親和性のある組織である暴力団等による薬物、銃器、これの取引が多い。二番目に、これらの組織による不正な権益の獲得及び維持を目的とした各種の犯罪、また関連犯罪が多発する。三番目に、オウム真理教事件のような大規模かつ組織的形態による、しかも凶悪な事犯が発生する。四番目に、会社等の法人組織を利用した悪徳商法等の大規模な経済犯罪などの組織的犯罪が多発するというような特徴がございます。  最近、山口組も、この不況にかかわらず構成員が一〇%ふえたというわけでございますし、さらに外国人犯罪、特にパスポートを持たない、在留の法的根拠のない者が三十万人近い数に上っております。  こういうことを考えた場合、我々はこの組織犯罪対策をどうしてもやらなきゃならぬというように思っておるわけでございますが、法務大臣、この組織的犯罪対策三法、これにつきまして、法整備の重要性と緊急性、いかにやるのかお伺いいたします。 <0005>=陣内国務大臣= ただいま委員御指摘のとおり、近年、暴力団等による薬物、銃器等の取引や、これらの組織的な不正な権益の獲得等を目的とした各種の犯罪のほかに、オウム真理教事件のような組織的な殺人事犯、法人組織を利用した詐欺商法等の経済犯罪など、組織的な犯罪が少なからず発生しており、我が国の平穏な市民生活を脅かすとともに、健全な社会経済の維持発展に悪影響を及ぼす状況にあります。  他方、この種の犯罪の問題をめぐっては、近年における国際連合の会議や主要国首脳会議等においても最も重要な課題の一つとして継続的に取り上げられてきており、国際的にも協調した対応が求められ、主要国においては、既にこの問題に適切に対処するための法整備が進んでいる状況にございます。  組織的な犯罪に対処するための三法案は、このような組織的な犯罪をめぐる国内外の情勢を踏まえまして、これに適切に対処するために必要不可欠な法整備を図るものでございます。この問題の重要性、緊急性にかんがみ、できる限り早期にこの法整備を実現していただきますようお願いをしたいと思います。 <0006>=山本(有)委員= この組織三法のうち、内閣提出、第九十二号、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、いわば組織三法の第一番目、この法律の中身といいますものは、この法案の第三条一項及び二項、ここにありますように、法定刑の加重でございます。  既にございます刑法事犯、これの法定刑が、例えば常習賭博であれば三年以下の懲役、これを、組織的犯罪であるということになりますと、五年以下の懲役、すなわち二年間上限を上に上げよう、刑を重くしよう、こういう趣旨でございますが、この加重の趣旨というのは一体那辺にあるのか、さらに、この加重するということの主なる理由はいかがなことなのかということをお伺いをいたします。 <0007>=松尾政府委員= お答えいたします。  ただいま御指摘の法案の第三条第一項、これは、犯罪に当たる行為が、団体の活動として、これを実行するための組織により行われた場合の加重規定でございます。これは、通常、継続性、計画性が高度で、これに従って、多人数が統一された意思のもとで、指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って一体として犯罪を実行する、こういう点で、その目的の実現の可能性が著しく高くなるわけでございますし、また重大な結果も生じやすい、あるいはそれによって莫大な不正な利益が生ずることが多いという点で特に悪質であろうと思います。違法性が高いと考えられるところでございます。  刑法の一部の罪につきましては、このような形で犯される場合が多いと認められるにもかかわらず、その法定刑がこのような場合の法定刑として十分でないと考えられることから、今申し上げたような場合の加重類型を設けることにした次第でございます。  また、第三条二項には不正の権益という言葉が出てまいります。これは、暴力団のいわゆる縄張りということをよく言いますが、そうしたことを典型といたします。そういったものでございまして、団体の構成員による犯罪その他の不正な行為により、その団体またはその構成員が継続的に利益を得ることを容易にするような団体の威力に基づく支配力のことであります。  このような不正な利益を獲得することの源泉あるいは温床となる団体の支配力の維持拡大、こういうことを目的として、団体にそのような支配力を得させることを目的として行われる犯罪でございますが、これは特に違法性あるいは反社会性が高いと認められるところ、やはり同じように、刑法の一部の罪についてはこのような目的で犯されることが多いと認められるにもかかわらず、その法定刑がこのような場合の法定刑としては十分でないと考えられることから、先ほどと同じように、こうした不正な権益にかかわるものにつきましても加重類型を設けるということにしたものでございます。 <0008>=山本(有)委員= 例えば、組織あるいは団体という場合、十一の罪がございます。常習賭博、これなんかは暴力団対策ということはわかります。殺人、組織的な殺人とはだれが起こすのか。あるいは強要、あるいは信用毀損、業務妨害、威力業務妨害、あるいは詐欺、恐喝、殺人予備、こういうものが加重の対象になっておるわけでありますが、では一体、どういう団体がこの加重の対象と考えておるのか、今生成しておる新しい犯罪類型の中で、どんな団体、どんな組織に対してこれが機能していくというようにお考えなのかお伺いいたします。 <0009>=松尾政府委員= 具体的にどのような団体かということになりますと、具体的な案件ではそれぞれの状況に応じて決せられることになりますが、典型的な例を挙げますと、今御指摘にありましたような暴力団組織、あるいは蛇頭を典型とした外国人犯罪組織といった、犯罪といわば親和性といいますか、そういったものを有して、組織ぐるみで大規模あるいは凶悪な事案等を引き起こす団体の活動が想定されております。  今御指摘の十一の罪の中には、第九号で詐欺というのがございますが、この場合には、豊田商事等がございましたが、大規模な悪徳商法事案を敢行する会社等の活動が典型的な例として想定されております。 <0010>=山本(有)委員= 確かに、法定刑を引き上げるということになりますと、これは裁判官の量刑の裁量の範囲を広くするということができるのかもしれません。けれども、例えば常習賭博、三年以下の懲役を五年以下の懲役にするときに、三年ぎりぎりで量刑して判決を出す、そして、それでまただめであって、再犯を起こしてきたら、それでもう一回ぎりぎりの三年でまたこれを懲役刑を科す、執行猶予なんかつけないというようなことだって対処でき得るものではなかったのかな、こういうような見方もございます。  それをあえて、加重処罰規定、これをしっかり設けて、組織犯罪であればどうしてもこれは重く罰するというようなことになりますと、人の千差万別な行為態様、そういったものを逆に裁判官に、いわばこれは重くしろよというような暗黙の、法務省側から裁判所に量刑を高目に誘導してしまうというような話もないではないというように思いますが、加重処罰規定を設けなくても、従来の刑の幅で、運用によって適切に対処できるものではないかというような向きに対するお答えとしてどういうものがあるか、これをお答えください。 <0011>=松尾政府委員= 確かに、我が国の刑法は、それぞれの罪につきまして、諸外国に比べますと法定刑の幅が広いということは御指摘のとおりでございます。  ただ、法定刑といいますのは、いわばその犯罪の違法性の評価というものを明示いたしまして、それにより犯罪の抑止等に資するということにその目的がございます。  この法案の第三条の規定によります刑の加重の対象としている罪は、その行為態様あるいはその目的等に着目しまして、先ほど御答弁申し上げましたが、特に違法性、反社会性が高いと認められる行為類型を選び出したものでございまして、刑法のそれぞれの罪の法定刑、ただいまございました常習賭博等のことを指しますが、そのような場合の法定刑として十分ではないと。つまり、違法性の評価全体を、もっと違法性、反社会性が高いということに着目する必要があるということでございまして、本法律案においては、その違法性の評価を明示いたしまして、各行為者の責任に応じ適切な量刑をなし得るようにするとともに、かかる犯罪の抑止に資するということで加重するものでございます。     〔委員長退席、橘委員長代理着席〕 <0012>=山本(有)委員= この加重規定というのは、組織犯罪、すなわち、団体、組織であれば加重されるわけであります。そうなりますと、この団体とか組織というものが明確に概念規定がされていなければ、あるいは一般市民、国民が、こういう組織をつくったらだめなんだ、ああいう団体だったらだめなんだというようなはっきりした認識がなければ、突然何か任意団体をつくって河川を浄化しようと思ったところ、それが組織的犯罪だと言われて刑が加重されたというような、市民社会に与える影響もかなり大きなものがあろうというように思います。  そこで、団体、これはどういうものか、あるいは組織、どういうものかというようなことをきっちり説明する必要があろうと思いますが、法務当局としてはどういう御説明をされますか。 <0013>=松尾政府委員= 今の御質問についてはいろいろな観点から御説明をする必要があると思いますが、まず第一点でございますが、団体自体の責任を問うということではございません。この法案の第三条に定める刑の加重処罰規定というのは、犯罪行為の刑事責任は個人が負うという刑法の個人責任の原則自体を変えるものではございません。殺人等の犯罪行為が、団体の活動として、これを実行するための組織によって行われるという犯行の態様、あるいは、団体に不正の権益を得させるなどの目的で行われた点に着目しまして、その犯罪行為を行った者を個人の責任に応じて処罰するということにとどまりまして、まず申し上げたいのは、団体規制を目的として、団体そのものを処罰の対象とするものではないということをまず御理解いただきたいと思います。  また、このような殺人等の行為が、これもやはり入っておるわけでございますが、現行法上も罪に当たる行為でございます。本法律案による加重類型の新設ということがございますが、これは現行法の処罰範囲を拡大するものではないという点が第二点目でございます。  それから、この加重類型に該当するためには、ある個人の殺人等の犯罪行為が、団体の意思決定に基づく団体の活動として行われ、なおかつ、これを実行するための組織により行われるということなどが要件とされております。つまり、正当な目的を有する団体が通常行っている活動にこの刑の加重規定が適用される余地は全くないということでございます。 <0014>=山本(有)委員= 私は、市民生活にはっきりとこの団体とか組織とかいうものが根づかなければ、この加重類型というものがかえって市民の手足を縛ってしまうという、そういう刑法のいわば根本的な問題、それがこの加重類型に、団体、組織という概念にかかっているだろうというように思います。  用語の定義といたしましては、「「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織」、「組織」というのは「指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。」そして、その「組織により反復して行われるものをいう。」山本有二中村市後援会、これも大体こんなものじゃないかなというようにも思うわけでありますが、そうすると、これが犯したら加重されるのかというと、そうじゃないだろうと思いますがね。  そこで、一体団体とは何か、組織とは何か、この定義だけで済むのかなという、私は、もっと何か平たい、もっと何か簡単にわかる、団体、組織つくったって我々全然平気だよということをもう少し法務省は説明しなきゃならぬ説明義務があるんじゃないか、こう思っているということで先ほどお伺いしたわけでございます。ひとつ、松尾刑事局長の明敏なるお言葉でこの答えをちょうだいしたい、こういうように思います。いかがでしょう。 <0015>=松尾政府委員= その団体というものの規定そのものを、通常社会で使われているような平易な言葉で規定するというのはなかなか難しいことでございます。今の先生の御質問の中にも「共同の目的を有する多数人の継続的結合体」、こういう表現も使われるわけでございますが、それでは、これに該当しない具体例はどのようなものがあるかという逆の観点から申し上げるのも、あるいは概念をある程度具体的に明らかにする意味で資することにもなろうかと思いますが、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体」というと、通常は、共同の目的を持って二人以上の者が集まっている、結合しているといいますか、そういう集団ということになります。その構成員の一部の変更がその集団の同一性に影響を及ぼさないだけの継続性もやはり要るんだろうと思います。すなわち、構成員、あるいは、単なる集合体とは別個の、社会的には独立した存在というような実態があるということが一つは必要かと思います。  通常、集会等も、こういった多数人が集まるという意味では一つの固まりということになりますが、共同の目的を有する多数人の集団という意味ではそのとおりでありますけれども、一時的な集団にすぎない。ここに言う「継続的結合体」というのからは外れるのかなと。  それから、群衆という言葉もよく使いますが、共同の目的がこれは欠如しているのではないか。構成員が相互に結合していないため、先ほどの「結合体」には該当しないだろう。  それからまた、共同正犯の関係にある多数人というのは、通常、共同の目的を有する多数人の結合体に該当することが多いと思われますけれども、単に共謀関係が認められるというだけでは必ずしもその結合体が継続性を有するとは認められないということだろうと思います。  概念としてはそんなところを御理解いただければと思います。 <0016>=山本(有)委員= 先ほど局長は、組織的犯罪、加重、例えば常習賭博三年を五年にしたその二年分の開き、これは組織を痛めるものではない、団体を痛めるものではない、個人の責任を追及し、違法性の類型としてその個人に向けた刑事責任、これが重くなっていくんだ、こういうことでございました。  それはそれといたしまして立派な考え方でございますが、従来から、やはり日本の刑法には総則といたしまして共犯というものがございます。これは、共同正犯、そのほか狭義の共犯というようなものもございますけれども、教唆、幇助、その共同正犯の中に、正犯論でいけば共謀共同正犯という判例の理論もございます。そうするとこれは、必ずしも意思を明確に通じ合っていなくても、共謀共同正犯理論でいけば、共同意思主体というものを考えて、それでどんどん組織的犯罪者を罰することが可能であろうというように思っております。  先ほども刑事局長は、共同正犯論ではこれは刑の十分な責任を問えない、こういうようなお話でありましたが、しかしもう一回、何で共謀共同正犯、共犯理論で組織犯罪あるいは団体犯罪を罰することができないか、個人犯罪であれば同じではないかというように思いますが、この点いかがでしょう。 <0017>=松尾政府委員= 具体例でちょっと考えてみたいと思いますが、例えばたまたまある数人が、動機はさまざまだと思いますが、甲という男を殺そうということで相はかる、つまりこれは、実行する者とその計画に参加して指揮する者と合わせますと共謀共同正犯で全部その責任を問える範疇として考えますと、この場合は、確かに一時的に共謀あるいは共同の意思ということで一つの集団が形成されたことは間違いございません。それについては、現在の刑法、既存の法律でそれに応じた適正な処分ができるということになります。  ところが、今回の法案の第三条をごらんいただきますと、「次の各号に掲げる罪に当たる行為」、例えば今の例ですと、殺人が第三条第一項第三号にはございます。今の例は殺人の例でございますのでこれを引きますと、この殺人という行為が、「団体の活動」、これもさらに括弧書きの中でもう少しその意味内容が具体的になっておりますが、「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。」と。  つまり、暴力団が、例えば対立抗争事案の中で相手の組のしかるべき構成員を殺害しようと、暴力団として決めて実行に移すということがまず必要でございます。そういう意味で、団体の活動ということがまず要件になると同時に、その罪に当たる行為を実行するための組織により行われる。組織によりといいますと、計画する者がい、実行する者がい、例えば銃を用意する者がいる、これはさまざまな役割分担等が当然伴うわけでございますが、こういった二つの要素を要求している。  これからもはっきりしておりますが、さきに挙げました、たまたま一つの犯罪行為が共同して行われたということと、団体が団体の意思決定に基づいて、その利益は当該団体に帰属するというような形で、かつ、罪に当たる行為を実行するための組織により行うというような、いわば、先ほども申し上げましたが、多数人の継続的結合体という意味合いがございます。つまり、二つの例で相違はまさにそこの点でございまして、今の刑法の体系では、継続的な結合体という組織で行う犯罪についてはより重く処罰するということはできないことになります。  今回の法案は、そうした団体の行う殺人行為の違法性、反社会性の高さ、危険性の高さ、あるいは結果が発生する可能性の大きさ、そういったものに着目しまして、社会としては、これはたまたま数人で共同したものに比べて違法性はより高いだろう、これについてはより重い法定刑を規定し、より重く処罰していく必要があるということでございます。 <0018>=山本(有)委員= 私自身は理解をしておるつもりであります。我が国刑法ができ上がったのは明治時代。今日、明治時代と時代の差を考えてみますと、家庭に一台以上の電話がございますし、テレビという情報もある、しかもそれは衛星放送でおりてくる。さらには、今までは農業主体であった、一次産業主体であったものが、企業で働く、すべて日本人の意識として、会社のためあるいは仕事のためという意識も強いというようなことを考えていきますと、当然明治時代よりも犯罪の類型あるいは組織というものに対する重みというものが変わってきたということはわかります。  そして、刑法が個人をあくまで主体として考えられてきたのが、組織としてある程度考えなきゃならぬというこの時代背景、十分わかるところでございますけれども、あくまで個人の罪を問う、こういうような根本原理であるならば、組織だといって二年上に上るということに対する説明というのは、やはりわかりやすい説明をいただかなければ、なかなか刑法で罪についた人たちが納得して、よし、この罪についてこれから更生しようというときに、納得というものでこれは十分ではないような気もいたします。そこで、今後ますます組織犯罪あるいは団体犯罪についてのその理論というものを高めていく御努力を刑事局長にお願いしたいと存じます。  さて、最高裁判所の白木刑事局長にお伺いいたします。白木局長、先ほど法務省の松尾刑事局長に尋ねたのと同じことでございますが、組織犯罪処罰というのは、従来の個人主義の刑法理論からはとり得ないのではないかということをまずお伺いいたします。     〔橘委員長代理退席、委員長着席〕 <0019>=白木最高裁判所長官代理者= お答え申し上げます。  私ども裁判をする者の立場からはお答えしにくい問題でございますが、ただいま法務省から答弁がございましたように、今回の立法は、団体を処罰するものではなく、あくまで個人を対象とするものであるというふうに認識いたしております。 <0020>=山本(有)委員= 次に、刑の加重、法定刑を法律でいじくるわけでございます。例えば詐欺罪、刑法二百四十六条。従来でありますと、普通の個人が詐欺を行った場合は十年以下の懲役でございます。これを団体あるいは組織が行いますと一年以上の有期懲役、こういうことになります。  法定刑の中で十年以下の懲役とするよりも、下限をいじくられて、つまり、裁判官がこの詐欺は懲役十カ月が適当だ、こう思いましても、この組織犯罪対策で起訴された事案でありますれば、有罪であることは間違いない、しかし量刑の上においては十月が一番適当だ、にもかかわらず、この法定刑は一年以上、こう変えられてしまった。そうすると、裁判官の裁量権を、いわばこの法務省の法案で、裁判官というのは一人の大きな国家機関ですよ、その重要な裁量権を奪われてしまうということになりはしないか。だから、司法への行政からの不当な介入だというような理論もなくはない。それをどう考えますか。 <0021>=白木最高裁判所長官代理者= 一定の要件がございます場合に刑を加重するということは、現行の刑法にも見られるところでございまして、それが裁判官の量刑判断に対する介入というふうには受け取られていないところでございます。  なお、十月がよいと思ったけれども法定刑ではそれ以上になっている場合というお尋ねもございましたが、裁判官の量刑判断といたしましては、法定刑を離れていきなり量刑が出てくるということではないと考えております。 <0022>=山本(有)委員= このように組織犯罪立法というものをしなけりゃならぬ、特に加重刑を、法定刑を変えなきゃならぬというところは、従来の判例、刑事裁判において、本当の意味で、今まで歴史的に刑事裁判が適切な量刑を下しておったのかどうか、ここに私は疑問を持つものでございます。つまり、我々立法者がここまで、組織犯罪というものを法律まで定めて、それでやらなきゃならぬ、しかも刑について云々しなきゃならぬということは、本来悪者である組織、本来悪者である団体、これを十分刑事裁判が懲らしめてきたのかということに疑問を持つわけでございます。  組織犯罪、団体について、刑事裁判のいわば総元締めの最高裁の刑事局長といたして、どうしてこのような立法をしなきゃならぬのか、あなた方が本当の意味で国民が納得できる量刑をしてきたのか、こういうような疑問を持つわけでございますが、それについてはいかがですか。 <0023>=白木最高裁判所長官代理者= 個々の裁判官の認識ということになりますとなかなかお答えしにくいところでございますが、一般論で申し上げますと、事件につきましては、最後の段階で検察官が論告におきまして、例えば組織的犯罪であるなど、被告人のいわゆるあしき情状と思われる点について厳しく論断をいたします。もちろん、その後で弁護人がその論告について弁論として反論をすることがあるわけでございますけれども、そういった当事者の弁論を通じまして裁判官が問題点を把握し、認識して、適切な認識のもとに判決がなされるものと承知をいたしております。 <0024>=山本(有)委員= もっと平たく申し上げれば、やくざに対して、本当の意味で社会悪だ、やくざはけしからぬ、団体に入っている限り、少々の殺人未遂かもしらぬが、もうこれは既遂に匹敵するというぐらいに思い切って刑事裁判で裁判官が強い強い、重い重い罪を科してきたならば、私はこんな法律は要らないというぐらいに思っております。  一般の国民が思っているように、裁判所はやくざに甘いんじゃないか、こういう御指摘に対してどうお答えになりますか。 <0025>=白木最高裁判所長官代理者= 今のお尋ねも、一般的にどうであるかということは大変申し上げにくいところでございますが、暴力団という組織を背景に行った悪質な犯罪である場合には、先ほど申し上げましたように、検察官から論告においてその点が厳しく論断されるわけでございます。それにつきまして、弁護人も、被告人のよき情状につきまして弁論がなされるわけでございまして、そういったことを聞いた上で裁判所の方が判断するということになりますので、やくざに甘いということはないものというふうに認識いたしております。 <0026>=山本(有)委員= 私は、個人の裁判官の方は本当に御努力され、立派な人が物すごく多い、私も実務を経験しておりましたからそう思います。しかし、現実に、余りにも司法、裁判に期待がかけられ、月に三百件、五百件、そういう事件をこなさなければならぬ。そうすると、御自宅から裁判所までの往復、しかも深夜までの起案、判決文の作成というようなことに追いまくられて、本当の意味での社会、いわばこの時代がどうなっているかということまで考えるいとま、余裕がないのではないか、私はそういう危惧を持つわけでございます。  いわば、裁判官が一生懸命事件をこなせばこなすほど、すなわち社会の動きがわからない。本を読む時間、テレビを見る時間、映画を見る時間、あるいは友と語らう時間、そういったものがなくなるということにおいて今日こうなったのかもしれないという、私は、国家機関の宿命、運命みたいなものも考えるわけでございます。  そういうときに、現状、治安対策、蛇頭がどう行って、どこから密航して、どんな事件を起こしてどうなっているか。頭の中ではわかるけれども、例えば遊興場所に行って、本当にその人の意見を聞くということはまずあり得ないだろうと思います。しかしながら、そういうことを本当に、大岡越前ではないけれども、市井の中に入って、それで初めて納得いく裁判ができる、私はそう思います。  そのためには、どうしても最高裁刑事局は、治安対策やしゃばのことも裁判官によく認識してもらう御努力をいただかなければならぬと私は思います。そういう意味で、刑事局長、いかに社会の認識、治安対策というものを刑事裁判官にお伝えしておるのか、あるいは研修しておるのかということをお伺いいたします。 <0027>=白木最高裁判所長官代理者= 裁判所は、御承知のように、積極的に治安対策を講じるという組織ではございませんで、基本的には、適正な裁判を通じて我が国の社会秩序の安寧に寄与いたしていると思っているところでございます。  最高裁の方で、そういった情報を的確に個々の裁判官に認識してもらうようなことを考えてはどうかというお尋ねかと存じますが、なかなかこれは、個々の裁判につきまして最高裁の方から一定の情報を流しますと、おまえ、あたかもそうせいと言わんばかりに受け取られる向きもなきにしもあらずでございまして、これは大変難しいところかと存じます。  基本は、先ほど来申し上げておりますように、裁判官ももちろん、日常的に報道機関で報道されておりますような事象はよく承知しておりますので、一般的には社会の状況は承知しているものと思いますが、なおかつ、具体的な事件におきまして、公益の代表者である検察官から、この事件の背景はこういうところがあるのだというようなことを適切に御指摘いただくということが基本かと存じております。 <0028>=山本(有)委員= 御努力をなおお願いしたいと思います。  さて、刑事裁判官というのは、学校の先生、大学の教授以上にいろいろな意味で勉強されている人である、私はそう信じております。特に刑事裁判である以上、刑法理論というのは精緻でなければなりません。目には目を、歯には歯をという応報刑の言葉がございますが、これは一つの納得いく応報理論でございまして、刑事理論でありまして、相手の目をつぶせば自分の目を失うということはわかりやすい。だから刑法というのは、わかりやすく、納得できるから罪につくることができる。窃盗して、右手でそのものをつかめば、その右手を失うというようなことになりますと、またそれもよくわかるわけでございます。  したがって、納得の理論、刑法理論というのは、精緻であればあるほど刑事裁判がより生きてくるだろうというように私は思っておるわけでありますが、その意味で、刑事裁判官の理論性というものに対して、私は高い評価をしているものでございます。  そこでお伺いいたしますが、個人責任の犯罪、これが刑法理論であります。現在の通説では、犯罪の成立に三つの要素が、要件が要ると言われております。構成要件該当性、違法性、責任。すなわち、構成要件該当性、人を例えばナイフで刺殺した。しかし、それはあくまで正当防衛だった場合には違法性がないわけであります。それで、違法性があった場合、さらにそれが、赤ちゃんがナイフをたまたま握っていたら、そこに突進してきた人がいて死んだというと、これは責任がないわけでありますね。  そうすると、違法性、責任、この三つの要件が満たされるということが、今の通説の刑法理論の常識になっておるわけでありまして、ここから考えた場合、組織的犯罪について、一体どこがどういうようにこの要素が変わるのか、これについて、刑事裁判官の長でございます白木刑事局長にお伺いいたします。 <0029>=白木最高裁判所長官代理者= この法案につきまして、今お尋ねのございましたような構成要件該当性、違法性、責任といったものについての解説を、裁判所の立場から今ここで私が申し上げるのは必ずしも適当ではないと存じますので、お答えを差し控えさせていただきたいと存じます。 <0030>=山本(有)委員= せっかく、平たく言えば頭のいい、しかも刑事理論というのは裁判官がリードしていくだろうというように思っておったので白木さんに聞きたかったのですが、余り答えると他に影響があるし、学問理論にも影響があるかもしれませんので、そこは、松尾刑事局長がお手が挙がりましたので、局長にお願いいたします。 <0031>=松尾政府委員= 法案の段階でございますので、私の方からお答えするのが適当かと思います。  ただいまの犯罪の成立の三要素ということでございますが、今御議論いただいております第三条の刑の加重規定というのは、現行の法定刑ではその行為の違法性の評価が不十分であるという点に着目いたして、これを引き上げよう、あるいは全体を、例えば下限等を引き上げようというものでございまして、今の三要素の中では違法性の評価を変更するということになろうかと思います。 <0032>=山本(有)委員= 違法性の中に、わざとにやったのか、突発的にやったのか、謀略的にやったのか、いわばそこに、心素、体素という言葉がございますが、心素の面で違法性に着目しているというように私はこの加重規定はとらえております。  そこで、さらに申し上げますと、故意の中にも幾つかの種類があるだろうというように思います。先ほどの、突発犯や計画犯というところで故意とは違う、心素の中が異なる。故意でも、過失的な故意も未必の故意みたいなものもございます。ですから、そういったことから考えると、さらにこの中身をもう少し掘り下げていかなければ、私は、個人責任主義ということに逢着しないような気がいたします。そこで、通告にはございませんが、私はこんなことを考えておったわけでございます。  故意犯というのは何で悪いのか。