第145回国会 法務委員会 第21号 1999年07月22日       (1999年08月18日 08:00 登録) 平成十一年七月二十二日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員の異動  七月十三日     辞任         補欠選任      佐々木知子君     有馬 朗人君  七月二十一日     辞任         補欠選任      有馬 朗人君     久野 恒一君      井上  裕君     佐々木知子君  七月二十二日     辞任         補欠選任      久野 恒一君     亀井 郁夫君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         荒木 清寛君     理 事                 鈴木 正孝君                 服部三男雄君                 円 より子君                 大森 礼子君                 平野 貞夫君     委 員                 阿部 正俊君                 亀井 郁夫君                 久野 恒一君                 佐々木知子君                 世耕 弘成君                 竹山  裕君                 仲道 俊哉君                 海野  徹君                 小川 敏夫君                 千葉 景子君                 角田 義一君                 橋本  敦君                 福島 瑞穂君                 中村 敦夫君    事務局側        常任委員会専門        員        吉岡 恒男君    参考人        弁護士      神  洋明君        早稲田大学法学        部教授      田口 守一君        一橋大学大学院        法学研究科教授  村井 敏邦君        東北大学法学部        教授       川崎 英明君        弁護士      田中 清隆君        慶應義塾大学法        学部教授     安冨  潔君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○参考人の出席要求に関する件 ○組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関  する法律案(第百四十二回国会内閣提出、第百  四十五回国会衆議院送付) ○犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案(第  百四十二回国会内閣提出、第百四十五回国会衆  議院送付) ○刑事訴訟法の一部を改正する法律案(第百四十  二回国会内閣提出、第百四十五回国会衆議院送  付)     ───────────── <0001>=委員長(荒木清寛君)= ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員の異動について御報告いたします。  去る十三日、佐々木知子君が委員を辞任され、その補欠として有馬朗人君が選任されました。  また、昨二十一日、井上裕君及び有馬朗人君が委員を辞任され、その補欠として佐々木知子君及び久野恒一君が選任されました。     ───────────── <0002>=委員長(荒木清寛君)= 参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。  組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の審査のため、本日の委員会に参考人として弁護士神洋明君、早稲田大学法学部教授田口守一君、一橋大学大学院法学研究科教授村井敏邦君、東北大学法学部教授川崎英明君、弁護士田中清隆君及び慶應義塾大学法学部教授安冨潔君の出席を求め、その意見を聴取することにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 <0003>=委員長(荒木清寛君)= 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ───────────── <0004>=委員長(荒木清寛君)= 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、三案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、六名の参考人から御意見を伺います。  まず、午前中御出席をいただいております参考人は、弁護士神洋明君、早稲田大学法学部教授田口守一君及び一橋大学大学院法学研究科教授村井敏邦君でございます。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、まず、神参考人、田口参考人、村井参考人の順に、お一人十五分程度ずつ御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。  なお、参考人の意見陳述、各委員からの質疑並びにこれに対する答弁とも、着席のままで結構でございます。  それでは、神参考人からお願いいたします。神参考人。 <0005>=参考人(神洋明君)= 神でございます。  私は、基本的には日弁連の立場で、今回の組織的犯罪対策三法案に反対であるという意見を申し述べたいと思います。  本日は、日弁連で作成したパンフレットを用意いたしましたので、こちらも御参照いただきたいと存じます。  初めに、総論的な問題を述べたいと思います。  まず、日弁連もまた、国民の平和と安全を害するような組織犯罪対策は必要であると考えていることを誤解のないように申し添えておきたいと思います。  ただ、その組織犯罪対策は、その国の政治、経済のあり方を検討し、国及び政府が暴力団等の組織犯罪の実態を調査、解明し、総合的な施策の中で対処されるべきもので、その中の一環として刑事司法のあるべき道を定めるべきものであると考えております。  そして、刑事法による立法を行う場合にも、その国の犯罪情勢、捜査や公判をめぐる憲法、刑法、刑事訴訟法の法体系、現行の法制度の実情を踏まえて立法がなされるべきものであると考えるのであります。  この観点から考えると、本法律案は、一面的な国際協調が強調され過ぎており、憲法、刑法、刑事訴訟法の原則を大きく揺るがしかねない大変革を内容とする法律案になっていることに大きな危惧の念を抱かざるを得ません。このあたりのことは、後刻御質問をいただければ具体的にお答えしたいと思います。  総論的な問題の二つ目として、本法律案は、組織的犯罪対策三法案と呼ばれ、立法理由も暴力団等の薬物事犯や銃器事犯等への対処を強調していますが、実は法文上組織的な犯罪対策に限定されているのは、組織的な犯罪の処罰に関する法律案だけであるということを指摘しておきたいと思います。  令状による通信傍受の対象犯罪は、衆議院で薬物事犯、銃器事犯、集団密航事犯、組織的な殺人に限定されましたが、例えば大麻の単純所持など、必ずしも組織的に犯されない犯罪も含まれており、数人の共謀があれば成立することになっております。また、犯罪収益の規制等に関する法律案に至っては、単独犯でも成立するし、規制の対象となる犯罪収益の前提犯罪については極めて広く、放火など罪質的には組織犯罪になじまないものまでも含めております。残念ながら、衆議院での審議でもこの前提犯罪を組織的な犯罪に限定するという修正は全くなされませんでした。その意味で、本法律案は、組織的犯罪対策法と銘打ってはいますが、羊頭を掲げて狗肉を売る法律案になっていると思います。  三つ目の問題としては、私は、この法律案の根底には、国家対個人、すなわち権力対人権という考え方とは別の組織対国民、すなわち犯罪対安全という考え方が流れている法律案と考えております。だから、この法律案では、三法案いずれについても事前予防的な色彩が見られ、また、国民は国家、すなわち捜査機関に協力すべきだという考え方も生まれ、通信事業者に立ち会わせるだとか金融機関等の疑わしい取引の届け出をさせるという構成が出てくるものと思われます。しかしながら、仮に組織対国民という考え方があり得るとしても、前憲法的な存在である人権は国家との関係で保障されなければならないものであります。これを、その内在的な制約を超えて国家的な危機管理とか全体主義的な考え方に置きかえることは許されないと考えるのであります。  問題を通信傍受法に移してみたいと思います。  この法律案は、衆議院で一部修正は加えられましたが、第一に、将来起こるかどうかわからない犯罪を対象としております。これは予防的な捜査を許容するものであり、捜査は犯罪発生後に行われることを前提とした刑事訴訟法の原則に反するものであります。また、このような将来の犯罪の傍受を認める限り、捜査官の該当性判断のための傍受の範囲は広がらざるを得ないものであります。  第二に、この法律案は、傍受の際の立会人の権限についての規定が不十分であると言うことができます。衆議院での修正によって立会人の常時立ち会いと立会人の意見陳述権が認められましたが、この修正案では立会人は通信内容を聴取することができず、したがってまた、修正案は立会人に捜査官の違法な傍受を制止させる切断権を認めておりません。これでは立会人が常時立ち会ったところで、捜査官が適法、適正な傍受をしているかどうかを確認することができず、意見を述べる機会を与えてみてもほとんど意味がないと言わざるを得ません。  第三に、法律案は、衆議院での修正によって、他の犯罪の実行を内容とする通信の傍受について、傍受できる犯罪を原案よりも限定し、この場合も裁判官による事後的な審査をする手続を設けました。しかし、このような限定をしても、令状に記載のない犯罪に関する通信の傍受を認めること自体、捜査官の該当性判断のための傍受の範囲は広がらざるを得ないという問題を有しています。  第四に、この法律案は、事後通知が通信を傍受された当事者のすべてになされることにはなっていないという欠陥を持っています。刑事手続に使用するための記録に記録されている通信当事者にだけ通知を認める仕組みを認める限り、本来聞かれてはならない犯罪と無関係な通信を聞かれた通信の当事者を保護することにはなりません。  第五に、この法律案では、犯罪に関連しない通信記録は消去されることとされていますが、それが確実に行われることを担保するシステムが規定されていません。  第六に、この法律案では、通信傍受の期間について延長や再発付が認められることから長期にわたり過ぎるという問題があります。勾留の延長が安易になされている現状から判断しても、傍受令状の延長や再発付も容易になされることが予想されます。  第七に、この法律案は、捜査官の該当性判断のための傍受の範囲を必要最小限にするためのいわゆる最小化原則の規則化についても言及していません。  そのほか、この法律案では、逆探知や違法収集証拠排除法則の考え方などについても配慮がされていません。ここでは時間の関係もあり、日弁連意見書を参照いただくこととして省略させていただきますが、このような通信傍受制度では通信の秘密の不可侵やプライバシーの保護の歯どめとしては不十分であると考える次第であります。  通信傍受法案以外の法律案、特にマネーロンダリング規制に関する犯罪収益の規制等に関する法律案についても少し意見を述べさせていただきます。  既に、麻薬事犯による収益の規制については、平成四年にいわゆる麻薬特例二法が施行されていますが、今回の法律案はこれを大幅に拡張するものであります。麻薬特例二法については、日弁連も、刑事法の基本原則にかかわる重大な問題が含まれているにもかかわらず、人間性を破壊し社会の根幹に害悪を及ぼす麻薬の持っている特殊性と麻薬国際条約、いわゆる麻薬新条約批准の立場からこれに限る措置としてその立法を是認してきました。  そこで、現在審議中のこの法律案に反対する幾つかの理由を指摘してみたいと思います。  第一に、この法律案は、冒頭にも述べましたように、前提犯罪の範囲を大幅に拡張し、詐欺、窃盗、業務上横領などにも広げ、放火など罪質的には組織犯罪になじまないものまで含ましめて一般化しようとしています。  第二に、この法律案では、前提犯罪が広いことと相まって、隠匿罪、収受罪等の成立する範囲も広がってきます。その結果、例えば窃盗犯人が盗んだお金を使って飲み食いする行為は処罰されないが、このお金を預金したりどこかに隠したりすれば犯罪になるというおかしな結果を生じます。  この法律案は、その目的として、犯罪による収益がこの種の犯罪を助長することと、犯罪収益を用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な影響を与えることを掲げています。麻薬取引事犯や銃器取引事犯については、組織的に行われる場合、犯罪で得られた収益を再び同種の犯罪資金として利用することは考えられますが、先ほどの例の窃盗によって得た収益の資金洗浄行為によってさらに窃盗が助長されるとは考えられません。  この隠匿罪、事業経営の支配を目的とする犯罪は、刑法上、最初の法益侵害によって犯罪事実が終了し、事後の違法状態は当初の犯罪の構成要件によって評価し尽くされており、犯罪行為とは認められないとするいわゆる不可罰的事後行為の考え方を根本的に覆すものであります。  第三に、犯罪収益だけでなく、これに由来する財産やこれと混和した財産も規制の対象としていますので、汚い金がまじっていることを知って受け取ると収受罪に問われることになります。欧米と違って、被疑者段階での国公選弁護人制度のない我が国においては、私選弁護人が犯罪者の弁護をできないという事態も想定されます。その上、この隠匿罪、収受罪、事業経営の支配を目的とする行為の処罰等は、犯罪収益等が存在する限り、前提となる犯罪が時効になっても際限なく犯罪が成立することになります。  第四に、この法律案は、麻薬特例二法で規定している隠匿罪、収受罪にとどまらず、本来のマネーロンダリング罪を超えて、不法収益等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為にまで処罰を拡大しています。  例えば、株主が会社支配をねらって人事に口出しすることは、株主として当然の中核的な権利です。こうした本来合法的な行為を処罰するには、それ相応の理由がなければなりません。ところが、法律案は、健全な経済活動に重大な影響を与えることではなくして、重大な影響を与える可能性があるということで、予防的に口出し行為を処罰することにしています。可能性で株主の中核的な権利を奪うことができるかは疑問であります。  また、外形上通常の取引形態をとるこの種の取引が規制されることによって取引の安全が損なわれ、第三者に与える影響もはかり知れないものがあります。  第五に、この法律案では、刑法の没収概念を拡張し、犯罪収益等の没収の対象を金銭債権にまで広げております。そして、本来、付加刑として主刑とともに判決時に言い渡されるべき没収を判決前、しかも捜査段階である起訴前に保全できることにしています。判決前の没収保全は無罪推定の原則に反するだけでなく、例えば銀行預金の保全手続がなされた場合などには銀行との取引が停止されることは確実で、被疑者、被告人の経済活動に大きな影響を与えることになります。後日、これが無罪であったとしても、その時点ではこの事態は取り返しがつきません。前提犯罪が広いため、この没収の保全の範囲も当然広がらざるを得ないという問題を有しています。  第六に、法律案は、金融機関等に対して疑わしい取引の届け出義務を課し、捜査に協力させる規定まで設けています。法律案では、どのような行為を疑わしい取引とするかの基準が不明確であり、金融機関等の届け出が一般化することによって個人の金融取引までが捜査機関の監視下に置かれかねないおそれがあります。  時間的な関係で述べられませんでしたが、組織的な犯罪の処罰に関する法律案にも、証人の保護に関する刑事訴訟法の一部を改正する法律案にも多くの問題があります。日弁連意見書やパンフレットを御参照いただければ幸いに思います。  参議院の法務委員会においては、通信傍受法以外の二法案については実質的な審議がまだなされていないと伺っています。通信傍受法はもちろんですが、それ以外の二法案についても十分な審議をいただくことをお願いして、私の意見陳述としたいと思います。 <0006>=委員長(荒木清寛君)= 次に、田口参考人にお願いいたします。田口参考人。 <0007>=参考人(田口守一君)= 田口でございます。  私は、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案について賛成の立場から意見を申し述べたいと思います。  お手元に簡単なレジュメが配付されていると思いますが、その順序に沿ってお話しいたします。  まず、組織犯罪に対する新たな捜査方法の必要性という点でございます。  まず、簡単な統計資料を載せておりますが、覚せい剤事犯の検挙状況を例として考えてみたいと思います。  覚せい剤押収量を見てみますと、平成元年から七年の平均で毎年百八十二キログラム押収されております。しかし、平成八年から十年の平均をとりますと、毎年四百五十七キログラム押収されておりまして、それまでの約二・五倍となっております。さらに、平成十一年、ことしの一月から六月までの間に既に千百三十二キログラム押収されておりまして、その前年までの平均の約二・五倍となっております。  さて、なぜこのように押収量が増加しているかという点であります。その理由としましては、覚せい剤事犯で検挙されている者はそのほとんどが末端の実行犯、特に自己使用犯であるという点にありまして、組織の中核にある者は検挙されていないために、覚せい剤の輸入や譲渡のルートが遮断されていないためであろうと考えられます。我が国の覚せい剤対策というのは、末端の実行犯、特に自己使用犯を処罰するという点にとどまっているという現実がございます。いわばこの組織の根本を絶つということがなければ、この状況がさらに悪化すると見るのが自然ではないかと考えます。  同様のことはけん銃の押収数や集団密航事件の検挙人員を見ても妥当すると思います。統計の二と三でございます。  けん銃について言いますと、暴力団からの押収数には減少傾向が見られますけれども、暴力団以外の者からの押収数を見ますと、特に平成四年あたりから増加し、一定レベルを維持していることに注目しなければなりません。一般市民の間にけん銃が出回ってきたということは、その背後に犯罪組織のルートがあることを意味しているからであります。集団密航事件についても同様の分析が可能であろうと考えます。  このように、組織犯罪に対する新たな捜査方法が要請されているということが言えると思います。  それでは、組織犯罪に対する従来の捜査方法はどうなっているかという点について二点ほど触れてみたいと考えます。  第一点は被疑者の取り調べであります。従来、組織犯罪の実態を解明するために、被疑者の供述を得て資料を得るという点が重要とされてきました。けれども、組織犯罪の末端実行者を逮捕して取り調べを行ったとしましても、組織の実態や首謀者などの供述を得ることは困難であります。また、そもそもこれらの末端実行者あるいは臨時の運び屋といった人たちは組織の実態を知らないということも多いと思われます。のみならず、身柄を拘束された被疑者を十日間あるいは二十日間、時には黙秘権を行使しているという状況の中で取り調べを続行するという現在の捜査実務については問題があると考えております。  このように、被疑者取り調べには事実上も法律上も問題がありまして、組織犯罪への捜査をこの被疑者取り調べに依存するということには限界があろうかと思います。  次に、現行法上、検証令状で電話傍受が行われておりまして、これを肯定する高裁判例も出ております。もし現行法で通信傍受ができるということになりますと、改めて立法することもないことになるわけであります。しかし、通信傍受を実施するについては、実施期間の問題、立会人の問題等さまざまな条件が必要となるであろうことは、現在上程されております法案の条文を見れば明らかであろうと思います。検証令状では、通信傍受に関するこのような注意深い実施条件をすべてつけることは不可能であります。検証令状の実務では、したがって人権保障との調和という点が十分ではないと言わなければなりません。  結局、以上、今日の犯罪状況及び現行法の運用状況から考えますと、新たな捜査方法として通信傍受という方法を導入することが必要であろうと考えるわけであります。  そこで、通信傍受法案についてコメントしておきたいと考えますが、まず令状の要件についてであります。三点ほどコメントしておきたいと思います。  第一点は、通信傍受の要件がかなり厳しいものとなっているという点でございます。  まず、犯罪の十分な嫌疑の要件があります。これは現行法上緊急逮捕を適法とする要件であります。  第二に、犯罪関連通信の蓋然性が要求されております。この蓋然性を示す資料のためには相当の裏づけ捜査が必要となると思われます。  第三に、いわゆる補充性の要件であります。これは、それまでに他の捜査方法を尽くしたという疎明資料を要求することになります。言いかえますと、このような通信傍受は場合により被疑者の逮捕も可能な状況で行うのでありますから、いわば捜査の詰めの段階で行われる捜査手法であろうというふうに考えられます。一般にこのような捜査方法について謙抑的な運用が期待されておりますけれども、法律自体が非常に謙抑的に規定されているということに注意すべきであろうと考えます。  第二点でありますが、法案三条三号のいわゆる将来犯罪の傍受という点であります。  この点につきまして、将来犯罪の捜査が伝統的な捜査概念の変更をもたらすのではないかという問題提起がなされております。しかし、この場合の将来犯罪というのは過去犯罪と一体化したものでありまして、具体性、現在性を備えた犯罪行為と考えられます。したがって、そのような具体性、現在性を備えた行為という点におきまして、将来犯罪の部分についての特定も可能となると考えます。したがって、憲法三十五条の特定性の基準を満たし得るものであろうと考えます。これまでの捜査概念を変更するという問題ではないと考えております。  第三点は、法案十四条のいわゆる別罪の傍受についてであります。  法案の修正によりまして、この別罪につきまして重罪に罪種限定がなされまして、また裁判官による事後審査制も採用されました。この十四条の犯罪についての絞りでありますけれども、このような罪種限定だけではなくて、いわゆる明白性の要件、すなわち明らかに認められるという要件による絞りがかかっていることに注意すべきであります。つまり、犯罪実行が明白な場合に別罪傍受が許容されるのでありまして、その点では三条傍受よりも嫌疑の程度としては厳しい要件をかけているという点であります。  犯罪実行が明白な犯罪、すなわち現行犯につきましては、現在無令状逮捕が認められております。十四条はそれに事後審査をかぶせております。このようなことを考えますと、十四条の別罪傍受は憲法の要求する令状主義との整合性を保ち得るものであるというふうに考えております。  結局、この法案による通信傍受という捜査は、対象犯罪の限定の問題も含めまして、捜査方法としては限定的なものであろうと考えます。  アメリカの例を見ますと年間千件を超える実施例、あるいはドイツでは三千件を超える実施例、あるいはフランスでは一万を超える実施例などが報告されておりますけれども、いずれにしましても、日本における通信傍受の実施ということを想定してみますと、外国とは同列には論じられない少数例になるであろうというふうに理解しております。  次に、傍受の実施手続についてであります。この点については二点ほどコメントしておきたいと思います。  第一は、常時立会人制度であります。  この立会人制度につきましては、外形的な手続の監視のみであるという点が議論されております。この点につきましては、立会人によりまして傍受媒体、すなわち原本ですけれども、それの封印がなされ保管がなされるということになりますと、事後的なチェックというものが可能となります。すなわち、立会人に期待されておりますのは、傍受媒体の原本性の担保ということであります。  そうなりますと、立会人は外形的手続の監視を厳正に行うということになります。傍受媒体についての第三者による封印という点がこの制度のポイントであり、このような立会人制度は諸外国にはない、日本にのみ認められている制度でございますが、注目すべき制度であろうと考えます。  また、当事者への通知制度でありますけれども、これは通知によりまして事後の不服申し立てを可能としております。憲法三十一条の保障する適正手続、すなわち告知、聴聞の権利を保障するものと考えます。  結局、傍受法案は、以上述べましたように、傍受の要件の点につきましても、また傍受の手続という点につきましても、憲法の基準を満たし得るものと考える次第であります。  次に、法制度全体から見て、このような通信傍受制度を導入した場合の問題点について二点ほど触れておきたいと考えます。  第一点に、刑事免責制度ということであります。  すなわち、通信傍受によって組織犯罪の証拠を収集するということが可能になったといたしましても、組織犯罪の捜査をこの通信傍受に頼るあるいは頼り切るということにも問題があろうかと思います。傍受法ができれば組織犯罪に対する捜査の手法としては万全であるということは到底言えないと考えます。  したがいまして、組織犯罪に関する供述証拠の収集につきましては、先ほど申しましたように被疑者の取り調べにもう一度戻るということはできませんので、刑事免責を与えて証人に供述を強制するといういわゆる刑事免責制度というものの検討も開始されるべきではなかろうかというふうに考えるわけであります。  第二点は、被疑者の国選弁護制度についてであります。  法案は幾つかの被疑者の人権保障規定を設けましたけれども、このような傍受の実施に対する権利保障のためには、被疑者には弁護人の援助が必要となります。組織犯罪の中枢の者が被疑者となった場合には弁護人がつく場合があるいは多かろうかと思いますけれども、制度としては被疑者に弁護人を必ずつけるという制度が考えられるべきであろうと考えます。被疑者の国選弁護制度につきましては、いろいろな問題がありまして、検討すべき事項がたくさんあるわけでありますが、そのための取り組みを開始することがまた緊急課題であろうということを申し上げたいと思います。  結論としまして、問題の要点は犯罪捜査の必要性と国民の自由保障とのバランスの問題、すなわち利益考量の問題であると理解しております。このような通信傍受法を設けた場合のメリットとデメリット、そうしてこれをつくらなかった場合のデメリットとメリットというものをまた比較考量してみなければなりません。私は、結論としまして、そのような比較考量の結果、法案のような通信傍受を設けることに賛成したいと考える次第でございます。  以上であります。 <0008>=委員長(荒木清寛君)= 次に、村井参考人にお願いいたします。村井参考人。 <0009>=参考人(村井敏邦君)= 私は、刑事法を専門にする立場から、通信傍受法案について反対の意見を申し述べさせていただきます。  ただいま田口さんの方から捜査の必要性というような観点がまず第一に挙げられて、その立場から新しい犯罪捜査方法が必要なのだという御議論がありましたけれども、捜査の必要性と新しい犯罪捜査方法との関係で重要なことは、やはりそれが憲法上認められる手続であるかということだと思います。  まず、憲法との関係を問題にしますが、憲法において通信の秘密というものが保障されている、これを制約するだけの必要性があるかということが重要なポイントになると思います。その点で、通信の秘密なり憲法上の基本的人権を制約する原理とのかかわり合いで、果たしてそれだけの必要性を認め得るかということであります。  基本的に、通信の秘密を制約する原理というのは、その通信それ自体が危険性をもたらすという場合に本来限定されるはずのものであります。これが内在的制約の原理であります。  その内在的制約を超えた場合には、憲法上いろいろ議論がありますけれども、何らかの形で憲法の規定の中にそれを制約する文言がある場合に一定の議論としては内在的制約を超えた必要性等の観点からこれを制約することもあり得るという議論があります。私は必ずしもその立場に立ちませんけれども、外在的制約論に立ちませんが、しかし仮にそのような場合を想定するとしましても、通信の秘密についてはそのようなものが規定されていない。  したがって、例えば郵便物の中に爆弾が入っているというのは、この通信それ自体において危険性がある、これを回避するというのは認められるでしょう。しかし、電話で犯罪に関連する事項を通信するというようなことについて、それ自体として明白かつ現在の危険があるということではありませんので、そういった観点からしますと、通信の秘密を制約するだけの内在的な原理というものが必ずしもこの通信の傍受という手段を肯定することにはならないということになります。これが基本的な物の考え方であろうというように思います。  もう一つ、憲法上との関係からいいますと、憲法三十五条、三十一条以下の規定とのかかわり合いであります。  これは手続的な適正性の問題でありますけれども、もちろんこの手続的な適正性の要請を満たすためには、先ほど言いました点、基本的な人権を制約するだけの正当な理由があるということが必要なわけで、その点に多大なる疑問があるということは今申したとおりであります。手続的な適正性とのかかわり合いでは、通信の傍受というのがまず基本的に当事者に秘密であるということ、果たしてこれを適正と言えるか、公正と言えるか、そのこと自体が問題であります。  さらに、通信の傍受というのは、基本的に将来発生する事象について傍受するということです。令状の発付が少なくとも将来発生する事象にかかわらされている。ここに予測の要素が入ります。多大なる予測です。何が起きるかわからない通話についての予測ですから、大変に難しい予測をしなければならない。  さらにプラスしまして、今回の法案の中で定められている将来の犯罪に対する通信の傍受も認め得るということであります。  この点、過去に起きた犯罪とのかかわり合いで将来の犯罪についての傍受を認めるのだから構わないという御議論がありましたけれども、しかし、少なくとも将来発生するであろうということを予測し、将来起きるであろうという通話を傍受する、この二点、二重の意味での予測をしなければなりません。この点で、憲法三十五条で要求されている令状主義の要請を果たして満たし得るかということが問題になるわけです。  裁判官がこの二重の予測をした上で令状を発付するということになります。これはそもそも本質上といいますか、裁判官の任務としては甚だしく難しい任務を負わされることになります。その難しい任務を負わされるとどういうことになるかというと、令状請求があったことに対して十分なチェックがしかねるということになる、これを認める方向になるでしょう。  このあたりは実は裁判官を信頼するかしないかということにかかわるかもしれませんけれども、現在の令状実務とのかかわり合いからいいますと、残念ながら、裁判官が予測できない以上、これをチェックして令状を発付しないという方向に出るということは余り考えられません。その点が、令状請求、令状主義そのものを果たして満たし得るかということにかかわる問題であります。  それから、令状の提示ということが憲法上要請されるかどうかについては議論があります。  憲法三十五条が令状の提示を必ずしも要件としていない。確かに明示の要件とはしておりません。しかし、何のために令状主義が要請されるかということとのかかわり合いからいいますと、やはり自分として、何が捜査、捜索されているのか、捜査の対象になっているのかを知ることによって、これに対する防御等を行う、その準備を行うということが非常に重要な点であります。  その点で、先ほど言いました通信の傍受というのは、盗聴とも言われるように、秘密であるわけですから、秘密でなければならないわけです。そうしますと、相手方に、盗聴の当該人物に令状を提示するということはあり得ないわけです。そういうことになりますと、これをあらかじめチェックするということは到底当事者には不可能なことだということになります。  そういう意味では、令状の提示が要求されない、必然的に要求されないので、その意味での令状主義が本来要求している内容を満たし得ないということになります。  こういう根本的な問題を通信傍受法案は持っているわけですけれども、さて、それをどのような形でチェック、歯どめをかけることによって果たして憲法に適合するような形での通信傍受というのは可能なのかということになります。  対象犯罪を限定するというのが一つの方法として衆議院で認められたわけですけれども、この対象犯罪の限定というのは、アメリカでも実は当初ある程度絞った形で法律ができたんですが、毎回の改正のたびに拡大されていっております。したがって、先ほどの捜査の必要性ということを強調すればするだけ、対象犯罪は当然に拡張するであろうということが予測できます。  これはたまたま私が聞いたことではありますけれども、アイルランドの警察本部長の話ですと、盗聴、通信の傍受が最も有効なのはわいろ罪であるということが言われました。国会議員の方の自宅等を盗聴するということも、もしわいろ罪が対象になった場合にはあり得るということになります。この点は恐らく日本の捜査実務においても考え得ることだろうと思います。  わいろ罪の場合には、密室による犯罪であって自白を求める以外にないのだということが捜査官の中でよく言われます。そうしますと、先ほど田口さんの方からも言われましたけれども、自白というものに依拠しない犯罪捜査をやろうとすれば、通信を傍受するというのは一つの方法としては非常に有効な方法だということになります。事ほどさように、犯罪の対象というのは広がる危険性をこの通信傍受法案はそもそも持っているということに御注意いただきたいと思います。  それから、いみじくも田口さんはおっしゃいましたけれども、通信傍受だけではだめなのだ、刑事免責も必要なのだということをおっしゃいました。これは将来の予測ですから何とも言えないわけですけれども、通信傍受を有効にするためには該当通信を特定しなければならない、これがやはり一番有効な方法なわけですし、それが要求されるわけです。  該当通信を特定するということになりますと、その回線を含めてどれが該当通信をする回線であるかというのをあらかじめ知らなければならない。これを知るにはどうすればいいか。これは実際上、アメリカやイギリス等で行われておりますが、いわゆるインフォーマント、イギリスですとスーパーグラスといいますが、スパイ、的確なインフォメーションを提供するための装置が必要である。それを得るための装置が必要だということになりますと内部告発、言葉としては内部告発というと非常にきれいなわけですけれども、組織なり団体なりの内部の人からの正確な情報を得る必要がある。そういう意味でのインフォーマントの制度というのがセットとして考え得ます。そうでなければ、二十四時間ずっと聞いていないとどれが該当通信であるか判明しないということになります。これは違法であるということになっておりますので、特定するとなると、先ほど言ったような装置が必要だということになります。  さらに、インフォーマントとの関係では、組織の内部の告発ということになりますと、その人に対しては先ほど言いました刑事免責をして、おまえさんは起訴しないからちょっと情報を提供してくれというような話になる。このような形での捜査、通信傍受には今言いましたようにそういう意味での装置としてのすそ野が非常に広いものがある、それを視野に置いて果たして通信傍受を認めるのが妥当であるかどうかを御議論いただきたいと思うわけです。  私は、やはりそのような方法というのは甚だしく妥当性を欠くというように思います。したがって、仮にどのように捜査の必要性があろうと踏み越えてはならない領域に踏み入れることになる。この点を私は大変に危惧するわけです。  