第145回国会 法務委員会 第21号 1999年07月22日       (1999年08月18日 08:00 登録) 平成十一年七月二十二日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員の異動  七月十三日     辞任         補欠選任      佐々木知子君     有馬 朗人君  七月二十一日     辞任         補欠選任      有馬 朗人君     久野 恒一君      井上  裕君     佐々木知子君  七月二十二日     辞任         補欠選任      久野 恒一君     亀井 郁夫君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         荒木 清寛君     理 事                 鈴木 正孝君                 服部三男雄君                 円 より子君                 大森 礼子君                 平野 貞夫君     委 員                 阿部 正俊君                 亀井 郁夫君                 久野 恒一君                 佐々木知子君                 世耕 弘成君                 竹山  裕君                 仲道 俊哉君                 海野  徹君                 小川 敏夫君                 千葉 景子君                 角田 義一君                 橋本  敦君                 福島 瑞穂君                 中村 敦夫君    事務局側        常任委員会専門        員        吉岡 恒男君    参考人        弁護士      神  洋明君        早稲田大学法学        部教授      田口 守一君        一橋大学大学院        法学研究科教授  村井 敏邦君        東北大学法学部        教授       川崎 英明君        弁護士      田中 清隆君        慶應義塾大学法        学部教授     安冨  潔君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○参考人の出席要求に関する件 ○組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関  する法律案(第百四十二回国会内閣提出、第百  四十五回国会衆議院送付) ○犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案(第  百四十二回国会内閣提出、第百四十五回国会衆  議院送付) ○刑事訴訟法の一部を改正する法律案(第百四十  二回国会内閣提出、第百四十五回国会衆議院送  付)     ───────────── <0001>=委員長(荒木清寛君)= ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員の異動について御報告いたします。  去る十三日、佐々木知子君が委員を辞任され、その補欠として有馬朗人君が選任されました。  また、昨二十一日、井上裕君及び有馬朗人君が委員を辞任され、その補欠として佐々木知子君及び久野恒一君が選任されました。     ───────────── <0002>=委員長(荒木清寛君)= 参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。  組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の審査のため、本日の委員会に参考人として弁護士神洋明君、早稲田大学法学部教授田口守一君、一橋大学大学院法学研究科教授村井敏邦君、東北大学法学部教授川崎英明君、弁護士田中清隆君及び慶應義塾大学法学部教授安冨潔君の出席を求め、その意見を聴取することにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 <0003>=委員長(荒木清寛君)= 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ───────────── <0004>=委員長(荒木清寛君)= 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、三案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、六名の参考人から御意見を伺います。  まず、午前中御出席をいただいております参考人は、弁護士神洋明君、早稲田大学法学部教授田口守一君及び一橋大学大学院法学研究科教授村井敏邦君でございます。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、まず、神参考人、田口参考人、村井参考人の順に、お一人十五分程度ずつ御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。  なお、参考人の意見陳述、各委員からの質疑並びにこれに対する答弁とも、着席のままで結構でございます。  それでは、神参考人からお願いいたします。神参考人。 <0005>=参考人(神洋明君)= 神でございます。  私は、基本的には日弁連の立場で、今回の組織的犯罪対策三法案に反対であるという意見を申し述べたいと思います。  本日は、日弁連で作成したパンフレットを用意いたしましたので、こちらも御参照いただきたいと存じます。  初めに、総論的な問題を述べたいと思います。  まず、日弁連もまた、国民の平和と安全を害するような組織犯罪対策は必要であると考えていることを誤解のないように申し添えておきたいと思います。  ただ、その組織犯罪対策は、その国の政治、経済のあり方を検討し、国及び政府が暴力団等の組織犯罪の実態を調査、解明し、総合的な施策の中で対処されるべきもので、その中の一環として刑事司法のあるべき道を定めるべきものであると考えております。  そして、刑事法による立法を行う場合にも、その国の犯罪情勢、捜査や公判をめぐる憲法、刑法、刑事訴訟法の法体系、現行の法制度の実情を踏まえて立法がなされるべきものであると考えるのであります。  この観点から考えると、本法律案は、一面的な国際協調が強調され過ぎており、憲法、刑法、刑事訴訟法の原則を大きく揺るがしかねない大変革を内容とする法律案になっていることに大きな危惧の念を抱かざるを得ません。このあたりのことは、後刻御質問をいただければ具体的にお答えしたいと思います。  総論的な問題の二つ目として、本法律案は、組織的犯罪対策三法案と呼ばれ、立法理由も暴力団等の薬物事犯や銃器事犯等への対処を強調していますが、実は法文上組織的な犯罪対策に限定されているのは、組織的な犯罪の処罰に関する法律案だけであるということを指摘しておきたいと思います。  令状による通信傍受の対象犯罪は、衆議院で薬物事犯、銃器事犯、集団密航事犯、組織的な殺人に限定されましたが、例えば大麻の単純所持など、必ずしも組織的に犯されない犯罪も含まれており、数人の共謀があれば成立することになっております。また、犯罪収益の規制等に関する法律案に至っては、単独犯でも成立するし、規制の対象となる犯罪収益の前提犯罪については極めて広く、放火など罪質的には組織犯罪になじまないものまでも含めております。残念ながら、衆議院での審議でもこの前提犯罪を組織的な犯罪に限定するという修正は全くなされませんでした。その意味で、本法律案は、組織的犯罪対策法と銘打ってはいますが、羊頭を掲げて狗肉を売る法律案になっていると思います。  三つ目の問題としては、私は、この法律案の根底には、国家対個人、すなわち権力対人権という考え方とは別の組織対国民、すなわち犯罪対安全という考え方が流れている法律案と考えております。だから、この法律案では、三法案いずれについても事前予防的な色彩が見られ、また、国民は国家、すなわち捜査機関に協力すべきだという考え方も生まれ、通信事業者に立ち会わせるだとか金融機関等の疑わしい取引の届け出をさせるという構成が出てくるものと思われます。しかしながら、仮に組織対国民という考え方があり得るとしても、前憲法的な存在である人権は国家との関係で保障されなければならないものであります。これを、その内在的な制約を超えて国家的な危機管理とか全体主義的な考え方に置きかえることは許されないと考えるのであります。  問題を通信傍受法に移してみたいと思います。  この法律案は、衆議院で一部修正は加えられましたが、第一に、将来起こるかどうかわからない犯罪を対象としております。これは予防的な捜査を許容するものであり、捜査は犯罪発生後に行われることを前提とした刑事訴訟法の原則に反するものであります。また、このような将来の犯罪の傍受を認める限り、捜査官の該当性判断のための傍受の範囲は広がらざるを得ないものであります。  第二に、この法律案は、傍受の際の立会人の権限についての規定が不十分であると言うことができます。衆議院での修正によって立会人の常時立ち会いと立会人の意見陳述権が認められましたが、この修正案では立会人は通信内容を聴取することができず、したがってまた、修正案は立会人に捜査官の違法な傍受を制止させる切断権を認めておりません。これでは立会人が常時立ち会ったところで、捜査官が適法、適正な傍受をしているかどうかを確認することができず、意見を述べる機会を与えてみてもほとんど意味がないと言わざるを得ません。  第三に、法律案は、衆議院での修正によって、他の犯罪の実行を内容とする通信の傍受について、傍受できる犯罪を原案よりも限定し、この場合も裁判官による事後的な審査をする手続を設けました。しかし、このような限定をしても、令状に記載のない犯罪に関する通信の傍受を認めること自体、捜査官の該当性判断のための傍受の範囲は広がらざるを得ないという問題を有しています。  第四に、この法律案は、事後通知が通信を傍受された当事者のすべてになされることにはなっていないという欠陥を持っています。刑事手続に使用するための記録に記録されている通信当事者にだけ通知を認める仕組みを認める限り、本来聞かれてはならない犯罪と無関係な通信を聞かれた通信の当事者を保護することにはなりません。  第五に、この法律案では、犯罪に関連しない通信記録は消去されることとされていますが、それが確実に行われることを担保するシステムが規定されていません。  第六に、この法律案では、通信傍受の期間について延長や再発付が認められることから長期にわたり過ぎるという問題があります。勾留の延長が安易になされている現状から判断しても、傍受令状の延長や再発付も容易になされることが予想されます。  第七に、この法律案は、捜査官の該当性判断のための傍受の範囲を必要最小限にするためのいわゆる最小化原則の規則化についても言及していません。  そのほか、この法律案では、逆探知や違法収集証拠排除法則の考え方などについても配慮がされていません。ここでは時間の関係もあり、日弁連意見書を参照いただくこととして省略させていただきますが、このような通信傍受制度では通信の秘密の不可侵やプライバシーの保護の歯どめとしては不十分であると考える次第であります。  通信傍受法案以外の法律案、特にマネーロンダリング規制に関する犯罪収益の規制等に関する法律案についても少し意見を述べさせていただきます。  既に、麻薬事犯による収益の規制については、平成四年にいわゆる麻薬特例二法が施行されていますが、今回の法律案はこれを大幅に拡張するものであります。麻薬特例二法については、日弁連も、刑事法の基本原則にかかわる重大な問題が含まれているにもかかわらず、人間性を破壊し社会の根幹に害悪を及ぼす麻薬の持っている特殊性と麻薬国際条約、いわゆる麻薬新条約批准の立場からこれに限る措置としてその立法を是認してきました。  そこで、現在審議中のこの法律案に反対する幾つかの理由を指摘してみたいと思います。  第一に、この法律案は、冒頭にも述べましたように、前提犯罪の範囲を大幅に拡張し、詐欺、窃盗、業務上横領などにも広げ、放火など罪質的には組織犯罪になじまないものまで含ましめて一般化しようとしています。  第二に、この法律案では、前提犯罪が広いことと相まって、隠匿罪、収受罪等の成立する範囲も広がってきます。その結果、例えば窃盗犯人が盗んだお金を使って飲み食いする行為は処罰されないが、このお金を預金したりどこかに隠したりすれば犯罪になるというおかしな結果を生じます。  この法律案は、その目的として、犯罪による収益がこの種の犯罪を助長することと、犯罪収益を用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な影響を与えることを掲げています。麻薬取引事犯や銃器取引事犯については、組織的に行われる場合、犯罪で得られた収益を再び同種の犯罪資金として利用することは考えられますが、先ほどの例の窃盗によって得た収益の資金洗浄行為によってさらに窃盗が助長されるとは考えられません。  この隠匿罪、事業経営の支配を目的とする犯罪は、刑法上、最初の法益侵害によって犯罪事実が終了し、事後の違法状態は当初の犯罪の構成要件によって評価し尽くされており、犯罪行為とは認められないとするいわゆる不可罰的事後行為の考え方を根本的に覆すものであります。  第三に、犯罪収益だけでなく、これに由来する財産やこれと混和した財産も規制の対象としていますので、汚い金がまじっていることを知って受け取ると収受罪に問われることになります。欧米と違って、被疑者段階での国公選弁護人制度のない我が国においては、私選弁護人が犯罪者の弁護をできないという事態も想定されます。その上、この隠匿罪、収受罪、事業経営の支配を目的とする行為の処罰等は、犯罪収益等が存在する限り、前提となる犯罪が時効になっても際限なく犯罪が成立することになります。  第四に、この法律案は、麻薬特例二法で規定している隠匿罪、収受罪にとどまらず、本来のマネーロンダリング罪を超えて、不法収益等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為にまで処罰を拡大しています。  例えば、株主が会社支配をねらって人事に口出しすることは、株主として当然の中核的な権利です。こうした本来合法的な行為を処罰するには、それ相応の理由がなければなりません。ところが、法律案は、健全な経済活動に重大な影響を与えることではなくして、重大な影響を与える可能性があるということで、予防的に口出し行為を処罰することにしています。可能性で株主の中核的な権利を奪うことができるかは疑問であります。  また、外形上通常の取引形態をとるこの種の取引が規制されることによって取引の安全が損なわれ、第三者に与える影響もはかり知れないものがあります。  第五に、この法律案では、刑法の没収概念を拡張し、犯罪収益等の没収の対象を金銭債権にまで広げております。そして、本来、付加刑として主刑とともに判決時に言い渡されるべき没収を判決前、しかも捜査段階である起訴前に保全できることにしています。判決前の没収保全は無罪推定の原則に反するだけでなく、例えば銀行預金の保全手続がなされた場合などには銀行との取引が停止されることは確実で、被疑者、被告人の経済活動に大きな影響を与えることになります。後日、これが無罪であったとしても、その時点ではこの事態は取り返しがつきません。前提犯罪が広いため、この没収の保全の範囲も当然広がらざるを得ないという問題を有しています。  第六に、法律案は、金融機関等に対して疑わしい取引の届け出義務を課し、捜査に協力させる規定まで設けています。法律案では、どのような行為を疑わしい取引とするかの基準が不明確であり、金融機関等の届け出が一般化することによって個人の金融取引までが捜査機関の監視下に置かれかねないおそれがあります。  時間的な関係で述べられませんでしたが、組織的な犯罪の処罰に関する法律案にも、証人の保護に関する刑事訴訟法の一部を改正する法律案にも多くの問題があります。日弁連意見書やパンフレットを御参照いただければ幸いに思います。  参議院の法務委員会においては、通信傍受法以外の二法案については実質的な審議がまだなされていないと伺っています。通信傍受法はもちろんですが、それ以外の二法案についても十分な審議をいただくことをお願いして、私の意見陳述としたいと思います。 <0006>=委員長(荒木清寛君)= 次に、田口参考人にお願いいたします。田口参考人。 <0007>=参考人(田口守一君)= 田口でございます。  私は、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案について賛成の立場から意見を申し述べたいと思います。  お手元に簡単なレジュメが配付されていると思いますが、その順序に沿ってお話しいたします。  まず、組織犯罪に対する新たな捜査方法の必要性という点でございます。  まず、簡単な統計資料を載せておりますが、覚せい剤事犯の検挙状況を例として考えてみたいと思います。  覚せい剤押収量を見てみますと、平成元年から七年の平均で毎年百八十二キログラム押収されております。しかし、平成八年から十年の平均をとりますと、毎年四百五十七キログラム押収されておりまして、それまでの約二・五倍となっております。さらに、平成十一年、ことしの一月から六月までの間に既に千百三十二キログラム押収されておりまして、その前年までの平均の約二・五倍となっております。  さて、なぜこのように押収量が増加しているかという点であります。その理由としましては、覚せい剤事犯で検挙されている者はそのほとんどが末端の実行犯、特に自己使用犯であるという点にありまして、組織の中核にある者は検挙されていないために、覚せい剤の輸入や譲渡のルートが遮断されていないためであろうと考えられます。我が国の覚せい剤対策というのは、末端の実行犯、特に自己使用犯を処罰するという点にとどまっているという現実がございます。いわばこの組織の根本を絶つということがなければ、この状況がさらに悪化すると見るのが自然ではないかと考えます。  同様のことはけん銃の押収数や集団密航事件の検挙人員を見ても妥当すると思います。統計の二と三でございます。  けん銃について言いますと、暴力団からの押収数には減少傾向が見られますけれども、暴力団以外の者からの押収数を見ますと、特に平成四年あたりから増加し、一定レベルを維持していることに注目しなければなりません。一般市民の間にけん銃が出回ってきたということは、その背後に犯罪組織のルートがあることを意味しているからであります。集団密航事件についても同様の分析が可能であろうと考えます。  このように、組織犯罪に対する新たな捜査方法が要請されているということが言えると思います。  