アメリカ合州国のイラク攻撃計画に反対する

アジア平和連合(APA)の声明

 

私たちアジア平和連合は、サダム・フセイン大統領が国連安全保障理事会決議1441を受け入れたことを歓迎します。この進展は、他の地域では人びとに安堵の息をつかせたかもしれません。だが私たちは、アメリカ合州国がイラクに対して戦争を仕掛ける脅威はただ先延ばしにされただけだと確信しています。

私たちは、米国政府が、イラクに対する戦争を始めようとしていること、そして、その戦争の正当化のために国連安保理事会を利用しようと図っていることを非難します。

米国は、イラクの武装解除のために何らかの行動を起こす前に、国連安保理事会にもどりその委託を受けようと試みることを余儀なくさせられました。このことは、国際関係に何らかの法の支配を取り戻そうとする国際社会の欲求の表れではありますが、残念ながら、イラクに関するこの国連安保理決議は、米国のメディアが「世界社会の声」ともてはやしたように、結局はワシントンの戦争計画にまんまとはまりこむものです。決議は脅迫下に採択されたのです。

米国は、安保理決議のあるなしに関わらず、中東における経済的かつ軍事的利益を追求するためイラクを攻撃するつもりです。米国議会の支持に武装されたジョージ・ブッシュとその使者たちは、今回の決議の前も後も、フセイン大統領の決議受け入れの前も後も、繰り返し軍事攻撃の脅しをかけてきました。米国は、みずからの戦争計画への合法性を手に入れるために他国と調子を合わせていたに過ぎません。

私たちは、ブッシュ政権が明言しているイラク侵攻への意図を非難します。なぜならそれは、米国が「悪」や「文明の敵」とレッテルを貼るいかなる国に対しても米国は先制攻撃を仕掛ける権利があるという主張を、世界社会に承認させ、合法化するための、そしてこのようにして全世界を自分の指図に従わせるための、重大な一歩となるからです。

9月に公表された「ブッシュ・ドクトリン」(「米国の安全保障戦略」)は、米国の帝国としての途方もない権利主張を明らかにしました。すなわち米国は国連憲章も国際法上のいかなる規範をも踏みにじり否認する権利を主張し、このような行為を、「われわれの(米国の)価値とわれわれの(米国の)国家利益を反映する明確にアメリカ式の国際主義」[ブッシュ・ドクトリン]の名の下に、正当化しようとしているのです。アメリカによる大規模なイラク侵攻前夜に、私たちは決定的な選択を迫られています――この帝国体制に屈するか、これを拒否するのか。私たち、アジアの民衆は、これを拒否します。

 

私たちは、イラクに対する戦争に何の根拠も認めません。

イラクは、米国に対してもヨーロッパに対しても脅威を与えてきませんでした。宗教的に中立なバース党政権はアル・カイーダと何のつながりももっていませんし、何らかの「テロ攻撃」を企てたとして訴追されたこともありません。湾岸戦争後、イラクの原子力施設を査察した国際原子力機関(IAEA)は、1997年10月、イラクが大量破壊兵器を生産する能力がある証拠はどこにもない旨を国連安保理に報告しています。これを裏づける何人かの武器査察官の報告書もあります。イラクは、いかなる国家に対しても大量破壊兵器を使用したことはありません。大量破壊兵器を使用したことがあるのは、アメリカ合州国だけです。

国連安保理決議1441は極端な文書です。1991年の湾岸戦争末に承認された安保理決議687のいくつかの側面がそこには含まれていません。91年決議は、この地域の問題の政治的な解決のためのいくつかの要件を挙げていました。すなわち、独立した兵器査察機関、戦争の脅威の終結、経済制裁解除に向けた明確な日程、そして中東における非大量破壊兵器地帯の創設などです。この解決策は、イスラエルを非核化する必要も射程に入れたものでした。しかし、1441決議は、すべての責任をイラクに負わせ、いままでの国連決議に違反してきたと責めています。そして査察機構の強化とヴェルサイユ条約をモデルにしたような武装解除を要求しています。これでは、どんな国も従うことができず、どんな査察機構も成功しないでしょう。決議は、国連安保理が、国連武器査察官が報告書を提出した後に状況を検討すると述べているものの、イラクがこの決議に違反したと見なされれば「深刻な結果」を招くであろう、という表現で軍事条項を隠しもっています。

米国は、これまでの国連決議にイラクが違反し、武器査察官を締め出してきたと非難していますが、それは二枚舌というものです。米国は、パレスチナに関連する29本の国連決議に逆らって、イスラエルに道徳的、経済的、政治的支援を与え続けた上、その他27本の決議についてはイスラエルの側に立って拒否権を行使しました。武器査察官は1998年に安保理の許可を求めることなくイラクを去りましたが、その直後に米英連合によるイラク爆撃が始まりました。米国は国連決議687のすべての側面を踏みにじってきたのです。そして、これ以上ないほど厳しい経済制裁を加えましたが、それは何より一般市民に被害を与えました。結果として、何万というイラクの子どもたちを不自然な死に追いやり、イラクの民衆を非人間的苦境に置いたのです。

米国は、厚かましくも、イラクの体制変革―サダム・フセインを失脚させるための変革―の必要を挙げて、イラク攻撃を正当化しようとしています。しかし米国には、自国の目的のために自国領土外の政府を勝手に排除したり、樹立したりする権利はありません。

