インドのストリートチルドレン
  第三部

パランジペ・ラジャニ



はじめに

 これまでストリートチルドレン問題の範囲とその性格、インド国内での対応はどうか、危機に瀕した子どもたちに対して様々な活動をするNGOの成長発展ぶりなどについて述べました。この分野で活動しているNGOを養成、支援するユニセフおよび政府の役割についてはごく簡単に触れてきました。今回はインドでのストリートチルドレン関連のNGO活動の例をいくつか見ていきますが、その前にこれまで述べてきた内容をかいつまんで紹介しましょう。




前回までの要旨

 ストリートチルドレンの定義というのはかなり骨の折れる作業です。最近では2つのカテゴリーに分けられています。すなわち、「路上にいる子」と「路上の子」です。この区分の基準になるのは家族との接触があるか、ないか、ということです。「路上にいる子」は家族と一緒にいます。それはまさに家族が貧しいことと、子どもに適当な住居がなく、よって彼らが多くの時間を路上で過ごしている、という関連する問題があるためです。一方で「路上の子」は家族との接触は殆どありません。彼らは多くの時間を路上で過ごすばかりか、一人ぼっちで生活しています。私たちはこの2番目の子たちに多くの関心を抱いています。後者の子の方が前者の子たちよりも数の上でははるかに少ないのですが、後者の子らの問題点はより過酷で多岐にわたっています。世界中にいるストリートチルドレンの総人口については様々な推定がありますが、多くの場合、インドが世界で最も大規模なストリートチルドレンの集団を抱えている、という指摘をしている点では一致しています。

 いくつかのNGOはすでに長い間この分野で活動をしています。活動が大きな広がりを見せたのは、国際児童年でもあった1979年以降のことです。ストリートチルドレンは都市部での現象であるため、相当な数のNGOがインドの大都市で活動しています。NGOの活動には大きく分けると3つあります。居住の世話、生活保護、医療などがまずあり、ネットワーク、子どもの集団を指揮すること、そして最後に調査と文書化です。




インドにおけるNGO

 さてそれではインドのNGOに話を進めていきましょう。その活動内容を明らかにするには、国内のいくつかのNGOのプロフィール(横顔)を見るといいでしょう。(注記;ここで紹介する団体はほんの一例にすぎません。たまたまその活動を以前から知っていることから取り上げています)


SNEHSADAN(愛と感動の家)

 さてそれではインドのNGOに話を進めていきましょう。その活動内容を明らかにするには、国内のいくつかのNGOのプロフィール(横顔)を見るといいでしょう。(注記;ここで紹介する団体はほんの一例にすぎません。たまたまその活動を以前から知っていることから取り上げています)
 スネサダンは、長い間の経験と幅広い活動内容を持つ代表的な公共機関の一つです。ここは主として居住関連の機関で、子どもとの関わり方がユニークです。居住施設を持っており、子どもたちは自由に出入りができます。スタッフは彼らと絶えず接触をしています。子どもたちがよく現れる所を訪れては彼らの味方になり、もし路上の生活に疲れているならば、スネサダンの家に移ることを薦めます。もし何らかの理由で不便を感じたり縛られていると感じればそこを出ることも自由です。その子はそれでもスタッフとの接触はできます。このように関係が継続され、再び家に戻ることも許されています。こうした柔軟な方法により、スネサダンは多くの子どもたちが社会復帰できるのを知っています。社会復帰のプランは子どもたちと一緒に話し合われます。その後どうやっていくのか、家族の元に帰るのか、本人の希望する職業訓練をするのか、このふたつの道から彼らに選ばせています。

 居住施設というのは家族集団のようなもので、そこにはハウスペアレントがいて個々の家庭を運営します。ハウスペアレントになった両親は、自分たち自身の子どもやそこに入ってきた子たちと一緒に住んでいます。子どもの人数は各家庭に6、7人までです。毎日の活動は可能な限り、普通の家庭環境に近づけて行われていきます。

 スネサダンは鉄道のビクトリア駅に新しい援助施設を開きました。この駅はボンベイにある二つの主要駅の一つで、その施設は“アムティチョリ”(ボンベイ方言のマラティ語で“私たちの部屋”)と呼ばれています。ここには一日中ソシアルワーカーがいて、子どもたちの出入りは自由です。浴室と娯楽施設、それに図書室まであります。悩み事や照会サービスにも応じてくれます。またもし望むならばお茶やお菓子もありますが、これはお金で買うことになります。

 このような施設は他の駅でも作られつつあります。子どもたちはまず鉄道駅から都市に入ってくるため、子どもとの重要な接触地点でもある駅が一番格好の場所なのです。そして彼らが悪者の手に落ちる前に彼らに近づくことができるようになります。ボンベイではこういった、いわば公共機関的なことを始めたNGOがいくつかあります。


VATSALYA(母の愛)

 この団体はストリートチルドレンのための非公共機関計画として活動を始めました。当初、娯楽活動は路上で生活する、「くず拾い」のために行われてきました。そのグループとの継続的な相互作用によって、実際に抱える問題点と関連する必要事項が見えてきはじめ、そこからナイトシェルターを含む新たな事業を行う団体が生まれました。これを子どもが組織する委員会と公共機関が運営します。ここでは子どもたちは格安の料金で宿泊できます。また娯楽やカウンセリングのコーナーもあります。