それでは、組織犯罪に対する従来の捜査方法はどうなっているかという点について二点ほど触れてみたいと考えます。  第一点は被疑者の取り調べであります。従来、組織犯罪の実態を解明するために、被疑者の供述を得て資料を得るという点が重要とされてきました。けれども、組織犯罪の末端実行者を逮捕して取り調べを行ったとしましても、組織の実態や首謀者などの供述を得ることは困難であります。また、そもそもこれらの末端実行者あるいは臨時の運び屋といった人たちは組織の実態を知らないということも多いと思われます。のみならず、身柄を拘束された被疑者を十日間あるいは二十日間、時には黙秘権を行使しているという状況の中で取り調べを続行するという現在の捜査実務については問題があると考えております。  このように、被疑者取り調べには事実上も法律上も問題がありまして、組織犯罪への捜査をこの被疑者取り調べに依存するということには限界があろうかと思います。  次に、現行法上、検証令状で電話傍受が行われておりまして、これを肯定する高裁判例も出ております。もし現行法で通信傍受ができるということになりますと、改めて立法することもないことになるわけであります。しかし、通信傍受を実施するについては、実施期間の問題、立会人の問題等さまざまな条件が必要となるであろうことは、現在上程されております法案の条文を見れば明らかであろうと思います。検証令状では、通信傍受に関するこのような注意深い実施条件をすべてつけることは不可能であります。検証令状の実務では、したがって人権保障との調和という点が十分ではないと言わなければなりません。  結局、以上、今日の犯罪状況及び現行法の運用状況から考えますと、新たな捜査方法として通信傍受という方法を導入することが必要であろうと考えるわけであります。  そこで、通信傍受法案についてコメントしておきたいと考えますが、まず令状の要件についてであります。三点ほどコメントしておきたいと思います。  第一点は、通信傍受の要件がかなり厳しいものとなっているという点でございます。  まず、犯罪の十分な嫌疑の要件があります。これは現行法上緊急逮捕を適法とする要件であります。  第二に、犯罪関連通信の蓋然性が要求されております。この蓋然性を示す資料のためには相当の裏づけ捜査が必要となると思われます。  第三に、いわゆる補充性の要件であります。これは、それまでに他の捜査方法を尽くしたという疎明資料を要求することになります。言いかえますと、このような通信傍受は場合により被疑者の逮捕も可能な状況で行うのでありますから、いわば捜査の詰めの段階で行われる捜査手法であろうというふうに考えられます。一般にこのような捜査方法について謙抑的な運用が期待されておりますけれども、法律自体が非常に謙抑的に規定されているということに注意すべきであろうと考えます。  第二点でありますが、法案三条三号のいわゆる将来犯罪の傍受という点であります。  この点につきまして、将来犯罪の捜査が伝統的な捜査概念の変更をもたらすのではないかという問題提起がなされております。しかし、この場合の将来犯罪というのは過去犯罪と一体化したものでありまして、具体性、現在性を備えた犯罪行為と考えられます。したがって、そのような具体性、現在性を備えた行為という点におきまして、将来犯罪の部分についての特定も可能となると考えます。したがって、憲法三十五条の特定性の基準を満たし得るものであろうと考えます。これまでの捜査概念を変更するという問題ではないと考えております。  第三点は、法案十四条のいわゆる別罪の傍受についてであります。  法案の修正によりまして、この別罪につきまして重罪に罪種限定がなされまして、また裁判官による事後審査制も採用されました。この十四条の犯罪についての絞りでありますけれども、このような罪種限定だけではなくて、いわゆる明白性の要件、すなわち明らかに認められるという要件による絞りがかかっていることに注意すべきであります。つまり、犯罪実行が明白な場合に別罪傍受が許容されるのでありまして、その点では三条傍受よりも嫌疑の程度としては厳しい要件をかけているという点であります。  犯罪実行が明白な犯罪、すなわち現行犯につきましては、現在無令状逮捕が認められております。十四条はそれに事後審査をかぶせております。このようなことを考えますと、十四条の別罪傍受は憲法の要求する令状主義との整合性を保ち得るものであるというふうに考えております。  結局、この法案による通信傍受という捜査は、対象犯罪の限定の問題も含めまして、捜査方法としては限定的なものであろうと考えます。  アメリカの例を見ますと年間千件を超える実施例、あるいはドイツでは三千件を超える実施例、あるいはフランスでは一万を超える実施例などが報告されておりますけれども、いずれにしましても、日本における通信傍受の実施ということを想定してみますと、外国とは同列には論じられない少数例になるであろうというふうに理解しております。  次に、傍受の実施手続についてであります。この点については二点ほどコメントしておきたいと思います。  第一は、常時立会人制度であります。  この立会人制度につきましては、外形的な手続の監視のみであるという点が議論されております。この点につきましては、立会人によりまして傍受媒体、すなわち原本ですけれども、それの封印がなされ保管がなされるということになりますと、事後的なチェックというものが可能となります。すなわち、立会人に期待されておりますのは、傍受媒体の原本性の担保ということであります。  そうなりますと、立会人は外形的手続の監視を厳正に行うということになります。傍受媒体についての第三者による封印という点がこの制度のポイントであり、このような立会人制度は諸外国にはない、日本にのみ認められている制度でございますが、注目すべき制度であろうと考えます。  また、当事者への通知制度でありますけれども、これは通知によりまして事後の不服申し立てを可能としております。憲法三十一条の保障する適正手続、すなわち告知、聴聞の権利を保障するものと考えます。  結局、傍受法案は、以上述べましたように、傍受の要件の点につきましても、また傍受の手続という点につきましても、憲法の基準を満たし得るものと考える次第であります。  次に、法制度全体から見て、このような通信傍受制度を導入した場合の問題点について二点ほど触れておきたいと考えます。  第一点に、刑事免責制度ということであります。  すなわち、通信傍受によって組織犯罪の証拠を収集するということが可能になったといたしましても、組織犯罪の捜査をこの通信傍受に頼るあるいは頼り切るということにも問題があろうかと思います。傍受法ができれば組織犯罪に対する捜査の手法としては万全であるということは到底言えないと考えます。  したがいまして、組織犯罪に関する供述証拠の収集につきましては、先ほど申しましたように被疑者の取り調べにもう一度戻るということはできませんので、刑事免責を与えて証人に供述を強制するといういわゆる刑事免責制度というものの検討も開始されるべきではなかろうかというふうに考えるわけであります。  第二点は、被疑者の国選弁護制度についてであります。  法案は幾つかの被疑者の人権保障規定を設けましたけれども、このような傍受の実施に対する権利保障のためには、被疑者には弁護人の援助が必要となります。組織犯罪の中枢の者が被疑者となった場合には弁護人がつく場合があるいは多かろうかと思いますけれども、制度としては被疑者に弁護人を必ずつけるという制度が考えられるべきであろうと考えます。被疑者の国選弁護制度につきましては、いろいろな問題がありまして、検討すべき事項がたくさんあるわけでありますが、そのための取り組みを開始することがまた緊急課題であろうということを申し上げたいと思います。  結論としまして、問題の要点は犯罪捜査の必要性と国民の自由保障とのバランスの問題、すなわち利益考量の問題であると理解しております。このような通信傍受法を設けた場合のメリットとデメリット、そうしてこれをつくらなかった場合のデメリットとメリットというものをまた比較考量してみなければなりません。私は、結論としまして、そのような比較考量の結果、法案のような通信傍受を設けることに賛成したいと考える次第でございます。  以上であります。 <0008>=委員長(荒木清寛君)= 次に、村井参考人にお願いいたします。村井参考人。 <0009>=参考人(村井敏邦君)= 私は、刑事法を専門にする立場から、通信傍受法案について反対の意見を申し述べさせていただきます。  ただいま田口さんの方から捜査の必要性というような観点がまず第一に挙げられて、その立場から新しい犯罪捜査方法が必要なのだという御議論がありましたけれども、捜査の必要性と新しい犯罪捜査方法との関係で重要なことは、やはりそれが憲法上認められる手続であるかということだと思います。  まず、憲法との関係を問題にしますが、憲法において通信の秘密というものが保障されている、これを制約するだけの必要性があるかということが重要なポイントになると思います。その点で、通信の秘密なり憲法上の基本的人権を制約する原理とのかかわり合いで、果たしてそれだけの必要性を認め得るかということであります。  基本的に、通信の秘密を制約する原理というのは、その通信それ自体が危険性をもたらすという場合に本来限定されるはずのものであります。これが内在的制約の原理であります。  その内在的制約を超えた場合には、憲法上いろいろ議論がありますけれども、何らかの形で憲法の規定の中にそれを制約する文言がある場合に一定の議論としては内在的制約を超えた必要性等の観点からこれを制約することもあり得るという議論があります。私は必ずしもその立場に立ちませんけれども、外在的制約論に立ちませんが、しかし仮にそのような場合を想定するとしましても、通信の秘密についてはそのようなものが規定されていない。  したがって、例えば郵便物の中に爆弾が入っているというのは、この通信それ自体において危険性がある、これを回避するというのは認められるでしょう。しかし、電話で犯罪に関連する事項を通信するというようなことについて、それ自体として明白かつ現在の危険があるということではありませんので、そういった観点からしますと、通信の秘密を制約するだけの内在的な原理というものが必ずしもこの通信の傍受という手段を肯定することにはならないということになります。これが基本的な物の考え方であろうというように思います。  もう一つ、憲法上との関係からいいますと、憲法三十五条、三十一条以下の規定とのかかわり合いであります。  これは手続的な適正性の問題でありますけれども、もちろんこの手続的な適正性の要請を満たすためには、先ほど言いました点、基本的な人権を制約するだけの正当な理由があるということが必要なわけで、その点に多大なる疑問があるということは今申したとおりであります。手続的な適正性とのかかわり合いでは、通信の傍受というのがまず基本的に当事者に秘密であるということ、果たしてこれを適正と言えるか、公正と言えるか、そのこと自体が問題であります。  さらに、通信の傍受というのは、基本的に将来発生する事象について傍受するということです。令状の発付が少なくとも将来発生する事象にかかわらされている。ここに予測の要素が入ります。多大なる予測です。何が起きるかわからない通話についての予測ですから、大変に難しい予測をしなければならない。  さらにプラスしまして、今回の法案の中で定められている将来の犯罪に対する通信の傍受も認め得るということであります。  この点、過去に起きた犯罪とのかかわり合いで将来の犯罪についての傍受を認めるのだから構わないという御議論がありましたけれども、しかし、少なくとも将来発生するであろうということを予測し、将来起きるであろうという通話を傍受する、この二点、二重の意味での予測をしなければなりません。この点で、憲法三十五条で要求されている令状主義の要請を果たして満たし得るかということが問題になるわけです。  裁判官がこの二重の予測をした上で令状を発付するということになります。これはそもそも本質上といいますか、裁判官の任務としては甚だしく難しい任務を負わされることになります。その難しい任務を負わされるとどういうことになるかというと、令状請求があったことに対して十分なチェックがしかねるということになる、これを認める方向になるでしょう。  このあたりは実は裁判官を信頼するかしないかということにかかわるかもしれませんけれども、現在の令状実務とのかかわり合いからいいますと、残念ながら、裁判官が予測できない以上、これをチェックして令状を発付しないという方向に出るということは余り考えられません。その点が、令状請求、令状主義そのものを果たして満たし得るかということにかかわる問題であります。  それから、令状の提示ということが憲法上要請されるかどうかについては議論があります。  憲法三十五条が令状の提示を必ずしも要件としていない。確かに明示の要件とはしておりません。しかし、何のために令状主義が要請されるかということとのかかわり合いからいいますと、やはり自分として、何が捜査、捜索されているのか、捜査の対象になっているのかを知ることによって、これに対する防御等を行う、その準備を行うということが非常に重要な点であります。  その点で、先ほど言いました通信の傍受というのは、盗聴とも言われるように、秘密であるわけですから、秘密でなければならないわけです。そうしますと、相手方に、盗聴の当該人物に令状を提示するということはあり得ないわけです。そういうことになりますと、これをあらかじめチェックするということは到底当事者には不可能なことだということになります。  そういう意味では、令状の提示が要求されない、必然的に要求されないので、その意味での令状主義が本来要求している内容を満たし得ないということになります。  こういう根本的な問題を通信傍受法案は持っているわけですけれども、さて、それをどのような形でチェック、歯どめをかけることによって果たして憲法に適合するような形での通信傍受というのは可能なのかということになります。  対象犯罪を限定するというのが一つの方法として衆議院で認められたわけですけれども、この対象犯罪の限定というのは、アメリカでも実は当初ある程度絞った形で法律ができたんですが、毎回の改正のたびに拡大されていっております。したがって、先ほどの捜査の必要性ということを強調すればするだけ、対象犯罪は当然に拡張するであろうということが予測できます。  これはたまたま私が聞いたことではありますけれども、アイルランドの警察本部長の話ですと、盗聴、通信の傍受が最も有効なのはわいろ罪であるということが言われました。国会議員の方の自宅等を盗聴するということも、もしわいろ罪が対象になった場合にはあり得るということになります。この点は恐らく日本の捜査実務においても考え得ることだろうと思います。  わいろ罪の場合には、密室による犯罪であって自白を求める以外にないのだということが捜査官の中でよく言われます。そうしますと、先ほど田口さんの方からも言われましたけれども、自白というものに依拠しない犯罪捜査をやろうとすれば、通信を傍受するというのは一つの方法としては非常に有効な方法だということになります。事ほどさように、犯罪の対象というのは広がる危険性をこの通信傍受法案はそもそも持っているということに御注意いただきたいと思います。  それから、いみじくも田口さんはおっしゃいましたけれども、通信傍受だけではだめなのだ、刑事免責も必要なのだということをおっしゃいました。これは将来の予測ですから何とも言えないわけですけれども、通信傍受を有効にするためには該当通信を特定しなければならない、これがやはり一番有効な方法なわけですし、それが要求されるわけです。  該当通信を特定するということになりますと、その回線を含めてどれが該当通信をする回線であるかというのをあらかじめ知らなければならない。これを知るにはどうすればいいか。これは実際上、アメリカやイギリス等で行われておりますが、いわゆるインフォーマント、イギリスですとスーパーグラスといいますが、スパイ、的確なインフォメーションを提供するための装置が必要である。それを得るための装置が必要だということになりますと内部告発、言葉としては内部告発というと非常にきれいなわけですけれども、組織なり団体なりの内部の人からの正確な情報を得る必要がある。そういう意味でのインフォーマントの制度というのがセットとして考え得ます。そうでなければ、二十四時間ずっと聞いていないとどれが該当通信であるか判明しないということになります。これは違法であるということになっておりますので、特定するとなると、先ほど言ったような装置が必要だということになります。  さらに、インフォーマントとの関係では、組織の内部の告発ということになりますと、その人に対しては先ほど言いました刑事免責をして、おまえさんは起訴しないからちょっと情報を提供してくれというような話になる。このような形での捜査、通信傍受には今言いましたようにそういう意味での装置としてのすそ野が非常に広いものがある、それを視野に置いて果たして通信傍受を認めるのが妥当であるかどうかを御議論いただきたいと思うわけです。  私は、やはりそのような方法というのは甚だしく妥当性を欠くというように思います。したがって、仮にどのように捜査の必要性があろうと踏み越えてはならない領域に踏み入れることになる。この点を私は大変に危惧するわけです。  その意味で、必要性だけではなくして、まさに妥当性ということを十分にお考えいただいて、憲法とのかかわり合いで、先ほど言いましたすそ野とのかかわり合い、全体的な装置としての通信傍受法案の妥当性を御議論いただきたいというように思います。  実は、アメリカでは確かに傍受をやっております。一九六八年以来認めております。このときの一九六八年の議論においてどのような点が政府から言われたかといいますと、いわばワイヤータッピングを認めるということは、従来の捜査が犯罪から犯人を求めるということであったけれども、ワイヤータッピングというのはむしろ犯人から犯罪を求めることなんだ、そういう意味での発想の転換をしなければならないというように言っております。まさにそのとおりだと思います。ある人が特定されて、ターゲットになった人から犯罪を求める手段というのが通信傍受ということです。これは、従来、捜査として我々が考えてきたものとは全く異なるものになります。  そうした意味で、刑事訴訟法学においては、現在、捜査概念をめぐって大変に議論が二分していると言ってよろしいかと思います。私などは、このような形で捜査概念を変えるということに対して、刑事訴訟法のみならず日本社会全体の観念を変えてしまうのではないか、変貌をもたらすのではないかということを大変に危惧しております。  そうした意味で、この法案に対しては反対という立場で意見を述べさせていただきました。 <0010>=委員長(荒木清寛君)= 各参考人の皆様にはありがとうございました。  以上で参考人の意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。 <0011>=佐々木知子君= 自民党の佐々木でございます。  参考人の先生方には、お忙しいところ、わざわざここまでお越しいただきましてありがとうございます。