ロシアの子どもたち

Π・テムジン



 ロシアでは計画経済から、大きく市場経済に変わりました。そして、インフレーション、毎日のように物価が上昇してきています。食料品、衣料品、交通機関、部屋や光熱費と、そんな中で生活はたいへん苦しくなるばかりです。一般的労働者、勤労者はもちろんのこと、特に年金生活者などの老人、そして、最大の被害者は子供たちです。

 生活はたいへん厳しくなるとともに、物価が急上昇するという状況の中で、若い夫婦は以前より子供を生まなくなってきています。モスクワでは平均すると若い夫婦は子供を1人というのが一般的になってきています。多くとも2〜3人の子供ですが、このような夫婦はたいへん少なくなってきています。子供が2〜3才までは母親が面倒を見ていますが、その後は大部分が国営の保育園に入れられることになります。しかし、保育園に入れるのを嫌う人は、母親が働いていない場合は、母親が、又は、お祖母さんが面倒を見ることになります。しかし、両親が働いていて祖父母がいなかったり、近くに住んでいない場合は、生活の苦しい年金生活者のおばあさんにお金をだして家に来てもらうことになります。家では小学校に入るまでの準備として、ロシア語の勉強やおとぎばなしを聞いたり、遊んだりといろいろ教わることになります。

 最近は、新しく私立の保育所、幼稚園が設立しはじめられています。これらは、国営と比べたいへん高額の費用がかかることになります。逆に、教員たちの収入が高く、優秀な教員が集められることになります。これらの施設は、国営と比べるとたいへん好評で、小学校入学の準備とともに、外国語(英語、ドイツ語、フランス語など)を教えるほか、音楽や芸術などレベルも高いことから、金持ちの両親たちは、これらの私立の施設に入れることになります。

 ロシアでは、6才から小学校教育が始まり、11年間の義務教育が行なわれています。その後、専門技術学校や大学に進むことになります。

 しかし、義務教育はたいへん大きな問題を抱えています。第一に国の教育予算がたいへん少なく、教職員の給与が低く押さえられています。第二に、以前は、一般教養や余暇時間の活動のために教育の補助として、子供のピオネール組織、青年のコムソモール組織が活動していましたが、これらがなくなってしまいました。そして、それに変わる組織がつくられていないために困難に陥っています。

 第三に、社会制度が市場経済に移り、教員や両親は、この新しい環境に照らし合わせた価値観をどう教えていったら良いかが、最大の問題になっています。例えば、子供たちは、これまでとはガラッとかわって、自由にものを売ってカネを儲けをすることが日常生活で知っているし、これまでにない食物や玩具などが出回り、カネさえあれば手にすることができるようになっています。そこで、学校にいかず、街頭で新聞、雑誌、アイスクリーム、ガムなど、小物を売っては金儲けするような子供たちが出てきています。

 約10前までは、小学校の低学年の子供は、街をぶらついたり、バスや地下鉄などに乗ったりするときは、かならず両親や祖父母など大人と一緒に出掛けたものです。しかし、現在は、子供だけで街を歩き回っている姿が目立つようになってきました。そして、彼らの両親は、彼らの行動に無関心になっているという状況です。

 さて、15〜16才前後の子供たちのなかには、店や自由市場で安い品物を買っては、街頭で少しでも高く売って金儲けする風潮が顕著になってきています。また、10〜15才の子供たちのなかには、3〜4人がグループになって、信号が赤で止まった短い間に特に外国車(高級車)に目を付けて駆け寄りフロントガラスを洗浄したり、道路の真ん中に立っていて、信号で止まった車の運転手に新聞や雑誌を売り込むという危険な仕事をしています。

 さらに、15才前後の子供たちのなかには、カネほしさと、余暇時間がまったく何をやったらよいのかわからぬ状況の中で、さまざまな犯罪へと引き込まれてきています。例えば、かっぱらい、スリをはじめ暴力をふるうことも出てきています。中には、悪い大人にカネでそそのかされて、外国人、女性や老人を狙ったひったくり、さらには暴行などが急増してきています。

 テレビでは、よくアメリカ映画が放送されていますが、その内容は、カウボーイもの、戦争ものやアクションなどで、人を傷つけたり、人殺しやものを壊すなどです。以前は考えられなかったことです。これらの影響とともに、コマーシャルでは、煙草(マールボローなど)やウオッカ(スミルノフ、ラスプーチン)などが日常的に流されています。そんなことから、特に年長の子供のなかには、女の子も含めて、街に出ればどこでも手に入ることから、煙草を吸ったり、ウオッカを飲んだりする子供たちも見かけるようになってきています。これらのことも以前は考えられないことでした。

 これらの状況下で急増している子供の犯罪にたいして、ただ警察だけの手ではとうてい問題解決にはならないのは明白です。どうにかして解決するために、ある女性たちの活動として、両親のいない子供たちへの慈悲の心を持つように訴えたり、エイズを防ぐ宣伝が行なわれたり、新聞、雑誌、テレビでは、子供や青年たちの問題を取り上げています。例えば、子供や若者の健康、余暇の過ごし方、政治的問題、権利やモラルについて、どのような問題があり、どう考えたら良いかなど。

 私は、これら子供たちの置かれている厳しい状況は、急速に経済、政治が安定していくなかで、政府組織や警察、学校、両親が協力して解決されると信じています。

          1995.4.1



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