バングラデッシュの路上の子どもたち
   〜厳しい少女たちの現実〜

バブル・ラーマン



 バブル・ラーマンさんは、ご夫妻でバングラデッシュの「Surjomukhi Woman and Child Society(ひまわり女性と子ども協会)」を運営され、女性と子どもに関しての人権活動を行っている、ジャーナリストです。
 様々なデータを交えて、バングラデッシュでの子どもたちが路上へと出ていかざるをえない厳しい現状、そしてそれらの状況に対する解決方法を、報告していただきました。



 子ども時代は、生産的で健康的な人間の発育過程において、きわめて重要な時期です。にもかかわらず、世界では、驚くほど多くの子どもたちが、彼等の肉体と精神の成長にとって、到底、適切とはいえない環境のなかで生活しています。子どもは、本来、無防備で頼りない存在です。バングラデッシュの様な国では、子でもたちの多くは、まさに、生きるために戦わなければなりません。特に、ストリート・チルドレンたちにとって、状況はさらに過酷です。




バングラデッシュの概要

 現在、バングラデッシュは、世界でも最も災害の起こりやすい地域の一つです。人口は1億2800万人で、絶えず増え続けています。また、バングラデッシュは、6万5千の村から成っています。最近政治不安は、日常茶飯事です。かつて、200年の間、イギリスの植民下にあり、24年間、パキスタンに支配されていました。

 当時東パキスタン(1971年の解放戦争の後バングラデッシュと改名する)の人々は、西パキスタン政府によって直接に、言語統制、文化的支配、経済的搾取などによって苦しめられていました。これらのことが原因となって、1971年3月26日、バングラデッシュは、独立国家として必然的に現われることになりました。その出現は、前代未聞の自由への闘争を象徴しています。そして、遂に、1971年12月16日、300万人の犠牲者をだしながらも、9か月の激しい軍事闘争の末、パキスタンの軍事政権に対して勝利を獲得しました。

 およそ四半世紀の間、バングラデッシュは、人々の生活を豊かにするために全力を尽くしてきました。しかし現在、貧困や死に象徴される悲劇的なシナリオを辿っています。


社会的・経済的状況

 バングラデッシュは、143,999平方キロメートルの領土を有しています。農耕中心の経済は、かつて諺的に、「黄金のベンガル」と崇拝されていた木製の鋤に頼っています。人々の生活の質を改善するという観点から、政府は、非常に大がかりな開発計画に乗り出しています。多くの民間ボランティア開発団体(PVDO)もまた積極的にその過程に参加しています。

 現在、バングラデッシュの一人当りの国民総生産は、約240米ドルです。しかし、その中には、一人当り約100米ドルの外国借款が含まれています。人口増加率は、約2.6%です。約2000万の若者が、失業状態にあります。約52%の国民が、貧困の中、暮らしています。たった12%の国民しか衛生施設を利用することができません。87%の国民は、公認された医師からの医療サービスを受けることができません。65%の国民が、読み書きをしりません。


子どもたち:概観

 生まれてくる子どもたちの千人のうち122人は、5歳の誕生日を迎えることなく死んでいきます。5歳以下の子どもの3分の2は栄養失調で、また、バングラデッシュの半分以下の子どもたちしか、5年間の初等教育でさえも終了することができません。さらに、疫病が彼等を頻繁に襲います。障害者率は驚くほど高くなっています。この込み合った温室のようなバングラデッシュにおいては、40%以上の新生児は、5ポンドまたは8オンス以下の体重(この重さが、「軽い体重」の国際的基準になっています)しかありません。厚生省の観測によれば、バングラデッシュにおいて26年前に口腔再水酸化療法(ORT)が発明されたにもかかわらず、1995年には、25万人以上の子どもたちが下痢によって死んでしまうだろう(1995年における予測:訳者注)ということです。口腔再水酸化療法は、下痢による脱水症状を防ぐことができます。

 1992年、小学校への入学率は70%でした。しかし、入学した生徒のたった23%しかその初等教育を終了しません。小学校の生徒は、1千2百万人います。また、中学校には、35万人の生徒が通っています。学校に行っている生徒の男女比は56対44です。近年、女子の入学が増えています。その中で、きちんと出席している生徒は35%です。また、初めの2年以内に中退してしまう男子・女子生徒は17%です。

 小学校で中退してしまう生徒は多く、10人に4人しか最高学年である5年生まで残ってはいません。男子の25%に比べて、10〜14歳の女子の10%しか学校に通っていません。7年目の学年を始める生徒はたった5%しかいません。

      
5年生までの小学生の全体に占める割合(1986〜1992年)
男子 : 74%女子 : 64%
中学校への入学率(1986〜1992年)
男子 : 25%女子 : 12%