また、貴重な御意見を拝聴させていただきまして、ありがとうございました。  幾つか質問させていただきたいんですけれども、私自身は昨年の五月まで十五年余にわたりまして検事をやっておりました。そのうち八年間は地検で実際に捜査なり、時には公判に携わって、現場で組織犯罪ももちろん随分数を扱っておりました。その経験で言わせていただきますと、田口参考人がお述べになりましたように、まさに組織犯罪というのは非常に捜査が困難でございます。  一般犯罪でありましたならば日本の警察は非常に優秀であり、大きな事件が起きますと捜査本部というものを設けまして数十人の警察官が犯人が見つかるまで張り込む、尾行する、いろんな人に当たって事情聴取をして、そして容疑者を割り出していくという地道な捜査の結果、犯人を挙げている。それで先進諸国に比べましても断トツの検挙率を誇っているというわけでございます。九六年に関しましては殺人事件の検挙率は九八・五%。ちなみに、日本に追随するドイツで九二・一%、アメリカなどに至りましては六六・九%しか検挙率がございません。  これは非常に日本の警察が優秀であり、また日本国民が警察に協力をするということのあらわれではないかというふうに思っておりますが、ただ、組織的犯罪になりますと事情は全く違ってまいります。犯罪には継続性があり、もちろん組織性があり、そして密行性がございます。それからまた、言うならば国際性もございますし、経済利益を追求する、そういうようなこともございます。  取り調べの限界ということをいみじくもおっしゃっていただきましたけれども、確かに上の者のだれが命じたのだ、だれが関与しているのか、自白しろ、そういうことを普通の一般の人に言った場合には、聞いて自白をしてくれる場合もございますでしょう。ですが、彼らは犯罪のプロであり、そういうことをしゃべることによって自分たちが今度は組織からもしかしたら報復されるかもわからないような立場になるわけですから、しゃべりたいはずがないわけです。  それは突き上げ捜査のやはり限界を感じざるを得ないところでございまして、覚せい剤取締法違反の検挙者数は非常に多いです。特別法犯の中でも断トツに多いですけれども、このほとんどがおっしゃったように末端使用であり、自分が使う分を持っている、あるいはそこそこに売るようなものを持っているたぐいでとまっているわけです。もちろん、その上には絶対に組織犯罪が関与しているわけですけれども、そこまで出てこない。上の方からは、捕まった者に二十日間とにかく頑張れよ、出てきたら悪いようにはしないからということで、ずっと黙っているというケースも非常に多うございます。  若い検事は、だんだんと取り調べ能力も落ちてきたというふうに言われております。コミュニケーションも余りうまくいっていないというようなのがございますでしょうけれども、これではだんだんと日本は犯罪者を逃してしまうのじゃないか、これでいいのだろうかというような、本当に抜本的な対策が必要とされるのではないかと思うわけです。  もちろん、たまには突き上げ捜査がうまくいって、検事のうまい取り調べでちゃんと自白をしてくれて、組長が逮捕されて無期懲役刑になって罰金一千万円になったようなケースもございます。それは成功例ということで検察庁内部で回りますが、それはあくまでもわずかの成功例にすぎません。本来はそうでないといけないわけですけれども、それは非常に難しい。そういう実態でございます。  田口参考人にお聞きしたいんですけれども、私は、どちらかというとこれはもう本当に遅きに失しているのではないかというような法案だと思うわけですけれども、国際的な要請もございますし、それ以上に、犯罪は検挙しなければいけない、国民の安全は保たれない、国家の治安は保たれないということで、絶対に必要な法案だというふうに思っているわけです。  村井参考人の方から、本法案は、憲法二十一条二項の通信の秘密の保障や第三十五条が定める令状主義に抵触するのではないかというふうな御意見が出されましたけれども、これら憲法上の問題点についてどのようにお考えでしょうか。 <0012>=参考人(田口守一君)= お答えします。  村井さんの方から憲法の問題の指摘がありました。私の先ほどの意見では、直接的というよりも、各論的に間接的にお答えしたつもりでおりますが、改めて申し上げさせていただきますと、御指摘のとおり、憲法二十一条におきます通信の秘密というものは国民の基本的な権利でありますけれども、同時に、国民の基本的権利といいましても、先ほども御指摘のありましたように、内在的制約があることは当然であります。  村井先生は、明白かつ現在の危険という要件からこれらの内在的制約の限界ということを検討されました。この点につきましては、恐らく犯罪情勢に対する認識という問題があろうかと思いますけれども、私は、現在の犯罪情勢、先ほど申しましたような犯罪情勢から考えますと、公共の福祉を理由とした必要最小限度の制約という意味での内在的制約をこの際考えることができるという立場であります。  また、もう一点重要な問題として三十五条の令状主義の問題があります。この点につきましても、議論をしますとこれは長くなりますけれども、先ほども申し上げましたのですが、ポイントは犯罪の特定が可能であるかということであります。事情によっては可能な場合がある。どういう事情ならば可能であるかということを法律がどのように厳格に規定することができるかという問題でありまして、これは憲法で答えの出る問題ではなくて、どういう法律をつくるかという問題である、その法律次第によってはその特定が可能であるというふうに考えておりますので、憲法の問題はクリアしてよろしいというふうに考えております。 <0013>=佐々木知子君= 令状主義を潜脱するのではないかという意見がよく出るわけですけれども、日本では裁判所のチェック機能が甘いのではないかという意見もよく出ます。  私は、九三年から九六年までの三年間にわたりまして国連アジア極東犯罪防止研修所というところで教官をしておりました。そこで、アジア、アフリカとかいろいろな国の刑事司法に携わる実務家とたくさん接する機会を持ちましたが、英米法系の国というのは、基本的に令状という観念が非常に薄いんですね。現行犯に限らず大体逮捕というのは警察が無令状でしてしまう、その後に治安判事のところに連れていって、釈放される場合もあるが、もちろん釈放されない場合もある。  そういうような形で、彼らに幾ら説明しても、令状による逮捕というのが非常にわかりにくいというのと、それから日本で言う任意捜査、在宅の捜査というのもあり得ないというぐらいで、日本は任意捜査というのが基本でございます、御存じのように身柄を逮捕せずに捜査をするというのが。例えば、交通関係業過を除く刑法犯では三割のみが逮捕される、特別法犯では道交違反をのけますと四割のみが逮捕される。それぐらいかなり謙抑的に逮捕というのも行っておりますし、ほかの令状をとって強制捜査をすることに関してももちろんそうでございます。だから、私は、令状主義ということが非常に間違って理解されているのではないかなと思います。  日本の裁判所のチェック機能というのは、私は信用していいし、その前の段階の刑事司法の捜査に携わる警察の段階で非常なチェックがなされているし、また検察庁でもセックチェックがなされている、スクリーニングをかけているということをここで申し上げておきたいと思います。  本法案は、諸外国の通信傍受法制度と比べてみますと、傍受の対象犯罪は極めて限定されております。また、令状発付のためには、犯罪が行われたと疑うに足りる高度な嫌疑を必要とするなどの厳格な要件が定められています。また、傍受ができる期間は短く制限されて、傍受実施時における通信事業者等の常時立ち会いを必要とするなど、適正確保の手続も厳重に定められていると思います。  諸外国の法制度と比較した御意見を田口参考人から伺いたいんですが、いかがでしょうか。 <0014>=参考人(田口守一君)= お答えします。  御指摘のとおり、現在提案されております法案は、諸外国と比較した場合にかなりの特色を持っていることは確かだと思います。諸外国でも、いわゆるアメリカ、イギリス、ドイツ等の先進国ではすべて、御案内のとおり通信傍受の法制度を備えております。しかし、その内容はかなり各国によって特色がございます。  今御指摘がありましたような傍受の期間の問題を一つとりましても、日本の十日、延長して三十日という制度は短い方でございます。また、傍受の手続につきましても、先ほども触れましたが、常時立ち会いを求めるという制度、そしてこれを封印して裁判官に管理させるというような手続もかなり日本法の特色であると思います。  このような制度は、先ほど申しましたように、かなり限定的な厳しい制度でございますが、私の理解するところによりますと、日本の社会、国家はこのような限定的な傍受制度でまずは足りるということを意味しているのであろう。法制度というのは世界共通である必要はありませんので、その国の社会とか治安状況等に即した法制度であればよろしいということで、日本の社会に適した法案ということで提案されているのであろうというふうに理解しております。 <0015>=佐々木知子君= これまた田口参考人にお伺いしたいんですけれども、この法案に反対する理由のよく挙げられることの一つといたしまして、警察が信用できない、警察にこのような武器を与えてしまうといかに乱用するかわかったものではない、なぜならば警察にこれだけの今まで不祥事があるではないか以下云々というような議論があるわけでございますけれども、他国の警察と比べて日本の警察がそれほど不祥事を起こしやすいものか、乱用する危険があるのかどうか、それについての御意見を伺いたいと思います。 <0016>=参考人(田口守一君)= お答えします。  恐らく法執行機関に対する国民の信頼という問題が一番重要な問題で核心的な問題であろうということは確かだろう、おっしゃるとおりだと思います。しかしながら、この私が、研究者の立場でありますけれども、この問題についてどう答えるかということは、いろいろと問題がある、難しいというふうに考えます。  といいますのは、例えば、今諸外国との関係という御質問でございましたけれども、日本の現状を考えますと、業過を除く刑法犯、恐らく年間二百万を超えていると思いますが、そのほか道路交通法違反となりましたら何百万でございますから、恐らく一千万を超える事件があるだろう。それを警察官、二十万ぐらいでしょうか、この人たちが日々これを処理しているというプロセスの中で、一定の不祥事あるいは違法行為というものが起きるのは恐らく避けられないことであろうというふうに思います。  これについては、もちろん不祥事はないにこしたことはありませんから、それに対する対策を立てること、そしてまた、そのような不祥事があった場合に、これを隠ぺいといいますか隠さないで、表に出してしかるべく対策をとるということが対策としては重要なことであると思います。  そのような不祥事の存在があるとしまして、そして警察に対する不信がある、信用できぬ、こういうような議論でありますけれども、これはかなり評価の問題でありまして、簡単には言える問題ではないが、統計をとりましたら、恐らく諸外国と比較すれば不祥事の件数というのは出るだろうと思います。しかしながら、件数が出てもこれは数字でありまして、これをどう評価するかというのはそれぞれの問題であろうというふうに考えます。 <0017>=佐々木知子君= 神参考人にお伺いしたいんですけれども、私は率直な話、現在は弁護士でございますけれども、日弁連の立場が多数の弁護士の立場を、考えを代表しているものとは思っていないというのが事実なんです。  最初の方で、組織的犯罪対策自体は日弁連も必要であると考えているというふうに言われました。しかるに、現在提示されている組織的犯罪対策関連法案につきましては以下云々、これだけの問題点があるという指摘でございました。  時間の関係上、一々これについてやりとりする余裕はもちろんないわけですけれども、では、どのようにこの法律をいじればいいとされるのか、また、もしこの法律自体が全然だめだというふうに言われるのであれば、組織的犯罪対策にほかにどのような対策をすればいいとお考えなのか、その点についてのお考えを伺いたいと思います。 <0018>=参考人(神洋明君)= 参議院の法務委員会調査室の方に日弁連の意見書というものがあるかと思いますが、実は、この意見書を最初読んだ方々がほとんど言われるのが、日弁連の立場がよくわからないと。これは、実のことを申し上げますと、いろんな意見の集約の中でまとめられた意見であります。  御存じのように、日弁連というところは強制加入団体でありますので、一定の一つの意見でもって固めるわけにはまいりません。したがって、組織犯罪対策三法案についても、いかなる修正を加えても反対だという見解もあれば、それなりの修正を加えた場合にはこれは認めるべきだという意見もあります。そういった意見の中でまとめられたものですので、佐々木委員のおっしゃられたような趣旨のことは必ずしも当たっていないのではないかというふうに思います。  私自身、はっきり申し上げまして、日弁連の立場の中でもどちらかというと保守的な考え方であります。私は、抜本的な改正をすることによって場合によっては組織犯罪対策法案についても認める余地があるのではないかという考え方を持っています。  しかし、残念ながら現在提案されている法律案では抜本的な改正は全くない、前回の修正案ではないというふうに考えているので、反対するということになっております。例えば、先ほど来申し上げておりますように、この法律案が組織的な犯罪に対処するための法律案になっていない、いわゆる一般の組織犯罪でないものも全部ひっくるめて組織犯罪対策に使おうとしているところに大きな問題があると考えております。 <0019>=佐々木知子君= では、この法律自体を組織的犯罪のみに限るというふうに見直せばそれで足りる、そういうふうなお考えなんでしょうか。 <0020>=参考人(神洋明君)= そのような修正が可能であればそれで足りるとは思います。  ただ、私が最初に申し上げましたように、この組織犯罪対策は刑事法のみが突出するような形での施策であってはいけないと思っております。政府なり国が組織犯罪対策に対してどういう実態になっているのかという解明をした上で、どう国の施策を立てればいいかという総合的な施策の中で刑事法を考えるべきだという意見を持っております。 <0021>=佐々木知子君= 組織的犯罪対策自体は非常に必要なことであります。そして、もう一つの日本の刑事司法においての大事な潮流というのは、ここでは関係ないと言われるかもわかりませんが、被害者対策ということだと私は考えております。  日弁連も、犯罪者のみではなく被害者の方の側面もこれからぜひ考えていっていただけたらいいなというふうに思っておりますが、その点についていかがでしょうか。 <0022>=参考人(神洋明君)= 現在、日弁連でも犯罪被害者の問題について意見書の作成をしております。実は私もこのメンバーの一人になっておりまして、必ずしもこういう被告人や被疑者の問題だけではなく、犯罪被害者をどうすればいいかという形のものの委員となっておりますので、日弁連でも何らかの形で意見表明が近いところでできるのではないかと考えております。 <0023>=佐々木知子君= 私はこれで結構でございます。 <0024>=千葉景子君= 民主党・新緑風会の千葉景子でございます。  きょうは、三名の参考人の皆さん、本当に貴重な御意見をありがとうございます。  私は、この三法案を考えるに当たりまして、私なりに一定の視点を持たせていただいております。  一つは、これは神参考人もおっしゃっておられましたけれども、私も決して犯罪を許そうということを考えているわけではありません。だれもが安心して生活できる、そういう社会を考えていくことは私たちにとっても責任であろうと思っています。  ただ、そのためには、犯罪がどういう経緯で、あるいはどういう原因で発生をしてくるのか、あるいはその置かれた人たちの立場、あるいは経済社会状況、こういうものをもきちっと踏まえた上でそれぞれに対して総合的な対策を考え、その中で必要とあらば刑事手続あるいは刑事法による対応というのも考えていくべきだというふうに思います。  その意味では、本当にこの三法案がそれをきちっと厳密に検討し、そしてそれにふさわしい対策となっているのかどうか、そのあたりも私は疑問を抱いているところでもございます。  それからもう一つ、それに対してどういう刑事的な対応をとるかという意味でも、非常に従来の刑事法体系を抜本的に変更しかねない、そういう内容をそれぞれの法案が持っているのではないか。これも既に先ほど多少御指摘がございましたけれども、いわば捜査概念というものを大きく変更する、こういう側面もこの法律案は持っていようかというふうに思います。そのあたりでの小手先ではない、根本的に日本の刑事法がどうあるべきかということも含めて検討しなければいけないことだろうというふうに思います。  それからもう一点、これはこの参議院の法務委員会でもこの間の審議で大変大きな注目点になりましたけれども、今や社会は高度情報社会に入ってきております。そういう中で、通信といってもこれは大変幅広い、電話あるいはファクシミリ、あるいは今やインターネット、こういう時代になっています。この通信傍受という問題が、これらの情報社会、あるいはこれからさらに進展していくであろうこういう社会を本当にきちっと見きわめ、そしてその将来像などを考えた上で立てられているのかどうか、こういう点にも私はいささか疑問を感ずるところでございます。  こういう視点を私は持ちながら質問させていただきますので、ぜひ御理解をいただき、適切な御説明をいただければというふうに思っています。  そこで、三名の参考人の皆さんにそれぞれお尋ねをしたいというふうに思うんです。  先ほどからの御発言では、例えば電話あたりをその根底に置かれてお話があったようには思うんですけれども、インターネットという時代になって、この法案をどう考えておられるか、そしてその問題点等、この間もしお考えになったりあるいは御検討になったりされた点がございましたら、それぞれ御指摘をいただきたいと思います。神参考人の方から、いかがでしょうか。 <0025>=参考人(神洋明君)= 確かに、これまでの議論というのが電話を対象とした傍受の問題がいろんな形で例に出されて議論されてきたと思います。  しかしながら、これからの社会、まさにインターネット社会という形に言われておりますので、その意味でこの法律案はインターネットも対象になるというふうな理解を私どもはしております。  したがいまして、このインターネットの場合について、どのように実際にメール部分なりそういうものを対象としてそれを押収するのかというような問題に対して重大な関心を抱いております。  法律案の中では、一般的にはいわゆる暗号だとかあるいは外国語による通信については一たん全部聞ける形になっていますが、インターネットの場合、それがどうなっているのかということについての細かな規定はないという点では若干の疑念を抱いております。 <0026>=参考人(田口守一君)= 御指摘のとおり、インターネット、とりわけメールですね、そういったものによる通信というものがこれから大きな役割を演ずるであろう、そしてまたそれが犯罪通信に使われるであろう、そういう社会であろうことは私もそのとおりだと思います。