第145回国会 法務委員会 第17号 1999年06月29日       (1999年07月24日 08:00 登録) 平成十一年六月二十九日(火曜日)    午前十時八分開会     ─────────────    委員の異動  六月十一日     辞任         補欠選任      小川 敏夫君     藁科 滿治君  六月十六日     辞任         補欠選任      藁科 滿治君     小川 敏夫君  六月二十八日     辞任         補欠選任      海野  徹君     郡司  彰君  六月二十九日     辞任         補欠選任      有馬 朗人君     長谷川道郎君      郡司  彰君     海野  徹君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         荒木 清寛君     理 事                 鈴木 正孝君                 服部三男雄君                 円 より子君                 大森 礼子君                 平野 貞夫君     委 員                 阿部 正俊君                 井上  裕君                 世耕 弘成君                 竹山  裕君                 仲道 俊哉君                 長谷川道郎君                 海野  徹君                 小川 敏夫君                 郡司  彰君                 千葉 景子君                 角田 義一君                 橋本  敦君                 福島 瑞穂君                 中村 敦夫君    衆議院議員        修正案提出者   笹川  堯君        修正案提出者   山本 有二君        修正案提出者   上田  勇君        修正案提出者   漆原 良夫君        修正案提出者   達増 拓也君    国務大臣        法務大臣     陣内 孝雄君    政府委員        警察庁生活安全        局長       小林 奉文君        警察庁刑事局長  林  則清君        法務政務次官   北岡 秀二君        法務省刑事局長  松尾 邦弘君    事務局側        常任委員会専門        員        吉岡 恒男君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関  する法律案(第百四十二回国会内閣提出、第百  四十五回国会衆議院送付) ○犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案(第  百四十二回国会内閣提出、第百四十五回国会衆  議院送付) ○刑事訴訟法の一部を改正する法律案(第百四十  二回国会内閣提出、第百四十五回国会衆議院送  付)     ───────────── <0001>=委員長(荒木清寛君)= ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員の異動について御報告いたします。  昨二十八日、海野徹君が委員を辞任され、その補欠として郡司彰君が選任されました。     ───────────── <0002>=委員長(荒木清寛君)= 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を一括して議題といたします。  三案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。 <0003>=服部三男雄君= 自由民主党の服部でございます。  大変国民が関心を持っている法案でございますので、中身のある審議をしたいと思います。そのトップバッターを仰せつかりまして、大変光栄に思っております。  今回の法案の必要性のトップに挙げている薬物犯罪についてですが、戦後第三次の乱用期となろうとしている。非常にゆゆしき問題でございまして、この現状についてどのような状況にあるのか、法務当局にまず尋ねたいと思います。 <0004>=政府委員(松尾邦弘君)= 薬物犯罪の現状でございますが、特に薬物事犯の大半を占めます覚せい剤事犯の検挙の状況を見ますと、先生御指摘のとおり、現在は戦後の第三次乱用期に突入したものと認められるわけでございます。第一次は戦後間もなくのことでございまして、いわゆるヒロポンが乱用された時代ということでございます。第二次は昭和五十七年をピークとする一つの山がございましたが、これはその後減少傾向を示しておりました。しかし、平成に入りましてからこれが増加傾向に転じまして、平成七年以降急増しておりまして、現在が今申し上げた第三次乱用期にあるということでございます。  それで、それを端的に、象徴的にあらわしている数字が覚せい剤の押収量でございます。現在、平成十一年の六月段階で既に押収量は一トンを超えております。これは、平成八年に戦後最高の押収量を記録しまして約六百五十キロでございましたが、わずか半年余りでその戦後最高の記録をはるかに上回る一トンという押収量になっております。  一トンといいますと、覚せい剤を常用されたことのない皆様にはおわかりいただけないかと思いますが、三千二百万人が一回使用できる分量ということでございまして、その途方もない量が既に押収されているということは、イメージとしても大変な事態であるとおわかりいただけるかと思います。  また、覚せい剤の検挙人員もこのところ二万人を超えた状態で推移しておりまして、検挙人員数自体がかなり高原状態にあると同時に、次に指摘されます問題として、覚せい剤が家庭あるいは青少年層に広く浸透しているということも、それぞれの例えば主婦層、女性あるいは高校生、中学生の検挙あるいは補導件数がやはり急激にふえているということからもうかがわれるところでございます。  そういうことで覚せい剤事犯はこのように高原状態にありますが、一方でその中枢部分の検挙といいますか、組織的な中核の、暴力団の幹部等の検挙はほとんど増加をしていないという現状でございまして、先ほど申し上げました二万人強の検挙人員といいましても、その九七%近くが末端の自己使用者あるいは一部の末端の密売人という現状でございます。 <0005>=服部三男雄君= 今、刑事局長から非常にゆゆしき事態にあるという危機感に満ちた答弁があったわけでございますが、他方で、それだけの量の覚せい剤、これは日本では製造しておりませんから密輸入になるわけですが、大量のものを密輸入するとなると組織的な犯罪集団によらなければできないということは自明の理でございます。  当然、そういう暴力団等の組織集団がやるとなりますとそれらに対する突き上げ捜査が非常に重要になってくるわけでありますが、どうも覚せい剤事犯の量刑というものを聞いてみますと、ちょっと今簡単に触れましたが、必ずしも十分なものとは思えない状況にあると思いますので、その点の回答を求めます。 <0006>=政府委員(松尾邦弘君)= 覚せい剤事件の科刑状況でございますが、委員御指摘のとおり、覚せい剤の乱用の現状を踏まえまして全般的に重くなる傾向は認められますが、平成九年に有罪判決を受けた者は一万四千六百三十三人でございます。この中で、懲役三年以上の刑の言い渡しを受けた者は全体の五・七%でございます。懲役一年以上三年未満は九三・七%、懲役一年未満は〇・六%でございます。  ところで、平成九年に五年を超える懲役刑の言い渡しを受けた者は、そのほとんどが営利目的による所持あるいは譲渡、譲り受け、または輸入等の事犯、いわば重罪の事犯でございますが、全体に占める割合はわずか〇・四三%にとどまっている現状でございます。 <0007>=服部三男雄君= 今の科刑状況を聞きますと、覚せい剤事犯では末端使用者・所持事件の検挙がほとんどではないか、ましてや密輸等の首謀者が検挙される事件はどうも少ないのではないかな、このように思うわけでありますが、その点は間違いありませんか。また、その原因はどうですか。 <0008>=政府委員(松尾邦弘君)= 委員御指摘のとおり、覚せい剤事犯におきましては末端の覚せい剤の使用、所持の事件がほとんどでございまして、先ほど申し上げましたが、その有罪判決を受けた者の九割以上がそうした事犯でございます。  ただ、我が国で流通する覚せい剤でございますが、そのほとんどが外国から密輸入されることからしますと、密輸入や営利目的の譲渡等の事件が少ないことは、覚せい剤の流通の中枢に関与する者が十分に検挙されていないというのが実情でございます。  委員の先生方もマスコミの報道等で時折目にされていると思いますが、例えば覚せい剤が十キログラム単位あるいは多いときには百キログラム単位で海岸に流れ着くというようなケースがあるわけでございますが、いわばそうした多量の覚せい剤の密輸入事犯でも検挙例は少ない、あるいはほとんど犯人は検挙されていないというのが実情でございます。  その原因について考えますと、覚せい剤の密輸入及び密売事犯というのは、暴力団を中心とする国内外の犯罪組織によりまして組織的、密行的に敢行されております。  このような組織犯罪におきましては、検挙を免れるために、例えば末端使用者等に対する密売については電話等を多用しまして売買の当事者が対面することなく行われる、これは非対面売買と言っておりますが、そうした手法がとられる、あるいは犯行自体が極めて密行的かつ巧妙に行われるということによりましてそれ自体検挙がなかなか難しい、同時に、犯行後におきましても証拠隠滅や犯人隠避等の工作が行われることが少なくないということなど、捜査の端緒の把握を初めいわゆる突き上げ捜査にも困難があること等によるものと考えているところでございます。     ───────────── <0009>=委員長(荒木清寛君)= この際、委員の異動について御報告いたします。  本日、有馬朗人君が委員を辞任され、その補欠として長谷川道郎君が選任されました。     ───────────── <0010>=服部三男雄君= 次に、銃器関係について尋ねますが、バブル崩壊後、銀行等の企業幹部を銃器を用いてねらった事件がしばしば見られるわけであります。このような事件の背景について、あるいは影響についてどのように考えておられますか。 <0011>=政府委員(松尾邦弘君)= 我が国の銃器を用いた犯罪の情勢を見ますと、暴力団等による銃器の不正取引、暴力団による対立抗争事件にとどまらず、企業幹部を対象としたテロ行為もしばしば発生しております。また、金融機関等に対する現金強奪事件など一般市民が巻き添えとなる痛ましい事件、あるいは一般市民がねらわれる凶悪な事件も後を絶たない状況にございます。本日の新聞によりましても、けん銃を使用した恐らく強盗事件あるいは強殺事件と思われるものが発生したことは報道でも目にしているところでございます。  この数年間に発生しました事件の中で今申し上げたケースとして記憶に残るものとして、例えば平成五年八月の阪和銀行副頭取射殺事件あるいは平成六年二月の富士フィルム専務刺殺事件、同年九月の住友銀行名古屋支店長射殺事件、あるいは平成七年九月のカシオ専務宅に対するけん銃発砲事件等が記憶に新しいところでございます。  こうした企業幹部を対象としましたテロ事件につきましては、いまだ犯人の検挙に至らない事件もあるわけでございまして、その背景等も一様ではないと考えられるところでございますが、暴力によって企業活動に不当な圧力を加える勢力の存在がうかがわれるところでございます。  このように正当な経済活動を行う企業幹部の命までもがねらわれる、おどかされるということは、我が国の健全な社会経済の維持発展にとって極めて重大な脅威でございまして、厳正に対処すべきものと考えているところでございます。 <0012>=服部三男雄君= 今回、当法務委員会で審議されます通信傍受法案でございますが、オウム真理教の事件というのは私たちの記憶にもまだ生々しいものでありますし、後遺障害に悩んでおられる方がたくさんおられるという本当に重大な事件でありました。  このような組織的殺人事犯の捜査におきまして通信傍受というのは有効な捜査手法になり得ると私は確信しておりますが、実際に今、覚せい剤事犯あるいはその他の事犯について組織暴力団等組織犯罪集団が電話機器をよく使うようになってきているという答弁でございましたが、オウム真理教の事件におきましても、同じように犯行の準備、実行、逃走の際に電話を利用されたような状況があるように聞いておりますが、それについて報告を求めます。 <0013>=政府委員(松尾邦弘君)= オウム真理教信者による一連の事件におきましても、御指摘のとおり電話が多用されております。  それぞれの事件の冒頭陳述書からその例を幾つか申し上げますと、例えば坂本弁護士一家殺害事件、これは平成元年十一月四日に発生した事件でございますが、この事件におきましては、松本智津夫と実行行為者との間で犯行直後の結果報告、死体遺棄場所、方法についての相談、本部機関の指示等、電話連絡で行われております。  それから、公証役場事務長の仮谷さん逮捕監禁致死事件というのがございますが、平成七年二月二十八日に発生でございますが、この事件におきましても、実行行為者と共謀者との間で犯行準備のための指示、犯行直前の合流場所の連絡、拉致した旨の連絡、逃走のために乗りかえる車両の準備指示、警察が犯行直後にオウム真理教青山道場の捜索を始めようとしている旨の連絡など、携帯電話等で頻繁に行っております。  地下鉄サリン事件、これは平成七年三月二十日発生でございますが、この事件を見ますと、実行行為者、共謀者等の間の犯行後逃走中の連絡、逃走資金準備の指示、罪証隠滅のための整形手術実施の指示等、これもまた電話連絡が頻繁に行われている。こういったことが既に冒頭陳述等で明らかにされているところでございます。 <0014>=服部三男雄君= 今までの刑事訴訟法の手続に従った捜査をやっているときに、よく問題になり、あるいは公判で紛糾した事例の多くは、共犯者間の供述のどちらを信用するのかという問題で、重要事件が無罪になったり、あるいは長期紛糾した例が多々見られるわけであります。  自白は証拠の女王とかいう言葉がありますけれども、共犯者間の自白ほどある意味で怖いものはないわけであります。これは今答弁席に並んでいる、あるいは捜査に従事した方々は皆経験する問題であります。