その意味で、必要性だけではなくして、まさに妥当性ということを十分にお考えいただいて、憲法とのかかわり合いで、先ほど言いましたすそ野とのかかわり合い、全体的な装置としての通信傍受法案の妥当性を御議論いただきたいというように思います。  実は、アメリカでは確かに傍受をやっております。一九六八年以来認めております。このときの一九六八年の議論においてどのような点が政府から言われたかといいますと、いわばワイヤータッピングを認めるということは、従来の捜査が犯罪から犯人を求めるということであったけれども、ワイヤータッピングというのはむしろ犯人から犯罪を求めることなんだ、そういう意味での発想の転換をしなければならないというように言っております。まさにそのとおりだと思います。ある人が特定されて、ターゲットになった人から犯罪を求める手段というのが通信傍受ということです。これは、従来、捜査として我々が考えてきたものとは全く異なるものになります。  そうした意味で、刑事訴訟法学においては、現在、捜査概念をめぐって大変に議論が二分していると言ってよろしいかと思います。私などは、このような形で捜査概念を変えるということに対して、刑事訴訟法のみならず日本社会全体の観念を変えてしまうのではないか、変貌をもたらすのではないかということを大変に危惧しております。  そうした意味で、この法案に対しては反対という立場で意見を述べさせていただきました。 <0010>=委員長(荒木清寛君)= 各参考人の皆様にはありがとうございました。  以上で参考人の意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。 <0011>=佐々木知子君= 自民党の佐々木でございます。  参考人の先生方には、お忙しいところ、わざわざここまでお越しいただきましてありがとうございます。また、貴重な御意見を拝聴させていただきまして、ありがとうございました。  幾つか質問させていただきたいんですけれども、私自身は昨年の五月まで十五年余にわたりまして検事をやっておりました。そのうち八年間は地検で実際に捜査なり、時には公判に携わって、現場で組織犯罪ももちろん随分数を扱っておりました。その経験で言わせていただきますと、田口参考人がお述べになりましたように、まさに組織犯罪というのは非常に捜査が困難でございます。  一般犯罪でありましたならば日本の警察は非常に優秀であり、大きな事件が起きますと捜査本部というものを設けまして数十人の警察官が犯人が見つかるまで張り込む、尾行する、いろんな人に当たって事情聴取をして、そして容疑者を割り出していくという地道な捜査の結果、犯人を挙げている。それで先進諸国に比べましても断トツの検挙率を誇っているというわけでございます。九六年に関しましては殺人事件の検挙率は九八・五%。ちなみに、日本に追随するドイツで九二・一%、アメリカなどに至りましては六六・九%しか検挙率がございません。  これは非常に日本の警察が優秀であり、また日本国民が警察に協力をするということのあらわれではないかというふうに思っておりますが、ただ、組織的犯罪になりますと事情は全く違ってまいります。犯罪には継続性があり、もちろん組織性があり、そして密行性がございます。それからまた、言うならば国際性もございますし、経済利益を追求する、そういうようなこともございます。  取り調べの限界ということをいみじくもおっしゃっていただきましたけれども、確かに上の者のだれが命じたのだ、だれが関与しているのか、自白しろ、そういうことを普通の一般の人に言った場合には、聞いて自白をしてくれる場合もございますでしょう。ですが、彼らは犯罪のプロであり、そういうことをしゃべることによって自分たちが今度は組織からもしかしたら報復されるかもわからないような立場になるわけですから、しゃべりたいはずがないわけです。  それは突き上げ捜査のやはり限界を感じざるを得ないところでございまして、覚せい剤取締法違反の検挙者数は非常に多いです。特別法犯の中でも断トツに多いですけれども、このほとんどがおっしゃったように末端使用であり、自分が使う分を持っている、あるいはそこそこに売るようなものを持っているたぐいでとまっているわけです。もちろん、その上には絶対に組織犯罪が関与しているわけですけれども、そこまで出てこない。上の方からは、捕まった者に二十日間とにかく頑張れよ、出てきたら悪いようにはしないからということで、ずっと黙っているというケースも非常に多うございます。  若い検事は、だんだんと取り調べ能力も落ちてきたというふうに言われております。コミュニケーションも余りうまくいっていないというようなのがございますでしょうけれども、これではだんだんと日本は犯罪者を逃してしまうのじゃないか、これでいいのだろうかというような、本当に抜本的な対策が必要とされるのではないかと思うわけです。  もちろん、たまには突き上げ捜査がうまくいって、検事のうまい取り調べでちゃんと自白をしてくれて、組長が逮捕されて無期懲役刑になって罰金一千万円になったようなケースもございます。それは成功例ということで検察庁内部で回りますが、それはあくまでもわずかの成功例にすぎません。本来はそうでないといけないわけですけれども、それは非常に難しい。そういう実態でございます。  田口参考人にお聞きしたいんですけれども、私は、どちらかというとこれはもう本当に遅きに失しているのではないかというような法案だと思うわけですけれども、国際的な要請もございますし、それ以上に、犯罪は検挙しなければいけない、国民の安全は保たれない、国家の治安は保たれないということで、絶対に必要な法案だというふうに思っているわけです。  村井参考人の方から、本法案は、憲法二十一条二項の通信の秘密の保障や第三十五条が定める令状主義に抵触するのではないかというふうな御意見が出されましたけれども、これら憲法上の問題点についてどのようにお考えでしょうか。 <0012>=参考人(田口守一君)= お答えします。  村井さんの方から憲法の問題の指摘がありました。私の先ほどの意見では、直接的というよりも、各論的に間接的にお答えしたつもりでおりますが、改めて申し上げさせていただきますと、御指摘のとおり、憲法二十一条におきます通信の秘密というものは国民の基本的な権利でありますけれども、同時に、国民の基本的権利といいましても、先ほども御指摘のありましたように、内在的制約があることは当然であります。  村井先生は、明白かつ現在の危険という要件からこれらの内在的制約の限界ということを検討されました。この点につきましては、恐らく犯罪情勢に対する認識という問題があろうかと思いますけれども、私は、現在の犯罪情勢、先ほど申しましたような犯罪情勢から考えますと、公共の福祉を理由とした必要最小限度の制約という意味での内在的制約をこの際考えることができるという立場であります。  また、もう一点重要な問題として三十五条の令状主義の問題があります。この点につきましても、議論をしますとこれは長くなりますけれども、先ほども申し上げましたのですが、ポイントは犯罪の特定が可能であるかということであります。事情によっては可能な場合がある。どういう事情ならば可能であるかということを法律がどのように厳格に規定することができるかという問題でありまして、これは憲法で答えの出る問題ではなくて、どういう法律をつくるかという問題である、その法律次第によってはその特定が可能であるというふうに考えておりますので、憲法の問題はクリアしてよろしいというふうに考えております。 <0013>=佐々木知子君= 令状主義を潜脱するのではないかという意見がよく出るわけですけれども、日本では裁判所のチェック機能が甘いのではないかという意見もよく出ます。  私は、九三年から九六年までの三年間にわたりまして国連アジア極東犯罪防止研修所というところで教官をしておりました。そこで、アジア、アフリカとかいろいろな国の刑事司法に携わる実務家とたくさん接する機会を持ちましたが、英米法系の国というのは、基本的に令状という観念が非常に薄いんですね。現行犯に限らず大体逮捕というのは警察が無令状でしてしまう、その後に治安判事のところに連れていって、釈放される場合もあるが、もちろん釈放されない場合もある。  そういうような形で、彼らに幾ら説明しても、令状による逮捕というのが非常にわかりにくいというのと、それから日本で言う任意捜査、在宅の捜査というのもあり得ないというぐらいで、日本は任意捜査というのが基本でございます、御存じのように身柄を逮捕せずに捜査をするというのが。例えば、交通関係業過を除く刑法犯では三割のみが逮捕される、特別法犯では道交違反をのけますと四割のみが逮捕される。それぐらいかなり謙抑的に逮捕というのも行っておりますし、ほかの令状をとって強制捜査をすることに関してももちろんそうでございます。だから、私は、令状主義ということが非常に間違って理解されているのではないかなと思います。  日本の裁判所のチェック機能というのは、私は信用していいし、その前の段階の刑事司法の捜査に携わる警察の段階で非常なチェックがなされているし、また検察庁でもセックチェックがなされている、スクリーニングをかけているということをここで申し上げておきたいと思います。  本法案は、諸外国の通信傍受法制度と比べてみますと、傍受の対象犯罪は極めて限定されております。また、令状発付のためには、犯罪が行われたと疑うに足りる高度な嫌疑を必要とするなどの厳格な要件が定められています。また、傍受ができる期間は短く制限されて、傍受実施時における通信事業者等の常時立ち会いを必要とするなど、適正確保の手続も厳重に定められていると思います。  諸外国の法制度と比較した御意見を田口参考人から伺いたいんですが、いかがでしょうか。 <0014>=参考人(田口守一君)= お答えします。  御指摘のとおり、現在提案されております法案は、諸外国と比較した場合にかなりの特色を持っていることは確かだと思います。諸外国でも、いわゆるアメリカ、イギリス、ドイツ等の先進国ではすべて、御案内のとおり通信傍受の法制度を備えております。しかし、その内容はかなり各国によって特色がございます。  今御指摘がありましたような傍受の期間の問題を一つとりましても、日本の十日、延長して三十日という制度は短い方でございます。また、傍受の手続につきましても、先ほども触れましたが、常時立ち会いを求めるという制度、そしてこれを封印して裁判官に管理させるというような手続もかなり日本法の特色であると思います。  このような制度は、先ほど申しましたように、かなり限定的な厳しい制度でございますが、私の理解するところによりますと、日本の社会、国家はこのような限定的な傍受制度でまずは足りるということを意味しているのであろう。法制度というのは世界共通である必要はありませんので、その国の社会とか治安状況等に即した法制度であればよろしいということで、日本の社会に適した法案ということで提案されているのであろうというふうに理解しております。 <0015>=佐々木知子君= これまた田口参考人にお伺いしたいんですけれども、この法案に反対する理由のよく挙げられることの一つといたしまして、警察が信用できない、警察にこのような武器を与えてしまうといかに乱用するかわかったものではない、なぜならば警察にこれだけの今まで不祥事があるではないか以下云々というような議論があるわけでございますけれども、他国の警察と比べて日本の警察がそれほど不祥事を起こしやすいものか、乱用する危険があるのかどうか、それについての御意見を伺いたいと思います。 <0016>=参考人(田口守一君)= お答えします。  恐らく法執行機関に対する国民の信頼という問題が一番重要な問題で核心的な問題であろうということは確かだろう、おっしゃるとおりだと思います。しかしながら、この私が、研究者の立場でありますけれども、この問題についてどう答えるかということは、いろいろと問題がある、難しいというふうに考えます。  といいますのは、例えば、今諸外国との関係という御質問でございましたけれども、日本の現状を考えますと、業過を除く刑法犯、恐らく年間二百万を超えていると思いますが、そのほか道路交通法違反となりましたら何百万でございますから、恐らく一千万を超える事件があるだろう。それを警察官、二十万ぐらいでしょうか、この人たちが日々これを処理しているというプロセスの中で、一定の不祥事あるいは違法行為というものが起きるのは恐らく避けられないことであろうというふうに思います。  これについては、もちろん不祥事はないにこしたことはありませんから、それに対する対策を立てること、そしてまた、そのような不祥事があった場合に、これを隠ぺいといいますか隠さないで、表に出してしかるべく対策をとるということが対策としては重要なことであると思います。  そのような不祥事の存在があるとしまして、そして警察に対する不信がある、信用できぬ、こういうような議論でありますけれども、これはかなり評価の問題でありまして、簡単には言える問題ではないが、統計をとりましたら、恐らく諸外国と比較すれば不祥事の件数というのは出るだろうと思います。しかしながら、件数が出てもこれは数字でありまして、これをどう評価するかというのはそれぞれの問題であろうというふうに考えます。 <0017>=佐々木知子君= 神参考人にお伺いしたいんですけれども、私は率直な話、現在は弁護士でございますけれども、日弁連の立場が多数の弁護士の立場を、考えを代表しているものとは思っていないというのが事実なんです。  最初の方で、組織的犯罪対策自体は日弁連も必要であると考えているというふうに言われました。しかるに、現在提示されている組織的犯罪対策関連法案につきましては以下云々、これだけの問題点があるという指摘でございました。  時間の関係上、一々これについてやりとりする余裕はもちろんないわけですけれども、では、どのようにこの法律をいじればいいとされるのか、また、もしこの法律自体が全然だめだというふうに言われるのであれば、組織的犯罪対策にほかにどのような対策をすればいいとお考えなのか、その点についてのお考えを伺いたいと思います。 <0018>=参考人(神洋明君)= 参議院の法務委員会調査室の方に日弁連の意見書というものがあるかと思いますが、実は、この意見書を最初読んだ方々がほとんど言われるのが、日弁連の立場がよくわからないと。これは、実のことを申し上げますと、いろんな意見の集約の中でまとめられた意見であります。  御存じのように、日弁連というところは強制加入団体でありますので、一定の一つの意見でもって固めるわけにはまいりません。したがって、組織犯罪対策三法案についても、いかなる修正を加えても反対だという見解もあれば、それなりの修正を加えた場合にはこれは認めるべきだという意見もあります。そういった意見の中でまとめられたものですので、佐々木委員のおっしゃられたような趣旨のことは必ずしも当たっていないのではないかというふうに思います。  私自身、はっきり申し上げまして、日弁連の立場の中でもどちらかというと保守的な考え方であります。私は、抜本的な改正をすることによって場合によっては組織犯罪対策法案についても認める余地があるのではないかという考え方を持っています。  しかし、残念ながら現在提案されている法律案では抜本的な改正は全くない、前回の修正案ではないというふうに考えているので、反対するということになっております。例えば、先ほど来申し上げておりますように、この法律案が組織的な犯罪に対処するための法律案になっていない、いわゆる一般の組織犯罪でないものも全部ひっくるめて組織犯罪対策に使おうとしているところに大きな問題があると考えております。 <0019>=佐々木知子君= では、この法律自体を組織的犯罪のみに限るというふうに見直せばそれで足りる、そういうふうなお考えなんでしょうか。 <0020>=参考人(神洋明君)= そのような修正が可能であればそれで足りるとは思います。  ただ、私が最初に申し上げましたように、この組織犯罪対策は刑事法のみが突出するような形での施策であってはいけないと思っております。政府なり国が組織犯罪対策に対してどういう実態になっているのかという解明をした上で、どう国の施策を立てればいいかという総合的な施策の中で刑事法を考えるべきだという意見を持っております。 <0021>=佐々木知子君= 組織的犯罪対策自体は非常に必要なことであります。そして、もう一つの日本の刑事司法においての大事な潮流というのは、ここでは関係ないと言われるかもわかりませんが、被害者対策ということだと私は考えております。  日弁連も、犯罪者のみではなく被害者の方の側面もこれからぜひ考えていっていただけたらいいなというふうに思っておりますが、その点についていかがでしょうか。 <0022>=参考人(神洋明君)= 現在、日弁連でも犯罪被害者の問題について意見書の作成をしております。実は私もこのメンバーの一人になっておりまして、必ずしもこういう被告人や被疑者の問題だけではなく、犯罪被害者をどうすればいいかという形のものの委員となっておりますので、日弁連でも何らかの形で意見表明が近いところでできるのではないかと考えております。 <0023>=佐々木知子君= 私はこれで結構でございます。 <0024>=千葉景子君= 民主党・新緑風会の千葉景子でございます。  きょうは、三名の参考人の皆さん、本当に貴重な御意見をありがとうございます。  私は、この三法案を考えるに当たりまして、私なりに一定の視点を持たせていただいております。  一つは、これは神参考人もおっしゃっておられましたけれども、私も決して犯罪を許そうということを考えているわけではありません。だれもが安心して生活できる、そういう社会を考えていくことは私たちにとっても責任であろうと思っています。  ただ、そのためには、犯罪がどういう経緯で、あるいはどういう原因で発生をしてくるのか、あるいはその置かれた人たちの立場、あるいは経済社会状況、こういうものをもきちっと踏まえた上でそれぞれに対して総合的な対策を考え、その中で必要とあらば刑事手続あるいは刑事法による対応というのも考えていくべきだというふうに思います。  その意味では、本当にこの三法案がそれをきちっと厳密に検討し、そしてそれにふさわしい対策となっているのかどうか、そのあたりも私は疑問を抱いているところでもございます。  それからもう一つ、それに対してどういう刑事的な対応をとるかという意味でも、非常に従来の刑事法体系を抜本的に変更しかねない、そういう内容をそれぞれの法案が持っているのではないか。これも既に先ほど多少御指摘がございましたけれども、いわば捜査概念というものを大きく変更する、こういう側面もこの法律案は持っていようかというふうに思います。そのあたりでの小手先ではない、根本的に日本の刑事法がどうあるべきかということも含めて検討しなければいけないことだろうというふうに思います。  それからもう一点、これはこの参議院の法務委員会でもこの間の審議で大変大きな注目点になりましたけれども、今や社会は高度情報社会に入ってきております。そういう中で、通信といってもこれは大変幅広い、電話あるいはファクシミリ、あるいは今やインターネット、こういう時代になっています。この通信傍受という問題が、これらの情報社会、あるいはこれからさらに進展していくであろうこういう社会を本当にきちっと見きわめ、そしてその将来像などを考えた上で立てられているのかどうか、こういう点にも私はいささか疑問を感ずるところでございます。  こういう視点を私は持ちながら質問させていただきますので、ぜひ御理解をいただき、適切な御説明をいただければというふうに思っています。  そこで、三名の参考人の皆さんにそれぞれお尋ねをしたいというふうに思うんです。  先ほどからの御発言では、例えば電話あたりをその根底に置かれてお話があったようには思うんですけれども、インターネットという時代になって、この法案をどう考えておられるか、そしてその問題点等、この間もしお考えになったりあるいは御検討になったりされた点がございましたら、それぞれ御指摘をいただきたいと思います。神参考人の方から、いかがでしょうか。 <0025>=参考人(神洋明君)= 確かに、これまでの議論というのが電話を対象とした傍受の問題がいろんな形で例に出されて議論されてきたと思います。  しかしながら、これからの社会、まさにインターネット社会という形に言われておりますので、その意味でこの法律案はインターネットも対象になるというふうな理解を私どもはしております。  したがいまして、このインターネットの場合について、どのように実際にメール部分なりそういうものを対象としてそれを押収するのかというような問題に対して重大な関心を抱いております。  法律案の中では、一般的にはいわゆる暗号だとかあるいは外国語による通信については一たん全部聞ける形になっていますが、インターネットの場合、それがどうなっているのかということについての細かな規定はないという点では若干の疑念を抱いております。 <0026>=参考人(田口守一君)= 御指摘のとおり、インターネット、とりわけメールですね、そういったものによる通信というものがこれから大きな役割を演ずるであろう、そしてまたそれが犯罪通信に使われるであろう、そういう社会であろうことは私もそのとおりだと思います。そして、これらのインターネット等を利用した通信を電話と区別してもし傍受の対象から外すということになりますと、これは犯罪組織としてはそれらを使えば安心であるということになりますので、まずこういったインターネットによる犯罪通信を捕捉する方法ということを考えなければならない。  しかしながら、これについてはいろいろと今も神さんの方から御指摘がありましたけれども、電話とは違った困難さが伴うであろうと思いますけれども、これについては今後、最終的な令状は裁判官が出すわけでありますが、捜査官の収集したメールであれば、メールによって犯罪通信が行われるであろうという疎明資料等を厳密に検査していただいて令状を出していただくことになるであろうというふうに理解しております。 <0027>=参考人(村井敏邦君)= 私もインターネットについては基本的には電話と違うことを考えなければいけないだろうと思うんです、通信傍受を認めるとしても。今度の法案でインターネットも当然対象にしているようですけれども、果たしてこの規定で十分なのかという点になると、手続的には甚だ落ちがある。したがって、通信傍受を認めるとしましても、本来は別にすべきものであろうと思います。  特に一番問題なのは、先ほど神さんの方からも出ましたけれども、暗号を使った通信というのが、これはもちろん電話の場合にもありますけれども、とりわけインターネットの場合には、メールの場合にはそういう形でやられることになります。そうなりますと、これを解明するのは大変な労力と時間がかかる。先ほど来問題になっていることですけれども、該当通信であるかどうかということを調べるためには、全部ダウンロードするなり、どういうふうな形にするのか、ともかく全部いわゆるここでいうところの傍受をしなければならない。それを解明することになると、果たして現実に犯罪を摘発するのに役立つだけの時間的な余裕があるか。大変に時間がかかってしまって、結局意味がないということになってしまう可能性はあります。  そこで考えられるのは、暗号を使ってはいけないという形が考えられます。これは現にアメリカではそういう提案がなされておりますが、これはまさに通信の秘密を害することになります。ただ、有効にやろうとすればそういう形にならざるを得ないだろうということをこれまた恐れています。 <0028>=千葉景子君= このインターネットにかかわっての問題については、この委員会でも本当に疑問あるいはわからない部分が深まるばかりというところが実情でもございます。時間がございましたら、またお聞かせをいただきたいというふうに思うんです。  先ほど私も指摘をさせていただきましたけれども、犯罪を防止するあるいは適切な捜査をするといっても、やはりそれにはきちっとした憲法上のルール、こういうものを守った上で、そして適切な対応というものが求められるだろうというふうに思っています。  そこでお聞きしたいんですけれども、村井先生、先ほどもちょっとお触れになりましたけれども、これまでの犯罪捜査というのは既に起きた犯罪のために証拠を収集する、こういうものが犯罪捜査として体系づけられてまいりました。そして、それに対して犯罪の予防活動というのはいわば刑事行政というような形で区別されてきたというのが日本の体系ではなかったかというふうに思います。  これに対して、今回の通信傍受というのは、先ほどのお話のように、将来発生するであろう、そういう予測を非常に要素とした問題であるし、さらに将来発生する犯罪についての傍受というものも認める、二重の予測というお話をなさいました。こういう基本的な体系を大きく変えていくようなこういう法案、いいのかどうかということはわかりませんけれども、やはり相当厳密な、あるいはこれからの日本の将来の刑事法というのをどうしていくかということを含めて考える必要があろうかというふうに思うんですけれども、その点について先生はどうお考えでいらっしゃいましょうか。 <0029>=参考人(村井敏邦君)= おっしゃるとおりです。  先ほども申しましたように、特に将来の犯罪を通信傍受の対象にするということになると、まだ犯罪が発生していないのに証拠を収集するということなわけで、私ども、すべて犯罪の発生ということを契機に捜査が始まるものだということで講義などをやってきました。そこを変えなければならないということになります。  これは大変なことなわけで、従来は捜査の端緒というものと捜査というのを分けるということをしておりました。捜査の端緒というのはいわば一種の行政警察活動である。捜査の端緒から犯罪が発生しているあるいは発生したということが把握できてから捜査が始まるということで、司法警察の役割がそこから発生するんだという形で講じ、議論をしてきました。そういった分け方がいけないんだというのが最近の議論の中で出てきているんですけれども、根本的にこれは警察活動及び捜査活動というものの概念を変えることになってしまいます。  この点で、少し解釈論的なことを言いますと、刑事訴訟法百八十九条に「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。」という規定があります。この規定の解釈として、「犯罪があると思料するとき」というのは、当然にもう犯罪というものがあって、それで犯人及び証拠を収集するんだというのを当然解釈としてやってきたわけですが、「犯罪がある」と言っているんだから、あったということではないという、非常に枝葉末節な言葉を持ってきて、犯罪があったということに限定されないんだということが、ある一部の方から議論がされております。  そういう意味で、将来の犯罪も従来から捜査というのは認めてきたんだと言っておりますけれども、これは全く従来の議論とは違うことです。犯罪があるというのは、少なくとも現にあるということであって、あるであろうというのとは明確に区別されるので、刑事訴訟法上からは少なくとも将来の犯罪のための捜査というのは認めてこなかったと言わざるを得ない。  憲法はどうか。憲法の規定は、特に捜査概念について規定はしておりませんけれども、基本的にはやはり犯罪というものの把握というのは今言ったような形で考えていたんだろうと思います。  その意味では、憲法、刑事訴訟法の基本的な概念を変えることになるというのは先ほど指摘したとおりであります。 <0030>=千葉景子君= ところで、今回の組織犯罪対策三法案、とかく国際的な比較、あるいは国際社会からの要請ということが指摘をされています。それは全く否定するものではありません。  確かに、国際的に薬物犯罪、こういうものを何とか少なくしていこう、これに国際協力をしていこうという動きがあることも当然ですし、マネーロンダリングなどについても国際的な要請があるということは私も承知をしています。ただ、じゃ、それを我が国でどういう形できちっと取り締まり、あるいは対応していくかということになりますと、外国のやり方をただ日本に引き入れてくればよいということではないだろうというふうに思います。  そこで、神参考人にお聞かせをいただきたいんですけれども、国際化ということを考えると、じゃ刑事捜査体系あるいは令状の実務、こういうところも国際社会とどう同じでどう違うのか、こういうことも総合的に考えておかなければいけない。ただ要請があるから、例えばアメリカでやっているから、それをそのまま日本に持ってくればいいというわけにはいかないだろうというふうに思うんです。総合的に考えたときに、捜査体系あるいは裁判所の令状の実務等で、例えばアメリカとの比較などでどんな点が異なり、あるいはどういう問題点があるとお考えでしょうか。 <0031>=参考人(神洋明君)= 多分詳細はお二人の学者の参考人の方から補足いただけると思いますが、私は日本の捜査体系あるいは法体系がどうなっているかということと無関係に通信傍受法案が認められるべきではないというふうに考えております。  例えば、日本においてはいわゆる二十三日間という長期の逮捕・勾留というものがあります。この逮捕・勾留が、しかも代用監獄の中で取り調べがされるということにもなっております。しかも、日本の捜査というのは一つの特色を持っていると私は考えております。これは日本の捜査が分業化されていないのではないかという点であります。  これはどういうことかと申しますと、捜査というのは本来は初動捜査、要するにどういう人が犯人で、どういう事件が起こっているのかということを調べる初動捜査と、それをさらに裏づけをする本格捜査、そして最後に取り調べという形の段階が経られて一般的には行われるというふうに言われています。  諸外国の例は、私が理解する限りでは、おのおの担当する人が違って、前に行ったものについてチェックをする、このようにされている。そのために捜査機関内部にチェック・アンド・バランスが働くということがあるんですが、日本の捜査においては同一人が初動捜査も本格捜査も取り調べも行うという形で行われているので、チェック機能が働かないということがあると思います。そういう意味での比較の問題も必要だろうと思います。  このチェック機能が働かない警察官が現実に通信の傍受をした場合、どこまで自主的に、いわゆる関係のない会話を排除していく努力をするのか、そこを疑問に思っております。  それから、日本の場合には、諸外国と違って起訴前の保釈制度がありません。しかも、先ほど田口参考人もおっしゃいましたけれども、被疑者の国選弁護制度もないという問題もあります。さらに問題を申し述べますと、私もイギリスで視察をしてきたんですが、捜査の可視化という問題について日本の捜査についてはほとんど意に介していない。どういうことかと申しますと、例えば取り調べに弁護人が立ち会うだとか捜査過程をテープにとって録音するといったようなことが今の日本の警察では認められていません。さらに申し述べると、捜査段階における証拠の開示といった問題が、例えばイギリスやドイツなどでは行われていると言われています。  それと、違法収集証拠の排除の問題、これはアメリカにおいてはかなり徹底しております。ところが、日本の判例においては、重要な証拠であればそれは証拠にすることができる、相当であれば証拠にすることができるという形で、ある意味でしり抜けの形になっています。この違法収集証拠の問題は、例えばマニュアルをつくって通信傍受を行った場合、アメリカの場合にはいささかの違法もあってはいけないという心理的な要請が働きますので、それをなるべく抑制しようという形で捜査官の方に働きます。ところが、日本の場合については先ほどのようにしり抜けになっておりますので、捜査官をそこまで信用できるのかどうかという問題が起こってくると思います。  そういった総合的な施策の中でこの通信傍受を考えなければならないという意味では、国際的な要請の観点からいえば、今述べた点については日本は著しく欧米諸国に立ちおくれているのではないかというふうに考えております。 <0032>=千葉景子君= 時間になりましたので、終わります。ありがとうございました。 <0033>=大森礼子君= 公明党の大森礼子です。  参考人の皆様、本日は大変ありがとうございます。早速、質問に入らせていただきます。  先ほど、田口参考人の方から、この通信傍受法案については、つくったときのメリット、デメリット、それからつくらなかったときのデメリット、メリット、こういうことについてきちっと考える必要があるのではないか、こういう御意見がございました。  それで、今お話を伺いますと、神参考人と村井参考人がこの修正案については消極的な御意見ということなので、まず村井参考人からお尋ねいたしますが、この傍受法をつくった場合のメリットというのは何か考えておられるのか、先生のお話はデメリットの方ですが、メリットの部分も認めておられるのかどうか、その点はいかがでしょうか。 <0034>=参考人(村井敏邦君)= メリットというのは、捜査側からいいますと、通信が傍受できればいいということに恐らくなるでしょう。ただし、先ほど言いましたように、私は通信傍受が果たして有効に機能するかということを考えますと、有効に機能するためにはいろいろまた別の装置が必要だということになるだろう。そういう意味で、果たして捜査側にとってもメリットがあるのかな、労力と時間だけかかってメリットがないのではないかというようにも思っております。 <0035>=大森礼子君= 捜査側から見るとメリットということで、実は政府原案につきましては私も反対しております、公明党も。これは本当にあったら捜査に便利だなと思いますけれども、ここまでは要らない、原則禁止、例外的に認めるという立場をとるべきだ。これはもちろん通信の秘密の重大さをかんがみてのことであります。  ただ、捜査側から見るとメリットというふうな言い方をされますと、例えば薬物犯罪、先ほど自民党の委員の方からも、要するに薬物犯罪等の突き上げ捜査の困難性を述べられましたけれども、私ども考えますのは、今薬物犯罪、これが青少年まで蔓延している、そうやって暴力団が犯罪収益を得ている。そして、薬物を体に入れるということは、ある意味で人間としての尊厳性を失うようなことにもなる、こういうことでその対策ということを考えておりますので、捜査側から見るとメリットということは、実は国民側から見ましても、そういう薬物に汚染されない社会ということでメリットというふうにとらえておるわけです。  次に、神参考人の方、つくったときのメリット、つくらなかったときのデメリットという点についてはどのようにお考えでしょうか。 <0036>=参考人(神洋明君)= つくったときのメリットとしては、恐らく捜査機関に新たな手段を与えるという意味では、メリットは捜査機関側にあると思います。しかし、先ほど田口参考人がおっしゃったのと逆に、果たしてこの通信傍受を認めたからといって、末端じゃない、いわゆる中枢にある犯罪組織の人物に迫ることができるかということについては、疑問に思っております。このような制度が生まれれば、恐らく次の別の手段を彼らは考えるだろうと思います。その意味で、デメリットを補うに足りるメリットがあるかどうかは疑問だと思います。 <0037>=大森礼子君= 神参考人も捜査側のメリットということでおっしゃるわけですが、ただ、捜査側のメリットも、犯罪を摘発するメリットということは、薬物ばかり強調して申しわけありませんが、すなわち国民をそういうものから守る、こういうメリットもお考えいただきたいなと思います。  それから、犯罪組織はまた次の手段を考えると言いますと、これは、ある意味では追いかける側と逃げる側のイタチごっこみたいなところがあると私は思います。  それで、神参考人にお尋ねするのですが、先ほど抜本的な改正をすれば認めてもいいようなことをおっしゃいました。これは、一方でやはり犯罪対策ということも重要な点であるというお考えがあるんだと思います。現在の法案ではだめ、修正案ではだめと。抜本的な改正というのは、例えば具体的にはどこら辺をどういうふうにしたらよろしいということになるか、二、三点で結構です。 <0038>=参考人(神洋明君)= 二、三点で抜本的な改正ができるかどうかというのも少し問題があるんです。  確かに衆議院の修正案において対象犯罪の限定がされました。しかし、先ほど私が述べましたように、これは大ざっぱにざっくりと薬物、銃器、集団密航、組織的殺人というふうになっていますけれども、その中には組織的にされ得ない、あるいはされることが少ないものも入っています。それと、もしこれを処罰の対象にするというのであれば、これは組織的に行われたと疑うに足りるような犯罪についてだけの傍受を認める形でなければ私はおかしいと考えております。  