そして、これらのインターネット等を利用した通信を電話と区別してもし傍受の対象から外すということになりますと、これは犯罪組織としてはそれらを使えば安心であるということになりますので、まずこういったインターネットによる犯罪通信を捕捉する方法ということを考えなければならない。  しかしながら、これについてはいろいろと今も神さんの方から御指摘がありましたけれども、電話とは違った困難さが伴うであろうと思いますけれども、これについては今後、最終的な令状は裁判官が出すわけでありますが、捜査官の収集したメールであれば、メールによって犯罪通信が行われるであろうという疎明資料等を厳密に検査していただいて令状を出していただくことになるであろうというふうに理解しております。 <0027>=参考人(村井敏邦君)= 私もインターネットについては基本的には電話と違うことを考えなければいけないだろうと思うんです、通信傍受を認めるとしても。今度の法案でインターネットも当然対象にしているようですけれども、果たしてこの規定で十分なのかという点になると、手続的には甚だ落ちがある。したがって、通信傍受を認めるとしましても、本来は別にすべきものであろうと思います。  特に一番問題なのは、先ほど神さんの方からも出ましたけれども、暗号を使った通信というのが、これはもちろん電話の場合にもありますけれども、とりわけインターネットの場合には、メールの場合にはそういう形でやられることになります。そうなりますと、これを解明するのは大変な労力と時間がかかる。先ほど来問題になっていることですけれども、該当通信であるかどうかということを調べるためには、全部ダウンロードするなり、どういうふうな形にするのか、ともかく全部いわゆるここでいうところの傍受をしなければならない。それを解明することになると、果たして現実に犯罪を摘発するのに役立つだけの時間的な余裕があるか。大変に時間がかかってしまって、結局意味がないということになってしまう可能性はあります。  そこで考えられるのは、暗号を使ってはいけないという形が考えられます。これは現にアメリカではそういう提案がなされておりますが、これはまさに通信の秘密を害することになります。ただ、有効にやろうとすればそういう形にならざるを得ないだろうということをこれまた恐れています。 <0028>=千葉景子君= このインターネットにかかわっての問題については、この委員会でも本当に疑問あるいはわからない部分が深まるばかりというところが実情でもございます。時間がございましたら、またお聞かせをいただきたいというふうに思うんです。  先ほど私も指摘をさせていただきましたけれども、犯罪を防止するあるいは適切な捜査をするといっても、やはりそれにはきちっとした憲法上のルール、こういうものを守った上で、そして適切な対応というものが求められるだろうというふうに思っています。  そこでお聞きしたいんですけれども、村井先生、先ほどもちょっとお触れになりましたけれども、これまでの犯罪捜査というのは既に起きた犯罪のために証拠を収集する、こういうものが犯罪捜査として体系づけられてまいりました。そして、それに対して犯罪の予防活動というのはいわば刑事行政というような形で区別されてきたというのが日本の体系ではなかったかというふうに思います。  これに対して、今回の通信傍受というのは、先ほどのお話のように、将来発生するであろう、そういう予測を非常に要素とした問題であるし、さらに将来発生する犯罪についての傍受というものも認める、二重の予測というお話をなさいました。こういう基本的な体系を大きく変えていくようなこういう法案、いいのかどうかということはわかりませんけれども、やはり相当厳密な、あるいはこれからの日本の将来の刑事法というのをどうしていくかということを含めて考える必要があろうかというふうに思うんですけれども、その点について先生はどうお考えでいらっしゃいましょうか。 <0029>=参考人(村井敏邦君)= おっしゃるとおりです。  先ほども申しましたように、特に将来の犯罪を通信傍受の対象にするということになると、まだ犯罪が発生していないのに証拠を収集するということなわけで、私ども、すべて犯罪の発生ということを契機に捜査が始まるものだということで講義などをやってきました。そこを変えなければならないということになります。  これは大変なことなわけで、従来は捜査の端緒というものと捜査というのを分けるということをしておりました。捜査の端緒というのはいわば一種の行政警察活動である。捜査の端緒から犯罪が発生しているあるいは発生したということが把握できてから捜査が始まるということで、司法警察の役割がそこから発生するんだという形で講じ、議論をしてきました。そういった分け方がいけないんだというのが最近の議論の中で出てきているんですけれども、根本的にこれは警察活動及び捜査活動というものの概念を変えることになってしまいます。  この点で、少し解釈論的なことを言いますと、刑事訴訟法百八十九条に「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。」という規定があります。この規定の解釈として、「犯罪があると思料するとき」というのは、当然にもう犯罪というものがあって、それで犯人及び証拠を収集するんだというのを当然解釈としてやってきたわけですが、「犯罪がある」と言っているんだから、あったということではないという、非常に枝葉末節な言葉を持ってきて、犯罪があったということに限定されないんだということが、ある一部の方から議論がされております。  そういう意味で、将来の犯罪も従来から捜査というのは認めてきたんだと言っておりますけれども、これは全く従来の議論とは違うことです。犯罪があるというのは、少なくとも現にあるということであって、あるであろうというのとは明確に区別されるので、刑事訴訟法上からは少なくとも将来の犯罪のための捜査というのは認めてこなかったと言わざるを得ない。  憲法はどうか。憲法の規定は、特に捜査概念について規定はしておりませんけれども、基本的にはやはり犯罪というものの把握というのは今言ったような形で考えていたんだろうと思います。  その意味では、憲法、刑事訴訟法の基本的な概念を変えることになるというのは先ほど指摘したとおりであります。 <0030>=千葉景子君= ところで、今回の組織犯罪対策三法案、とかく国際的な比較、あるいは国際社会からの要請ということが指摘をされています。それは全く否定するものではありません。  確かに、国際的に薬物犯罪、こういうものを何とか少なくしていこう、これに国際協力をしていこうという動きがあることも当然ですし、マネーロンダリングなどについても国際的な要請があるということは私も承知をしています。ただ、じゃ、それを我が国でどういう形できちっと取り締まり、あるいは対応していくかということになりますと、外国のやり方をただ日本に引き入れてくればよいということではないだろうというふうに思います。  そこで、神参考人にお聞かせをいただきたいんですけれども、国際化ということを考えると、じゃ刑事捜査体系あるいは令状の実務、こういうところも国際社会とどう同じでどう違うのか、こういうことも総合的に考えておかなければいけない。ただ要請があるから、例えばアメリカでやっているから、それをそのまま日本に持ってくればいいというわけにはいかないだろうというふうに思うんです。総合的に考えたときに、捜査体系あるいは裁判所の令状の実務等で、例えばアメリカとの比較などでどんな点が異なり、あるいはどういう問題点があるとお考えでしょうか。 <0031>=参考人(神洋明君)= 多分詳細はお二人の学者の参考人の方から補足いただけると思いますが、私は日本の捜査体系あるいは法体系がどうなっているかということと無関係に通信傍受法案が認められるべきではないというふうに考えております。  例えば、日本においてはいわゆる二十三日間という長期の逮捕・勾留というものがあります。この逮捕・勾留が、しかも代用監獄の中で取り調べがされるということにもなっております。しかも、日本の捜査というのは一つの特色を持っていると私は考えております。これは日本の捜査が分業化されていないのではないかという点であります。  これはどういうことかと申しますと、捜査というのは本来は初動捜査、要するにどういう人が犯人で、どういう事件が起こっているのかということを調べる初動捜査と、それをさらに裏づけをする本格捜査、そして最後に取り調べという形の段階が経られて一般的には行われるというふうに言われています。  諸外国の例は、私が理解する限りでは、おのおの担当する人が違って、前に行ったものについてチェックをする、このようにされている。そのために捜査機関内部にチェック・アンド・バランスが働くということがあるんですが、日本の捜査においては同一人が初動捜査も本格捜査も取り調べも行うという形で行われているので、チェック機能が働かないということがあると思います。そういう意味での比較の問題も必要だろうと思います。  このチェック機能が働かない警察官が現実に通信の傍受をした場合、どこまで自主的に、いわゆる関係のない会話を排除していく努力をするのか、そこを疑問に思っております。  それから、日本の場合には、諸外国と違って起訴前の保釈制度がありません。しかも、先ほど田口参考人もおっしゃいましたけれども、被疑者の国選弁護制度もないという問題もあります。さらに問題を申し述べますと、私もイギリスで視察をしてきたんですが、捜査の可視化という問題について日本の捜査についてはほとんど意に介していない。どういうことかと申しますと、例えば取り調べに弁護人が立ち会うだとか捜査過程をテープにとって録音するといったようなことが今の日本の警察では認められていません。さらに申し述べると、捜査段階における証拠の開示といった問題が、例えばイギリスやドイツなどでは行われていると言われています。  それと、違法収集証拠の排除の問題、これはアメリカにおいてはかなり徹底しております。ところが、日本の判例においては、重要な証拠であればそれは証拠にすることができる、相当であれば証拠にすることができるという形で、ある意味でしり抜けの形になっています。この違法収集証拠の問題は、例えばマニュアルをつくって通信傍受を行った場合、アメリカの場合にはいささかの違法もあってはいけないという心理的な要請が働きますので、それをなるべく抑制しようという形で捜査官の方に働きます。ところが、日本の場合については先ほどのようにしり抜けになっておりますので、捜査官をそこまで信用できるのかどうかという問題が起こってくると思います。  そういった総合的な施策の中でこの通信傍受を考えなければならないという意味では、国際的な要請の観点からいえば、今述べた点については日本は著しく欧米諸国に立ちおくれているのではないかというふうに考えております。 <0032>=千葉景子君= 時間になりましたので、終わります。ありがとうございました。 <0033>=大森礼子君= 公明党の大森礼子です。  参考人の皆様、本日は大変ありがとうございます。早速、質問に入らせていただきます。  先ほど、田口参考人の方から、この通信傍受法案については、つくったときのメリット、デメリット、それからつくらなかったときのデメリット、メリット、こういうことについてきちっと考える必要があるのではないか、こういう御意見がございました。  それで、今お話を伺いますと、神参考人と村井参考人がこの修正案については消極的な御意見ということなので、まず村井参考人からお尋ねいたしますが、この傍受法をつくった場合のメリットというのは何か考えておられるのか、先生のお話はデメリットの方ですが、メリットの部分も認めておられるのかどうか、その点はいかがでしょうか。 <0034>=参考人(村井敏邦君)= メリットというのは、捜査側からいいますと、通信が傍受できればいいということに恐らくなるでしょう。ただし、先ほど言いましたように、私は通信傍受が果たして有効に機能するかということを考えますと、有効に機能するためにはいろいろまた別の装置が必要だということになるだろう。そういう意味で、果たして捜査側にとってもメリットがあるのかな、労力と時間だけかかってメリットがないのではないかというようにも思っております。 <0035>=大森礼子君= 捜査側から見るとメリットということで、実は政府原案につきましては私も反対しております、公明党も。これは本当にあったら捜査に便利だなと思いますけれども、ここまでは要らない、原則禁止、例外的に認めるという立場をとるべきだ。これはもちろん通信の秘密の重大さをかんがみてのことであります。  ただ、捜査側から見るとメリットというふうな言い方をされますと、例えば薬物犯罪、先ほど自民党の委員の方からも、要するに薬物犯罪等の突き上げ捜査の困難性を述べられましたけれども、私ども考えますのは、今薬物犯罪、これが青少年まで蔓延している、そうやって暴力団が犯罪収益を得ている。そして、薬物を体に入れるということは、ある意味で人間としての尊厳性を失うようなことにもなる、こういうことでその対策ということを考えておりますので、捜査側から見るとメリットということは、実は国民側から見ましても、そういう薬物に汚染されない社会ということでメリットというふうにとらえておるわけです。  次に、神参考人の方、つくったときのメリット、つくらなかったときのデメリットという点についてはどのようにお考えでしょうか。 <0036>=参考人(神洋明君)= つくったときのメリットとしては、恐らく捜査機関に新たな手段を与えるという意味では、メリットは捜査機関側にあると思います。しかし、先ほど田口参考人がおっしゃったのと逆に、果たしてこの通信傍受を認めたからといって、末端じゃない、いわゆる中枢にある犯罪組織の人物に迫ることができるかということについては、疑問に思っております。このような制度が生まれれば、恐らく次の別の手段を彼らは考えるだろうと思います。その意味で、デメリットを補うに足りるメリットがあるかどうかは疑問だと思います。 <0037>=大森礼子君= 神参考人も捜査側のメリットということでおっしゃるわけですが、ただ、捜査側のメリットも、犯罪を摘発するメリットということは、薬物ばかり強調して申しわけありませんが、すなわち国民をそういうものから守る、こういうメリットもお考えいただきたいなと思います。  それから、犯罪組織はまた次の手段を考えると言いますと、これは、ある意味では追いかける側と逃げる側のイタチごっこみたいなところがあると私は思います。  それで、神参考人にお尋ねするのですが、先ほど抜本的な改正をすれば認めてもいいようなことをおっしゃいました。これは、一方でやはり犯罪対策ということも重要な点であるというお考えがあるんだと思います。現在の法案ではだめ、修正案ではだめと。抜本的な改正というのは、例えば具体的にはどこら辺をどういうふうにしたらよろしいということになるか、二、三点で結構です。 <0038>=参考人(神洋明君)= 二、三点で抜本的な改正ができるかどうかというのも少し問題があるんです。  確かに衆議院の修正案において対象犯罪の限定がされました。しかし、先ほど私が述べましたように、これは大ざっぱにざっくりと薬物、銃器、集団密航、組織的殺人というふうになっていますけれども、その中には組織的にされ得ない、あるいはされることが少ないものも入っています。それと、もしこれを処罰の対象にするというのであれば、これは組織的に行われたと疑うに足りるような犯罪についてだけの傍受を認める形でなければ私はおかしいと考えております。  それから、先ほど来幾つか述べておりますが、例えば他の犯罪に関連した通信の問題についても、これはやはり全く別の犯罪に関する通信を傍受するわけですから原則は令状が要るはずであります。これに、先ほど事後的な裁判所の審査があることである程度十分じゃないかという御意見もありました。しかし、これを認めることは実は現行法では認められていない緊急捜索、押収といった手続が認められる、そういったものに道が開かれていくという意味では、懸念を抱いております。そういった意味での配慮も必要だと思います。  さらに、犯罪と関係のない一般の方々がたまたま犯罪者との間で会話を交わしたものが捜査機関に聞かれていても、これが犯罪に関連ないということで通知がされないということも大きな問題だと思います。やはり聞いた以上は通知をする、これは必要だろうと思います。 <0039>=大森礼子君= 通知の点につきましては、通知するには住所、氏名を特定しなくてはいけないというこの関連で、実際の場面でちょっと問題があるのかなという考えを持っております。それはちょっと時間がありませんので除きます。  例えば、先ほど先生がおっしゃった、大麻の単純所持とかが含まれるということでございますね、必ずしも組織的犯罪と言えないものがということなんです。  ただ、単純所持という場合は、大麻だから特に意味があるのかどうか、大麻でもマリファナとハシッシュと分かれておりまして、大麻樹脂の方はちょっと重いというふうに考えております。単純所持、これは営利目的所持と区別されるわけでありまして、覚せい剤の単純所持でも十年以下という非常に重い犯罪になっています。大麻でも五年以下、重い犯罪だろうと思います。例えば少量のものを持っている人、小さなパケ、それから例えばこれは営利目的が立証できなければ五十キログラム持っていても単純所持の規定で処罰されるということに、極端な例ですが、なるわけです。  それは確かにそのような少量を持っていた末端の単純所持までもが対象になるのではないかということで、実はこの修正案の中で「目的」のところ、第一条、この中に文言を入れました。この三法が組織犯罪対策だといいながら、この通信傍受法については全然そういう明文がないではないかということで考えまして、「組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、」と、この立法の経緯ということです。これでは不十分だとおっしゃられるかもしれませんけれども、一応これが組織犯罪対策だということで、一つの解釈の基準になるようにというふうに考えております。  それから、十四条の、これは別件傍受と言う人もおりますが、私は緊急傍受と言うのがいいのかなという気がするんです。今、神参考人のおっしゃった他の犯罪、本来令状が要る、それは頭ではわかるんですが、現実に聞いておりましてそういう会話がぽっと入ったときに令状を求めること自体はもうほとんど不可能であります。  それで、これを認めると緊急捜索になるおそれがあるというんですが、あと現実の場面としまして、これは国民から見ましても、覚せい剤取締法違反で聞いていた、そうすると、じゃだれかを殺した、殺そうという、あるいはたまたまかもしれませんが入ってきたときに、これを認めないとなりますと、そこのところは聞くべきでないということになるのでしょうか。 <0040>=参考人(神洋明君)= 本来的には聞くべきでないと私は考えております。 <0041>=大森礼子君= そうしますと、犯罪というのは過去に起きたことに限る、あるいは令状が要るということになりますと、これは実は修正のところで「短期一年以上」の犯罪と非常に限定いたしました。