インターネットとグローバルな民衆運動の課題
90年代のグローバル化を特徴づける大きな要因の一つにいわゆる「IT革命」の影響がある。グローバルな情報通信網と産業構造の情報化を背景に、多国籍企業は生産拠点を低賃金、低コスト地域に移転させながら、管理部門を先進国に集中させる国際分業を可能にした。
しかし他方で、グローバル化に反対する運動もまたこの「IT」を武器に国際連帯のあたらしいネットワークを構築してきた。その最初のきっかけは、チアパスにおけるサパティスタの蜂起にまで遡れるが、もっとも大きな成果をあげたのはシアトル以降の反グローバル化の運動においてである。
今回の研究会では、こうした「IT革命」の背景にある通信ネットワークの仕組みに関わる「権力」問題について説明し、民衆のコミュニケーションの権利がいかに脆弱であり、いかにその確保が今後の運動にとって重要であるかについて問題提起する。
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(1) インターネットの歴史的な背景
インターネットの起源は、1969年 米国防総省が、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、同サンタバーバラ校、スタンフォード大学、ユタ大学を結んで、遠距離の異なるコンピュータを相互に接続する ネットワーク(ARPANET、Advanced Research Project Agency Network、国防総省高等研究所計画局の研究用ネットワーク)にあるといわれている。国防総省は、異種コンピュータの相互接続、コンピュータの資源(CPU や記憶領域など)の共有や、核攻撃などに耐えうるように、通信ネットワークの一部が破壊されても残りの部分を使って通信を確保できる技術の開発などを目的する研究として、ARPANETの研究開発を行ったが、この点については、諸説ある。これは、コンピュータサイエンティストたちがネットワーク開発のための資金を国防総省から得るための「作文」であって、実態とは異なるという説(最近の有力説)がある一方で、やはり核攻撃へのネットワーク防御という開発意図はあったという説である。
ARPAは1957年にソ連のスプートニク衛星打ち上げに対抗して設置された軍事目的に利用可能な科学技術開発組織。
なぜこうした草創期に関する議論が起きるのかと言えば、その後のインターネットが、上からの開発だけで発展したわけではなかったからである。国家のプロジェクトでありながら、同時に草の根のコンピュータネットワークの展開によっても支えられてきたという二面性をもっていたからである。
70年代には、現在のインターネットを支える基本的な技術が開発された。(TCP/IP、パケット交換、イーサネット、OSとしてのUNIXなど)また、ARPANETには次々にさまざまなコンピュータやネットワークが接続するようになる。MILNET(米軍の軍用ネットワーク)もARPANETに組み込まれていた。
80年代にはいって、いくつかの大きな変化が生じた。MILNETがARPANETから分離米国以外でも主として学術研究用にコンピュータネットワークが急速に発展する。(ヨーロッパのEARN、日本のJUNET、イギリスのJANETなど)。また草の根のパソコンネットワークFidoNetが国際的なネットワークを形成しはじめる。
83年 米国インターネット運営協議会設立
84年 ドメインネームシステム(DNS)が導入される。
85年 全米科学財団によるインターネット運用の支援開始
88年 国防総省DARPA(ARPA改名)によってCERT(コンピュータ緊急対応チーム)
設立
IANA(インターネットのIPアドレスなどの管理組織)設立
89年 インターネットと商用ネットワークの電子メール交換が開始される
90年 ARPANET解散し、NSFNETが後継ネットワークとなる。(国防総省との関
係がここで制度的にも切り離される)
91年 WWWが登場
92年 アル・ゴアによる「全米情報ハイウェイ構想」
インターネット学会(ISOC)設立
95年 商用プロバイダーのインターネットへの本格参入が始まる
97年 インターネット番号登録協会(ARIN American Registry for Internet
Numbering)
98年 米国商務省「グリーンペーパー」 DNSの商務省管理を予告。ICANN(The
Interent Corporation for Assigned Names and Numbers、ドメイン、IPアド
レスなどの国際的な配分、管理組織)の設立
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(2) インターネットのインフラ部分に関する問題点
国際的なネットワークに関して
国内的なネットワークに関して
特に、ユーザからみたばあいの最も重要な問題は、
・アクセスが保障されているか(アクセスに必要な条件は何か、経済的条件、利用目的、職業その他の条件での選別があるかどうか)
・通信内容のプライバシーと表現の自由の確保
インターネットは、国際的な通信ネットワークだが、その基幹部分は、米国国防総省、商務省の影響下で成長してきた。そしてこの国家的な庇護に対してクリントン政権下でのいわゆる「新自由主義」への展開のなかで、「民営化」への傾向を強めてきた。こうしたインターネットの出自から下記のような問題が
ある。
・研究目的で開発されたネットワークであり、その管理運営は参加者による「直接民主主義」で成り立っていたが、接続ネットワークが拡大し、商業化するなかで、不特定多数のためのグローバルなネットワークの管理運営をどのように行うべきかという新しい問題が発生している。
・グローバルなネットワークだが、米国が特別な権利を確保している。ネットワークのアドレス管理(戸籍制度のようなもの)は、米国の非営利会社組織ICANNが米国商務省の監督のもとで行っている。(運用はベリサインという会社に委託されている)
(3)ICANNというガバナンス組織
broad coalition of the Internet's business, technical, academic, and user communities. ICANN has been recognized by the U.S. and other governments as the global consensus entity to coordinate the technical management of the Internet's domain name system, the allocation of IP address space, the assignment of protocol parameters, and the management of the root server system.
