北京世界女性会議より

前田 美根子



 ◆父親を捜して

 ◆女の子も学校へ行きたい

 ◆ひとりっ子政策の陰で

 ◆殺されるために生まれてくる子

 ◆伝統か虐待か

 ◆暴力から逃れて街へ



 国連主催により北京で開かれた「第4回世界女性会議」(9月4日〜15日)と、それに先立ち8月末から開かれていたNGOフォ−ラムでは、暴力・貧困・教育・環境など、多岐にわたる問題が取り上げられた。

「今日の少女は、明日の女性」はNGOフォ−ラムのスロ−ガンでもあるが、女性の抱えている問題や置かれている環境は「大人の女性」だけの問題ではない。これらの差別のほとんどは凝縮された形で子どもたちを、なかでも女児を迫害しており、その背景には多くの国に残る男児優先主義がある。

 フォ−ラムで取り上げられたさまざまなテ−マの中で子どもに関わる主なものには次のようなものがある。

・日比混血児(JFC)の父親捜し
・男女児間の就学率の大きな差
・中国のひとりっ子政策と女児虐待
・ダウリに起因する女児虐待
・アフリカの女性器切除(女子割礼)
・ストリ−トチルドレンを生む家庭内の暴力


・日比混血児の父親捜し


 JFC(ジャパニ−ズ・フィリピ−ノ・チルドレン)と呼ばれるこの子たちは、フィリピン女性と日本人男性の間に生まれ、父親に遺棄された子どもたちで、2万人いるといわれている。日本へ働きに来て知り合うケ−スと日本人男性がフィリピンを訪れて知り合うケ−スとがあり、日本人男性が事実上重婚していたり、日本に住むJFCのほとんどが無国籍状態になるなどの問題が出ている。

 フォ−ラムではマニラのバティス・センタ−、香港のアジア移住者センタ−などが移住労働者の問題として取り上げた。

 東京都千代田区に事務所を置く「JFCを支えるネットワ−ク」ではフィリピンに住む母親からの依頼で日本人の父親捜しを進めている。が、父親が見つかった場合でも多くは自分の子どもであることを認めたがらず、認知や養育費の支払いにまで進展することはまれである。ホステスなどをして働くアジアからの女性出稼ぎ労働者に、あるいはアジアの貧しい国を訪れて、「欧米人の女性にはできないことを平気でしてしまい、罪悪感もない。アジアの女性であれば優位に立てる」という日本人男性の意識が浮き彫りにされる。



・男女児間の就学率の大きな差


「男の子と同じように学校へ行かせて」「女の子への偏見を持たないで」とフォ−ラムで訴えたのはアフリカやアジアから集まった十代の少女たちだ。ネパ−ルから参加した14歳の少女は自国の現状を報告した。男性の識字率61%に対し女性は13%。女の子は学校よりも家事や労働が優先される。小学校への入学率は20%でその多くは途中でやめざるをえない、という。早婚や早期妊娠の風潮からくる影響もある。ネパ−ルでは4割の女性が14歳以下で結婚し、妊娠で学校をやめるケ−スも多い。男女児間の就学率や識字率に大きな開きがあるのはネパ−ルに限ったことではない。アジアやアフリカの多くの国で、男児優先の思潮から、あるいは経済的な理由から(資力に限りがある場合は男児にのみ教育費をかけ)兄弟が勉強を続ける一方で少女は家事手伝いのために就学させられなかったり、中途退学させられてしまう。



・中国のひとりっ子政策と女児虐待


 この政策に端を発する女児の捨て子や女児の胎児殺しについては本会議で政府代表のパキスタンのブット首相が激しく批判し、アメリカ合州国のヒラリ−大統領夫人もこれに大きな関心を寄せている一人である。12億の人口を抱える中国では政府によって家族計画の自由が奪われ、強制的な人工中絶や避妊手術が行なわれている。「一組の夫婦に一人だけの子どもを許す」という国の政策は机上の計算どおりにはいかず、伝統的な男児優先の思潮とも相まって、その被害は女児に集中する。

 爆発寸前の人口問題を考えるとき、政策は仕方のない方法なのかと思わせられる。が、問題は、女児と障害児がその被害者となっていることである。「ひとりだけという枠があるならば、五体満足な男の子を」と人は望む。結果、女児殺しや妊娠中に女児であると分かった時点での中絶、障害を持って生れた男の子の遺棄、女児の出生無届けなどを招いている。

(以下の情報は、アジア女性資料センタ−発行「女たちの21世紀」第2号(1995.4)に掲載の『女児殺し:厳然たる証拠』の記事を参考にさせていただきました)

 孤児院の子どものほとんどが女児で、数少ない男児はほとんどが心身障害児である。1982年にはチェンヤン郡で130体以上の女の乳児の遺体が発見され、台山郡のあるコミュ−ンで80体以上の女児の溺死体が見つかった。1982年に出生した児童の6割から7割が男児である。



・ダウリに起因する女児虐待


 インドで結婚に際して花嫁側が婚家に支払う「ダウリ」と呼ばれる莫大な持参金が引き起こす悲劇については、「花嫁殺し」あるいは「ダウリ殺人」という言葉で1970年代の後半になってから初めて世間の知るところとなった。およそ年収の5倍から10倍といわれるダウリが少なかったり滞ったりした場合の、夫による虐待や殺人である。しかしながら今回、インドからNGOフォ−ラムに参加したグル−プによってこの慣習が招いているもう一つの悲劇についての報告があった。