それから、先ほど来幾つか述べておりますが、例えば他の犯罪に関連した通信の問題についても、これはやはり全く別の犯罪に関する通信を傍受するわけですから原則は令状が要るはずであります。これに、先ほど事後的な裁判所の審査があることである程度十分じゃないかという御意見もありました。しかし、これを認めることは実は現行法では認められていない緊急捜索、押収といった手続が認められる、そういったものに道が開かれていくという意味では、懸念を抱いております。そういった意味での配慮も必要だと思います。  さらに、犯罪と関係のない一般の方々がたまたま犯罪者との間で会話を交わしたものが捜査機関に聞かれていても、これが犯罪に関連ないということで通知がされないということも大きな問題だと思います。やはり聞いた以上は通知をする、これは必要だろうと思います。 <0039>=大森礼子君= 通知の点につきましては、通知するには住所、氏名を特定しなくてはいけないというこの関連で、実際の場面でちょっと問題があるのかなという考えを持っております。それはちょっと時間がありませんので除きます。  例えば、先ほど先生がおっしゃった、大麻の単純所持とかが含まれるということでございますね、必ずしも組織的犯罪と言えないものがということなんです。  ただ、単純所持という場合は、大麻だから特に意味があるのかどうか、大麻でもマリファナとハシッシュと分かれておりまして、大麻樹脂の方はちょっと重いというふうに考えております。単純所持、これは営利目的所持と区別されるわけでありまして、覚せい剤の単純所持でも十年以下という非常に重い犯罪になっています。大麻でも五年以下、重い犯罪だろうと思います。例えば少量のものを持っている人、小さなパケ、それから例えばこれは営利目的が立証できなければ五十キログラム持っていても単純所持の規定で処罰されるということに、極端な例ですが、なるわけです。  それは確かにそのような少量を持っていた末端の単純所持までもが対象になるのではないかということで、実はこの修正案の中で「目的」のところ、第一条、この中に文言を入れました。この三法が組織犯罪対策だといいながら、この通信傍受法については全然そういう明文がないではないかということで考えまして、「組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、」と、この立法の経緯ということです。これでは不十分だとおっしゃられるかもしれませんけれども、一応これが組織犯罪対策だということで、一つの解釈の基準になるようにというふうに考えております。  それから、十四条の、これは別件傍受と言う人もおりますが、私は緊急傍受と言うのがいいのかなという気がするんです。今、神参考人のおっしゃった他の犯罪、本来令状が要る、それは頭ではわかるんですが、現実に聞いておりましてそういう会話がぽっと入ったときに令状を求めること自体はもうほとんど不可能であります。  それで、これを認めると緊急捜索になるおそれがあるというんですが、あと現実の場面としまして、これは国民から見ましても、覚せい剤取締法違反で聞いていた、そうすると、じゃだれかを殺した、殺そうという、あるいはたまたまかもしれませんが入ってきたときに、これを認めないとなりますと、そこのところは聞くべきでないということになるのでしょうか。 <0040>=参考人(神洋明君)= 本来的には聞くべきでないと私は考えております。 <0041>=大森礼子君= そうしますと、犯罪というのは過去に起きたことに限る、あるいは令状が要るということになりますと、これは実は修正のところで「短期一年以上」の犯罪と非常に限定いたしました。前は「長期三年以上の懲役若しくは禁錮」、ここまで含んでおりました。これですと本当に別件目的で聞くことを許すだろうということで、短期一年以上の重大な犯罪に限ったわけなんです。  そうしますと、じゃ、だれそれを殺そうと相談していることが現実に入る、あるいはだれかの子供を誘拐して身の代金を要求しようというものが入る、それでも入ったら切るべきだということが本当に妥当なのかどうか。形式的に将来の犯罪ですとだめだとなりますと、実際に子供が誘拐されてから、あるいは人が殺されてから捜査してくれ、こういうことにもなるのではないかと思うのですが、この点、神参考人はどのようにお考えになるでしょうか。 <0042>=参考人(神洋明君)= そういうことも想定されると思います。 <0043>=大森礼子君= じゃ、そのようになったとしても、もしかしたらこれはたまたま起こった場合だと思うんですけれども、そうすると、将来遺族になりそうな人は、夫が殺されたことにしましょうか、やはりとめてほしいなとか思うかもしれないんですが、そういう場合でも、そのような重大な犯罪、短期一年以上、これは重大な犯罪に絞りましたけれども、やっぱり人権を守るために切るべきだというお考えと、このように理解してよろしいでしょうか。 <0044>=参考人(神洋明君)= はい、そのとおりです。  先ほど抜本的な修正として三点ほど述べましたが、まだそれでは実は足りないんです。ですから、そこをちょっと言わせていただきたいと思っております。  まず、該当性判断のための傍受についてのシステム、要するに最小化の法則です。これはきちっとした形で、いわゆる捜査官の側に任せるだけではなくて、国民監視のもとできちっとしたマニュアルづくりがされなければいけないというふうに考えています。  それともう一つは、立ち会いの問題です。立ち会いの問題について、やはり外形的な立ち会いだけで足りるとするのには問題があると考えております。やはり、それなりの専門家が立ち会って違法な傍受をチェックするということが必要ではないかと思っています。とりわけ、先ほど申し上げましたように、日本の捜査機関には、欧米諸国に比べて捜査機関内部にチェックをしようという、いわゆるお互いをチェック・アンド・バランスで抑えようという機能がないというふうなことを考えた場合、ぜひ必要だと考えております。 <0045>=大森礼子君= 該当性判断の最小化については、質疑等を通じてもきちっとしていきたいというふうに思っております。  それで、田口参考人にお尋ねしますけれども、今、立会人の問題が出ました。外形的チェックだけではだめだというのですけれども、この常時立ち会いにした意味というのは、先生おっしゃったように、傍受媒体のその正確性の担保といいますか、これを担保することで、一たんかちっとしたものができますと、いざ見られたら全部ばれてしまうとなりますと、これはやっているときにも心理的抑制というのはかなり働くだろうというふうに私は思います。  それで、この立会人に切断権を認めるということは、中身を聞かせるということです。そうしますと、いろんな必要な情報というもの、犯罪事実の要旨とか交友関係とかも知らせなくてはいけないと思っています。それから、聞くべき犯罪関連通信を切断されても困ると思うんです。だから、その専門的知識を持った人の手当てができるかという問題がありますが、この立会人制度について先生の御意見をお伺いしたい。  それから、もう一点なんですが、この切断権というのは、要するに判例から来ているわけです。裁判官が条件として切断権を認めた、そこから来るわけですが、あれは検証令状の場合でありまして、事後的チェックとか何もない。そして、テープにとったらそれはそのまま警察が持って帰るわけで、一たん令状を出したら裁判官の手が及ばないという事情もあったので、やむを得ず条件として最小限の担保として、効果的かどうかわからないけれどもつけたのではないかなと私は個人的に理解しております。一方で、こういう記録媒体に全部残すということで、この担保があるのであればまた切断権のとらえ方も違ってくるのではないかと考えておりますが、この点について御意見をお聞かせいただきたいと思います。 <0046>=参考人(田口守一君)= お答えします。  大森議員のおっしゃったとおりだと思います。  まず、切断権の問題ですけれども、今回の場合に、令状が例えば十日間出るということになりますと、十日間立ち会って、しかもすべての内容を聞かなければならない。しかも、今御指摘のように、犯罪関連通信でありまして、いろいろな情報が入ってくる。どれが関連しているかどれが関連していないかということをすべて立会人が判断しなければならない。捜査機関ではない第三者、すなわち捜査の情報を十分心得ていないといいますか、当事者ではありませんから、そういった立場の人にそういった重大な責務を負わせるということは無理だろうというふうに思います。  それから、今御指摘のように、従来の検証令状の場合は、過去に五件例がありますけれども、すべて譲渡罪といいましょうか、覚せい剤の譲渡というふうに非常に限定されたものであります。したがって、覚せい剤を例の非対面式という形で今の御指摘のパケを渡すわけですけれども、それにかかわる通話かどうかという形で検証令状の通話の範囲というものは相当明らかであるということから、物理的に可能であるから判例はそれを認めたのであろうというふうに思います。  それは、今御指摘のように事後の封印、保管制度というものが現在あるわけですから同列ではないというのは御指摘のとおりですけれども、それのみならず、そこで問題になっている犯罪、そして通話の内容というもので、法案の場合と検証令状の場合とでは事情が違うであろうというふうに理解しております。 <0047>=大森礼子君= それでは、村井参考人にお尋ねいたします。  捜査の必要性とそれから新しい犯罪捜査の関係、要するにそういう手法が憲法上許されるかどうかということをお述べになりました。この通信傍受法案につきましては、通信の秘密との関係がまず一番に来ると思うのですが、一方で、刑事訴訟法の百条に郵便物等の押収の規定がございます。それで、私は、口頭会話の電話の場合よりもやっぱり本当に秘密は信書に書くのかなと。信書開披罪なんかも認められているわけですが、これは非常に大きな通信の秘密ですね。この条文をめぐっては特に憲法上問題にならなかったのかどうか。  それから、該当性判断を認めること自体を問題にされる方もいらっしゃいます。もちろん、これは最小化ということでチェックしていかなきゃいけないわけですけれども。例えば押収なんかの現場ですが、メモとかいろんな備忘録とかそういうもの、中身を見ませんと本当に押収すべきものかどうかということがわかりません。あるいは、手紙類も読みます。そうしますと、やはりそれも一つの該当性判断の行為なんだろうと思うんです。通常の押収のところで、そういうことはプライバシーの侵害であるとかいう問題はこれまで起きなかったのかどうか。  今、この通信傍受をめぐってはプライバシーの問題がいろいろ議論をされていますが、これが通信傍受についてだけの特異な問題なのかどうか、こういう観点からお尋ねしたいと思います。 <0048>=参考人(村井敏邦君)= 刑事訴訟法百条、郵便物についての規定と通信傍受というのがよく並列して出されるわけですけれども、先ほどおっしゃったのとは違った意味で、確かに郵便物と通信というのは異なるわけです、むしろ。郵便物の場合には思想とか意思とか、いわば活字、字としてもう既にそこにあらわれているわけですね。具体的に顕現しているわけです。ところが、先ほども言いましたけれども、通話というのは、話というのはまだこれから出るかどうかわからない。先ほどから言っているように、将来の事象にかかわるわけですね。この点が基本的に異なるわけで、それを同じ談で議論するわけにはいかないだろうというのが第一点。  それから、そもそも百条の規定そのものについても、先ほど言った通信の秘密との関係からやはり本来は限定すべきであるというふうに私自身は考えております。 <0049>=大森礼子君= それでは、最後に一点やはり村井参考人にお尋ねいたします。  この検証許可状に基づく電話傍受、これは札幌高裁で争われた事案で、このときにある事実に基づいて令状が発付されます。そして、この電話傍受の際に、過去に行われた犯罪のみならず、現に行われており将来も行われようとしている犯罪について通話がなされることが判明した場合といったような要件があって、それを聞くことができる、証拠とすることができるとありますが、この判例の考え方は先生のお考えからしますともう違憲に近いということになりますでしょうか。簡単で結構ですが。 <0050>=参考人(村井敏邦君)= そうですね。結論から言いますとそういうことになります。 <0051>=大森礼子君= 終わります。 <0052>=橋本敦君= 日本共産党の橋本でございます。  きょうは参考人の皆さんありがとうございました。  最初に、村井先生に御意見をお伺いしたいと思うんです。  何といっても我々の憲法二十一条二項というのは、法律の留保なしに通信の秘密を基本的人権の重要な問題として保障しておることは言うまでもございません。例えば、サミット諸国の中で通信傍受法案、いわゆる盗聴法案がないのは我が国だけだということがよく関係者の中で言われております。私は、憲法二十一条二項あるいは十三条あるいは三十五条、三十一条、こういった関係から人権を保障し、容易なことで通信傍受といういわゆる盗聴手続を警察官憲に認めないという、そのこと自体がむしろ日本としては世界に誇っていい問題ではないかということを考えておるんですが、国際的な状況から見て、そういったことについて村井先生はどのようにお考えか、まずお伺いしたいと思います。 <0053>=参考人(村井敏邦君)= おっしゃるとおりで、私も必ずしも国際的にいわば圧力があるからということで認めるべき筋合いのものではないというふうに思います。日本としての立場からきちっとしたことをそれなりに発言するというのは重要なことであるわけで、日本の場合には憲法が基本的人権についてはアメリカ憲法以上に厚くこれを保護しているということ、それから、これは既に別の本で書いておりますので詳しいことは言いませんけれども、憲法三十五条の内容についても、アメリカの修正条項などとはかなり違って令状主義が非常にはっきりと出されているということ、そういうようなことを考えて、日本としての基本的な姿勢を示すべきであろうというふうに思います。 <0054>=橋本敦君= 次に、神先生にお伺いしたいと思うんです。  先ほどもお触れになりましたけれども、立会人の切断権がないという問題が一つ重要な問題だというお話がございました。私もその点は非常に大事だと思っておるんですが、該当性判断、試し聞きということで行われますから、いろんな通信が聞かれるわけです。ですから、一定の犯罪容疑者と関係がある会社あるいは市民団体あるいはよく行く喫茶店、どこで盗聴が行われるか、それは予測がつきません。そういったところへ多数の市民からいろんな電話が入るわけです。ですから、私はこの該当性判断ということをやらなければ犯罪関連通信が特定できないという、そこのところにそもそも通信傍受、いわゆる盗聴法の重大な人権侵害の危険性の一つがあると思うんです。  そこで、その該当性判断を最小法則ということで、スポットモニタリングということでやると政府は説明するんですが、そのスポットモニタリングというのをだれがどこで決めるかというと、法案で決めるわけじゃなくて警察の担当者の方が決めるということになっておりますので、全くそれが法的保障の範囲外に置かれてしまっているわけです。しかも、スポットモニタリングというマニュアルをつくっても、もうすこし聞いてみなければもう少し聞いてみなければという捜査意欲がありますから、結局全部聞いちゃったということになって、それはスポットモニタリングが機能しないわけですね。ここらあたりが私は人権侵害を引き起こしやすい重大な問題点の一つと思っておりますが、いかがお考えでしょうか。 <0055>=参考人(神洋明君)= 橋本委員がおっしゃるとおりだと私も思います。  その意味では、該当性判断をしなければならないこと自体、一つの大きな問題が潜んでいる法律だと思いますし、スポットモニタリングについても、そのスポットモニタリングがきちっとなされるかどうかということについての保証がないということも言えると思います。 <0056>=橋本敦君= その点に関して村井先生は、先ほど令状の提示の問題を御指摘になりました。令状の提示がない、当事者の知らない間に聞くというところにこの通信傍受のまさに捜査の本質的なところがあるわけですから、令状提示はもとより考えていないわけです。  そうなりますと、防御権の行使ということについて重大な問題があるという御指摘がございました。そこのところ、防御権の行使というのは被疑者の防御権の行使というように普通とられますが、ひそかに電話を聞かれた一般市民のプライバシー保護という観点から見て、その点はどんなふうにお考えでしょうか。 <0057>=参考人(村井敏邦君)= 一般市民の点からいっても、自分が話している会話が傍受されているということはあらかじめわからないわけですから、その点では大変にプライバシー侵害は大きいというふうに考えます。  私は、令状が提示できる場合というのもないわけではないだろうというように考えていますが、これは、一方当事者が同意している場合、例えば脅迫電話などのような場合、被害者が同意しているような場合には被害者に令状を提示して傍受するということは可能なわけですけれども、これは実は本法案の中では令状の要らない傍受ということになっています。それはおかしいのではないか。むしろ、こういう場合こそ一定程度、他方当事者について問題がありますけれども、これは現に犯罪が行われているということでありますから、その点では一方当事者への少なくとも提示の可能な同意盗聴こそまさに通信傍受法案で認めるべきことではないかというように私は考えております。 <0058>=橋本敦君= それから、次の論点として通知の問題がございます。先ほども神先生の方から若干お触れになりましたが、傍受をした相手方に対して全然通知が行きませんと、これはみずから不服申し立て、あるいは自分が盗聴されたプライバシー侵害に対する救済手続がどこに対してもとれないわけです。  この法案では、刑事手続用の傍受記録に記載される当事者しか通知が行きませんから、したがって刑事記録に記載される当事者以外の盗聴されたと言われるすべての人に行かないわけですから、不服の申し立てのしようもなければ事後救済処置もない。これは私はやっぱり人権保障という観点からして大変な問題だと思うんです。  それぞれ通知をすること自体が、あるいは通話の逆探知をしなきゃならない、住所を特定しなきゃならないと。あなたの電話が実はあるときに聞かれたのですよということを知らせること自体が人権上問題があるという説さえ言われる場合があるんです。私はそれは全く違うのではないかと思っておりますが、そういう通知の問題について神先生の方はいかがお考えでしょうか。 <0059>=参考人(神洋明君)= 要するに、捜査機関においてみずから話した内容が聞かれているということ自体がもうプライバシー侵害そのものであります。したがって、聞いた以上は通知をするというのが原則でなければいけないので、この法律案によれば、今委員のおっしゃるように、犯罪に関連がなかったからということで何ら連絡が行かないというのは問題だと考えております。 <0060>=橋本敦君= それからもう一つ私が心配をしておりますのは、この法案では、傍受をいたします、そして原記録は封印をして裁判所に行くんですが、複製をしたものから刑事手続用の傍受記録を警察の方がつくります。そこで犯罪の関連性のない通話は消去する、こうなっています。その消去するときに立会人がいるのか、これは立会人はおりません。立会人は封印して原記録を出すだけです。ですから、実際に消去したのかどうかということが法的、制度的に一体どこでどう担保されるのだろうかということを私は心配するんですが、その点について神参考人の御意見はいかがでしょうか。 <0061>=参考人(神洋明君)= 先ほどの意見陳述でも述べましたように、この消去システムがこの中に規定されていません。流用してはならないという規定がありますが、これに違反した場合の処罰規定も何もありません。その意味ではやはり問題があると思います。この法律には、そういった意味では、いわゆる警察がその流用をしない、あるいは消去をするシステムがきちっとされるというような手段、方法が講じられる必要があるのではないかと考えております。 <0062>=橋本敦君= いわゆる該当性判断にしろ別件傍受と言われる問題にしろ、いずれにしても最小化処置といいますか、最小限でないといけませんよということは言われているわけです。ところが、その最小化処置の中身というのは一体だれがどこでどう決めるかといいますと、この法案ではどこが決めるともはっきり書いていないわけで、刑事局長の答弁では捜査担当官の方でそれを決め実際運用する、こうなっているわけです。  そうなりますと、最小化処置というのは、基本的人権の保障的機能をもうそもそもその出発点から持ち得ないのではないか。例えば、最小化処置の一分間聞いてスイッチオフして、電話が継続していれば三十秒たってまた聞くというようなことを仮にスポットモニタリングとして決めても、それに違反した制裁もなければ、そもそもそのマニュアル自体が国会の論議や審査の対象にならないし、規範的力も持ち得ない。こういうことになりますと、これは結局人権侵害的傍受を防ぎ得ないというように私は思わざるを得ないんです。  アメリカでも最小化処置というのはありまして、これは私から言うまでもございませんが、ある意味では日本より厳しいところもあります。それでも、アメリカでも言われておりますように、司法統計もありますけれども、スタインハードさんの講演なんかを読みましても、一九八四年から九四年の十年間で犯罪関連通話の割合はどんどん低下をして、二五%から一七%低下している、逆に犯罪に直接関連のない通話が八〇%以上ふえた、こういうことです。  ですから、アメリカでも最小化処置ということを言っていてもこういう人権侵害が起こるわけですから、まして日本で今言ったように最小化処置それ自体が明確な法的規範力を持たない場合は人権侵害のおそれが大変大きいと私は思うんですが、この点についてお三人の先生の御意見を伺って、時間ですから私の質問を終わりたいと思います。順次お願いをいたします。 <0063>=参考人(神洋明君)= おっしゃるとおり、最小化措置をどこでつくるかということについては政府答弁でもなされておりません。先ほどから申し上げているように、最小化措置は、やはり国民の監視のもとで規則化されるなりあるいは例えば最高裁規則に譲るような形をとって、弁護士も含めた法曹三者の中で、あるいは警察も含めた捜査機関の実情のわかる者も入れた形でなされる必要があるのではないかというふうに思います。  それと、これに違反しても制裁がない、おっしゃるとおりであります。アメリカの場合について申し上げますと、先ほどから申しているように、要するに違法収集証拠の排除法則が徹底しておりますので、これに違反したことがなされれば、実際問題、公判においてそれは証拠として使えなくて結局やったことがパアになる、こういうような心理的な圧迫の中で彼らはやるんです。ところが、日本においては残念ながら違法収集証拠排除法則が徹底していません。その中で最小化法則といってもやはり懸念されるような問題が残らざるを得ないと思います。  その意味で、私ども日弁連では、違法収集証拠排除法則の徹底というのは、少なくともこのような大きな制度を設けるのであれば、通信傍受に関しては徹底してほしいということを言っているのであります。 <0064>=参考人(田口守一君)= お答えします。  スポットモニタリングというのが適正に行われるかという問題ですけれども、三点ほど申し上げますと、第一に、該当性のない一般通話といいますか、これを聞くという問題については、先ほど大森委員から御指摘のあったように、通常の捜索でもあり得る問題であることが一つです。  それから第二点は、法的救済措置がないという点ですけれども、この点については先ほど申しましたように、傍受原本の保管というところにこの法律は期待している、それによってどういう救済が得られるかはこれからの問題ですけれども、そういう法律になっているということが第二点であります。  第三点は、今、神さんの方で御指摘のありました排除法則ですけれども、当該被疑者、被告人が起訴された場合には、排除法則は当然働き得るというふうに考えます。  以上です。 <0065>=参考人(村井敏邦君)= この法案全体を通じてまさに違法に対する担保がないということが大変に問題だと思います。  今、最後の違法排除の点からいいますと、神さんもおっしゃいましたように、違法な場合に排除するというのはありませんし、さらに違法な盗聴を行った場合の制裁というのはありません。電気通信事業法等に違反した場合ということだけで、これはもう従来からあったことであって、先ほどのようにスポットモニタリングをはみ出した部分については違法になるわけですけれども、それに対してこれは違法な盗聴だということで処罰するという規定を最小限本来設けるべきでしょうが、それもありません。  さらに、アメリカとの比較でいいますと、アメリカの場合には傍受の経過を逐一裁判官に知らせるということがありますけれども、そういう規定も持っておりません。そういう意味で、こういうスポットをきちっと保障するような制度を欠いているということになります。 <0066>=橋本敦君= ちょっと時間がありましたので、一点だけ。  実際問題として、この通信傍受法案、いわゆる盗聴法案が実施されても、犯罪組織というのはそれなりに対応しますので、したがって基本的に組織犯罪ということで言う団体の、組織的な犯罪団体の中枢に迫る、そういう意味での捜査には実際は役立たないのではないか。  例えば、アメリカで通信傍受が随分行われておりますが、マフィアの幹部が通信傍受でひっかかったという例はない。もちろん、そういうことはやらないわけです。したがって、結局末端の者しかやれないのではないかという意味で、経費と効率との対比でアメリカでもかなりの批判が出ているという文献もあるわけです。  そこらあたりについて、田口先生はどうお考えでしょうか。 <0067>=参考人(田口守一君)= この法律は、先ほど申し上げましたように、犯罪関連通信の蓋然性を示す疎明資料がないと令状は出ないというシステムになっているわけであります。ですから、この令状を出すときには、この通信設備において法案の示すような犯罪関連通信が、これは蓋然性ですけれども、何らかの通話がなされるであろうということを示す根拠資料が何かあるに違いない、供述かもしれませんしそれまでの電話の使用回数ということかもしれません、その辺はわかりませんが、そういった可能性を示すものが何かあるというので、その可能性にかけるということだろうと思います。  その結果、御指摘のようにその効果が上がるかどうかという点については、それは何とも今は判断できません。 <0068>=橋本敦君= 終わります。 <0069>=福島瑞穂君= 社民党の福島瑞穂です。きょうはどうも本当にありがとうございます。  先ほど千葉景子委員の方から神先生の方に対して、国際化という点で質問がありました。私もちょっとその点を質問させていただきたいと思います。  国際人権規約B規約など、規約人権委員会から日本政府はたびたび勧告を受けておりますが、その辺については法的拘束力は何もないということで、代用監獄の廃止その他については全く実現しておりません。  ところで、国際的な要請ということをこの盗聴法、組織的犯罪対策三法案についてはよく言われておるんですが、日本は現在国際的な要請と言われていますけれども、どういうものが言われているかについて教えてください。 <0070>=参考人(神洋明君)= アルシュ・サミット宣言におけるFATF、金融活動作業部会というものがあるんですが、ここで要請されているのはマネーロンダリング規定についての問題だけであります。通信傍受については要求されておりません。現在、何か法務省は、日本がこの議長国になっているということでこの法律案を急いでいるという話も伺っております。  それともう一つ、国際的要請といった場合に、現在、国連の国際組織犯罪防止条約の起草に関する委員会というのがウィーンで開かれておりまして、約三カ月に一遍ほどずつこの会議は開かれております。この中で今国際的に何が必要かということについて議論されているのは、実はマネーロンダリングであります。通信傍受についてはまだ具体的な議論に入っておらず、これからの問題となっております。  したがいまして、今早急に通信傍受のような法律案をここで通すということは必ずしも国際的な要請があってではないというふうに言えると思っております。 <0071>=福島瑞穂君= 先ほど村井参考人の方から令状主義の問題点などについて教えていただきました。私自身もこの盗聴法で一番懸念するのは、今までの刑事法概念を大きく変えてしまうだろうということです。  それで、まずお聞きしたいのは、事前盗聴の件について先ほど少し話をしていただきましたけれども、事前盗聴、予備盗聴、別件盗聴の規定がありますが、特に問題がある事前盗聴についてもう少し話をしていただけますでしょうか。 <0072>=参考人(村井敏邦君)= 事前の、いわば本来の犯罪の準備のための事前盗聴ということですね。 <0073>=福島瑞穂君= はい。 <0074>=参考人(村井敏邦君)= これは犯罪関連性一体となるものというふうな形で修正がされておりますけれども、そもそも当該犯罪ではないものについて令状なしに盗聴するということですから、これ自体としてやはり本来ならこれも令状が必要です。なぜ、準備のためだから許されるのかというのは、もうひとつよくわからないです。  限定したというお話ですけれども、長期二年というのは実は必ずしも限定にならないので、かなりの犯罪がここに含まれてきます。  したがって、こういうような形での準備のための犯罪だからいいというのでは、これは正当化するわけにはいかないだろうというふうに思います。 <0075>=福島瑞穂君= 犯罪を個人の内心ではなくて個人の外部的行為として近代刑法は考えてきたと思います。今回の法案に関しては司法警察と行政警察が混同するおそれがあるのではないかということを村井参考人は先ほどおっしゃいましたけれども、この行政警察と司法警察の混同が起きるのではないかという点について、もう少し話をしてください。 <0076>=参考人(村井敏邦君)= 先ほども言いましたように、犯罪捜査というのはいわば司法警察活動で認められていることなわけですけれども、この犯罪捜査というのは犯罪が起きてからだというのが、先ほども言いましたように従来の概念です。先ほどちょっと別件捜査のところで大森議員の方からありましたけれども、それまでは犯罪予防なんです。  犯罪予防のためにどうするんだという議論をされました。まさに犯罪予防のための別件盗聴といいますか、別件事件の傍受という形を認めるということになりますと、これは従来の司法的作用ではないわけですね。これを犯罪の予防というのと犯罪の捜査というのを分けてきたというのが司法警察と行政警察の別なんです。刑事訴訟法と警察官職務執行法の別というのはここにあるわけです。 <0077>=福島瑞穂君= 同じ点について、神参考人、いかがでしょうか。  つまり、今回の法案が行政警察と司法警察の混同を起こす、そういう場合に、ともすれば、捜査ではなく、村井参考人がおっしゃいましたけれども、犯罪予防という名の情報収集がされるのではないかというふうな懸念もあるわけですが、いかがでしょうか。 <0078>=参考人(神洋明君)= 村井参考人がおっしゃったとおりだと私も思います。 <0079>=福島瑞穂君= 令状主義のことを先ほど村井参考人は特に言っていただきました。まず第一に令状の特定性の問題、第二に令状の提示が要求されているけれどもそれができないのではないかという問題などをおっしゃっていただきました。その問題と通知の問題というのは関係すると思うのです。  つまり、もし私自身が令状の交付を受け、例えば私の使う電話、ファクス、Eメールが全部盗聴の対象になっている、一カ月の間に物すごい数の人と私は通信を行った、一カ月私を盗聴したけれども何も犯罪関連通信は出てこなかった、要するに刑事傍受記録に記載される通話はなかったとしますと、私にも通知はありませんし、私と通信をしたおびただしい人たちにも通知が行かないわけです。つまり、強制処分が実際はなされた、しかし私もほかの人もだれ一人としてそれを知ることができないわけです。こういうことは刑事法の学者の方としてどういうふうに考えられますでしょうか。 <0080>=参考人(村井敏邦君)= 従来の押収ですと、押収目録というのを渡して何が押収されたかというのを通知する形になっております。これによって、自分の何が、押収されてはならないようなものまで押収されているというのがチェックできるわけですけれども、今回の通信傍受に関してはそれは全くできません。全くできないのみならず、通知されないということです。通知されないということで、従来の押収という概念とは全く違うものですから、我々刑事訴訟法の学者、私としては、やはり従来の捜査手段という観点から見ますと今回のは異常な手段であるというように考えざるを得ません。  その意味で、プライバシー侵害は大きく、少なくともプライバシーを侵害したということを正当化するだけの担保というものを保障すべきなのにそれがないということに大変な懸念を抱いております。 <0081>=福島瑞穂君= 通常の捜索であれば、例えば私が逮捕される、あるいは私の家を捜索される、私はそれに対してすぐさま準抗告をする、あるいは国家賠償請求裁判を起こすということができるわけですけれども、もちろん私自身に令状の提示はありませんし通知もありません、私と会話をした人にも通知が行きません。そうすると、そもそも通知をされない人間は強制処分を受けても準抗告、国家賠償請求訴訟などの手段がとり得ないわけですけれども、村井参考人、この点についてはいかがでしょうか。 <0082>=参考人(村井敏邦君)= 大変に問題のところだと思います。一応不服申し立ての規定がありますけれども、通知がなければ不服申し立てができないというのはまさにそのとおりでして、通知自体もおくれても構わないという形になっておりますので、それ自体として救済の手段がどうも十分に備えられていない。  さらに、先ほどの立会人とのかかわり合いでもそうですけれども、該当通信であるかどうかのチェックができないということで、そういう点から考えても、その都度にチェックをし、さらに不服を的確な形で提起するということがこの通信傍受に関してはできないという点で大変に問題だろうと思います。 <0083>=福島瑞穂君= スポットモニタリングということがよく政府の側から説明があるのですが、これはつくると言われているマニュアルにすぎず、条文上には明確に、例えば三十秒聞いてやめるというふうなものは書いてありません。  それからもう一つ思うのは、先ほどお三方がおっしゃったように、インターネットの関係についてはまだ検討が必要ではないか、考慮が必要ではないかという趣旨のことをおっしゃいましたけれども、スポットモニタリングというマニュアルがきちっとできたとしても、電子メールやファクスについては読まなければ中身がわからないわけで、しかし読んでしまえばもう情報としては知ってしまうという問題があります。  その点については、神参考人いかがでしょうか。 <0084>=参考人(神洋明君)= まさに福島委員がおっしゃるとおりであります。読まなければわからない。その意味では、現在の法律案はインターネットについてきちっとした規定がないと言わざるを得ないと思います。あくまでも電話を想定した形での法律案にすぎないという意味ではインターネットの場合についての検討が必要ですが、それをどうするかということについては、やはりもう少し議論が必要ではないかと思います。  恐らく、立法者の意図といいますか、法務省、政府の意図は、暗号あるいは外国語と同じように翻訳過程でわかったらなくするというような形のものと同じようにインターネットを考えていると思います。しかし、インターネットに関して言えばもう全部という形になるので、その意味で果たしてこれが適当かどうかということも十分に検討が必要だと思います。 <0085>=福島瑞穂君= 補充性の要件についてなんですが、三条では、「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときは、」というふうになっております。参考試案では、「犯人を特定し又は犯行の状況若しくは内容を明らかにするため他に方法がないと認められるとき」と。