It is ICANN's objective to operate as an open, transparent, and consensus-based body that is broadly representative of the diverse stakeholder communities of the global Internet.
グローバルなインターネットガバナンス組織だが、これを構成するのはbusiness, technical, academic, and user communitiesとあり、政府代表が明示的に示されていない。多くのインターネットに関わる国際組織における政府代表の占める位置は決して大きなものではない。
非営利ドメイン名保有者の組織(NCDNHC) ICANN内部の支援組織のなかにある。(たとえば、ネットワーク反監視プロジェクトはhan-kanshi.netというドメインを運用しているので、このNCDNHのメンバーに登録している)
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(3)アドレス管理をめぐる憂慮すべき問題?
「ルートサーバーシステムは、13のファイルサーバーで構成され、すべての TLD を並べた権威のあるデータベースを収容している。現在、NSI が "A" ルートサーバーを管理している。"A" ルートサーバーは、権威のあるルートデータベースであり、そこに加えられた変更は日次ベースで他のルートサーバーに複製されるようになっている。NSI、並びに、その他の組織が、残りの12のルートサーバーを管理している(注6)。米国政府は、世界のルートサーバーの約半分の管理を担っている。インターネットにおける普遍的な名前の一貫性は、これら権威のあるルートサーバーとそれに対して一貫性を持つ一連のルートサーバーの存在なしには保証することはできない。このような一貫性がなければ、インターネットのメッセージは正しい目的地に確実に経路制御されないであろう。」(米国商務省「ホワイトペーパ」98年)
ICANNは「統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP)」が定められている。現在この規定は、商標、知的所有権の紛争処理を目的に定められている。ICANNは違法であるとの裁定の下ったドメインを「抹消、移転、および変更」できる権限を有している。これは、ドメインの「抹消、移転、および変更」の技術を有しているということを意味しており、法的な制度さえ整備されれば、知的所有権問題以外の場面でこの「抹消、移転、および変更」の技術を利用することが不可能ではないということを意味している。たとえば、テロリストのインターネットアクセスを排除する目的で、テロリストと指定された組織、個人のドメイン登録を抹消するなどはできないわけではない。(このようなルートサーバなどの利用可能性はほとんどない、というのが通説だが、一部に危惧する声がある)
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(4)情報のグローバルガバナンス組織における意思決定問題
グローバル化が、人(移民、難民)、モノ(サービスも含む貿易)、金(資本投資、金融市場など)とともに、情報のグローバル化が重要な要因であるといわれながら、貿易の国際管理組織WTO,金融の国際管理組織IMF、第三世界の開発組織WBと比べて情報の国際的な管理組織への関心は必ずしも高くない。理由はいくつかある
・組織がかなり複雑で、また技術、法律問題が絡みやっかい
・情報ネットワークそれ自体は、ダムや原発建設、児童労働をともなう工場の第三世界誘致などのようなはっきりした社会的経済的な不公正をもたらすとは限らない。
ICANNの事例
組織構成の特徴 意思決定機関に政府代表は入らない インターネットの技術者、民間企業、法律関係者などとともに、ユーザ代表からなる。
ICANNはその基本理念にインターネットのユーザコミュニティのコンセンサスを得ることとしている。したがって、すべてのユーザに開かれた組織運営が原則となるが、実際にはこれには大きな問題をかかえることになった。特に、数億人のユーザの利害をどのように代表することができるのかをめぐって、決定的な解決策が出されていない。
こうしたなかで2000年に、一般ユーザを有権者とした理事選挙が行われた。この選挙は、16歳以上、メールアドレスと郵送先住所を持つものならだれでも選挙権を持つことができた。この選挙はさまざまな影響をもたらした。
・グローバルな選挙であるにもかかわらず、国別の利害にもとづく国益選挙運動が展開された(特に日本)
・従来のICANNの理事とはかなり異なる傾向を持つ人物が当選したために、直接選挙方式に危惧を抱く保守派が積極的に発言するようになった。
・選挙にかかる膨大な経費の負担問題
・上記から、選挙権を制限する動きが活発化
##ICANNへの参加か対抗組織の構築か?
地域通貨運動があるように、インタネットの情報流通についても、「オルタナティブルート」への関心がある。この「オルタナティブルート」についてICANNは厳しく規制すべきであるという意見が次第に強くなっているように思う。
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(5) 運動の道具としてのインターネットの抱えている課題
・デジタルデバイド問題(UNDP資料参照) 社会的な格差問題の解決とリンクする→市場経済化への評価が問われる。政府と企業から自立したコミュニケーションの回路を作る運動はどのようにすれば可能か? (インフラとしての電話、CATV、無線、通信衛星) 印刷機に比べてインフラ依存度が高い。その分、インフラの管理運営問題が重要になる。
・プライバシー、表現の自由などの伝統的なブルジョワ的自由権の再定義と評価の確立
・マスメディアからの自立
・国際連帯をボトムアップで作り出す
・コミュニケーションは「戦場」である
(6)個人的な体験からいくつか
・aml
・JCA-NET
・反戦ポータルサイト