そして、今度通信傍受の対象となっている薬物・銃器関連犯罪のような組織的な犯罪の実態を解明するには、これらの捜査手法がどうも通じなくなってきている。今、刑事局長の答弁で非対面という言葉を使いました。顔を見ないで密売、取引をやりますから、顔を見ない人の名前を特定しようと自白しようがないわけです。こういう問題が一つある。  それから、特に暴力団の組織の間では、上の者のことをしゃべると大変な報復を受けるというおきて、鉄則のようなものがある。そのかわり、上の者をかばった場合には、かばった者、供述しなかった者は、この家族を暴力団が組織ぐるみでその後ずっと守ってやろうというような一種の決まりがある。後援組織と言っておるようですけれども。こういうような巧妙化、密行化することによってますますその隘路が強くなってきていると思うわけであります。  そこへもってきて、自白がなかなかとれない、自白をとってもどの自白を信用していいのかよくわからないというような欠陥を考えますと、通信傍受法案というものは、新たな捜査手法として必要となっているということは大体わかってきたわけでありますけれども、もう一度、この四つの犯罪対象を限定したものについての現在の捜査の困難性、突き上げ捜査の難しさということについて、まとめというんでしょうか、お願いしたいと思います。 <0015>=政府委員(松尾邦弘君)= 通信傍受の対象となる犯罪、これは四つの類型になります。薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航の罪、組織的な殺人の罪ということでございます。これらの組織的な犯罪では、今御指摘のように、その準備の段階から実行、あるいはその後の証拠隠滅等の犯行後の形態まですべてが密行的に行われるということ、それから犯行後にも証拠隠滅したり犯人を逃亡させるなど、証拠隠ぺい工作も組織的に徹底して行われるということも少なくないわけでございます。  したがって、これらの犯罪が実行された場合には、その犯行の把握自体が極めて困難である上に、その役割分担、特に首謀者がだれかということを含めまして犯人グループを特定し、その事案の真相を解明するということが極めて困難な状況でございます。このような犯罪に対しまして、現行の捜査手法のみでは、犯行に関与した末端の者を検挙することはできましても、その者から首謀者等の氏名や関与の状況について詳細な供述を得ることが容易ではございません。  他方、これらの犯罪において、犯行準備、実行、犯跡隠ぺいのために複数の犯人下において相互に指示、命令、連絡、報告等が行われまして、そのために適宜携帯電話等の電気通信が多用されているという現状でございます。これらを踏まえますと、これらの通信を傍受することは非常に有効な捜査手法であり、その効果も大きく、意義は大きいというふうに考えております。  そこで、通常の捜査法では真相の解明が困難であるこれらの犯罪に対処するための特別な捜査手法、いろいろあるわけでございますが、今回この通信傍受を導入するということが今申し上げました組織的犯罪の現状に対抗するためにはどうしても必要ということでございます。  なお、諸外国におきましても、犯罪捜査のための通信傍受制度に関する法整備が既になされておりまして、我が国においてもこれを整備することが国際的要請にもなっている点を御理解いただきたいと思っております。 <0016>=服部三男雄君= この通信傍受制度を導入しますと、捜査機関と犯罪集団というのはイタチごっこでありまして、向こうが捜査を免れるためにいろんな方法を考え出す。それに対して、また捜査機関はそれに対処するいろんな捜査テクニックを考える。このシーソーゲーム、イタチごっこのようなことは、過去の歴史を見れば一目瞭然わかるわけであります。  例えば、今度の通信傍受制度が導入されますと、暴力団の組織は、犯罪を行う場合、その検挙を免れるために電話を使用しないんじゃないか、さまざまな工夫をするんではないかということが予想される。そういうことで、一部のある人たちは通信傍受というのは実効性がないんじゃないか、だから旧来の刑事訴訟法の中で、日本の警察や検察庁は優秀なんだからもっと頑張ってくれというような意見を述べる人もないことはないのであります。この点について、法務当局はどのように考えますか。 <0017>=政府委員(松尾邦弘君)= 通信傍受の制度が整備されました場合に、犯罪を行う者はその通信を傍受されることを警戒しまして、何らかの対応策をとろうとするということは想定されるところでございますが、薬物あるいは銃器の密売等の事案、あるいは複数の者があらかじめ計画を定めて役割を分担して行う殺人事件等、犯行に関与する者の間で頻繁に連絡をとることが不可欠な組織的な犯罪におきましては、電気通信手段を用いないようにすることは極めて困難であると考えられるわけでございます。いろいろ対応策をとることを考えましても、既に現在では伝書バトや伝令の時代に逆戻りすることはできないということだろうと思います。  もともと捜査は個々の事案ごとにそれに適した効果的な捜査手法を選択して遂行すべきものでございます。通信傍受は、このように通信手段が用いられることの多い組織的な犯罪の捜査にとって極めて効果的な手段の一つであると考えておるところでございます。 <0018>=服部三男雄君= 今の点、大事な点ですから、もうちょっと。  例えば、集団密航、百人、二百人の密航で、日本の領海に運んでくるわけです。大きな船がありますね、そのための専用の船じゃありませんから、そこからまた日本の海岸へ別のもので運ばなければいかぬ。それらの日本語を理解しない者を百人も二百人もというと、バスやトラックで何台もの、人を用意しなければいかぬ。そうしますと、最初にねらっている密航地近くまで来たときに、そこにパトカーがいないかとか何か突発的な催し事をやっていないか、日本人がたくさんいないかと、現地の状況に応じて臨機応変に場所を変えなきゃいかぬというふうになりますと、その百人、二百人を迎えるのに数十人の日本人の準備スタッフが要ります。こういうことを考えると、臨機応変な処置を要求される事案であるだけに、その場を変えようとしますと、どうしても電話で連絡をとり合わないとできないという点はまず一つ考えられます。  それから、覚せい剤の押収量が既に半期で一トンを超えた、数百キログラムになります。今から二十年ぐらい前だと、一番大きいので一人で三キログラムをせいぜい持って帰る。それが税関とか入管で検挙される例がありましたが、百キロ、二百キロになりますと、五人や十人で運べません。そうしますと、それも全部密輸入ですから、どこかの海岸に持っていかなきゃいかぬ。となると、そこで警察官が不意に出てきはせぬかとか、いろんなことを考えると、これも予定している地点と違うところへ急遽変えなきゃいかぬというような事例も十分考えられる。  もう一つは、組織的殺人、例えば暴力団の抗争というのがあります。これは当該本人がどこにいるかというのをある程度事前に下調べしていかなきゃいかぬ。そして、ねらう場所も一発で効果的なことを考えると、これも人間のことですから移動する者を対象とするだけに、最初から思ったとおりの場所でねらえるかどうかというのも極めて可能性が薄くなることが多いというようなことで、覚せい剤、銃器、銃器だって一丁、二丁の輸入じゃありません。今は何万丁、学者によっては八万丁から十万丁だと言っている。こういうようなものを大量に何百丁と輸入するのはとても簡単にいかないというようなことを考えますと、この対象犯罪四種に関してはどうしてもその場その場の臨機対応を要求される犯罪態様であることを考えますと、電話機器等を使わないととても暴力団としても対応できないのではないか。  そういう意味で、今答弁のあったとおり、通信傍受手段が極めて有効な捜査手法になるだろう。しかも、それは修正のきかない、いわゆる先ほどちょっと申しました共謀者間の供述のように思惑とか記憶違いというのは入らない、しかも本人の生の声だということで非常に効果的な手段だと思うわけでありますが、今の答弁はそのような趣旨に解してよろしいですか。 <0019>=政府委員(松尾邦弘君)= 大変具体的なケースでございまして、まさに御指摘のとおりだと思います。  一点だけ。密入国事案、薬物事案、最近の大量密入国あるいは大量な覚せい剤の密輸入事案でございますと、いわゆる瀬取りという手法が行われます。まさに委員御指摘のとおり、最近では航空通信といいますか、沖合のある一点を定めまして、そこでブツの受け渡しをする、あるいは中国人の船に乗りかえをするといった手法でございます。これは通信手段を使わざるを得ないということはこれからもおわかりいただけると思いますし、また上陸地点等についても頻繁に変更されることがございまして、委員御指摘のとおり、ここでは通信機器というものの重要性はますます高くなってきているということだろうと思います。 <0020>=服部三男雄君= 現在インターネットが大変盛んでございます。このようなインターネットに代表されるコンピューター通信は、通信手段としてなくならないものどころか、今後、日本はもとより世界じゅうのグローバル化等を考えますと、特に生活利便として考えていきますと、日常生活になくてはならないものになるだろう。そういう意味で、電話とは比較にならない量と質の情報が行われることになります。  このようなコンピューター通信に対して通信傍受を行うことは、ある一部の人はインターネットなどの健全な発展を妨げないのかというような意見を述べる学者の方もおられるようでありますけれども、犯罪捜査の実効を上げるためにコンピューター通信も通信傍受の対象とする必要があると私は思います。  この点に対して、具体的にコンピューター通信が犯罪に使われているような事例があるのかどうか、その点について法務当局に尋ねます。 <0021>=政府委員(松尾邦弘君)= コンピューター通信等、既に相当普及しているところでございます。電話などと同様に遠隔地で迅速かつ簡便に、しかも秘密裏に連絡をとることができるということで、相手方と顔を合わせずに済むことから犯罪に悪用し得るものでございまして、委員御指摘のとおり、現に電子メール等を利用した薬物の密売事案が発生しております。 <0022>=服部三男雄君= そういう意味で、コンピューター通信の健全な発展を阻害することはないというふうに、むしろこういう関係の犯罪も今後激増する可能性があるということですね。  次に、いよいよ本案に入りたいんですけれども、通信の秘密というのは憲法によって保障されている重要な人権でございます。自由の基礎となる人権だ、第一義的な人権だということを憲法学者が言うわけであります。まさしくそのとおりだと思いますが、犯罪捜査という公共の福祉のためにこれを制約するとしても、その制約の仕方に問題がある。その手続や要件を厳格にするなど慎重な配慮が求められておるということは法務当局も十分認識しておられるかと思います。  特に、この法案の中身について勉強された方が誤解されているのか、あるいは余り勉強されていないのかという問題があろうかと思いますけれども、犯罪と関係のない一般市民の通話まで傍受されるのではないかという不安を持っておる方がおられるということは現在もあると思います。そのような犯罪と関係のない善良な一般市民の通話が傍受されるようなことがあってはならない、そんなことはもちろんでありますけれども、こういう不安を国民は持っているということについては、法案を提出した法務当局もその不安の解消に努めなきゃならぬと思うわけであります。  それで、私はこの法案の作成にも関与した一人でございますから、犯罪に関係のない善良なる一般市民の通話が傍受されることはないというふうな措置を十分に講じた、十分過ぎるほど、神経質なほど措置を講じたということはよく承知しておりますけれども、それをもっと国民にわかりやすく法務当局は説明する必要があると思いますので、詳細な説明を求めます。 <0023>=政府委員(松尾邦弘君)= 二点に分けてお答えしたいと思いますが、一つは憲法が保障する通信の秘密との関係でございます。二点目は、今先生御指摘の一般市民の通話が広く傍受されるのではないかという御懸念についてでございます。  まず、第一点目の憲法の問題でございますが、憲法が保障する通信の秘密は最大限尊重すべきものであるということは言うまでもございません。憲法が保障する各種の基本的人権は、それぞれに関する条文が制限の可能性を明示していると否とにかかわりなく、憲法十二条、十三条の規定からしましても、その乱用が禁止され、公共の福祉の制限のもとに立つものでありまして、絶対無制限のものでないということは最高裁の判例においても明らかにされているところであります。  したがって、通信の秘密の保障も、公共の福祉の要請に基づきまして必要最小限の範囲でその制約は許され、通信の傍受も犯罪捜査という公共の福祉の要請に基づきまして必要最小限の範囲でこれを行うことは許されるものでございますが、本法案に基づく通信傍受はこれを行う要件を厳格なものとするなど、必要やむを得ない範囲に限定されております。  殊に、本法案の通信傍受でございますが、具体的な犯罪行為が既に行われた場合にその捜査として行うものである点が第一点でございます。  その対象となる犯罪ですが、先ほどから論議されております四つの類型、薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航の罪、組織的な殺人の罪に限定されております。これらはおよそ一般の市民がかかわることが想定されないものばかりでございます。  そのほかに、裁判官の令状に基づきまして厳正な手続を定めて実施されるということなどから、犯罪と関係のない一般市民の通話が広く傍受されることはあり得ないということで御理解いただきたいと思っております。 <0024>=服部三男雄君= 今の関連でもう少し補足したいんですけれども、よく新聞、テレビ等でこの通信傍受法案の説明のところで、例えば暴力団の事務所へ電話したら、それは商売で、出前だとかクリーニング屋だとか、あるいは暴力団員じゃないけれどもたまたま暴力団員の友達だった、小中学校時代の同級生がゴルフの誘いで電話した、それも聞かれるんだとかいうような、明らかに誤解とわかっているようなことがよくテレビ等でしゃべられている。  この点について、今の刑事局長の答弁の中に、対象犯罪が四種に限定される、おおよそ一般市民がかかわることはないような罪種に限られているんだ、しかもそれは具体的な犯罪行為があった場合のことだというような説明があるんですけれども、そこに補足しまして、今度は通信傍受ですから、使われる通信機器はそれらの犯罪に関連した通信機器だ、電話だということをもう少し説明した方がいいと思いますね。  