「通信傍受」法案の修正案に反対しあくまで廃案を求める声明

盗聴法成立阻止ネットワーカー連絡会
ネットワーク反監視プロジェクト

5月25日/1999


組織犯罪対策関連法案について、5月20日に公明党・改革法務部会名の修正案(以下「修正案」)が提案されました。これに沿って、法案の成立が図られることになるのではないかと、私たちは強い危惧を持ちます。

私たちは原案だけでなく、公明党の修正案およびこれをもとにしたいかなる修正案についても、反対であり、廃案を要求します。以下、廃案とすべき理由を述べます。

修正案は、「捜査機関による通信の傍受は、薬物事件等の捜査に有効であることは認められるものの、憲法で保障されている通信の秘密を侵害することがないよう、慎重の上にも慎重を期して対応するべきである。」と書いています。しかし、修正案では、憲法で保障された通信の秘密の侵害を容認することにしかなりません。

従来、日本国憲法第二一条の通信の秘密条項を根拠として、日本では捜査当局の盗聴捜査は大幅に制限され、例外的に数件の盗聴捜査が裁判所によって認められてきたに過ぎません。

 これに対し、今回の法案は、単に従来の例外的な盗聴捜査を法制度化するといったレベルのものではなく、対象犯罪、盗聴期間、立ち会い等の捜査機関に対する規制の在り方、通信事業者の義務など、質的にみても従来の憲法解釈を根本的に改め、捜査当局による盗聴捜査を基本的に認める、というものです。

したがって、憲法の理念を尊重するのであれば、修正案の提案と審議に先立って法務委員会のなすべきことは何よりもまず、憲法解釈を変更しなければならない理由について、検討を加え、修正案の提案者はこの点について詳細な説明をすることです。これなくして、単に、盗聴捜査が薬物事犯などで「有効」である、という理由で導入を容認するのであれば、明らかに本末転倒であります。

以下、公明党の修正案およびこれをふまえてのいかなる修正案も憲法の保障する通信の秘密が守れない、と考えられる点について立証します。

1 対象犯罪の限定では犯罪とは無関係な通信の盗聴を防ぐことはできない

対象犯罪を限定すれば犯罪とは無関係な盗聴捜査は軽減する、とはいえないことは、従来の本法案よりもより厳格な規制のもとで行われた盗聴捜査によって立証済みである。たとえば、旭川の覚醒剤事犯で行われた盗聴捜査では、盗聴された通信の約8割が犯罪とは無関係の通話であった。同様に、本法案よりもより厳格な盗聴方法を義務づけている米国の場合でもやはり通信の8割は犯罪と無関係な通信の盗聴が行われている。

犯罪とは無関係な通信を盗聴してしまうのは、聞いてみなければわからない、からであるだけでなく、盗聴対象となる通信回線が犯罪専用回線であることはまれであり、さまざまなその他の通信にも使用されるということ、また、盗聴対象者は四六時中犯罪関連の通信しか行わないのではなく、彼/彼女もまた一般市民としての日常的な通信を行う。したがって、通信の一方が犯罪に関わっている可能性のある人物だとしてももう一方の人物もまたそうであるとは必ずしも言えない。

以上のような通信の状況は、対象犯罪の絞り込みとは無関係に存在する事柄であり、したがってたとえ対象犯罪を絞り込んだとしても、捜査当局が盗聴した通信に占める無関係通信の盗聴の割合を劇的に低下させることにはならない。少なくとも、上記の旭川の事例や米国の報告から推測するに、本法案に従った場合、盗聴される通信の大半は、犯罪とは無関係な通信で明らかに憲法二一条の通信の秘密条項で保護されるべき通信となる恐れが大きい。しかもその割合は、確実に8割を越えることは予測がつく。

2 裁判所は公正な令状発付を行う条件を持ち得ていない

対象犯罪が限定されても裁判所の令状発付がずさんであれば、厳密な意味での組織犯罪捜査に限定されず、監視や行政警察活動のために流用される危険性が伴う。修正案では、令状請求を特定の警察、検察官に、また令状発付を地裁以上に限定することで、ずさんな令状発付を防止できるとしている。

