ポコ・ア・ポコ (少しずつ、少しずつ)

誰もが唯一の「自分であること」


大野 京子



 わたしがオランダに滞在していたのは、高校生のとき。自分の進路を決める上でも、自分の人格を形成する上でも、大切な期間であったと言えます。

 わたしがオランダで通っていたのは、インターナショナルスクール。生徒は、世界各国から集まって来ていました。目や髪の色といった外見をはじめ、言葉、宗教、生活様式などあらゆるものが異なるひとたちが一つの場所に集まっている。今思えば、何て貴重な空間だったことでしょう。三年間もの月日をそこで過ごしたことが、今の自分の人生に大きな影響を与えていることに気付きます。

 初めは驚き、とまどい、理解を超える行動に悩んだり傷ついたりすることもありました。しかし、様々な国の人と生活していくなかで学び、成長したのも確かです。わたしが人とつきあっていくなかで学んだいつも心にとめておきたい大切なことが一つあります。それは、誰も何も正しくないし、まちがっていないということです。

 誰か他の人の意見や考えを聞いて、自分の気持ちと異なるときがあります。このようなとき、相手がまちがっていて、自分のほうが正しいと思うのは危険です。自分の価値観を基準に物事を判断しがちですが、相手には相手の基準があります。自分を正当化したり相手を批判するのではなく、それぞれの考え方を受け入れていく姿勢が大事なのだと思います。

 子どもの頃に世界にはいろんな人が生活していて、一人一人考え方も生き方もちがう。でも、お互い尊重しあって、相手の存在を受け入れて生きていくことは可能なのだ。そう肌で感じることができたのは、とても良かったと思っています。

 今の日本社会は、みんなが同じであることが大事だという教育がなされています。人とちがうことをすれば、とてもしんどい。周りの目も厳しい。でも人はそれぞれだから、と自分の道を歩んでいられるのは、もちろん友だちの理解や応援もそうですが、オランダでの生活があったからではないかと思います。

 オランダの学校生活で出会った先生たちの存在は、今でもわたしの夢を心のなかで支えてくれています。夢に向かおうとしているとき、その道が自分にあっているかどうかわからなく、不安になっていました。そんなとき、「とにかくやってみなさい。もし、ちがうと思えばそのときに他の道を考えればいいんだからね。」と背中を押してくれました。そして、自分が分かれ道に立つとき、いつも思い出す、先生に言ってもらったことは、「あなたのやりたいことを一番大切にしなさい。好きなことをしているのが、人間一番幸せなの。他の誰のでもないあなたの人生なんだからね。」です。

 わたしの周囲には、やってみたいことがあるけれど最初の一歩がなかなか踏み出せない人たちがいます。失敗したら、うまくいくかわからないから怖い。失うものがあると思うと、今の生活から抜け出せない。いろいろ理由はあります。わたしが聞いてつらいと思うのは、失敗することを非難する、あるいは許さない社会で生きてきたことが彼らから挑戦するエネルギーを奪っていると感じるからです。

 日本社会では受験戦争にしろ、就職活動にしろ、勝ち残らないと人生の脱落者で後がないような気持ちにさせてしまう雰囲気があります。でも、そんなことはないはずです。人生はいつだってやり直しがきくし、失敗したって他の道はあります。何かをするのに一つの道しかないわけではないし、目的地にたどりつく前に立ち止まったりより道をしたっていいでしょう。それぞれの歩幅があるのですから。もっと自分に素直に、もっと自分の気持ちを大切にみんながいられるよう、周囲がそれぞれの選択を認め、励ましてあげられるような環境が必要なのだと思います。

 夢は変わりながらも、持ち続けることができ、こう生きることが自分にとって幸せなことと思える“今”のきっかけをくれたオランダ生活と先生たちに心から感謝しています。

 今年の夏、わたしはついに夢への実現に向けて第一歩を踏み出すことができました。どうもありがとう!!




プラッサへのご質問、お問い合わせ
および入会・購読を希望される方は
ここからどうぞ


praca@jca.ax.apc.org