といいますのは、先ほどのような話だと、暴力団の事務所だといっても、暴力団の事務所の電話を犯人たちが使うということはちょっと考えにくくなってきている。恐らく別の秘密のアジトの電話とか、あるいは頻繁にかえる携帯電話等、犯罪関連の通信に利用される特定の電話だという要件がこの法律に入っているということももうちょっとPRしてもらいたいなと思いますので、それに関連して答弁をお願いします。 <0025>=政府委員(松尾邦弘君)= 先生御指摘のとおり、傍受する対象の電話は極めて限定されるということでございます。  若干詳しくなりますが、この傍受令状を請求するまでに捜査機関はさまざまな地道な捜査を展開いたします。どんなことをやるのかということですが、例えば覚せい剤の密売事案等でございますと、端緒となりました事件の関係者の取り調べはもちろんのことでございますが、対象となる組の組員の行動観察、あるいはその電話の使用状況、これは現在の刑事訴訟法におきましても各種の令状でどういった形で使用されているかということもわかるわけでございまして、暴力団のその組にある幾つかの電話の使用状況、これはもう徹底して基礎的な調査として行います。もちろん国際電話も含めまして、どういうところにかけているか、相手はどういう番号かということも含めて捜査をいたします。そのほかに周辺状況としては、それぞれの組の構成員の日常の行動の役割分担、それから前科前歴関係、身上関係、あるいはそれぞれの構成員の金銭取引の状況、銀行取引の照会等もこの中には入るかと思います。  そういったことを通じまして、対象となる覚せい剤事犯の電話にどの電話が使われているかということを特定しなければなりません。その組にある電話一般を全部聞くわけではございません。中でもそういう非常に重要な会話に使われる電話はこれとこれだという形で特定をいたします。その上で、通信傍受以外に捜査手法がもうないという、補充性と言っておりますが、そうしたことを立証した上で令状請求するということでございますので、先生お尋ねの事案で、一般人がそういったいわば組織の中枢の、あるいはその犯罪の中枢、中心になる謀議、取引に使う電話に簡単にアクセスできるということがまずなかなか想定しにくいということが一つでございます。  それから二点目は、仮にたまたまその電話に酒屋さんがかけてしまったということもそれは抽象的にはあり得ることかもしれませんが、そういった場合には、この捜査手法の中でスポットモニタリングということをやります。つまり、酒屋でございますと、きょうはビールを何ダースお届けしましょうかということであって、それがまさに日常出入りしている酒屋さんであって、かつその取引であるということがわかった段階で、これは傍受令状の対象犯罪に関係ない通話ということになりますので、これは切ります。つまり、そういう犯罪に関係ない通話、今でいいますと、薬物、銃器、蛇頭あるいは組織的な殺人というこの四つの類型にまず一般市民がかかわることはないわけでございますが、たまたまその電話にかかってきたとしましても、そうした犯罪に関係ないということで、これを長々と聞く、あるいは聞いてしまうということはこの法律ではできないということになっております。  したがって、一般人の通話が広く聞かれてしまうということは、この法律ではできないシステムになっているということを御理解いただきたいと思います。 <0026>=服部三男雄君= 今、該当性判断、傍受令状に記載されている通信に該当するような通話かどうかはっきりしない場合、その該当性を判断するために最小必要限度の傍受という方法としてスポットモニタリングという答弁がございました。  このスポットモニタリングというものについて、これまたこの法案に反対する方々は、捜査官に命令、警察幹部が二人来ていて申しわけないけれども、特に日本の警察官にそんなことを期待できるか、捜査官というのは猟犬のように犯罪捜査を追い求めているんだから、もうちょっと聞けば何か犯罪に関するものが出てこやせぬか出てこやせぬかと思いながらずっと聞いていくものだ、これが捜査官のメンタリティーだ、まして、日本の警察だったら共産党の違法盗聴事件があったんだ、そんなもの信用できるかという声が多いわけでありまして、後ほどそういう質問も出るんじゃないかと思います。  そこで、重要なスポットモニタリングの内容ですね、最小化というのは具体的にどういうことを言うのか。そして、それについて個々の捜査官に任すのじゃなくて、全般的指導要綱みたいなマニュアリングをやるのかどうかとか、その他について答弁を求めます。 <0027>=政府委員(松尾邦弘君)= 電話傍受の仕方の問題でございますが、先進国の通信傍受の制度を見ますと二通りございます。一つは、かかってきた電話は全部傍受する、全部録音してしまうというやり方が一つでございます。もう一つは、今御質問中にありましたスポットモニタリングという最小限のものを聞き、必要なものを記録に残す、こういう手法を採用している国もあります。現在の法案はこの後者を採用しております。  スポットモニタリングというのは、プライバシーにかかわる通話の傍受でございますので、ぎりぎりの最小限で傍受しようというシステムでございまして、該当性判断のための傍受という表現もいたしますけれども、いわゆる傍受の最小化のための一つのやり方でございます。  具体的には、それぞれの傍受令状が具体的に出ますと、それぞれの事件ごとにスポットモニタリングのやり方を定めるということになります。これはアメリカでも同じような手法をとっていると思いますが、事件ごとに、例えば最初に三十秒聞きます。その後、事件に関係がないということになりますと、例えば一分、その倍の期間を切りまして待ちます。その間ずっとさらに同じ通話が続いておりますと、またさらに一分後にもう一度聞きます。今度は犯罪に関係があるという通話でございますと、そのまま傍受を続けるということになります。それで、犯罪に関係ある通話が終わりますと、またその段階で切ります。こういうやり方をスポットモニタリング方式と言っているわけでございます。  この何秒聞いて何秒休むかというのは、各事件ごとに若干の違いがあろうかなというふうに想定されます。非常に複雑な事件、あるいは符牒等が多用されている事件、あるいはかかってくる関係者がかなり広範囲にわたって、その判別に若干の時間がかかるということでございますと、例えば三十秒という当初のスポット的な時間を設定する場合もございます。あるいはもっと単純な事案、傍受内容が限定されていて、関係あるかないかがかなり短時間でわかるものであると、例えばそれが二十秒になる場合もあろうかと思います。それは事件ごとにそれぞれのマニュアルを定めまして実施するということになります。こういうやり方を繰り返しまして傍受をしていくということでございます。  それで、ただ、スポットモニタリングというのは、結局三十秒聞いて関係ない場合は切るのでございますが、聞いたことに変わりありませんので、それは原記録といいますが、マザーテープですね、これには聞いたことは全部録音されるというやり方をとります。その後、中断しまして、また聞き出しますと、またテープが回りまして聞いたことは全部録音される。こういうシステムをスポットモニタリングシステムということで今回取り入れている次第でございます。 <0028>=委員長(荒木清寛君)= 暫時休憩いたします。    午前十時五十分休憩      ─────・─────    午後三時十六分開会 <0029>=委員長(荒木清寛君)= ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を一括して議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。 <0030>=服部三男雄君= 午前中に引き続き質問したいと思います。  午前中、法務省の刑事局長からスポットモニタリングの説明がありました。このスポットモニタリングはアメリカで行われている方法と聞いておりますが、アメリカのスポットモニタリングのやり方の中で参考になる点として、マニュアルの問題だとか検察官の指示書、個別事件ごとのやり方が変わるという話でございましたから、そういったことについて説明願いたいと思います。 <0031>=政府委員(松尾邦弘君)= アメリカの連邦法におきまして、通信傍受における該当性判断のための傍受はやはり最小限となるような方法で行わなければならないとされております。そして、その具体的な方法として個別の事件ごとに検察官が指示書を出して定めております。  連邦司法省の作成した電子的監視に関するマニュアルにおきまして、この指示書のサンプルとして、一定の時間を超えない範囲の合理的な時間で該当性判断のための傍受を行い、傍受すべき通信でないときは中断し、間隔を置いて再びこれを行うというスポットモニタリングを行うということをこのマニュアルで書いております。 <0032>=服部三男雄君= 確認いたしますが、スポットモニタリングで該当性判断ということですから、聞いていて明らかに犯罪と関係ないとわかる部分はもうその場でぷつっと切ればいいわけです、モニタリングをやめればいい。しばらく三十秒なり聞いていて、よくわからない、通信の内容がよく把握できないというような場合でも、事案によるでしょうが、三十秒ぐらいたてば切るということに今後していくんですか。 <0033>=政府委員(松尾邦弘君)= お尋ねのように、傍受をしております場合に三つの場合がございます。一つは明らかに犯罪に関係する場合、もう一つは明らかに犯罪に関係がない場合。ところが、灰色の場合がございます。  今のお尋ねはこの点でございますが、この法案では、灰色の場合には切らなければいかぬということでございます。したがいまして、十秒なり二十秒なりというスポットモニタリングの定めました期間が過ぎまして、犯罪に関係があると認定できる場合以外は全部切るということでございます。 <0034>=服部三男雄君= おいおいまたそれらの細かな手続について聞きますが、きょうは総括的な質問ですから、次に移ります。  まず、通信傍受制度は日本で初めて導入される制度であるということ、そのためにも国民の理解を得なければ刑事捜査として適正なものに進んでいかないということです。他のヨーロッパ諸外国の例を見ますと、必ずしも事後的チェック制度というのはない。ずっとのべつ幕なく聞く、しかもかなりの長時間聞けるようになっているわけですが、やっぱり日本という国情を考えますと、必ずしもそれは適切かどうかは疑問であるということで、通信傍受の適正化のために事後的なチェック方法というのを導入していると思うわけであります。  というのは、特に通信傍受の処分を行う段階で、通信当事者に対してこの法案では令状を示したりしません、示してもいいんですけれども示すことを義務化していない。あるいは処分の内容を告げたりすることがないという場合もありますから、そのために事後的チェック制度は必要であろうということになったと思うんです。  その事後的チェック制度の中で、種々の手続がありますが、特に違法にわたる場合の処罰の問題とか、それから付審判で共産党の緒方事件を考慮したような新たな付審判制度をつくったり、いろんなきめ細かいところを盛り込んでいると思いますが、その点についての説明を求めます。 <0035>=政府委員(松尾邦弘君)= 通信傍受が捜査官によりまして適正に行われているかどうかということをチェックできるシステムを組み込むことは、大変重要なことでございます。  今法案では、傍受をした通信についてはまずすべてを記録するということにしてあります。その傍受した通信を記録したテープでございますが、これは立会人が封印をする、その上でその記録は裁判官が保管することとしております。このようなことをしておきました上で、不服がある関係者はその記録をもとにしまして裁判官に不服を申し立てることができるということにしてあります。  傍受をしたということを通知され、あるいは通知された通信の両当事者からさらに知らせを受けた通信の当事者等がいるわけでございますが、そういった者はこのテープを、裁判官の手元にある原記録ですが、みずから聞き、あるいはそのコピーを請求しというようなことができます。それをみずから聞いた上で、裁判所に、これは手続に違法がある等の不服がある場合にはその旨を申し立てることができるということにしてあります。その結果、違法な手続によって傍受された通信の内容は、もちろん裁判で証拠にできないこともあり得るところでありますし、場合によりますと消去を命ぜられるということでございます。  それから、今お尋ねのありました捜査、調査を行う公務員が通信の秘密を侵した場合の問題でございますが、これは今回の法律で三年以下の懲役または百万円以下の罰金という重い刑罰が科せられることとなっております。  これらの罪をこういうふうに規定しても、仮に警察官が違法な行為をしたということで告発をした、ところが検察官がこれを起訴しなかった、不起訴にしたという場合はどうするかということも法律上では手当てをしてございまして、そうした場合には告訴、告発をした者から裁判所に対し審判を開始するよう請求することができる制度、これは付審判と言っておりますが、準起訴手続という制度を取り入れております。  このような制度のほか、もともと通信傍受が極めて厳格な要件のもとで裁判官の発する令状に基づきまして行われ、また傍受を実施している間、これは諸外国の制度にはないわけですが、第三者が常時立ち会うということになっております。その立会人が傍受の実施に関してまた意見を述べることができるとされていること等、あわせお考えいただければ、通信傍受が適正に行われるための十分な制度的な手当てが尽くされていると私どもは考えている次第でございます。 <0036>=服部三男雄君= 今の付審判のところで新たに改正した部分があると思うんです。今までの付審判請求は、公務員の職権乱用等限定していましたね。今回の法制でそれに付加した部分があると思いますが、その点の説明もお願いします。 <0037>=政府委員(松尾邦弘君)= これまでの付審判請求ですと、特別公務員暴行陵虐というような極めて限定された罪種につきまして、これを仮に検察官が不起訴にした場合には、先ほど申し上げましたように裁判所に対して審判を開始するよう請求することができるということにしておったわけでございますが、今回は、調査、捜査を行う公務員が通信の秘密を侵した場合には三年以下の懲役または百万円以下の罰金という刑罰を規定しておりますが、この刑罰につきましても付審判請求の対象にするということでございます。 <0038>=服部三男雄君= 次に、先ほどの説明にあった不服申し立ての関係で必要になるんですが、傍受された通信の当事者に対する事後的な通知の制度でございますが、どのような範囲のものに対していつ行われるのか、その点の説明を願いたいと思います。 <0039>=政府委員(松尾邦弘君)= 傍受の通知は、捜査機関が傍受した通信のうち傍受記録に記録されている通信の当事者に対して行われます。  具体的に言いますと、すなわち令状に記載されている傍受すべき通信に該当する通信、あるいは第十四条の規定により傍受をした通信。これはある被疑事実について傍受をしております、例えば覚せい剤の事件で傍受をしておりますと、そこに予想外に殺人の謀議が入ってきたというような場合でございます。これは罪種を限定いたしまして、その場合でも令状には記載がありませんけれどもその内容は聞けるようにしよう、極めて限定、例外的な傍受を許していることがございます。これは第十四条に規定しております。  今申し上げましたように、この十四条の規定により傍受をした通信等、犯罪に関連する通信を行った当事者に対して傍受の通知が行われるということでございます。この通知は、原則として傍受の実施が終了した後三十日以内に発しなければならないということになっております。  ただ、通知すべき期間につきましては、「地方裁判所の裁判官は、捜査が妨げられるおそれがあると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、六十日以内の期間を定めて、この項の規定により通知を発しなければならない期間を延長することができる。」ということとされております。 <0040>=服部三男雄君= 今回の法案についてのある意見の中に、プライバシー保護をもっと徹底すべきだ、だから今のような傍受記録、要するに捜査の対象になるような記録された通信の当事者でなくて、傍受したすべての通信の当事者に対して行うべきだというような一部の意見もある。  ところが、そういう制度はとっていませんね、今度の法案では。そこを法務当局としては説明する義務があると思いますので、お願いいたします。 <0041>=政府委員(松尾邦弘君)= 先ほど申し上げましたように、犯罪と何らかの関係があり、傍受記録に記録された通信の当事者に対して通知を行うということとしております。  しかし、今お尋ねのように、傍受すべき通信に該当するか否か、スポットモニタリングという形で聞くことがございますが、そのために聞いたもので、何らかの犯罪と関係はないということで判断したもの、その両当事者には通知はしないということとされておるわけでございます。  今申し上げたような該当性判断のための傍受というのは、通信の一部を先ほど申し上げました極めて短時間、断片的に傍受するにとどまるということで、それのみの通話の記録は消去して捜査機関の手元には残さないこととしております。犯罪に関係のある通話についてだけ傍受記録に残すこととなっておりますので、それに関係のない通信の当事者の通話は傍受記録には入っておりません。つまり、捜査機関の手元には残らないということになっております。  それから、もう一つ理由を申し上げますと、通知を行うためにだけ犯罪と関係のない通信の当事者を特定するための捜査を行うことは適当でないと判断しております。場合によりますと逆探知、あるいは逆探知しましてもその電話番号の名義人が通話したとは限りませんので、実際に通話した当事者を特定する捜査というのがどうしても必要でございます。つまり、スポット的に聞いた、犯罪に関係ないというふうに判断した、しかし通知をしないといかぬということになりますと、短時間聞いた両当事者についてどこの電話からだれがしたのかということまで捜査を尽くしまして通知をしないといけないということになります。これは適当ではないだろうということが判断の一つにございます。  また、犯罪に関係のない通信の当事者、例えばたまたま傍受している電話に被疑者の知人がかけてきた、あるいは先ほど酒屋さんのケースで申し上げました。まれにはそういうこともあるかもしれません、酒屋さんがかけてきましたと。こういった通話の当事者まで連絡しなきゃいかぬ、通知しなきゃいかぬということになりますと、知人あるいは酒屋さんにまで、あなたの電話はこういう被疑事実で何月何日何時何分傍受いたしましたよということを知らせなきゃいかぬことになります。そうなりますと、かえって被疑者の不利益になるケースも多々出てくるだろうと思います。  今申したような幾つかの理由を総合しまして、今回の制度では、犯罪に関係のない、短時間聞いたにすぎない通話の当事者にはあえて通知をしないことが相当であると判断した次第でございます。 <0042>=服部三男雄君= 今の刑事局長の答弁わかりにくいんで、もっと生の話をすればいいと思う。  例えば、犯罪をやっている人、確かに犯罪の電話をやっている、その合間にたまたま友人が電話を入れた場合、まずだれだれですがとは言わないですね、友人に電話するときは。何々ちゃん、おれやという調子になるだろうと思うんです。お互いが氏名、姓名まで名乗り合わない電話の方が多いんではないかと思う、一般私人の電話であれば。そうすると、例えば何々ちゃん、あるいは服部なら服部だけだと、その人の下の名前がわからないとなかなか特定できない。通信の相手がだれかわからないとなると、相手方の電話番号を全部逆探で調べていかにゃいかぬということになるようなことはかえって不利益になるんじゃないかという趣旨でおっしゃったわけですね。  もう一点は、傍受した、ところが、ずっと二時間聞いたけれども実は犯罪関連通信が全くなかった場合がありますね。そのような人はあるいは警察の方で傍受をすべきでなかったかもしれないような例が出てくる可能性もありますね。その場合にその通信の相手方に全部言っていくとなると、実はその人は後で考えてみると犯罪の容疑が全くなかったような場合だと、これは被疑者と目された、傍受した相手方に対して大変な不利益をこうむらせることになる。そういうことから傍受記録に残らない通信の相手方に対しては通知しないんだ、こういう趣旨と理解していいわけですか。 <0043>=政府委員(松尾邦弘君)= 具体的にはそのようなケースでお考えいただければと思っております。     ───────────── <0044>=委員長(荒木清寛君)= 委員の異動について御報告いたします。  本日、郡司彰君が委員を辞任され、その補欠として海野徹君が選任されました。  暫時休憩いたします。    午後三時三十四分休憩      ─────・─────    午後五時六分開会 <0045>=委員長(荒木清寛君)= ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を一括して議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。 <0046>=服部三男雄君= 自民党の服部ですが、引き続きまして質問を続けます。  法務当局に尋ねますが、アメリカ及びヨーロッパ諸国では特に傍受は三十年の歴史がある、犯罪捜査手法として実績を上げておるわけです。その諸外国の制度と本法律案における通信傍受とはかなり異なっている部分がある。私に言わせれば日本の方が弱い捜査手法になっていると言わざるを得ないんですが、その諸外国との対比、特に期間、それから室内会話について、傍受の方法、テープは流しっ放しなのかどうか、モニタリングが入るのかどうか、それから立ち会い制度、不服申し立て制度、五、六点についてかなり日本の方が厳格にしているというふうに思うわけですが、その詳細な説明を求めます。 <0047>=政府委員(松尾邦弘君)= 多少長くなりますが、順次御説明を申し上げたいと思います。  この通信傍受の制度でございますが、諸外国ではアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、イタリアなど主要先進諸国ほぼすべてにおいてこうした制度が整備されている現状でございます。  比較をさせていただきますと、まず対象犯罪でございますが、例えばアメリカの連邦法を見ますとかなり多数の犯罪が列挙されておりまして、殺人、誘拐、強盗、恐喝、それから薬物あるいは盗品等の輸送等かなりの罪名が挙がっております。ドイツでもやはり法律に列挙された犯罪ということになっておりまして、内乱あるいは殺人、人の自由に対する罪全般あるいは集団窃盗、強盗、恐喝、それから通貨偽造等も入っております。フランスでは規定の仕方がちょっと違いますが、重罪全般あるいは二年以上の刑期のある拘禁刑の軽罪ということで、これもかなり広い対象でございます。  これらに比べまして我が国では、午前中来申し上げているとおり、対象犯罪は修正案におきまして四つの類型の極めて限定された範囲に絞られているということがまず第一でございます。  それから、犯罪の嫌疑についていいますと、本法案では逮捕の要件であります相当の理由よりも厳しい十分な理由を要求しております。この点も、諸外国ではほぼ逮捕の要件である相当な理由程度の嫌疑ということでございまして、この点においても我が国は非常に厳格な要件を設けているということが言えるかと思います。  それから、傍受の対象となります通信でございますが、我が国に比べまして、例えばアメリカですと口頭会話と室内会話が対象とされています、電話等の通信手段以外に。それから、カナダあるいはイタリアにおいても口頭会話がその対象になっているという点で我が国よりもさらに広く傍受の対象を決めているということでございまして、この点、我が国はそういったものを入れていない点で絞りがかけられているということは言えるかと思います。  さらに立ち会いの問題でございます。先ほど申し上げましたように、諸外国で通信傍受の制度がほぼ先進国では整備されているわけでございますが、第三者を立ち会わせる制度を採用している例はないものと承知しております。つまり我が国独特の制度といいますか、そういう意味では非常に慎重な制度をここでも導入しているということが言えるかと思います。  それから、傍受した通信すべてを録音等で記録して、これを封印して裁判官が保管するという制度も我が国ではとっているわけでございまして、こういう制度をとっている国も諸外国にはございますが、やはり厳しい事後措置ということの対応措置が盛り込まれているということが言えるかと思います。  それから最後に、傍受の期間について申し上げます。  我が国では原則十日間ということでございまして、裁判官の判断で十日以内の期間の延長ができるが、最大限で三十日を超えない、こういうこととされております。  この点の比較を見てみますと、主要国の傍受期間ですが、アメリカ連邦法では当初三十日以内、ドイツでは三カ月以内、フランス四カ月以内、カナダ六十日以内、イタリア十五日以内ということでございます。これらの国の通信傍受法におきましては、当初の傍受期間と同じ期間の延長が認められまして、その延長の回数に制限はございません。この点でも、我が国の傍受期間というのは、主要国と比較しても極めて限定的であるというふうに理解できるところだろうと思います。  以上でございます。 <0048>=服部三男雄君= 先ほどの冒頭の質問のときに、この法案の問題点は、捜査という公共の福祉と、個人のプライバシーがどの程度侵害されるか、その受忍限度との接点の問題だと私、冒頭、問題意識として取り上げました。  それに関連する部分で、一番やっぱりプライバシーの観点で問題になるのは、通信傍受期間が長いか短いか、あるいはその延長回数が制限ないのかどうかというのは非常に大きな問題にかかわるだろうと思うんです。聞く時間が長ければ長いほどどうしてもそれはプライバシーを侵害する可能性が高くなるわけですから。  そういう意味で、今の刑事局長の答弁では、まず延長の制限が三回、諸外国は全部無制限でできる、傍受期間も、日本は十日間で最大限三十日ですが、諸外国はもう最初から三十日とかあるいは百日とか百二十日と、もう日本の十倍ぐらいのものを持っているというところにも、やっぱり今度の法案が国民にまだなれない法案だということで、できるだけ国民の人権侵害の危険性のないように、少なくするように措置していると言わざるを得ないと思うんです。その点をもっと法務省としてもアピールするように要望したいと思うわけであります、それは余談ですが。  さて、ハーバード大学の刑法学者だったと思うんですが、私は読んだ記憶があるんですが、二十一世紀は、もう共産主義国家がなくなってきたから、自由主義体制、資本主義体制がグローバリズムで広まる、それに対して、アングラ組織とそういう正常な国家との戦いの世紀が二十一世紀ではないかというような本があったんですが、私も同感なんです。  そのアングラ組織というのは、国境を簡単に越えられるという時代になった、グローバリズムの時代になってきました。国境の壁がないとなると、組織暴力団同士が横の連携を、国家の壁を越えて人的にも資金的にも簡単に移動できることでやりかねない。事実、日本が一番そのターゲットにねらわれやすい、まず海岸線が非常に長い等々の理由があって。この点について、国連のこういう組織犯罪対策のための委員会で、日本の暴力団がいろいろ世界じゅうに出てきているということについて注意を喚起するような声明が出たことがあるというのも承知しております。  諸外国でこれだけの厳しい捜査のための、日本から見るとやや緩いと思われるような通信傍受制度をやっている。それは、世界じゅうの組織犯罪に対する、犯罪との戦いという、捜査機関との戦いという観点では、私は、ヨーロッパであろうとアメリカであろうと日本であろうと全く変わらないと思うんですね、今後の日本の犯罪構造、特にここ近時の異常な現象等を見ていますと。そうしますと、日本でこんなに弱いものでいいのかどうかということが一点。  もう一つは、その点について国連とかサミットでどのような議論が出ているのかという点が二点。  三番目は、ヨーロッパの、室内の口頭会話もとり、傍受もテープも無制限で流しっ放しでとる。こういったことに対して、ヨーロッパにもアメリカにもそれぞれ憲法があって人権保障規定があるわけです。プライバシーの保護も書いてある、明文でちゃんと書いてある。ヨーロッパではそういったことに対して、これだけの幅広い捜査権限を持たせている、傍受に関する捜査権限を持たせていることについて大々的な反対論があるのかどうか、私は寡聞にして聞いたことがない。そういう反対論がないからもう三十年定着しているわけです。  その三点について刑事局長の答弁を求めます。 <0049>=政府委員(松尾邦弘君)= まず、今回の法案に盛り込まれております通信傍受のシステム自体が、先ほど申し上げましたように、いろいろな面で諸外国と比較しますと大変厳しい内容になっているということは委員御指摘のとおりでございます。