組織的犯罪対策三法案についての声明

名古屋弁護士会「6・15声明」


            声    明

 去る6月1自、衆議院本会議において、いわゆる通信傍受法を含む組織犯罪対
策三法案が一部修正のうえ可決され、6月9日、参議院本会議において法務委員
会へ付託された。

 この法案は、(1) 通信傍受の対象犯罪を、薬物・集団密航・銃器関連犯罪及び
組織的な殺人に限定し、(2) 令状発布権者を地裁裁判官に限リ、(3) 通侵傍受の
際には常時立合人を立ち会わせることとし、立会人に意見を述べる権限を与え、
(4) いわゆる別件傍受、緊急傍受の対象犯罪を上記犯罪又は死刑もしくは無期又
は短期一年以上の懲役もしくは禁固に当たるものに限定し、その場合に当該通信
に該当するかどうかを裁判官に審査させ、(5) 通信傍受を行った捜査官等がその
職務に関し電気通信事業法・有線電気法に違反したときは、三年以下の懲役又は
百万円以下の罰金に処する等、従来の政府提出法案に一部修正がなされた点にお
いては一定の評価をなし得るものの、日弁連が意見書等で指摘してきた上記以外
の問題点については、十分な議論がなされたとは言い難い。

 例えば、傍受の対象が組織的な犯罪のみに限定されず、いわゆる将来犯罪や令
状に記載されていない別件犯罪についても傍受が許されること、立会人に通信内
容を聴く権限や傍受切断権が認められていないため違法な通信傍受を未然に防止
する歯止めとならないこと、刑事手続に使用されない傍受記録について通信当事
者に一切知らされないこと、等重要かつ基本的問題点は解消されていない。

 従って、本法案のままでは、犯罪とは無関係な通信が捜査機関によって監視・
集積されるおそれがあり、国民のプライバシー権が侵害される等人権侵害の危険
は拭い切れないところである。

 また、組織犯罪に対する重罰化、犯罪収益規制(いわゆるマネー・ロンダリン
グ規制)に関する法案についても、国民の基本的権利である結社の自由、経済活
動の自由などいわゆる市民的自由に重大な制約を課すおそれがあるにもかかわら
ず、衆議院においてはほとんど議論された様子はない。

 当弁護士会としては、薬物・集団密航・銃器関連犯罪等の近時の状況を憂い、
これらへの対応の必要性を否定するものではないが、この三法案が上記のとおり
憲法の保障する通信の秘密・プライバシー権・表現の自由・経済的活動の自由・
適正手続の保障等の国民の基本的人権を侵害する危険を内包するものであること
に鑑み、参議院においては、憲法上、刑事法制上の問題点について議論を尽くし、
慎重な審議がなされるよう強く求めるものであり、現状のままでの立法化には反
対するものである。

 平成11年6月15日
                         名古屋弁護士会
                            会長 那須國宏

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