与那国馬と与那国島の子どもたち

久野 雅照



 マークンこと久野雅照さんは、日本最西端の島、与那国島に移り住んで15年。最初の馬、歩鼓地(ポコチ)を育てはじめたのは1985年11月のこと。馬に対する愛情と情熱は約11年たった今でも変わらない。

 この島の子どもたちを馬に乗せはじめて5年目。現在の与那国馬ふれあい広場をオープンしたのは95年6月。今では週3日はクラブの日となっていて決まった子どもたちが乗りに来る。日よう日は 子ども乗馬の日、誰でも自由に乗れる日。子どもは無料。観光客も希望に応じて乗せている。

 馬を通して子どもたちに“思いやり”をと願うマークン。わがままで気まぐれで、でもとっても元気が良く本当は気のやさしい島の子どもたち。今日もマークンは子どもたちと馬とのふれあいを温かい目で見守っている。

大野 京子



 暇そうな観光客を見つけては、近づいて仲良くなって「おかしちょうだい」と言ってのける。たいてい観光客は淋しさもあってかついついあげてしまう。子どもの目はちゃんと大人の目をみている。スキだらけの大人の心を見抜いている。

 この話、外国の話でもなんでもない、与那国島の子どもの話です。



 20メートルはあろうか、まっ青な海に垂直にきり立った断崖絶壁の上に広がった緑の大地に悠々と群れてる与那国馬たち。近づいて撫でてやろうとするのだが、一向にその距離は縮まらない。

 この話、外国の話でもなんでもない、与那国島の馬の話です。



 晴れた日には台湾が見えることもある島、東京から1900キロ、那覇から520キロ、大きなスーパーマーケットへは飛行機で30分、船で4時間半。日本の最西端の小さな島、それが与那国島です。



 私の名前はマークン。たいていの子どもにはそう呼ばせている。この島の馬、与那国馬と遊びたくって15年前にやってきた。もちろん馬など触ったことも無かった。1頭の小馬を試行錯誤しながらどうにか育てあげた。そして今では10頭の馬持ちになった。もちろんこんなに増やしたのには訳がある。馬遊びがおもしろ過ぎるから、みんなで一緒に遊ぼうと言う訳です。



 与那国馬は日本の在来馬です。その地方に昔からいる馬ということです。でもルーツをたどると、なんとあのモンゴルからやって来たと言います。そして与那国島では農民の足として長い間、米やマキなどを運び続けていたのです。その頃は誰でも自由自在に馬を使っていました。しかし農家に必ず1頭はいた馬も、車の発達で要らないものとなり、絶滅の危機になった時もありました。



 人口1800人の与那国島には高校がありません、だから中学校を出ると殆どがこの島を出ていきます。他の沖縄の離島と同様この島も過疎化しています。これといった新しい産業も生まれず、仕事が無いから帰って来ることもできません。みんな美しい故郷を胸にどこか遠い所で暮らすのです。

 勉強よりも、釣や泳ぎや三線(さんしんー蛇皮の張ってある三味線)で遊び回るのが大好きな子どもたち。でもこのところ何か変です。ファミコンやミニ四駆と家の中で遊ぶ子が増えてきました。そして家の手伝いを嫌うようになってきました。学校や親たちは「基礎学力向上」を目標に勉強だ、勉強だと騒いでいます。



 3歳から馬に乗った記憶は一生残ります。それ程に乗馬は人の心を震わすのです。そして心を癒し、元気にしてくれるのです。又風を切る爽快感は、野性の感性をよみがえらせてくれます。

 しかし、与那国馬と島民との長い長い付合の歴史も今まさに終わろうとしています。島に誰一人馬を飼う人がいなくなったのです。当然馬と遊ぶ子どももいなくなりました。馬のいる風景はそれだけでも美しいものですが、「馬は人といて馬、もう一度子どもたちに馬を」とマークンは仲間たちと一緒に、みんなで遊べる馬牧場を作り、活動を始めました。



 都会から遠く離れているからといって、与那国の子どもだけが無菌世界で暮らせるなんて出来ません。むしろ与那国の子どもだからこそ島を離れた時、過酷な社会につぶされそうになるかもしれません。



 それから3年、馬広場には保育園、幼稚園、小学校から、そして島外からも子どもたちはやって来るようになりました。しめしめ。よなぐにじゅうの子どもたちが馬遊びの体験を持つのももうすぐです。だけど与那国馬は働きもの、もっともっと子どもたちと遊びたいといっているようです。子どもに限らず、大人も、観光客も、車椅子に乗っている人だって、誰とだって一緒に遊びたいといってるようです。



 与那国島の子どもたちよ、与那国馬との何百年もの付合の歴史を、今絶やすこと無く、馬が教えてくれる言葉無き教えを自分自身の体で感じ、体の奥底で記憶し未来へ旅発って行ってくれ!



与那国馬ふれあい広場 久野マサテル




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