前は「長期三年以上の懲役若しくは禁錮」、ここまで含んでおりました。これですと本当に別件目的で聞くことを許すだろうということで、短期一年以上の重大な犯罪に限ったわけなんです。  そうしますと、じゃ、だれそれを殺そうと相談していることが現実に入る、あるいはだれかの子供を誘拐して身の代金を要求しようというものが入る、それでも入ったら切るべきだということが本当に妥当なのかどうか。形式的に将来の犯罪ですとだめだとなりますと、実際に子供が誘拐されてから、あるいは人が殺されてから捜査してくれ、こういうことにもなるのではないかと思うのですが、この点、神参考人はどのようにお考えになるでしょうか。 <0042>=参考人(神洋明君)= そういうことも想定されると思います。 <0043>=大森礼子君= じゃ、そのようになったとしても、もしかしたらこれはたまたま起こった場合だと思うんですけれども、そうすると、将来遺族になりそうな人は、夫が殺されたことにしましょうか、やはりとめてほしいなとか思うかもしれないんですが、そういう場合でも、そのような重大な犯罪、短期一年以上、これは重大な犯罪に絞りましたけれども、やっぱり人権を守るために切るべきだというお考えと、このように理解してよろしいでしょうか。 <0044>=参考人(神洋明君)= はい、そのとおりです。  先ほど抜本的な修正として三点ほど述べましたが、まだそれでは実は足りないんです。ですから、そこをちょっと言わせていただきたいと思っております。  まず、該当性判断のための傍受についてのシステム、要するに最小化の法則です。これはきちっとした形で、いわゆる捜査官の側に任せるだけではなくて、国民監視のもとできちっとしたマニュアルづくりがされなければいけないというふうに考えています。  それともう一つは、立ち会いの問題です。立ち会いの問題について、やはり外形的な立ち会いだけで足りるとするのには問題があると考えております。やはり、それなりの専門家が立ち会って違法な傍受をチェックするということが必要ではないかと思っています。とりわけ、先ほど申し上げましたように、日本の捜査機関には、欧米諸国に比べて捜査機関内部にチェックをしようという、いわゆるお互いをチェック・アンド・バランスで抑えようという機能がないというふうなことを考えた場合、ぜひ必要だと考えております。 <0045>=大森礼子君= 該当性判断の最小化については、質疑等を通じてもきちっとしていきたいというふうに思っております。  それで、田口参考人にお尋ねしますけれども、今、立会人の問題が出ました。外形的チェックだけではだめだというのですけれども、この常時立ち会いにした意味というのは、先生おっしゃったように、傍受媒体のその正確性の担保といいますか、これを担保することで、一たんかちっとしたものができますと、いざ見られたら全部ばれてしまうとなりますと、これはやっているときにも心理的抑制というのはかなり働くだろうというふうに私は思います。  それで、この立会人に切断権を認めるということは、中身を聞かせるということです。そうしますと、いろんな必要な情報というもの、犯罪事実の要旨とか交友関係とかも知らせなくてはいけないと思っています。それから、聞くべき犯罪関連通信を切断されても困ると思うんです。だから、その専門的知識を持った人の手当てができるかという問題がありますが、この立会人制度について先生の御意見をお伺いしたい。  それから、もう一点なんですが、この切断権というのは、要するに判例から来ているわけです。裁判官が条件として切断権を認めた、そこから来るわけですが、あれは検証令状の場合でありまして、事後的チェックとか何もない。そして、テープにとったらそれはそのまま警察が持って帰るわけで、一たん令状を出したら裁判官の手が及ばないという事情もあったので、やむを得ず条件として最小限の担保として、効果的かどうかわからないけれどもつけたのではないかなと私は個人的に理解しております。一方で、こういう記録媒体に全部残すということで、この担保があるのであればまた切断権のとらえ方も違ってくるのではないかと考えておりますが、この点について御意見をお聞かせいただきたいと思います。 <0046>=参考人(田口守一君)= お答えします。  大森議員のおっしゃったとおりだと思います。  まず、切断権の問題ですけれども、今回の場合に、令状が例えば十日間出るということになりますと、十日間立ち会って、しかもすべての内容を聞かなければならない。しかも、今御指摘のように、犯罪関連通信でありまして、いろいろな情報が入ってくる。どれが関連しているかどれが関連していないかということをすべて立会人が判断しなければならない。捜査機関ではない第三者、すなわち捜査の情報を十分心得ていないといいますか、当事者ではありませんから、そういった立場の人にそういった重大な責務を負わせるということは無理だろうというふうに思います。  それから、今御指摘のように、従来の検証令状の場合は、過去に五件例がありますけれども、すべて譲渡罪といいましょうか、覚せい剤の譲渡というふうに非常に限定されたものであります。したがって、覚せい剤を例の非対面式という形で今の御指摘のパケを渡すわけですけれども、それにかかわる通話かどうかという形で検証令状の通話の範囲というものは相当明らかであるということから、物理的に可能であるから判例はそれを認めたのであろうというふうに思います。  それは、今御指摘のように事後の封印、保管制度というものが現在あるわけですから同列ではないというのは御指摘のとおりですけれども、それのみならず、そこで問題になっている犯罪、そして通話の内容というもので、法案の場合と検証令状の場合とでは事情が違うであろうというふうに理解しております。 <0047>=大森礼子君= それでは、村井参考人にお尋ねいたします。  捜査の必要性とそれから新しい犯罪捜査の関係、要するにそういう手法が憲法上許されるかどうかということをお述べになりました。この通信傍受法案につきましては、通信の秘密との関係がまず一番に来ると思うのですが、一方で、刑事訴訟法の百条に郵便物等の押収の規定がございます。それで、私は、口頭会話の電話の場合よりもやっぱり本当に秘密は信書に書くのかなと。信書開披罪なんかも認められているわけですが、これは非常に大きな通信の秘密ですね。この条文をめぐっては特に憲法上問題にならなかったのかどうか。  それから、該当性判断を認めること自体を問題にされる方もいらっしゃいます。もちろん、これは最小化ということでチェックしていかなきゃいけないわけですけれども。例えば押収なんかの現場ですが、メモとかいろんな備忘録とかそういうもの、中身を見ませんと本当に押収すべきものかどうかということがわかりません。あるいは、手紙類も読みます。そうしますと、やはりそれも一つの該当性判断の行為なんだろうと思うんです。通常の押収のところで、そういうことはプライバシーの侵害であるとかいう問題はこれまで起きなかったのかどうか。  今、この通信傍受をめぐってはプライバシーの問題がいろいろ議論をされていますが、これが通信傍受についてだけの特異な問題なのかどうか、こういう観点からお尋ねしたいと思います。 <0048>=参考人(村井敏邦君)= 刑事訴訟法百条、郵便物についての規定と通信傍受というのがよく並列して出されるわけですけれども、先ほどおっしゃったのとは違った意味で、確かに郵便物と通信というのは異なるわけです、むしろ。郵便物の場合には思想とか意思とか、いわば活字、字としてもう既にそこにあらわれているわけですね。具体的に顕現しているわけです。ところが、先ほども言いましたけれども、通話というのは、話というのはまだこれから出るかどうかわからない。先ほどから言っているように、将来の事象にかかわるわけですね。この点が基本的に異なるわけで、それを同じ談で議論するわけにはいかないだろうというのが第一点。  それから、そもそも百条の規定そのものについても、先ほど言った通信の秘密との関係からやはり本来は限定すべきであるというふうに私自身は考えております。 <0049>=大森礼子君= それでは、最後に一点やはり村井参考人にお尋ねいたします。  この検証許可状に基づく電話傍受、これは札幌高裁で争われた事案で、このときにある事実に基づいて令状が発付されます。そして、この電話傍受の際に、過去に行われた犯罪のみならず、現に行われており将来も行われようとしている犯罪について通話がなされることが判明した場合といったような要件があって、それを聞くことができる、証拠とすることができるとありますが、この判例の考え方は先生のお考えからしますともう違憲に近いということになりますでしょうか。簡単で結構ですが。 <0050>=参考人(村井敏邦君)= そうですね。結論から言いますとそういうことになります。 <0051>=大森礼子君= 終わります。 <0052>=橋本敦君= 日本共産党の橋本でございます。  きょうは参考人の皆さんありがとうございました。  最初に、村井先生に御意見をお伺いしたいと思うんです。  何といっても我々の憲法二十一条二項というのは、法律の留保なしに通信の秘密を基本的人権の重要な問題として保障しておることは言うまでもございません。例えば、サミット諸国の中で通信傍受法案、いわゆる盗聴法案がないのは我が国だけだということがよく関係者の中で言われております。私は、憲法二十一条二項あるいは十三条あるいは三十五条、三十一条、こういった関係から人権を保障し、容易なことで通信傍受といういわゆる盗聴手続を警察官憲に認めないという、そのこと自体がむしろ日本としては世界に誇っていい問題ではないかということを考えておるんですが、国際的な状況から見て、そういったことについて村井先生はどのようにお考えか、まずお伺いしたいと思います。 <0053>=参考人(村井敏邦君)= おっしゃるとおりで、私も必ずしも国際的にいわば圧力があるからということで認めるべき筋合いのものではないというふうに思います。日本としての立場からきちっとしたことをそれなりに発言するというのは重要なことであるわけで、日本の場合には憲法が基本的人権についてはアメリカ憲法以上に厚くこれを保護しているということ、それから、これは既に別の本で書いておりますので詳しいことは言いませんけれども、憲法三十五条の内容についても、アメリカの修正条項などとはかなり違って令状主義が非常にはっきりと出されているということ、そういうようなことを考えて、日本としての基本的な姿勢を示すべきであろうというふうに思います。 <0054>=橋本敦君= 次に、神先生にお伺いしたいと思うんです。  先ほどもお触れになりましたけれども、立会人の切断権がないという問題が一つ重要な問題だというお話がございました。私もその点は非常に大事だと思っておるんですが、該当性判断、試し聞きということで行われますから、いろんな通信が聞かれるわけです。ですから、一定の犯罪容疑者と関係がある会社あるいは市民団体あるいはよく行く喫茶店、どこで盗聴が行われるか、それは予測がつきません。そういったところへ多数の市民からいろんな電話が入るわけです。ですから、私はこの該当性判断ということをやらなければ犯罪関連通信が特定できないという、そこのところにそもそも通信傍受、いわゆる盗聴法の重大な人権侵害の危険性の一つがあると思うんです。  そこで、その該当性判断を最小法則ということで、スポットモニタリングということでやると政府は説明するんですが、そのスポットモニタリングというのをだれがどこで決めるかというと、法案で決めるわけじゃなくて警察の担当者の方が決めるということになっておりますので、全くそれが法的保障の範囲外に置かれてしまっているわけです。しかも、スポットモニタリングというマニュアルをつくっても、もうすこし聞いてみなければもう少し聞いてみなければという捜査意欲がありますから、結局全部聞いちゃったということになって、それはスポットモニタリングが機能しないわけですね。ここらあたりが私は人権侵害を引き起こしやすい重大な問題点の一つと思っておりますが、いかがお考えでしょうか。 <0055>=参考人(神洋明君)= 橋本委員がおっしゃるとおりだと私も思います。  その意味では、該当性判断をしなければならないこと自体、一つの大きな問題が潜んでいる法律だと思いますし、スポットモニタリングについても、そのスポットモニタリングがきちっとなされるかどうかということについての保証がないということも言えると思います。 <0056>=橋本敦君= その点に関して村井先生は、先ほど令状の提示の問題を御指摘になりました。令状の提示がない、当事者の知らない間に聞くというところにこの通信傍受のまさに捜査の本質的なところがあるわけですから、令状提示はもとより考えていないわけです。  そうなりますと、防御権の行使ということについて重大な問題があるという御指摘がございました。そこのところ、防御権の行使というのは被疑者の防御権の行使というように普通とられますが、ひそかに電話を聞かれた一般市民のプライバシー保護という観点から見て、その点はどんなふうにお考えでしょうか。 <0057>=参考人(村井敏邦君)= 一般市民の点からいっても、自分が話している会話が傍受されているということはあらかじめわからないわけですから、その点では大変にプライバシー侵害は大きいというふうに考えます。  私は、令状が提示できる場合というのもないわけではないだろうというように考えていますが、これは、一方当事者が同意している場合、例えば脅迫電話などのような場合、被害者が同意しているような場合には被害者に令状を提示して傍受するということは可能なわけですけれども、これは実は本法案の中では令状の要らない傍受ということになっています。それはおかしいのではないか。むしろ、こういう場合こそ一定程度、他方当事者について問題がありますけれども、これは現に犯罪が行われているということでありますから、その点では一方当事者への少なくとも提示の可能な同意盗聴こそまさに通信傍受法案で認めるべきことではないかというように私は考えております。 <0058>=橋本敦君= それから、次の論点として通知の問題がございます。先ほども神先生の方から若干お触れになりましたが、傍受をした相手方に対して全然通知が行きませんと、これはみずから不服申し立て、あるいは自分が盗聴されたプライバシー侵害に対する救済手続がどこに対してもとれないわけです。  この法案では、刑事手続用の傍受記録に記載される当事者しか通知が行きませんから、したがって刑事記録に記載される当事者以外の盗聴されたと言われるすべての人に行かないわけですから、不服の申し立てのしようもなければ事後救済処置もない。これは私はやっぱり人権保障という観点からして大変な問題だと思うんです。  それぞれ通知をすること自体が、あるいは通話の逆探知をしなきゃならない、住所を特定しなきゃならないと。あなたの電話が実はあるときに聞かれたのですよということを知らせること自体が人権上問題があるという説さえ言われる場合があるんです。私はそれは全く違うのではないかと思っておりますが、そういう通知の問題について神先生の方はいかがお考えでしょうか。 <0059>=参考人(神洋明君)= 要するに、捜査機関においてみずから話した内容が聞かれているということ自体がもうプライバシー侵害そのものであります。したがって、聞いた以上は通知をするというのが原則でなければいけないので、この法律案によれば、今委員のおっしゃるように、犯罪に関連がなかったからということで何ら連絡が行かないというのは問題だと考えております。 <0060>=橋本敦君= それからもう一つ私が心配をしておりますのは、この法案では、傍受をいたします、そして原記録は封印をして裁判所に行くんですが、複製をしたものから刑事手続用の傍受記録を警察の方がつくります。そこで犯罪の関連性のない通話は消去する、こうなっています。その消去するときに立会人がいるのか、これは立会人はおりません。立会人は封印して原記録を出すだけです。ですから、実際に消去したのかどうかということが法的、制度的に一体どこでどう担保されるのだろうかということを私は心配するんですが、その点について神参考人の御意見はいかがでしょうか。 <0061>=参考人(神洋明君)= 先ほどの意見陳述でも述べましたように、この消去システムがこの中に規定されていません。流用してはならないという規定がありますが、これに違反した場合の処罰規定も何もありません。その意味ではやはり問題があると思います。この法律には、そういった意味では、いわゆる警察がその流用をしない、あるいは消去をするシステムがきちっとされるというような手段、方法が講じられる必要があるのではないかと考えております。 <0062>=橋本敦君= いわゆる該当性判断にしろ別件傍受と言われる問題にしろ、いずれにしても最小化処置といいますか、最小限でないといけませんよということは言われているわけです。ところが、その最小化処置の中身というのは一体だれがどこでどう決めるかといいますと、この法案ではどこが決めるともはっきり書いていないわけで、刑事局長の答弁では捜査担当官の方でそれを決め実際運用する、こうなっているわけです。  そうなりますと、最小化処置というのは、基本的人権の保障的機能をもうそもそもその出発点から持ち得ないのではないか。例えば、最小化処置の一分間聞いてスイッチオフして、電話が継続していれば三十秒たってまた聞くというようなことを仮にスポットモニタリングとして決めても、それに違反した制裁もなければ、そもそもそのマニュアル自体が国会の論議や審査の対象にならないし、規範的力も持ち得ない。こういうことになりますと、これは結局人権侵害的傍受を防ぎ得ないというように私は思わざるを得ないんです。  アメリカでも最小化処置というのはありまして、これは私から言うまでもございませんが、ある意味では日本より厳しいところもあります。それでも、アメリカでも言われておりますように、司法統計もありますけれども、スタインハードさんの講演なんかを読みましても、一九八四年から九四年の十年間で犯罪関連通話の割合はどんどん低下をして、二五%から一七%低下している、逆に犯罪に直接関連のない通話が八〇%以上ふえた、こういうことです。  ですから、アメリカでも最小化処置ということを言っていてもこういう人権侵害が起こるわけですから、まして日本で今言ったように最小化処置それ自体が明確な法的規範力を持たない場合は人権侵害のおそれが大変大きいと私は思うんですが、この点についてお三人の先生の御意見を伺って、時間ですから私の質問を終わりたいと思います。順次お願いをいたします。 <0063>=参考人(神洋明君)= おっしゃるとおり、最小化措置をどこでつくるかということについては政府答弁でもなされておりません。先ほどから申し上げているように、最小化措置は、やはり国民の監視のもとで規則化されるなりあるいは例えば最高裁規則に譲るような形をとって、弁護士も含めた法曹三者の中で、あるいは警察も含めた捜査機関の実情のわかる者も入れた形でなされる必要があるのではないかというふうに思います。  それと、これに違反しても制裁がない、おっしゃるとおりであります。