私たちは、抵抗するイラクの人びとの努力に敬意を払います。イラクの人びとだけがみずからの未来を決する権利をもっているのです。

明らかに、イラクの石油にアクセスし、支配することが、この戦争にかける米国の主要な関心です。アフガニスタンでやったようにイラクの政権を交代させ親米政権をその後に据えることは、アメリカの石油会社によるイラク支配を確実なものにするでしょう。OPEC(産油国機構)による石油価格支配は、米国の手に移るでしょう。さらに米国は、この地域全体に対する支配と覇権を確保し、イランからサウジアラビアに至るこの地域の他の国々の政権交替に影響を与え、それらの国の体制を再編成することができるようになるでしょう。

 

ブッシュ政権はこのために、先制攻撃のドクトリンとそれへの議会の承認をもって、必要であれば一国のみでも戦争を開始しようというのです。この地域に米英が大規模な兵力を展開していることが、この二国の一体化した軍事主義を明らかにしています。他の国々はこの戦争を、戦後処理への関心をもって支持しています。この戦争はまた、グローバル化体制下の戦争になるでしょう。

私たちは、国連安保理の許可を得ずとも戦争を仕掛けようという米国大統領の脅迫を非難するのと同様、大統領にイラク攻撃の承認を与えた米国議会を非難します。

APAは、サダム・フセインをまったく支持しません。しかし、ブッシュの率いるこの戦争は、何よりもまず一般市民と都市住民に損害を与え、その後何十年にわたって中東全体に不安定をもたらし、緊急に必要とされるパレスチナ問題の解決を後退させるものとなるでしょう。そして、一方的な世界秩序を確立することになるでしょう。そのような世界秩序は、この50年間に作りあげられてきた国際法の原則のすべてを踏みにじり、反故にするために、米国だけが利用できるものとなるでしょう。

 

私たちは、米国が組織する戦争状況のなかで、暴力の悪循環を引き起こす不安定化の過程が、アジアを急速に呑み込んでいることに、強い警戒心をもって注目します。

朝鮮半島での緊張は、朝鮮民主主義人民共和国との「枠組み合意」が崩壊に瀕している状況のなかで、危険なほどに高まっています。戦争は、バリ島の事件をきっかけにしつつ、またフィリピンの武装した主要反対勢力を「テロリスト組織」と指定することを通じて、すでに東南アジアに拡大されつつあります。

国家による大規模で組織的な暴力に暴力によって応えようとするやり方、ましてや市民に対する無差別な暴力行使が、ブッシュの立場を強化するだけだということ、そしてそのような暴力が、米国の政治・軍事機構と、もっとも抑圧的な地元エリート・国家エリートとの最悪の結合をうながすだけであることは明らかです。このような結合は、民主主義のいっそうの浸食を引き起こし、民衆の権利と自由への抑圧をもたらします。私たちは、それがすでにインドネシアとフィリピンで起こっている有様を目撃しています。

 

私たちは、アジアのすべての人びとに、この戦争に反対するよう呼びかけます。

私たちは、国際社会に、戦争に訴えようとする米国の企てに反対するよう、そして、国連安保理事会が、米国の戦争に反対する決議を採択するよう訴えます。

私たちは、平和を愛するアジアのすべての民衆と民衆集団に、暴力の悪循環に終止符を打つために手を結ぶよう呼びかけます。そして、非暴力の抵抗で民主主義と自由を創造し、育み、正義に基づいた人びとと人びとの関係をうちたてる力強いアジアの声を発するために集まろう、と呼びかけます。

私たちは、アジア平和連合(APA)に参加するすべての人びとに、それぞれの国の政府に対して、米国のイラク攻撃計画に反対するよう強く求めるよう呼びかけます。そして、アジアの平和を愛するすべて勢力が、この計画に反対するアジア規模の共同行動に、世界の他地域で展開される平和運動と連帯して、加わるよう呼びかけます。

 

アジア平和連合運営委員会

 

2002年11月15日

 

署名

 

APA創立団体

Asian Regional Exchange for New Alternatives

APA Japan

ASR Resource Centre (Pakistan)

Bharat Gyan Vigyan Samithi (India)

Committee for Peace Not War (Hong Kong)

Focus on the Global South

Focus on the Global South-Philippine Programme

Gathering for Peace (Philippines)

Initiatives for International Dialogue

KALAYAAN (Katipunan para sa Pagpapalaya ng Sambayanan, Philippines)

Nuclear Free Philippines Coalition

Pakistan Peace Coalition

Partai Rakyat Demokratik (People's Democratic Party, Indonesia)

Peace Camp (Philippines)

People's Plan Study Group (Japan)

Philippine Coalition for the International Criminal Court

Women Making Peace (Korea)

 

APA創立個人

Selvy Thiruchandran (Sri Lanka)

Director, Women's Education and Resource Centre [APA founding member]

Sumanta Banerjee (India)

Pakistan-India Peoples Forum for Peace & Democracy [APA founding member]

Nighat Said Khan [APA Steering Committee member]

(Coordinator, South Asian Women for Peace)

(Coordinator, Peoples Peace Alliance)

Kamal Mitra Chenoy [APA founding member]

(Vice-President, All India Peace and Solidarity Council)

 

その他の組織・個人

Malaysian Social Reform Movement (ALIRAN)

Joy Balazo

Uniting Church, Australia