しかし、これは、本質的な解決ではない。裁判所は、令状請求の審査を警察、検察側の言い分のみを聞いて審査しなければならず、しかも、令状請求に必要な要件は決して厳しくない。米国の盗聴法では、捜査当局は、盗聴捜査以外の手段がないことを裁判所に「詳細に陳述」することを定めているが、本法案にはそうした規定すらない。そして、盗聴捜査がいったん開始されてしまえば、それを中断させる権限を持たない。裁判所のチェック機能は極端に制限されているのである。この点は、修正案でも基本的に変りはなく、単に令状発付裁判所から簡易裁判所を除けば解決するという問題ではない。

3 通信内容を聞くことができず、切断権もない立会人制度は、警察の違法盗聴の隠れみのに利用されるだけである

修正案では、常時立会いと、意見を述べる権限を追加しているが、これも基本的な歯止めにはならない。

従来、例外的に認められてきた盗聴捜査(それですら8割が無関係通信の盗聴である)では、立会人は通信の内容を聞き、切断権を持つものであった。本法案でも修正案でもこれらについてはいっさい言及されていない。法務省は、立会人は通信の内容を聞くことができない、との見解を持っている。また、意見表明は、権限を伴わないから、結局は立会人はなにもできないことに変りはない。本質的にはなんら権限も実際的なチェック機能も果たせないにもかかわらず、立会人がいるというだけで、なんとなく適法な盗聴捜査が行われているかの印象を与えることになる。いいかえれば、本法案、修正案にあるような立会人制度は、捜査当局の規制になるどころかむしろ捜査当局の違法、不正な盗聴捜査の隠れみの、カモフラージュとして利用される危険が極めて高い。少なくともそうした危険性をわずかなりとも軽減できるとすれば、裁判官か弁護士の常時立会いと切断権の保障が必要だろう。

4 その他の修正事項も盗聴捜査の本質的な危険性を解決するものではない

 別件盗聴の制限や違法な「傍受記録」の抹消などを修正案は盛り込んでいるが、これらはほとんど意味のない修正である。というのは、本法案では、盗聴期間 全体にわたって「該当性判断」のため、という理由でいつでも自由に盗聴できるからだ。テープに記録する内容は制限されるが、メモなど私的な記録をとることは何ら制限されていない。したがって、テープなど記録媒体に記録している時以外は盗聴できず、メモなどの記録をいっさい禁ずる、ということでもなければ、こうした限定は全く効果はないといってよい。

 通信の秘密侵害罪の重罰化も前提条件があいまいであり、多くの抜け道がある。たとえば、おなじ捜査機関内で盗聴捜査の内容を利用しあうことは明確に禁止されていない。おなじ捜査機関内部であれば、盗聴捜査の内容を漏らしても通信の秘密の侵害にならない、ということになれば、事実上上記侵害罪はほとんど無意味である。さらに捜査機関の国際協力がうたわれていることをふまえれば、盗聴捜査による情報は、国外の捜査機関にも提供されることになる。

5 あくまで廃案を求めます

 以上のように、修正案の関係する個所だけでも、まったく通信の秘密を保護できる内容ではないことは明らかです。

 さらに、本法案には、修正案が取り上げていない多くの問題があります。たとえば、将来の犯罪に対する盗聴、暗号の全面的な盗聴とその解読義務、通信事業者の協力義務、国会報告のありかた、当事者への通知のありかた、異議申し立ての方法の問題、さらには盗聴行為の公的資金に与える大きな負担など、いずれも極めて深刻な問題があります。

 現在の修正案は、これら諸点について言及されておらず、それは、これらについては原案どおりでよいということを意味します。しかし私たちは、修正案では言及されていないこれらの条項にも重大な問題があり、したがって、とうてい修正案は容認できるものではないと考えます。

 以上のように、私たちは、組織犯罪対策法案については、その修正案も原案も、いずれも憲法の保証する通信の秘密を著しく侵害するものと認め、その成立に反対します。本法案を直ちに廃案とすることを、強く要求します。

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