盗聴法の強行採決に抗議し、廃案を求める共同声明


 捜査機関が電話や電子メールなどを合法的に盗聴できる組織犯罪対策法(盗聴法)案が6月初めにも衆院で可決される恐れが濃厚になっている。新聞労連、民放労連、出版労連のマスコミ3単産はこの法案成立に断固反対し、国民的議論を尽くさず拙速に国会通過を図ろうとしている自民、自由、公明3党の暴挙に強く抗議する。
 3党の共同修正案は、盗聴の対象を薬物、銃器、集団密航、組織的殺人に限定し、立会人の常時立ち会いを義務づけているが、対象を決定するのはあくまで捜査機関側であり、立会人のチェック権限や能力も不明なままである。乱用の恐れがあり、基本的人権を侵す憲法違反の悪法であることは明らかだ。
 とりわけ、報道機関にとって盗聴法は、取材源の秘匿と記者のプライバシーを侵害し、言論・報道の自由を脅かす。
 報道現場に携わる者は情報収集が日常作業であり、いかなる相手であろうと接触を図らなければならない。その中には、警察、検察が盗聴の対象にしている組織が含まれている可能性があり、電話がつながった瞬間、ジャーナリズムが守らなければならない取材源の秘匿は保てなくなる。ニュースソースを守れない状態で、自由な取材や報道はできない。さらに恐ろしいのは取材記者自身も盗聴の対象になりうることだ。事件と関係のないプライバシーに関することであれ、録音はされないものの、捜査員がすべて盗み聞きしており、後日、脅しの材料に使われかねない。
 警察による過去の盗聴事件を見ても、その悪質さは明白であり、権力と対峙するマスメディアやジャーナリズムであればあるほど、弱みを握るために盗聴される恐れが強い。
 また、マスコミが警察権力に陰で圧力を加えるようなことになれば、真実の報道、自由な言論活動が著しく阻害され、一般市民は直接的な人権侵害ばかりでなく、知る権利も奪われ、二重の意味で多大な被害を受ける。
 この悪法が、警察、検察の思いのままに乱用されれば、権力を監視する者はいなくなり、半世紀あまり前のものが言えなかった暗い時代が再びやってくる。戦前、戦中、時の言論・報道機関が、真実を伝えず、大本営発表を垂れ流していた歴史的事実を思い起こせば、盗聴法が時計の針を戻す危険きわまりない法案であることは誰しもが理解できるところであろう。
 日本を見ざる聞かざる言わざるの警察国家に逆戻りさせかねない法案が国会で十分審議されることもなく、公明党の修正案に自民、自由両党が全面同調し、衆院で強行採決されようとしている。天下の悪法を党利党略の具にすることは爆弾で遊ぶ愚行に等しい。心ある政治家であれば、その危険性を認識できるはずだ。
 言論・報道に直接携わる新聞、民法、出版の3単産を代表して、組織犯罪対策3法案(盗聴法案)の成立に断固反対し、参院での審議を尽くしたうえ、廃案にすることを強く要求する。

1999年5月28日
日本新聞労働組合連合中央執行委員長     服部 孝司
日本民間放送労働組合連合会中央執行委員長  岩崎 貞明
日本出版労働組合連合会中央執行委員長    今井 一雄