日本の子どもたち 事件・事故史

キーワード 三重県 津市 公立中学校 学校行事 臨海学校 女子生徒 36名溺死
1955/9/28 三重県津市の市立橋北中学校が、同市中河原海岸で夏季水泳訓練中、入水後2、3分に急激な異常流が起り、100数名の女子生徒のうち36名が溺死。
経 緯 9/27 前日も、女子生徒2、30名が北方に流されるなどした。

9/28 この日は最終日で、テストが行われていた。
約200名の女子生徒が海に入って2、3分後、100数名の生徒が一斉に身体の自由を奪われ溺れた。
教職員や水泳部の男子生徒などが救助に当たったが、女子生徒36名が溺死。
刑事裁判 校長、教頭、体育主任の刑事責任を問う。

津地裁で、校長、教頭、体育主任に業務上過失致死により、有罪判決。
校長は禁錮1年6月、教頭は禁錮1年、体育主任は禁錮1年4月、いずれも執行猶予3年。

名古屋高裁で、無罪判決。
「本件水泳事故は急激な水位の上昇と異常流の発達という不可抗力に起因するものであって、この事態に処した、被告人等の所為につき検察官の所論のような過失を認むべき証拠が不十分でない」とした。
民事裁判 遺族等が、津市を相手に損害賠償請求。
地 裁 1966/4/15 津地裁で、認容。この事故は不可抗力ではなく学校職員、教育委員会の注意義務懈怠があったとして、津市に損害賠償命令。
市に対し、原告A、B、C、Dに対し各50万円、E、F、G、H、I、Jに対し各16万6千円余り、その余の原告らに対し各25万円を支払うよう、命じた。

【判決要旨】

学校、教師の責任について、
「学校長ないし全教員は女生徒をテスト練習のため入水させようとするにあたっては、(略)近接している澪筋において溺れるというような不測の事故を防止すべく、先ず教職員が入水し、この北流の状態を調べ、ついで澪筋の水深ないし潮流を調べ、生徒の生命に危険がないようにできるだけ澪筋から離れたところに水泳場を設定すべきであり、また女生徒を入水させるにあたっては女生徒に対し澪ないし北流についての危険性について予め十分警告し、且つ不測の事故に備え直ちに救助ができるよう女生徒を適宜区分(一斉に200名も入水させることなく例えば50名宛に区分)し順次入水させ、教職員のうち水泳のできる男子教職員数名を女生徒の北側境界線に配置し、境界線から生徒が逸脱することのないよう監視を厳重にするなどして事故の発生を未然に防止すべき注意義務が存するものというべく、また、この場合、右注意義務は校長以下全教員に存することはいうまでもない。」

教育委員会の責任について、
「地方教職員の職務権限は教育委員会法49条に明定されているが、本件のような公立中学校の行う特別教育活動としての水泳訓練についてはそれが生徒の生命の安全に関することがらであることからすれば地方教育行政の最高責任を負う教育委員会としては右水泳訓練を中学校当局の自主的行事として放任してよい道理がないはずであって、(中略)市教委のうち合議制の委員会を構成する各教育委員、教育長、事務局のうち主として教育事務に直接関与する指導主事、教育課長等は自ら発した正課として行うようにとの指示に従い、その予算において行われた橘北中学の水泳訓練については右中学の本件水泳訓練については右中学校の訓練計画に不備がないかどうか、その実施状況が生徒の生命に危険をもたらすおそれはないか等を審査視察し、かつ必要な予算配置を講じ、これらについて適切な指導助言を与え、もって生徒の生命に万全を期すべき注意義務が存するものと考える。」

「もし教育委員会のなす指導助言につきこれらの者が過失責任を負わないとすれば、市教委の指導助言は何らの責任を伴わない指導助言となり、かくては、地方公共団体における最高の教育行政機関としての職能は全うし得ないであろう。」


「文部省発行の水泳指導の手引には監視船を常備することとの注意事項が記載されていることが認められ、先に認定したとおり前記教育長の発した7月12日付通牒には各学校は右水泳指導の手引を参照することと記しているのであって、教育委員会は正課として行う水泳訓練については不測の事故に備えて必ず少なくとも一隻の監視船を備えるよう予算措置を 講ずべきであったと考える。」

高 裁 1審判決とほぼ同額の賠償額で和解。
参 照 「学校事故全書A 学校事故の法制と責任」/学校事故研究会編/総合労働研究所 P35-36
「問答式 学校事故の法律実務」 1 / 新日本法規 /学校事故法律実務研究会 編集 P266-272
判 例 下級裁判所民事裁判例集17 P3-4、P249




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