これはさらに、原政府案から修正案になりました段階でいろいろな要件が加重されたといいますか、さらに厳しいものに今なっているわけでございます。  委員の先ほどの御発言の中にもございましたけれども、やはり我が国の通信の秘密に対する国民の感覚といいますか、そういったものとか、あるいは確かに戦後のいろいろな経緯の中で、具体的に言いますと、神奈川において行われました共産党の幹部に対する通信の傍受の事件、盗聴の事件というのがございまして、ある意味では、私はほかの場所で負の遺産というような表現を使わせていただきましたけれども、やはり捜査機関側にとりまして、国民にマイナスのイメージを与えている点等、いろいろな諸要素がございます。  こうしたことを勘案いたしますと、現時点における通信傍受の制度として我が国に初めて法律で明定されるわけでございますので、非常に慎重にお考えになる、国会の論議でも非常に慎重な対応が必要であるという論議がされていることについては、我々捜査機関としても理解できるところでございまして、制度の第一歩のあり方としては、こういう形でまず一歩を踏み出させていただいて、とりあえず国民に対して通信傍受というものの実際の運用を見ていただくということが肝要かなというのが今の感覚でございます。  それから二番目に、国際的な問題でございますが、たまたまあすから我が国でFATFという国際機関の総会が七月二日まで開かれます。これは一九九八年、昨年の七月から我が国が議長国として就任している会合でございまして、そもそも設けられましたのは、平成元年のパリで開催されたアルシュ・サミットの経済宣言で、マネーロンダリング対策のための作業部会が必要であるということで設立された機関でございます。二十八の国・地域、国際機関が参加しておりまして、パリのOECDに事務局が設置されているという機関でございます。  このFATFの昨年の対日審査というのがございまして、ここで我が国の、主としてマネーロンダリング関係でございますが、法整備についての審査を受けたことがございます。  その際に、我が国が主要国の法制度と比較して資金洗浄対策法制が極めて不十分であるということが強く指摘されたところでございます。その際に、捜査当局の内部における独立した資金洗浄対策部門を設置すること、あるいは電子的監視を含む特別な捜査手法の利用等の追加的な処置を資金洗浄対策においても考えるべきであるという勧告がなされたわけでございます。  我が国は、それに対しまして、現在、国会で組織犯罪対策三法という形で法案を審議をしていただいているところですということを言っております。昨年の七月から議長国になりまして、その会合があすから我が国で行われるということでございます。  この一つの例に見られますとおり、我が国はG8を中心にした先進諸国の中で組織犯罪対策法制という意味では一番おくれた国でございます。このマネーロンダリングにかかわる法整備、あるいは通信傍受を中心とします捜査手法、あるいは組織犯罪に対する処罰規定の加重といったいろいろの面においておくれているという指摘が強くなされているわけでございます。  実は、先日、国連の次長、アルラッキさんという方が日本に来たことがございます。主としてマネーロンダリングの関係で我が国の現状等の視察に来られたというふうに聞いておりますが、その際にも、やはり日本が今言ったような法整備面でおくれているという指摘を私に対してもしておりました。  その際に私が非常に強く印象づけられたことがございますが、諸外国では実体法を整備しまして加重規定等を置くということは組織犯罪対策に非常に重要だと。それと同時に、ただそれだけでは検挙できなければ絵にかいたもちに終わるということを非常に強く言っておりました。そのための制度として捜査機関にやはり有効な捜査手法を与えるよう検討すべきである、そのためには基本的人権の観点等との調和も非常に重要だということ、調和を図りながらそういった新しい手法を検討すべきであるということを言っておりました。  今回の法制度等も、その際に私の方から説明をいたしました。それについて服部委員から今御指摘がありましたけれども、通信傍受の制度がこのようにある意味では厳しい、非常に諸外国から見ると厳しい制約のもとでしかできないということについては、大丈夫かというような心配もされていたことも事実でございます。  そうした中におきまして、今回のFATFの会合で、ある程度の我が国のそうした法整備についての言及がなされるのではないかということで我々としても注目しているところでございます。  それから、今のアルラッキさんの言と委員の質問とは関連しますのでちょっと申し上げますと、アルラッキさんという方はイタリアの組織犯罪対策のある意味では専門家という経歴がございまして、その後、国連に移られて国際的な組織犯罪対策の元締めをしているという方でございますが、その方に、諸外国で、特にイタリア、あるいは国連に加盟している主要国で通信傍受の制度を導入するに当たっていろいろな反対はなかったんでしょうか、そこらあたりはどうでございましょうかという話を聞いたんですが、やはりそれなりにいろいろな議論があったということをおっしゃっておりました。  ただ、そうした議論を経た上で制定された通信傍受制度の運用について、少なくとも主要国の間で今大きな論議はされていない、大きな反対の動きはないということをアルラッキさんは認識されているということでございました。  この三点でよろしゅうございましたか。 <0050>=服部三男雄君= 大体この通信傍受関係の問題点のピックアップは終わったように思うんですが、結論から言いますと、要するにスポットモニタリングで聞かれる犯罪と全く無縁な善良な一般市民の私的な会話が、スポットモニタリングでどのぐらい侵害されるかというところにこの法案の争点は尽きると思うんです。  そこで、私も元捜査官でありましたから、いわゆる押収、捜索に行ってきました。考えてみますと、押収、捜索のときにいろんな文書とか日記帳とか家計簿とか全部見ていくわけですね。その中から犯罪に関連する証拠物を押さえるわけです。ということは、第三者がその押収、捜索したところへ送った通信文とかは実際上は全部見ているわけです。そういう比較論をしますと、令状に基づいて正規の押収、捜索をすれば私人の通信文とかあるいはメモ書きのようなものは事実上もう既に見ているんだというふうな例を思い出しますと、今回の傍受で善良な犯罪と関係のない一般市民の通話がたまたま、数は少ないだろうと思います、これだけ厳格に要件を絞っていますから数は少ないだろうと思いますが、それでも該当性判断の部分で断片的に聞かれることは、これはもう押収、捜索との比較論からいけば国民は受忍限度の中だと私は納得してくれるように思うという意見を私は持っています。  それに対してある方々は、いやそれでもだめだとおっしゃるわけですが、それならば押収、捜索とこの通信傍受とはどう違うんだということになるわけです。そうすると、通信傍受の方は通知がないじゃないか、こうおっしゃるんです。しかし、先ほどの刑事局長の答弁にあったように、一般市民のすべてに対して傍受記録に残らないものを通知することはかえってプライバシーの侵害になるという説明でほぼ納得できるだろうと思うんです。  そこで、最後の問題は、警察官が本当に傍受記録から該当性判断の部分を消去していくのかという信頼性の問題にかかわるわけですね。その点について警察の方に尋ねます。  読売新聞が昨年十二月に司法制度に関する世論調査をやりました。そうすると、法曹三者及び警察官のところに世論部分は出てくるわけですが、一番高いのは裁判官の八〇%です。次が警察官の七三%、次が検察官の七二%、信頼できるかどうかですよ。弁護士は、私も現職の弁護士ですが、実に遺憾ながら五六%なんですね。日本の警察に対する一般市民の信頼が非常に高いということを前提に、警察として今後、傍受すべきでない、該当性判断して違う、あるいは該当性がはっきりしないというのを全部消去するというところをどのように現場の一線の警察官に周知徹底して、その七十数%の国民の警察官に対する高い信頼を裏切らないようにするか、この法案の問題はそこに尽きるんだろうと思いますので、林刑事局長に尋ねます。 <0051>=政府委員(林則清君)= たびたび言われますが、通信傍受制度というものは基本的人権に深くかかわるものでありますから、委員御指摘のようにその運用全体が非常に適正に行われなければならない、これを徹底していく必要があるということを考えております。  それで、その消去なりその他の運用を含めまして、この法案が成立しました場合には、国家公安委員会規則におきまして、例えば傍受令状の請求については警察本部長の決裁を要するということを明文化するとか、あるいは先ほども話に出ましたスポットモニタリングについてのマニュアル、規則をきっちり決める。そして、それには決して反することのないよう教育等を徹底するということで適正な運用を図ってまいりたい、さように考えております。 <0052>=服部三男雄君= 警察当局にもう一点尋ねますが、過去に年に一件、あるいは二年に一件ぐらい捜査意欲の強過ぎる捜査官が参考人の名前を別に書いたりして押収捜索令状をとったような不幸な例がたまにぱらぱら、大体、日本の捜索押収等強制令状は私の記憶では年間十五万件ぐらい日本の警察はとっています。その中の一件という非常にごくごく微量でもありますが、やっぱり後から見れば警察の捜査に対する信頼を失墜しかねない例があった。  ただこれについては、私自身は資料を持っておりますが、警察は、事件が発覚した限りではその捜査官に対して厳しい懲戒免職処分を行っているということで日本の警察の信頼度を高めていると思うのですが、そういう部下に対する厳しい監督と、非違行為があれば直ちにその警察官を懲戒免職にするような措置を今後もとり続けるという決意を明らかにしてもらいたいと思います。 <0053>=政府委員(林則清君)= 議員御指摘のように、大変残念なことながら、例外中の例外としてたまにそういった違法な手段によって捜索令状を得たとかというものがございます。これに対しては厳しく行政上の処分を行うだけではなくて、ほとんどのケースは、例えば虚偽公文書作成ということで刑事立件もいたしております。  今後とも絶無を期して最大限の努力を組織としても行ってまいるわけでありますけれども、やはりそこは生身の人間の世界でありますから、何万件に一件というような率でそういった不祥事も生ずる可能性がございます。そういった場合には、事案の内容に応じて違法行為に係る行為者本人に対するただいま申し上げましたような懲戒処分を含む厳正な処分、それから刑事事件を構成するような法令に触れるような場合にはそれの措置を講ずる。さらに、先ほども申しましたように通達や各種会議での指示によって常に警察官に対する教育指導、それから幹部によるそういった一つ一つの行為の管理の徹底ということを図ってまいりたい。  いずれにしても、この法案が成立いたしましたならば、その運用については組織の総力を挙げて適正な運用を図ってまいりたい、かように考えております。 <0054>=服部三男雄君= 本法案は、政府原案に対する衆議院の方の大幅な修正がありましたものですから、法務当局に対する質疑はもうちょっと細かい点、技術的な点がございますが、それは後日、来月七月一日の定例日に行いたいと思います。  それで、修正提案者の衆議院の先生方五名、長時間お待たせしておりますので、そちらの方の質問に移らせていただきます。  衆議院において提出、可決された修正案でございますが、傍受の対象犯罪の範囲を限定するとか、実に大幅な修正がなされました。このような修正を行った基本的な考えというものについて、まず第一点から御説明願いたいと思います。 <0055>=衆議院議員(笹川堯君)= 御案内のように、捜査当局としては、原案の中にありますように、すべてといいますか、大方の犯罪の通信傍受をしたい、こういうことでありました。御案内のように、憲法との絡みあるいはまた我が国で初めて行われる通信傍受の法案でございますので、そこはもう厳しく四点ぐらいに絞って厳正に運用をしてもらいたい、こういうことで三党の合意ができました。  御案内のように、近年は覚せい剤等が広く一般市民にも行き渡っております。麻薬のことしの押収量ですが、もう一トンを既に超えておる。しかし、現実には捕まる人は末端の人ばかりで、なかなか首謀者が捕まらない。今までの捜査手法ではもう限界があるんです、ぜひひとつこの通信傍受の捜査手法を新しく加えていただいて、犯罪のない平穏な社会の建設に邁進をしたい、こういうような捜査当局の願いもございます。  我々としては、そういう意味も含めて四つの犯罪だけに厳しく絞って、国民の信頼性はもちろんのこと、平穏な社会生活を守るための最低の犯罪ということで絞らせていただいた。またそのほか、例えば、逮捕状は警部以上の請求なんというものがございますけれども今回は警視以上の人間でなければ令状の請求はできないし、また裁判所におきましても簡易裁判所の判事は発付権がない、地裁の判事に限るとか、あるいは検察官も検事総長の指名する者とか、いろいろそういう制限もほかに加えまして、なるべくこれが国民の皆さんの御理解がいただけるようにということでこのように修正をさせていただきました。 <0056>=服部三男雄君= それでは、修正案につきまして、各修正部分の趣旨をお尋ねしたいと思います。  まず、本法第一条に目的規定が新たに加わりまして、「組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、」という文言が入っておりますが、この趣旨についてお尋ねいたします。 <0057>=衆議院議員(笹川堯君)= 御案内のように、第一条に国民の安全や平穏な市民生活を脅かしている状況にかんがみと。  先ほど説明しましたように、近年犯罪が非常に複雑化しておる、同時にまた犯罪自体も国際化している、なかなか今までの犯罪を取り締まる手法だけではできないということでございますので、市民あるいはまた国民の皆さんにわかりやすいように、こういう犯罪があることによって平穏な市民生活が脅かされているから、脅かされないようにするためにはこういうことをさせていただきたい、こういう意味で、よくわかりやすくという意味で一条に入れさせていただきました。 <0058>=服部三男雄君= 先ほども御説明ありましたように、修正案で四つの対象犯罪という言葉を使っております。要するに、四つの犯罪に限定しました。この理由について、今まで衆議院の笹川先生から説明がありましたが、再度同じ趣旨で尋ねたいと思います。 <0059>=衆議院議員(笹川堯君)= 傍受の四つの対象犯罪ということ。  