「他に方法がない」という文言と「著しく困難である」というのは言い方が違います。  よく政府の方から盗聴は最後の手段だという説明を受けるんですが、実際盗聴法ができた後、その運用において本当に最後の手段になるだろうか。予備盗聴、別件盗聴、事前盗聴を認めておりますので、捜査の端緒という側面になっていってしまうのではないか。  ですから、令状の発付をするときには書くけれども、実際の使われ方はどうなるだろうかということについて、神参考人と村井参考人にお願いいたします。 <0086>=参考人(神洋明君)= これは最後の手段だというのは、恐らく政府答弁では出ているんでしょうけれども、この規定だけからそれを最後の手段と読むことはできないと私は考えております。  これを最後の手段だというのであれば、アメリカでの要件がこのように規定されています。通常の捜査手続が見られたが失敗に終わったこと、通常の捜査手続が成功する見込みがないと考えられる合理的な理由があること、または通常の捜査手続は危険過ぎると考えられる合理的な理由があることという形で、かなり具体的に規定がされております。日本の規定の仕方は極めて抽象的で、これは解釈いかんによってはいかようにもできるものではないかという点で疑問があると思います。 <0087>=参考人(村井敏邦君)= 著しく困難であるというのと他の手段がないというのとは明らかに違うということが言えますから、その意味では、著しく困難であるということをもって最後の手段ということにはならないだろうと思います。  最後の手段であるならば、果たして必要であるかということにもなります。先ほども言いましたけれども、「犯人を特定し、」というような要件が果たしてこの場合に有効に働くかというと、犯人はある程度特定されているのではないか。そうなると、犯人を特定するための傍受というのはある意味では無用なものだということになります。  むしろ、捜査の端緒だけに限るべきだという議論もあり得ると思います。証拠としては用いられないということですね。これはドイツなんかであるわけですけれども。そういうような場合に、捜査の端緒を求めるだけだということになると、そういう形で限定したとすれば、裁判で出てこないわけですから、その事前のチェックというのをよほど厳密に決めておかなければならない。公的な形でそれが乱用されないというだけの、もうこれ以上に、この傍受法案で私がいろいろ指摘したこと以上に、捜査の端緒だけに用いる場合にはそれの公明性が明らかでなければならないということになるだろうと思います。 <0088>=福島瑞穂君= 特に、事前盗聴を認めているということは、補充性の要件とどう論理的に結びつくだろうかということを考えることがあるんですが、その点についてはいかがでしょうか。村井参考人にお願いします。 <0089>=参考人(村井敏邦君)= 事前の盗聴を認めるというのは、まさに補充性の要件それ自体としては事前盗聴の部分については満たさないわけですから、この要件外のところに事前盗聴があるということになるだろうと思います。 <0090>=福島瑞穂君= この参議院の法務委員会でも、あるいは参議院の予算委員会でも衆議院の法務委員会でも大変議論になったことは、緒方靖夫さんの盗聴事件あるいは警察の裏金問題などの組織的な問題です。  御存じのとおり、地裁、高裁は警察の組織的犯罪であるというふうに民事の裁判では判決が出ましたけれども、残念ながらと言ってもいいと思うんですが、警察は警察がやったということをいまだに委員会の中でも認めておりません。  きのう、衆議院の法務委員会で、民主党の枝野議員が警察の裏金問題の質問をして政府の答弁がはっきりしなかったために、委員会がそのままとまってしまうということになりました。  先ほど、司法警察と行政警察の混同が起きるのではないかという指摘がされましたけれども、私自身は、例えば司法警察と行政警察がまざるというふうになると、一つは、日本はかつて治安維持法があり、さまざまな宗教団体、共産党員の人、市民活動家、ジャーナリストが弾圧されたという非常に暗い歴史があります。その第一の問題と、第二に、司法警察と行政警察が概念的にまざる状況になったときに、緒方盗聴事件のようなことをきちっと総括していない限り、今後情報収集としてなされる危険性がより強くなるのではないかというふうに思いますが、それについて村井参考人の方からお願いいたします。 <0091>=参考人(村井敏邦君)= 私も、捜査手段としての通信傍受を議論する場合の前提条件として、違法が行われないということが保障されなければならないというふうに思います。  ところが現実には、通信傍受が認められていない緒方邸の通信でさえ傍受され、それを裁判所が組織的なものであるということを認定してもなお認めない警察にこの通信傍受を認めていいかということは、これは国民の立場からいいましてやはりそれは困るというように考えざるを得ないんです。  その点、ぜひこれは捜査手段として有効だから認めてほしいということになりますと、少なくとも認めるための議論といいますか、認めるか認めないかを国会で議論するための前提としては、その点について本来は警察の方が、いや、従来やったのはまずい、今後はそういうことはないということを単に言葉だけではなくしてきちっとしたことで示す、それを信頼させるだけの何らかのものを示さなければいかぬだろうというふうに思います。その意味では、まだ通信傍受法案について議論するだけの前提が整っていないというように私自身は考えています。 <0092>=福島瑞穂君= 時間が来ました。どうもありがとうございました。 <0093>=平野貞夫君= 三人の参考人の先生方のお話は大変勉強になりました。質問をされた四人の法務委員の方々はいずれも弁護士の先生方でございまして、私は法律の専門的な知識がございませんので、ごく一般国民の立場からお尋ねしたいと思います。  最初に確認をしておきたいんですが、神参考人、冒頭に、基本的に日弁連の立場でというお言葉があったと思うんですが、日弁連の立場でお呼びしているわけじゃないと思いますので個人的な意見を大胆にお聞かせいただきたいと思うんです。  お話の中に、人権は国家との関係で保障されるべきものだ、こういうお話があったんですが、もうちょっと詳しいことを聞きたいんですが、例えば制限されることはあってはならぬというお考えでしょうか、そこら辺について。 <0094>=参考人(神洋明君)= 先ほどの意見陳述の際も申し上げましたように、内在的な制約というのは私も否定をいたしません。公共の福祉による制限ということはあり得るだろうと思います。  ですから、これが保障されるといっても、絶対に保障されて、ほかのどんな事情があってもその場合はだめだという趣旨ではありません。 <0095>=平野貞夫君= 組織犯罪三法の議論の第一点は、基本的人権と公共の福祉との調整といいますか調和をどうするかという問題だと思うんですが、公共の福祉の中には危機管理とかあるいは秩序、こういったものは含まれるとお考えでございましょうか。 <0096>=参考人(神洋明君)= 私は、危機管理だとか秩序というのは本来的には入ってこない。恐らく、公共の福祉といった場合には、他の人権との調整という形のものが一番大きいものと考えております。 <0097>=平野貞夫君= 日本国憲法の公共の福祉との調整というのは、解釈、運用というのは学者の先生方によっていろいろあって非常に難しい問題なんですが、私が承知していますところ、基本的人権と公共の福祉、日本国憲法の運用に当たって基準とすべき考え方に国連の行った世界人権宣言があるんじゃないか。ほぼ同趣旨で日本国憲法はつくられている、世界人権宣言の方が後でございますが。  多くの憲法学者の先生方はその人権宣言の二十九条二を引用しておるんですが、そこには、何人もその権利及び自由の行使において専ら他人の権利及び自由に対する当然の承認と尊重とを保障する目的のために、また民主主義社会における道徳、公の秩序及び一般的福祉の正当な要求に応じる目的のためにのみ法律によって定められた制限には服さなければならないと定めておるんです。  世界人権宣言には公の秩序という概念があるわけでございますが、私は神先生の意見とちょっと違うんですが、公の秩序、これは別に国の秩序というだけじゃないと思うんです。状況によっては制限されるべきではないかと思いますが、いかがでございましょうか。 <0098>=参考人(神洋明君)= 一般的に、私ども、公の秩序といった場合には、先ほど村井先生からも話がありましたが、例えばそのこと自体が犯罪に密接な関連を持っている、これはやはりそのまま放置できないという意味では公の秩序の問題になると思うんです。そういった意味合いでの制限というふうな理解と考えるべきではないかと思っています。 <0099>=平野貞夫君= ちょっと話題を変えますが、村井先生のお話の中に非常に重要な指摘があったと思います。私はこの三法案成立推進論でございますので村井先生の立場とは逆でございますけれども、問題点の指摘においては同じ認識をしております。  それは、この三法案は、三法案のことだと思いますが、捜査概念の変更でありそれは日本社会の諸概念の変更につながることだから云々というお話があったんですが、私もそのとおりだと思います。この三法案、わけても通信傍受法案は、やはり今までの捜査のシステムの概念を画期的に変更するものだという認識でございます。  問題は、なぜ変更しなきゃならないのか、その理由。先生は、必要性だけじゃなくて妥当性も考えろ、議論しろとおっしゃっていただいたんですが、この問題は何も通信傍受法案の問題ではなくて、現在我が国が当面しているあらゆる問題の根本だと思います。もちろん、我が国の文化とか歴史とかそういったものを無視するわけにはいきませんが、やはりさまざまな点において大胆な変更、改革をやっていかなければ、国家だけじゃなくて社会の存立にかかわる、我が国は今非常に危険な状況にあると思っております。ですから私は、組織犯罪三法案もそういう位置づけで推進論なんです。  ただし、やっぱり大きな概念の変更ですから、一挙に完璧なものはなかなか難しいと思いますし、そこにさまざまな問題があることも承知しております。諸先生方との質疑の中での御指摘にも傾聴すべきものが私もあると思っております。  率直に申しまして、例えば覚せい剤の問題一つ取り上げましても、田口先生からも資料が提出されておりますが、昭和五十年代から六十年にかけて第二期の覚せい剤乱用時代があるわけです。昭和六十年に当時の警察庁の専門の人がかなり客観的にいろいろなデータを使って密輸入されている覚せい剤を約七トンと推測しております。  現在、どのくらい密輸入されているかということは推測できないわけですが、それを基準に考えまして、ことしの上半期一トンを超える押収量からいいまして想像を絶する物すごい量が密輸入されておると思います。私は、多分三十トン以上だというふうに推測しております。  なぜ私がそういうことを申し上げるかといいますと、私の生まれた高知県で昨年の秋、末端価格二百億の覚せい剤が海岸に流れ着いた、これは今まだ捜査中だそうでございますが、そのときの警察庁の報告によりますと、その事件に関して関係者の携帯電話の押収は四個、それから土佐清水港の沖に投げ捨てた携帯電話一個、五個の携帯電話がさまざまな形で使われておる、こういう警察庁のお話もございます。同時に、そういうことが頻繁に起こる可能性もあり、仮に覚せい剤三十トンが密輸入されているとしますと、概略一千五百万人ぐらいの人間が一週間に一回覚せい剤を使用するというようなデータで、しかも中学生、高校生、主婦、そういう層に侵入していて、私は、平成のアヘン戦争が国際的な犯罪組織によってもうしかけられている、覚せい剤一つとりましてもそういうふうな極めて深刻な状態だと思っております。  それは、まさに捜査概念を変更してでも、日本民族の生存のためにも日本国の社会の存立のためにも今早急に手を打たなければいけないことだと思うんです。それは政治の責任だと思うんです。この組織三法案というのはそのためにあるというふうに私は自分なりに位置づけておりますが、そういう考え方についてどうでしょうか。村井先生、田口先生の順番で感想をお聞きしたいんです。 <0100>=参考人(村井敏邦君)= この社会がどのような方向に向かうか、非常に危険な方向に向かっているというのは私は平野議員と違った意味で感じております。確かに覚せい剤や麻薬の問題も重要であります。重要でありますが、その点についての対策というのは総合的に考えるべきだというふうに思います。  私は刑事手続を専門にやっておりますけれども、刑事手続や刑法というのは本当に最後の最後かもしれません、できるだけ控え目でなければならないわけです。これの前に、今、平野議員がおっしゃったのはまさに麻薬特例法のときに言われて、コントロールドデリバリーを認めるという議論のときに、これを認めてないとだめなんだということでやられました。他の水際作戦では功を奏しなくなったということが言われたんです。しかし、さらにまた今度は通信傍受でということで、恐らくこれはそういう観念からすると幾らでも先へ先へということになるでしょう。  確かに先へ先へということによって何となく安心したような気分になるでしょうけれども、他方で、我々が基本的に持っていなければならない自由を大きく損なってくる危険性、これが私の感じている将来への危険性です。 <0101>=参考人(田口守一君)= お答えします。  平野委員御指摘のように、現状が非常に深刻なものであるというのはそのとおりであると思います。  ただ、委員のお考えですと、大胆な改革が必要であって、そのために捜査概念の変更も必要である、こういう御指摘だったとお聞きいたしましたが、その点については、私が報告で述べましたように少し違った理解をしておるわけであります。  恐らく、純粋に将来の犯罪が捜査できるのか、こういう問題を出して、そしてできる、そのためには概念を変えなければならない、こういうふうに議論がなされているのだろうと思います。私は、そういう純粋に過去、現在、未来という時間軸の中で犯罪をとらえて、将来の犯罪を刑事訴訟法で捜査できるのか、こういう問題を出すのは余り適切ではないというふうに考えております。  先ほど村井先生の方から刑訴法百八十九条二項の犯罪があるときということについてコメントがございましたけれども、私は、犯罪があるときという言葉については過去、現在、将来ともそれは白紙であって、問題なのは、例えば警職法で不審事由があるときに職務質問をしてよろしい、こういうようなときに、それがさらに刑事訴訟法上の犯罪があると思料して捜査に着手するというところの接点は、時間軸ではなくて当該不審事由が具体的な犯罪となったかどうか、そういう問題だと思います。  ただこの議論は、従来、学会におきましてもこのような事態がまだなかったものですから、明確な話で議論はされておりませんし、私もまだ自分の著作には書いておらないわけですけれども、改めてこのような事態の中で考えてみると、捜査の対象というのは犯罪である、犯罪というのは具体的な犯罪であるということが問われているんだと思います。  その意味におきましては委員御指摘のように一種の変革かもしれませんけれども、しかしそれは捜査概念が明らかになっただけの話であって、従来の捜査概念を捨てて新しい捜査概念を採用するというものではなかろうというのが私の考えでございます。 <0102>=平野貞夫君= 私もその点については何が何でも捜査概念をひっくり返せということを申し上げておるわけじゃございませんで、もうちょっと整理して言いますと、もちろん憲法上許されるということが大前提、その上で国際的なルールといいますか国際的な常識、これをどう入れ込んでいくかということ、そういうことでは今までの捜査概念にも時代についていけない部分があったんじゃないかということ。そしてこれからのこの種の捜査といいますか犯罪に対して、一人一人の人権のある部分を、危機管理とか公の秩序のために、この問題は日本の問題だけじゃなくて、やっぱり日本が抜け穴になっている部分がございますので、日本の社会とかあるいは世界に提起をして、そして社会の安全を共同して守るということが真の意味での国民の人権を守るということになるんではないか、あるいはそういう概念を人権論の中でもつくり上げるべきではないか、個人的にそういうふうに思っておるわけです。  それからもう一つ、いろいろお話を聞いてみますと、乱用の問題だとか違法が行われないことの担保ができない限りこういうシステムをつくるべきではないという御意見がございますが、この点はやっぱり検察機構とか警察機構、いわば現在の国家権力機構を信用するか信用しないかという問題に尽きると思います。確かにいろいろ問題があると思いますし、私もパーフェクトにいいとは思っていません。しかし、我が国の現実は標準的な市民社会、一応世界の中ではまあまあの自由な社会だと思うんですが、それをより快適にしたり適切にしていくためには、やはりこういうシステムが必要ではないかというのが私の意見でございます。  恐縮でございますが、それについてお三人、簡単で結構でございますが、御意見をいただければありがたいんです。 <0103>=参考人(神洋明君)= 検察機構や警察機構を信用できるかどうかという問題と、私は先ほど来申し上げているように、日本の警察機構が西欧の警察機構とどう違うかということも念頭に入れた立法がされなきゃならないというふうに思っております。 <0104>=参考人(田口守一君)= 信用できるかどうかという問題につきましては先ほど佐々木委員の質問で答えたところでありますけれども、法制度というものは、そういう信用できるかどうかという問題以前に、万一の場合に備えていろんな安全装置を考えておかなければならないし、権限行使につきましても、すべて裁量に任せるというものではなくて、限定的なものを考えておく必要がある、そういういろんな事態に備えたことを考えた制度でなければならないというふうに考えております。  そして、現在提案されている法案は、そういう意味で数々の制約、制限を規定している、国家権力の乱用、暴走を警戒、防止して万全を期している法律であるというふうに理解をしております。 <0105>=参考人(村井敏邦君)= 私自身の経験で申しますと、私はスコットランドヤードを見学したことがあります。私の息子が不審尋問をされて、それが不当な不審尋問なわけですが、そういう話をしましたところ、それに対してスコットランドヤードの係官は、もしそういうことがあったら、この肩章を見て必ず通報してくれ、ここに番号が書いてあるはずだと、そういう点でのチェックをきちっとやる必要があるんだということを言っておりました。  これは一つの例ですけれども、警察内部でのそういったチェック機構というのは、基本的に日本の場合にあるかという問題があります。そこは先ほど言った信頼性につながってくるわけで、そういうものがきちっとあって初めて一定の権限が認められるということになります。そういう市民的なチェックを非常に明らかな形でできるようなシステムが日本の場合には十分に備わっていない。それに対して検察の方も十分に声が出せないというのは、伊藤栄樹元検事総長などが緒方邸の事件について書いていることです。そういう点を考えてみますと、今おっしゃったこととは違って、全体の装置としてはどうも十分に安心できないというふうに言わざるを得ないと思います。 <0106>=平野貞夫君= わかりました。 <0107>=中村敦夫君= 通信傍受ができること、つまり盗聴ができるということは、野放しのまま個人あるいは特定の団体に与えられれば、これはもう神のような権力を与えるということになります。もちろん司法というものは一般的な信頼感の上に築かれていることは当たり前なんですが、ただ、そこに権力を全面的に委任してしまうということではないと思うんです。ですから、信じろ信じないという話が国会の場で討論されるというのは妙な話で、日本は宗教国家ではありませんから、やはり法治国家なんですから、一つの大きな信頼の上に立って権利が与えられる。そのためには当然ながら妥当な規制とルールというものが確立されなきゃいけないと思うんです。  この法案というものをよく読んでみますと、規制とルール、つまり一番の問題はやはり乱用という問題です。これは別に警察は信用できないとかできるとかいうものではなくて、人間が集団をなして一つの組織を運営している以上、常に神のように正しく運営されるということは科学的にはあり得ないわけですから、そうした乱用という問題の歯どめ、そのことが一番大きなポイントになっているのではないかと思うんです。その歯どめがポイントになるところが不明確であるというのが、この法案が大変危険性を持って、そして多くの人々が反対している根拠になっておると思います。  そしてまた、これは普通の概念的な法律ではありません。実行されるときの方法、技術というものに深くかかわり合っておりますので、法案が明確にそういうことを突っ込んでいかないと、文言として保障していないとイメージがわかないという特徴がございます。これは普通の法案とちょっと違うところだと思います。  そういうことで、内容について今まで多少の審議が行われてきて、やりとりがあったのですが、質問と答えというものの整合性に欠けることがついてきています。そして、ちょっと何か禅問答のような場合が今まで非常に多いんです。  そこで、この法案、私は法律家ではありませんので、文言上もよくわからないので質問してきたわけですけれども、一つだけ例にとってお三人に同じ質問をしてみたいと思います。  ちょっと細かくなりますけれども、これは三条の三項というところを御検討ください。これは私が法務委員会で質問して答えをもらったんですが、どうも答えが納得できないので、第三者の方から見たらどういうふうに思えるのかお聞きしたいわけです。  この三条三項というのは通信傍受をする施設の問題です。つまり、盗聴基地を規定している文章のところなんです。これは、読み上げますと、「前二項の規定による傍受は、通信事業者等の看守する場所で行う場合を除き、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内においては、これをすることができない。」、こうなっていますが、そこにただし書きがあるんです。「ただし、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者の承諾がある場合は、この限りでない。」と言って、それまで述べてきた事柄をひっくり返すようなただし書きになっている。  私はこのただし書きはまず必要ないんじゃないかなというふうに考えたんです。どうも文言自体が矛盾しているのではないかと思ってそれを質問したわけです。そのただし書きのところ、「住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者の承諾がある場合は、この限りでない。」というのはどういう状況のことを言っているのかと質問しました。そうしたらば、要するにインターネットなんかのケースで言うと、いろいろな愛好者たちが勝手につくっているようなネットワーク、そのようなものを指すということなんです。  しかし、通信事業者という規定に関しては、プロバイダーとか本当の専門家ばかりではなく、学校だとかイントラネットなどを張っているさまざまな組織も含むと言っているわけですから、愛好者であろうとネットを張ったら通信事業者というふうにみなしてもいいわけなんですね、これまでの答弁は。しかし、それだけは違うという答えだったんです。  私は、これはにわかに納得できないわけであって、つまりこのただし書きの裏側には、場合によっては警察施設あるいはそのようなもの、そういうところでもできるのではないか、それを含んだただし書きではないのかということを質問したんです。そうしましたらば政府側は、これは法的に一〇〇%ないというふうに言明したんです。  後でそれでもちょっと疑問が出てきましたので、法務省に問い合わせました。法的に一〇〇%できないというのはどの法律に書いてあるんだ、どの法がそういうふうに担保しているんだということを聞いたんです。そうしたらば、三条三項そのものと、それから十二条と十三条で法的にできないということを言明しているという答えだったんです。しかし、読んでみても、どうも私にはそのようには読めないんです。  こうなりますと、この件に関して質問が二つございます。  一つは、法務委員会で政府答弁をされた、その答弁の内容が裁判における法解釈でどれだけ拘束力を持つのか、これは絶対的なものなのか、あるいは関係ないのかということです。これまでの例で、皆様のお考えを聞きたい。  もう一つの質問は、法的にできないという根拠が三条三項と十二条と十三条だということが法律的に見て正しいのかどうか、あるいは正しくないのかという二つの質問についてお答えいただきたいんです。お三人、お願いします。 <0108>=参考人(神洋明君)= まず、これまでの例で、法律の立案過程で政府側の答弁がなされたことが裁判において拘束力を持って、それが肯定的な解釈という形になるというふうには決められていません。すなわち、ここで例えば刑事局長がそのような発言をしたとしても、それは法律そのものを拘束するものじゃありませんので、もしそういうことであるならば、私としては、明確な、もっと言葉としてわかる規定でもってこれをやっていただかないことには、その解釈が将来にわたってきちっとするかどうかという保証がないと言わざるを得ないと思っています。  それからもう一つは、三条の三項と十二条、十三条から、要するに一〇〇%警察施設ではやれないんだというふうに読めるかということなんですが、率直に申し上げて、私もちょっとパズルのような条文を見ていてはっきりわかりません。また、はっきりわからないということは、逆に言えば、もっとほかの人が読んでもわかるような規定にしておく必要があるのではないかと思います。 <0109>=参考人(田口守一君)= お答えします。  二点の御質問がございました。一点の方は、国会における答弁の法的拘束力という問題ですけれども、これについては神さんの答弁のとおりだと思います。  それから第二点の方で、この条文を読んで、警察署でできるのか、こういう御質問であります。三条三項で「通信事業者等の看守する場所」ということで、ちょっと私、具体的事例にそんなに詳しくないので余りはっきりしたことは申し上げられませんけれども、警察署以外で、例えば大きな会社であるとか何かで、特別な通信設備があるという場合があるのかなという気もいたしますが、この点についてはもう少し調べてみなきゃいけないと思っております。  問題は、そこに警察が入るかという点だろうと思います、御質問の趣旨は。これも二つ問題があると思うんです。一つは、条文の文理解釈から除かれるかという点ですけれども、これは除かれないと思います、文理解釈からは。問題は、全体として、例えば六条で、令状は裁判官が出すわけで、令状には方法や場所等が記載されるわけですが、裁判官が警察署を傍受場所に指定するということが考えられるかということですけれども、傍受の公正性ということ、司法的抑制ということを考えると、ちょっと考えられないというのが今の感想でございます。 <0110>=参考人(村井敏邦君)= 第一点の答弁の拘束力の問題ですが、これは基本的に法的拘束力はないということになる。ただ、立法事実の点で、ある程度国会でどういう形でこの規定が設けられたかというのを参考にする場合はあります。ただ、それは拘束力というものではない、参考にして解釈の足しにするという形はあり得ることではあります。  それから第二点については、今、田口さんがおっしゃったように、文理解釈上排除するというのは出てこないだろうと思います。  私もちょっと三条三項を見て、「通信事業者等の看守する場所」というのは必ず通信事業者等がいるということを前提としているのか、それとも通信事業者等を連れていってそこで立会人として通信事業者がいるというような場合も看守する場所になるのか、ちょっとこれだけではよくわからないんです。もし、通信事業者等が立会人として看守するという場所も含まれるということになると、それは人の住居である場合もあって、場合によったら第三項の本文でも別の場所で可能にもなってくるということになります。  そうすると、ただし書きは、承諾がある場合には通信事業者等が看守しない他の場所だという解釈になってくるので、そうすると、一般的な家あるいは警察署というのも当然入り得るというふうに思います。傍受令状等にそれが書いてあった場合に裁判所がチェックするかどうか、これは事実上の問題ですから、果たしてどうだかわからないということになります。 <0111>=中村敦夫君= お三方の考え方をお聞きすると、どうも法務省が三条三項、十二条、十三条でこれは担保されていると答えていることはかなり担保しないという否定的な見解であると私は受け取りました。  そこで次の質問ですけれども、田口参考人にお聞きいたします。  さっきのレジュメの中で三番目の(1)の「通信傍受の令状要件について」というところでのお話でしたが、要するに、これまでの検証令状、これだけではやはり不十分だから通信傍受法が必要なんだという主張をされたわけですけれども、法務委員会で民主党の委員が質問しまして、年間大体どのぐらいの傍受を予定しているんだという件数を聞いたわけですよ。そうしたら、数十件だという答えが出てきたんですね。数十件ならば、何もそんな大それた法律をつくらなくても検証令状だけで十分ではないかと私は思うんですけれども、この件に関して、いかがですか。 <0112>=参考人(田口守一君)= お答えします。  検証令状を使っている実務が現在あるけれども、それについては問題があるということを先ほど申し上げました。  その問題の一つの大きな点は、条件つきの令状ということでやっているわけです、実務的には。私も、裁判所が強制処分令状に幾つかの条件をつけるということはあり得ると考えておりますが、先ほども申しましたように、例えばその条件というのが膨大であるということになりますと、もともとの検証令状から変質してくるだろうというふうに思っております。  したがいまして、条件つき令状というのはかなり微妙な問題を含んでおりまして、とりわけ国民の人権にかかわる強制処分については、裁判所がどんな条件でもつければ令状が出せるかというと、かなり疑問である。私は、裁判所がいわゆる判例法として、日本は成文法国ではありますけれども、任意処分的なものについて判例によって処分を認めるということも、それはあっていいと思いますけれども、少なくとも人権制約的な強制処分については、それは国会が定立すべき問題であるというのが基本的なスタンスじゃないかというふうに理解しております。  したがいまして、今、中村議員御指摘のように、数が少なければ検証でいけるのではないかという点につきましては、数が少なくてもそれは人権にかかわる問題でありますから、立法機関において考えていただきたいというのが私の考え方です。 <0113>=中村敦夫君= 人権にかかわる問題であれば、いわゆる通信傍受法でも同じことではないんですか。 <0114>=参考人(田口守一君)= 憲法は三十一条以下十カ条にわたって捜査についてのいろんな原則を掲げております。これは、まずは代表的には身柄の逮捕、これは最大の自由権の侵害でありますし、捜索、押収も住居の平穏や所有権に対する侵害である。こういうことでして、刑事手続というのは、基本的に人権侵害を常に行わなければできない、そういう痛みといいますかそういうものを抱えているわけであります。  しかし、これについては、三十一条は適正手続を要求し、それからまた令状主義は、単に捜査機関が捜査を行うのみではなくて裁判官による司法的抑制、司法的チェックというものを条件にしてやむなくこれらの基本権侵害を認めているという体系に現行法はなっている、こう思います。  したがいまして、通信傍受というものは、通信の秘密を侵害することは先ほど来議論になっているのは当然でありますけれども、それが許容範囲にあるかどうかというのが論点であって、私の先ほどの意見は許容範囲にあるのではなかろうかというのが結論だったわけでございます。 <0115>=中村敦夫君= 村井参考人にお聞きいたします。  七月六日の共同通信の配信の記事がございます。これは自由党の小沢党首の談話として出ているわけですが、こんなことを言われています。電話などの傍受を認める通信傍受法案についても、単に泥棒や麻薬犯をつかまえるだけの話じゃない、総背番号の話もそうだが、国家的な危機管理という考え方が根底にあって初めて成り立つというふうに発言されているんです。  そうなりますと、法案を提出している与党でございますから、本来の犯罪捜査のための法案であるというところと著しく違ったところを言っているわけですが、こういう見解に対してはどういうふうにお考えになりますか。 <0116>=参考人(村井敏邦君)= 先ほどの大森議員の発言にもそういうことを感じまして、危機管理という言葉が出てきましたけれども、大変に危険だなというふうに思います。  ただ、今回の法案というのがやはり国際的な関係から出されているというように、政府・与党、提案者はそう言っておりますので、そういうところからすると、全体的な一定の政策の中での一つのあり方として提案されているという意味では、極めて正直なことをおっしゃったというふうに感じております。  正直なことはいいんですけれども、それが全体的な危機管理の問題として今回提案されているということになりますと、それはそれとしてきちっとした形で、そういった提案理由で出すべきであるというふうに思います。 <0117>=中村敦夫君= ありがとうございました。 <0118>=委員長(荒木清寛君)= 以上で午前の参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人の方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。当委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  午前の審査はこの程度にとどめ、午後二時三十分まで休憩いたします。    午後一時六分休憩      ─────・─────    午後二時三十分開会 <0119>=委員長(荒木清寛君)= ただいまから法務委員会を再開いたします。  委員の異動について御報告いたします。  本日、久野恒一君が委員を辞任され、その補欠として亀井郁夫君が選任されました。     ───────────── <0120>=委員長(荒木清寛君)= 休憩前に引き続き、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題とし、参考人から御意見を伺います。  午後、御出席をいただいております参考人は、東北大学法学部教授川崎英明君、弁護士田中清隆君及び慶應義塾大学法学部教授安冨潔君でございます。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の審査の参考にいたしたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、まず、川崎参考人、田中参考人、安冨参考人の順に、お一人十五分程度ずつ御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたしたいと存じます。  なお、参考人の意見陳述、各委員からの質疑並びにこれに対する答弁とも、着席のままで結構でございます。  それでは、川崎参考人からお願いいたします。川崎参考人。 <0121>=参考人(川崎英明君)= 東北大学の川崎です。  三法案のうち、私は盗聴法案に絞って反対意見を述べたいと思います。  今回の法案は通信傍受という用語を使っておりますけれども、私は盗聴という用語を用いたいと思います。といいますのも、今回の法案が通信傍受ということで認めようとしている内容を見ますと、通信する者の同意を得ないで、しかもたまたま偶然ではなくて故意に通信の内容を聞く行為であるからであります。それは、日常用語で言えば傍受ではなく盗聴に相当いたします。  法学者の間でも、これまで盗聴という用語が使われてまいりました。刑事訴訟法学を学ぶ者であればだれもが一度はひもとく、例えば団藤重光先生の「刑事訴訟法綱要」であるとか、あるいは平野竜一先生の「刑事訴訟法」という著書の中では盗聴という用語が使われてきたわけであります。  私が盗聴法案に反対する理由は四点あります。第一に、盗聴法案はプライバシーや通信の秘密を極度に侵害するということであります。第二は、盗聴法案は憲法三十五条の令状主義に違反するということであります。