子どもたちは二度殺される【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
780220 学校災害 2002.3.3新規 
1978/2/下旬 岐阜県岐阜市の加納小学校で、課外クラブ活動中に、マンガ・クラブの教室で突然、男子生徒Mくん(小4)が手製の弓矢を射かけて、丁度振り向いたクラブ長の男子生徒Kくん(小6)の右目に当たって失明。
経 緯 第6時限目のクラブ活動時間に、3年4組の教室を使用していたマンガ・クラブで、クラブ長のKくんがクラブ員(6年生5名、5年生5名、4年生4名の計14名)が揃ったところで、黒板に注意書きを書き始めた。
そこへMくん(小4)が突然、3メートルほどの距離から手製の弓で矢を射かけた。
偶然、後ろを振り向いたKくんの右目に当たった。
Kくんは、右眼角膜穿孔外傷、水晶体損傷の傷害を受け、失明した。
凶 器 弓は約30センチほどの竹ひごに糸を張ったもの。矢は竹ひごを削って作ったもの。
Mくんは、登校途中で友だちからこの弓矢をもらって、ポケットに入れて持ち歩いていた。
教師の動向 当時、同小学校には19のクラブがあり、校長、教頭を除く21人の教師がいっせいにその指導にあたっていた。
この時期、翌年からクラブ活動に参加する3年生のためのクラブ見学をクラスごとに担任教師が引率。
マンガ・クラブ担当のO教師は、3年4組の担任。第5時限目が終わったところで、校庭に受け持ちの児童約40名を集めて待たせておいた。
O教師は、マンガ・クラブの活動に使用されている3年4組の教室にとって返し、黒板にクラブ員に対する注意事項などを書いた。この時、教室内ではクラブ員は誰もいなかった。
6時限目のベルが鳴るのとほぼ同時に、O教師は再び校庭にもどり、待たせていた児童を引率してスポーツ・クラブなどの見学をさせていた。
裁 判 損害賠償をめぐる話し合いがこじれて、Kくんの父母が代理で、加納小学校の設置者である岐阜市に対して、国家賠償法による損害賠償を約2500万円請求して提訴。
原告の主張 原告側は、
1.クラブ活動に参加する児童は、その年齢からして、事理弁識能力を欠き、個々の児童間の発達程度にもかなりの差があるのだから、クラブ担当のO教諭には、クラブの教室に在室して注意・指導をし、児童の保護監督に当たる義務があったのに、これを怠った。
2.弓矢遊びは子どもの遊びとしてよくあることなので、学校としてはこうした危険物を教室に持ち込ませないように指導監督すべき義務があるのに、これを怠った。
3.クラブ活動は小学校の正規の活動だから、当然教員を配置して児童の保護監督に万全を期すべきなのに、同校ではこの時間にマンガ・クラブ担当のO教諭が不在になるのを知りながら代わりの教員を配置するのを怠った。
として、学校の過失を主張。
被告側の主張 学校側は、
1.O教諭が、事故発生時にマンガ・クラブの教室にいなかったのは、担任の3年4組の児童のクラブ見学を指導するためであって義務の懈怠(けたい)ではない。
2.M君が弓矢を教室に持ち込んでK君の目を射るというのは、校長およびO教諭にとって予見不可能な出来事だった。
3.クラブ活動は、本来、児童の自発的・自治的活動をねらいとするものだから、たまたま教員が不在となったからといって、教員の配置につき校長に過失があったとはいえない。
として、過失責任を否定した。

また、原告主張に反論して、
1.当時同校において弓矢遊びが流行していたという事実はなく、
2.児童の弓矢遊びや児童による弓矢の持ち込みの前例は皆無で、
3.M君もそれまで特別異常な行動をとったことはなく、いわゆる問題児ではなかった
ので、事故の発生の予見はまったく不可能だっだと主張した。
判 決 1981/2/4 岐阜地裁で、原告の主張をほぼ全面的に認めて、岐阜市に約2270万円の支払い命令。 
判決要旨 1.クラブ担当教員は事故防止に万全を尽くす必要がある。
クラブ活動が特別活動でかつ学年を異にする児童が参加することから児童に緊張感を欠き、また4年生という思慮分別の乏しい学年の児童も参加していることからして、担当教員が不在で児童のみによってクラブ活動が行われる場合には、一部の児童において気ままな行動に走り、場合によっては負傷事故に結びつくような事態の発生を防止するに必要な措置を講じるべきである。

2.校長の予見すべき事故の発生は抽象的なもので足りる。
校長に課せられている児童の安全保持のための義務の性質、程度から考えると、校長の予見すべき事故の発生は、当事者や態様の特定された具体的なものである必要はなく抽象的なもので足りるというべきである。
参考資料 「賠償金の分岐点 教師が責任を問われるとき」/下村哲夫著/学研教育選書



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