 このグル−プはインドの農村地帯ビハ−ル州で「生まれたばかりの女の子の命を守る」ための活動を続けている。男尊女卑の伝統が強く残るこの国では女の子の誕生は歓迎されないばかりか、女の子の結婚に際して払わなければならないダウリはかなりの重圧である。貧しい農家に二人目の娘が生まれた場合、育てられる可能性は極めて低い。多くは窒息死、溺死、餓死、農薬を乳首に塗る、などといった方法で、殺されてしまう。グル−プは生まれた女の子を育てるように、根気よく母親を説得している。

「幼女殺し」の風習は紀元前1000年頃から存在したという。1870年にイギリスがこれを禁止してから1世紀がすぎるが、現在もなおすたれてはいない。南インドのタミ−ル・ナ−ドゥ州でつい最近娘を間引いた母親たちは言う。「そりゃ辛かった。だけどこのあたりでは普通に行われている。生きていたって、(女は)一生辛い思いをする」殺された子どもの正確な数はでてこない。が、ビハ−ル州北部のある村では女の子の男の子に対する比率は半分以下であり、他の幾つかの州でも幼女殺しが日常化しているという報告がある。



・アフリカの女性器切除


 今回のフォ−ラムではとくにアフリカ諸国からの強い要望のなかに、子どもの権利条約を基に文化伝統による女児虐待や早期結婚、少女売春、児童労働、不就学や栄養失調をなくす措置があった。「文化伝統の名を借りた女児虐待」でとくに注目されるものが「女性器切除」である。この風習はエジプトの時代から始まり、イスラム宗教儀式の「女子割礼」としてアフリカや中東、アジアの30近い国々に、いまだに根強く残っている。国や民族により多少の違いはあるものの、ほとんどは10歳になる前にカミソリなどを使って女性器の一部を切り取ったり、周辺部を切除した後に縫い合わせたりする。ス−ダンでは9割近く、エジプトでは8割以上、ナイジェリアでも5割以上の女性が受けている。女性の自然な精力を弱め社会的な力をなくすため、あるいは女性の純潔を守るため、の伝統的な「文化」であるとされる。また「切除を受けないことは犯罪であり、仲間とは認めない。村八分にされるのは当然である」と公言する村の長老さえいる。その村のなかで生きるため、母親は泣く泣く伝統に従って自分の娘を性器切断業者のもとに連れていくという現状がある。性器切除を受けている女性は、現在1億人にのぼるという。

「女性器切除はいかに危険で、いかに少女の人権を傷つけているか考えて欲しい」とアフリカの女性たちは訴え、ナイジェリアから参加した女性は「切除の時の痛みは大変なものだ。その記憶はずっと心に残る。切除が原因で死ぬこともある」と報告した。成長してからも、中絶が非常に困難であり、また出産時の危険が高いことを問題点としてあげた。(関連記事:14ペ−ジ)



・ストリートチルドレンを生む家庭内の 暴力


 フォ−ラムで討論された主要テ−マの一つに「家庭内の暴力」がある。各国の報告には暴力の底にある貧困や旧弊など共通の問題が見られた。「男性の暴力は妻だけでなく、親や子どもにも及んでいる。1万人といわれる南アフリカ共和国のストリ−トチルドレンの中には父親の暴力から逃げだした子どもも多い」との報告があった。都市と地方の経済格差が進んだ南アフリカでは、地方の人は遠方の都市部まで働きに行く。ゆえに、遠距離通勤と劣悪な住宅事情からくるストレスがアルコ−ル依存や暴力に結びつくのだと考えられる。ここでは「貧困対策が解決の早道である」と訴えていた。



◎行動綱領から


 性の権利をめぐる文化的、宗教的な価値観の違いから最後まで紛糾した第4回世界女性会議であった。行動綱領のなかで「公正」が「平等」に置き換えられたことに対する、パキスタンから来た小児科医の「女性の人権保護や、少女と少年が同等の教育を受けることの重要性は私たち自身がもっとも実感している。だが夫や父、兄に従うという宗教的な考えが尊重されなかったのは非常に遺憾」という意見はそれを象徴している。


 この行動綱領(要旨)のなかから、とくに子どもの自由・権利に関連すると思われるものを次に抜粋する。


・ 政府や国連機構、NGOは女性の非識字を根絶する。


・ 男児優先による栄養や保健サ−ビスについての差別が、少女たちの健康を脅かしている。早期結婚や妊娠、出産の強制、性器切除などの有害慣行は健康上の重大な危険だ。中絶は家族計画の一方法として推進されてはならず、中絶が違法でない場合は安全に行なわねばならない。


・ 人身売買を撤廃するために、現行法の強化などを通し、買売春や性の商品化、強制結婚、強制労働を目的とした女性や少女の取引の根本原因に取り組む。


・ 戦時下の強姦、強制売春、性的奴隷制など女性に対するあらゆる暴力について十分調査し、犯罪者を訴追し、被害者に十分な補償をする。


・ 少女はしばしば劣るものとして扱われ、自尊心を持てずに成人後も社会の主流から排除される。過重な家事負担から学校に行けなくなることも多い。政府などは、1)法律で平等な相続権や結婚への同意を補償する、2)若年妊娠問題の意識を高める、3)初等教育の終了と男子と同様の中等・高等教育の機会を保障する、4)女児殺しや性器切除、性的虐待や搾取、売春などの暴力から少女を守る法律を制定し、支援プログラムもつくる。



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