第三に、盗聴法案は自由で民主主義的な社会のあり方に反するということであります。第四に、衆議院でなされた修正もこのような疑問を解消するものとはなっていないということであります。  まず第一点でありますが、盗聴というものがその本質的な性格として国民のプライバシーや通信の秘密を甚だしく侵害する手段であるということ、このことについて敷衍をしておきたいと思います。  今回の法案は、犯罪捜査のために一定の犯罪について犯罪に関連する通信の盗聴を認めております。しかし、盗聴しようとしている通信というのは現に存在しているものではありません。これから行われるものであります。どんな通信が行われることになるのか、それは通信をする人次第でありまして、事前にはわからないわけです。しかも、通信の内容というのは相手方との関係で時々刻々変化いたします。したがいまして、犯罪に関連する通信に限って盗聴すると言ってみてもそれは不可能であります。つまり、盗聴を認めるということは、犯罪に関連する通信だけではなくて、犯罪とは関係ない人の犯罪とは無関係な内容の通信もすべて聞くということにならざるを得ない、そういうことを認めざるを得なくなるわけであります。  以前から、盗聴というのは地びき網のようなものだというふうに言われてまいりました。つまり、ねらう魚、これが犯罪に関連する通信ということでありますけれども、それに限らず、ねらっていない魚、つまり犯罪とは無関係な人の犯罪とは無関係な内容の通信も必然的に網の中に入ってくるということであります。  今回の法案は、該当性判断のための盗聴、つまり私たちは予備的盗聴というふうに呼んでおりますけれども、これを正面から認めているのであります。  以上のことを憲法論としていいますと、盗聴は憲法三十五条が定めた特定性の要件をクリアできないということであります。これが第二の反対理由であります。  確かに刑事訴訟法は、捜査の手段として捜索とかあるいは差し押さえのようにプライバシーを侵害する手段を認めております。しかし、その場合であっても裁判官が発付する令状の中で捜索や差し押さえの対象物をあらかじめ特定しなければなりません。この特定性を強制捜査の絶対条件としたのが憲法三十五条であります。  盗聴の場合は、先ほど申し上げましたように、その対象となる通信をあらかじめ犯罪に関連する通信だけに限定するということは本質的に不可能でありますので、憲法三十五条の特定性の要件をクリアできないということであります。このことは理論的な問題あるいは理屈の問題ではなくて、現実の問題であります。  御存じのように、アメリカではワイヤータップ・レポートが出されておりますけれども、一九九八年の統計を例にとってみますと、盗聴実施件数は千二百四十五件となっておりますけれども、犯罪と無関係な通信が盗聴された割合はその年の平均で八一%となっております。  日本でも、旭川の盗聴事件ですけれども、これは専ら覚せい剤取引に使われる専用電話、これが盗聴の対象となったというふうにされておりますけれども、それにもかかわらず、弁護人のレポートによりますと、盗聴された四十本の電話のうち二十九本は犯罪とは無関係な電話であったということが報告されております。  盗聴にはこうした憲法的な疑義があるわけですけれども、今回の法案はさらに大きな問題を抱えております。それは、いまだ発生していない将来の犯罪について盗聴を認めていることであります。これを私たちは事前盗聴というふうに呼んでおりますけれども、これは犯罪捜査の枠を越えるものであります。なぜならば、犯罪捜査とは既に発生した過去の犯罪について行われるべきものであるからであります。  現行法は、犯罪捜査を司法警察とし、犯罪予防を行政警察というふうに明確に区別いたしました。その上で、行政警察権限を限定しているわけです。事前盗聴というのは、司法警察に名をかりて行政警察権限を実質的に強化するというものであります。これは現在の法制度の枠組みを根本から揺るがす、そういうことにつながる非常に大きな問題を抱えている点であります。  さらにまた、今回の法案が令状に記載された犯罪以外の犯罪に関連する通信について令状なしに盗聴を認めているという点でも問題であります。これを私たちは別件盗聴というふうに呼んでおりますけれども、この別件盗聴はたとえ対象となる犯罪に絞りをかけたとしても合憲性は認めがたいものであります。なぜならば、憲法三十五条は、逮捕に伴う捜索、差し押さえ等の場合を除いて常に裁判官の令状を要求しているからであります。  以上が憲法論でありますけれども、以上のことを社会のあり方との関係でいいますと、自由で民主主義的な社会が危機にさらされるということであります。これが第三の反対理由であります。  私たちの社会というのは、通信手段が非常に高度に発展した社会であります。電話やあるいは電子メールなど、そういった通信手段なしには成り立たない社会であります。そうした通信手段を介して無数の人々の無数のプライバシーが人々の間で交換されるわけでありますし、こうした通信手段を介して個人の思想や表現が社会に行き渡る、そのような仕組みになっているわけであります。したがいまして、通信の秘密と自由というのは現代においては以前とは比べ物にならないほど大切になっているわけです。  盗聴というのは、こっそりと聞いてこそ盗聴であります。自由な通信なしには社会生活が成り立たない現代社会において盗聴を認めるかどうかという問題は、盗聴されているかもしれない、そういった不安な状態の中で社会生活を送る、そんな社会であっていいのか、このことが根本的に問われている問題であろうというふうに思います。  この点では、今回の法案が刑事手続用の記録に載せられない通信については当事者に盗聴したことの通知さえしないということになっている点を無視することができないわけであります。まさに、人権と自由、そして民主主義の問題であります。  最近、法学者四百五十一名が盗聴法案に反対する声明を公表いたしました。これほど多数の法学者が反対の意思を表明するというのは近年にはないことであります。それは、盗聴にはそれほどに憲法と社会のあり方に照らして重大な問題があるというふうに考えられているからであります。  最後に、衆議院で加えられた修正につきまして、これが盗聴が持つ本質的な危険性を解消するものではないということについて指摘したいと思います。  対象犯罪が当初よりも減らされましたけれども、アメリカなどの例が示しますように、今後拡張される可能性は否定できません。その歯どめはないと思います。  時間の関係上、立ち会いの問題に絞って意見を述べたいと思います。  盗聴に際して常時立会人がつき意見を述べることができるという修正が行われました。しかし、盗聴される通信の内容を立会人が確認する権限は、法案には明記されておりません。そうしますと、立会人は、これは無関係な通信ではないかと意見を述べるということがもともとできないようになっているわけです。それだけではありません。立会人には令状が提示されるということになっておりますけれども、理由となっている犯罪事実は見せなくてもよいということになっておりますので、意見を述べる前提に欠けているわけです。  しかも、立会人は、無関係な通信が盗聴されたときに盗聴を中断させることもできません。切断権がないのであります。検証令状を通して盗聴を認めている下級審判例が若干ありますけれども、そこでは切断権が付与されております。  このように考えてきますと、今回の法案が予定しています立ち会いというのは有効なチェックにはならないというふうに思います。有効なチェックが仮にあり得るとすれば、それは裁判官を立ち会わせるということしかあり得ないだろうというふうに思いますけれども、それは実際のところは考えられないだろうというふうに思います。  以上が、私が今回の盗聴法案に反対する理由であります。  なお一点、最後に補足しておきたいと思います。  盗聴法推進論は、先進諸国では盗聴を認めているではないかというふうに言います。しかし、その先進国でも盗聴法に対して反省が出ているということを無視することはできないというふうに思います。私たちは、盗聴をこれまで認めてこなかったこと、このことこそを誇るべきだというふうに思います。  日本国憲法前文はこのように述べております。すなわち、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」、そのように述べているわけです。その言葉をかりて私の反対意見の結びとしたいと思います。  私たちは、盗聴法を持たない平和と人権の国として、国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う、そのように考えます。  以上で私の意見を終わりたいと思います。 <0122>=委員長(荒木清寛君)= 次に、田中参考人にお願いいたします。田中参考人。 <0123>=参考人(田中清隆君)= 弁護士の田中清隆と申します。  私は、昭和五十年代の初めから今日まで、暴力団などの組織暴力による違法行為の排除と被害の救済、いわゆる民事介入暴力対策ということに取り組んでまいりました。したがって、私といたしましては、統計による数字とかあるいは理論的な問題というよりも、どちらかといえば現場の実感というものを中心にして総論的にお話を申し上げた上で、今回の組織犯罪対策三法についての御意見を申し上げたいと思います。  私たちは弁護士でございますので、捜査官ではございません。したがって、組織暴力対策と申しましても、これは仮処分あるいは訴訟などの民事的な対策が中心であります。しかしながら、実際には刑事問題すれすれの場面あるいは暴力行為や恐喝、脅迫などに実際に直面することも多いわけでございます。相手方はなかなか民事的な対応だけではおさまりませんし、被害者も大変恐怖にとらわれております。そこで、私どもは、刑事面で警察から牽制をしてもらいながら、他方で民事の交渉または裁判の場、法的な場にのせていくという形をとるわけでございます。  この通常の法的な場にのせるというのがみそでありまして、かなりのケースではその前に挫折してしまうことが多いわけでございます。私の個人的な実感といたしましては、仮に十件のこういった相談があるといたしますと、実際に最終的に法的な解決にまでのるのは恐らくそのうちの二件か三件というところではなかろうかと思います。  それはどういう理由かと申しますと、相手方は手なれた犯罪のプロでございまして、証拠書類等を一方的に独占いたしております。被害者の方には証拠書類もなく協力者もいない、また脅迫等によって心身ともに非常に疲れ果てております。お金もなくなっております。戦う体力がないわけでございます。さて、被害者が本当に戦おうとしても、怖さが先に立ってしまいます。警察は本当に守ってくれるのか、弁護士は本当に味方をしてくれるのか、家族は大丈夫かと、あれこれ考えますと、結局気持ちがなえてしまう。私どもはそういった実態を目の前にして切歯扼腕の思いの二十年であったと言っても過言ではございません。  被疑者、被告人につきましてはいわゆる弱者ということで法的保護の対象となっております。しかし、私たちが現実に目前にしております組織暴力、暴力団などの被害者は、むしろこれは被疑者、被告人よりもかえってはるかに弱い存在であります。いつも報復の恐怖におびえながら孤独な戦いを迫られているわけでございます。  犯罪は最も重大な人権侵害でございます。組織犯罪の場合は特にそうでございます。私たちの社会はこの被害者の弱さというものを少し軽視してきた嫌いがあると思います。  最近、ようやく犯罪被害者の救済にも本格的にスタートが切られるようになりましたけれども、組織犯罪の被害者の救済というものは、まずもって迅速な犯罪の摘発と適正な処罰が前提でございます。それも、末端の実行犯だけではなく、背後の大物に及ぶことが必要であります。  犯罪被害者に対するアンケート結果を見ましても、金銭的な賠償よりも、その希望の第一は犯人の検挙と適正な処罰ということになっております。とにかく事件の真相を知りたい、無念の思いを晴らしたいというのが被害者の切実な願いでございます。  また、犯罪による不正な収益が犯罪組織の中に蓄積されたままでは、そして被害者にこれが戻されないままでは、犯罪組織はますます強大となり、一方被害者は実質的に救済されないことになっております。このようなことでは捜査機関への被害の申告も証人などによる捜査への協力も期待できないことになってしまうわけであります。  これまで多くの市民、企業が組織犯罪による被害について泣き寝入りを強いられてきたということは、皆様方恐らく近くにもその実例を御存じだろうと思います。それは多くの場合、組織犯罪は特に犯罪のプロの集団でありまして、その手口も巧妙であり、なかなかその犯罪の実証が難しいということであります。とりわけ、故意であるとか、あるいは目的であるとか通謀であるとかいった主観的な要件につきましては、これは立証が非常に困難でございます。被害者が勇気を持って警察に駆け込んでも、結局なかなか立件されることは少ないわけであります。報復を恐れて目撃証人がなかなか協力してくれないということも現実にあるわけでございます。  こういった主観的要件の立証を焦る余り、一方では、強引な自白の強要などが行われることになります。また他方では、どうせ立件できないという無力感にとらわれる捜査官もいます。また、被害者側では、結局は長いものに巻かれろということになってしまうこともあります。  私たちからこの点に関して見ますと、今回の組織暴力対策三法は、対象犯罪が限定されたとは申しましても大きな期待を持たせるものでございます。  私自身も、弁護士といたしまして当然制度の乱用の危険というものは常に意識しておりますが、これは私どもも随分と議論をいたしました。その結果、実務の観点からいたしますと、時間がございませんので余り具体的に申せませんが、このレジュメを見ていただきますと、三ページのところにございますが、制度的な担保が用意されております。これらは、私どもから見ますれば、国際的な基準に照らしても制度としては恐らく妥当な内容になっておるものだろうと思います。  しかしながら、過去に幾つかの不幸な事件がございまして、この点に関して警察に対する不信感といったものが払拭されない、そして前進の障害になっておるということはまことに残念なことであります。しかしながら、医学界において和田心臓移植を乗り越えて現在の移植医療の進歩、定着というものがあるように、この問題につきましても、捜査機関側の協力と努力と情報公開法等の活用等によります民主コントロールの実現に期待をしたいと思うわけであります。  組織犯罪対策法の前置きがちょっと長くなりまして申しわけございませんが、組織犯罪対策法、最も議論が集中しております通信傍受、この通信傍受の結果得られる証拠につきましては、まことにクリーンでライブな生の証拠が得られるということで、極めて信用性が高いと言われております。供述調書などは捜査官の作為が入る懸念がございますが、通信傍受による証拠はそういうことはございません。それから、背後の大物も追及することができる。これは、検証令状ではいろんな制約がございまして十分ではございません。  憲法上の問題、先ほどいろいろ御指摘がございましたが、私どもは、先ほど申し上げましたように、一応今回の修正でもってそれ相当の担保がなされておるものというふうに思います。これは、恐れ入りますがレジュメをごらんいただきたいと思います。  次に、犯罪収益等による事業経営の支配の処罰等でございますが、犯罪収益が犯罪組織に蓄積されておるということは、これは一言で言いまして不正義であります。次の犯罪の再投資にもなります。したがって、正義の実現、再発の防止の観点からもこうした不正の蓄積は排除しなければなりません。  そしてまた、これを被害者の視点から申しますと、犯罪の被害の回復について、現在では刑事事件が終わってからやっと民事的な賠償がスタートする、大変なまた新しい努力が要るわけであります。むしろ追徴、没収等の適正化によりまして、あるいは強化によりましてこれらを基金化いたしまして、犯罪被害者に優先的に還元されるような制度のワンステップになればというふうに期待をしておるところでございます。  また、不正収益による企業支配につきましては、この不正収益でもって運営される企業といいますのは、例えば税金を払わない、利息のかからないお金を使える、不当に安い賃金で労働者を雇うということで、非常にアンフェアに強力な競争力を持っておりまして、こういったものが自由競争秩序を破壊し公正な取引慣行を破壊いたします。オウムにおけるパソコンショップなどがまさにその好例でございます。  私がここで一つ強調したいのは、金融機関の疑わしい取引についての報告義務でございます。  私は最近、金融機関の担保物件の任意売却にかかわることがちょくちょくあるわけでございますが、買い主を実際に調査いたしますと、会社の表示はありますけれども、シャッターは閉まっていて郵便物が郵便受けからこぼれている、実際にはだれもいないというような状況であるにもかかわらず、例えばその場合は何と四億五千万円という土地代金を一括キャッシュで支払うというような契約を結んでおるわけでございます。どう見てもこれはまともなお金とは思えません。これまでだったら金融機関は、要は貸し金が回収できればいいという考え方で、数字さえ合えば抵当権抹消に応じてきたということでございますが、今回はこういったいろんな社会的な動きを見まして、怪しい取引は回避しようという動きが出てきております。  こういった任意売却に応じるということは、実際にそれを契機として、疑惑のある企業あるいはやみの勢力と銀行取引を介してつき合いをするということになるわけでございます。今回は、金融機関の疑わしい取引につきまして報告義務が諸外国並みに強化されることになりまして、犯罪摘発の有力な支えとなることと思います。実際、私どもが見ますと、こういった規定があることによって金融機関が疑惑の取引先との取引を拒否したり、あるいはやみの勢力と手を切るための強い支えになるというふうに考えるわけであります。  この点につきまして、金融取引の萎縮を懸念する声もありますけれども、公的資金を豊富に導入した金融機関がやみの疑惑の企業の汚れたお金の取引に利用されるということは到底許しがたいことでございます。  最後に、証人保護につきましては、暴力対策の決め手は最後は証人であります。これはイタリアやアメリカのマフィアの裁判を見ても明らかなことでございます。これらの国におきましては、証人の戸籍を変えてしまう、あるいは転居先を保障する、年金を支給する、場合によっては変装をしたり整形手術をさせるというようなあらゆる手だてを用意しております。本法ではとてもそこまでは行っておりませんが、少なくとも証人の保護に初めて目が向けられたということは評価したいと思います。弁護権の侵害という懸念もございます。これは一面の真理だとは思いますけれども、要はバランスの問題だと思います。その意味では、さらにこの点でのバランスをとりながら証人の確保をしやすいような総合的な方策が必要だと考えております。  長くなりまして恐縮ですが、最後に一点だけ。  私どもは、抽象的な乱用のおそれを理由としてこの対策がおくれることは許されないというふうに考えております。ある統計によりますと、覚せい剤の押収量は一日に何と十八万人の人たちが一回使用できる量が日々押収されているというふうに言われております。対策の一日のおくれは、極端に言えば十八万人の覚せい剤を供給させる、このようなことにもなりかねないわけであります。私ども、民主的な社会を望むことは全く同じ気持ちでございます。こういった民主的コントロールの外にある組織暴力、これを私どもの民主的な社会を守るためにもぜひともこの法律によってコントロールしたいというふうに考えておるところでございます。  どうもありがとうございました。 <0124>=委員長(荒木清寛君)= 次に、安冨参考人にお願いいたします。安冨参考人。 <0125>=参考人(安冨潔君)= 慶應義塾大学の安冨でございます。私は、御審議いただいておりますいわゆる組織的犯罪対策三法案について賛成するものでございます。  最近の犯罪情勢を見ますと、市民の平穏な社会生活を脅かし、健全な社会及び経済の発展に悪影響を及ぼすような組織的な犯罪が見られることは御承知のとおりでございます。また、今日の高度情報通信社会におきます電気通信技術の発展というのは社会生活に利便性をもたらし、大変我々の生活に役に立っておるわけでありますが、反面、犯罪の手段として電気通信が悪用されているということも周知のとおりでございます。とりわけ組織的な犯罪、組織の結束のもとにそれぞれが役割を分担して計画的に犯罪を実行いたします。そのため、極めて悪質な犯罪であることも多く、犯罪による収益も莫大であるということが指摘されております。また、犯行も巧妙で密行性が高く、証拠隠滅の危険性も著しく、従来の捜査方法では取り締まることが容易ではないということも伝えられているところでございます。  社会の変化に伴って犯罪現象も変容してきております。言うまでもありませんが、犯罪活動にサンクチュアリー、聖域を与えてはなりません。組織的犯罪対策三法案が速やかに立法されることを期待するものでございます。  以下、今回の法案で議論されております幾つかの問題点につきまして、修正案を中心に述べさせていただきたいと思います。  犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案についてでございますが、組織的な犯罪におきましては、一般に犯罪に関与する者の間において指示、命令あるいは連絡というものが行われるわけでございます。そのために電話などの電気通信が利用されるということがございます。組織的な犯罪の真相解明のためにそうした指示、命令、連絡というものを含んで全体を明らかにすることが必要でありますが、そのために通信傍受というものは不可欠であるというふうに考えます。  これまでも、覚せい剤取締法違反の事案におきまして、御承知のとおり検証許可状による傍受を肯定した裁判例もございますけれども、覚せい剤使用者と末端の密売関係者の検挙には効果があると言えるでしょうけれども、大規模な薬物関連犯罪あるいは銃器関連犯罪、さらには集団密航の罪、組織的な殺人の罪違反の事件につきましては、その全体の真相を解明するためには十分ではありません。  しかも、検証許可状による傍受ということでは、通信傍受法案のように傍受できる通信の範囲や傍受の期間についての定めがありませんし、傍受記録の作成、保管、当事者に対する事後通知、記録の聴取、閲覧といった権利、あるいは不服申し立て手続ということについての定めもございません。したがって、関係者の権利の保護というものにつきましては必ずしも十分であるとは言えないと思います。  そもそも通信傍受というのは、本質的に通信内容を傍受してみて初めて該当する通信であるのかどうかということがわかるものでありますから、どうしても捜索的な要素が入らざるを得ないわけでありますが、そのために検証許可状による通信傍受、これが現行法で許されないという考え方もございます。むしろ、通信傍受の法的根拠を明らかにするという意味でも立法されることが必要ではないかというふうに考える次第であります。  さて、組織的な犯罪という概念は必ずしも明確ではございません。通信傍受の対象となる犯罪が今回、薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航の罪、組織的な殺人の罪という形で限定をされました。薬物関連犯罪や銃器関連犯罪というのは暴力団などによって組織的に行われる犯罪の典型であります。集団密航の罪も蛇頭など外国人犯罪組織や我が国の暴力団とがともに行うということが知られております。また、殺人は必ずしも組織的犯罪とは言えませんけれども、組織的に殺人が行われた場合にはその社会的影響は極めて重大であります。対象犯罪がこのような形で限定されたというのは私は妥当なものと考える次第であります。  通信傍受法案におきます通信傍受の要件でございますけれども、対象犯罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由があり、それが数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況がある場合において、当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信が行われると疑うに足りる状況があり、他の方法によっては、犯人を特定し、または犯行の状況もしくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときというようにされております。すなわち、ここには犯罪の高度な嫌疑を要件とし、通信の蓋然性の要件及び補充性の要件というものを実体要件としているわけであります。  そして、手続要件としては、傍受令状請求者を検事総長が指定する検事、または国家公安委員会もしくは都道府県公安委員会が指定する警視以上の警察官という形で限定をいたしております。しかも、令状発付者は地方裁判所の裁判官に限定するという形になっております。そして、立会人の常時立ち会いということも義務づけられました。傍受期間については十日、延長しても最大三十日ということになっております。そのほか、通信傍受実施のための要件あるいは不服申し立て等の手続の事後措置を含めまして、このような厳格な要件というのは傍受を認める諸外国の制度と比べてみましても極めて限定されたものであります。  もっとも、通信傍受の性質に照らしますと、該当性判断のための傍受、いわゆるスポットモニタリングというものが認められているわけでありますが、スポットモニタリングと申しますのは、御案内のとおり、必要最小限度の範囲に限り断片的に通信の内容を聞くことが許されるものであります。このような方法は、すべての通信を傍受する方法に比べれば、権利の制約の程度というものは少ないと言えます。もしスポットモニタリングは認めないというのであれば、すべての通信内容を傍受することにもなりかねないわけでありまして、かえって重大な権利侵害というものが起こるのではないかと思われます。  手続的にも、立会人の常時立ち会いということが義務化されました。これによってスポットモニタリングの状況というのはチェックされると思います。ただ、立会人は通話内容を傍受するというものではありませんから、捜査官による捜査と無関係な内容の通信を傍受することを防ぐことができないのではないかという御指摘もあるところであります。しかし、捜査官でない立会人が通信内容を傍受するということを認めるのはかえって捜査の密行性の原則に反するばかりか、関係者のプライバシーというものを侵害することにもなりかねず、私は適当ではないと考えます。  通信傍受法案におきましては、他の犯罪の通信傍受、すなわち令状による傍受の実施中に、令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の犯罪で、対象となる犯罪の実行を内容とする通信が行われた場合にその傍受を認めております。これにつきましても、対象犯罪はこれまでよりも限定されて短期一年以上の罪というふうにされ、しかも裁判官による事後審査手続も設けられたわけであります。この点は、刑事手続上、法定合議事件あるいは権利保釈の除外事由と同様に、重大な犯罪に限定するものという趣旨での修正であろうかと思いますし、極めて妥当な案だというふうに思うわけであります。  ただ、この他の犯罪の通信傍受ということは、無令状での緊急押収が認められていない現行法におきましては許されないという御批判もあるところであります。ただ、憲法三十五条一項は個人のプライバシーを保障するためにいわゆる一般的、探索的な活動を禁止する趣旨を定めたものと解されます。したがって、正当理由があり、対象が限定されているという場合に、証拠保全の必要性や緊急性が認められる証拠を押収できないとするものではないと考えます。  犯罪の実行を内容とする通信であることが明白で、証拠として保全する必要性、緊急性というものがあるときには、いわば現行犯的状況にあるというふうに言えるわけでありますから、裁判官の審査をまつまでもなく、通信傍受を可能とするというふうに考えることができると思います。この点は、御案内のとおり、米国でのプレイン・ビューの法理として無令状での押収を認める確立した制度があります。このことを考慮して、解釈論としても認めることができるのではないかと思うわけであります。  通信傍受法案の修正案におきまして、このような傍受が行われた場合に裁判官が職権で審査を行う制度を取り入れられましたことも、事後的に適正な執行を担保する制度として賛成できるものであります。  傍受された通信の通知に関しまして、スポットモニタリングで傍受された者に対しても通知すべきであるという意見もございます。スポットモニタリングで傍受された通信の相手方が常に特定されるものではございません。犯罪と関係のない通信の相手方にも通知をするということは、かえって被疑者にとって不利益となることもあると思います。刑事訴訟法も、御案内のとおり百九十六条におきまして、捜査関係者に対して「被疑者その他の者の名誉を害しないように注意し、且つ、捜査の妨げとならないように注意しなければならない。」というふうに規定していることとも調和するのではないかというふうに考える次第であります。  通信の秘密侵害ということにつきまして、この通信傍受法案の修正案では新たに罰則規定が設けられました。また、電気通信事業法及び有線電気通信法の罰則も引き上げられております。このことも適正な通信傍受担保の手段として重要であると考えます。  ところで、通信傍受法案第二条の通信についての定義によりますと、電話だけではなく、ファクシミリあるいはコンピューター通信なども含まれることになります。通信技術の発達はさまざまな新しい技術を利用した通信手段を開発していくことになると思います。その意味では、このような範囲での通信という物のとらえ方は私は正しいと思います。殊に、法的に重要であるというのは、その技術的な差異ではなく、情報の伝達手段としての電気通信という意味であります。組織的な犯罪の実行に当たって電気通信が利用される場合、傍受という方法による通信への干渉が許されないとするのは、かえって高度情報通信社会の発展を妨げるものというふうに考えます。通信傍受法案において、通信から特定の通信というものを除外するという考え方は適当とは思えません。  自由主義・民主主義社会において通信の秘密が最大限に保障されなければならないということは、これは言うまでもないことであります。しかし、通信の秘密といっても、公共の福祉の制約を受けることについて、これもまた異論を見ないところと思います。通信傍受法案において犯罪捜査のための通信傍受を規定することは、通信の秘密に抵触するものではないと考える次第であります。市民が自由を享受するというためには、社会が安全でなければなりません。そして、社会的脅威である犯罪と戦うために必要な手段を設けなければならない、かように思う次第であります。  次に、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、いわゆる組織的犯罪処罰法案について述べたいと思います。  この法律案は、一定の組織的犯罪に刑を加重すること、及びいわゆるマネーロンダリング処罰を含む犯罪収益に関する規制を整備することを意図しております。これは、国民の平穏な生活を守り、健全な経済活動を維持するために必要な法案であると考えます。  組織的な犯罪は、複数の者が関与することによって関与者の違法性の意識が低下する一方、犯罪を遂行する意思が強化され、その結果、犯罪を完遂する可能性は高くなります。また、犯罪が行われれば重大な結果を生じ、多大な不正利益を獲得することも多くなります。しかも、組織的な犯罪によって得られた不正利益を利用して、さらに不正な利益の再生産が行われるということも起こり得ます。このように、組織的な犯罪は極めて違法性が高いものであります。それだけに、組織的な犯罪に対しては重く処罰をする、加重処罰には理由があるというふうに考えます。  ところで、組織的犯罪処罰法案第二条におきまして不当な団体規制のおそれがあるという指摘がございますが、この規定が刑法の個人責任の原則を変えるものでないことは規定の文言からも明らかであります。また、正当な目的を有する団体の合法的活動にこの規定が適用されないことは、文理からも当然であると解されます。  私は、組織的犯罪処罰法案において犯罪収益に対する規制を設け、いわゆるマネーロンダリングを処罰することとしているのは、犯罪抑止のための国際協力の責務を我が国が果たし得るというだけでなく、我が国の健全な経済活動の維持にとって必要であると考えます。犯罪収益等の範囲については、もう既にいわゆる麻薬特例法における不法収益などと同様でありますので、解釈、運用においても定着しているということが言えると思います。その範囲が不明確であると言うことはできないと思います。また、混和財産を除くとするのは、かえって犯罪収益を他の犯罪と混和させれば対象とならないことでマネーロンダリング行為を助長することにもつながりかねません。  また、第五章での疑わしい取引の届け出制度、これはプライバシーの侵害や国民の金融機関への不信を招くものである、このような批判もございますが、犯罪収益等である疑いがある場合にのみ届け出ることとされているわけでありますから、犯罪に関係のない市民の取引についてまで対象となるわけではありません。この批判は当たらないと考えます。  確かに、米国で疑わしい取引の届け出制に関する法案が撤回されたということがありますが、これは、従来の法律をさらに強化して、新規顧客の本人確認を行い資金源を特定する、特定の顧客の通常取引及び予想される取引を決定する、そして取引を監視し顧客にとって通常でない取引を見きわめ取引が疑わしいかどうかを決定する、こんなようなことを盛り込んだものでありまして、顧客への監視という点が非常に強いものであります。その意味では本法案とは性質が異なるものでありまして、このことを挙げて組織犯罪処罰法案が不当であると言うことはできないというふうに考えます。  最後に、刑事訴訟法の一部改正についてでございますが、刑事訴訟法一部改正につきましては、捜査のための通信傍受に関する根拠規定を設け、そして証人の保護のための規定を設けるということであります。  通信傍受に関する根拠規定を設けるということは、刑事訴訟法の大原則であります強制処分法定主義の要請にかなうように、捜査のための通信傍受に関する根拠規定を設けるものでありまして、憲法三十一条の適正手続の保障を受けた刑事訴訟法の原則を忠実に実現するものとして賛成できるところであります。  また、証人保護の点に関しましては、組織的犯罪に見られる強固な人的関係を維持するための証人への不当な働きかけを防ぎ、証人の安全を確保するというために立法されるものでありまして、その理由があると考えます。もっとも、刑事訴訟法の二百九十五条第二項は被告人の防御権を侵害するという批判がございますが、これは「被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるとき」はできないとされておるわけでありますから、その批判は当たらないと考えます。また、二百九十九条の二におきましても、「被告人の防御に関し必要がある場合」を除くのでありますから、弁護権の不当な制約にはならないというふうにも考えます。  むしろ、証人保護のプログラム、これは組織的な犯罪対策を超えて被害者保護の観点からも検討されるべきであり、その意味においても、このような規定が設けられることには賛成であります。  以上、るる述べてまいりましたけれども、組織的犯罪対策三法案はいずれも組織的な犯罪と戦い自由で安全な社会を築く上で必要な法律案であるというふうに考える次第であります。  ありがとうございました。 <0126>=委員長(荒木清寛君)= 各参考人にはありがとうございました。  以上で参考人の意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。 <0127>=佐々木知子君= 参考人の三人の先生方には、お忙しい中ここまで足をお運びいただき、どうもありがとうございました。また、貴重な御意見をいただき、どうもありがとうございました。  まず、田中参考人にお伺いしたいんですけれども、日々暴力団と対決されている由、本当に御苦労さまでございます。