御案内のように、麻薬というものは、先ほど先生からも御質問がございましたが、もう既に一トンを超えておる。しかし、現実には流通したものはもっともっとそれの数倍あるかもわかりませんが、今までの捜査手法ではそれ以上押収することも首謀者を逮捕することもなかなかできないということであります。  もう一つは、銃器によります犯罪。これはまず、人間の命がなくなるわけでありますが、特に暴力団が組織的に外国から銃を密輸入するということで、これもその犯罪にさせていただく。  それから、組織的犯罪でありますが、御案内のようにオウム事件等がございましたが、暴力団が相談をしながら複数の人をやるとか、あるいはまた複数の人間が相談をして殺人の計画をするとか、そういうことで個人個人の、一人一人の殺人事件はこの対象の中から省かれております。  それから四つ目でございますが、集団密航。これはもう国民の皆さんが御存じのように、日本以外の第三国から船舶の船底、すなわち人間が入れないところを改造して、そこへ何十人もの人間を詰め込んで、一人数百万円のお金を取って実は日本に集団密航させている。これは御案内のように、外国の犯罪ではありますが被害者は実は日本であります。しかも、密航してくる人自体も、何百万というその国の人の所得の数年分以上の実はお金を払って日本へ来るわけでありますから、来たからにはやはり法を犯してでも就職をしなきゃならぬ、就職ができなければこの人たちは犯罪に走る可能性も大いにあるわけです。  今までの社会の状況と変わりまして、これは集団密航の罪というものが日本で起きるなんということは今まで余り想像もしていなかったことでありますので、この四つの罪だけに限定をさせていただく、こういう趣旨であります。 <0060>=服部三男雄君= それらの四つの罪は、組織犯罪集団によって密行的に行われると同時に、先ほど私は松尾刑事局長に尋ねましたが、犯罪の態様から見まして電話等の機器をよく使う、対応せざるを得ない。そのような犯行をやるには電話は必ず必要な事犯であるという観点もあって四種に限定されたように聞いておりますが、それでよろしゅうございますか。 <0061>=衆議院議員(笹川堯君)= そのように解釈していただいて結構です。 <0062>=服部三男雄君= 今、ちょっとお触れになりましたが、殺人の中でも刑法の定めた百九十九条の殺人罪ではなくて、組織的犯罪処罰法の組織的な殺人の罪を対象犯罪としておられますが、この点について、どのような理由によるのかお尋ねします。 <0063>=衆議院議員(笹川堯君)= 先ほど申し上げましたように、一対一といいますか、単数の殺人事件は御案内のように今までの捜査手法でも十分に対応できておりますが、密行的にする、あるいはまた集団犯罪ということになりますと今までの捜査手法ではなかなか困難だということで、通信傍受をさせていただいて未然に防ぎたい、あるいはまた検挙したい、こういう意味で複数あるいは組織的ということに限定させていただきました。 <0064>=服部三男雄君= 政府原案の方は、通信傍受の対象犯罪としていわゆる誘拐犯が入っておりました。特に、身の代金目的とか営利目的による誘拐というのは非常に悲惨な例が多い。ほとんどの方が亡くなっていく。そのかわり検挙実績も九十数%と非常に高いんですけれども、犯罪の罪質として、これには通信傍受というのは非常に典型的な有効な捜査手段ではないかなと思うんですが、これを修正のところでどうも落としておられるようですけれども、この点についてその意味を問います。 <0065>=衆議院議員(笹川堯君)= おっしゃるとおり、誘拐犯につきましては検挙率が非常に高い。今までの手法でも、十分とはいきませんけれども相当対応ができる。組織的な誘拐というのはある場合があります。けれども、大体今、日本で行われます誘拐は必ずしも組織的に行われてはいない。ある種の善良な市民がある日突然誘拐をするというような場合がございますので除きました。  もう一つは、誘拐犯にいたしますと大体が営利誘拐につながっていきますので、こちらが捜さなくても逆に向こうの方から通話があり、金品の要求があるわけですから、そういう意味では現実の通信傍受と同じような効果があるのではないのかな、こういうことで外させていただきました。 <0066>=服部三男雄君= 私も何件か誘拐犯を扱ったことがあるんですが、実際に電話を使ってお金を要求するときに、もう既に殺している場合があるんですね。だから、その前の段階の電話の傍受をすれば殺人に至らないで未然に防げるんじゃないかというような例が考えられるんですけれども、その点について何か考えられたことはございませんでしょうか。 <0067>=衆議院議員(笹川堯君)= おっしゃるとおり、小さいお子さんの場合には幽閉して無言でおらせるということは不可能ですから、誘拐と同時に殺人が行われてしまってその後に金品の要求、被害者の方は生きているということを想定しながらお金を払うということもあると思います。いずれにしても、この場合には、今まででも逆探知そのものは家族の了解と要請があればできないわけではございませんから、必ずしもこの法律による通信傍受をやらなくても私は可能ではないのかなというふうに考えております。 <0068>=服部三男雄君= それだけ組織性というものを重視された修正である、こういう趣旨でございますか。 <0069>=衆議院議員(笹川堯君)= そのとおりでございます。 <0070>=服部三男雄君= 次に、修正の大きな項目の一つに、この法案の第三条第一項第三号、要するに準備のための犯罪というところがあるわけです。この範囲を非常に限定されたわけでありますが、その理由についてお述べください。 <0071>=衆議院議員(上田勇君)= 原案では、この三条一項三号の対象犯罪の実行に必要な準備のために犯された犯罪の範囲について禁錮以上の刑が定められているものとしておったわけでありますけれども、それでは余りにもその範囲が広く、実際の傍受には引き続き対象犯罪が犯されると認められるという要件が必要であるとしたとしても、相当軽微な犯罪が実行された段階で傍受が開始されるということでありましたので、そこでその対象犯罪を一定の組織性が認められる重大な犯罪に限定したことを踏まえまして、これらの実行の準備のために犯された犯罪についても、これを一定の重大な犯罪に限定するのが適当であるというふうに考えた次第でございます。  そこで、この修正案で「死刑又は無期若しくは長期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」としておりますが、これは一般に予備罪が懲役二年以上とされていることを考慮したものでございます。 <0072>=服部三男雄君= 同じく、その法第三条第一項第三号についてお尋ねしたいと思うんですが、必要な準備のために犯された一定の範囲の犯罪が別表に掲げる罪と一体のものとして犯されるということを要件にしておられますが、この意味についてお答え願いたいと思います。 <0073>=衆議院議員(上田勇君)= この修正の趣旨は、修正の「別表に掲げる罪と一体のものとして」ということの趣旨でございますが、これは別表に掲げる罪の実行に必要な準備のために犯された犯罪とその別表に掲げる犯罪との間に、いわば客観的な一体性が認められることが必要であるという趣旨でございます。  例えば、無差別な大量殺人を行う計画、謀議が行われている場合に大量の毒物を違法に製造しているといった場合のように、それぞれの犯罪自体の性質、一連の犯行計画、謀議の存在等によって認定されるものと考えているところでございます。 <0074>=服部三男雄君= 先ほど笹川衆議院議員からお話がありましたが、令状の請求者の関係で、警部から警視とか検事総長が指定する者とかいろいろ修正されたわけでございますが、この趣旨についてお伺いしたいと思います。 <0075>=衆議院議員(笹川堯君)= 先ほど服部委員の質問の中でちょっとお答えしたと思いますが、逮捕令状は警部以上の者の請求、あるいはまた逮捕状の発付も簡易裁判所の判事ということになっておりましたが、御案内のように、憲法の問題もございますし、国民の信頼ということ等をそれぞれ勘案いたしまして、請求者は警視以上、地方で申しますれば署長、副署長あるいは刑事官までが警視でございますので、大体そういうふうになるだろう、また請求も検事総長が指名する者と。  特に、警察の場合に限りましては本部長の許可とするということでありますので、将来何か間違ったことがあれば、ただ単に下級の警察官の処分だけではなくして、警察本部長の処分にも当然波及をするというふうに考えられますので、特に傍受令状の請求権者をより高い立場から判断できる人とした。  特に、判事の場合には、地方裁判所の判事ということで、犯罪の国際共助の請求令状というものも地方裁判所の判事ということになっておりますので、それとこれからの国際的な組織的犯罪の撲滅等々を考えますと、地方裁判所の判事というふうに格上げをさせていただくのがより適当で信頼感があるだろうということでございます。 <0076>=服部三男雄君= 日本独自のしかも人権を非常に尊重するという立場で、傍受について立会人制度という新しい制度をつくることになったわけであります。修正案で常時立ち会いというところまで進んだわけでありますが、この修正された理由についてお尋ねしたいと思います。 <0077>=衆議院議員(笹川堯君)= 御案内のように、衆議院の議論の中でもいろいろございました。弁護士を立ち会わせたらどうだ、あるいはまた立ち会いにつきましても大変厳しい、長時間になりますし深夜になるかもわかりませんが、これはやはり警察官が裁判所の発付した条件をきちっと守っているかどうか、このことを外形的にも厳しく監視する形がいいだろうということで、立会人になる方は大変お気の毒ではございますが、平穏な社会生活ができるという国民の一つの大きな願い、また犯罪を撲滅したいという国民の願い、そういうことも含めまして、大変気の毒ではございますが、常時立会人を置いておくということが捜査官にとっても大きな戒めといいますか、圧力と言うのはちょっと言葉が悪いかもわかりませんけれども、そういう意味も含めまして立会人には常時立ち会っていただくというふうにさせていただきました。 <0078>=服部三男雄君= これは修正の実施の問題になるので法務当局に尋ねたいんですが、十日間常時立ち会いとなると、かなりの人数の立会人が要求されるわけです。実際に確保ができないような場合も十分考えられると思うんです。それはあってはならぬことで、できるだけ実施を行う警察官なり検察官が立会人の確保に努力しなきゃいかぬが、どうやっても緊急のことで立会人ができないとなった場合にはどういう処置をするんですか。 <0079>=政府委員(松尾邦弘君)= まず第一には、そういう事態に立ち至らないようにいろいろお願いをするということがまず第一。基本的にはNTTの交換機の現場で傍受する場合が多くなると思いますが、NTTの交換機のある現場で傍受することになる。そうしますと、基本的にはNTTの職員に立ち会ってもらうのが一番いいわけでございます。そういうわけで、そういうNTTの当該交換機のある事務所の皆さんに説得をして立ち会っていただくということになると思います。  ただ、どうしてもNTTが業務の都合その他でこの時間は難しいとか、あるいは深夜にわたるこの時点は難しいということになりますと、次善の策としまして地方公共団体の職員、過去の検証の例でいいますと例えば消防署の職員にお願いしたことがございます。そういった形で、NTTの職員以外の人たちにも協力をいただくようにお願いするということだろうと思います。  ただ、そうした手を尽くしましても、どうしてもこの時間は立会人がいない、あるいは立会人を用意していたんですが、緊急なことで立会人がいなくなってしまったということも考えられないことはないわけでございますが、そういった場合には、この法案によりますと電話傍受は中断する、できないということになります。 <0080>=服部三男雄君= 次に、今、笹川先生から、人権擁護のために立会人を厳格にしたんだ、こういう趣旨のお話がございました。その趣旨と同じだろうと思うんですけれども、当該傍受の実施に関して手続の適正を担保するための立会人が意見を述べることができるという条項が追加されておりますが、この趣旨をお尋ねしたいと思います。 <0081>=衆議院議員(笹川堯君)= 御案内のように、外形的条件あるいはまたモニタリングその他、裁判官に対して書面で行くわけですから、ですから捜査官に対して意見を述べることができる。  恐らく、実際に運用されれば、立会人の意見というものはいろいろあるかもわかりません。あるいはほとんどないかもわからないし、意見が述べられるということにしておきませんと、ただいるだけという話になってしまって、必ずしも立会人が担保できないじゃないかというようなお話もあろうかと思いますので、立会人が意見を述べる。その意見については、モニタリングが少し長過ぎるんじゃないかとか、あるいは裁判官の書いた令状の中の記載事項から少しはみ出ているんじゃないかとか、いろいろそういう意見はやってみなきゃわかりませんけれどもあると思います。もしないぐらい適正にきちっとやってくれれば、私はそれにこしたことはない、こういうふうに思います。 <0082>=服部三男雄君= 先ほど笹川先生のお話の中に、立会人に弁護士という意見もあるようだと先にお答えいただいたんですが、その点について触れたいと思います。  私自身も弁護士でありますし、日本の弁護士会の実情というのはある程度知っているんですが、数日以上、しかも深夜に傍受されることが多いだろうと思うんです。それに弁護士さんが立ち会うということは、今の日本の弁護士の数あるいは弁護士会の機能その他から考えても実際は絶対不可能だということはすぐ自分の経験でわかるんですけれども、例えば衆議院で行われた参考人質疑の中で、一部の学識経験者と言われる人が、いやそれはできるんじゃないかとか、弁護士会がやればいいことだとか何か言っていました。中には、弁護士の職域の拡大にもつながるなんというちょっと首をかしげるような話もありました。  多くの弁護士はそんなことは考えていないと思うんですけれども、提案者もその点について先ほどちょっとお話しになりましたが、どのような検討を加えられて、結果としてこのような案を採用しなかったのか、説明願いたいと思います。 <0083>=衆議院議員(笹川堯君)= 衆議院の審査の中で参考人からいろんな意見がございました。弁護士さんが立ち会ったらどうだ、いやそんな暇な人はいない、とてもできないよというようなことも、現職の国会議員の弁護士資格を持っている人からそういう意見も出ました。  