 30%の子どもたちが一度も学校に行くことができないという状況にあります。70%の子どもたちが、初等教育の段階で永久に学校から去ってしまいます。バングラデッシュの教育機関は、まだ、国のすべての子どもたちを教育するための設備を整えていません。学校の数が少ないというだけでなく、教育の質もまだまだ貧弱です。初等教育の一般的な印象は、その教育の質の悪さや地域の人々の教育への不参加などの理由により、良いとはいえません。

 バングラデッシュでは、毎日、2千人の子どもたちが死んでいます。彼等のうちの665人は、栄養失調という理由だけで死んでいきます。これはとても辛い事実です。しかし、これが現在のバングラディシュの社会的・経済的状況の現実です。


ストリート・チルドレン

 1990年において、200万人のストリート・チルドレンがバングラデッシュの都市部にいると観測されています。この数は、2000年を迎えるまでに、300万人にまで増えるのではないかと予測されています。

 ストリート・チルドレンとは、一日24時間ずっと路上で暮らす子どもたちと、ほとんどの時間を路上で過すが毎晩スラムにある家に帰る子どもたちの両方を含みます。これらの子どもたちは生きるために働き、非人間的な生活条件の中で暮らしています。都会の子どもたちは病気の危険に曝されるだけでなく、ストレスや都市生活における危険とも戦わなければなりません。

 80%のストリート・チルドレンは学校に通っていません。彼等は、路上の商人、「ミンティ」とよばれる店番、路上の売人、手押し車の行商人、家政婦、ゴミ収集人、靴磨き、などとして働いているか、もしくは物乞いや売春などの不法行為に関わっています。何百万人の子どもたちがいわゆる「ストリート・チルドレン」として考えられています。彼等は路上で働いている、または、親に捨てられた子どもたちです。明らかに彼等はホームレスです。1991年のある調査によると、7〜12歳の子どもたちは、親の保護もないままに家庭の外で、一日たった30タカ(1ドルは約40タカです)のために働いているのです。彼等は学校のことなど気にしていません。また、彼等はしばしば地元のちんぴら、政治活動家、暴力団員、麻薬商人、麻薬中毒者、麻薬依存症の人たち、またさらには警察官などに、雇われたり虐待されたりします。

 ストリート・チルドレンはバングラデッシュにおいて広く「トカイ」として知られています。有名な漫画家ラフィカンナビ・ラナビによってそう名付けられました。また、ストリート・チルドレンは「パトコリ」とも呼ばれています。「パトコリ」とは路上の花という意味で、前大統領のH.M.アシャドによってそう呼ばれました。

 バングラデッシュでは、15歳以下の子どもたちが全人口の45%を占めています。5〜9歳の子どもたちは、15%を占めています。都市と農村の経済状況の不均衡や不平等の場合と同様に、農村地帯の子どもたちの状況は都市の子どもたちの状況よりもさらに深刻です。



貧困が彼等を路上へ

 農村地帯に住む女性は、生計を立てるために懸命に働き、同時に、家事をこなさなければなりません。子どもたちは幼い頃から、家庭の収入を得るために親を手伝います。その結果、子どもたちは、健康、栄養、教育上の悪影響を大いに受けます。例えば、両親が無学だと、それが子どもにも引き継がれることになります。父親の収入が少なく、母親も家計を支えるために仕事を探しているような場合、それが子どもの世話に深刻な支障をきたすだけでなく、年長の子どもたちは兄弟の面倒を見たり、家族を養うために仕事を見つけなければなりません。これらのことを考えると、バングラデッシュでは、貧困が子どもたちの生命を脅かしているということがわかります。しかし、実際、バングラデッシュでは法律で児童労働は禁止されています。

 国内の労働者の7人に1人が子どもです。職場で彼等はたいてい大人の労働者の手伝いをします。調査によれば、子どもたちは、長時間労働(8時間以上)、低賃金、不適切な仕事環境などを強いられ、搾取されています。また、家事を手伝っている子どものほとんどは、栄養失調や貧しい生活環境のため、病的に痩せており、軟弱な体格をしています。これら多くの理由により、バングラデッシュの子どもたちは平穏な環境のなかで成長することができません。その結果、彼等は反社会的に育ってしまいます。ある調査によれば、犯罪者の10人に1人は子どもだそうです。これは驚くべき事実です!バングラデッシュには18歳以下の子どもたちが5300万人います。およそ300万人の人々が、人口800万人の首都ダッカのスラム街で生活しています。さらに、バングラデッシュのかなりの数の子どもたちが障害者です。

(以下次号)


バブル・ラーマン(ジャーナリスト)

翻訳:大野 京子
    山田 新吾



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