暴力団と、一介のと言っては失礼かもわかりませんけれども、弁護士が直接に対決しないといけない、あるいは警察をもちろん引き込むんでしょうけれども、私はこれは大変なストレスが弁護士の方にもかかるものだろうというふうに推測しております。  御存じのように、平成四年に暴力団対策法が施行されるようになりまして、伝統的な暴力団の経済活動というものがかなりの種類例示されて禁止されるようになりました。ですから、暴力団としても経済活動を非常にやりにくくなったということで、平成四年からは少し減ったんですけれども、現在でも暴力団勢力は八万人いるというふうに言われております。彼らはやはり子分も養っていかないといけないし、上にも上納金を納めないといけないというようなことで、どうしてもお金は普通の人よりも要ります。  ではどうするかといえば、現在の不況に絡みまして会社が多々破産していく、その破産会社につけ込んで何らかの経済活動をするとか、田中先生が非常に詳しいレジュメを出していただいたんですけれども、例えば匿名化、フロント企業に仮託して何らかの活動をするとか、覚せい剤等に代表されますように薬物等の犯罪活動に手を染めるとか、そういうようなことをしなければ経済が成り立っていかないというようなことになるわけですけれども、余計にその分地下に潜ってきて、表に出なくなった分だけ非常に危なくなっているのではないか、そういうことを指摘される民事介入暴力の先生方もおられます。その点に関しまして、田中参考人の所感などはいかがでございましょうか。 <0128>=参考人(田中清隆君)= お答えいたします。  今、佐々木先生から御指摘のあった点は全く私も同感でございまして、現場で対峙いたします実感といたしましては、昔のように大勢で取り囲まれて大声で脅し上げられるというような状態はほとんど少なくなりました。しかしながら、いつやみの中から弾が飛んでくるかもわからない。つまり、攻撃の方法が一種のテロという、攻撃の対象と攻撃の原因との関連がよくわからない、その方がどうも効果があると考えておるようでして、なぜ攻撃されたかということがいろんな解釈が可能である。みんなが自分もひょっとしたらそうなるかもしれない。  例えば、住友銀行名古屋支店の支店長が殺された事件でも、いまだに犯人は捕まっていませんけれども、私どもが現場でいろいろ話をしますと、銀行員の人たちは、さあ今度こういった形で暴力団と頑張ってやりましょうと言いますと、いや私どもああいうふうにはなりたくはないですというようなことを言われてしまう。そういう意味で非常に隠れてしまっている。表へ出てこない。  恐縮ですが、もう一つだけ申し上げますと、典型的なこのごろのフロント企業の一つの形は、いつも出てくる人は非常にまじめそうな背広を着た人なんです。しかしその人がどう言うかといいますと、うちの会社は真っ当な会社じゃないです、そのあなたたちの言い分は通りません。そんな話を持って帰ったら私は指を詰めなきゃならぬ、命もとられるかもしれない。頼むから助けてくれと言われますとこちらも非常に困ってしまう。真正面からそうされますと、警察へ飛んでいけばいいんですが、非常にやり口が陰湿になりまして、そういう点では確かにいろいろ工夫を要する状態になってきておることは事実でございます。 <0129>=佐々木知子君= 実は、日本の暴力団というのは非常に特色を有しておりまして、先生方も御存じかと思いますけれども、表の社会で共存しているという特色がございます。マフィアであれば裏の社会に潜って表に出てこないようになっているが、日本の暴力団というのは、今は山口組は五代目ですけれども、私が修習生をしておりました二十年近く前では三代目でございまして、神戸地方裁判所のちょうど前に大きく山口組三代目という事務所が出ておりました。これは外国人の方たちに言わせますと、日本人でもびっくりいたしますが、これは何なのだと。これはあの有名な山口組なのかと言うから、そうですと。何でこんなところに出ているのだということをよく言われました。地方裁判所の前に黒塗りの彼らがよく乗るタイプのスポーツカーなり、そういう車がとまっておりまして、一見それだとしか見えないお兄様方がやはりそれとしか見えないストライプの背広を着て肩を怒らせて歩いております。おれはやくざだと言わんばかりのものでございます。  そして、警察は警察で、彼らの幹部はだれそれでどういう地位にいて、名前はだれで略歴はどうで前科は何だということはみんなほとんど把握しております。末端の者はもうちょっと無理かもわかりませんけれども。こういうことを幾ら説明してもわからない。  彼らの方がどちらかというと日本人よりも暴力団という実態に非常に興味を持っていて、私は何度聞かれたかわかりません。何で表でそれが共存できるのだ、そういう犯罪組織、犯罪をやっている者がどうして共存できて、一般の国民は許しているのだ、そういうことをよく聞かれます。それを言いますと、本当に日本人のメンタリティーというものまでさかのぼって考えないといけないのではないかということもよく思いました。  ここで、田中参考人と安冨参考人にお伺いしたいんですけれども、田中参考人がこのレジュメの中でアメリカのRICO法とイタリアのマフィア対策法ということを各国の組織犯罪対策ということで引いてくださっております。  アメリカのRICO法は余りにも有名なのですが、一九七〇年、組織犯罪規制法第九編ということで、目的は犯罪組織が正当な経済活動へ浸透することを規制したものでございます。対象は犯罪組織ということで、処分の効果といたしましては、民事制裁として犯罪組織または同組織が浸透した団体に対して再編、解散等を命令する。刑事制裁といたしましては、犯罪組織に対して罰金、没収等を課す、こういうようなことになっておりまして、一九八五年に犯罪組織であります有名なコーザ・ノストラが介入した労働組合に対して組織の再編が命じられるなど多数の適用例がございます。ドイツにもまた基本法九条二項(基本法秩序等の保護を目的)とかございます。  各先進国ではこういうふうな結社そのものを取り締まるというような法律がございますけれども、こういうような法律の存在、そして片や日本では全く対照的に表の社会での共存が認められていることについて御所見をお伺いしたいと思います。 <0130>=参考人(田中清隆君)= 今御指摘のありました点につきましては、私どもも平成二年及び三年にアメリカ、イタリア、その後にも平成八年暮れにも視察に行っておりますが、最初私どもは日本の国は非常に治安のいい国であるという前提のもとにいろんな国を視察してまいったところ、いろんな話を聞きますと、これはどうも日本の方がひどいのではないかという実感を持って帰ってきたという思い出がございます。  例えば、ナポリの弁護士会で多くの弁護士といろいろ話をしましたときに、我々はそういう暴力団対策をやっているということをお話ししましたら、一斉にざわざわと声が上がりまして、それは警察の仕事ではないのかと。弁護士の仕事ではないんだろうというようなお話がありましたり、あるいはまたアメリカで、ニューヨークでお話をしましたところ、暴力団と戦う弁護士というふうに言いましたのですが、実はそこのところを誤解されまして、暴力団を弁護する弁護士というふうに非常に誤解されたこともございまして、そんなことで非常に戸惑った思いがございます。  私どもは日本の社会は日本の社会でいいところはあると思いまして、確かに結社の自由を十分尊重していくということは、そのことが可能な限りは私はぜひそうしていった方がよろしかろうと思います。ただしかし、私どもは現象面としていろいろと犯罪行為、違法行為として出てくる面については、これはやはり厳しく取り締まっていく必要はあるだろうというふうに思っております。  確かにマフィア等に対する市民の敵対感覚といいますか、そういったものと日本の感覚とは非常に違和感を感ずることは事実でございます。これはそのことのいろんな歴史の問題がございますから、的確にその原因を追及することはできません。  ただ、私が最近の現象として申し上げたいことは、そのような大きな看板が出ておるとか、あるいは入れ墨をひけらかして歩くというようなことはほとんどなくなりました。ちなみに、警察官が時々暴力団の実情調査のために、葬儀などがあるとだれが花輪を出しているかということを調べに行くわけですが、ある捜査官が暴力団員の葬儀を訪ねていきましたところ、なかなか見つからないので尋ねたところ、ここですと言われて案内してくれた人が非常に紳士的な人であったということでびっくりして帰ってきたというようなうわさもございます。そんなようなことでございます。 <0131>=参考人(安冨潔君)= お答えをいたします。  御指摘のとおり、組織的な犯罪集団というものの形態というのは、各国それぞれであろうかと思います。ある意味では、犯罪文化という言葉が適切であるかどうかわかりませんが、そういった反映とでもいいましょうか、そういうものだろうと思います。社会の安全を確保するというためには、それぞれの国でそれぞれ必要な法案というのをつくるべきでありまして、その国の実情に応じて、それぞれが各国で組織犯罪対策の法案づくりというものがされてきた。その意味では我が国では今まさに審議をされておりますけれども、もう少し早くてもよかったのではないかと、私は個人的にも思うわけであります。  御案内のとおり、本年、平成十一年になりましてから、国連におきましても国際的な組織犯罪対策のための条約づくりというものが進みつつあるわけでありまして、世界的にも組織的犯罪対策の協調というものが見られるというふうに考えます。 <0132>=佐々木知子君= 私は前の職業の関係で、先進諸国、発展途上国を問わずたくさんの刑事司法関係者と話をする機会がよくございましたけれども、それで非常に思ったことは、日本の治安は確かにいいと彼らは言います。ただ、本当に安全と水はただではないんだということを非常に感じたわけです。水を環境と置きかえてもよろしいかと思いますけれども、悪くなってから、汚れてからこれを戻そうと思っても非常に難しい。治安も今がいいからといって、だから大丈夫だというふうに手をこまねいていては、いつ悪くなるかもしれない。悪くなったと思ったときには、私はもう遅いんだというふうに考えるようになりました。  通信傍受法というのは、通信傍受法を含む組織犯罪関連三法ということでよろしいかと思いますけれども、御存じのように反対論がまだございます。世論を見ますと、NHKでやっておりましたけれども、国民の方は賛成の方が多かったですけれども、マスコミとかそれから一部知識人というんでしょうか、そういう方々が随分反対のことを大声で言われておりますので、そういうふうな反対論が随分強いような感もありますけれども、楽観論というんでしょうか、日本は今まで治安がよくきたと。日本の警察も優秀であれば別にこんなことをやらなくてもいいんじゃないか、検証令状でも足りるんじゃないかということと、それからこういう手段を与えてしまったら、何をどう乱用されるかわかったものじゃないじゃないかというようなことがきっとあるんだろうと思いますけれども、そういうような反対論に対して御意見はいかがでしょうか。田中参考人と安冨参考人にお伺いしたいんです。 <0133>=参考人(田中清隆君)= 先ほども私もその中で触れましたが、私ども弁護士の仲間といろいろ話をします。正直なことを言いますと意見は私どもが少数派でございます。これは正直申し上げますとそのとおりでございます。  ただ、私も刑事事件は結構やってきた経験がございます。現在も無罪を争っている事件もございます。実際、日常活動の中で刑事事件の被疑者、被告人に対する一定の権利保障プログラムというものは、不十分なところもございますがある程度それなりに歴史もあり、それなりの体系的にできておるという部分がございます。  ところが、一方の犯罪被害者に対する関係では全くそういうものがこれまで用意されてこなかったということは、これは私も含めて非常に反省を迫られているところでございます。そういった人たちとバランスのいい社会、どちらかを見ますと確かにそれぞれのいろんな部分で問題を生じますけれども、バランスよくそういったものが調和されるところというのはどこかあるのではないか。理論上突き詰めていきますと、これは非常にぎりぎりとしたらどこまでも妥協がないわけですけれども、実務の立場からしますとこれは現実問題としてどこかバランスをとるところがあるのではないかという感じがして、早くそこのところを探って、先ほども和田心臓移植になぞらえてちょっと申しましたが、そういった相互の不信感というものをいろんな形で今後なくしていくような方策を何とかとっていただきたいというふうに強く望んでおる次第でございます。 <0134>=参考人(安冨潔君)= 先生御指摘のとおりでありまして、社会状況、治安状況の変化というのは目覚ましいものがあると思います。昨日の報道にもございましたけれども、ベトナムの組織的な犯罪集団ですか、ダウガウというのがいるそうでございますが、そのナンバーツーが逮捕されたということで、彼らも中心になってヘロインの密輸を我が国に行っていた。薬物関連の重大事犯というものは国際的な組織との関連で我が国にもひしひしと押しかけてきているというのは、これは今までにもなかなか見られないような社会状況の変化ではないかと思います。その意味では、新たな組織犯罪対策としての法案づくりというものは急がれなければならないというふうにも思います。  確かに、検証許可状での通信傍受というものは既に覚せい剤取締法違反に関しまして裁判所が許可状を出しておりますけれども、先ほど私も述べましたとおり、一言で言いますと現行の刑事訴訟法の検証許可状ではいわば条件というのはすべて裁判官がそこで個別具体的に、ケース・バイ・ケースで判断をする。絞りがかかるといえば絞りはかかるわけですけれども、逆にそれはある意味では非常に不安定であります。その意味では検証許可状にないいわば権利保護の面も含めて新たに法的な根拠というものを明確化しておくという必要性はあるんだと思います。  その意味で、今回の通信傍受法案におきます令状というものの規定はその意味でも立法によって解決される、いわばいろいろ争いがある中での一つの争いを絶つという意味でも必要なものであるというふうに考えます。 <0135>=佐々木知子君= 田中先生もこのレジュメの中で述べておられますけれども、被害者というのは非常に弱い立場に置かれる。非常にその保護を考えなければいけない。ただ、刑事訴訟法というのはどうしても犯罪者、被告人、被疑者の権利擁護に重点を置かれたものですから、被害者というのは全然記述がないんですね。それで、やっと警察庁の方でもちょっと前に被害者対策室が設けられ、検察庁でも被害者に対しまして公判がどのように進んでいるかとかそういうような通知をするようになりまして、やっとここまで来たわけですけれども、被害者が非常にないがしろにされてきたというのは、私は検事を十五年間やってきて本当に一番ひしひしと感じたことでございます。  それにつきまして、田中参考人と安冨参考人、ちょっとだんだん時間がなくなりまして、簡単にで結構なんですけれども、言っていただけたらと思います。 <0136>=参考人(田中清隆君)= 私も実は法廷に証人として出たことがございますが、暴力団関連の事件というものは、もうはっきり言うと、廊下から両側にずらっと暴力団員が並びまして、通ろうとすると両方から足をけってくるというような状態の中でその証人が法廷へ入っていかなきゃならない。法廷の中はこれは裁判所が法廷警察権でいろいろ制止してくれますが、それでも傍聴席にびっしり暴力団員が座りまして、何か不利なことを言いますと、ううんとかこうやってやられますと非常にプレッシャーがかかるわけでありまして、そういう中でこれまで何人かの勇気ある方々がそれをはねのけて頑張ってこられた。  こういった努力を無にしないためにも、私はこの証人プログラムなどをさらに総合的に進化させていただきたいというふうに強く望んでおります。 <0137>=参考人(安冨潔君)= お答えいたします。  被害者の保護の問題というのは国際的な潮流でもございますし、我が国においても早晩何らかの形での立法化が図られることを期待しているわけでございますが、今般証人保護プログラムという形で、ある一部ではあろうかと思いますが具体化されたことは大変評価できると思います。  と同時に、マネーロンダリング等に関して考えてみますと、あれはいわば国民全体がある意味では被害者ともなり得るものでありますので、そういう意味では不健全な経済活動は国民すべてが被害者だとも言える。その意味では健全な経済活動維持のためのこのような法案、組織犯罪対策に関する法案ができるということがある意味での被害者対策の一環でもあると言えるようにも思います。  以上でございます。 <0138>=佐々木知子君= 時間がなくなりました。一点だけ川崎参考人にお伺いしたいと思います。  川崎参考人は、通信傍受は同意を得ずに故意に行うものだから許されないということを言われたように思うんですけれども、ただ、捜索、差し押さえ、逮捕ともどもやはり同意を得ずに故意に行うものでございまして、だからこそ令状が必要なのではないかというふうに考えておりますが、参考人の立場としては通信傍受は一切だめだ、要するに捜索、差し押さえ、逮捕などの他の強制捜査とは全く性質が違うものだ、そういうことでございましょうか。 <0139>=参考人(川崎英明君)= 性質が決定的に違うというふうに考えております。もし合憲の法律というものが提示できるのであれば提示していただきたいというふうに思います。 <0140>=佐々木知子君= 時間が参りましたので、これでやめます。  ありがとうございました。 <0141>=小川敏夫君= 民主党・新緑風会の小川敏夫でございます。  参考人の皆様、きょうは大変に御苦労さまでございます。  私は、特に通信傍受法案についてお尋ねしますが、基本的にはこの法案に反対でございます。反対の最も基本的な理由は、違法あるいは乱用に及ぶ盗聴を防止するそのチェック機能が十分でないということが主たる理由でございます。  そこで、そうした観点から安冨参考人、田中参考人に主としてお尋ねすることになりますが、立会人のことが出てまいりました。乱用を防止するには傍受を行っているその場で直ちに乱用に及ぶ傍受をさせないということが一番大事だと思うんですが、しかし立会人には内容を聞かせないということ、そしてその理由については先ほどお伺いしました。  であれば、事後的なチェックとして、乱用に及ぶ傍受があった場合にそれを直ちに発見し、適切な対処ができる、こういう制度的保証があってしかるべきだと思うんですが、その点はいかがでございましょうか。安冨参考人の方からお答えいただければと思います。 <0142>=参考人(安冨潔君)= お答えいたします。  確かに、違法な盗聴といいますか、盗聴は違法ですが、違法な盗聴防止のための手段ということを考えるべきである、しかも直後の事後的な防止策を考えるべきである、事後審査という御趣旨であろうかと思います。ただ、これは逆に考えますと、もし立会人に傍受内容を聞いていわば当該判定をさせるということまでいたしますと、捜査機関でない者がすべての会話を聞かざるを得なくなってくるわけでありますし、その判定の素材というものも事件の全貌あるいはその捜査方針というものが理解できていなければなかなか判断もできないわけですから、その意味では立会人により傍受をとめるということは恐らく難しいのではないかというふうに思うわけでありまして、外形的な傍受をしている状況を立会人がチェックすることをもって十分ではないかというふうに私は考えます。 <0143>=参考人(田中清隆君)= その点につきましては、私も名案が今のところ思い浮かびませんけれども、その点については何らかの内部的にせよ監査機関のようなものをつくって、外部につくるというのはこれはなかなか難しかろうと思いますが、そういったところにおいて何かチェックをするような方策は一応考えて、そしてそれと懲戒処分とかというようなものとの結びつきによってチェックするようなことは一応考えられるのではないかと思っておりますが、それ以上現在のところは名案はありません。 <0144>=小川敏夫君= 例えば、立会人を裁判所書記官あるいはそれに準ずるような職員、これに立ち会わせて、そうした専門的な職員に捜査官とともに傍受させる、そこで違法、乱用な傍受をチェックするというような制度であったとしたらどうでしょうか。また安冨参考人にお答えいただければと思います。 <0145>=参考人(安冨潔君)= お答えいたします。  多少繰り返しになって恐縮でございますけれども、捜査機関でない者が聞くという場合、捜査の方針や立証する上での証拠の収集ということについて、どういう証拠がどういう捜査の過程で意味があるかということまでわからなければ、恐らく関係があるかないかということの判断はできないのではないかと思うんです。  これ、ちょっと話が飛躍するようでございますけれども、例えば、ヨーロッパにおきます予審判事という制度がございますが、予審判事などが事件の全体をよく理解できないままに令状請求をされてきたときに意外と出してしまうといったようなことも伝え聞いております。  その意味では、捜査というのは、全体的な捜査のスキームといいましょうか、どういうような証拠がどのように捜査に意味があるのかということのいわば全体像がわかってこそ関係ある関係ないということが言えるのではないか。その意味では、やはり捜査官による傍受ということにならざるを得ないのであって、裁判所職員であるとか等による第三者の立ち会いというものは必ずしも立会人として適さないというふうに私は考えます。 <0146>=小川敏夫君= 立会人がその場において傍受をともにしないことからチェックをできないということは一つの先生のお考えとしてお伺いしました。  では、事後的に乱用があったことを発見し、それに対して適切な措置をとるということの事後的チェックが必要だと思うんですが、この点についての先生のお考えはいかがでしょうか。 <0147>=参考人(安冨潔君)= お答えをいたします。  事後的な点につきましては、もしそれが違法であるということになりますと、今般の修正案にありますように罰則規定もございますし、それから傍受をされた通知の通信当事者からはその傍受内容を事後的に聞くということもできますので、そういう形での事後的な審査の手続というのは現行法案の中において用意されているのではないかというふうに考えます。 <0148>=小川敏夫君= そこが私は実際上機能しないというふうに考えております。  この法案においては、通知を行うのは傍受記録を作成した通信の当事者だけでございます。仮に捜査官が違法なり乱用に及んで傍受した部分は、これは後に証拠として刑事手続で使用されるという可能性がない、すなわち傍受記録として作成される可能性がないことになると思うんです。捜査官が本来聞いてはいけない通信を違法あるいは乱用に及んで聞いてしまった部分を犯罪の証明に使うことは考えられませんから。そうすると、この法案では通知をするのは傍受記録を作成した通信当事者だけですから、違法、乱用に及ぶ部分に関しては傍受記録を作成していない。したがって、違法、乱用に及んだ場合があった場合にはその部分についての通知は当然行かないわけです。  そうすると、傍受された人は傍受されたことを知らない、したがって不服の申し立てもできない。こういう構成になりますから、この法案においては違法、乱用に及ぶ傍受があった場合に事後的なチェックができないというふうに私は考えておるんですが、その点は安冨参考人の御意見はいかがでしょうか。 <0149>=参考人(安冨潔君)= お答えをいたします。  違法、乱用という、どういう通信傍受が違法、乱用であるかということにもかかわるかと思うんですが、いわゆるスポットモニタリングをやって該当性判断をいたします。その間に聞いて、犯罪とは関係がないと判断されましたときにはそれは切らなければいけません。それを延々と続けているということになれば、これは違法であります。  その意味では、立会人がスポットモニタリングを超えているというふうにした場合には意見を述べることもできますし、その述べた意見につきましては、それは裁判官に対して書類で報告をするということになっているわけでありますから、その意味におきましては、事後的な手続というものはあるかのように思われます。 <0150>=小川敏夫君= まず、立会人は傍受の中を聞かないわけですから、それが乱用に及ぶものか犯罪に関連する内容を聞いているかどうかは判断できないことになると思います。それから、スポットモニタリングがなされるといいましても、犯罪に関連する通信を装えば、犯罪に関連する通信だという判断を故意に誤って、あるいは本当に誤ってでも犯罪に関連する通信だと言って聞けば、スポットモニタリングをしないで全部これは聞けるわけです。  それから、もっと言えば、スポットモニタリングという制度そのものがこの法律案では規定されておりません。単に最小化原則が書いてあるだけでございます。ですから、立会人に捜査官の傍受が乱用に及んでいるということの判断を期待することはまず無理ではないかというふうに考えております。  それで、今話が出ました立会人が意見を記して報告するということでございますが、ただ立会人が意見を書いてそれを裁判所に届けられても、裁判所はそれについて何ら職権を発動するシステムにはなっていない、この法案上。ただ保管するだけでございます。  ですから、実際上、傍受記録が作成されないから傍受されたことはだれも知らない。そうすると、準抗告の申し立てもないし、あるいは刑事訴訟になって証拠の能力が争われることもない。すなわち、やみに葬られたまま裁判所のお蔵に入ってしまうという結果になるので、実際には立会人の意見も全く事後的チェックとしては機能していないというふうに私は考えております。その点、安冨参考人のお考えはいかがでしょうか。 <0151>=参考人(安冨潔君)= 立会人のチェックというものが、その通信傍受内容を聞かないということで十分ではないというような御指摘かと承りましたけれども、その外形的に接続されている状況というものをチェックすることによって一定の通信傍受形態を立会人が担保できていると私は考えております。 <0152>=小川敏夫君= 例えば、アメリカでは令状に基づいて傍受を行ったそのうち八割が実際には犯罪に関係しない通信であった、後の裁判の証拠として使われたものは二割であるというふうに統計上発表されております。これを当てはめれば、仮に同じような図式であれば、今後日本の捜査官が本法によって傍受したとしても、傍受記録として作成する通信があったのは二割であって、約八割は傍受記録を作成しない通信傍受であった、こういうふうに置きかえることができると思います。  そうすると、先ほども言ったように、傍受記録が作成されなければ全くだれもその傍受があったことを知らないままやみに葬り去られてしまって、このような強制処分があったということすら本人に知らされないまま終わってしまうわけです。これはやはり刑事手続上、憲法の原則からいって問題があるのではないかと思いますが、安冨参考人のお考えはいかがでしょうか。 <0153>=参考人(安冨潔君)= 確かに、アメリカ等の場合に先生御指摘のような状況があるということは承知しております。  ただ、アメリカの場合の通信傍受のやり方あるいは裁判官による令状の審査の仕方が必ずしも我が国と同じかどうかということまで私は詳しくは承知しておりませんので、先生から御指摘いただきましたような形になるのか、それともそうでないのかということについてお答えはしかねるわけでございますけれども、本法案の傍受においては、該当性のための判断をし、それで犯罪とは関係がないということになればそれを切るという仕組みになっておりますから、その法案に従った形での運用が図られれば、そのようなことにはならないのではないかというふうに思っております。 <0154>=小川敏夫君= 法律の趣旨どおり捜査官がきちんと行えば、それは乱用の防止というものを考える必要はないわけですが、ただ、故意または職務に熱心な余り誤って乱用に及んだ場合に、それを防止する手だてを講じておくこと、それがまさに制度的担保だと思うんです。  それであと、予備的ないわゆる試し聞きの部分についてですが、コンピューター通信等の場合には、スポットモニタリングのように一部分を聞いてまた途中でやめるという作業がなくて、傍受を始めたときにすべてのデータが入手されてしまうというふうになっております。  この法案では、そこのコンピューター通信に対する対処を細かく規定した部分がないので、余りにも包括的に捜査官の判断にゆだねてしまう。少しコンピューター通信の現状あるいは将来予測される技術に対応できていないのじゃないかというふうに私は思いますが、そこら辺のお考えは安冨参考人はいかがでございましょうか。 <0155>=参考人(安冨潔君)= お答えをいたします。  今回の法案におきます通信の範囲というものはかなり広いものがございまして、もろもろの電気通信であればコンピューター通信も含むということになっておるわけでありますけれども、そういう電気通信の技術の性質上、今先生から御指摘いただきましたような形で通信内容を傍受するといいますか、データを入手するといいますか、そういう形にはなろうかと思います。  この点、逆にコンピューター通信を除くというようなことになりますと、それが今度は隘路になるといいましょうか、そこを使った組織的な犯罪も起こり得るのではないかと考えるわけでありまして、技術的な側面を含めての対応というのは今後考えていかなければいけないところではあろうかと思いますけれども、法案におきます通信の中からコンピューター通信というものを殊さら外すということは私は適当ではないというふうに考えます。 <0156>=小川敏夫君= 私は、外すというよりも、それに対応した規定が必要ではないかという趣旨でお尋ねしたんですが、結構でございます。  田中参考人に少しお尋ねします。  田中参考人がこれまで組織暴力団、民事暴力に一生懸命取り組んでこられたことは大変に評価しております。また、その評価について、その評価が低いとかいう問題とはまた別にして、実はこういう問題もあると思うんです。  被害者という問題につきまして、権力による犯罪があってそれで被害者が出たという場合、そういう権力犯罪による被害者についても、そういう被害者は例えば警察権力によって何らかの犯罪を起こされた場合に警察は取り合ってくれないわけですから、もっと具体的に言えば、共産党の幹部宅盗聴事件がありました。権力によって起こされた犯罪の被害者ということも考えていいのじゃないかというふうに私は考えております。  そしてまた、ほっておけばどんどん治安が悪くなるよ、必ずしもそう言えるかどうかわからないんですが、治安が悪くなってからでは取り返しがつかないという議論がございました。一方で、権力が絶対化して、フーバー長官のような批判勢力を許さないような絶対的権力ができ上がってしまったら、逆にそのことに対処することの方が困難ではないか。より大きな問題があるかとも思うんです。  ですから、田中参考人がこれまで取り組んでこられた暴力団の問題も大変に私は高く評価しておりますが、一方で、通信の傍受の乱用に及んで権力の違法な行為があったということはいけないということは当然だと思うんですが、それに対する防止策というものもきちんと講じなければいけないと私は思うんですが、そこら辺の田中参考人の御意見はいかがでしょうか。 <0157>=参考人(田中清隆君)= 私自身も刑事弁護を何度もやっておりまして、逆に警察によってかなり煮え湯を飲まされたということもあるわけでございますから、全面的に警察だけが正しいということを申し上げるつもりは一切ございません。  ただ、全く御指摘のとおり、歴史的に見ればそのとおりだと思いますけれども、私どもが今心配しておるのは、その権力すら及ばないような権力のコントロールの外にある、あるいは民主的コントロールの外にあるような勢力が現在伸長しつつある。これを何とかしたい、これは何とかしなければならぬというのが現在の問題意識のところではあろうか。それによって、じゃ権力犯罪があっていいということにはなりませんけれども、そこの非常に難しいすれすれのところを何とかうまく実現できないかというのが私どもの考えでございます。 <0158>=小川敏夫君= 川崎参考人に具体的にお尋ねしませんでしたが、今まで聞いたところで何か御意見があればお聞かせいただければと思います。 <0159>=参考人(川崎英明君)= コンピューター通信の問題ですけれども、おっしゃられるとおり、電話についてスポットモニタリングになるという保証はこの法案の中ではおっしゃるとおりないと思います。ただ、理論的にはスポットモニタリングは可能と。  ただ、これに対してコンピューター通信の場合には、この法案の仕組みとしてはすべてを記録媒体に残すことになるだろう。記録媒体に残したものは、これは法案でいけば盗聴ということになりますので、コンピューター通信についてはすべてが捕捉されてしまう、その可能性は否定できない。これは法案の仕組みでそうなっているだろうというふうに思います。 <0160>=小川敏夫君= 私も全く同感でございますが、時間が来ましたので終わります。 <0161>=大森礼子君= 公明党の大森礼子です。  参考人の皆様、本日は大変ありがとうございます。早速質問に入らせていただきます。  通信傍受という捜査手法ですけれども、確かに気持ちの悪いものだと思います。それ以外の方法で、組織犯罪対策といいますか、例えば薬物犯罪なんかを摘発できたらその方がいいと私も思っております。ただ、捜査の現場とか犯罪の実態を見まして、やはりこれしか方法がないということで、今回公明党の方も修正案の骨子をつくらせていただきました。  それから、佐々木委員が治安が悪くなったと気づいたときでは遅いのではないかというふうにおっしゃいましたけれども、私も佐々木委員も検事をしていた経験もありまして、少し日本の治安がよ過ぎたのかなと、それはいいことなんですけれども、そんな気もしております。  それから、安冨参考人がおっしゃった自由を享受するには社会が安全でなくてはならないということ、私も全くそのとおりであると思います。自分が検事になったのも、やはり社会の治安ということが大事である、治安がちゃんとしていて初めて民主的な議論もできる、人権論議もできるのだろうと思いましてその分野に行った、これが一つの動機になっております。  結局、犯罪対策をどうするかということですが、まず川崎参考人からお尋ねいたします。  先ほど佐々木委員が質問して、ちょっと結論がよくわからなかったのですが、通信傍受という方法は一切認めないというお立場なのかどうか、そこをちょっと教えていただけますでしょうか。 <0162>=参考人(川崎英明君)= 憲法三十五条の特定性の要請との関係でいくと、合憲性を認めることは極めて難しい、不可能に近いのではないかというふうに考えております。  最後に言いましたのは、私の頭では合憲の法律が浮かんでこないということでありまして、もし合憲の法律の姿を見せていただけるのであればお示しくださればありがたいというのが私の先ほどの発言でした。 <0163>=大森礼子君= 先生のそのお考えでしたら、それは合憲になり得ないと思いますよ。だって、通話というのはすべてこれから行われるものでありまして、将来のものなわけですから。それが三十五条に違反であるとしたら、ここは絶対通信傍受についてはクリアできないと思います。  それで、特定性の要件ということですが、これは令状発付のための要件と、ここで特定性はここまでしかできないということで法文ができているのだろうと思います。  例えば、私は思うんですけれども、普通の捜索、差し押さえでも特定性の要件を令状に書きますけれども、ある意味で非常に漠然として、当然こういうものがあるはずだということで書きますね。絶対これはあると供述が出たからそれだけ捜索して押収するということはないわけでありまして、多分こういうものはあるに違いないということで令状発付を受ける。それで、捜索してみて、ない場合もあるということでありまして、その特定性の要件というのは通常の場合とさほど違わないのではないかなという印象も持っております。  それでは、安冨参考人にお尋ねします。  これから行われる通話が対象になるわけですから、これは前もってこんな通話が出るなんて再現できるわけがありませんから、その意味では特定性を非常に狭義に解釈しますと要件が欠けるということになりますが、果たして憲法はここまで要求しているのかどうかについてはいかがでしょうか。 <0164>=参考人(安冨潔君)= お答えいたします。  