 ヴァッサリャのもうひとつの画期的なところは、駅外で二、三日行うキャンプです。子どもとスタッフが一緒にいられるキャンプによって、互いに影響しあいながらお互いの理解が深められていきます。またキャンプの設備が出来ていることで、スタッフが日常生活でも簡単な衛生上のルールに従うことの大切さを示す機会も持てるようになります。これはあらゆるルールを拒絶する傾向にある彼らがものの見方を変えるために大切な事柄です。この経験はこれらの子どもたちが、いつも歯を磨くこと、というような日常の習慣が欠如していることを示すものです。このようにヴァッサーリャでは居住施設の維持とともにそれ以外のことにも力を注いでおり、子どもたちがそれぞれの家族の所に戻るにせよ、それぞれの適正にあった仕事をするにせよ、その手助けをして更生させることを目的にしています。


YUVA(統一と奉仕活動をする若者たちの会)

 ストリートチルドレンとの歩みはユヴァの活動内容の一つになっています。活動の主な焦点は彼らに関する問題点をめぐって異なる集団を組織することにあります。「ストリートチルドレン」も彼らが組織化しようと努力している集団の一つです。活動の現場は、子どもたちのいる通りだったり、舗道だったりします。

 基本的な方針は、子どもたちに簡単な読み書きや算数を教えることと、サバイバル教育をすることです。ユヴァの行っているサバイバル教育とは、子どもたちに彼らを取り巻いている社会状況を理解させることです。そうした理解を深めるため、隔週でミーティングが開かれ、行政や警察からの嫌がらせ、また教育などの彼らが直面している問題について話し合っています。


SUPPORT(サポート)

 「サポート」は1985年に麻薬防止活動を主な目的として作られました。当初ここでは学校の生徒やカレッジにいる若者のために活動してきましたが、1989年になってミドルクラスの若者から、より傷つきやすい子どもや通りにいる若者へと対象を切り替えました。それは6ポイントプログラムという計画で、麻薬防止のための教育と応急措置、カウンセリング、またそのコミュニティとともに活動していくというものです。夜間避難所、リクリエーションセンター、そしてサポート(支援)を必要とする麻薬中毒患者のためのアフターケアセンターを持ち、患者の回復初期段階での観察もします。さらに麻薬乱用の防止に向けての社会活動をサポートしてくれるボランティアのために訓練プログラムも組織しています。


BUTTERFLIES(バタフライズ)

 バタフライズはデリーを中心に1989年に作られた団体です。ここでは他と同じように健康、教育職業訓練活動をしますが、主な目的は集団活動をするために子どもたちを組織することです。同じ目的をもって活発に活動している団体との協力を求めています。また「マイ ネーム イズ トュデイ」という名の季刊誌も発行しています。これは子どもとその権利についての新しい記事を集めたものです。



インド政府のストリートチルドレンに対する政策

 1993年に政府はストリートチルドレンのための計画に着手しました。

 その段階ではインドの11の主要な都市(ボンベイ、デリー、カルカッタ、マドラス、バングロール、アーメダバッド、ハイダラーバード、プーネ、ナグプール、ラクナウ、スーラト)をカバーしていました。これらの都市は人口の増減を考慮して選ばれています。この計画の主な目的はストリートチルドレンのために活動をするNGOを支援することにあり、援助金で個々の活動資金を一部負担しています。これは問題の認知をとりつけるための大きな一歩になります。また、地方の行政では夜間避難所や短期滞在センターをわずかな料金かあるいは無料で提供するというような形でNGOの運営を手助けしています。これにより空間が狭くて貴重なものになっている都会ではNGO活動が非常に活発化しています。


 この第三部までで、私はインドでのストリートチルドレンの実態についての一般的な概念に触れようとしてきました。締めくくりとして、もう一つコメントをつけ加えたいと思います。インドのストリートチルドレン問題は、NGOレベルで無視できないものとして注目を集めています。NGOの努力は、地方や全国規模での政府の対応から見てきたようにいくつかの成果をあげています。しかしながら、提供される事業の範囲やその恩恵に浴する子どもの数はまだ十分とはいえません。たくさんの子どもたちが、大人からのどんなたぐいの支援や指導も受けずに育ち、様々な搾取や苦難に直面しています。


 次の章では、ストリートチルドレンのもう一つのグループ、すなわち路上にいる子どもたちについて述べることにしましょう。


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参考文献

I) Press, M. Robert
 "On The Road", Indian Express, New Delhi,
  India, March 20, l994.
2) P.Smith
 "Butterflies in the Streets" The Statesman,
  Calcutta, India, March 5, 1994.
3) Ghosh, A.
 "Street Children of Calcutta",
4) Arimpur, J.
 "Street Children of Madras",
5) Pandey, R.
 "Street children of Kanpur",
6) Phillips, WSK.
 "Street Children of Indore",
  (3 to 6 All Published by The National
  Institute of Labour, India, in 1992-93).
7) Mishra, S.
 "Street-Children", Government of Maharashtra.
  India. 1989.

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翻訳監修:恩田英一
翻訳協力:大野京子
       篠田美恵子
       松下美代子
       森克明



※訂正:前回の「第二部その1」という名称を「第二部」と改め、今回をそれに続く「第三部」とさせていただきます。



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