過失犯よりも何で刑を重くしなければならぬのかというと、私は、その真骨頂は、反対動機の形成ができるのにもかかわらず、にもかかわらずやってしまった。こんなかわいい子供で、幼児であるにもかかわらず、これをどうして殺すのか。ここで、かわいいと思ったときにやめなければならぬ。やめ得る可能性があったにもかかわらず、あえてそれを突進して、突っ込んで犯行を犯したというところに、私は違法性の強弱が出てくるだろうというように思います。その点、いかがでしょうか。 <0033>=松尾政府委員= 故意犯と過失犯の違法性の問題については、今先生の御指摘、まことに非常に説得力のある御見解かと思っております。 <0034>=山本(有)委員= そこで、簡単に反対動機の形成といいましても、組織犯罪、団体犯罪の場合にどうなるのかな、もう一つ私はそう思ったわけであります。  ナイフを持って相手の体に突き刺した。血が出た。あっ、血だと思ったときにやめることができる。そしてまた、急所、ここが心臓だ、もっと押せばもう完全に死んでしまうと予測できた。まだ突いた。相手は血が膨大に出てきて顔が青ざめた。その顔の青ざめた姿や、崩れた、ひれ伏した体の姿を見て、ここでやめることもできた。瀕死である、このままあと十分放置すれば完全に死ぬ。そこで助けを求めれば助かったかもしれぬというような流れの中で、それを一つずつ全部読み切りながら、行為と結果の因果の連鎖を全部予測してそれを認めていくということが、犯罪の違法性、悪質性だというように思います。  そこで、組織犯罪の場合、これがどうなるか。個人犯罪であれば、どこかでやめることができた。しかし、組織犯罪であれば、親分がテレビカメラで見ている、あるいはだれか自分を監視している友達がそこにいる、それがすぐ親分に言いつける。そうなると、これは、反対動機を形成したけれども、そこで反対動機が減殺されている。ああ、彼が見ているから、おれはここでやめたいけれども急所をもっと突こうというところ。さらにもう一つは、反対動機の減殺ということ以外に、反対動機ではなくて、動機の強化がある。その二つの要素、反対動機を減殺し、かつ動機を強化するというところに、団体犯、組織犯の絶対に罰していかなきゃならぬ魂、心があるように私は思いますけれども、これはいかがですか。 <0035>=松尾政府委員= 団体の意思に基づきまして犯罪を実行する一つの組織の行為として行われた殺人がなぜ重く処罰されなきゃいけないのか、その理由の一つは、まさに先生のおっしゃったことが含まれると思います。 <0036>=山本(有)委員= 質問を変えて、今度は予備罪についてお伺いいたします。  組織的犯罪法案の六条一項一号で、あくまでも組織的な殺人の予備を加重処罰、そういうようにしております。これについて、どういう趣旨でこの法案をつくられたか、刑事局長にお伺いいたします。 <0037>=松尾政府委員= 現在も、刑法で殺人の予備については科罰するということで処罰規定がございますが、組織的な犯罪に該当する殺人の予備につきましては、その目的とされる組織的な殺人の結果実現の可能性が特に高いものと考えられまして、その予備についても、このような結果の実現に結びつく危険性が特に大きい、またそのような実行行為を目的としている場合には、その手段についても特に危険性の高いものが用意されることが一般であります。これは、暴力団が行う殺人罪について想起いただければ御理解いただけると思いますが、そうした特に違法性が高いと認められることから、その刑を加重するものでございます。 <0038>=山本(有)委員= やはり組織犯罪、団体犯罪になりますと、用意周到に準備を行います。まさに、この用意周到が団体犯罪、組織犯罪の違法性の重要な点である。とすると、予備をまさしく加重していくということが、団体、組織犯罪の特徴であるがゆえに、必然的に予備強化、予備についての責任を問う、ここが私は大事なことになるだろうと思いますので、この法案の趣旨については大いに賛同するわけでございます。  さて、そこでもう一つ、六条一項二号、これは組織的な営利目的略取誘拐の予備を処罰するんです。殺人であれば、人の命をあやめてこの世から消し去るわけでありまして、これは最も守らなきゃならぬ。人の命は地球よりも重いというわけでありますから、守らなきゃならぬわけでありますが、誘拐の予備ということになりますと、もう一つ、だんだん今度は日常生活にかかわってくる可能性が強くなる。  組織犯罪でありますから、例えば坂本弁護士の事件だとか、あるいはそれにまつわるオウムの誘拐事件というものに対しては十分に対処する必要があって、そんなものはもう日常生活と言えないから徹底的にやらなきゃならぬわけであります。しかし、一般的に、団体がやった、組織がやった、しかも誘拐の予備だ、こうなってきた場合、さて一体、誘拐の予備というのはどんなことがあるのかなと頭の中でいろいろ考えた場合、手錠を買うこともそうだけれども、手錠だったらわかる。しかし、ガムテープを買ったってそうなるんじゃないか、あるいは引っ越しのひもを買ったってそうなるんじゃないか。そうすると、スーパーマーケットで買って金を払ったら捕まったなんというと、何だこれはという話にもなりかねません。  そこで、組織の略取誘拐の予備について、どういう趣旨で、どのような理由、どのような団体の行為として考えておられるのか、ひとつ御説明いただきたいと思います。 <0039>=松尾政府委員= 確かに、お尋ねのような疑問がわいてくるところではございます。  具体例で申し上げた方が御理解を得るのに資すると思いますので申し上げますと、例えば、暴力団関係者が債権の取り立ての委託を受けまして、取り立てにかかります。よくあるのは、その被害者、つまり債務者あるいはその関係者ということになりますが、これを拉致いたします。あるいは、そこに行きまして、債務を支払えということでさまざまな手段を弄するわけでございますが、そうした場合に、被害者の預金等の財産を奪う目的で、身柄を他の場所に移して、暗証番号だの印鑑だのというものを出せ出せと迫る、これは社会的によくあることだろうと思います。  このように、営利目的の拐取罪というのは、組織的な形態で犯される例が検挙例としては多いわけでございます。被害者をその生活環境から引き離して自己の支配下に置いて、いろいろな強要行為をやるわけでございますから、場合によりますと、人命に対する危険もありますし、あるいは傷害を負うということも多く見られるわけでございます。  しかも、今申し上げましたようなことは、組織的な犯罪として行われようとしている場合には、一たんこれに着手されますと結果実現の可能性が非常に高いということでございますので、実行の着手をしてからこれを検挙し得るような処罰体系にするよりも、さらにその前の段階、つまり予備の段階ということになりますが、この段階で犯罪の実行を抑止する必要性が特に高いということで、この罪につきましては特に予備罪を設けたということで御理解いただきたいと思います。 <0040>=山本(有)委員= 予備というものは、概念的には、罪を犯す意思を持ち、これを実現するためにする準備行為で、実行の着手に至らないものをいう、こうなるわけであります。しかし、実行の着手に至らない、構成要件は明確でなければならぬ。刑法理論、特に憲法三十一条に言うデュープロセス、そういったものを徹底的にやると。  実行行為についてからは非常に明確、精緻な判断や証拠収集で流れていくわけでありますが、予備罪では、先ほどの定義からすると、実行の着手に至らないもの、単に範囲があって、準備したら、範囲とは何か、それは範囲はわかる。準備とは何か。その準備とは何かの、まさに準備の実行行為というか、そういうものもより明確に精緻に理論づけしていただかなければ、今後幾らでも広がる、予備というのはあいまい性を持つということでありますから、この点においては、刑事裁判におきましても、また起訴の段階の証拠収集、捜査におきましても、しっかりやっていただきたいというようにお願いを申し上げておきます。  次に、組織的犯罪処罰法案の七条、組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等について、これらを加重する、こうありますが、この趣旨についてお伺いいたします。 <0041>=松尾政府委員= 第三条第一項に規定する形態あるいは第二項に規定する目的で犯された犯罪、すなわち組織的な犯罪につきましては、その団体の構成員等による犯人の蔵匿あるいはその証拠隠滅等あるいは証人威迫等の罪が犯されることが多いわけでございます。  第三条第一項の罪は、あらかじめ十分な謀議に基づきまして、犯罪の発覚や犯人の特定、検挙を困難にする手段が講じられることが多いわけでございます。あるいは、第三条第二項の罪、これは不正権益の維持、保持等でございますが、団体やその構成員による利益獲得活動の実態という複雑な事実関係を伴うものである上に、団体、組織の持つ威力、影響力により、犯人を含めた関係者からの供述を得ることが非常に困難な場合が多いわけでございまして、全体的には、その真相の解明が一般的に困難な事案ということは言えるかと思います。  このような性質を有する組織的な犯罪に関する犯人を隠す行為、蔵匿、あるいは、かかる行為が一たん行われると事案の真相を解明することは一層困難になる、証拠隠滅等でございます。また、団体、組織が温存される結果、さらに犯罪が継続される温床ともなる。その違法性が高いために、重い量刑を得てその抑止を図る必要がございます。その法定刑を加重する必要というのはこのような理由になります。  ところで、その犯人蔵匿等の罪に関しては、犯人の中に暴力団構成員が占める割合あるいは量刑の実情等に照らしまして、また、暴力団等による組織ぐるみの事案も想定できることからすれば、第三条の加重の対象とすることも考えられないわけではございませんが、組織的でない犯罪に関して組織的に犯人蔵匿等の罪が犯される蓋然性は必ずしも高いとは思われませんので、第七条の規定に加えて第三条の規定による加重の対象とする必要性は乏しい、そういうわけで第七条を規定したということでございます。 <0042>=山本(有)委員= 蛇頭、中国人の密航船が高知県土佐清水沖に三隻参りました。おととしのことでございました。それで、海保、警察、検察、相互に協力し合って一隻だけ捕まえることができたわけであります。  そのときは、もう着のみ着のまま、そういう姿でありまして、私は思いました。もし、そのような姿で町を昼濶歩しておる、あるいはどこかでそういう姿を見たということになりますと、これは直ちに何らかの措置ができるだろう。しかし、よく考えてみると、アジトがあって、だれかが手引きしていて、国内に何か助ける人がいる、そういう不正入国をした犯人をかくまう人がいる。その人たちが、中国人もモンゴル系でありますから我が国と同じ民族。そうすると、顔ではわからない、髪型ではわからない、色ではわからない。そして、服装をポロシャツとズボンにかえた、日本人と全く同じ着古しのものを着せた、これは外からではわからない。  ですから、私は、むしろこの犯人蔵匿、隠避なんというようなものは、これは団体組織犯といたしましては、どうしても加重する、特別に、もうこれを絶対許さないというような姿形にしていかなきゃならぬ。特に、個人の犯罪を犯して、組織犯罪でなければ、組織がかくまったとてこれは加重しないなんという、私は、先ほどの刑事局長のお話によると、何か逆にこの法律の甘さを感じるわけであります。むしろ、我々日本人の、本当に、平和なこの国の治安を乱すものに対しては断固措置するというような覚悟が必要でありまして、特に犯人をかくまうにおいては、もう我々が単に個人でかくまうなんという代物じゃありません。組織的というのは、物すごく徹底しております。  例えば、国松警察庁長官が撃たれた、さあといったって、撃った者が何人もおって、見た者が何人もおったにかかわらず、全然わからないというのも、私は、やはりどこか組織的犯罪が行われなければ、こんなふうに逃げおおせることはできないだろうというように思います。  まさに私は、この犯人隠避、蔵匿、こういったものに徹底的な捜査のメスあるいは刑のメスというものをいただきたいと思いますので、刑事局長、このことについてはまたお考えをいただきたいというように思います。  最後の質問になりました。大臣にお伺いいたします。  いよいよ川口市の市長、岡村幸四郎さん、私は早稲田大学の法学部の同期でございます、同級生であります。彼が、とにかく川口市にオウムのアジトがまたできる、私のところにきのうも陳情に来られました。この法案が成立した場合、こうしたオウム真理教の事件等の組織犯罪対策に実際上どのような効果があるか、法務大臣、この覚悟、できた場合に本当にこの国の治安を守るということができるのか、お伺いいたします。 <0043>=陣内国務大臣= ただいまお願いしております組織的犯罪処罰法が成立した場合には、組織的な殺人等、組織的な殺人等の予備、組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等に対する刑が科罰されることとなりますので、オウム真理教による一連の犯罪のような組織的な犯罪を抑止する効果があると考えております。  もっとも、組織的な犯罪に対する抑止の効果は、刑の加重のみだけではなくて、犯罪収益についての規制のほか、通信傍受といった新たな捜査手段の整備と相まって実現されるものと考えております。 <0044>=山本(有)委員= 終わります。 <0045>=杉浦委員長= 次に、上田勇君。 <0046>=上田(勇)委員= 公明党・改革クラブの上田でございます。きょうは、議題となっております組織犯罪対策関連三法のうち、特に通信傍受の法案を中心に御質問させていただきたいというふうに思います。  まず、私たちは、近年、薬物の乱用、とりわけ薬物の青少年への蔓延や暴力団等によります薬物、銃器関連の凶悪犯罪の多発、そうしたものが国民の生命財産を脅かしておりまして、安全で健全な社会あるいは経済にも重大な影響を及ぼす事態になっているというふうに認識を持っているところでございます。幸い、我が国の社会は、アメリカあるいはヨーロッパの諸国に比べますとまだ安全であるというふうに思っておりますが、それも脅かされている、大変危機的な状況も起きつつあるというふうに認識を持っているところでございます。  私たち公明党・改革クラブとしましては、こうした事態が、むしろ国民の安心できる生活を送る権利、そういった基本的な人権を侵害しかねない状況にまで至っているのではないかということから、これまでも、薬物対策推進のキャンペーンを初め、安心できる、安全な社会の実現に向けまして積極的に取り組みをしてきているところでございます。私は、今党内でこの問題についていろいろ議論をしているところではございますけれども、国民のそうした権利を守るという立場から、今回提案されている三法案の立法の目的については基本的に理解するものでございます。  しかしながら、犯罪対策、治安維持ということを優先するが余り、国民一人一人の権利が侵害されるということは絶対あってはならないことでございます。とりわけ、今回提案されております三法案のうちの通信傍受法案につきましては、通信の傍受というのが薬物事件等の捜査にとって有効な手段であるということはこれまでいろいろな議論の中で理解するものでありますが、これはやはり、個人のプライバシー、通信の秘密を侵害するおそれのあるものでありまして、慎重の上にも慎重を期した審議が必要であるというふうに考えておるところでございます。  