憲法の三十五条第一項のいわゆる正当理由とそれから対象を明示せよという要求が令状主義の趣旨であるということでございますけれども、今回の場合の対象となる会話につきましては、将来の会話であるとはいえ、犯罪の嫌疑に関してこれまで起こった犯罪の嫌疑、犯罪に関する高度な嫌疑並びにそれとの一体となる嫌疑についての犯罪の会話ということでございますから、正当理由に対してのどのような会話がそこで行われるかということについての特定はなされ得るのだろうというふうに私は考えます。 <0165>=大森礼子君= それから、将来の犯罪についても規定している。これも基本となる犯罪があって、それとの一体性を要求して実は要件を絞っております。  それから、実は十四条の、私は緊急傍受という言い方の方が正しいと思うんですが、この場合にも、これから行われる令状に記載されていない別の部分についてもこの二つのところで出てくるわけなんですけれども、例えばこの将来の犯罪だけということを切り離しますと、確かに行政警察のやり方になるのかなと思います。ただ、一定の要件のもとに付加するという形にこの法案はなっております。  それで、将来の犯罪という点では、午前中の参考人質疑でも引用したのですが、札幌高裁の平成九年五月十五日の判決がございまして、この中にも将来の犯罪についてちょっと触れているところがありますね。  「電話傍受等の際、過去に行われた犯罪のみならず、現に行われており、将来も行われようとしている犯罪についての通話がなされていることが判明したときでも、右犯罪が過去に行われた犯罪と関連があり、かつ、過去に行われた犯罪につき前記の必要性・相当性がなお存在する限り、傍受等を中止することなく継続でき、傍受等によって収集した証拠を犯罪の捜査及び立証に使用できるというべきである。」とありまして、これを認めた一つの根拠としましては、これは後の方で出てきます組織的、継続的な犯罪ということに着目したのだろうと思うわけです。しかし、これにつきましても令状記載のその被疑事実というのと比べれば、将来別の犯罪ですか、これも将来の犯罪と変わらないわけなんですね。  そうしますと、この川崎参考人のお考えによりますと、札幌高裁の一連の覚せい剤で将来するかもしれない、ここのところはやはり無令状ですね、厳格に言いますと。これもやっぱり違憲の疑いがある判決ということになりますでしょうか。川崎参考人にお伺いします。 <0166>=参考人(川崎英明君)= その質問の趣旨が理解できない部分があるのですけれども、将来の犯罪については御存じのことですけれども、現行法が過去の犯罪に限って捜査を認めているわけです。これは刑事訴訟法の文言上出ているということですので、連結した犯罪であってもこれは将来の犯罪、起こるかもしれない犯罪で、これは予測の問題なんです。それで、過去の問題は犯罪の認定の問題です。認定と予測とは決定的に違う。刑事訴訟法はそこで過去の犯罪について限定したということですので、それが将来について捜査ができるかといえば、刑事訴訟法上できないであろうというふうに思います。だから、その判例は刑事訴訟法の枠を超えているというふうに考えております。 <0167>=大森礼子君= はい、わかりました。  それから、十四条のところですが、緊急傍受のいわゆる別件盗聴のところですが、これは対象を短期一年以上にいたしました。これは安冨参考人が触れてくださったように、実は法定合議事件であるということで、一つの基準にしております。これは縛りをかけても憲法違反。そうしますと、もう川崎参考人の御意見ですと、例えば覚せい剤取締法違反で傍受をしていた、そこに殺人、過去にした分でもいいですし、今やっている場合でもいいですし、それからこれからやろうとする場合でもいい、あるいは営利目的の誘拐なんかでもいい、こういう相談がすぽっと入ってきた。この場合でも電話の傍受は切るべきだ、こういうお考えでしょうか。 <0168>=参考人(川崎英明君)= この十四条の規定ですけれども、これは安冨さんが説明されたような現行犯的状況には限っていないわけですね。これは実行したこと、それから実行することということですから、過去と将来が入っていますので、現行犯的状況が仮に肯定できるとすれば、実行しているという部分に限られるだろうというふうに思います。  しかし、憲法三十五条は、三十三条の場合を除いては令状が要るというふうに明記しております。この部分を見たときに、その三十三条の場合というのは令状による逮捕と現行犯による逮捕の場合ですね、ではそれ以外に憲法三十五条の文言からそれが引き出されるか、それ以外に無令状の場合があり得るかといえば、それは読み取ることは不可能であろうというふうに考えております。 <0169>=大森礼子君= だから、結論的に言いますと、難しい議論ではなくて、覚せい剤取締法違反で傍受していたならば、将来の犯罪にしましょう、これから殺人を実行しようという、それがもう耳にぽっと入ってきたと、この場合もやはりこれを聞くことは憲法が許していない、捜査はその人が実際に殺されてからするべきだ、こういうことになりますでしょうか。川崎参考人、お願いいたします。 <0170>=参考人(川崎英明君)= 問題は、そういうふうに問題を立てられる場合に、十四条の場合は、「実行することを内容とするものと明らかに認められる通信」ということでして、ただいまの御質問は絶対的にそうであった場合、つまりまさに犯罪を実行するんだ、ほうっておけば結果として実行されたんだと、そういう場合を推定しているのでしょうけれども、しかし十四条を見る限りは、明らかに認められる通信ということで、そこには予測の要素が入っているわけですので、質問された点については前提条件がかなりさまざま変わってくるだろうというふうに思います。  それを前提とした上で申し上げますと、無令状でやれる場合があるとすれば、これは誘拐で身の代金要求がなされた、それに対して家族または自己の身を守るために、一方の同意がある中で令状を得て行うと。その限りで合憲性は認められるでしょうけれども、それ以外には合憲性は認められないだろうというふうに思っています。 <0171>=大森礼子君= いや、ですから、十四条のこの規定を満たした場合という、この前提でいきたいと思います。実行することを内容とすると明らかに認められる通信。  そうしますと、もう明らかに殺人を実行するんだなというふうな通信が入ってきても、警察官は切るべきだ。それで、それは無令状、令状なんかとっている暇はありませんから、令状がないんだから、そこは聞いてはいけない。強制捜査といいますか、捜査は人が殺されてからということになりますでしょうか。  それから、身の代金目的の話がありました。これは実際、誘拐されてからのことでございましたね、一方の被害者の家族の同意を得てというのは。これから、だれかの娘を誘拐して身の代金を取ってやろうという、これは明らかに認められる場合ですよ。この場合でも聞いてはいけない、それは実際にさらわれてから捜査しろ、こういう結論になりそうなので、ちょっとしっくりこないんですけれども、いかがでしょうか。何度も確認させていただいて済みません。川崎参考人です。 <0172>=参考人(川崎英明君)= 大変追及されておりますけれども、私自身が言っているのは、十四条で明らかに認められる通信ということですので、これはあくまでも予測の問題なんです。ですから、その予測について絶対的に行われるんだという前提で質問されますと、この法案との関係ではかなり違ってくるだろうと思います。  憲法三十五条が認めているのは、あくまでも令状による逮捕と現行犯、それに伴って行われる捜索、差し押さえ等の場合が無令状ということでありますので、それ以外にはあり得ないだろうというふうに考えています。 <0173>=大森礼子君= 確認させていただきます。  憲法がそうだからこそ、こんな場合も無令状になるわけですね。どこかで子供をさらって金を取ろうぜとか、あいつを殺しちゃおうとか、こういう場合も無令状なんだから絶対だめだという結論でよろしいわけですね、先生のお考えは。 <0174>=参考人(川崎英明君)= 理論的にはそうなります。ただ、先ほどから私がこだわっておりますのは、その前提となる条件設定について、この十四条の場合は明らかに認められるということで、予測的な要素が入っていて、それは現実とは違う場合が常にあるのです。だから、仮に百のうち一つそれがあったとして、九十九ない場合というのが常に想定できるわけです。もう少し言えば、千のうち一それがあるかもしれない、しかし九百九十九ないかもしれない。一万の場合もそうです。そういう場合の問題が出てくるということで、先ほど来、十四条の要件を満たしたという前提自体に非常に大きな問題があるということを申し上げているわけです。 <0175>=大森礼子君= そういう場合はあるかもしれませんので。  なぜこういうことを言うかというと、やっぱり捜査は現場で現実にどういうことが起きるか、こういう事態が起きたときにどう対応するかという、まさに現場で仕事をしている人間にとっては実はこういう考え方というのか、具体的に考えてみるということが大事な作業なのだと私は思います。  安冨参考人に、この十四条の中にある将来犯罪、「実行することを内容とするもの」、これは別件であってかつ将来実行行為が行われる犯罪になるわけですが、これは憲法に違反しないかどうかというこの点についてはいかがでしょうか。 <0176>=参考人(安冨潔君)= この「他の犯罪の実行を内容とする」というものを通信傍受するという場合のお話でございますけれども、この点に関しましては、憲法との関係においては、その当該通信内容が特定されている、このような犯罪として特定されているというものであれば、これは憲法三十五条の実質的な要件を欠くものではないというふうに私は考えます。 <0177>=大森礼子君= 私は、こういう殺人、だれかが殺されるという相談がある、それでも憲法はそれを許さない、無令状では許さないというのだったら、もう憲法というのは何と無慈悲なものかなというふうな気がするので、ちょっと今の質問をさせていただきました。  それからまた、川崎参考人にばかりお聞きしてあれなんですけれども、修正案でもだめだということで、実は我々は一生懸命考えたはずなんですけれども、だめと言われたらそうですかと言うしかないのですが。  対象犯罪を絞っているけれども、今後拡張されるかもしれない、歯どめがない、こういうふうにおっしゃいました。これを言われますと、私らはどうしたらいいのかなと思うんです。では、この歯どめとして考えることというのはどういうことがありますでしょうか。例えば、条文の中で対象犯罪の修正は認めないなんという条文を入れるわけにいきませんので、この法案の中で今後拡張されない歯どめをつくるとしたらどのような形がありますでしょうか、教えていただければ幸いです。 <0178>=参考人(川崎英明君)= 残念ながら教えることができません。  つまり、修正が歯どめになっていないというのが私の前提ですので、修正で歯どめにならないというのが私の趣旨であります。 <0179>=大森礼子君= 対象犯罪を絞ったけれども、その歯どめにはならない、この点についておっしゃいました。  では、なぜそれはだめか。対象犯罪を絞ったけれども、今後拡張されるかもしれないから歯どめになっていない、こういうおっしゃり方をされたと思うんです。私は歯どめをする方法があるのかなと思いまして、今の質問をさせていただいたんです。  そうしますと、例えば薬物だけに限って、何かこういう法案がありましたら拡張される歯どめというのはその法案の中で明記することはできませんから、ともかく全然通信傍受を認めないというのが川崎参考人のお考えなのでしょうか。 <0180>=参考人(川崎英明君)= 結論的に申せばそうなります。  罪種の限定について申し上げますと、当初の案では百種近くありました。それが絞られたということではあるんですけれども、逆に言えば、それだけの犯罪について盗聴の必要性があるというのが衆議院段階までの原案であったわけです。そういう前提がありますと、絞っているのだ、今後ともこれに限られるのだということは多分考えられないのではないかということであります。 <0181>=大森礼子君= それでしたら、その経過の中で、政府原案については、あれは通信傍受を一般的に認める法案と。我々は、原則禁止、それで例外的にどうしても捜査の必要、必要だと言うといけないんですね、こういう手法でないと犯罪摘発ができない、そしてしかも放置できない犯罪、特に薬物犯罪なんかを強調しておりますけれども、そういう観点でしておりますので、政府原案の立場とは違っております。ちょっとPRさせていただきました。  最後に、田中参考人、時間の関係もあるんですが、この刑事訴訟法の一部改正の方でも証人保護規定のところ、日弁連の資料の方で一つ指摘されておりますのが、結局、住所とかそういった事項について、弁護人は知っているけれども被告人には教えないというのでは弁護人と被告人の信頼関係が成立しませんという御指摘がございます。これはもしかしたら非常に重要なことなのかなと思うのですが、この点についてちょっと御意見をお聞かせいただければと思います。 <0182>=参考人(田中清隆君)= その点につきましては、御指摘のような事態はあるいはあるのかもしれません。私どもとしては、先ほども申し上げましたように、弁護権の問題とそれからあらゆる危険と戦いながら法廷へ出る者の安全の保護との調和の問題でございますから、ある場面では若干そこのところは譲歩しなければならない場面もやむを得ないのではないか、そういうふうに考えております。 <0183>=大森礼子君= 再び、田中参考人にお尋ねいたします。民事暴力関係に携わってこられたということで暴力団の実態というのはよく御存じであると、これはとても大切であると思うのです。  今回、対象犯罪を絞ったのですが、また普通殺人を入れておりません。組織的殺人を入れております。これは犯罪社会と一般社会とを区別しようと、実はこういう考えがあるわけです。人によっては、何で普通殺人、人が殺されるのにというのがあるのですが、殺人は一般市民社会でも起こり得る。だから、犯罪社会、暴力団社会と一般市民社会にこのようにファイアウオールといいますか、これを一つつくることが大事だろうと思って対象犯罪を絞らせていただきました。  それで、これがだめだといいますと、じゃ暴力団対策、薬物犯罪対策をどうするのかということになるわけですが、一方では薬物使用者も私は被害者であると思います。個人の尊厳自体が失われていく、薬物使用というのはそういうことだと思っております。そこで、何とかしなくてはいけないのに有効な方法がない。  一方で、犯罪収益の多くを占めるのは薬物による収益であります。そして、暴力団が害悪をまき散らした、金もうけした、犯罪収益を上げてさらに勢力を拡大して税金も払わないでと、私はこれはまさに大きな社会正義に反するのではないかと思うのですが、なかなかそこのところが、一方の個人のスポットモニタリングでも、これ聞かれること自体プライバシー侵害だとかという、ここは物すごく議論されるんですが、この大きな不正義についての認識がまだ少し足りないのかなと、社会一般に知られていないのかなと思うのですが、いかがでしょうか。それで、もしそうであるとするならば、その原因はどこにあるとお考えでしょうか。 <0184>=参考人(田中清隆君)= 大変難しい御質問でございますが、やはり私もいろんな国の状況を見せていただきますと、御指摘のようにやや全体的な大きな正義といいますか、全体的な安全ということに対する認識が弱いのではないかという感じは正直言って持ちます。  それが一体どこに由来するのかという点はちょっと私の能力を超えることでございますが、ただ、ここで私どもとして申し上げたいことは、先ほども先生がおっしゃられた現場にいますと、確かに私ども、憲法をいろいろ勉強しましてこれは違憲じゃないかと言われますと、非常にそういう一部分かなり苦しいところもあるなという感じは正直言って持つことはあるんです。しかしながら、そこのところは、特定性の問題にしましても、絶対的な基準というよりは、ある程度基準というものは相対的ではなかろうか。社会の状況、あるいは世界的な動向、犯罪情勢、そういったものとのある程度相対的な部分はあるのではなかろうか。そこの範囲内で今回の法案あたりが何とか調和点を保っておるのではないかというふうに私は考えておる次第でございます。 <0185>=大森礼子君= 終わります。 <0186>=橋本敦君= 日本共産党の橋本でございます。  きょうは参考人の三先生、ありがとうございました。  まず、川崎先生に御意見をお伺いしたいと思うんですが、多くの意見の一つとして、凶悪な犯罪がふえているとか、あるいは麻薬・銃器犯罪が増大しているとか、そういったことが言われている中で、こうしたことに対する取り締まりや厳正な捜査が必要だという世論がありますし、私どもも当然それは必要だ、こう考えています。その点は先生も御異論がないところだと思うんです。  捜査の手法として通信傍受、いわゆる盗聴法案を入れるということと、そういった犯罪の取り締まりを厳しくするということと、どういうように考えていけばいいのか。まず、この点の先生のお考えはいかがでしょうか。 <0187>=参考人(川崎英明君)= おっしゃられるとおり、私も犯罪について厳正に対処するということは当然の前提であります。したがいまして、現に存在する権限を適正に行使するということで対処していく。特に一九九〇年代以降、銃刀法の改正とか麻薬特例法の改正、あるいは先ほど来出ております暴力団対策法というものが出ています。十分過ぎるほどの権限が与えられているだろう、これを適正に行使すればそれで対処できるというふうに私は考えております。あくまでも捜査は憲法と刑事訴訟法の範囲内で行われるということですので、それを逸脱した捜査権限については認められないということであります。 <0188>=橋本敦君= その点で安冨先生のお考えも伺いましたが、お考えの問題点と私どもの考えとで違っておりますのは、修正案によって対象犯罪が限定された、さらに常時立ち会いということになった、それから別件傍受については短期一年以上ということで対象を絞って重大な犯罪ということにした、いろいろそういったことが言われているわけですが、この通信傍受という盗聴が犯罪と関係のない一般市民に人権侵害として累が及んでいくというところの歯どめが基本的にはできていないのではないか。つまり、修正案によって試し聞きは禁止されていないし、それからさらに事前盗聴、別件盗聴ということも認められているし、同時にそのことを後で不服申し立てとして排除できる手法があるかといえば、関係者に通知が全部行くわけではない。  そういう意味で、修正案は出されたけれども、通信傍受法案、盗聴法案の持つ本来的な乱用の危険性ということについてきちっとした歯どめがそれでできたとは言えないのではないかという意見を私は持っておるわけですが、そうした意見について、川崎先生の御意見はどうなんでしょうか。 <0189>=参考人(川崎英明君)= 立ち会いの問題を一つ取り上げて、きちんとした限定ができないだろうということを申し上げました。修正によってはやはりこの法案は生まれ変わっていないというのが私の結論的な考え方であります。  先ほども、違法盗聴について当初の案よりも処罰規定が重くなったと、それは修正によってなされたということは確かでありますけれども、それが果たして歯どめになり得るのかということについても疑問を持っているわけです。それは、起訴が本当になされるんだろうかという問題と、それから準起訴手続がその後に控えておりますけれども、これは御存じのとおり戦後十七件しか付審判の決定はなされていないわけですね、〇・一%ということです。これは、やはり準起訴手続が有効に機能しないということを前提とした上で、この刑罰規定が本当に限定になるのかということを考えておかなければいけないというふうに思います。 <0190>=橋本敦君= その点で安冨先生の御意見も伺いたいんです。  今の警察が実際にこれをやるわけですから、その警察の体質ということ、捜査方針ということとの関係で、私どもの元国際部長であった緒方議員宅事件について私は質問もしたんですけれども、裁判所が国家賠償請求訴訟で盗聴の事実を認めた上で賠償支払い命令を国及び県に出して、明確にこれは違法な盗聴行為があったということが裁判上認定されているわけですが、警察は一貫して、これまで盗聴したことはないし、これからも盗聴することはないと、警察庁長官はこの法務委員会でもお述べになっているわけですね。  だから、そういう警察の率直でない、そして裁判所の判決も、上告しないで確定した判決であるにもかかわらず、みずから上告しないのに率直に認めようとしないといった状況は、これは通信傍受法案、盗聴法案がこれからどうなっていくかということに対して国民の大きな不安をかき立てる一つの重要な政府側の姿勢になっているんじゃないか、こう思うんです。  ですから、JNNの世論調査でも、この通信傍受法案が施行されたら警察が適正にこれを執行すると思うか思いませんかという問いに対して、たしか六一%の回答が適正に執行されるとは信頼しがたい、こう言っているわけです。  こういった問題に対して、安冨先生はいかがお考えでしょうか。 <0191>=参考人(安冨潔君)= お答えをいたします。  ただいま先生御指摘いただきました盗聴事件に関しましては、新聞で知る限りではございますけれども、大変ゆゆしき事態であると私も個人的にはそう思います。そういう意味では、裁判所も損害賠償請求を認めるということでございます。  確かに、過去にそういう事件が起こったということについては、捜査当局として、あるいは警察と言った方がいいかもしれませんが、深く反省をしていただかなければいけないと私は思います。  ただ、そのことと今回のこういった四類型の組織的な犯罪との関係での通信傍受を認めていこうという法案、これは一応切り離して考えるべきではないか。これが法律になった場合、さらに具体的な施行に当たって捜査当局としてどうあるべきかということは考えていただかなければいけませんし、さらにはまた犯罪捜査規範等々の改正等を含めてより実質的に適正な手続ができるような、そういう指針を含めた方向での対応をしていただかなければいけないのではないかというふうに私は思います。 <0192>=橋本敦君= 切り離して考えることができない重要な問題だという認識を私どもは持っておりますので、質問させていただいたんです。  例えば、いわゆる試し聞きの問題、予備的盗聴と言われていますが、こうした問題や、あるいは別件盗聴に関連しても、関連性のない通話は聞かないための必要最小法則あるいは措置ということがアメリカでは言われていますし、またこの本法案でもございますね。午前中も言ったんですが、その最小法則というのは一体具体的に何かということが法案の中身にないんですよ。専ら捜査官のところでつくられるマニュアルということでしかない。審議の対象にもならない。それは、私は人権保障という観点から見て、法の一つの重要な人権保障の法的機能を欠く欠陥に値するぐらいの大事な問題じゃないかと思うんです。  この最小化措置ということについて、本当に無関係な市民の通話が最小限でしか聞かれないという保証があるだろうかということを考えますと、その保証はどこにあるのかと法案を探してみましても見つからないんですね。その点、どこにそういう保証があるとお考えなのか、安冨先生の御意見はいかがでしょうか。 <0193>=参考人(安冨潔君)= 今回の法案の中での傍受の最小化ということについて、該当性判断の中で聞いたら切るという法案になっておりまして、その仕組みを誠実に適正に履行していただくということにあるのではないかと思います。 <0194>=橋本敦君= 聞いたら切るとは法案には書いてないんですよね、ですから問題なんです。  それで、例えば、朝日新聞が「盗聴捜査 米国の光と影」という特集を三回にわたって行いまして、先生方もごらんになったと思うんです。朝日新聞の七月十五日の「上」の部分ですけれども、「ロス市警は容疑者たちの自宅や勤務先など計四十八カ所の電話を三十日間にわたって盗聴した。さらに三十日間、対象を五十七カ所に広げた令状を請求して捜査を続けた。結局、二カ月間で計三千七百十回の通話が聴かれた。このうち犯罪に関係するとみられる通話は百件、全体の三%足らずだった。」、こういう報道もあるんですね。これは重大な人権侵害だと思うんです。  さらにその新聞は続けて、「九七年八月以降、ロス市中心部の街角にある公衆電話と隣接するオレンジ郡の公衆電話の計五台が、捜査当局によって四カ月にわたって盗聴された。」。公衆電話がですよ。公衆電話というのは不特定多数の市民が使います。本件の審査の中でも、刑事局長は公衆電話を傍受の対象としてやることがあるということも言っていますから、本件においてもないとは言えないわけです。「この間に対象となった会話は約六万五千件。延べ十二万人余りの会話が聴かれていたことになる。麻薬取引の売人が公衆電話を使うという理由で令状が請求されたが、逮捕者は一人もいなかった。」、こういう報道もあるんです。これは朝日新聞の報道です。  こういうような状態が起こるということは、我が国の憲法二十一条、三十五条、三十一条あるいは十三条という関係から絶対起こしてはならぬことだ、またそういうことが起こらないという保証がないという重大な法案だ、こういう意味で私はこの法案は極めて重大だと思っているんです。  先ほど、川崎先生の方から先進国でも反省の声が上がっているというお話がございましたが、具体的にアメリカあたりでもそういった問題について反省の声が上がっているんでしょうか。 <0195>=参考人(川崎英明君)= 朝日新聞の連載にもありましたけれども、自由人権協会の方が来られて、そういう反省をしているということに加えて、アメリカの盗聴法ができたのはたしか一九六八年だったと思いますけれども、そのときからも法学者を初めとして、例えば「警察権力と自由」といったアランバースという人の著書のような、そういった中で一貫して盗聴について賛成論一色ではなくて反対論が根強く存在している。そういったことの上に朝日新聞に先ほど申し上げた自由人権協会の方の反省の弁も出ているということだと認識しております。 <0196>=橋本敦君= この法案をめぐっては国民のいろんな批判も高まっておりまして、文化人の皆さん、マスコミの皆さん、多くの反対意見があるんですが、最近、二十一日に立正佼成会、PL教団など六十六の教団が加盟していらっしゃる新日本宗教団体連合会が、この組織犯罪対策三法については白紙に戻すようにすべきだという申し入れを自民党に対して行われたという報道もあるんですね。  ですから、宗教界の皆さんもそれからマスコミ界はもちろん、弁護士の皆さんも、それから先ほど川崎先生がおっしゃった四百五十一名に上る法学者の皆さんの異例の声明ということもありまして、憲法二十一条との関係でこの通信傍受法案、盗聴法案というのはもうまさに今大きな問題になっているわけです。先ほど川崎先生がおっしゃった自由で民主主義の社会、そういうことの中で現代社会の特質としての自由な通信が持つ市民的あるいは団体的、政治的自由にかかわる、そういう重要な問題として考えていくならば、この法案について一番の問題点は二十一条違反なのか三十五条違反なのか三十一条違反なのか、そこらあたりは川崎先生として一番強調したい点はどこだというようにお考えでしょうか。 <0197>=参考人(川崎英明君)= 一番強調したい点が二点あると言うと矛盾になるのですけれども、二つあります。  一つは、おっしゃられるとおり、通信の秘密の問題です。通信の秘密には内在的制約があるというふうに言われますが、その内在的制約を具体化したものが刑事手続では憲法三十五条ということですので、その内在的制約と憲法三十五条は連動しているわけです。したがいまして、二十一条と三十五条とに照らして認めることができないであろうということであります。 <0198>=橋本敦君= 田中先生にお伺いしたいと思うんです。  暴力団の不法な行為を許さないということで御活躍いただきまして、敬意を表しておりますが、実際にこの通信傍受、盗聴法ができましても、暴力団の幹部はこの法律ができたらファクスだとか電話で犯罪の指揮命令あるいは伝達をするということは恐らくしないだろうと思うんですね。  午前中も私このことも伺ったんですが、それが証拠に、イタリアでもアメリカでもマフィアその他暴力団の幹部がなかなかこれで追及できていないと思うんです。そういう点でいえば、先生の御意見はございましたけれども、この法案ができたから暴力の組織体の幹部に捜査がこれによって及んでいける、そういう点はちょっと楽観的に見るわけにもいかないのではないかと心配をしておるんですが、その点はいかがでしょうか。 <0199>=参考人(田中清隆君)= 私は残念ながら技術面に余り詳しくないものですから、今後その幹部の連絡が具体的にどういう方法によってなされるのか、例えば暗号とかそういうものが具体的にどういう形で使われるのかということはちょっと申し上げにくいんですが、私は当初申し上げましたように、この法案全体の例えば証人保護プログラムあるいは犯罪収益の剥奪あるいは重罰化、全体的な効果でもって例えば証人の協力あるいはいろんな不正な収益の機会からの排除、こういう総合的なものでもって一つの成果を上げていくということを期待したい。  もちろん、通信傍受についても確信はございませんが、現状の検証許可状よりはかなりましになるであろうという期待は持っております。そういうこととして御理解をいただきたいし、全体としてまた証人保護プログラムあるいは犯罪収益の剥奪というあたりももう少し具体的にいけばいろいろと手直しの必要な部分もあろうか、そういった総合力でもって対策を進めたいというふうに考えております。 <0200>=橋本敦君= 通信傍受という手法だけじゃなくて総合的にという御意見ですね。わかりました。結構でございます。  終わります。 <0201>=福島瑞穂君= 社民党の福島瑞穂です。きょうは本当にありがとうございます。  午前中の議論でも出てきたのですが、私自身はこの三法案に関して犯罪概念、刑事法概念の根本的な転換になっていくのではないか、それによって社会も根本的に変わっていくのではないかということと、もう一つはこの条文と政府の説明にずれが生ずるということを思うことがあるんです。  一例で申し上げたいんですが、組織的犯罪対策三法案と言われておりますが、捜査のための通信傍受法案に関しては組織ということは書かれておりません。共謀ということはあるんですけれども、組織ということは書かれておりません。ですから、私はオウム真理教でもないし暴力団でもないから関係ないわと思っていたとしても、麻薬の単純所持、覚せい剤の単純所持も対象ですから、実は広範囲であるというふうに思っております。  ですから、捜査のための通信傍受法案、少なくともこの条文で、組織的犯罪のみに限る、暴力団対策だ、凶悪犯罪対策だということはかなりミスリードではないかというふうに思っているのですが、その点については川崎参考人、いかがでしょうか。 <0202>=参考人(川崎英明君)= おっしゃられるとおり、法案を読んでいった場合に、組織犯罪対策三法案という中で、この盗聴法案につきましては組織犯罪対策としての色彩が薄らいでいるというふうに思います。  今指摘された点は私も大変気にしておりまして、覚せい剤等の所持、譲渡の問題、これは暴力団に限らず非常に日常的な犯罪ですので、盗聴の範囲が拡大してくるという危険性は高いというふうに認識しておりまして、おっしゃられることはよく理解できます。 <0203>=福島瑞穂君= 次に田中参考人にお伺いいたします。弁護士の大先輩としてちょっと教えてください。  先ほど検証許可令状だと大物を捕まえることができなくて、この盗聴法だとできるのではないかということをおっしゃったんですが、なぜそう言えるのでしょうか。 <0204>=参考人(田中清隆君)= それは実際にそこまでしか一般には言われておりませんけれども、私の理解としましては、検証令状の実情を見ますと、非常に短期間に限って、これは恐らく具体的な規定がありませんからかなり謙抑的に許可状が出されておるんだろうと思いますけれども、そういったことを反映してか、例えば二日間に限って午後五時から午後十一時までとか、いろいろありますけれども、そんなような規定になっておる。  ところが、今回の場合は十日間、それもやろうと思えば二十四時間できるということになるわけですから、かなり踏み込んだ通信の傍受ができる、その点がまず一点あると思います。  それからもう一つは、検証の場合は、恐らく実態といたしまして、現実問題として、受け渡し場所とかそれから実行犯同士の連絡とかそういうもの、十分な理由とかそういうような限定がございませんから、比較的そういう末端のところの取引場所なんかをねらう目的で実際に使われている、そういった捜査の実態からもそういうふうな使われ方をしているんじゃないかと思います。一番大きいのはやはり時間の問題じゃないかと思います。 <0205>=福島瑞穂君= それですと末端の人間はできると思うんですが、大物に上っていくということはできないと思うんですが、いかがでしょうか。何が検証許可令状と違うのか。 <0206>=参考人(田中清隆君)= ですから、一番大きいのはやっぱり時間的な制約だろうという気がいたします。  今申し上げたように、例えば二日間に限って午後五時から十一時までといいますと、通算しても十二時間しかない。一方、十日間ということになりますと二百四十時間ですか。そうすると、そこへ入ってくる時間帯も違いますから、かなりいろんな情報が入ってくるということになると思います。 <0207>=福島瑞穂君= どうもありがとうございました。  ただ、この法律ができれば暴力団の大物を捕まえることができるというふうに言われているんですけれども、どうすれば大物が捕まるのかというのが実は今まで議論していて、この審議を通じてわからないと思ったからです。  先ほど安冨参考人が組織解明のために必要であるということをおっしゃいました。組織解明のためにどんどん盗聴していくと、結局は盗聴の補充性ということと合わないのではないかというふうに思いますけれども、いかがですか。 <0208>=参考人(安冨潔君)= お答えいたします。  これは具体的な犯罪行為との関係での裁判官の事前令状で、場所あるいは具体的には電話番号とか限定した形で聞いていくことになると思いますので、そういう意味での広がりというのは限定されるのではないか。組織解明のためというのは、先ほども検証許可状のお話にもございましたけれども、これまでの東京高裁あるいは札幌高裁の裁判例などでは、末端の密売人と購入者との間におけるやりとり、あるいはどういう形での電話の利用がされたかということのいわば検証であったというようなことでございますから、いわば一種の手口の解明ということになろうかと思います。  ただ、田中参考人もおっしゃいましたけれども、長時間にわたって、しかもある程度特定の番号のところへ継続的に聞いてまいりますと、そこからいろんなところへかかったり、かけられたりするだろう。そうすると、そういうことで、どういう人が関与しているかという、いわば犯罪事実との関係での関与者というのが明らかになっていくというふうに私は思いましたものですから先ほどのようなお話をさせていただいた次第でございます。 <0209>=福島瑞穂君= それは情報収集として捜査の端緒として使えるという意味ではないですよね。 <0210>=参考人(安冨潔君)= 決してそういうことではございません。情報収集という意味ではございません。 <0211>=福島瑞穂君= 先ほどの犯罪概念、刑事法概念を大きく変えてしまうのではないかという一つに、先ほどから議論になっていることの中に、別件盗聴を認めるかどうかということで、これは刑事訴訟法の一番初めに勉強するのが人単位なのか事件単位なのかということがあると思います。  これは通説では事件単位で、ですから、例えば恐喝罪で捜索に入った、たまたま贈収賄の文書が見つかったといってもそこには手をつけられない。要するに別件捜索、令状に書いていない被疑事実のものは押収できないわけですが、この法案になった場合には別件盗聴を認めるということで、今まで刑事法の中で事件単位を貫いてきたということの物すごく大きな変更になるのではないかと思いますが、川崎参考人、いかがでしょうか。 <0212>=参考人(川崎英明君)= おっしゃられるとおりでありまして、今回の法案の中で二つこれまでの刑事訴訟法理論を飛び越えたものがあると思います。  一つが今おっしゃった別件盗聴でありまして、緊急逮捕についても合憲、違憲をめぐる議論が強いわけですけれども、それを飛び越える部分があります。