アメリカの場合について申し上げますと、先ほどから申しているように、要するに違法収集証拠の排除法則が徹底しておりますので、これに違反したことがなされれば、実際問題、公判においてそれは証拠として使えなくて結局やったことがパアになる、こういうような心理的な圧迫の中で彼らはやるんです。ところが、日本においては残念ながら違法収集証拠排除法則が徹底していません。その中で最小化法則といってもやはり懸念されるような問題が残らざるを得ないと思います。  その意味で、私ども日弁連では、違法収集証拠排除法則の徹底というのは、少なくともこのような大きな制度を設けるのであれば、通信傍受に関しては徹底してほしいということを言っているのであります。 <0064>=参考人(田口守一君)= お答えします。  スポットモニタリングというのが適正に行われるかという問題ですけれども、三点ほど申し上げますと、第一に、該当性のない一般通話といいますか、これを聞くという問題については、先ほど大森委員から御指摘のあったように、通常の捜索でもあり得る問題であることが一つです。  それから第二点は、法的救済措置がないという点ですけれども、この点については先ほど申しましたように、傍受原本の保管というところにこの法律は期待している、それによってどういう救済が得られるかはこれからの問題ですけれども、そういう法律になっているということが第二点であります。  第三点は、今、神さんの方で御指摘のありました排除法則ですけれども、当該被疑者、被告人が起訴された場合には、排除法則は当然働き得るというふうに考えます。  以上です。 <0065>=参考人(村井敏邦君)= この法案全体を通じてまさに違法に対する担保がないということが大変に問題だと思います。  今、最後の違法排除の点からいいますと、神さんもおっしゃいましたように、違法な場合に排除するというのはありませんし、さらに違法な盗聴を行った場合の制裁というのはありません。電気通信事業法等に違反した場合ということだけで、これはもう従来からあったことであって、先ほどのようにスポットモニタリングをはみ出した部分については違法になるわけですけれども、それに対してこれは違法な盗聴だということで処罰するという規定を最小限本来設けるべきでしょうが、それもありません。  さらに、アメリカとの比較でいいますと、アメリカの場合には傍受の経過を逐一裁判官に知らせるということがありますけれども、そういう規定も持っておりません。そういう意味で、こういうスポットをきちっと保障するような制度を欠いているということになります。 <0066>=橋本敦君= ちょっと時間がありましたので、一点だけ。  実際問題として、この通信傍受法案、いわゆる盗聴法案が実施されても、犯罪組織というのはそれなりに対応しますので、したがって基本的に組織犯罪ということで言う団体の、組織的な犯罪団体の中枢に迫る、そういう意味での捜査には実際は役立たないのではないか。  例えば、アメリカで通信傍受が随分行われておりますが、マフィアの幹部が通信傍受でひっかかったという例はない。もちろん、そういうことはやらないわけです。したがって、結局末端の者しかやれないのではないかという意味で、経費と効率との対比でアメリカでもかなりの批判が出ているという文献もあるわけです。  そこらあたりについて、田口先生はどうお考えでしょうか。 <0067>=参考人(田口守一君)= この法律は、先ほど申し上げましたように、犯罪関連通信の蓋然性を示す疎明資料がないと令状は出ないというシステムになっているわけであります。ですから、この令状を出すときには、この通信設備において法案の示すような犯罪関連通信が、これは蓋然性ですけれども、何らかの通話がなされるであろうということを示す根拠資料が何かあるに違いない、供述かもしれませんしそれまでの電話の使用回数ということかもしれません、その辺はわかりませんが、そういった可能性を示すものが何かあるというので、その可能性にかけるということだろうと思います。  その結果、御指摘のようにその効果が上がるかどうかという点については、それは何とも今は判断できません。 <0068>=橋本敦君= 終わります。 <0069>=福島瑞穂君= 社民党の福島瑞穂です。きょうはどうも本当にありがとうございます。  先ほど千葉景子委員の方から神先生の方に対して、国際化という点で質問がありました。私もちょっとその点を質問させていただきたいと思います。  国際人権規約B規約など、規約人権委員会から日本政府はたびたび勧告を受けておりますが、その辺については法的拘束力は何もないということで、代用監獄の廃止その他については全く実現しておりません。  ところで、国際的な要請ということをこの盗聴法、組織的犯罪対策三法案についてはよく言われておるんですが、日本は現在国際的な要請と言われていますけれども、どういうものが言われているかについて教えてください。 <0070>=参考人(神洋明君)= アルシュ・サミット宣言におけるFATF、金融活動作業部会というものがあるんですが、ここで要請されているのはマネーロンダリング規定についての問題だけであります。通信傍受については要求されておりません。現在、何か法務省は、日本がこの議長国になっているということでこの法律案を急いでいるという話も伺っております。  それともう一つ、国際的要請といった場合に、現在、国連の国際組織犯罪防止条約の起草に関する委員会というのがウィーンで開かれておりまして、約三カ月に一遍ほどずつこの会議は開かれております。この中で今国際的に何が必要かということについて議論されているのは、実はマネーロンダリングであります。通信傍受についてはまだ具体的な議論に入っておらず、これからの問題となっております。  したがいまして、今早急に通信傍受のような法律案をここで通すということは必ずしも国際的な要請があってではないというふうに言えると思っております。 <0071>=福島瑞穂君= 先ほど村井参考人の方から令状主義の問題点などについて教えていただきました。私自身もこの盗聴法で一番懸念するのは、今までの刑事法概念を大きく変えてしまうだろうということです。  それで、まずお聞きしたいのは、事前盗聴の件について先ほど少し話をしていただきましたけれども、事前盗聴、予備盗聴、別件盗聴の規定がありますが、特に問題がある事前盗聴についてもう少し話をしていただけますでしょうか。 <0072>=参考人(村井敏邦君)= 事前の、いわば本来の犯罪の準備のための事前盗聴ということですね。 <0073>=福島瑞穂君= はい。 <0074>=参考人(村井敏邦君)= これは犯罪関連性一体となるものというふうな形で修正がされておりますけれども、そもそも当該犯罪ではないものについて令状なしに盗聴するということですから、これ自体としてやはり本来ならこれも令状が必要です。なぜ、準備のためだから許されるのかというのは、もうひとつよくわからないです。  限定したというお話ですけれども、長期二年というのは実は必ずしも限定にならないので、かなりの犯罪がここに含まれてきます。  したがって、こういうような形での準備のための犯罪だからいいというのでは、これは正当化するわけにはいかないだろうというふうに思います。 <0075>=福島瑞穂君= 犯罪を個人の内心ではなくて個人の外部的行為として近代刑法は考えてきたと思います。今回の法案に関しては司法警察と行政警察が混同するおそれがあるのではないかということを村井参考人は先ほどおっしゃいましたけれども、この行政警察と司法警察の混同が起きるのではないかという点について、もう少し話をしてください。 <0076>=参考人(村井敏邦君)= 先ほども言いましたように、犯罪捜査というのはいわば司法警察活動で認められていることなわけですけれども、この犯罪捜査というのは犯罪が起きてからだというのが、先ほども言いましたように従来の概念です。先ほどちょっと別件捜査のところで大森議員の方からありましたけれども、それまでは犯罪予防なんです。  犯罪予防のためにどうするんだという議論をされました。まさに犯罪予防のための別件盗聴といいますか、別件事件の傍受という形を認めるということになりますと、これは従来の司法的作用ではないわけですね。これを犯罪の予防というのと犯罪の捜査というのを分けてきたというのが司法警察と行政警察の別なんです。刑事訴訟法と警察官職務執行法の別というのはここにあるわけです。 <0077>=福島瑞穂君= 同じ点について、神参考人、いかがでしょうか。  つまり、今回の法案が行政警察と司法警察の混同を起こす、そういう場合に、ともすれば、捜査ではなく、村井参考人がおっしゃいましたけれども、犯罪予防という名の情報収集がされるのではないかというふうな懸念もあるわけですが、いかがでしょうか。 <0078>=参考人(神洋明君)= 村井参考人がおっしゃったとおりだと私も思います。 <0079>=福島瑞穂君= 令状主義のことを先ほど村井参考人は特に言っていただきました。まず第一に令状の特定性の問題、第二に令状の提示が要求されているけれどもそれができないのではないかという問題などをおっしゃっていただきました。その問題と通知の問題というのは関係すると思うのです。  つまり、もし私自身が令状の交付を受け、例えば私の使う電話、ファクス、Eメールが全部盗聴の対象になっている、一カ月の間に物すごい数の人と私は通信を行った、一カ月私を盗聴したけれども何も犯罪関連通信は出てこなかった、要するに刑事傍受記録に記載される通話はなかったとしますと、私にも通知はありませんし、私と通信をしたおびただしい人たちにも通知が行かないわけです。つまり、強制処分が実際はなされた、しかし私もほかの人もだれ一人としてそれを知ることができないわけです。こういうことは刑事法の学者の方としてどういうふうに考えられますでしょうか。 <0080>=参考人(村井敏邦君)= 従来の押収ですと、押収目録というのを渡して何が押収されたかというのを通知する形になっております。これによって、自分の何が、押収されてはならないようなものまで押収されているというのがチェックできるわけですけれども、今回の通信傍受に関してはそれは全くできません。全くできないのみならず、通知されないということです。通知されないということで、従来の押収という概念とは全く違うものですから、我々刑事訴訟法の学者、私としては、やはり従来の捜査手段という観点から見ますと今回のは異常な手段であるというように考えざるを得ません。  その意味で、プライバシー侵害は大きく、少なくともプライバシーを侵害したということを正当化するだけの担保というものを保障すべきなのにそれがないということに大変な懸念を抱いております。 <0081>=福島瑞穂君= 通常の捜索であれば、例えば私が逮捕される、あるいは私の家を捜索される、私はそれに対してすぐさま準抗告をする、あるいは国家賠償請求裁判を起こすということができるわけですけれども、もちろん私自身に令状の提示はありませんし通知もありません、私と会話をした人にも通知が行きません。そうすると、そもそも通知をされない人間は強制処分を受けても準抗告、国家賠償請求訴訟などの手段がとり得ないわけですけれども、村井参考人、この点についてはいかがでしょうか。 <0082>=参考人(村井敏邦君)= 大変に問題のところだと思います。一応不服申し立ての規定がありますけれども、通知がなければ不服申し立てができないというのはまさにそのとおりでして、通知自体もおくれても構わないという形になっておりますので、それ自体として救済の手段がどうも十分に備えられていない。  さらに、先ほどの立会人とのかかわり合いでもそうですけれども、該当通信であるかどうかのチェックができないということで、そういう点から考えても、その都度にチェックをし、さらに不服を的確な形で提起するということがこの通信傍受に関してはできないという点で大変に問題だろうと思います。 <0083>=福島瑞穂君= スポットモニタリングということがよく政府の側から説明があるのですが、これはつくると言われているマニュアルにすぎず、条文上には明確に、例えば三十秒聞いてやめるというふうなものは書いてありません。  それからもう一つ思うのは、先ほどお三方がおっしゃったように、インターネットの関係についてはまだ検討が必要ではないか、考慮が必要ではないかという趣旨のことをおっしゃいましたけれども、スポットモニタリングというマニュアルがきちっとできたとしても、電子メールやファクスについては読まなければ中身がわからないわけで、しかし読んでしまえばもう情報としては知ってしまうという問題があります。  その点については、神参考人いかがでしょうか。 <0084>=参考人(神洋明君)= まさに福島委員がおっしゃるとおりであります。読まなければわからない。その意味では、現在の法律案はインターネットについてきちっとした規定がないと言わざるを得ないと思います。あくまでも電話を想定した形での法律案にすぎないという意味ではインターネットの場合についての検討が必要ですが、それをどうするかということについては、やはりもう少し議論が必要ではないかと思います。  恐らく、立法者の意図といいますか、法務省、政府の意図は、暗号あるいは外国語と同じように翻訳過程でわかったらなくするというような形のものと同じようにインターネットを考えていると思います。しかし、インターネットに関して言えばもう全部という形になるので、その意味で果たしてこれが適当かどうかということも十分に検討が必要だと思います。 <0085>=福島瑞穂君= 補充性の要件についてなんですが、三条では、「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときは、」というふうになっております。参考試案では、「犯人を特定し又は犯行の状況若しくは内容を明らかにするため他に方法がないと認められるとき」と。「他に方法がない」という文言と「著しく困難である」というのは言い方が違います。  よく政府の方から盗聴は最後の手段だという説明を受けるんですが、実際盗聴法ができた後、その運用において本当に最後の手段になるだろうか。予備盗聴、別件盗聴、事前盗聴を認めておりますので、捜査の端緒という側面になっていってしまうのではないか。  ですから、令状の発付をするときには書くけれども、実際の使われ方はどうなるだろうかということについて、神参考人と村井参考人にお願いいたします。 <0086>=参考人(神洋明君)= これは最後の手段だというのは、恐らく政府答弁では出ているんでしょうけれども、この規定だけからそれを最後の手段と読むことはできないと私は考えております。  これを最後の手段だというのであれば、アメリカでの要件がこのように規定されています。通常の捜査手続が見られたが失敗に終わったこと、通常の捜査手続が成功する見込みがないと考えられる合理的な理由があること、または通常の捜査手続は危険過ぎると考えられる合理的な理由があることという形で、かなり具体的に規定がされております。日本の規定の仕方は極めて抽象的で、これは解釈いかんによってはいかようにもできるものではないかという点で疑問があると思います。 <0087>=参考人(村井敏邦君)= 著しく困難であるというのと他の手段がないというのとは明らかに違うということが言えますから、その意味では、著しく困難であるということをもって最後の手段ということにはならないだろうと思います。  最後の手段であるならば、果たして必要であるかということにもなります。先ほども言いましたけれども、「犯人を特定し、」というような要件が果たしてこの場合に有効に働くかというと、犯人はある程度特定されているのではないか。そうなると、犯人を特定するための傍受というのはある意味では無用なものだということになります。  むしろ、捜査の端緒だけに限るべきだという議論もあり得ると思います。証拠としては用いられないということですね。これはドイツなんかであるわけですけれども。そういうような場合に、捜査の端緒を求めるだけだということになると、そういう形で限定したとすれば、裁判で出てこないわけですから、その事前のチェックというのをよほど厳密に決めておかなければならない。公的な形でそれが乱用されないというだけの、もうこれ以上に、この傍受法案で私がいろいろ指摘したこと以上に、捜査の端緒だけに用いる場合にはそれの公明性が明らかでなければならないということになるだろうと思います。 <0088>=福島瑞穂君= 特に、事前盗聴を認めているということは、補充性の要件とどう論理的に結びつくだろうかということを考えることがあるんですが、その点についてはいかがでしょうか。村井参考人にお願いします。 <0089>=参考人(村井敏邦君)= 事前の盗聴を認めるというのは、まさに補充性の要件それ自体としては事前盗聴の部分については満たさないわけですから、この要件外のところに事前盗聴があるということになるだろうと思います。 <0090>=福島瑞穂君= この参議院の法務委員会でも、あるいは参議院の予算委員会でも衆議院の法務委員会でも大変議論になったことは、緒方靖夫さんの盗聴事件あるいは警察の裏金問題などの組織的な問題です。  御存じのとおり、地裁、高裁は警察の組織的犯罪であるというふうに民事の裁判では判決が出ましたけれども、残念ながらと言ってもいいと思うんですが、警察は警察がやったということをいまだに委員会の中でも認めておりません。  きのう、衆議院の法務委員会で、民主党の枝野議員が警察の裏金問題の質問をして政府の答弁がはっきりしなかったために、委員会がそのままとまってしまうということになりました。  先ほど、司法警察と行政警察の混同が起きるのではないかという指摘がされましたけれども、私自身は、例えば司法警察と行政警察がまざるというふうになると、一つは、日本はかつて治安維持法があり、さまざまな宗教団体、共産党員の人、市民活動家、ジャーナリストが弾圧されたという非常に暗い歴史があります。その第一の問題と、第二に、司法警察と行政警察が概念的にまざる状況になったときに、緒方盗聴事件のようなことをきちっと総括していない限り、今後情報収集としてなされる危険性がより強くなるのではないかというふうに思いますが、それについて村井参考人の方からお願いいたします。 <0091>=参考人(村井敏邦君)= 私も、捜査手段としての通信傍受を議論する場合の前提条件として、違法が行われないということが保障されなければならないというふうに思います。  ところが現実には、通信傍受が認められていない緒方邸の通信でさえ傍受され、それを裁判所が組織的なものであるということを認定してもなお認めない警察にこの通信傍受を認めていいかということは、これは国民の立場からいいましてやはりそれは困るというように考えざるを得ないんです。  その点、ぜひこれは捜査手段として有効だから認めてほしいということになりますと、少なくとも認めるための議論といいますか、認めるか認めないかを国会で議論するための前提としては、その点について本来は警察の方が、いや、従来やったのはまずい、今後はそういうことはないということを単に言葉だけではなくしてきちっとしたことで示す、それを信頼させるだけの何らかのものを示さなければいかぬだろうというふうに思います。その意味では、まだ通信傍受法案について議論するだけの前提が整っていないというように私自身は考えています。 <0092>=福島瑞穂君= 時間が来ました。