そこで、本日は、この法案に対する審議の再開に当たりまして、この通信傍受法案に関する疑問点につきまして、何点かにわたりまして質問をさせていただきたいというふうに考えているところでございます。  まず、非常に大きな話から入らせていただきますが、通信傍受と憲法との関係につきまして、大臣に見解を伺いたいと思います。  憲法第二十一条には「通信の秘密は、これを侵してはならない。」というふうに規定されておりますし、憲法の第三十五条にも令状主義が定められているところでございます。この通信傍受法案自体が憲法の第二十一条あるいは三十五条の趣旨に反するという意見も多くの識者から述べられているところでございますが、この点につきましての大臣の見解をまずお伺いしたいと思います。 <0047>=陣内国務大臣= 憲法第二十一条の第二項は通信の秘密を保障しており、これについては最大限尊重すべきものであるということは申し上げるまでもございません。しかし、憲法が保障する各種の基本的人権は、それぞれに関する条文が制限の可能性を明示していると否とにかかわらず、憲法第十二条、第十三条の規定からして、その濫用が禁止され、公共の福祉の制限のもとに立つものでありまして、絶対無制限のものではないことは最高裁の判例においても明らかにされているところでございます。  通信の秘密の保障も、公共の福祉の要請に基づきまして必要最小限の範囲でその制約が許され、通信の傍受も、犯罪捜査という公共の福祉の要請に基づきまして必要最小限の範囲でこれを行うことは許されるものと考えております。本法案においては、第三条の厳格な要件によるものとするなど、必要やむを得ない範囲に限定することとしております。  また、憲法第三十五条は捜索・差し押さえに関する令状主義を定めたものでございますが、本法案においては、第三条に定める厳格な要件を満たす場合に、裁判官の発する、傍受すべき通信及び傍受の実施の対象とする通信手段を明示する令状によって通信の傍受を行い得るとするものであることから、憲法の令状主義の趣旨に沿うものであると考えております。 <0048>=上田(勇)委員= 私も、通信の秘密というのが無制限に認められるものであるというふうには考えておりませんが、今大臣の答弁にもありましたように、これは公共の福祉の目的のために必要最小限に限ってそれを侵害することが認められるんだということだというふうに思います。  そこで、今回の提出されている法案が、犯罪捜査、犯罪防止という観点と、それから憲法で定められている通信の秘密という意味から、本当に必要最小限のものであるかということが一つ重要なことであるというふうに考えているわけでございます。  もちろん、そうした点、この審議を通じましてさらに明らかにしていきたいというふうに考えているところでございますが、きょうはちょっと、実は、通信の傍受というのは、今回この法案によって初めて捜査の手法として導入されるわけではなくて、これまでも検証令状によります電話の傍受が実施された事例がございます。これは、法務省からいただいた資料によると、これまで五つの事例があるというふうに書いてございます。  それで、これまでこうした検証許可状に基づいて行われた五つの事例、これは平成三年以降行われているというふうに承知しておりますが、これらの事案について何点かお伺いをしていきたいと思います。  ここに五つ事例があるんですが、この傍受の対象となった犯罪というのはどういう形態のものであったのか、そこをまず御答弁いただきたいと思います。 <0049>=松尾政府委員= 検証令状により通信を傍受した実例は、平成三年から平成八年にかけまして、御指摘のとおり五例ございます。罪名といたしましては、覚せい剤の営利目的譲渡にかかわる覚せい剤取締法違反または麻薬特例法違反、いずれも薬物事犯ということになります。 <0050>=上田(勇)委員= それでは、これらの五つの事例につきまして、令状の請求者、検察官であったのか、警察官であったのか、また、それぞれどのレベルの者であったのか。また、この検証令状はどのレベルの裁判所に請求をされたのか。その辺の事実関係についてお答えいただければと思います。 <0051>=松尾政府委員= まず、令状の請求者でございますが、五例のうち、階級でいいますと警部が三名それから警視が二名、いずれも警察官が請求者になっております。それから、令状発付した者でございますが、五例とも簡易裁判所裁判官でございました。 <0052>=上田(勇)委員= また、これらの事例を見ておりますと、必ずNTTの職員または地方公共団体の職員を立会人として指定しておりますけれども、立会人を立ち会わせる趣旨については、どういう趣旨であるのかお伺いをいたします。 <0053>=松尾政府委員= 裁判官がこの令状を発付するに当たりまして、御指摘のとおり第三者の立ち会いを条件にしております。裁判官の判断としては、傍受の実施手続の公正を担保するために立会人が要るだろうということで判断されたのだろうと思います。  実際に立ち会った者でございますが、いずれも消防署職員等の地方公務員であったと聞いております。 <0054>=上田(勇)委員= 今のお答えにもちょっとありましたが、この経緯を読みますと、いずれもNTTの職員が立ち会いを拒否した。したがって、そのかわりに消防署の職員をもってこれにかえているというケース、五つの事例ともそういう経緯になっております。  もちろん裁判所としては、通信の機器であるとか、また通信実務に最も詳しいNTTの職員が立会人として最もふさわしいだろうという前提のもとにNTT職員を当初指定したというふうに思いますが、NTTの職員がいずれの場合もその立ち会いを拒否したために、そのかわる者として地方公務員がなっているわけであります。  NTTの職員がその立ち会いを拒否した理由というのはどういうものであったというふうに御理解されているんでしょうか。 <0055>=松尾政府委員= 五件の事案とも、立ち会いを要請されたNTTの職員は、いずれもこれを拒否している点は御指摘のとおりでございます。  理由は二つあると承知しております。そのうちの一つは、法律上立ち会い義務がないということをNTT側は言っておりました。それから二番目は、通信の秘密を守るべき事業者として、その立場から考えますと、こういったことに対してはより慎重な対応をするという考えから、立ち会い要請には応じるべきではないという判断になったというふうに承知しております。 <0056>=上田(勇)委員= また、これらの検証許可の条件としては、こうした立会人にいわゆる切断権と言われているものが認められているわけであります。つまり、捜査官が傍受している内容が令状に定められている捜査とは関係がない場合などにはその傍受を中断させることができるということでございますけれども、そうしたいわゆる切断権を認めた理由、並びに切断権がこれらの五つのケースの中におきまして実行された事例というのがあるのかどうか、その辺をお伺いしたいというふうに思います。 <0057>=松尾政府委員= まず、通信傍受に関する検証令状において、その対象外の通信については立会人にスイッチを切断させるということにした令状になっておりますが、通信の秘密等に対する制約を必要最小限度のものにする必要があるという判断に立ち、切断をさせることにしたものだろうと思います。  実際にその五例を調べてみますと、立会人の手で傍受のときにスイッチを切ったことがある例が、五例のうち三例ございます。あとの二例はそういう切断の事実がないということになります。  もう少し付加して申し上げますと、今回の五例とも、先ほど申し上げましたように、いずれも覚せい剤の密売に用いられていた電話がその傍受の対象電話でございました。傍受すべき通信も、覚せい剤の購入客からの購入申し込み、あるいはこれに対応すると認められる覚せい剤取引に関する指示、連絡などがその傍受内容でございまして、内容が非常にわかりやすく、かつ限定されているということで、通信内容の判断も容易と思われることから、現実に五例のうち三例で切断があるわけでございますが、こうした第三者である立会人による切断が可能と考えられたものと思います。 <0058>=上田(勇)委員= もちろん、検証令状による傍受においても、犯罪と関係ないものは傍受してはならないわけであります。今の御答弁だと、わかりやすいから、立会人、これは消防署の職員でありますので、多分極めて明白な事態でなければそうした判断はできなかったのだというふうに思いますが、にもかかわらず、それは捜査官が傍受をしようとしたのであるから切断ということになったのだと思うのです。その辺は、捜査官においては、必要最小限に限って傍受できるのだということが徹底されていなかったというところが問題であり、やはり第三者の立ち会いが必ず必要なんだというような印象を今受けた次第でございます。  それではもう一つ、今ずっと検証令状に基づく傍受の中身について伺ったのですが、この五例の傍受を行った結果といたしまして、犯罪の摘発や証拠の収集にどのように傍受の結果が役に立ったのか、ひとつ具体的に御説明をお願いしたいと思います。 <0059>=松尾政府委員= ただいまの五例の検証令状に基づき行われた電話の傍受でございますが、通話内容の傍受、録音が端緒になりまして、覚せい剤の取引が行われることやその取引の場所が判明したことから、捜査官がその現場におきまして覚せい剤の譲り受け人を覚せい剤取締法違反により現行犯逮捕するとともに、引き続き、覚せい剤の譲り渡し人も覚せい剤の譲り渡しの容疑で緊急逮捕することができたという例が含まれております。検証令状による通信傍受が犯人の検挙やあるいはその真相の解明に効果を上げたものと考えております。  しかし、これらの通信傍受のみでは、必ずしも、組織の全容を解明したりあるいは真に責任を負う首謀者を検挙し得ない例もあるところでございまして、さらに通信傍受を行うことができる範囲を拡大する必要性も高いものと私どもは考えております。 <0060>=上田(勇)委員= これまでいわゆる検証令状に基づいて行われました通信傍受の中身について御質問させていただきました。これはやはり、これからの通信傍受のあり方、その適正さを確保する意味では、今まで行ってきたものについて検証をして、どういう問題点があったのか、それを明らかにしていくことが重要であるという意味で御質問させていただいたわけでありますが、これも踏まえまして、次に、法案の内容の方について順次質問をさせていただきたいと思います。  まず、第三条の傍受令状の条文について御質問をいたします。  この第三条で通信傍受の対象となる犯罪、これは別表で整理をしておりますが、今ずっとこのやりとりを通じまして、これまで検証令状に基づいて行われた傍受というのはいずれも覚せい剤などの薬物犯罪に限られていたわけでございます。しかもそれは、薬物事件の取引そのものが電話によって行われている、そこの場を検証するという非常に限定的なところで行われていたのですが、今回はその対象が、第三条の別表によりますと、かなり広がっているわけでございます。これまで非常に限定的に行われていたものが、今回御提案されている法案では非常に広がっている。その第三条の別表の罪、これらを選んだ理由をまず御説明いただきたいと思います。 <0061>=陣内国務大臣= ただいま委員から御指摘になっておりましたように、これまでの事例は、刑事訴訟法が定める検証許可状に基づいて電話の傍受を行ってきたわけでございますけれども、いずれも覚せい剤の密売に用いられているものについてでございました。そのような場合以外につきましては検証許可状によってどの程度傍受が可能かは、検証の手続において傍受を想定した実施の手続や関係者の権利保護の規定等が整備されていないために困難な問題でございます。  これまでのような範囲にとどまる傍受の場合は、薬物の継続した密売に現に従事している者の検挙には有効でありましても、その背後にある首謀者の特定、検挙など全体の解明や、密輸あるいは銃器の不正取引などのように必ずしも継続して行われるものでない犯罪の捜査については、その効果を上げることは大変困難だと考えております。  このような点にかんがみまして、組織的な犯罪対策という本法案の趣旨等を考慮いたしまして、組織的に行われる可能性、犯罪の重大性、通信傍受の有用性などを考慮いたしまして、本法案の別表記載の罪を対象犯罪に選んだものでございます。 <0062>=上田(勇)委員= 今、包括的な形での御説明がありましたけれども、この別表を見てみますと、刑法の罪のほかそれぞれの個別法によります罪が記載されているわけでありますけれども、その中の多くの、例えば、これまでも検証令状で対象となっていた薬物であるとか銃器といったものは一定の理解ができるものでございます。これは、暴力団などのそういう犯罪集団が特異な行動の中で行われる犯罪であるというふうに思いますし、一般市民がその対象になり得るということは考えにくいことでありますので、そこについては、特に最近の薬物あるいは銃器関連事件の多発を見るときに一定の理解ができるわけでございます。また、その他の犯罪は、これは本当に適当なのかどうかというのはこれからまだ議論をしていかなければいけませんが、いわゆる直接的に人の生命に危害が及ぶような犯罪といったものもそこに含まれています。  ただ、ちょっとここで一つ、私として異質に感じますのが、この別表の中で出入国管理及び難民認定法というのも対象になっております。これはその中の集団密航を対象犯罪としているわけでありますが、これは非常に緊急な、生命に及ぶような危害があるという性質のものではないというふうに思いますし、それが薬物や銃器といった犯罪とも性質が若干異なるものだというふうに思うわけでございます。  そこで、この集団密航、とりわけその中でも三つの条文が対象になっているわけでありますが、これらを傍受対象の犯罪として位置づけた理由を御説明いただきたいと思います。     〔委員長退席、橘委員長代理着席〕 <0063>=松尾政府委員= ただいまの犯罪でございますが、集団密航に関する罪というのは、蛇頭を初めとする外国人犯罪組織あるいはそれに呼応した我が国の暴力団等が反復して行うことが多い、非常に密行性の強い犯罪でございます。我が国の社会経済に与える影響も大変大きいものと考えております。  また、これらの事件においては、我が国及び外国の犯罪組織の間、あるいは密航船と陸との間といいますか、そういう暴力団組織等の間の連絡等にまず電話が利用されます。例えば、先ほど山本委員の質問の中にもございましたが、高知沖で外国船と我が国の船舶がドッキングいたしまして、密航者が乗り移って我が国の港に上陸するという場合を想定いたしましても、いついかなるポイントでということは電話で連絡します。また、変更する場合も逐次携帯電話、固定電話等が利用されながら移動していくということでございます。そうした、電話を基本的には利用していく、またあるいは利用されることが非常に多い犯罪という特徴がございます。  密航の事実をこうして的確に把握して、組織の中枢を含む多数の関係者を的確に検挙するためには、傍受を行うことが有効かつ必要不可欠と考えるので、この七号に規定させていただいたわけでございます。 <0064>=上田(勇)委員= この集団密航対策としては、これまでも出入国管理法の改正が順次行われてまいりました。まさに集団密航罪というのはそのときに創設された罪なわけでありますけれども、確かに、今お話を伺いますと、国内におけるいろいろな連絡に電話などの通信手段が使われているということはよくわかりますし、特に水際での摘発を行うためには、我が国は海岸線が非常に長いものですから、多分上陸地点を的確に押さえる必要があるということはよくわかります。  そこで、ちょっとこの中身でまたお伺いしたいんですが、この出入国管理法の「集団密航者を不法入国させる行為」というのは今の御説明でわかりますし、「集団密航者の輸送」というのもこれは我が国の海岸線の輸送だというのがわかるんですが、では「集団密航者の収受等」について、これは基本的には、入ってきてしまった後のことであるんですけれども、それについても、今の御説明で、ちょっと傍受の対象としてどうしても必要なのかどうか、これは必要最小限にとどめるという意味ではそこはどういうふうにお考えなんでしょうか。 <0065>=松尾政府委員= 集団密航事案を一連の行為として考えてみますと、まず、対象の密航者の住んでおります国と我が国との間の国際電話から始まります。それで、先ほど申し上げましたような密航の手はずが整いまして、沖合でドッキングして我が国の船舶に移される。それから、港にいたしましても、予定していた港の下調べをしたところどうも警察官がいるということになると、急遽変わります。こういった上陸地点の変更も電話でされる。  問題はその後でございますが、例えば運搬手段としてよくマイクロバスなりレンタカーが使われることがあります。それが実は警察等に察知されまして動きがとれないといった場合には、急遽トラック等が手配されてそれでやるとか、あるいはその手配が間に合わなくて町の中に分散していて、町の人から変な人がいるということで通報して検挙されるケースもあります。  その後は、それぞれの引き取り先に、宿舎なりあるいは場合によると倉庫みたいなところが多いわけでございますが、そういったところで我が国の手配師、あるいは蛇頭の人もそれに加わりますが、それが密航者の引き渡しを受けるということもあります。その際にも、ただいまどこの地点にいるのか、あるいは急遽上陸地点が変更したので到着時刻はいつになるのかということも含めまして、収受される先につきましてもやはり電話等による連絡が周到になされるというのが実態でございます。  したがいまして、この集団密航事案につきましては、計画段階からそれが実際に日本に入って定着をするというところまでの一連の行為を正確に把握いたしませんと、組織全体あるいは行為の全体の解明が非常に難しい、あるいはそれに応じた手当てができないということになりますので、この七号には、そうした収受まで含めまして一連の行為が全部規定されているということになります。 <0066>=上田(勇)委員= もちろん捜査の有効性という意味では、国内に入ってからもそういった通信を傍受することが有効なんだということはよくわかります。  ただ、冒頭申し上げましたように、これは捜査の有効性だけではなくて、それはやはり必要最小限でやるということが要件なんだというふうに思います。その意味で、どうも国内に入ってからのそういう通信を傍受した場合に、必ずしも蛇頭あるいはそれを受け入れる暴力団関係間の通信だけではなくて、その他まで広がってしまうのではないのかなという疑念も持っているところでございます。  その辺はさらに検討させていただきたいと考えておるわけでありますが、もう一つ、もちろんこういう個別の法律がずっと対象犯罪として書かれていると同時に、一番最初に刑法の罪が書かれております。内乱、外患に始まりまして、殺人、逮捕・監禁、その他たくさんの罪が対象犯罪として書かれておるんですが、これらの犯罪は、基本的には個人が犯すということを前提とした犯罪でありますが、法案では、それは数人の共謀であるということが一つの要件となっております。  しかし、どうもそれだけでは、今度の法案の趣旨を見ますと、暴力団等の組織による犯罪だけに限定され得るのかどうか。その辺、ここに書かれている犯罪、いずれも重大な犯罪でありまして、これを取り締まり、それから捜査には徹底して最善を尽くさなければいけないというのは疑いのないことでありますが、先ほども申し上げました、本当に最小限という限りにおいて認めるという中において、これらの罪を対象に加えることは、この法案の趣旨を逸脱しているのではないのかなというふうに考えますけれども、その辺についての御見解を伺いたいと思います。 <0067>=松尾政府委員= お尋ねの御懸念というのは、私もよくわかるところでございます。対象犯罪について、組織犯罪対策という観点からは、組織的な犯罪であるということを要件にすべきではないのかというような議論があることも承知しているところでございます。  しかし、この法案におきましては、これから申し上げるような理由で、組織的な犯罪というのを要件とせずに、数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況ということを要件としております。  理由としてはいろいろございますが、一つには、組織的な犯罪、こう言いましても、さまざまな形態のものがございます。組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、先ほど御議論いただきましたが、この法律案における組織的な犯罪の要件である、団体の活動として、当該罪にかかわる行為を実行するための組織により行われたということも確かに一つの形態でございます。これは刑の加重が相当か否かという観点から定めたものでございます。  それ以外にも、例えば、団体の、組織によるものではございませんが、多人数が計画的に役割分担を定めて、組織的な形態で実行する犯罪もまた多く現実にはございます。また、これら事案を解明するという捜査の過程におきまして、共犯関係や背後関係が必ずしも当初から明らかになっていないケースもまたよくあることでございます。そのような場合に通信の傍受を許さないということといたしますと、組織的な犯罪に対処するための有効な手段にはなり得ないのではないかと懸念するところでございます。  二番目には、傍受の対象犯罪は、組織的な犯罪として行われることが多い、あるいは組織的に行われることが現実に想定されるものを選択したものであります。また、他の方法によって、犯人を特定し、または犯行の状況もしくは内容が明らかにならないというような、いわば補充性と我々は言っておりますが、そうしたこともまた電話傍受の要件としておるわけでございます。  そうしたことからも、当初から組織的な犯罪に限定するということは、捜査の現実の発展段階から考えますと、捜査の実情には必ずしもそぐわないということでございまして、ここでは、数人の共謀によるものという疑いがあると足りるということを要件といたしまして電話傍受を行う、その過程の中で組織性が明らかになっていくということを想定しているものでございます。 <0068>=上田(勇)委員= この法案、三法案とも、俗に組織犯罪対策と言われておるのですけれども、また提案理由の説明でも、やはり暴力団などのそういう組織的な形態で行われる犯罪に対する捜査として必要なんだ、したがって、基本的には通信の秘密というのは尊重されなければならないのだけれども、今の社会の情勢を考えたときに、そういった暴力団などの組織による犯罪については、例外的にこういった捜査手法を認めようという趣旨に解されるのですが、どうも、今の御説明だと、それはその捜査の過程の中で明らかになっていくものだというのでは、少しこれは対象が広がり過ぎているのではないのかという感じがいたします。  数人の共謀である、当然これは電話で連絡するわけですから、共謀とまでは言わないまでも複数人が関与しているというふうに疑われるのは当然でありまして、それだけを要件としているというのは、ちょっとその限定としては不十分なのではないのかなという感じがいたします。  今、御答弁の中で一つあったのですが、この三条の中に、傍受が認められるというのは、「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」というふうにあります。気持ちはわかるのですが、これは具体的にはどういうようなことなのか、どういう条件がそろえばこれが著しく困難であるというふうに認めることができるのか、その辺の解釈をお伺いいたします。 <0069>=松尾政府委員= この三条が要件としている、「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」ということは、傍受令状請求時点までに事案に応じて可能な限り取り調べ、捜索・差し押さえ、各種の照会等といった通信傍受以外の捜査方法によりまして捜査を行ってきましたけれども、犯人を特定し、または犯行の状況もしくは内容を明らかにするような証拠が得られず、今後も、通信の傍受以外の手段によっては、犯人を特定し、また犯行の状況もしくは内容を明らかにすることができない、または著しく困難であるというような状況を指しております。  さらに、新たな関係者の取り調べや捜索・差し押さえを実施するということも手法としてあり得るわけでございますが、そうした方法を実施したとすれば、犯人が捜査の進行を察知して、計画を変更しあるいは証拠隠滅や犯人隠避等が行われ、事案の解明が困難になる場合も想定されるわけでございまして、そうした場合には、今申し上げましたような補充性がないということでこれに当たるということになろうかと思います。 <0070>=上田(勇)委員= ちょっと今の御説明についてお伺いいたしますが、今の御説明ですと、事件があって、それについて通信傍受以外の、通常というのでしょうかの捜査手法でいろいろと捜査をする、その中でここを解明しなければいけないといったときには、どうしてもほかに方法がないので通信傍受という方法に訴えるということでありますが、そこまででも捜査が進んでいるのであれば、それは組織性があるのかないのかということは、十分その時点では判断できるのではないのでしょうか。そういう意味では、そこで要件をかけたとしても、当初の機能というのは動くのではないのでしょうか。その辺は御見解、いかがでしょうか。 <0071>=松尾政府委員= それはあくまで犯人を特定し、または犯行の状況もしくは内容を明らかにするような証拠がまだ不十分だということでございまして、御理解としては、薬物事犯を含めまして、通常の捜査で相当程度の事案の解明ができます。またその結果、相当多数の検挙事案がございます。そういった捜査が現に行われてきておるわけでございますが、それ以外に、今申し上げましたように、あらゆる従来の捜査手法を駆使いたしましても、犯人を特定し、あるいは犯行の状況もしくは内容を明らかにするような証拠が得られない事例も間々あるわけでございます。そうした場合に、他の手法では解明できないという事例も想定された場合に、通信傍受以外の手段がないということであれば、それを請求するということになります。  今の御説明でも御理解いただけると思いますが、薬物事犯、銃器事犯、あるいはその他通信傍受の法案で対象にしております犯罪につきましては、基本的には従来の通常の捜査手法を駆使して、あるいはそれを目いっぱい運用しながら対処してきたということでございまして、仮に通信傍受がこの法案が成立しまして許されることになるといたしましても、やたらとこれを多用していくということではございません。  その意味で、他の方法によって犯人を特定し、または犯行の状況もしくは内容を明らかにすることが著しく困難であるという、極めて厳しい制約をこの部分でもかけているということでございまして、ある意味では捜査の例外的な手法として使うことを想定しているということでございます。 <0072>=上田(勇)委員= そこで、同じくこの三条の一項第三号を見てみますと、こう書かれているんですね。「禁錮(こ)以上の刑が定められている罪が別表」、これは通信傍受の対象となる「罪の実行に必要な準備のために犯され、かつ、引き続き当該別表に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合において、」  今の御説明からしますと、この辺は通常の捜査で十分解明ができるので、最後の、組織性がどうしても立証できない、あるいは犯人、首謀者が特定できないといったときにのみこの通信傍受という、しかも他に方法がない場合に限って認められるということからすると、準備のために、しかもそれは禁錮以上の刑が定められている罪ですからかなり広い範囲の罪になると思いますが、その準備の段階の罪についてまで通信傍受を認めるというのは、どうも必要最小限にしていくんだという趣旨に反するような気がするのです。この項がこの法案に盛り込まれている必要性について御見解をお伺いしたいと思います。     〔橘委員長代理退席、委員長着席〕 <0073>=松尾政府委員= 具体例を念頭に置いていただきながらお聞きいただいた方が御理解が進むかと思います。  例えば、無差別大量殺人のための毒物の製造行為が行われた。これは、製造自体が犯罪になる場合もありますし、殺人の予備等に当たるわけでございます。あるいは、薬物等の密輸入の準備のために暴力団組織等が船舶の調達などをしたという情報、あるいは捜査結果そうなったということで、その後、薬物の密輸入の予備罪が犯されて、それがさらに先に実行行為に移されていくということが十分想定されるというような事案を考えますと、これは、既に行われた犯罪、そういう意味では、今の無差別大量殺人のための毒物の製造あるいは密輸入のための船舶の調達等、これが既に行われた犯罪ということになるわけでございます。  それから、これから行われる犯罪行為、前者でいえば大量殺人、後者でいえば薬物等の密輸入等の実行、こういうことになろうかと思いますが、これから行われる犯罪と既に行われた犯罪の双方に共通して通信が証拠となる関係があるような場合、換言しますと、これらの犯罪行為が社会的に見れば一個の犯罪現象と認められる関係にある場合に、既に行われた犯罪とこれから行われる犯罪から成る一連の犯罪行為全体を傍受の対象として令状審査を経なければならないというものがこの三条一項三号、いわゆる準備のための傍受とも言われておりますが、その必要性ということになろうかと思います。  こうした一連の犯罪行為と認められるものでございますから、これら犯罪行為全体を傍受し、証拠を保全する必要がある、また傍受対象として令状審査を経ることとするのが令状主義の本旨にものっとるものというふうに考えております。 <0074>=上田(勇)委員= 今回のこの通信傍受法案については、御承知のとおり、大変な反対論も強くあります。この委員会で参考人の有識者の方々に御意見を述べていただいたときにも、慎重あるいは反対という立場を表明された方もたくさんおられました。  これは、皆さんが、また多くの国民は、今の暴力団関係の事件、とりわけそういう薬物であるとか銃器であるとか、そういった事件について取り締まりを強化する、捜査を厳密に行っていく、そのことによってそういう犯罪の防止、摘発を進めていくということについて異論があるわけではありませんし、その限りにおいて、いろいろな手段、この通信傍受についても限定的にはやむを得ないというふうな意見が強いのではないかと思うのです。  