インドのストリートチルドレン
  第二部  第一章

パランジペ・ラジャニ



はじめに

 この論文の第一部では、ストリートチルドレンの問題の性格や範囲、原因とその重要性についての概括をインドを例に述べてきました。今回はインド社会での政府レベル、非政府レベルの対応について述べて見ようと思います。これについては、広く2つの分野に限定することとします、すなわち、ストリートチルドレン関連の活動をするNGO(非政府組織=民間援助団体)の背景と状況の進展についてと、ボンベイ市内で顕著ないくつかのNGOのプロフィールについてです。ボンベイ市以外の組織については、この論文の第三部で紹介するつもりです。ここで取り上げる組織はどこもその方法が飛び抜けてユニークなものです。先に進む前に、第一部で述べた概要を簡単にお伝えします。




第一部のまとめ

 1) ストリートチルドレンの増加は世界的な規模で拡がる都市現象のひとつです。急激に進む都市化、家庭の崩壊、貧困や関連する問題は、その現象を促し、拡大化する要因になっています。

2) 彼等の全体の数を挙げるのは難しく、また推定で数字を出すことすら困難です。ユニセフはストリートチルドレンの総数は世界全体で3000万から1億人の間であろうと見積もっていますが、インドが最大の集団を持つと考えられています。

 3) ストリートチルドレンは広い意味では二通りに分類できます。路上にいる子と、路上の子です。その違いは親や家族との接触の度合いからきます。路上にいる子は家族と暮らしますが、家族自体が路上で暮らすために殆どそこにいます。

 4) 特徴としては、これらの子は生来独立心があり、親や大人が権力を持っていることを不満に思っています。また、彼らはたいてい集団で動き、グループに対する強い絆(きずな)と忠誠心を持っています。

 5) その生き方は彼らに多くの問題を投げかけてきます。世話をしてくれる大人の保護もなく、安心して住める家も無いために、彼らは過酷な自然と人間からのさまざまな攻撃の前にさらされることになります。その生活は非常に健康を害しやすく、持ち物を剥奪されたり、また食い物にされる状況にあります。

 これで短い概要を終え、今度はこうした子たちのためにインドで行われている活動や事業の内容について見ていくことにします。 




NGO活動の背景と状況の進展

 デリー、ボンベイ、カルカッタ、マドラス、バンガロールなどのインド主要都市には、ストリートチルドレンのために活動している相当な規模のNGOがいくつもあります。例えば、ボンベイだけでも20から25の組織があり、その活動の焦点はストリートチルドレンに当てられています。  

  インドのNGOは国際児童年の宣言があった1979年以降が最も増加しており、組織の多くは80年代初期に活動を初めています。ユニセフのような国際的な組織の存在は、全般的な子どもの問題、特にストリートチルドレンについての認識と取り組みをNGOに促しています。 

 例えば84〜85年にユニセフはインドの4大都市における“ホームレス”の調査を依頼してきました。YUVA(Youth for Unity and Voluntary Action)では、この調査で集められたデータを基にしたストリートチルドレンのための活動プログラムを盛り込んでいます。

 87年に国内会議がユニセフとインドのNGOによって開かれました。続いて88年に第二回目の国内レベルのワークショップが政府によってユニセフ後援で行われました。同時に都市レベルでのストリートチルドレン調査と問題点の確認がインドの10都市で行われました。これらの調査はすべてユニセフの後援によるものです。こうした子どもに関する調査活動は、89年の子どもの権利条約、および90年の世界子どもサミット後にはさらに進められました。先に述べた国内でのワーショップに続いて、インドでは都市レベルの公開討論会が開かれ、関心を持つNGOと政府の担当部門がメンバーとして参加しました。討論会では意識を変えていくための共同宣言がまとめられ、彼らは一丸となって当局への陳情運動をより効果的に行えるようになりました。また、準メンバーとして政府関係者が参加したことは、お互いの考え方や相互作用についてよりよく理解するための助けになりました。理解が深まるとともに、実際の物事でも政府側の反応が早くなりました。

 この手の相互理解の結果としての良い例は、子どもたちの身分証が楽に作れるようになったことです。路上にいる子は付近で何か騒ぎが起こると真っ先に疑がわれます。警察がたいした取り調べもせずに子どもたちを捕えるのはNGOでも見聞していることですが、公正なものではありません。しかし、いかに子どもたちに望みのない状況でも、彼等を守ろうとする者は一人もいませんでした。こうした問題が討論会場で話し合われた結果、解決策が検討され、いくつかの組織では自分たちの知っている子どもにはIDカードの発行の便宜をはかることを決めました。警察は関連組織の勧告でIDカードを発行するようになりました。もし事情があって子どもを拘留するような場合は、警察は直ちにその組織と連絡を取り合わなければなりません。これは子どもたちと警察の両方の役に立ちました。IDカードの発行は今やボンベイでは日常的な光景になっています。

