ブラジル便り
サンパウロの生ける幼い屍たち
ブラジル フォーリャ紙より転載

訳・解説:冨田 洋平



 地の底から這い出てきた彼らは、コンソラソン通りからマリアアントニア通りにかけて散らばり、死神の部隊のごとくサンパウロの旧金融街を占拠していった。

 男女の区別はしがたい。それは死骸が性別を感じさせないことと同じだが、幼いことは判別できる。そして死刑囚のごとく、息苦しい服をまとっている。

 彼らを覆い、肌に食い込む煤は、彼らが地底の住民であることの証しでもある。頬はやつれ、髪は汚れて硬化しており、虚ろな目をしている。栄養失調である彼らの体は、おそらくクラック(麻薬の一種) に蝕まれているのだろう。

 攻撃的な気配を感じさせるものは少ない。まるで50年代のB級ホラー映画の人物のように、無気力に歩行者に近寄り、金をせびり、不可解なことをつぶやく。

 以前からいた物乞いたちは突如として姿を消してしまった。脅かされたからだというが、死骸に接しパニックに陥ったのが本音だろう。

 幼い死神たちは、金融街の住民たちに、言葉につくしがたい暴行をおこなった。それは彼らの強盗によってではなく、存在によって、だ。彼らが金融街の粋なカフェーに、クラックのための資金援助を乞いに進入すると、その場に居合わせた者の食欲のみならず、話題をも奪ってしまうのだ。だれもが、目の前の子どもたちが単に未来を失っただけではなく、死を間近に控えていることを知ってしまうからだ。

 自分自身の恥部を見た後で、不景気を嘆き、付加需要について討議し、近代国家の誕生の戯れ言を口にする勇気を、誰が持てよう。

 あの彷徨する死骸の部隊を敏速に食い止められなかったら、地域のブルジョアたちの甘い夢は消えてしまっただろう。

 しかし、組織された街は反応を示した。ガードマンを雇い、少年たちの追放をはかった。マルフ市長は市警察に、死神の部隊を、地底に追い返すための清掃作戦を命じた。中心部のパトロールは強化され、善良な市民は、行政の保護の温もりを感じたのだ。

 そこから300メートル離れた市議会では、与党の議員たちは役職の配分に余念がなく、更に少し離れた市の会計院では、入札に関する汚職や市の放漫財政に今一度目を背けていた。

 現政権および前政権の悪事の証拠、即ち幼い死神たちの、沈黙の告発から開放された市長は安眠を貪り、彼の功労の碑でありかつ次回の選挙資金源でもある、橋や道路工事に専念できるのか?

 否。死の宣告を受けた子どもたちの影は、数週間立てど、死と接した者の脳裏に生き続けるのだ。



 1995.7.30付けの フォーリャ紙経済版のコラムニスト、ルイス・ナシィッフの署名記事。この記事が掲載される前週、サンパウロ中心街で信号待ちの車、主に女性の車が、路上の子どもたちによって襲われる事件が多発し、マスメディアが騒ぎました。



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