法務省刑事局への要望書


1999年7月8日

法務省刑事局  御中

要 望 書

私たちは、盗聴(通信傍受)法案の徹底調査、慎重審議を求めるものです。以下その理由を述べます。

 現在、参議院において、盗聴(通信傍受)法案が審議されているが、その審議の内容を見る限り、衆議院で行われた審議の範囲にとどまり、本質的議論がなされないまま終わりかねない。われわれ通信事業にかかわるものとしては、この事態はきわめて問題があり、通信環境に深刻な影響を及ぼすことになるので、本要求書により、徹底審議を求めるものである。

 現在の審議の中心は、従来の電話回線を利用したアナログ電話と関連する範囲の傍受に終始しており、現在の情報流通の実態とかけ離れたものとなっており、本来論ずべき核心部分については、まったく議論がなされていない。

 すでに、情報流通の主流は従来型の電話の利用から、電子メールや、インターネットを利用したデータ通信に移行している。この変化は、98年の調査により、データ通信の総量が電話利用の総量を超え、現在もデータ通信がさらに急増しており、今後の高速度通信網の確立に伴い、情報流通の大半がデータ情報通信となることは明らかである。

 こうして現在の情報流通の主流がデータ通信に移行していることからすれば、これからの盗聴(通信傍受)の対象の過半は、データ通信とその回線網となる。にもかかわらずデータ通信の傍受に関する技術的究明、傍受の手法、データ解析方法、データ類に対する司法審査の方法・可能性、制度的な安全性確保、といった手続きや制度の明確化などは何らなされていない。

 この分野は確かに専門的分野であり、国会議員に漫然と審議を求めても、十分な審議は期待できない。しかし、データ通信が、今後の情報流通の基本となる以上、その重要性、国民に与える影響からみて軽視することはできず、まして、国会での審議を怠り、捜査当局の運用に「白紙委任」することは許されない。国民にとって理解困難な問題であればなおさら、専門家を交えた公正な見地からの調査、検討が必要になり、それを主導的に行うのが、国会の義務であると考える。

 盗聴(通信傍受)法は、電話という範囲では通信の秘密にかかわる重大な問題であるのはあきらかであるが、データ通信の分野においては、これまでの閉じられた会話の性格から、表現行為の主要な手段となり、開かれた議論のツールとしての役割も大きくなっている。データ通信は、通信手段の範囲を超えて、出版、言論行為を支え、表現の自由に直接関連するものとなっている。そして、さらには思想の自由にも深く関連するものとなる。  こうして、国民の基本的人権とさらに深く関連しているのである。

 また、データ通信は、電話の会話と異なり、通信対象の拡大、情報流通の高速化などにより、送受信者の範囲は飛躍的に拡大しており、予定される傍受対象は当然のことながら、広範囲におよび、電話による会話者間といった狭い範囲とは比較にならない。この拡大現象は、量的拡大にとどまらず、すでに質的拡大の時代となっている。

 現在において、データ通信行為が、通信行為としての範囲を超え、表現行為であり、思想の自由に深く関与している現実を見る限り、この分野を中心に据えた議論が必要であり、データ通信に関する盗聴(通信傍受)行為を議論の対象としなければ、本質を議論したことにならないと考える。

 そして、データ通信のおおくは、民間の第二種電気通信事業者(いわゆるプロバイダ)が媒介するものであり、傍受対象はそうした事業者に集中することになる。また、多数の通信回線を同時に傍受する場合や、ケーブル類を利用した通信を押さえる場合に、基幹回線が傍受対象とされる危険もあり、多数の事業者の事業遂行に支障をきたすなど、さまざまな弊害を生じるが、この点もまったく議論されていない。 

 われわれは、通信事業に深くかかわるものとして、参議院において、データ通信を対象とした徹底した調査、審議を要求するものである。具体的には、参議院において、本件審議に関する特別委員会を組織して、その委員会において、データ通信の専門家を招聘し、徹底した調査、科学的技術的問題を明らかにして、それに基づく徹底した審議が行われるよう要求するものである。

孫泰蔵▽伊藤穣一▽吉村伸▽尾崎憲一▽高橋徹▽牧野二郎


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最終更新: 1999/07/23