要は、なぜそれほど反対論が強いかといえば、いろいろ御説明を伺っていますと、やはりこれは捜査の有効性、捜査上これがあるともっと有効な捜査ができるという視点がどうも優先されておるのであって、本当にそれが、通信の秘密あるいはプライバシーの保護という観点から、必要最小限、もうこれしかないといったものに限定されているのかどうかといったところについて疑問が感じられているからだというふうに思います。  私も、今の質疑を通じまして全くそういうような印象を受けたわけでありまして、これから我々も党内におきまして、こうした今質疑が行われました対象犯罪、これはどこまでが必要最小限として認められるのか、あるいはこの法案に示されているそれに対するいろいろな要件、そういったものが、必要最小限といったことを担保する意味から本当に十分なものとして機能しているのかどうか、その辺の検討をしていきたいと思っております。同時に、この委員会におきましても、そうした点、さらに明らかにしていきたいというふうに考えている次第でございます。  それで、今度はちょっと別のところに移らせていただきます。  先ほど、検証令状による傍受について、立会人のことについて何点かお伺いをいたしましたが、この法案でも、第十二条におきまして、検証令状で求められているのと同じような形で、通信事業者またはこれにかわるべき者あるいは地方公共団体の職員を立ち会わせなければならないというふうになっているわけでありますが、ここで、検証令状の傍受の際には、NTTの職員が立ち会いを拒否している、五例ともそうでございました。  しかし、ここで書いてある十二条というのは、「通信手段の傍受の実施をする部分を管理する者又はこれに代わるべき者」ということですから、これは当然NTT等の通信事業者の職員を想定しているものだというふうに理解できるのですが、これまで、いろいろな理由で、法律上の立ち会い義務がない、あるいは通信事業者としての通信の秘密を守るべき義務という観点から、五例ともすべて立ち会いを拒否しているのにもかかわらず、今回この法案で、やはり同じような資格の者を立ち会わせるというようなことは、これは通信事業者の方で果たして了解は得られるのでしょうか。その辺の御見解をお伺いしたいと思います。 <0075>=松尾政府委員= 先ほど、五例の検証許可状による電話傍受の際には、確かにNTT側は立ち会いを断ってきたわけでございますが、その理由は、法律上立ち会いの義務がないということを前提としておりました。あるいは、通信の秘密を守るべき事業者としての立場から慎重に対応したという御説明でございました。  本法案が成立しまして、立ち会いの法的根拠が明確になった場合には、そうしたNTT等の職員も本法案に沿った対応をしていただけるものと考えております。 <0076>=上田(勇)委員= 先ほど、この検証令状による傍受に当たって立ち会いを義務づけた理由について御説明をいただいたのですが、五つのうち三例においては、立会人の判断によって切断が行われた。それが可能であったのは、比較的わかりやすい事件であったから、それが令状に記載されている事件に関係しているものなのかどうかが判断しやすかったということでございました。  そうすると、今回はその対象がかなり広がっております。立会人としての判断もより難しくなっているのではないかというふうに思うのですが、それでは、これらのケースにおいて立会人の常時立ち会いを義務づけている理由はどういうところにあるのでしょうか。 <0077>=松尾政府委員= 基本的には、やはり電話傍受の公正さの担保という点では、検証令状の際に立ち会いを要求した趣旨と同様だと思っております。確かに、今回の場合はより複雑な事案というものも傍受の対象となっているわけでございますが、その点では、立会人の必要性、あるいは、検証許可令状の場合には、立会人にスイッチを渡しまして、切断するかどうかの判断もゆだねたということになるわけでございますが、本法案のいろいろな事態を想定いたしますと、検証令状の五例とは大分また事態が違うことも想定されるかと思います。そうしたこともありまして、まず、立会人につきましてどの程度のことをお願いするのかということもまた変わってこようかと思います。  それで、本法案の場合には、立会人にその内容を聞かせて切断権を与えるというようなところまでは想定していないわけでございます。それは二つの理由がございまして、一つは、立会人に事件の詳細について説明すると、かえって関係者のプライバシー保護の上で問題があるということも考えられる。立会人は通信の内容についてまでは関知しない方が適当ではないかという判断。あるいは、捜査対象の事件について細部にわたり把握していない立会人には、それを十分に説明するということもいかがなものかということもありまして、その関連性の判断がなかなか難しいということも想定されるわけでございます。  そのようなことで、切断のスイッチは持っていただかないことにしたということでございます。 <0078>=上田(勇)委員= ちょっと今の点についてまた後で質問させていただきますが、その前に、第十二条二項で、「立会人を常時立ち会わせることができないやむを得ない事情があるときは、」というのがございます。ただし、それは全く必要としないというわけではなくて、要所要所で立ち会わせれば済むのだということなのだというふうに思いますが、この「やむを得ない事情」というのはどういう場合なのかというのが非常に重要な点だと思います。  というのは、やむを得ないというのは非常に主観的な面もございます。これが拡大解釈されますと、まさにこの立ち会いという条文が空文化してしまう。逆に言えば、立ち会いを拒否されたからこれはやむを得なかったのだというようなことにもなりかねないわけであります。そういう意味では、「やむを得ない事情」というのは、本当の意味で、傍受を実施する事前には全く想定されなかった、しかも緊急なことであって、なおかつそのときにどうしても傍受を中断することができなかったというようなときに限られるのではないかというふうに思うわけでありますが、その辺、「やむを得ない事情」というのはどの程度のことを想定されているのか、これはやはり厳しく規定すべきだと思いますけれども、お考えを伺いたいと思います。 <0079>=松尾政府委員= お尋ねの点ですが、まず、原則は常時立ち会いでございます。これが第十二条一項に明確に規定されております。通信事業者が立ち会えない場合は地方公共団体の職員を立ち会わせるということで、常時立ち会いの可能性というものを非常に広げているというふうにまず御理解いただきたいと思います。  それで、二項に、「やむを得ない事情があるときは、その事情がある間に限り、立会人を立ち会わせることを要しない。」と確かにあります。ただ、これもただし書きがありまして、傍受の実施の開始の時期、中断の時期及び終了の時期、並びに傍受をした通信を記録する媒体の交換の際は立ち会わなければいけないということで、さらにそれも狭い枠で限定しているということでございます。  それでは、具体的にどういう場合が「立ち会わせることができないやむを得ない事情」かということですが、この法案立案の過程でも、通信事業者とさまざまな話し合いをしました。また、通信事業者が不可能な場合には地方公共団体の職員ということで、そういった関係者とも話をしたわけでございますが、一部の時間帯につきましては、業務の都合等のために、どうしても立会人として人員を確保することができないこともまれには考えられますということでございました。そのような場合には、「立会人を常時立ち会わせることができないやむを得ない事情」があるということも、例外的な事情としては考えられますので、その手当てをしたということでございます。 <0080>=上田(勇)委員= やむを得ないというのは非常に主観的な判断でありまして、幅も人によって違うのではないかということが予想されます。ですから、ここはやはり極めて例外的なことであるというふうに限定する必要があるのと同時に、そこまで言うのであれば、これは例外的にやむを得ない事情というのを設けるほどのことはないのではないのかな。  多分、今までの検証令状による傍受に際しては、やむを得ない事情によって立会人がいないということは認めていなかったことだというふうに思いますし、今の御説明では、常時立ち会いが原則であるので、それができるような準備は事前にはするのだ、にもかかわらず、事後発生的に、緊急なことでどうしても立ち会えないという場合がある、それはあってはならないのだけれども、そういうことを法律上は想定せざるを得ないので書いたのだということであります。  そうであれば、立会人がそうした本当によんどころのない、万が一の事情で立ち会えないという場合、なおかつ、そのかわりの者が来れないという場合においては、やはり通信傍受を最小限にとどめるという意味からも、その間は、ごく短時間であろうと思いますので、通信の傍受を中断することも考えられるのではないかというふうに思うわけであります。  それでもう一つ、立会人の方が、傍受の公正さを確保するという意味から立ち会いが義務づけられているということでありますが、今実際傍受されている内容が令状に示されている内容かどうか、それを判断した上で切断するどうのこうの、そういう権限は与えられていないということでございます。もちろんそれは私もよくわかります。NTTの職員の方あるいは消防署の職員の方で、複雑な事件の背景等について、当然同じ人がずっと、四六時中立ち会っているわけでもないでしょうし、その都度その都度、それを適切に判断できる、またそういう判断を立会人に負わせるということについての限界というのは一定の理解ができるのでありますけれども、そうであったとすると、では、この立会人というのは何か気休めにそこにいるだけの役割になってしまうのではないかというふうに思うわけであります。  本当に公正さを担保するということからすると、この立会人の人が、通信事業者あるいは地方公務員、これは消防署の職員の方が立ち会われるということでありますが、そうではなくて、もっと令状あるいはその犯罪の内容についても判断ができる方を立会人とするような要件を加えるべきという考え方もあるというふうに思うのですが、その点についてはいかがでしょうか。 <0081>=松尾政府委員= 通信事業者に立ち会いをお願いしているということになるわけでございますけれども、内容は確かに、その判断にゆだねるということは適当でないということで除外してありますが、例えば、傍受のための機器というものが考えられるわけでございますが、通信手段あるいはその接続手段、これが令状により許可されたことに間違いないか否かというのは、専門家に見ていただく必要もあるわけでございます。  それから、令状により傍受が許された期間または時間が厳守されているかということなど外形的な事項につきましては、むしろ通信の専門家であります事業者等がチェックをすることができると考えておりまして、そういった意味からも、通信の当事者の権利保護の観点、あわせて考えれば、通信事業者等の立ち会いをするのが適当という判断でございます。そんなことから、立ち会いということの意味は、検証の五件の場合に要請されたものとまた意味合いが変わってきているわけでございます。  一点だけその点について付随して申し上げておきますと、検証許可令状で行った五例の場合は期間が非常に短いわけでございますが、本法案が想定しておりますのは原則十日間、場合によりますと、二回更新を考えれば最長で三十日ということになります。傍受する内容が犯罪行為等でございますから、したがいまして、昼間だけ傍受するということも場合によるとあると思いますが、原則としては二十四時間傍受が必要な場合が多いのではないかと想定されるところでございます。そういったこともありますので、検証許可令状のときにずっと立会人がいたケースを必ずしも前提に想定し得ないということにもなろうかと思います。 <0082>=上田(勇)委員= ただ、検証許可令状による傍受においては、これは非常に慎重の上にも慎重を期して、立会人は常時立ち会い、なおかつ関係のない通信の傍受が行われた場合にはそれを切断する権利まで与えられているわけでありまして、捜査機関による令状の範囲を逸脱した通信の傍受というのは、やはり裁判所の判断としてそれだけ厳しく限定されているというふうに理解しております。  しかもそれは、いわゆる覚せい剤の密売事件という事案についてそういうような制限が加えられているわけでありますが、今回は、より事件も複雑、多分通信を傍受される対象の人間というのも、覚せい剤の売り手と買い手という関係だけじゃなくて、よりその関係も複雑、会話の内容も難しいものになってくるのではないかと思うのです。にもかかわらず、今まで捜査機関によるそういう公正でない傍受が行われることがないように担保してきた規定というのは、やはり今回の方がむしろ今まで以上に厳しくその辺は規定されるべきではないのかなというふうに思うわけであります。  そういうことから、ここの立ち会いにかかわる第十二条の規定というのは、ぜひひとつ今後さらに議論をしていきたい点であるというふうに思いますので、どうかよろしくお願いをいたします。  それで、ちょっと法案上は前に戻りますけれども、令状請求の手続、第四条について若干お伺いをしたいと思います。  傍受令状の請求は、検察官または司法警察員が行うというふうに規定されているわけであります。これは、一つはやはり、通信の傍受、盗聴とも言われるわけでありまして、それが行われた場合に、それが本当に適正なのかどうかというのは、捜査機関の内部においても、どういうような判断を下したか、その責任の所在というのが非常に重要だというふうに私は思います。もちろん、令状を請求する人の責任もさることながら、捜査機関の組織としてそれを決定したというその責任が明確になる必要性があるというふうに思います。  そこで、これは検察官が令状を請求する場合それから警察官が請求する場合の両方があるので、両方にお伺いしなければならないのですが、責任の所在を明確にするために、そういった捜査機関の組織としての意思決定、そのレベルについてちょっとお伺いしたいと思うわけであります。  実は先日、米国の司法省において通信傍受がどういうふうに取り扱われているかという話をちょっとお伺いした折に、連邦として行っている傍受というのはすべてワシントンの本部で、しかもそこにおいて十人程度のいわゆる弁護士の資格を持つ人たちの合議をもって、それが適正なのかどうか決められるということでありました。もちろん、司法制度が米国の場合と日本の場合当然異なりますので、それを必ず踏襲せよということではありませんが、比較的今、いわゆる通信傍受が頻繁に捜査手段として活用されていると言われているアメリカにおいてすら、捜査機関の内部での意思決定としてはそれだけ厳しい規律が設けられているわけでございます。  その意味でぜひ、法務省それから警察の方にそれぞれ、令状を請求するときの責任の所在、いわゆる決裁権者のレベルについて今どのようなレベルを想定されているのか、御見解を伺いたいと思います。 <0083>=松尾政府委員= 電話傍受の令状を請求するということは、大変重い行為というふうに我々も認識しております。