御案内のように、一般市民からすると、ちょっと聞くと弁護士が立ち会うと非常にいいように一見思うかもわかりませんが、実は弁護士の職業そのものが法廷において捜査当局と対峙し、国民の権利と義務を守るためにやはり被疑者側に立って戦うわけでありますから、その人が捜査当局の味方をというわけじゃありませんが、側についてというような批判が仮にあったとすると、先ほど服部委員の弁護士に対する信頼度が警察より低いということでありますから、なお低くなる心配もあるでしょうし、また弁護士の先生方をやはり深夜なんという話で、国選弁護人でもなかなか大変な時代に果たして弁護士会がもろ手を挙げて私の方で当番制で出しますよというような話にもうとてもならないんじゃないか。逆に私はそういうふうに思いますので、弁護士の業務ということもよく内容を考えていただけると、NTTの職員みたいにみずからの職場を守り、国民の通信の秘密を守るという職業に従事している人とあらゆる犯罪の弁護をしなきゃならぬという人と同等に扱うということはかえって国民の信頼を傷つけるんじゃないのかな、こういうふうに私は思いますので、弁護士の立会人というようなものは三党協議の中で結論が見出せなかった、こういうことでございます。 <0084>=服部三男雄君= それでは、令状に記載された犯罪以外の犯罪に係る通信の傍受の許可というところですが、裁判官が事前に審査して傍受を許可した通信以外の通信まで傍受を広げることについて、憲法の令状主義に反するんじゃないかというような意見が一部にはあるんです。  今度いろいろ修正されました。大幅な修正もありましたが、この令状主義の問題についてはほとんど変わっていないんじゃないかなと私は思っております。重大な犯罪に関する通話が現に行われている、すぐに保全しなければ保全の機会が失われるような場合にまで傍受を続けることは私は令状主義に反しないと思うんですが、この点に関して、修正提案者の所見を問いたいと思います。 <0085>=衆議院議員(笹川堯君)= 今、服部委員の方からお話がありましたが、許可された内容を傍受しながらその中にたまたまほかの犯罪の予知をできるようなものを発見したときには、これは一々裁判官のところへ飛んでいってすぐ令状をもらったんではもう既に間に合わないわけですから、やはり現行犯逮捕と同じようにその場で適切に対応する必要があるだろう。こういうことで、この通信傍受の中で重大な犯罪がまさに行われようとしているものを見過ごすことよりは、それをやはり傍受することによって、事後に審査をしていただくということでありますので、私は決して令状主義に反するというふうには思っておりません。 <0086>=服部三男雄君= その修正部分のところに、傍受の実施報告書、これは出さなきゃいかぬわけですが、当該通信が傍受を許され他の犯罪に該当すると認められた理由を記載させることは今の部分と関係しておりますね。  その点、政府案では他の犯罪の罪名と罰条の記載だけでよいとしていたんですが、より詳細な記載を求めるように修正されている点について、趣旨をお伺いしたいと思います。 <0087>=衆議院議員(上田勇君)= 先ほどの質問とも関連をいたしますが、修正案におきましては、他の犯罪に係る傍受につきましても令状はなしで行われているのではないかという懸念に対応するために、このような他の犯罪に係る傍受が行われた場合には、通信の当事者の不服申し立てがない場合においても裁判官が職権で審査を事後に行うというような修正を加えさせていただいております。それに従いまして、裁判官によります事後的な審査手続、これを実効あるものにするためにも、この傍受の実施報告書に、捜査機関が当該通信、第十四条の規定する通信に該当するという理由もあわせて記載することとしたものでございます。 <0088>=服部三男雄君= 同じような観点で聞くんですが、修正案では、他の犯罪に係る通信の傍受が行われた場合には、傍受の実施終了後に遅滞なく提出しなければならない傍受実施状況を記載した書面に、他の犯罪に係る通信に該当すると認められる理由を記載しなきゃならないとなっております。その書面の提出を受けた裁判官が、その該当性をチェックして、これに当たらない場合は裁判官において当該傍受の処分を取り消すこととしております。  このような裁判官による事後審査制度というのを導入されたその趣旨について、お尋ねしたいと思います。 <0089>=衆議院議員(上田勇君)= この第十四条に規定されております、令状に記載されている犯罪の傍受中に他の犯罪に係る会話が行われた場合についての規定でございますが、これは当然のことながら、令状の審査を事前に受けていないということは否定できないものでございまして、そのために令状なしの通信傍受が行われるのではないかという懸念に対しまして、事後的ではございますが、裁判官による審査も行うことによりまして、令状の審査とほぼ同様の裁判官による審査が行われるというような修正を加えさせていただいた趣旨でございます。 <0090>=服部三男雄君= 非常に厳格にしたということですね、人権擁護の観点から手続を厳格にしたと。本来であれば、現行犯逮捕と同じように考えれば、令状主義の例外になるわけですから要らないんですけれども、あえて修正でそういうように人権擁護のために厳格にした、こういう趣旨でございますか。 <0091>=衆議院議員(笹川堯君)= そのとおりでございます。 <0092>=服部三男雄君= それで、その事後審査によって裁判所が職権で処分を取り消した場合には、捜査機関の手元に残っている傍受記録の取り扱いはどのようにするんでしょうか。提案者に尋ねます。 <0093>=衆議院議員(笹川堯君)= 認められない場合には、捜査当局は消去するということでございます。 <0094>=服部三男雄君= 時間が足りなくなりましたので、最後の一点、質問します。  とにかく、この通信傍受法案について、行政傍受、いわゆるスパイと、犯罪を前提とする刑事司法のための傍受とがどうも混乱して議論をなされて、いまだに整理がついていない。もちろん、この法務委員会に出席しておられる議員の先生方にはそんな誤解はないわけですが、しかし、そういった懸念に対して、あるいは警察で万が一にも非違行為があってはいかぬということで、修正案は、捜査権限を有する公務員が職務を行うに当たり通信の秘密を侵す罪を犯した場合の法定刑及び罰金刑を引き上げましたね。この理由について提案者に尋ねます。 <0095>=衆議院議員(笹川堯君)= 御案内のように、今回の通信傍受は、一にかかって捜査当局を国民が信頼できるかどうかということに私も最終的にはかかっているんじゃないのかな、こういうことで、神様ではありませんから必ず失敗はあるかもわかりませんが、それは最小限度ということで、今までの懲役一年ではなくて三年、罰金百万円、大変厳しい罰則と同時に上級者の処分にも当然及ぶわけでありますので、そういうことで捜査当局の人が過ちを犯さないようにぜひしてほしい。  そうじゃないと、我々国会議員が法律をつくって捜査当局に与えましても、これは永久に与えるわけにはいかない。国民の信託を得た我々が捜査当局が間違いをどんどん犯せばこれは返してもらうというか取り消させていただくとか、そういうことに将来なる可能性は十分にございますので、そういうことのないように、この法の趣旨が十分に国民の理解を得られるようにこれから捜査当局は襟を正してしっかりやってほしい。できれば、私個人としては千人、一万人の犯人を逮捕するよりは冤罪というものを絶対出さない、また不正な行為によって犯人を逮捕してはならない、法の許された範囲内で法の執行をしてほしい、こういうふうに願っております。 <0096>=服部三男雄君= 質問を終わります。 <0097>=平野貞夫君= 通信傍受法案が衆議院で抜本的な修正が行われました。服部理事がるる衆議院の先生方にお尋ねしたとおりでございますが、憲法の精神を踏まえて適切な修正だったと思います。特に私は傍受対象を薬物犯罪、それから銃器犯罪、集団密航、組織的な殺人に限定したことについては大変意義があると思っております。にもかかわらず、この制度は必要でないあるいは廃案にすべきだという意見がございます。これが必要であるかあるいは必要でないかということは、これらの犯罪の実態、客観的な状況をやっぱり把握して論ずるべきだと思います。  本日は私は、いろいろあるんですが、薬物犯罪の実態に限って警察庁当局にお尋ねをしてみたいと思います。  私はこういった問題について全くの素人でございます。素人だということは一般の国民の立場だ、こういうふうに思っておりますので、御理解をしていただきたいと思います。  まず最初に、薬物犯罪と一言で言いますが、我が国における乱用薬物はどんなものがあり、何が一番問題になっているのか、この辺からひとつお尋ねしたいと思います。 <0098>=政府委員(小林奉文君)= 我が国におきまして規制されている薬物には幾つかの種類がございます。覚せい剤を初めといたしましてヘロイン、コカイン等の麻薬、大麻、アヘン、睡眠薬や精神安定剤等の向精神薬、こういったものが規制されている薬物に該当するわけでございます。  我が国におきまして、このような薬物事犯の検挙人員のうち、九割前後を覚せい剤事犯が占めております。覚せい剤事犯が薬物事犯の大きな問題になっているという状況でございます。また、世界的に見ましても、従来は大麻、ヘロイン、コカイン等が乱用の中心でございましたが、最近は覚せい剤につきましても世界的に乱用される状況になっている、こういう状況にございます。 <0099>=平野貞夫君= 私は、この問題が提起されるまで、実は覚せい剤という言葉は麻薬類とか薬物類全体のことを言うのかという程度の知識でございました。専門の方は別にしまして、多くの人はその程度の知識じゃないかと思います。  驚きました。薬物犯罪の検挙人員の九〇%は覚せい剤ということで、覚せい剤中心の質問をしたいと思いますが、覚せい剤の乱用によって人間の身体あるいは精神にどのような悪影響を及ぼすのか、簡単に御説明いただきたいと思います。 <0100>=政府委員(小林奉文君)= 覚せい剤につきましては、注射等によって摂取するわけでございますが、摂取後数時間においては眠気、疲労感等が消失して、頭がさえたように感じられ、陽気になる、こういった効果がございます。ただ、その効果もすぐに薄れまして、脱力感、疲労感、倦怠感に襲われる、こういうふうな状況に陥るということでございます。  そういった観点で、薬切れの不快感から逃れようとして連続使用が始まるということでございます。やがて、幻覚や妄想等の中毒症状があらわれ、身体的に見ましても、やせ細ったりあるいは瞳孔が散大するなどの症状があらわれてきます。時に、錯乱状態から発作的に殺人等の凶悪事件を引き起こす場合も少なくございません。  また、こういった覚せい剤を乱用しておりますと、フラッシュバックと申しまして、過去に覚せい剤中毒になった者が薬物を中断して数年間無症状な状態を経過しても、何らかの誘因で中毒時と同様の病的な精神状態を引き起こす現象が見られるということでございます。 <0101>=平野貞夫君= 大変な恐ろしいものだということですが、覚せい剤の製造方法、ほかの薬物と比較してどんな特徴があるかということをお尋ねしたいんです。 <0102>=政府委員(小林奉文君)= 覚せい剤の製造方法につきましては、大別しますと二つの類型があろうかと思います。まず、麻黄という植物から得られますエフェドリンという物質から製造する方法でございます。もう一つの方法は、ベンズアルデヒド等の工業薬品から化学合成して製造する方法でございます。  例えば、ヘロインについて見てみますと、ケシを栽培してそこからアヘンを抽出し、さらにそれを精製してつくっていくわけでございます。また、コカインにつきましては、コカという植物を栽培して、その葉から必要な成分を抽出して精製するわけでございます。  こういったものに対しまして、覚せい剤につきましては、製造に手間がかからず、さらに化学合成により製造する方法につきましては、植物を原料としていないことから気候等の自然条件等に左右されない、こういった特徴があろうかと思います。一方で、ヘロイン、コカインに劣らない収益が期待できる状況にございますので、現在、世界的に覚せい剤の密造が増加している、こういう状況にございます。 <0103>=平野貞夫君= わかりました。  お話の中に化学合成でできるという言葉がありましたんですが、化学合成ということになりますと、もともとの原料は何でしょうか。 <0104>=政府委員(小林奉文君)= 先ほどベンズアルデヒド、フェニルアセトンということを申し上げましたが、これらのものはトルエンから製造されます。このトルエンは石油から合成されることが一般的なものである、こういうふうに考えられております。 <0105>=平野貞夫君= そうなると、大量生産できるものだということでございますね。  さて、我が国で乱用されている覚せい剤、これはどのようなところからどのようにして入り込んできているか、これをおただししたいんです。 <0106>=政府委員(小林奉文君)= 現在、我が国にあります覚せい剤のほとんどは海外で密造されまして、国際的な薬物犯罪組織の手によって密輸入されている、こういう状況でございます。また、日本側におきましては暴力団等の組織がその受け手となっている。言うなれば、二つの組織が連携してやっている、そういう状況にございます。  これらの覚せい剤は、その多くが中国や東南アジアのゴールデントライアングル等で密造されているということでございます。その密造された覚せい剤が香港やフィリピン等さまざまなルートを経由して国内に密輸入されております。  その際にどんな手口で密輸されるかということでございますが、例えば正規の輸入貨物に巧妙に隠匿したりする方法、あるいは漁船等を使いまして海上で受け渡しをする、いわゆる瀬取りという方法でございます。こういったいろいろな方法で我が国に密輸入している、こういう状況にございます。 <0107>=平野貞夫君= というと、我が国を取り巻く覚せい剤の流入の構造というのは極めて大がかりかつ複雑かつ巧妙に行われているということになると思いますが、他の国と比較しまして、我が国の覚せい剤の乱用状況といいますか、我が国の状況というのはどういうふうに位置づけられるか。いかがでございましょうか。 <0108>=政府委員(小林奉文君)= 我が国の覚せい剤の状況がどのように位置づけられているかということでございますが、国連の資料によりますと、年間一トン以上を押収している国は世界でも数カ国程度でございます。我が国における実際の覚せい剤の流通量は、我々が捜査で押収します押収量をはるかに上回るものがあるのではないかと考えておるところでございます。そういった意味で、我が国は世界でも有数の覚せい剤消費国ではないか、こういうふうに考えて間違いないかと思います。 <0109>=平野貞夫君= これは本当に、私は参議院議員になって七年目になるんですが、覚せい剤というのはこんなに重要な、重大な問題を抱えているかということをこの通信傍受法の勉強の機会に知って愕然としたわけです。  ちょっと数字的なものをお尋ねしたいんですが、一年一年の数字というのはちょっと傾向がわからぬと思いますが、過去二十年間で日本での覚せい剤の押収量、警察が押収する量、この推移を五年ごとに固めたらどのような数字になるか教えていただけませんか。 <0110>=政府委員(小林奉文君)= 二十年前ということでございますので、昭和五十四年から御説明申し上げたいと思います。  昭和五十四年から昭和五十八年までの間に六百十八・一キログラムでございます。それから昭和五十九年から六十三年までの間が千六百七十五・九キログラム。それから平成元年から五年にかけまして八百七十四・三キログラム。平成六年から平成十年までの間が千七百七十・一キログラムの押収量となっているということでございます。 <0111>=平野貞夫君= この五年ごとの押収量の出方、ひっくくり方というのは非常に興味があるんですが、本年六月ごろまでの覚せい剤の押収量について、幾つか報道もありますし、先ほど服部理事からのお尋ねもありましたが、正確には本年はどのぐらい押収していますか。 <0112>=政府委員(小林奉文君)= 覚せい剤の押収につきましては、昨年の夏ごろから大量押収が続いております。国際的な薬物犯罪組織が関与しているわけでございますが、本年に入りましてもその傾向が続いておりまして、六月十六日までの暫定値でございますが、一トンを超える数字でございます。千百三十二・八キログラムが押収されております。  この量は、過去、年間最多押収量が平成八年の六百五十・八キログラムでございますので、これを半年ではるかに上回る押収量になっている、こういう状況にございます。 <0113>=平野貞夫君= 昨年の秋でしたか、私の生まれた土佐湾で、ビニール袋に包まれた覚せい剤が海岸に着いて大騒ぎしたことがあるんですが、今のお話ですと、本年半年分の押収量が過去五年間の押収総量に迫る勢いだということになりますが、私、これは非常事態だと思います。  そこで、私が知りたいのは、押収量じゃなくて、実際どのぐらい消費されているか、流入しているか。この推定はできませんか。 <0114>=政府委員(小林奉文君)= 委員御指摘のとおり、諸般の情勢から判断しますと押収できている量はほんのわずか、言うなれば氷山の一角じゃないかと思います。  ただ、その場合に、全体の消費量あるいは流入量ということでございますが、これにつきましては大変難しい問題がございまして、具体的にこのぐらい入っているのだという量を推定するまでにまだ至っておりません。しかしながら、私どもの判断としましては、相当量の覚せい剤が我が国に密輸入されているのではないか、このように考えておる次第でございます。 <0115>=平野貞夫君= 押収した分がほんのわずかだとか、それから相当量が流入しているだろうということですが、ちょっと角度を変えて申し上げますが、ことしに大量押収した背景、あるいは平成六年から十年までの五年間が非常に急増しているという背景、これは何でございましょうか。 <0116>=政府委員(小林奉文君)= 最近の押収量の増加等の背景についてでございますけれども、幾つかの点が指摘できるんじゃないかと思います。  まず第一に、中国での覚せい剤の密造が活発化しまして、我が国に大量に流入するようになってきたということでございます。  それから次に指摘できますのが、従来は暴力団による薬物密売ということが行われていたわけでございますが、それに加えまして最近は来日イラン人等が組織的に覚せい剤等の密売を街頭で行うようになってきている、こういった点でございます。  そういった点を踏まえまして、第三点目に指摘できますのが、少年層に薬物乱用に対する抵抗感、警戒感がなくなってきている、低下してきているという状況でございます。規範意識の低下の傾向が顕著に見られるようになってきている、こういった三点の特徴が見られるわけでございます。  私どもといたしましては、押収量のみならず覚せい剤事犯の検挙人員も増加傾向にあるということで、そのような情勢を踏まえまして、平成十年の初めに現状を第三次覚せい剤乱用期が到来した、このように宣言したという状況にございます。 <0117>=平野貞夫君= これだけ大量に押収しますと、普通の市場ですと、普通の品物ですと価格というのは品薄になって上がると思うんですけれども、その辺の変化はどうでございますか。 <0118>=政府委員(小林奉文君)= 大量の押収をしておるわけでございますが、現在末端での販売価格に上がった状況があるかどうかということについてでございますけれども、そういった状況にあるという報告、あるいはそういう情報は我々として把握していない、そういうことでございます。 <0119>=平野貞夫君= そうすると、余り価格が変わっていないということは何を意味すると警察庁では認識していますか。 <0120>=政府委員(小林奉文君)= これだけの大量の覚せい剤を押収していながら末端価格が上昇していない、こういうことは市場においては覚せい剤が品薄状態になっていない、こういうことだと思います。  そういった意味で、相当大量の覚せい剤が現に密輸入されて、流通しているのでその価格に影響を与えていない、こういうふうに見ておる次第でございます。 <0121>=平野貞夫君= 相当大量の覚せい剤が流通しているものと憂慮しているということですが、警察庁ではある程度消費量というか、流通量は推定できているんじゃないでしょうか。  しかし、これは押し問答していてもしようがありませんので、別の角度から言いますが、私が調べました専門家の文献によりますと、昭和五十四年の流通量を約二トンというふうに推定しています、専門家です。それから、六十二年、これは第二次覚せい剤乱用期の終わったころでございますが、昭和六十二年の流通量は約七トンというふうにかなり客観的にはじいております。  それから考えますと、少なく見積もっても、現在、年間十トンを下がることはないと私は思います。それ以上だと思います。場合によってははるかに数倍かもしれません。そういうふうに私は政治家の一人として想定するんです。  先ほどのお話の、ことしの覚せい剤の押収量の千百三十二・八キロを使用回数に換算するとどういう数字になりますか。 <0122>=政府委員(小林奉文君)= 覚せい剤の使用量につきましては個人差というものがございますが、現在の平均的な使用量から見ますと、一回当たり約〇・〇三グラムでございます。これをもとに換算いたしますと、約三千七百七十六万回分になるということでございます。 <0123>=平野貞夫君= ついでに、まことに申しわけありませんが、仮に三トンあるいは五トン、十トンでは回数はどのぐらいになりますか、この〇・〇三グラムで結構でございますから。 <0124>=政府委員(小林奉文君)= 先ほどの〇・〇三グラムで換算いたしますと、三トンの場合で約一億回分、それから五トンの場合で約一億六千六百六十七万回分、十トンで約三億三千三百三十三万回分、こういった状況になろうかと思います。 <0125>=平野貞夫君= 少なく見積もって十トン、今のお話だと三億三千三百三十三万回ということになります。これはごく大まかに言いますと、日本の全人口、赤ちゃんからお年寄りまでですが、一年に一回使う感じですね、ちょっと足りないかもわかりませんが。それから、一日たしか百万人といいますか百万回使えるんですよ、こんな数字。これ以上だと思います、これの数倍になるかもわからぬ。この実態を考えると、これは大変なことだと思います。  要するに、先ほどお話にもありましたように、東南アジアのさまざまな地域で国際犯罪組織と日本の国内の犯罪組織、暴力団ですか、これが提携している、こういうお話でございました。そして、日本にこういう大量の覚せい剤を密輸入している。この実態は私は極めて我が国の国家の存立にとって基本になる問題だと思います。それは言いかえれば、静かなテロリズムが進行していると言ってもいいと思いますし、それから姿を変えた戦争といいますか侵略が行われている、日本民族に対して、日本の国家社会に対して。そういうふうに私はやっぱり深刻に考える。  これを例えば五十年、あるいは五十年行きませんで三十年、特に女子高校生には相当浸透が速いということですので、こういう現象を見ますと、私は、将来、もう三十年たったら、日本の社会の構成がおかしくなり、日本人の体と心もぼろぼろになるんじゃないかという危惧をしていますが、法務大臣に質問するつもりはございませんでしたが、お見えでございますので、どのような御所見でしょうか。 <0126>=国務大臣(陣内孝雄君)= 私も、法務大臣に就任いたしましてから、少年院とか刑務所等を回り、あるいはまた保護観察官あるいは保護司、そういった方々の意見も聞いてまいりましたが、やはりせっかく出獄あるいは退院しても、この薬物の犯罪を犯した人たちというのはどうしてもまたもとへ戻る率が高いというようなことを聞いて、非常にみんなが努力して一人前の立ち直りを願ってやる割にはそういう人たちにはちょっとむなしい思いをさせられるということを聞いてまいりました。  やはりこういう薬物被害というのはなかなか絶ちがたい面があるなと。そういうことを考えますと、やっぱりこういうものに汚染されないようにすることが一番大事なことだと思います。  今お話しのように、押収量が、これは氷山の一角かもしれませんけれども、既に半年で一トン百を上回った、過去最高になっていると。これだけでも、刑事局長の先ほどの話ですと、三千八百万人ぐらいが一回打つ量に該当するということでございます。これは、今先生からのお話を伺いながら、我が国は本当に深刻な状況に向かいつつあるなということを痛感します。  また、外国では既に十年前に、パリのアルシュ・サミットのときにFATFで、こういう麻薬犯罪に対して社会としても立ち向かおうという動きがあるわけでございますが、我が国を初め世界が連携をしてこの問題の撲滅あるいは退治に取りかからなければいけない大変重要な時期に差しかかっているという話を伺いました。  まさに、内部から我が国も崩壊していくんじゃないかと。そういう意味では、戦争という表現、これも大変私もよく理解できる先生の表現だと思って拝聴いたしました。  いずれにいたしましても、こういう状況を改善するためには、組織犯罪対策三法を早急にお通しいただいて、新しい捜査手段を与えていただいて、こういう将来の我が国に対して禍根のないような状況をつくり上げたいと思いますので、何分にもよろしくお願い申し上げます。 <0127>=平野貞夫君= 大臣が結論を出してくれたんですが、実は私が調べましたところ、覚せい剤の検挙数はふえていますが、どうもその譲り渡しする事犯、ここの検挙率が、昭和六十三年では三千百十五人だったものが、昨年の平成十年では千四百八十一人と、半減、半分以上減っています。これは何か構造的に欠陥があるのか。  先ほど来の局長のお話を聞きますと、密売組織の悪質化、巧妙化ということになると思うんですが、暴力団などによる組織的な覚せい剤の密売事犯の捜査においてはどんな点が隘路になっているか、率直に言っていただきたいのです。 <0128>=政府委員(小林奉文君)= 暴力団等によります薬物密売事件につきましては、いわば組織を背景とした閉鎖的な集団による犯罪、このように私ども見ておるわけでございます。そういった観点から、捜査上も幾つかの隘路が生じてくると思います。  例えば、犯行が組織的かつ秘密裏に行われ、しかも連絡手段が、最近は転送電話を利用する、あるいは携帯電話を利用する、そういったことで大変手口が巧妙化してきている、こういうことがあろうかと思います。  また、組織に属している者は検挙されても黙秘するのが通例でございます。また、当然のことながら、否認するような者も多いわけでございます。そういったことから、これらの者から突き上げ捜査をすることが大変困難になってきている、こういう状況でございます。  また、こういった犯罪につきましては証拠隠滅が組織的に行われる、こういった点も指摘できようかと思います。そういったことで、首謀者の特定、検挙を初めといたしまして、犯罪の全貌、全容を解明することが困難になってきている、こういう面があろうかと思います。 <0129>=平野貞夫君= よくわかります。そういうところにやっぱり通信手段の技術的発展、普及、そういったことがこういった犯罪を非常に多く、しかも活発にさせている、そして制度がそれについていかない、こういう現状が明確だと思います。そのために、政府から出された通信傍受法案外二法案、それから、それに対してやはり人権を守る、必要最小限の制約をするということで憲法上許される範囲での衆議院の修正はまことに私は至当なものと思います。  実は、月曜日に出されました週刊現代という週刊誌に「「ドラッグ大国日本」の快感と病理 子供と家庭と若者を襲う闇」というグラビアが載っていまして、そこに、都内の六人の女子高校生に話を聞いております。エスといえば覚せい剤のことですが、「エスのやり過ぎで、高校生なのにもう廃人になっちゃってる子もいるんだよね。精神病院に入っちゃって。直接知ってる子だけで二人もいるよ」、こういう話を出しております。  私、きょうの理事懇で、どうしてもきょうはこの質問をしたいということを頑張ったんです。理事の皆さんのおかげで、することができて、大変感謝していますが、一日でも、一刻でも早くこの話を、覚せい剤の恐ろしさを私はこの委員会を通して国民の皆さんに知らせたかったからでございます。ここのところをよく理解していただきたいと思います。  残念なのは、六月二十四日、日比谷野外音楽堂で、「許すな盗聴法 6・24大集会」に民主党の菅代表、共産党の不破委員長、社民党の土井党首が出席されています。インターネットの情報ですけれども、菅代表は、国家権力や警察の管理から民主主義を守るため廃案にすべきだ。不破委員長は、憲法二十一条をとりでにして市民生活を守る、そのために廃案にすべきだ。土井党首は、戦前の治安維持の検閲を許してはならない、そのために廃案にする。こういうあいさつをしたと言われております。これが事実なら、私はゆゆしき問題だと思っております。決して、そういう二十世紀前半の共産主義、社会主義思想でこの二十一世紀は渡れないと私は思っております。  以上申し上げまして、時間が参りましたので、質問を終わります。 <0130>=委員長(荒木清寛君)= 三案に対する本日の質疑はこの程度にとどめます。  本日はこれにて散会いたします。    午後六時三十六分散会