どうもありがとうございました。 <0093>=平野貞夫君= 三人の参考人の先生方のお話は大変勉強になりました。質問をされた四人の法務委員の方々はいずれも弁護士の先生方でございまして、私は法律の専門的な知識がございませんので、ごく一般国民の立場からお尋ねしたいと思います。  最初に確認をしておきたいんですが、神参考人、冒頭に、基本的に日弁連の立場でというお言葉があったと思うんですが、日弁連の立場でお呼びしているわけじゃないと思いますので個人的な意見を大胆にお聞かせいただきたいと思うんです。  お話の中に、人権は国家との関係で保障されるべきものだ、こういうお話があったんですが、もうちょっと詳しいことを聞きたいんですが、例えば制限されることはあってはならぬというお考えでしょうか、そこら辺について。 <0094>=参考人(神洋明君)= 先ほどの意見陳述の際も申し上げましたように、内在的な制約というのは私も否定をいたしません。公共の福祉による制限ということはあり得るだろうと思います。  ですから、これが保障されるといっても、絶対に保障されて、ほかのどんな事情があってもその場合はだめだという趣旨ではありません。 <0095>=平野貞夫君= 組織犯罪三法の議論の第一点は、基本的人権と公共の福祉との調整といいますか調和をどうするかという問題だと思うんですが、公共の福祉の中には危機管理とかあるいは秩序、こういったものは含まれるとお考えでございましょうか。 <0096>=参考人(神洋明君)= 私は、危機管理だとか秩序というのは本来的には入ってこない。恐らく、公共の福祉といった場合には、他の人権との調整という形のものが一番大きいものと考えております。 <0097>=平野貞夫君= 日本国憲法の公共の福祉との調整というのは、解釈、運用というのは学者の先生方によっていろいろあって非常に難しい問題なんですが、私が承知していますところ、基本的人権と公共の福祉、日本国憲法の運用に当たって基準とすべき考え方に国連の行った世界人権宣言があるんじゃないか。ほぼ同趣旨で日本国憲法はつくられている、世界人権宣言の方が後でございますが。  多くの憲法学者の先生方はその人権宣言の二十九条二を引用しておるんですが、そこには、何人もその権利及び自由の行使において専ら他人の権利及び自由に対する当然の承認と尊重とを保障する目的のために、また民主主義社会における道徳、公の秩序及び一般的福祉の正当な要求に応じる目的のためにのみ法律によって定められた制限には服さなければならないと定めておるんです。  世界人権宣言には公の秩序という概念があるわけでございますが、私は神先生の意見とちょっと違うんですが、公の秩序、これは別に国の秩序というだけじゃないと思うんです。状況によっては制限されるべきではないかと思いますが、いかがでございましょうか。 <0098>=参考人(神洋明君)= 一般的に、私ども、公の秩序といった場合には、先ほど村井先生からも話がありましたが、例えばそのこと自体が犯罪に密接な関連を持っている、これはやはりそのまま放置できないという意味では公の秩序の問題になると思うんです。そういった意味合いでの制限というふうな理解と考えるべきではないかと思っています。 <0099>=平野貞夫君= ちょっと話題を変えますが、村井先生のお話の中に非常に重要な指摘があったと思います。私はこの三法案成立推進論でございますので村井先生の立場とは逆でございますけれども、問題点の指摘においては同じ認識をしております。  それは、この三法案は、三法案のことだと思いますが、捜査概念の変更でありそれは日本社会の諸概念の変更につながることだから云々というお話があったんですが、私もそのとおりだと思います。この三法案、わけても通信傍受法案は、やはり今までの捜査のシステムの概念を画期的に変更するものだという認識でございます。  問題は、なぜ変更しなきゃならないのか、その理由。先生は、必要性だけじゃなくて妥当性も考えろ、議論しろとおっしゃっていただいたんですが、この問題は何も通信傍受法案の問題ではなくて、現在我が国が当面しているあらゆる問題の根本だと思います。もちろん、我が国の文化とか歴史とかそういったものを無視するわけにはいきませんが、やはりさまざまな点において大胆な変更、改革をやっていかなければ、国家だけじゃなくて社会の存立にかかわる、我が国は今非常に危険な状況にあると思っております。ですから私は、組織犯罪三法案もそういう位置づけで推進論なんです。  ただし、やっぱり大きな概念の変更ですから、一挙に完璧なものはなかなか難しいと思いますし、そこにさまざまな問題があることも承知しております。諸先生方との質疑の中での御指摘にも傾聴すべきものが私もあると思っております。  率直に申しまして、例えば覚せい剤の問題一つ取り上げましても、田口先生からも資料が提出されておりますが、昭和五十年代から六十年にかけて第二期の覚せい剤乱用時代があるわけです。昭和六十年に当時の警察庁の専門の人がかなり客観的にいろいろなデータを使って密輸入されている覚せい剤を約七トンと推測しております。  現在、どのくらい密輸入されているかということは推測できないわけですが、それを基準に考えまして、ことしの上半期一トンを超える押収量からいいまして想像を絶する物すごい量が密輸入されておると思います。私は、多分三十トン以上だというふうに推測しております。  なぜ私がそういうことを申し上げるかといいますと、私の生まれた高知県で昨年の秋、末端価格二百億の覚せい剤が海岸に流れ着いた、これは今まだ捜査中だそうでございますが、そのときの警察庁の報告によりますと、その事件に関して関係者の携帯電話の押収は四個、それから土佐清水港の沖に投げ捨てた携帯電話一個、五個の携帯電話がさまざまな形で使われておる、こういう警察庁のお話もございます。同時に、そういうことが頻繁に起こる可能性もあり、仮に覚せい剤三十トンが密輸入されているとしますと、概略一千五百万人ぐらいの人間が一週間に一回覚せい剤を使用するというようなデータで、しかも中学生、高校生、主婦、そういう層に侵入していて、私は、平成のアヘン戦争が国際的な犯罪組織によってもうしかけられている、覚せい剤一つとりましてもそういうふうな極めて深刻な状態だと思っております。  それは、まさに捜査概念を変更してでも、日本民族の生存のためにも日本国の社会の存立のためにも今早急に手を打たなければいけないことだと思うんです。それは政治の責任だと思うんです。この組織三法案というのはそのためにあるというふうに私は自分なりに位置づけておりますが、そういう考え方についてどうでしょうか。村井先生、田口先生の順番で感想をお聞きしたいんです。 <0100>=参考人(村井敏邦君)= この社会がどのような方向に向かうか、非常に危険な方向に向かっているというのは私は平野議員と違った意味で感じております。確かに覚せい剤や麻薬の問題も重要であります。重要でありますが、その点についての対策というのは総合的に考えるべきだというふうに思います。  私は刑事手続を専門にやっておりますけれども、刑事手続や刑法というのは本当に最後の最後かもしれません、できるだけ控え目でなければならないわけです。これの前に、今、平野議員がおっしゃったのはまさに麻薬特例法のときに言われて、コントロールドデリバリーを認めるという議論のときに、これを認めてないとだめなんだということでやられました。他の水際作戦では功を奏しなくなったということが言われたんです。しかし、さらにまた今度は通信傍受でということで、恐らくこれはそういう観念からすると幾らでも先へ先へということになるでしょう。  確かに先へ先へということによって何となく安心したような気分になるでしょうけれども、他方で、我々が基本的に持っていなければならない自由を大きく損なってくる危険性、これが私の感じている将来への危険性です。 <0101>=参考人(田口守一君)= お答えします。  平野委員御指摘のように、現状が非常に深刻なものであるというのはそのとおりであると思います。  ただ、委員のお考えですと、大胆な改革が必要であって、そのために捜査概念の変更も必要である、こういう御指摘だったとお聞きいたしましたが、その点については、私が報告で述べましたように少し違った理解をしておるわけであります。  恐らく、純粋に将来の犯罪が捜査できるのか、こういう問題を出して、そしてできる、そのためには概念を変えなければならない、こういうふうに議論がなされているのだろうと思います。私は、そういう純粋に過去、現在、未来という時間軸の中で犯罪をとらえて、将来の犯罪を刑事訴訟法で捜査できるのか、こういう問題を出すのは余り適切ではないというふうに考えております。  先ほど村井先生の方から刑訴法百八十九条二項の犯罪があるときということについてコメントがございましたけれども、私は、犯罪があるときという言葉については過去、現在、将来ともそれは白紙であって、問題なのは、例えば警職法で不審事由があるときに職務質問をしてよろしい、こういうようなときに、それがさらに刑事訴訟法上の犯罪があると思料して捜査に着手するというところの接点は、時間軸ではなくて当該不審事由が具体的な犯罪となったかどうか、そういう問題だと思います。  ただこの議論は、従来、学会におきましてもこのような事態がまだなかったものですから、明確な話で議論はされておりませんし、私もまだ自分の著作には書いておらないわけですけれども、改めてこのような事態の中で考えてみると、捜査の対象というのは犯罪である、犯罪というのは具体的な犯罪であるということが問われているんだと思います。  その意味におきましては委員御指摘のように一種の変革かもしれませんけれども、しかしそれは捜査概念が明らかになっただけの話であって、従来の捜査概念を捨てて新しい捜査概念を採用するというものではなかろうというのが私の考えでございます。 <0102>=平野貞夫君= 私もその点については何が何でも捜査概念をひっくり返せということを申し上げておるわけじゃございませんで、もうちょっと整理して言いますと、もちろん憲法上許されるということが大前提、その上で国際的なルールといいますか国際的な常識、これをどう入れ込んでいくかということ、そういうことでは今までの捜査概念にも時代についていけない部分があったんじゃないかということ。そしてこれからのこの種の捜査といいますか犯罪に対して、一人一人の人権のある部分を、危機管理とか公の秩序のために、この問題は日本の問題だけじゃなくて、やっぱり日本が抜け穴になっている部分がございますので、日本の社会とかあるいは世界に提起をして、そして社会の安全を共同して守るということが真の意味での国民の人権を守るということになるんではないか、あるいはそういう概念を人権論の中でもつくり上げるべきではないか、個人的にそういうふうに思っておるわけです。  それからもう一つ、いろいろお話を聞いてみますと、乱用の問題だとか違法が行われないことの担保ができない限りこういうシステムをつくるべきではないという御意見がございますが、この点はやっぱり検察機構とか警察機構、いわば現在の国家権力機構を信用するか信用しないかという問題に尽きると思います。確かにいろいろ問題があると思いますし、私もパーフェクトにいいとは思っていません。しかし、我が国の現実は標準的な市民社会、一応世界の中ではまあまあの自由な社会だと思うんですが、それをより快適にしたり適切にしていくためには、やはりこういうシステムが必要ではないかというのが私の意見でございます。  恐縮でございますが、それについてお三人、簡単で結構でございますが、御意見をいただければありがたいんです。 <0103>=参考人(神洋明君)= 検察機構や警察機構を信用できるかどうかという問題と、私は先ほど来申し上げているように、日本の警察機構が西欧の警察機構とどう違うかということも念頭に入れた立法がされなきゃならないというふうに思っております。 <0104>=参考人(田口守一君)= 信用できるかどうかという問題につきましては先ほど佐々木委員の質問で答えたところでありますけれども、法制度というものは、そういう信用できるかどうかという問題以前に、万一の場合に備えていろんな安全装置を考えておかなければならないし、権限行使につきましても、すべて裁量に任せるというものではなくて、限定的なものを考えておく必要がある、そういういろんな事態に備えたことを考えた制度でなければならないというふうに考えております。  そして、現在提案されている法案は、そういう意味で数々の制約、制限を規定している、国家権力の乱用、暴走を警戒、防止して万全を期している法律であるというふうに理解をしております。 <0105>=参考人(村井敏邦君)= 私自身の経験で申しますと、私はスコットランドヤードを見学したことがあります。私の息子が不審尋問をされて、それが不当な不審尋問なわけですが、そういう話をしましたところ、それに対してスコットランドヤードの係官は、もしそういうことがあったら、この肩章を見て必ず通報してくれ、ここに番号が書いてあるはずだと、そういう点でのチェックをきちっとやる必要があるんだということを言っておりました。  これは一つの例ですけれども、警察内部でのそういったチェック機構というのは、基本的に日本の場合にあるかという問題があります。そこは先ほど言った信頼性につながってくるわけで、そういうものがきちっとあって初めて一定の権限が認められるということになります。そういう市民的なチェックを非常に明らかな形でできるようなシステムが日本の場合には十分に備わっていない。それに対して検察の方も十分に声が出せないというのは、伊藤栄樹元検事総長などが緒方邸の事件について書いていることです。そういう点を考えてみますと、今おっしゃったこととは違って、全体の装置としてはどうも十分に安心できないというふうに言わざるを得ないと思います。 <0106>=平野貞夫君= わかりました。 <0107>=中村敦夫君= 通信傍受ができること、つまり盗聴ができるということは、野放しのまま個人あるいは特定の団体に与えられれば、これはもう神のような権力を与えるということになります。もちろん司法というものは一般的な信頼感の上に築かれていることは当たり前なんですが、ただ、そこに権力を全面的に委任してしまうということではないと思うんです。ですから、信じろ信じないという話が国会の場で討論されるというのは妙な話で、日本は宗教国家ではありませんから、やはり法治国家なんですから、一つの大きな信頼の上に立って権利が与えられる。そのためには当然ながら妥当な規制とルールというものが確立されなきゃいけないと思うんです。  この法案というものをよく読んでみますと、規制とルール、つまり一番の問題はやはり乱用という問題です。これは別に警察は信用できないとかできるとかいうものではなくて、人間が集団をなして一つの組織を運営している以上、常に神のように正しく運営されるということは科学的にはあり得ないわけですから、そうした乱用という問題の歯どめ、そのことが一番大きなポイントになっているのではないかと思うんです。その歯どめがポイントになるところが不明確であるというのが、この法案が大変危険性を持って、そして多くの人々が反対している根拠になっておると思います。  そしてまた、これは普通の概念的な法律ではありません。実行されるときの方法、技術というものに深くかかわり合っておりますので、法案が明確にそういうことを突っ込んでいかないと、文言として保障していないとイメージがわかないという特徴がございます。これは普通の法案とちょっと違うところだと思います。  そういうことで、内容について今まで多少の審議が行われてきて、やりとりがあったのですが、質問と答えというものの整合性に欠けることがついてきています。そして、ちょっと何か禅問答のような場合が今まで非常に多いんです。  そこで、この法案、私は法律家ではありませんので、文言上もよくわからないので質問してきたわけですけれども、一つだけ例にとってお三人に同じ質問をしてみたいと思います。  ちょっと細かくなりますけれども、これは三条の三項というところを御検討ください。これは私が法務委員会で質問して答えをもらったんですが、どうも答えが納得できないので、第三者の方から見たらどういうふうに思えるのかお聞きしたいわけです。  この三条三項というのは通信傍受をする施設の問題です。つまり、盗聴基地を規定している文章のところなんです。これは、読み上げますと、「前二項の規定による傍受は、通信事業者等の看守する場所で行う場合を除き、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内においては、これをすることができない。」、こうなっていますが、そこにただし書きがあるんです。「ただし、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者の承諾がある場合は、この限りでない。」と言って、それまで述べてきた事柄をひっくり返すようなただし書きになっている。  私はこのただし書きはまず必要ないんじゃないかなというふうに考えたんです。どうも文言自体が矛盾しているのではないかと思ってそれを質問したわけです。そのただし書きのところ、「住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者の承諾がある場合は、この限りでない。」というのはどういう状況のことを言っているのかと質問しました。そうしたらば、要するにインターネットなんかのケースで言うと、いろいろな愛好者たちが勝手につくっているようなネットワーク、そのようなものを指すということなんです。  しかし、通信事業者という規定に関しては、プロバイダーとか本当の専門家ばかりではなく、学校だとかイントラネットなどを張っているさまざまな組織も含むと言っているわけですから、愛好者であろうとネットを張ったら通信事業者というふうにみなしてもいいわけなんですね、これまでの答弁は。しかし、それだけは違うという答えだったんです。  私は、これはにわかに納得できないわけであって、つまりこのただし書きの裏側には、場合によっては警察施設あるいはそのようなもの、そういうところでもできるのではないか、それを含んだただし書きではないのかということを質問したんです。そうしましたらば政府側は、これは法的に一〇〇%ないというふうに言明したんです。  後でそれでもちょっと疑問が出てきましたので、法務省に問い合わせました。法的に一〇〇%できないというのはどの法律に書いてあるんだ、どの法がそういうふうに担保しているんだということを聞いたんです。そうしたらば、三条三項そのものと、それから十二条と十三条で法的にできないということを言明しているという答えだったんです。しかし、読んでみても、どうも私にはそのようには読めないんです。  こうなりますと、この件に関して質問が二つございます。  一つは、法務委員会で政府答弁をされた、その答弁の内容が裁判における法解釈でどれだけ拘束力を持つのか、これは絶対的なものなのか、あるいは関係ないのかということです。これまでの例で、皆様のお考えを聞きたい。  もう一つの質問は、法的にできないという根拠が三条三項と十二条と十三条だということが法律的に見て正しいのかどうか、あるいは正しくないのかという二つの質問についてお答えいただきたいんです。