憲法に規定している通信の秘密にかかわることでございますので、その手続は慎重を期す必要があるという点は御指摘のとおりでございます。  検察庁の組織としての責任の所在を明確にするために、大臣訓令等におきまして、その検察官の所属する検察庁の長、つまり地方検察庁でありますと検事正ということになりますが、その決裁を必ず必要とするという定めをすることを考えております。 <0084>=林(則)政府委員= お尋ねの点につきましては、傍受法案におきまして、傍受令状の請求は、国家公安委員会または都道府県公安委員会が指定する警部以上の警察官から裁判官にこれをしなければならない旨規定いたしておりますことは、御案内のとおりでございます。  警察庁といたしましては、この傍受令状の請求を慎重かつ適正に行うことを担保するために、国家公安委員会規則によりまして、傍受令状の請求に当たりましては警察本部長の決裁を要する旨を規定することを考えておるところでございます。それによりまして、傍受令状の請求につきまして、警察本部長がみずから責任を負うということが明確になるものと考えております。 <0085>=上田(勇)委員= 捜査機関によって行き過ぎあるいは違法な捜査が行われたときによく出てくる議論に、それは現場の捜査官あるいは捜査員が組織の意思とは別に勝手に行ったんだというような形のことが言われることがあります。ただ、それでは組織としての、検察にしろ警察員の組織としての責任がはっきりしないので、やはりそれは今御答弁いただいたように、かなり責任の持てるハイレベルなところでの、組織としての責任を明らかにしていくんだという意味での意思決定が必要だというふうに思うわけであります。  それで、もう一つお聞きしたいことがありますが、それは、法案の十四条があります。これはどういうことかというと、これはよく別件傍受の条項だというふうなことも言われておりますが、これは、令状に基づく傍受を実施している間に、「傍受令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の犯罪であって、」その後に要件が書いてあるのですが、「実行していること又は実行することを内容とするものと明らかに認められる通信が行われたときは、当該通信の傍受をすることができる。」という規定でございます。  もちろん、これは、傍受しているときに非常に重大な犯罪にかかわる通信が話された、それをその場で切るというのは現場の捜査員としては忍びないことであるというのは当然ですし、それが極めて重大な犯罪に及ぶといった場合に、それを聞かない方がおかしいということは理解するものでございます。  ただし、この規定でいきますと、今まで、第三条を初めといたしまして、令状を請求して、それが発付されるまで非常に事細かな規定が設けられていて、その都度捜査機関の内部でも十分な検討が行われるし、さらに裁判所の判断が行われるというわけでありますが、たまたま飛び込んできてしまったものというのは、そういったチェックというのは全く行われません。  事前には難しいというのは、ある程度理解できるのですが、しかし、通常のルートでいきますと、第三条、第四条に基づいて行われるものと比べると、その辺の、裁判所によるチェックの体制が全くないというのは著しく均衡を欠くように思うのですけれども、その辺について、お考えはいかがでしょうか。 <0086>=松尾政府委員= 今想定されております事態というのは、捜査機関にとっても大変悩ましいことでございます。  傍受令状によりまして、例えば薬物事犯の関係で傍受を実施している。それで、必要な傍受を行っていたところ、その暴力団組織が別件の、例えば報復のための何らかの犯罪を計画している、あるいは殺人である場合もあろうかと思いますが、そうした内容の通信が飛び込んできたということでございます。この場合に捜査機関はどうすべきかと。  確かに、令状によります薬物事犯とは違いますから、切るべきだという議論も、それは抽象論としてはあり得るかもしれません。しかし、そうした場合には、例えば今の刑事訴訟法におきましても、現行犯の場合には、裁判所の逮捕許可状等を得ることなく、私人でも捕まえることができるということになっています。  そういったもろもろの現行法の規定、あるいはそういった犯罪について、捜査機関が仮にこういう機会に耳にして、それを聞かないようにしろということの判断が適正かどうかという問題、あるいは、それが社会に害を与えることが比較的高度の可能性がある場合にもそうなのかという疑問、そういうようなことをいろいろ勘案いたしまして、この十四条、ぎりぎりの規定になったわけでございます。  ここでは、「他の犯罪」というのは、死刑または無期もしくは長期三年以上の懲役もしくは禁錮に当たる重大な犯罪に限定をいたしております。また、傍受することができる通信は、犯罪の実行を内容とする通信であることが明白である、つまり明白性をはっきり要件としております。  このような通信につきましては、その場で保全いたしませんと、通信傍受といういわば無形の存在でございますので、保全の機会が失われます。証拠物等であれば、駆けつけていって令状をもらって、そこで押さえることも場合によっては考えられないことはありませんが、直ちに消えていくことでございますので、保全の機会という意味では、その瞬時をとらえないと保全の機会が失われるということでございます。  また、このような通信であることが明白である場合でございますから、先ほど申し上げた現行犯逮捕の場合と同様に、その傍受の可否について裁判官の判断をまつまでもない、あるいは裁判官の判断を得るような時間的余裕もないわけでございますが、裁判官の令状によらないで傍受を行うことは憲法上でも許されるものと判断し、十四条の規定をさせていただいた次第でございます。 <0087>=上田(勇)委員= これは多分、ここの部分というのは、前の十三条において、該当性判断のための傍受を行うということと関連してくるんだと思うのですが、当然、この該当性判断のための傍受というのは、通信が令状に定められている犯罪にかかわる通信であるかどうかを判断するために、例えば頭の部分だけでも聞かないとよくわからない、判断しかねるという点なんだというふうに思います。そうすると、その場で第十四条というようなことが想定されるのかどうかというのが非常に疑問に思うのですが、多分、該当する通信を聞いている間に別の犯罪に関する通信が行われたということなんだと思います。  そうすると、確かに、令状に記載されている犯罪というのは重大犯罪であって、いわゆる別件逮捕というのとは軽重のバランスが多分逆になっているのだとは思うのですけれども、ただ、非常にほかの部分について厳格な手続が設けられている。これは、この通信傍受という手段が通常の捜査方法とは違って、いわゆる傍受されている方、盗聴されている方がわからない密行性が非常に強い捜査手法であるがゆえに、それが濫用されないためのいろいろな規定が設けられているんだというふうに思うのです。  そうすると、ここは明らかであるということなんですが、明らかであるというだけではなくて、ここはぜひ、そういう意味では事後的にでも、実際にその通信が行われているときにすぐに判断しろというのは無理かもしれませんけれども、事後的であったとしても裁判所の判断を仰ぐというようなことが設けられた方が、他の第三条、第四条で行われる手続との均衡、バランスからすれば、そちらの方が適当ではないかと思うのです。そういった裁判所による事後的なチェック等については、何かお考えはございませんか。 <0088>=松尾政府委員= ただいまの御質問では、現在の刑訴法の規定の中に緊急逮捕の問題がございます。これとの比較でお話しする方が、あるいは御理解を得るのにわかりやすいかと思うのですが、緊急逮捕の場合は、裁判官による事後確認の制度というものがございます。  ただ、今回の場合の、傍受していたら別件の重大犯罪が耳に入ってきたという場合との比較で言いますと、通信の秘密ということで、そういう保護すべきものがある。緊急逮捕の場合には、人身の拘束という、やはりこれも非常に重大な人権の制約ということがありまして、なおかつこの場合に一つの特徴は、事後も比較的長期間その人身の拘束が継続するという点での重大性があるわけでございます。万一そういう緊急逮捕が違法な場合には、裁判官の判断により直ちにその是正を図る必要があるという意味で、電話傍聴の場合との大きな相違があるかと思います。  そういうことで、緊急逮捕の場合の裁判官の事後的チェックということが制度的に設けられているわけでございますが、ただ、他の犯罪の実行を内容とする通信の傍受、今お尋ねの場合は、その通信を傍受した時点で一応処分は終了しているという点で相違がありますし、他の犯罪の実行を内容とする通信の傍受というのは、令状による傍受が行われていることを前提にしているわけでございますので、万一違法があるといたしましても、そこでの不服申し立ての手続の対象とするということが事後的には可能でございまして、是正を図る方途が本法案の中にも盛り込まれているということでございます。  全体的にそういう観点から、手続の錯綜を避けるという観点もあるかと思いますが、今回の場合にはそういう事後的なチェックのシステムは設けていないということで、ぜひ御理解いただきたいと思います。 <0089>=上田(勇)委員= その場合に、これはやはり傍受令状に記載されていない犯罪でありますので、それは本当に重大かつ緊急なものでなければならないんだと思います。  十四条に、「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮に当たるもの」ということであるんですが、私は、これまでお話を伺った中で、ちょっとこれは範囲が広過ぎるのではないのかなという印象を受けます。それは、ぜひその辺を明らかにしていただく意味からも、ここで書かれている、「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮に当たるもの」というのは、具体例としてどういうものがあるのか、少し御説明をいただきたいと思います。 <0090>=松尾政府委員= ただいま御質問の、事項でございますが、手元に一覧表のようなものをお持ちすると類型ごとに申し上げることができるんですが、今たまたま手元に持ってございません。  確かに、長期三年以上ということでございますから、かなり広範囲な罪種が入ってくるということにはなろうかと思いますが、いずれにしても、通常社会で生起するような軽微な事犯といいますか、こういったものは対象としていないということでございます。 <0091>=上田(勇)委員= その辺の妥当性についても今後また論議をしていきたいというふうに考えておるわけでありますが、私は、少しここで、今、そういう手続を省略して行うという範囲において、いわゆる別件と言われているところの範囲が少し広過ぎるのではないのかなという感じをいたしておりますので、そこはちょっと意見として申し上げさせていただきたいと思います。  それで次に、この法案によりまして、検察官、警察官がこの法案の規定されている手続にのっとって必要最小限の範囲において通信傍受ができるということになるわけでありますが、一つお聞きしたいのは、では、本法案に定められている手続によらずに、いわゆる違法に傍受を行った場合、まあ、その場合は盗聴と言うんでしょう、行った場合には、そういう捜査官に対しまして何らかの罰則あるいはペナルティーというのは定められているんでしょうか。 <0092>=松尾政府委員= ただいまのお尋ねの場合には、既存の電気通信事業法、または有線電気通信法の通信の秘密を侵す罪が成立することになります。有線電気通信法の方は、懲役一年以下または二十万円以下の罰金でございます。電気通信事業法の方は懲役一年以下、三十万円以下の罰金、こういうことになっております。 <0093>=上田(勇)委員= 今、電気通信事業法、有線電気通信法によるところの通信の秘密の侵害罪について、これは、一般的な規定と同時に、通信事業者については刑の加重が定められております。およそ倍の刑が定められておるんですが、実はそれは公務員には適用されないわけでありまして、捜査でやる場合には当然手続にのっとってやるということなんでしょうが、それの関連、あるいは一部逸脱して行った場合には、ごく一般の人たちと同じような取り扱いしか受けないわけであります。  これは多分、法務省の所管ではないので、お答えというよりも、ちょっと私の意見として述べさせていただきますが、当然のことながら、今両法で定められている罰則自体が私は軽過ぎると思いますし、同時に、やはり公務員については加重規定が必要なのではないのかなというふうに考えるわけであります。  持ち時間が残り少なくなってまいりまして、この法案だけでもまだ明らかにしていかなければいけない点がたくさんあるんですが、要は、この法案について、冒頭の方でも申し上げましたけれども、犯罪捜査にとって有効であるのはよくわかるんですが、その濫用によって個人の権利、プライバシーなどが侵害されてはならないわけであります。今、世論としてこれに対する非常に反対あるいは慎重な意見が強いというのは、残念ながら、今まで国民が我が国の検察、警察、捜査当局に対する信頼感に問題があるんだというふうに思います。  今までいろいろと、個別のことを挙げるわけではございませんが、そういった盗聴絡みの事件などについても報告がされているわけでありまして、その辺について、実は事態の解明も十分ではないし、再発防止についても必ずしも国民が納得しているというような事態に至っていないのではないか。そういったことが、捜査機関に対する国民からの信用が不十分であり、だからこそ、この法案を見てみますと、極めて手続も厳格に行われておりますし、厳正な手続のように決められておりますけれども、なおかつ、そこが信頼できないというところに、非常に残念なところがあるのではないかというふうに思うわけであります。  しかし、国民の意思というのは非常に重要なわけでございまして、国民が十分納得するような、さらに一層厳格な内容に我々として改めていかなければいけないというふうに思うわけであります。同時に、残念ながら、これまで国民の信頼が十分ではなかったということが明らかになったわけでありますので、検察、警察においても、今後ひとつ国民の信頼を得られるような御努力を期待申し上げまして、時間になりましたので、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。 <0094>=杉浦委員長= 次に、達増拓也君。 <0095>=達増委員= 我が自由党は、党の基本政策を、「日本再興へのシナリオ」という形で公にしております。その「日本再興へのシナリオ」の中に、国際的犯罪、また組織的犯罪に対抗する法整備、これを明記してございます。いわば、公党としての約束として、かかる犯罪に対処するための法整備を訴えているわけでありまして、その観点から、ただいま審議されております組織犯罪関連法案の早期の成立、これを目指していきたいと考えております。  なお、自由党が「日本再興へのシナリオ」に国際的犯罪や組織的犯罪に対抗する法整備を入れたのに当たりましては、新進党の同様の基本政策であります「日本再構築宣言」、これも公にされておりますが、新進党の基本政策である「日本再構築宣言」の中にそのまま、国際的犯罪、組織的犯罪に対抗する法整備が政策として明記されているわけであります。