日本の子どもたち 事件・事故史

キーワード 奈良県 公立中学校 体罰 刑事裁判 奈良池原中体罰事件
1953/5/23 奈良県吉野郡下北山村の村立池原中学校の講堂で、生徒ら数名が騒いでいたのを再三注意したがきかなかったため、助教諭が生徒(中2)を殴った。
生徒の保護者が、1951年の事件とあわせて刑事告訴。
経 緯 1951/3/20 奈良県吉野郡下北山村の村立池原中学校の玄関付近で、児童H(小6)ら数名が写生の時間に担任教師に嘘をついて野球をして学校に帰ってきたことに憤慨し、中学校教師Tが「中学校に入ってきたらこんな味や」と言いながら、Hら数人の児童の頭部を右手拳で1回殴打した。

1953/5/23 池原中学校の助教諭Sが講堂でラジオ聴取の時間に、生徒H(中2)ら数名が騒いでいたのを再三注意したがきかなかったため立腹し、生徒H(中2)の頭部を右平手で1回殴打した。

Hの保護者が、2つの体罰事件について告訴。
刑事裁判
地裁判決
1954/5/25 吉野簡易裁判所で、教師Tと助教諭Sに、罰金1千円、執行猶予1年の有罪判決。
(裁判官:和田謙一郎)

【判決要旨】

「各被告の判示所為は何れも刑法第208条に該当するので所定刑中罰金刑を選択し、罰金等臨時措置法第3条第1項第1号の金額範囲内で各被告人を罰金壱千円に処し、諸般の窮状に鑑み右執行を猶予するのを相当と認めるから刑法第25条罰金等臨時措置法第6条により本裁判確定の日から壱年間各被告に対してその刑の執行を猶予」する。

被告側控訴。
被告側の
主張
@親権における体罰と教師のそれとの連続性
A教育における解決―司法権介入の抑制
B生徒への愛情から出た行為
C本件程度の殴打行為は全国に広く存在し、それが刑罰に該当すれば教育上大問題
高裁判決 1955/5/16 大阪高等裁判所で、教師らの控訴を棄却。
(裁判長判事:荻野益三郎、判事:梶田幸治・井関照夫)

【判決要旨】

「原審の取調にかかる他の証拠及び当審取調の各証拠によっても、所論のように形式的に軽くノックしたに止まるという程度のものであったとはとうてい認められないものである。もっとも、右殴打は、これによって傷害の結果を生ぜしめるような意思を以ってなされたものではなく、またそのような強度のものではなかったことは推察できるけれども、しかしそれがために右殴打行為が刑法208条にいわゆる暴行に該当しないとする理由にはならない。」

「所論は、右は教員たる各被告人が学校教育上の必要に基づいて生徒に対してした懲戒行為であるから、刑法の右法条を適用すべきではないと主張するけれども、学校教育法第11条は「校長及び教員は教育上必要があると認めるときは、監督官庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。但し、体罰を加えることはできない。」と規定しており、これを基本的人権尊重を基調とし暴力を否定する日本国憲法の趣旨及び右趣旨に則り刑法暴行罪の規定を特に改めて刑を加重すると共にこれを非親告罪として被害者の私的処分に任さないものとしたことなどに鑑みるときは、殴打のような暴行行為は、たとえ教育上必要があるとする懲戒行為としてでも、その理由によって犯罪の成立上違法性を阻却せしめるというような法意であるとは、とうてい解されないのである。
学校教育法が、同法第11条違反行為に対して直接罰則を規定していないこと及び右違反者に対して監督官庁が監督権の発動その他行政上の措置をとり得ることは所論のとおりであるけれども、このこととその違反行為が他面において刑罰法規に触れることとは互いに相排斥するものではない。」

「殴打の動機が子女に対する愛情に基づくとか、またそれが全国的に現に広く行われている一例にすぎないとかいうことは、とうてい右の解釈を左右するに足る実質的理由とはならない。」
「所論は親の子に対する懲戒権に関する大審院判例及びいわゆる一厘事件に対する同院判例を援用するけれども、前者の援用は主として親という血縁に基づいて教育のほか監護の権利と義務がある親権の場合と教育の場でつながるにすぎない本件の場合とには本質的に差異のあることを看過してこれを混同するものであり、後者の援用は具体的事案を抽象的に類型化せんとするに帰着し、ともに適切ではない。」

最高裁 1958/4/3 最高裁判所第1小法廷で、被告側の上告を棄却。
(裁判長:真野毅、裁判官:齋藤悠輔、入江敏郎)

【判決要旨】

「原判決が被告人両名の判示所為を所論のように形式的に軽くノックしたに止まるという程度のものであったとはとうてい認められない旨認定したのを首肯することができるから、これを刑法208条に該当する暴行であるとした判断もこれを正当として是認せざるを得ない。
その他判決が殴打のような暴行行為はたとえ教育上必要な懲戒行為としてでも犯罪の成立上違法性を阻却せしめるとは解されないとしたこと、並びに、所論学校教育法11条違反行為が他面において刑罰法規に触れることもあるとしたことは、いずれも、正当として是認することができるから、本件起訴が果たして妥当であるか否かは格別被告両名の本件行為をもって刑罰法令の対象とならないものということはできない。それ故、本件につき刑訴法411条1号、3号を適用すべきものとは認められない。
よって、同408条によっり、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」」
参 照 季刊教育法第64号 1986年9月臨時増刊号「体罰・いじめ」/ エイデル研究所 P205
「問答式 学校事故の法律実務」2 / 新日本法規 P1311-1317
判例集 高等裁判所刑事判例集8・4 P545




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