お三人、お願いします。 <0108>=参考人(神洋明君)= まず、これまでの例で、法律の立案過程で政府側の答弁がなされたことが裁判において拘束力を持って、それが肯定的な解釈という形になるというふうには決められていません。すなわち、ここで例えば刑事局長がそのような発言をしたとしても、それは法律そのものを拘束するものじゃありませんので、もしそういうことであるならば、私としては、明確な、もっと言葉としてわかる規定でもってこれをやっていただかないことには、その解釈が将来にわたってきちっとするかどうかという保証がないと言わざるを得ないと思っています。  それからもう一つは、三条の三項と十二条、十三条から、要するに一〇〇%警察施設ではやれないんだというふうに読めるかということなんですが、率直に申し上げて、私もちょっとパズルのような条文を見ていてはっきりわかりません。また、はっきりわからないということは、逆に言えば、もっとほかの人が読んでもわかるような規定にしておく必要があるのではないかと思います。 <0109>=参考人(田口守一君)= お答えします。  二点の御質問がございました。一点の方は、国会における答弁の法的拘束力という問題ですけれども、これについては神さんの答弁のとおりだと思います。  それから第二点の方で、この条文を読んで、警察署でできるのか、こういう御質問であります。三条三項で「通信事業者等の看守する場所」ということで、ちょっと私、具体的事例にそんなに詳しくないので余りはっきりしたことは申し上げられませんけれども、警察署以外で、例えば大きな会社であるとか何かで、特別な通信設備があるという場合があるのかなという気もいたしますが、この点についてはもう少し調べてみなきゃいけないと思っております。  問題は、そこに警察が入るかという点だろうと思います、御質問の趣旨は。これも二つ問題があると思うんです。一つは、条文の文理解釈から除かれるかという点ですけれども、これは除かれないと思います、文理解釈からは。問題は、全体として、例えば六条で、令状は裁判官が出すわけで、令状には方法や場所等が記載されるわけですが、裁判官が警察署を傍受場所に指定するということが考えられるかということですけれども、傍受の公正性ということ、司法的抑制ということを考えると、ちょっと考えられないというのが今の感想でございます。 <0110>=参考人(村井敏邦君)= 第一点の答弁の拘束力の問題ですが、これは基本的に法的拘束力はないということになる。ただ、立法事実の点で、ある程度国会でどういう形でこの規定が設けられたかというのを参考にする場合はあります。ただ、それは拘束力というものではない、参考にして解釈の足しにするという形はあり得ることではあります。  それから第二点については、今、田口さんがおっしゃったように、文理解釈上排除するというのは出てこないだろうと思います。  私もちょっと三条三項を見て、「通信事業者等の看守する場所」というのは必ず通信事業者等がいるということを前提としているのか、それとも通信事業者等を連れていってそこで立会人として通信事業者がいるというような場合も看守する場所になるのか、ちょっとこれだけではよくわからないんです。もし、通信事業者等が立会人として看守するという場所も含まれるということになると、それは人の住居である場合もあって、場合によったら第三項の本文でも別の場所で可能にもなってくるということになります。  そうすると、ただし書きは、承諾がある場合には通信事業者等が看守しない他の場所だという解釈になってくるので、そうすると、一般的な家あるいは警察署というのも当然入り得るというふうに思います。傍受令状等にそれが書いてあった場合に裁判所がチェックするかどうか、これは事実上の問題ですから、果たしてどうだかわからないということになります。 <0111>=中村敦夫君= お三方の考え方をお聞きすると、どうも法務省が三条三項、十二条、十三条でこれは担保されていると答えていることはかなり担保しないという否定的な見解であると私は受け取りました。  そこで次の質問ですけれども、田口参考人にお聞きいたします。  さっきのレジュメの中で三番目の(1)の「通信傍受の令状要件について」というところでのお話でしたが、要するに、これまでの検証令状、これだけではやはり不十分だから通信傍受法が必要なんだという主張をされたわけですけれども、法務委員会で民主党の委員が質問しまして、年間大体どのぐらいの傍受を予定しているんだという件数を聞いたわけですよ。そうしたら、数十件だという答えが出てきたんですね。数十件ならば、何もそんな大それた法律をつくらなくても検証令状だけで十分ではないかと私は思うんですけれども、この件に関して、いかがですか。 <0112>=参考人(田口守一君)= お答えします。  検証令状を使っている実務が現在あるけれども、それについては問題があるということを先ほど申し上げました。  その問題の一つの大きな点は、条件つきの令状ということでやっているわけです、実務的には。私も、裁判所が強制処分令状に幾つかの条件をつけるということはあり得ると考えておりますが、先ほども申しましたように、例えばその条件というのが膨大であるということになりますと、もともとの検証令状から変質してくるだろうというふうに思っております。  したがいまして、条件つき令状というのはかなり微妙な問題を含んでおりまして、とりわけ国民の人権にかかわる強制処分については、裁判所がどんな条件でもつければ令状が出せるかというと、かなり疑問である。私は、裁判所がいわゆる判例法として、日本は成文法国ではありますけれども、任意処分的なものについて判例によって処分を認めるということも、それはあっていいと思いますけれども、少なくとも人権制約的な強制処分については、それは国会が定立すべき問題であるというのが基本的なスタンスじゃないかというふうに理解しております。  したがいまして、今、中村議員御指摘のように、数が少なければ検証でいけるのではないかという点につきましては、数が少なくてもそれは人権にかかわる問題でありますから、立法機関において考えていただきたいというのが私の考え方です。 <0113>=中村敦夫君= 人権にかかわる問題であれば、いわゆる通信傍受法でも同じことではないんですか。 <0114>=参考人(田口守一君)= 憲法は三十一条以下十カ条にわたって捜査についてのいろんな原則を掲げております。これは、まずは代表的には身柄の逮捕、これは最大の自由権の侵害でありますし、捜索、押収も住居の平穏や所有権に対する侵害である。こういうことでして、刑事手続というのは、基本的に人権侵害を常に行わなければできない、そういう痛みといいますかそういうものを抱えているわけであります。  しかし、これについては、三十一条は適正手続を要求し、それからまた令状主義は、単に捜査機関が捜査を行うのみではなくて裁判官による司法的抑制、司法的チェックというものを条件にしてやむなくこれらの基本権侵害を認めているという体系に現行法はなっている、こう思います。  したがいまして、通信傍受というものは、通信の秘密を侵害することは先ほど来議論になっているのは当然でありますけれども、それが許容範囲にあるかどうかというのが論点であって、私の先ほどの意見は許容範囲にあるのではなかろうかというのが結論だったわけでございます。 <0115>=中村敦夫君= 村井参考人にお聞きいたします。  七月六日の共同通信の配信の記事がございます。これは自由党の小沢党首の談話として出ているわけですが、こんなことを言われています。電話などの傍受を認める通信傍受法案についても、単に泥棒や麻薬犯をつかまえるだけの話じゃない、総背番号の話もそうだが、国家的な危機管理という考え方が根底にあって初めて成り立つというふうに発言されているんです。  そうなりますと、法案を提出している与党でございますから、本来の犯罪捜査のための法案であるというところと著しく違ったところを言っているわけですが、こういう見解に対してはどういうふうにお考えになりますか。 <0116>=参考人(村井敏邦君)= 先ほどの大森議員の発言にもそういうことを感じまして、危機管理という言葉が出てきましたけれども、大変に危険だなというふうに思います。  ただ、今回の法案というのがやはり国際的な関係から出されているというように、政府・与党、提案者はそう言っておりますので、そういうところからすると、全体的な一定の政策の中での一つのあり方として提案されているという意味では、極めて正直なことをおっしゃったというふうに感じております。  正直なことはいいんですけれども、それが全体的な危機管理の問題として今回提案されているということになりますと、それはそれとしてきちっとした形で、そういった提案理由で出すべきであるというふうに思います。 <0117>=中村敦夫君= ありがとうございました。 <0118>=委員長(荒木清寛君)= 以上で午前の参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人の方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。当委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  午前の審査はこの程度にとどめ、午後二時三十分まで休憩いたします。    午後一時六分休憩      ─────・─────    午後二時三十分開会 <0119>=委員長(荒木清寛君)= ただいまから法務委員会を再開いたします。  委員の異動について御報告いたします。  本日、久野恒一君が委員を辞任され、その補欠として亀井郁夫君が選任されました。     ───────────── <0120>=委員長(荒木清寛君)= 休憩前に引き続き、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題とし、参考人から御意見を伺います。  午後、御出席をいただいております参考人は、東北大学法学部教授川崎英明君、弁護士田中清隆君及び慶應義塾大学法学部教授安冨潔君でございます。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の審査の参考にいたしたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、まず、川崎参考人、田中参考人、安冨参考人の順に、お一人十五分程度ずつ御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたしたいと存じます。  なお、参考人の意見陳述、各委員からの質疑並びにこれに対する答弁とも、着席のままで結構でございます。  それでは、川崎参考人からお願いいたします。川崎参考人。 <0121>=参考人(川崎英明君)= 東北大学の川崎です。  三法案のうち、私は盗聴法案に絞って反対意見を述べたいと思います。  今回の法案は通信傍受という用語を使っておりますけれども、私は盗聴という用語を用いたいと思います。といいますのも、今回の法案が通信傍受ということで認めようとしている内容を見ますと、通信する者の同意を得ないで、しかもたまたま偶然ではなくて故意に通信の内容を聞く行為であるからであります。それは、日常用語で言えば傍受ではなく盗聴に相当いたします。  法学者の間でも、これまで盗聴という用語が使われてまいりました。刑事訴訟法学を学ぶ者であればだれもが一度はひもとく、例えば団藤重光先生の「刑事訴訟法綱要」であるとか、あるいは平野竜一先生の「刑事訴訟法」という著書の中では盗聴という用語が使われてきたわけであります。  私が盗聴法案に反対する理由は四点あります。第一に、盗聴法案はプライバシーや通信の秘密を極度に侵害するということであります。第二は、盗聴法案は憲法三十五条の令状主義に違反するということであります。第三に、盗聴法案は自由で民主主義的な社会のあり方に反するということであります。第四に、衆議院でなされた修正もこのような疑問を解消するものとはなっていないということであります。  まず第一点でありますが、盗聴というものがその本質的な性格として国民のプライバシーや通信の秘密を甚だしく侵害する手段であるということ、このことについて敷衍をしておきたいと思います。  今回の法案は、犯罪捜査のために一定の犯罪について犯罪に関連する通信の盗聴を認めております。しかし、盗聴しようとしている通信というのは現に存在しているものではありません。これから行われるものであります。どんな通信が行われることになるのか、それは通信をする人次第でありまして、事前にはわからないわけです。しかも、通信の内容というのは相手方との関係で時々刻々変化いたします。したがいまして、犯罪に関連する通信に限って盗聴すると言ってみてもそれは不可能であります。つまり、盗聴を認めるということは、犯罪に関連する通信だけではなくて、犯罪とは関係ない人の犯罪とは無関係な内容の通信もすべて聞くということにならざるを得ない、そういうことを認めざるを得なくなるわけであります。  以前から、盗聴というのは地びき網のようなものだというふうに言われてまいりました。つまり、ねらう魚、これが犯罪に関連する通信ということでありますけれども、それに限らず、ねらっていない魚、つまり犯罪とは無関係な人の犯罪とは無関係な内容の通信も必然的に網の中に入ってくるということであります。  今回の法案は、該当性判断のための盗聴、つまり私たちは予備的盗聴というふうに呼んでおりますけれども、これを正面から認めているのであります。  以上のことを憲法論としていいますと、盗聴は憲法三十五条が定めた特定性の要件をクリアできないということであります。これが第二の反対理由であります。  確かに刑事訴訟法は、捜査の手段として捜索とかあるいは差し押さえのようにプライバシーを侵害する手段を認めております。しかし、その場合であっても裁判官が発付する令状の中で捜索や差し押さえの対象物をあらかじめ特定しなければなりません。この特定性を強制捜査の絶対条件としたのが憲法三十五条であります。  盗聴の場合は、先ほど申し上げましたように、その対象となる通信をあらかじめ犯罪に関連する通信だけに限定するということは本質的に不可能でありますので、憲法三十五条の特定性の要件をクリアできないということであります。このことは理論的な問題あるいは理屈の問題ではなくて、現実の問題であります。  御存じのように、アメリカではワイヤータップ・レポートが出されておりますけれども、一九九八年の統計を例にとってみますと、盗聴実施件数は千二百四十五件となっておりますけれども、犯罪と無関係な通信が盗聴された割合はその年の平均で八一%となっております。  日本でも、旭川の盗聴事件ですけれども、これは専ら覚せい剤取引に使われる専用電話、これが盗聴の対象となったというふうにされておりますけれども、それにもかかわらず、弁護人のレポートによりますと、盗聴された四十本の電話のうち二十九本は犯罪とは無関係な電話であったということが報告されております。  盗聴にはこうした憲法的な疑義があるわけですけれども、今回の法案はさらに大きな問題を抱えております。それは、いまだ発生していない将来の犯罪について盗聴を認めていることであります。これを私たちは事前盗聴というふうに呼んでおりますけれども、これは犯罪捜査の枠を越えるものであります。なぜならば、犯罪捜査とは既に発生した過去の犯罪について行われるべきものであるからであります。  現行法は、犯罪捜査を司法警察とし、犯罪予防を行政警察というふうに明確に区別いたしました。その上で、行政警察権限を限定しているわけです。事前盗聴というのは、司法警察に名をかりて行政警察権限を実質的に強化するというものであります。これは現在の法制度の枠組みを根本から揺るがす、そういうことにつながる非常に大きな問題を抱えている点であります。  さらにまた、今回の法案が令状に記載された犯罪以外の犯罪に関連する通信について令状なしに盗聴を認めているという点でも問題であります。これを私たちは別件盗聴というふうに呼んでおりますけれども、この別件盗聴はたとえ対象となる犯罪に絞りをかけたとしても合憲性は認めがたいものであります。なぜならば、憲法三十五条は、逮捕に伴う捜索、差し押さえ等の場合を除いて常に裁判官の令状を要求しているからであります。  以上が憲法論でありますけれども、以上のことを社会のあり方との関係でいいますと、自由で民主主義的な社会が危機にさらされるということであります。これが第三の反対理由であります。  私たちの社会というのは、通信手段が非常に高度に発展した社会であります。電話やあるいは電子メールなど、そういった通信手段なしには成り立たない社会であります。そうした通信手段を介して無数の人々の無数のプライバシーが人々の間で交換されるわけでありますし、こうした通信手段を介して個人の思想や表現が社会に行き渡る、そのような仕組みになっているわけであります。したがいまして、通信の秘密と自由というのは現代においては以前とは比べ物にならないほど大切になっているわけです。  盗聴というのは、こっそりと聞いてこそ盗聴であります。自由な通信なしには社会生活が成り立たない現代社会において盗聴を認めるかどうかという問題は、盗聴されているかもしれない、そういった不安な状態の中で社会生活を送る、そんな社会であっていいのか、このことが根本的に問われている問題であろうというふうに思います。  この点では、今回の法案が刑事手続用の記録に載せられない通信については当事者に盗聴したことの通知さえしないということになっている点を無視することができないわけであります。まさに、人権と自由、そして民主主義の問題であります。  最近、法学者四百五十一名が盗聴法案に反対する声明を公表いたしました。これほど多数の法学者が反対の意思を表明するというのは近年にはないことであります。それは、盗聴にはそれほどに憲法と社会のあり方に照らして重大な問題があるというふうに考えられているからであります。  最後に、衆議院で加えられた修正につきまして、これが盗聴が持つ本質的な危険性を解消するものではないということについて指摘したいと思います。  対象犯罪が当初よりも減らされましたけれども、アメリカなどの例が示しますように、今後拡張される可能性は否定できません。その歯どめはないと思います。  時間の関係上、立ち会いの問題に絞って意見を述べたいと思います。  盗聴に際して常時立会人がつき意見を述べることができるという修正が行われました。しかし、盗聴される通信の内容を立会人が確認する権限は、法案には明記されておりません。そうしますと、立会人は、これは無関係な通信ではないかと意見を述べるということがもともとできないようになっているわけです。それだけではありません。立会人には令状が提示されるということになっておりますけれども、理由となっている犯罪事実は見せなくてもよいということになっておりますので、意見を述べる前提に欠けているわけです。  しかも、立会人は、無関係な通信が盗聴されたときに盗聴を中断させることもできません。切断権がないのであります。検証令状を通して盗聴を認めている下級審判例が若干ありますけれども、そこでは切断権が付与されてお