新進党時代に、新進党所属議員みんなで話し合った末に決定したことでありますから、その決定過程に参加した政治家として、自由党は、責任を持って同じ政策を引き継いで現在の党の政策ともしているわけでございます。  思えば、新進党は組織体としては消滅してしまいましたけれども、そのことでかえって、たゆまざる改革、責任ある政治を目指す永遠の運動として、永遠の生命を得たというふうに信じております。元新進党の議員ということのみならず、およそ改革と責任の政治を目指す、そういうすべての人の心の中に新進党は生き続けているのでありまして、そういう人とともに常に新進党はある。  そういう意味で、今回のこの組織犯罪関連法案でございますけれども、およそたゆまざる改革と責任ある政治を目指すすべての人々、党派を超えてこの早期成立に全力を尽くす、そういうことを期待しているわけでございます。  さて、今日、国際的相互依存が著しく進み、ボーダーレスと言われるような状況になっております。一国の法律も国際的な法体系の一環として適切に位置づけられることが必要であります。さもなくば、人類全体の法の支配、民主主義の発展、その足を引っ張ることになり、ひいては当該国民の諸権利をも侵害の危険にさらす、そういう国際的な情勢であるというふうに考えます。そのような観点から、組織犯罪対策をめぐる国際的な動向を踏まえ、国際的な協調を図り、我が国も法律を整備していかなければならないと考えるわけでございます。  そこで質問でございますけれども、組織的犯罪をめぐる国際的な情勢について見ますと、交通通信手段の発達や経済活動の大規模化に伴いまして、犯罪者の移動、犯罪収益の移動、犯罪者間の意思連絡などが容易に国境を越えて行われるようになり、どの国も他の国の組織的な犯罪の影響から逃れることが困難な状況になっております。そのため、国際社会では、組織的な犯罪対策に関する国際協力が強く求められており、そうした認識を踏まえて、主要国では既に各種の法整備が進められており、我が国の法制は大きく立ちおくれているのではないかと懸念いたします。  法務大臣として、このような組織的な犯罪対策をめぐる国際的な動向と国際協力の必要性について、どのように認識しているのか、お伺いいたします。 <0096>=陣内国務大臣= ただいま委員御指摘のとおりでございますが、国際的な交通通信手段の発達や経済活動の大規模化に伴いまして、どの国も組織的な犯罪の影響から逃れることが困難な状態になっているということでございます。  組織的な犯罪は、国際社会においても各国の社会の安定や経済の維持発展に悪影響を及ぼすとともに、その国境を越えた活動により、国際社会にとっても脅威となることが懸念されておるのでございます。そのために、この問題をめぐりましては、平成元年のアルシュ・サミット以降、昨年のバーミンガム・サミットに至る主要国首脳会議等の国際会議におきましても、最も重要な課題の一つとして継続的に取り上げられてきております。  また、国連におきましては、二〇〇〇年の採択を目標として、包括的な国際組織犯罪対策条約の交渉が急ピッチで進められておるところでもございます。国際的に協調した対応が我が国にも強く求められておるのでございます。  そして、主要国におきましては、犯罪収益の規制、犯罪捜査のための通信傍受に関する法制度を初めといたしまして、組織的犯罪に適切に対処するための実体法、手続法において各種の法制度の整備が既に進んでいるところでもございます。  このような状況を踏まえますと、我が国といたしましても、各国と協調して法制を整備する必要は特に大きいというふうに考えるわけでございます。 <0097>=達増委員= それでは、いわゆるマネーロンダリング関係の国際協力について、さらに質問をさせていただきたいと思います。  種々の組織的な犯罪が不正な利益を得ることを目的として行われるということにかんがみますと、いわゆるマネーロンダリング行為の処罰等により犯罪収益の保持、運用を規制することが組織的犯罪に対抗するための重要な措置であると考えます。これに関する国際的な動きといたしまして、もう十年前になりますが、平成元年、フランスで行われましたアルシュ・サミットの経済宣言の中で設置されました金融活動作業部会、略称FATFでございますが、このFATFの活動がありまして、マネーロンダリング規制の前提犯罪を薬物犯罪からその他の重大犯罪にまで拡大することを勧告する等の活動、そうした活動が、さきの答弁にもありましたが、国際連合の会議やこれまでのサミットにおいても支持されているということでございます。  確認したいのでございますけれども、この問題に関するFATFの勧告の内容はいかなるものでございましょうか。また、この問題に対する法整備、これは主要国の間でどんどん進んでいると聞いておりますけれども、各国の法整備の状況がどのようになっておりますか、政府に質問したいと思います。 <0098>=松尾政府委員= FATFと言っておりますが、金融活動作業部会というふうに日本語では言っております。これは、今お尋ねのように、平成元年にアルシュ・サミットの経済宣言によりまして設置されたものでございます。現在、二十六の国と地域、香港等が入っていますので、国と地域及び二つの国際機関が参加しております。二十六という中には主要国はほとんど網羅されております。マネーロンダリング対策に関する政策の発展と促進を目的として、勧告やその実施状況の審査等を行っている政府間機関でございます。  このFATFでは、一九九六年、平成八年、三年前ですが、新たに四十の勧告が採択されました。この改革において、マネーロンダリングの前提犯罪を薬物犯罪から重大犯罪へ拡大するようにということを各国に義務づけております。それから、金融機関から権限のある当局への疑わしい取引の報告義務もこれに盛り込まれたわけでございます。その同じ年のリヨン・サミットの議長声明におきましても、FATFの勧告を実施することにより犯罪者が不正収益を得ないようにすることが同じく盛り込まれました。国際連合やサミット等においてもこれらが支持されまして、国際社会の合意が形成されているという状況にあります。  そして、主要国においては既に法整備が進んでおります。例えば、マネーロンダリング規制の前提犯罪については、薬物事犯に限ることなく、例えば、イギリスで申しますと、正式起訴犯罪一般に広げております。それから、フランスではすべての重罪及び軽罪、アメリカでは法律で定められた多数の特定の犯罪、ドイツでは重罪のほか、団体の構成員により職業的に行われた一定の犯罪等が前提犯罪として定められております。それぞれ、犯罪収益を隠匿する行為のほか、犯罪収益の運用に加担する行為、あるいは、これを運用する行為そのものもこの規制の対象としております。また、これらの国においては、金融機関等に対しまして犯罪収益にかかわる疑わしい取引を所定の機関に届け出ることを義務づける制度も整備されているところでございます。  以上でございます。 <0099>=達増委員= 非常に長い時間をかけ、十年前から国際社会全体としてかなり高いレベルで取り組んでいることなんですけれども、専門性の高さからか、いま一つ日本の世論の中で理解されていないところがあるのかなという懸念も感じますので、そういった国民理解を広めつつ、この法案についても審議が進むことを期待しております。  そうした国際的な議論の中で、我が国についても国際的に取り上げられているということで、FATFで勧告の実施状況の審査等を行う中で、我が国に関しましても昨年六月、対日審査が行われたと聞いておりますけれども、その状況はどのようなものであったのでしょうか。 <0100>=松尾政府委員= 委員御指摘のように、このFATFにおきまして、平成十年の六月、対日審査が行われております。このFATFというのは、当然我が国も入っておりまして、現在、FATFの議長国は日本でございます。このFATFでは、その参加国に対する審査を逐次行っているのですが、昨年の六月に我が国がその審査の対象になったということでございます。  この審査では、我が国においては、暴力団等の犯罪組織による犯罪によって得られた多額の犯罪収益が資金洗浄されているものと推定され、また、海外における犯罪によって得られた収益が我が国において資金洗浄することを排除できない状況にあるというような指摘があります。それから、マネーロンダリング対策、法規制につきましても、前提犯罪が現在日本では薬物に限られておりますため、現実にはほとんど効果的でない、あるいは、主要国の法制度と比較して我が国の法制度に大きな欠陥があるという指摘を受けております。  つまり、ボーダーレスに動く違法な資金について、各国が法制度を整備してマネーロンダリングを許さない体制を築きつつある中で、我が国には法制に大きな欠陥がありますので、我が国がマネーロンダリングのいわば規制の破れた網になっているという非常に厳しい指摘を受けているところでございます。  他方、この審査におきまして、現在御審議いただいております組織犯罪対策三法も取り上げられました。当然、我が国からこういった法案を衆議院で御審議いただいているという報告もしておるわけでございますけれども、この法律及びいわゆる麻薬特例法の厳格な執行がマネーロンダリング対策の有効な手段となるという評価を受けております。また、法執行当局と金融監督庁との間での緊密な協調、あるいは犯罪捜査のための通信傍受制度の導入等の追加的な措置がマネーロンダリング対策において大きな助けになるものと評価されておりまして、この法案に対する期待が表明されているということでございます。 <0101>=達増委員= 我が国の法的な状況、現状に対する懸念と同時に、今我が国で進んでいる法整備作業に対する期待が、国際的に、そういう国際社会の中で、近くFATFの会合が東京で開催され、我が国の組織的犯罪対策に関する法整備について我が国から報告することとなっているというふうに聞いております。非常に重要な機会だと思うのですけれども、その経緯や内容について伺いたいと思います。 <0102>=松尾政府委員= 先ほど申し上げましたように、昨年六月に対日審査が行われました際に、議長から、ことしの二月の会合において、国会で審議中の組織的犯罪対策三法案の審議状況、内容等を報告するように求められました。本年二月のパリにおけるFATFの会合で、我が国は、この三法案については国会における審議が継続中である旨報告をいたしました。議長から、再度報告するように求められているわけでございます。  そこで、本年六月三十日から七月二日までの間、我が国がFATFの議長国でございますので、FATFの全体会合が東京で開催されます。我が国としては、この場でこの三法案の国会審議状況について報告をしなければならないことになっております。  法務当局としては、このような国際的な協調の必要性も踏まえますと、マネーロンダリング対策も含め、組織的な犯罪に適切に対処するための法整備の重要性、緊急性にかんがみまして、できるだけ早期にその法整備を実現させていただきたいと考えております。  また、もう一つつけ加えて申し上げますと、ことしに入りまして、最近国連の次長でありますアルラッキさんという方が日本に来られました。この方の来日の目的も、やはりこういう組織犯罪対策の進捗状況についての視察に来られたということでございまして、同様にこの三法案については高く評価をしておりまして、早期に実現されたいという希望を強く表明しておりました。  なお、このアルラッキさんは、現在国連で議論しております組織犯罪対策条約の取りまとめの責任者でございます。 <0103>=達増委員= 国際連合や先進国首脳会議、サミット等に基礎を置くそうした国際的な協力の場でも、我が国の国会での審議状況まで注目されている。我が国の中でも、この問題についての議論は高まっているわけでありますが、国際的な真摯な関心の高まりに対して、我が国、特に国会の中においても、正面からこの問題に取り組んでいくことについてますます頑張らねばならないなと、気が引き締まる思いがするわけでございます。  もう一つ、マネーロンダリング関係で伺いますが、疑わしい取引の届け出制度に関しまして、国際的に、FIU、ファイナンシャル・インテリジェンス・ユニットという中央機関を国に設置して情報の集約、分析に当たるということを聞いておりますけれども、これに関する国際的な動向や諸外国の立法例について、どうなっているのか伺いたいと思います。 <0104>=松尾政府委員= 犯罪収益の規制に関しましては、マネーロンダリング行為がそのほとんどだといいますか、金融機関を通して行われることが多いわけでございます。金融機関における犯罪収益にかかわる疑わしい取引の届け出に関する情報を捜査機関に回付することが、マネーロンダリング罪やその前提犯罪の捜査にとって大変有益であると考えられております。  一九九五年、平成七年ですが、欧米諸国が中心となって始まりましたエグモント・グループというのがございますが、これにおきまして、このFIU、フィナンシャル・インテリジェンス・ユニット、財政情報機関、直訳するとそういうことになろうかと思いますが、疑わしい取引に関する情報を受理いたしまして分析して捜査機関にそれを回付する単一の中央政府機関を設置して、国際的な情報交換を推進する方策が検討されております。マネーロンダリングは、今や一国だけでは対応できず、国際的な協調が非常に重要ということで、こういったことが推進されてきているわけでございます。  そして、アメリカ合衆国、フランス等の主要国においては、既にこのような機関が設置されております。昨年のバーミンガム・サミットにおいては、まだFIUを設置していない国に対して、その設置をするようにという要求が出されております。  我が国では、組織的犯罪処罰法案に定める疑わしい取引の届け出制度における金融監督庁がこのFIU機能を果たすものである。これは、このような国際的な協力の要請にかんがみますと、我が国としても、この法整備によりまして、このような国際的な取り組みに参画することが重要であると考えております。 <0105>=達増委員= 通信傍受関係の国際情勢についての質問も用意してあったのですが、これは後ほどの我が党からの質問に譲りたいと思います。  最後に、こういった国際協力についての大臣の決意を伺って、私の質問を終わりとさせていただきたいと思います。 <0106>=陣内国務大臣= 組織的な犯罪につきましては、国際的な協調が、ただいま御説明いたしましたように、大変強く求められております。  主要国では既にその法整備が進んでいることを考えますと、我が国といたしましても、この種の犯罪と戦う国際社会の一員といたしまして、その責任を果たすことが必要かつ重要であると考えます。  したがいまして、御審議いただいております組織的な犯罪に適切に対処するための法整備に関する三法案につきましては、この問題の重要性、緊急性にかんがみまして、できる限り早期にその法整備を実現させていただきたい、このように考えております。 <0107>=達増委員= ありがとうございました。 <0108>=杉浦委員長= この際、暫時休憩いたします。     午前十一時五十八分休憩      ――――◇―――――     〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