ストリートチルドレンのための事業の発展状況に目を向けた時、NGOというものが非常に重要な役割を果たしていることが分かります。実際、NGOは最初にさまざまな試みをし、またそれを長期にわたって継続しています。 例えば、ボンベイにあるスネ・サダン(Sneh-Sadan)は25年以上ストリートチルドレンの問題に取り組んでいます。その活動内容は3〜4種類に分けることができます。まず1つには、それは直接的な事業で多くのNGOが行っているものです。次に調査、文書作成活動があり、これはユニセフ、州政府、中央政府といったさまざまな段階でなされています。これに加え、規模は小さいけれども社会福祉学科や家政科、一般教養科などの大学の学生による研究もあります。こうした研究が多くの情報をもたらしているにもかかわらず、具体的なプロジェクトへと発展していくものはほんのわずかです。 例えばバツサーリャ(Vatsalya)というプロジェクトは、一人の社会福祉大学生による“ボンベイ市内の屑拾いの研究”の成果の直接的なものです。その研究で言及した数値は小さかったのですが、そのデータによってそのグループとの簡単な娯楽活動をすることが有効であることが立証されました。それを継承・発展させた社会福祉大学は、現場に学生を配置することを促進し、そのことが今日では十分独立したNGOとして成長するまでになりました。

弁護団体と情報網作りはもう一つの主要な分野であり、いくつかのNGOと特に都市ごとのNGOフォーラムが活発化しています。デリーのButterfliesやバンガロールのREDSのようなNGOでは、ストリートチルドレン自身が自分たちの問題と権利についての認識を高めていけるような視点を持ったグループとして組織化することに成功しています。こうした示威運動はこれらの子たちのために組織され、その中で彼らは関係省庁である警察や鉄道、市当局などと面と向かい合うことになります。そして子どもたちは自分たちの抱えている問題を訴え、当局は彼らに取り締まりの意味を説明します。

支援事業の性質

 これまでに現場で活動していたり、直接事業を行っている組織の数がかなりあることを見てきました。各組織はその活動範囲を目的に応じて選択しています。個々の組織によって提供される事業はそれぞれ異なります。例えば、

・いくつかの組織では居住施設を提供し、ほかでは健康管理と娯楽的なものの世話をします。

・ある所では教育を再優先と考えていますが、別の所では栄養摂取とほかの施設を用意しています。

・2〜3種類を取り混ぜた形で供給する所もあれば、広範囲な事業全般を用意している所もあります。

・毎日24時間開けている組織もあれば、毎週や1週間おきにやっている所もあります。

 しかしながら、すべてに共通する活動分野があります。最も重要な“コンタクト”プログラムです。その事業の性格がどうであろうと、子どもとの接触とその後の関係を築いていくことが重要です。分かり切った理由で子どもに近づこうとするのは容易なことではありません。まず始めに彼らを同じ場所で探すのは困難です。次に彼らは大人の世界を信じていません。彼らとコンタクト(接触)をするためにはいくつかの活動が手段として必要です。一般には娯楽活動がそれにあたり、それで組織のほかの活動を進めることができるようになります。

 しかし、もし子どもたちに何が望みかを聞くならば、娯楽はどこでも重要視されてはいません。子どもたちはまずバス、トイレつきの夜の住みかを求めているのであり、それから食べ物、衣服、保険衛生になります。そのあとでようやく教育とか職業訓練という順になります。NGOのいくつかは道半ばまで来ている、ということがわかります。NGOのスタッフはやってくる子どもたちがテレビを見たり、風呂に入ってりしてくつろげるように準備をします。インドでは公衆浴場システムが無いため、入浴施設は重要で便利なものになっています。いくつかの組織では保険衛生と教育分野を受け持ち、特にエイズのような病気に取り組んでいます。多くの所で教育活動を試みていますが、この地域では非常にゆっくりと進んでいます。いくつかの組織では週に1〜2回の栄養のある食料の配給を行い、子どもたちを呼び集めることに成功しています。子どもたちと取り組むためのこうしたさまざまな方法や形式がインドのNGOでは採用されています。

 次回はボンベイにおけるいくつかの組織のいくつかのプロフィールを見てみることにしましょう。

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参考文献

I) Press, M. Robert
 "On The Road", Indian Express, New Delhi,
  India, March 20, l994.
2) P.Smith
 "Butterflies in the Streets" The Statesman,
  Calcutta, India, March 5, 1994.
3) Ghosh, A.
 "Street Children of Calcutta",
4) Arimpur, J.
 "Street Children of Madras",
5) Pandey, R.
 "Street children of Kanpur",
6) Phillips, WSK.
 "Street Children of Indore",
  (3 to 6 All Published by The National
  Institute of Labour, India, in 1992-93).
7) Mishra, S.
 "Street-Children", Government of Maharashtra.
  India. 1989.

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翻訳監修:恩田英一
翻訳協力:大野京子
       篠田美恵子
       松下美代子
       森克明



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