路上の子どもたちと出会うための旅
  メキシコのストリートチルドレン



「プラッサ」創刊号で紹介しましたNGO「ストリートチルドレンを考える会」で、昨年10月メキシコにあるストリートチルドレン支援のためのNGO「カサ・アリアンサ・メヒコ」へのスタディツアーをおこないました。ツアーに参加された方の率直な感想を同会のニュースレターより転載させていただきます。



メキシコ
路上生活をする子どもを訪ねて

西村 一郎



◎メキシコのストリートチルドレンは今

 10月10日から19日にかけて、13名のメンバーと一緒にメキシコシティの路上で生活している子どもたちを訪ねてきました。主に世界の発展途上国と言われている地域において、社会からはじき出された子どもたちが、空き地や公園や廃墟となった家屋などで生活しており、その数はユニセフの発表で約3千万人とも言われていますが、実態は不明で、すでに1億人近いと推測するNGO関係者もいます。

 不安定な経済が進むメキシコにおいても同様です。94年末の通貨ペソの大暴落や、規制緩和の新自由主義政策によりメキシコ国内において貧富の差がさらに拡大しています。その結果、低所得者の生活はますます苦しくなり、やむなく子どもを捨てたり、家族そのものが崩壊する家庭が増えるなど、深刻化しつつあります。

 さらに親から肉体的・精神的・性的な虐待を受けた子どもたちが、家族を捨て、人口が2千万人を越える大都会メキシコシティへとやってきます。

 その数は行政側の発表でも1万4千人と言われていますが、現地でそうした子どもたちをケアしている人たちの話では、その数倍はいるだろうとのことでした。

 その子どもたちの95%がシンナーなどを吸いながら、街の中でグループをつくって暮らしています。子ども同士でまとまって、各種の暴力から身を守るためです。シンナー類のドラッグは、安価で子どもたちにも簡単に入手でき、空腹を紛らわせたり、明日の心配をせずに過ごすために常用しているのです。


◎こんな場所で寝起きを

 地下鉄のチャプルテペック駅を訪ねました。改札を出た場所に、ファーストフードやゲームセンターなどの店がいくつか並んでいます。券売機の釣り銭をもらったり、飲食店の食べ残しを利用したりできるので、お金のない子どもたちにとっては都合のよい場所のひとつです。国民の9割がカトリック教徒であり、他人へ施す精神は極めて高く、小銭や食べ物を市民がストリートチルドレンへ渡す光景は何回となくみることができました。

 電車の始発を待って構内のゲートが開くので、それと同時に入ってきてまずは一寝入りするストリートチルドレンがいます。そのとき宝くじ売り場と柱のあいだの狭い床の上に、膝を抱くようにして寝ている男の子がいました。

 同じような場所は、大きなバスターミナルです。列車以上に各地を結んでいるバスは、地方から子どもたちがメキシコシティへやって来る主要な手段でもあり、ここも溜まり場となっています。そこでは、大型のコインロッカーを寝床に使っている子どもがいました。ダンボールを敷いただけで、足腰を折り曲げて入るのです。

 地下鉄インスルヘンテスの駅の近くでは、広い道路の下にある空き地に50人ほどが暮らしていました。そこへの出入りには、公園の横にある5メートルほどの壁をおりるしかありません。空間といっても、地面とコンクリートの天井のあいだが2メートル程度で、そのあいだに太い鉄筋がいくつも走っている暗闇の場所です。このために、頭上に注意しながら体を前かがみにしてソロソロと歩くしかありません。2百坪はあるその場所に足を踏み込むと、アンモニアと食品の腐敗した異臭とシンナーの臭いが一緒になって鼻をつき、暗さもあって一瞬たじろいでしまいました。

 ここには十人ほどの女の子のストリートチルドレンもいて、すでにカップルもできているケースもあるようです。目が慣れてくると、暗闇の中のあちこちで横になったり、座ってシンナーを吸っている子どもたちの姿が見えました。

 モクテスーマ駅では、屋台の並ぶ広い通りに面した50坪ほどの空き地で、6人の子どもが生活していました。3方はビルに囲まれていて、通りの側は3メートルほどの壁で遮ってあります。だから、屋台の屋根を使って出入りするしかありません。中にはレンガの山や雑草があり、その一角にブルーのビニールシートを張り、そこでザコ寝をしています。以前は板切れで粗末な小屋をつくっていたそうですが、それも火事で焼けてしまって、黒くなった柱や板が転がっていました。

 そこでは痩せた骨と皮になった10匹ほどの犬が一緒に生活し、横になるシートのそばにはマリア様のよれよれになった絵が飾ってありました。


◎ストリートチルドレンのためのこんなNGOが

 街の中心にあるアラメダ公園の近くに、ストリートチルドレンのためのNGO施設のひとつである「カサ・アリアンサ・メヒコ」があります。小さな古い施設を想像していましたが、建物は改築したばかりで、新しい小学校のような外形に驚いたものです。

 ここでは次のような目的を大切にし、子どもたちが人間として自立するためのきっかけづくりをしています。


・ 子どもの心理的安定を確保する。

・子ども自身が危機を乗り越えていくことを支援する。

・ 生活習慣と態度の改善を促す。

・ 将来の可能性を開く。

・ 他人との関係を改善する。


 施設は大きく3つに分かれ、路上からやってきた大勢の子どもたちが集団生活に馴染むための学校と寮を合わせたような施設「避難所」と、男女に分かれて家庭的な雰囲気の中で自立していくための第一歩を踏み出す施設「一時定住施設」、そして同年代の仲間と共に完全に自立した暮らしを営む施設「定住施設」があります。そこでは10名を越える専門スタッフと60名ほどのボランティアスタッフが、1日に250名の子どもたちをケアし、年間に500名近いストリートチルドレンをもとの家に返しています。




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