TURMA DA TOUCA
  サンパウロのこどもたちと
    私たちを結ぶ糸



 サンパウロ市のカンポリンポ区。貧しい住民が多く、犯罪も多いこの地域に、トゥルマ ダ トウカ(TURMA DA TOUCA=帽子の仲間)という名前のグループがあります。1974年に、スタートし、現在は7つの保育園を中心に、学童保育、文化・スポーツ活動、職業訓練、成人教育、地域福祉などの活動をしています。



TURMA DA TOUCAとの出会い

永田 銀子



 1994年、私は以前住んでいたブラジルのサンパウロ市を訪れました。7年ぶりに見るサンパウロは、ハイパー・インフレと不景気の嵐にもまれ、街を歩く人たちの顔も暗く、「あの明るい陽気なブラジル人はどこへ行ったの?」という印象でした。夜遅く、橋の下で焚き火を囲んでいるストリート・チルドレンを見て、8才の息子が「あの子たち、どうして家へ帰らないの?」と聞きます。児童虐待、性犯罪、アル中、失業、麻薬、離婚、学校、少年院、内国移民、所得格差・・・いろいろなことが頭をかけめぐり、私はどう答えていいのかわかりませんでした。帰る家があれば、そこが居心地が良ければ、子どもたちは家に帰るでしょうに。

 TURMA DA TOUCAのリーダーのひとり、アメリア・ワタナベさんに案内されて、3ヶ所の保育園と、住民がレンガを積んで建てた本部を訪ねました。ここの子どもたちは、保育園の子どもたちも学童保育の小学生も、みんな明るく元気いっぱいで、ブラジルの子どもらしい人なつっこさに触れて、私は少しホッとしました。

 もちろん問題は山積みです。職業訓練や文化活動の施設も、指導者の不足で充分に活かされていません。給料が安いことと、治安の悪い地域なのでボランティアも来てくれない、というのが現状です。しかも、希望しても保育園に入れない子どもは、周辺地域だけで2000人いるとのことでした。保育園の増設、保健所の建設、道路の舗装などを求めて住民運動を続けるかたわら、資金集めのためのバザーなどのイベント、食料の確保、職員の補充のためにと、スタッフは走りまわっていました。

 アメリアさんは、できるだけ寄付に頼らずに活動を続けて行きたいと言います。自分たちの地域・国の問題は自分たちの力で解決していこうという姿勢です。保育園の施設を市に要求したり、遊休施設を借り受けたりし、市からの委託でそれらの保育園を運営しています。幼児の給食も、市の補助を受けられるように運動して来ました。「力を合わせて、自分たちで」という考え方は、ここで育っていく子どもたちの未来にとっても、重要なものになるでしょう。

 けれど、子どもたちと地域の人々のために奮闘するアメリアさんや、彼女を中心に働いているスタッフの、忙しさと苦労の中での素敵な笑顔を見て、心が動いてしまったのです。私はすっかり元気になって日本に帰りました。そして帰国後、友人と3人で小さなグループを作り、トゥルマ ダ トウカの応援を始めたのです。

 グループとしては、当面、それぞれができる範囲でお金を積み立て、職員一人分の給料を送金しています。「犯罪が多発する地域での、子どもたちと職員の心のケアのために、カウンセラーを雇いたい」というアメリアさんの希望に応じるためでしたが・・・実際には、食料の不足や施設の維持など、日々の出費に消えてしまっています。

 個人としては、それ以来年に1度、木綿の袋物や、学校用の小物を縫って、トゥルマ ダ トウカを応援する小さなバザーを開いています。(このバザーは、小さい子どもを持つお母さんたちと、日本やブラジルの子どもたちのことを話す場にもなっています。)本当はブラジルへ行って、トゥルマ ダ トウカの子どもたちにミシンを教えながら、いっしょに作れればいいのだけれど・・・しばらくは遠くからエールを送るだけです。

 これからどういう形で応援を続けていくのか、子どもたちの作品(カードやふきん)を売って収入につなげる方法はないか、広く仲間をつのって大きな応援団を作るかどうか・・・など、すべてこれからの課題です。

 「なぜブラジルの子どもたちなのか?」そもそもは偶然から始まった「縁」です。3人のブラジルとのかかわりや、トゥルマ ダ トウカを応援する思いも多分違うでしょう。

 私について言えば、第ニのふるさとブラジルにもっと良くなってほしい、暖かく私を受け入れてくれたブラジル人に感謝の気持ちを伝えたいということ。そして、サンパウロの何人かの子どもたちが、日本という国の名前を、おいしい給食や楽しいオモチャと一緒に覚えてくれたら素敵だな、ということです。

 トゥルマ ダ トウカの子どもたちとスタッフに思いを馳せるたびに、私の心が地球を半周してブラジルへ飛び、また半周して日本にもどって来る。毎日、世界一周できるというのも、大きな喜びになりました。




プラッサへのご質問、お問い合わせ
および入会・購読を希望される方は
ここからどうぞ


praca@jca.ax.apc.org