しかも、今回の別件盗聴の場合には事後の令状請求というものが予定されておりませんので、これは極めて大きな従来の理論を超える問題。もう一つが先ほど申し上げた事前盗聴。二つが従来の刑事訴訟法理論の頭でいくと極めて理解困難な部分だということです。 <0213>=福島瑞穂君= 先ほど川崎参考人は、コンピューターについてはすべて捕捉することになるだろうとおっしゃいましたけれども、それについてちょっと説明していただけますか。 <0214>=参考人(川崎英明君)= これは法案自体がそうだろうと思うんですけれども、傍受したものは記録するという関係にあるわけです。したがいまして、逆に言うと、記録されたものは法律用語で言えば傍受、盗聴ということになるわけです。  コンピューター通信の場合に、もしスポットモニタリングするとすれば、こんなことは議論されていないんだろうと思いますけれども、一たん画面に映して、そこをビデオで撮って、ビデオでスポットモニタリングというか、残すというようなことだろうと思うんですけれども、そんなことは法案の中を見ていったときに全く考えられていないというふうに私は理解したわけです。  したがいまして、すべてを記録する、逆に言えばすべてを盗聴するということにならざるを得ないということです。 <0215>=福島瑞穂君= 先ほど川崎参考人は、地びき網的なものになっていくだろうと。これはアメリカ合衆国自由人権協会副理事長も、電気掃除機のようにすべてを吸い取ってしまうのではないかというふうに言っていらっしゃるんですが、松尾刑事局長に、公衆電話も対象になるかと。アメリカのワイヤータップ・レポートですと公衆電話も対象になっておりますから、要件を満たせば公衆電話も対象になるというのが法務省の回答でした。  そうしますと、犯罪関連通話も入っているかもしれないけれども、先ほど橋本委員も質問されましたが、無関係な不特定の人たちが特にたくさん入ってくるということがあるわけです。こういうことについてはいかがでしょうか。 <0216>=参考人(川崎英明君)= 盗聴法の危険性というのは、無関係な人の通信が入るということと、無関係な内容の通信が入るということの二つがあると思うのですけれども、この法案では公衆電話が排除されておりませんので、無関係な人の通信というのが公衆電話の場合には膨大に入ってくるだろうというふうに思います。  小さく産んで大きく育てるというような言葉があるそうですけれども、私は、これは非常に大きく産んでいるのではないかというふうに考えております。 <0217>=福島瑞穂君= 条文では、一通を裁判所に出す、それからそれをコピーして一通は警察が持って、その中から刑事傍受記録を聞いて、消去するというふうに御存じのとおりなっております。ただ、消去については、果たして本当に消去したかどうかということの担保ができないんですけれども、田中参考人は、これはどういうふうにしたら担保が可能だとお考えでしょうか。 <0218>=参考人(田中清隆君)= 先ほどからその点についてはかなり議論がございましたが、どうしても外部の人間による消去のチェックというのは、一方ではプライバシーとの関係で非常に難しいものがあろうかなと思います。  したがって、私個人の考えで思いますのは、先ほどもちょっと申し上げたように、内部的な監査機関の設置によるチェックという、そしてそれとあわせた懲戒等の処分でもってこれをチェックするような方法を考えるのも一つの方法かというふうに思っております。 <0219>=福島瑞穂君= 私も内部監査でうまくいくといいとはもちろん思っているのですが、きょう、田中参考人がレジュメをつくっていただいて、まとめの最後のところで、「警察等の処理の透明性を増すために、情報公開法においても捜査機関を聖域とすることなく、民主的コントロールを強めることが必要である。」というふうに書いていらっしゃいます。この点については私も本当にそのとおりだと思うのです。  例えば、私も質問したり、ほかの委員が質問したり、きのう衆議院で枝野幸男さんが質問をされて、答弁が十分でなかったためにストップした警察の裏金問題という問題もあります。先ほど橋本委員は緒方盗聴事件のことをおっしゃいましたけれども、質問してもよく回答が返ってこないとか、ですから、ある熱心なあるいはふらちな警察官がうっかり何かをやったということもあるかもしれませんし、もしかしたら組織的に問題な違法行為がなされるという、両方あると思うんですね。その場合のチェックができるかどうかということについていかがでしょうか。 <0220>=参考人(田中清隆君)= 警察の問題につきましては、私どもいろんな情報の公開を求めてもなかなか回答が返ってこないというような実態はありまして、非常にその点は私ども日常の弁護活動の中でも苦々しく思う部分もあるわけでありますが、今回の組織的な活動のチェックにつきましては、一応その請求権者を警察でいえば国家公安委員会あるいは地方公安委員会の指定する警視以上の者に限るというようなあたりで、単独犯行であるというようなことは組織的にチェックできておるのかなという感じがいたします。  あとは、私ども情報公開法を子細には検討していませんが、幸いにして、情報公開法では捜査の関連の情報も全面的ならち外ではなくて一定の範囲で公開の対象にもなり得るのかなと。例えば公益情報、つまり生命、身体、財産の保護のために必要な部分については、警察関連の情報であっても、あるいは個人を特定できるような問題であっても義務的公開になるというようなことがありますので、今後の一つの課題としては、こういった情報公開法等の手段を用いて、あるいは国会への報告ということもございますので、こういった点を通じて透明性が図られていくことを期待したいというふうに考えております。 <0221>=福島瑞穂君= どうもありがとうございます。  情報公開はそのとおりだと思います。ただ、ちょっと食い下がって済みませんが、緒方靖夫さんの事件は、高裁の判決では本部長も知っていたのではないかというくだりがあります。ですから、もしかなりトップの方が、トップというか本部長クラスが仮に違法行為をむしろ推進する側だったとするとチェックのしようもないという気もしますが、いかがでしょうか。 <0222>=参考人(田中清隆君)= 私は余り警察の側に立って弁護する必要を感じませんけれども、今回の場合は一応公安委員会ということになっております。組織的には公安委員会の指定する警視以上の司法警察員、こういうことになっていますから、一応組織的には警察と分離されているというふうに理解しています。 <0223>=福島瑞穂君= 先ほどの消去の話にちょっと戻るのですが、警察は消去をするときにすべての会話を一応聞くわけです。記録されているものを消去するために聞く、刑事傍受記録をつくるために少なくとも一回聞くわけです。私は、人間は書きとめなくてもあるいは残さなくても聞いたことは忘れない、聞いちゃったことは聞いちゃったこと、情報としてやっぱり吸収してしまうというふうに思うんですけれども、その点について川崎参考人、いかがでしょうか。 <0224>=参考人(川崎英明君)= 形を変えて記録媒体に残されない形で情報が収集されるということだろうと思うんですけれども、私はそのとおり、たとえ記録に残されない形であっても別の媒体、頭の中の記憶とか、これはわからないことですけれども、あるいはメモの形で残るかもしれません。そういった無関係な人の無関係プライバシーというものが蓄積されていく可能性というのは否定できない、危険は大きいというふうに思っています。 <0225>=福島瑞穂君= 令状主義の点も川崎参考人はおっしゃったのですが、あるいは午前中もいろんな方がおっしゃったのですが、私も実は令状主義の点が個人的には一番ひっかかるところです。それと、行政警察と司法警察の混同が起きるのではないかという点も非常に不安なんです。この点について川崎参考人、最後に、行政警察、司法警察の混同が起きるのではないか、あるいはそうでないのかという点についてお話をお願いします。 <0226>=参考人(川崎英明君)= 現行法のシステムというのは明確に司法警察と行政警察を分けている。行政警察については、警察官職務執行法の改正問題が以前にありましたけれども、限定をしているわけです。そこの枠が崩れていくということになれば行政警察上の権限が拡大されていく。そのことは、先ほどの記憶に残るということでもありますけれども、情報収集的な権限というのが強化されていくことになるであろう、それは大変に大きな問題である。  理論的に言えば、犯罪が発生しない限り被疑者も犯罪事実も観念できないわけです。したがいまして、弁護人依頼権とか黙秘権というものも観念できない。ですから、事前盗聴まで犯罪捜査に入れていくということになると刑事訴訟法の全体の枠組みが全く変わっていく可能性がある。そういう意味でも極めて大きな問題だというふうに考えております。 <0227>=福島瑞穂君= どうもありがとうございました。 <0228>=平野貞夫君= 自由党の平野でございます。  川崎参考人にお尋ねいたしますが、大変論理的で厳しい意見をちょうだいいたしたんですが、衆議院で修正されまして本委員会で審議中の通信傍受法案、この内容は違憲であるという御意見なのか、仮に成立して運用の仕方によっては違憲になるという御意見なのか、ちょっと私、聞き逃したので。 <0229>=参考人(川崎英明君)= 内容が違憲であるというふうに考えております。 <0230>=平野貞夫君= それから、先生のお話をお聞きしていて私が受けた印象としまして、そもそも通信傍受というシステムをつくることが現憲法に違反するんだ、こういう印象を受けたんですが、そういう理解でいいですか。 <0231>=参考人(川崎英明君)= それで結構です。私自身は憲法三十五条のもとでは合憲の法律が頭に描けないわけですので、もし描くことができる人がいるならば描いてほしいということで、この一つの描き方が今回の盗聴法案だろうと思いますけれども、それも憲法をクリアしていない。  私は、一点申し上げておきたいのですが、アメリカでもドイツでもありますけれども、ただ日本国憲法三十五条の令状主義、これはアメリカ合衆国の修正条項とも違っております。ドイツとも違っております。したがいまして、日本国憲法の令状主義のもとでどうなのかという問題を立てて私はそのような結論を出しているわけです。 <0232>=平野貞夫君= 先生の御意見はわかりました。  その憲法三十五条で言う令状主義、特に通信、電話とかあるいはインターネットとかあるいはコンピューターとかという新しい技術の場合、先生がおっしゃるように確かに特定しにくいといいますか、いわゆる限定しにくさはあると思いますが、私だけじゃないんですが、基本的にはやっぱり令状主義に基づいて発せられる行為であって、通信という特殊性は持っておるんですが、実質的な令状主義あるいは令状主義の範囲に入るという解釈は先生はなさらないわけですね。 <0233>=参考人(川崎英明君)= その点はさんざん学会でも議論をしてまいりましたけれども、私の参考人の意見の中で申し上げたとおりで、特定はできない。捜索、差し押さえとの違いというのは程度問題じゃないかという御議論もお話の中に入っているんだろうと思いますけれども、それは程度問題ではなくて質的な違いがある。捜索、差し押さえの場合は、例えばこの一室の中に現存するものが前提になってこの一室という空間的な限定があるわけです。しかし、通信回線の場合はその中には何も入っていなくてこれからどんどん入ってくるわけです。そこには空間的な限定すらないということですので、捜索、差し押さえとの類似性というものもこれは正当化できないだろうというふうに考えております。 <0234>=平野貞夫君= 先生のそういう説明はわかるんです。わかるんですけれども、憲法をつくったときにインターネットがあるということは想定できません。携帯電話もちょっと予想していなかったかもしれない。やっぱり技術の革新、技術の進歩というのは大変法制度を超えるものでございまして、そういう矛盾の中にある問題であると私は思うんですが、そういったときには、やはり正当な理由という要件あるいは制度をつくることによる利益、さらに憲法の奥深く期待する本当の人権を守るため、あるいは社会の安定を守るためというような論理は使えませんか。 <0235>=参考人(川崎英明君)= 憲法ができたときは一九四六年ですけれども、盗聴に即して言えば、現に存在していたわけですので、それも踏まえまして、憲法三十五条というのは刑事手続におけるプライバシーの権利を守るということで、日本国憲法が現在の盗聴法に対してもカバーしているというふうに言うことができると考えております。 <0236>=平野貞夫君= 私は法律の専門家じゃありませんので余り詳しいことは十分には議論できないんですが、先生と私の意見の違いは憲法三十五条の令状主義をどういうふうにとらえるかという、そこの意見の違いだというふうに考えます。  そこで、大学の先生方もそうだと思いますが、我々政治家というのは、現実の政治といいますか、現実の社会状況というものをしょっておるわけなんです。したがって、憲法を解釈、運用するについても、あるいは非常に状況が違う中で法律を立案、審議するにしても、この場合は現実の犯罪の状況がどういうふうに変わってきたか、変化しているか、あるいは悪質化しているか、ここの問題を抜きに全く抽象的な議論は僕らはすべきでないと思っているんです。午前中にも申し上げたんですけれども、それぞれの先生方もこの問題については具体的な問題を抱えておると思います。  私は生まれが四国の西南地区の一番日本で不便なところでございまして、携帯電話が使えるようになったのは平成八年ごろからなんです。そうしましたら、平成九年の十一月には蛇頭のグループによる集団密航が土佐清水市の以布利港という中に入ってきたんです。それから、去年の秋は末端価格二百億の覚せい剤を黒潮を使って流すという、その一部が海岸に漂着しまして大騒ぎした事件があった。いろいろその関係者、専門家の話を聞いてみますと、そういう国際的で凶悪な組織的な犯罪の拠点になるにはいい場所なんです。宇和島からずっと土佐湾にかけて現在もいろいろな不審船がおり、去年の覚せい剤漂流事件は現在捜査中なんですけれども、依然として真実が解明できない状況のようなんです。それで、住民もはっきり言って極めて心配しております。  それから、私は、それでも現在の日本の海上保安庁だとか警察、そういったところの対応で安心して、一年に一回ぐらいの、一年に一回が多いか少ないかわかりませんが、まあそう大騒ぎすることではないだろうと思ったら、これは固有名詞を申し上げるとちょっと問題になりますので言いませんが、ある専門家からどうも某国の潜水艦が覚せい剤をあの辺に運んでやっておるようだという情報を最近受けて、そんなばかなことはないでしょうと言ったら、いやそれは本当だと。特に日本海周辺には日本の警備の中心が行っておるものですから、太平洋のあの辺がすっぽり穴場なんだという話を聞いて愕然としているわけなんです。  そういう状況だけでなくて、現実に覚せい剤一つとりましても、中学生、高校生、主婦、そういうところへ随分浸透して、現時点では、専門家の分析ですと、一年間で約一千五百万人ぐらいの人間が一週間に一回覚せい剤を使えるような、それほど流通していると。このままいきますと、日本人、日本民族はどうなるかという問題が起こるわけなんです。  そういう状況で、僕らの感覚で言いますと、組織のどの上層部分まで捜査あるいは捕まえることができるかどうかということはわかりませんが、今までと比べて、通信傍受によってかなり組織の内部について真相の解明あるいは捜査の徹底ができるというふうに聞いておるんです。  そういう状況を踏まえた場合、憲法三十五条の令状主義といいますか、そこのところの運用というのはもう少し弾力的といいますか現実的であっていいと思うんですが、いかがでございましょうか。 <0237>=参考人(川崎英明君)= 先ほど申し上げたことですが、現行法上の手段で対処できるというふうに考えております。  それから、その点との関連ですけれども、下級審の判例で検証令状によって盗聴を認めた例がありますけれども、あの例などを見ておりますと、この電話は専ら覚せい剤にしか使われていないというところまで捜査が行われているわけです。そうだとしますと、もうその段階で検挙可能ということなんだと思うんです。  そうしますと、そういう例一つをとっても現行法上の手段で対処できますし、もう既に銃刀法改正や麻薬特例法の改正があって、例えばコントロールドデリバリーといったような新たな捜査手段も認められているわけです。それ以上の手段というのを認めるのは極めて問題があるということであります。  もう一点だけ指摘させていただきますと、盗聴立法の審議の過程で本当に立法事実が証明されたのであろうかという点についても疑問を持っております。  盗聴を認めるのであれば、盗聴がこれまでなかったがために検挙できなかった事例というものが出されなければならないだろう、けれどもそれは出ていないのではないか。今、先生おっしゃったとおり、有用であろうということが言われるわけですけれども、盗聴がなかったがために検挙できなかった事例というものがあるんだろうかという点で非常に大きな疑問を持っているわけです。 <0238>=平野貞夫君= そこも一つの認識の違いだと思うんです。  例えば、そういうシステムをつくることによって、先ほどちょっとお話が出ていましたが、傍受法をつくればファクスや電話ではもう犯罪は行わないだろうと。それは行わなくなればそれでいいことでございます。それから、外国との比較というのが一つあるわけなんですが、やはり我が国の場合には主として東南アジアあるいは東アジアとの関係でこの種の問題は発生していることですし、現実の中では、私は特に電話の傍受というのはかなりいろんな意味で効果があるという意見です。しかし、それはここで結論の出る話じゃございませんので、その点でとどめておきます。  もう一つの問題は、確かにおっしゃるように、捜査の手続とか捜査の方法だけでこういった凶悪犯罪が解決するとは思いません。それはさまざまな社会的な背景とかいろんなものを直していかなきゃいかぬと思います。しかし、我が国で起こっている現実の組織犯罪の質は日本人だけじゃなくて国際的に相当悪質化し、しかも日本での制度の不備が世界のそういった犯罪組織を非常に助長させているといいますか、日本が抜け穴になっているという現実も一つあると思いますので、私は何とか御理解を得てこの法律は成立させなければいけない、こういう意見でございます。  それから、先生方からしばしば議論されております乱用歯どめの問題がございます。これは極端なことを言えば、どんなシステムをつくったって、この乱用というのは疑えばこれはあり得ると思います。それから、どんな歯どめをすればいいかという問題も、私はこれは相対的な問題だと思います。問題は、やはりそれの衝に当たる責任ある人たち、あるいは警察なり検察をどう信頼するかということだと思います。  それからもう一つは、我々国会の責任でもあると思うんです。それは検察及び警察に乱用させないように、十分歯どめがかかるように、憲法上の国民の人権を守るように、その監視は我々の役割だと思います。  そこで、最後に田中先生にお伺いしますが、乱用歯どめの問題について、先生は資料のまとめのところで非常に私たちの参考になる、ためになることをお書きになっておりますが、改めて、一体国会側は何をなすべきかということについて御意見をいただければありがたいです。 <0239>=参考人(田中清隆君)= 乱用歯どめについて国会が何をなすべきかということについてお答えするのは非常に私の能力を超えますけれども、まず私の立場からしますと、この組織犯罪対策法につきましては、先ほど申し上げたように、緊急の課題として早急に法案化していただきたいということはもちろん申し上げました。  歯どめの関係で申しますと、国会に対する報告というものがございますが、これは案外重要なものではないか。実際にどういう形でやって、どれだけ有罪率があった、どんな犯罪で傍受したのかというようなことをきちんと報告させるということは、これは案外トータルとしての歯どめになるのではないか。個別的な歯どめにはなりませんけれども。  あと、私個人の考えで、まだまとまっておりませんけれども、先ほどから申し上げております情報公開法の中で捜査機関の持つ情報をどういうふうに出させるのか、ここのあたりについて、最終的には裁判所の問題であるかもしれませんけれども、国政調査権の行使として、そこら辺も適切な情報公開がなされるように努力をしていただきたいというふうにお願いをしたいと思います。  それから、あと、私といたしましては、証人の保護あるいは犯罪収益の剥奪まではとりあえずいいんですが、その後これを何とかファンド化しまして、そして犯罪被害者の被害が迅速に回復されるような形をぜひお願いしたいというふうに考えております。 <0240>=平野貞夫君= あと二分ありますのでもう一問安冨先生にお願いしたいんですが、報道者に対する通信傍受を除外せよという意見がございますが、この点についてどのような御意見でしょうか。 <0241>=参考人(安冨潔君)= お答えを申し上げます。  報道機関といいますかマスコミといいますか、非常に多種多様であろうかと思います。どのような形でどこまでの範囲とするかというのも一つの問題であろうと思います。  それから、特定の電話との関係でいえば、その電話について、マスコミあるいは報道機関が傍受の対象となるような番号の電話であるということは通常考えがたいと思います。つまり、それは犯罪との関係において電話が特定されるという意味です。  それから、ある犯罪との関係において特定された電話に外からマスコミの方が電話をされたという場合、これを排除することができるかどうか、このあたりが一番難しい問題ではないかと思います。  先ほどの若干繰り返しになりますが、該当性判断の中で関係がないということであれば、これは当然切られる、切らなければいけない。たまたま当該電話のかけている者が犯罪に関係する通話をしたときに、これは場合によって聞かれる、しかし、それは犯罪の会話であるということでの証拠収集手段でありますから、これはやむを得ないだろう。  基本的に考えたときに、例えば刑事訴訟法の弁護士であるとかあるいは医師であるとか、そういう規定がございますけれども、それと同じ形で今回の法案の中にも入っておりますけれども、報道機関の取材との関係においては、それは取材するということは報道するという前提で取材をするものではないかと思われます。そうだとしますと、電話の会話だけを信じてにわかに報道するということでは報道機関としての責務は果たせないだろう、裏づけの取材を十分した上で報道しなければならないだろうというふうに考えます。  そのときに、だからといって、今のような形で通信傍受がされたときに、果たしてそれが取材源の秘匿を侵害するものとまで言えるのだろうかということについては、私は、どこに取材源があるかということの情報収集のために通信傍受をするわけではなくて、具体的に犯罪行為との関係における証拠収集という意味での傍受でありますから、その意味では、そのような今特定の電話にかかってくる電話の通信の内容が犯罪に関係するときに聞かれても、これによってにわかに取材源の秘匿を侵害するものであるという議論は行き過ぎではないかというふうに考えるわけでありまして、本法案におきますような範囲での立法で私は十分であるというふうに考えます。 <0242>=中村敦夫君= 中村敦夫です。  私は、この通信傍受、いわゆる盗聴というものは捜査の利便性に役に立つということでは認めますけれども、これが言われているような大型のプロの凶悪な犯罪組織の幹部を逮捕するとか組織を壊滅させるというような決め手になるというような論調には、私自身の今まで何度もやっている犯罪関係の取材の中ではほとんど否定的です。そんなことが起こっているというケースは当たっていませんし、現場からも盗聴法がそのために役に立つというようなことは聞いておりません。むしろ役に立たない、チンピラぐらい捕まるのが関の山だということですね。  そうしまして、こういうものが社会全体あらゆる分野に網がかけられていく法案となって出てくると、新しい通信関係の産業とかそうしたものの活力というものに悪影響を及ぼす。しかも、これからどういう形で発展するかわからないそうしたものに産業的なまず基本法律がしっかりできていないときに、横から盗聴法案というような形で網をかけていくのは健全ではないし、また基本的に広い分野で社会生活が制約されるという危険性がある。ですから、捜査の利便性と社会的な危険性というものをてんびんにかけると、どうしてもやはり反対せざるを得ないという立場になります。  それはともかく、今参議院の法務委員会では通信傍受法の審議の入り口にかかったところなんですが、かなり質疑に混乱が起きるんです。これはなぜかといいますと、どうも法案全体が要するに電話盗聴を基本にしたイメージで文言が形成されているというところにあるのではないかと思うんです。  この第二条というところの通信の規定からすれば、また政府の答弁としても、電話だけではなくてコンピューター通信も含めた幅広いものを対象にするということになっているんです。例えば電話とコンピューター通信、機能も機械も全然違うものに対して、同じ文言でくくってしまうために具体的にはっきりした答弁が出てこない。このままで行きますと、原理原則がはっきりしないまま、法の運用に当たっては大変裁量権というものばかりが強く働くような形になってしまって余りよくないというふうに思うんです。  その典型的な例を、これはもう今までの審議でも出たポイントなんですけれども、三先生にどういうふうに考えるのか、法案というものはこれでいいのかということの判断をちょっとお聞きしたいと思うんです。私は専門家ではありませんから、純法律的にこれは成立するのか。  つまり、まず一つ目の質問ですけれども、傍受するときの該当性の判断です。電話ではスポットモニタリングということです。聞いていて関係なかったら切るというようなことの説明がありますけれども、例えばインターネットのメールなんというものは同時的に傍受するというようなことはできないわけです。文章だったら中途半端に流れているわけじゃないわけです。全部終わってからボタンを押してどんと来るわけですから、そしてそれを見るということは全部読まないとわからないということになってしまうわけです。  そうしますと、電話とインターネットのメールなんかとでは大きな不公平というんですか、これは変な言葉ですけれども、差が出てくるわけですよ。片やすぐ切れる、部分的にしか聞かない。こっちは全部読む。ところが、犯罪か犯罪でないかは別として、通信者が違う機械を使うことによって全然権利が違ってくるという不整合が起きてきている。これは法案としてやはり欠陥法案なのではないか、一つの文言でもって違う状況を生み出してしまうということがあるのではないかと思うんですが、この件に関して三人の先生方にコメントをいただきたいんです。 <0243>=参考人(川崎英明君)= お答えします。  従来から盗聴法については、電話盗聴を念頭に学会でも議論されてまいりました。したがいまして、コンピューター通信については、それに固有の問題があるにもかかわらず理論上も、つまり学会の上でも議論が欠けていたということはあると思います。したがって、今回の法案が出たときに、コンピューター通信も入っているということについては私自身驚いた点であります。  したがいまして、その十分な議論の積み重ねがないという点で、先ほどの最小限化の問題でも電話の場合とコンピューター通信の場合との相違が出てくるということになっているんだろうと思います。その意味では法律内在的に、立法内在的にいえば非常に欠陥が多いというふうに考えております。  コンピューター通信については、これはコンピューター通信の技術的な特性の問題あるいは波及範囲の問題等も含めて、基本的な保護法等をつくる中で考えていかなければいけない問題、盗聴法の中で一括して規定しているというのは大変に無理がある、法律内在的に考えれば私はそのように思っています。 <0244>=参考人(田中清隆君)= 私どもも電話を中心にずっと考えてきまして、ちょっと戸惑った面は正直言ってございます。ただ、安冨参考人も再三御指摘されておりますように、電話とメールでの不公平ゆえにメールを外すということになりますと、それはまたそれで別の不公平を生ずる。メールを使った者はいろんな傍受の対象から外れて犯罪に走る、こういうこともありますので、基本的にはこのところは本来技術的に解決されれば一番いい問題かと思います。  私の現在の理解といたしましては、これはいずれも最小化原則との関係で申しますと、最小化原則そのものもある程度犯罪とか通信手段等々、相対的な問題もその辺も配慮して、時間とか切断方法についてはきちんとした具体的な定めはないんだと思いますので、これはある意味で相対的な問題の範囲内で現状ではやむを得ないことなのかというふうな考えを持っております。 <0245>=参考人(安冨潔君)= お答えいたします。  通信という定義の問題がまず前提的にあるかと思いますけれども、この傍受との関係における通信というのはいわば情報の伝達というところに法的な意味があるんだろうと思います。  したがいまして、その手段として電気通信、電気技術を用いるということが今回問題になりますけれども、電話あるいはコンピューター通信を含めて、ファクシミリもあるかと思いますが、いわば電気的な手段での情報の伝達というところに意味がある、そういう意味での通信というとらえ方を恐らくすべきであって、手段的なものでその技術的特性による区別というものを細かくしていくということは、本来の捜査に役立てるための犯罪関連情報の獲得という法の趣旨からすると、外れてくるのではないか。その意味では、この法案は法律的な意味でも十分成り立ち得るというふうに私は思います。 <0246>=中村敦夫君= 田中参考人にお聞きします。  やはりこの法案に矛盾があるということはお認めになったわけですけれども、それよりも目をつぶってとにかく問題解決のためには仕方がないんだというふうに受け取れるんですが、まだこの法案というのは成立していないわけなんですよ。今審議している最中なんですから、明らかに矛盾があり、そしてもし法律としてきちっとしたものをつくりたかったらこれから幾らでもできるわけです。そういうふうにやるのが法案の審議であるわけですから、何も欠陥に目をつぶってそのまま通してしまうという必要は全くないと思いますが、いかがですか。 <0247>=参考人(田中清隆君)= 私も、先ほども申し上げましたように、技術的にそういった問題が解決する、最小化の法則が生かされるような方向での解決策があれば、ぜひそうしたい。残念ながら、私にそこの点の能力が欠けておりますので、それでやむを得ずそういうふうに申し上げた次第でございます。 <0248>=中村敦夫君= 同じような問題なんですけれども、二条二項にある「この法律において「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、」という言葉があるんです。ですから、これも非常に問題なんですよ。電話であれば二人の人間が通信しているということがあるわけですけれども、この問題についても政府に質問した場合はやはりコンピューター通信で問題が出てきてしまうわけなんです。要するに、人間とコンピューターとの通信、あるいはコンピューターとコンピューターの通信も他人間の通信として認めるんだという答えなんです。  しかし、私は普通の日本語で物を考えている人間で、よくこれが理解できないんですけれども、ほかの刑法で言うと、人間というものに対する規定というのは非常に厳しいものがあるんじゃないか。コンピューターと人間の通信を「他人間」という表現でもって法律をつくっていいものかどうかということを疑問に思っているわけなんです。  もし、そういうものが成立するとなれば、コンピューターをぶち壊しても殺人罪になってしまうという極端な解釈までいってしまうということなんですが、この言葉というのはこうした状況の中で適当であるかどうか。私はこの文言はおかしいなというふうに考えるんですけれども、いかがでしょうか。お三人の方にお答えいただきたい。 <0249>=参考人(川崎英明君)= 今、指摘していただいた「他人間」と言われればそうかなというふうにも思うんですけれども、私自身はこれは多分電話を念頭に置いたからこういう言葉になったんだろう、パソコン通信も含めて言えばもう少し変わった言葉が出たかなという気もいたします。ちょっとこれはどう考えていいのか、返答に窮します。  ただ、刑法の場面では、偽造通貨を使って物をとれば、あるいは他人のキャッシュカードを使って物を自動販売機からとれば、これは詐欺ではなく窃盗ということで、機械をだますことはあり得ないというのが刑法の建前ということはおっしゃるとおりなんですけれども、ちょっとそういう観点から、おっしゃられたような観点から考えたことがなかったものですから、私はお答えができないということであります。 <0250>=参考人(田中清隆君)= 私もちょっと考えたことがない問題でして、適切なお答えができませんが、コンピューター通信を念頭に置いたもっと適切な表現があればという気はいたします。  ただ、この場合の「他人間」という言葉にそういったまさに権利能力を持った人間というような深い意味を持たせておるのかどうかは若干私もそこまで考えなきゃいけないのかなと。要するに、AとBとの間の通信が、AじゃなくてAとBの通信であるというようなことを言いたいのかなと。先ほど川崎参考人から窃盗の例が出ましたけれども、そこまでの深い意味を持たせなければならないのかなという感じはいたしますが、適切な表現があれば修正していただくことは結構かと思います。  以上です。 <0251>=参考人(安冨潔君)= お答えします。  ここで使っている「他人間の通信」という場合、機械と機械、コンピューターの端末と端末が自動的に情報を伝達するということはあり得ないわけで、そこに人間がプログラムに一定の指令を与えて、そのプログラムが作動することによって情報が伝達し得るわけですから、人がコンピューターの端末というものを手段として使っているという意味では「他人間の通信」であるというふうに十分考え得るのではないでしょうか。 <0252>=中村敦夫君= 安冨参考人にその件に関してさらに質問したいと思います。  しかし、コンピューターに介在している人間は通信者ではないんですよね。そこをただ操作している人間でありますから対象にならないんです。問題はそこにたまった情報そのもの同士が通信しているわけです。ですから、やはり他人という言葉は適切ではないと私は思うんですけれども。 <0253>=参考人(安冨潔君)= お答えします。  AとBとの間において電子メールを使ってという場合をもし想定してよろしければ、その場合であれば、例えばAがあるプロバイダーのサーバーに自分の電子メールを送信します。その送信されたサーバーの電子メールをBという人が、今度は受信者が見に行くといいましょうか、そういう形での情報の伝達というのが行われるわけです。その意味におきましては、Aサーバー、サーバーBとの間の電気的な設備を使った情報の伝達というのは行われるわけですから、AとBとの間における他人間の通信というふうに考え得るのではないでしょうか。 <0254>=中村敦夫君= それはそのケースだけですね。Aというのが送っていてもBがそれを別に受け取ろうとしない場合には、これは機械にAが自動的に送っているというケースで、たくさんそういうケースがあると思うんです。ですから、なかなかこの言葉でやるとはまらないわけです。こういうことが網羅されているんです。  ですから、この質疑が非常にわけのわからないものになっているということについて、私はこの法案は、純法律的に非常に欠陥法案だ、成り立たないのではないか。そして、結局それは現場に任しておけというような歯どめのない運営の仕方がされる、そういう危険性があるということを、反対の別の角度でございますけれども一言申し上げて、実はもっといっぱいあったんですけれども、時間がないので終わらせていただきます。  ありがとうございました。 <0255>=委員長(荒木清寛君)= 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人の方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。当委員会を代表しまして厚く御礼申し上げます。  本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後五時三十五分散会