MAIを巡る最近の動き
1998年10月〜1999年1月


国際・国内の動き



●OECDにおける多国間投資協定(MAI)の交渉が正式に断念される(12/3)
 昨年12月3日にOECDパリ本部で開かれたMAI交渉グループ会合は、交渉の継続を正式に断念すると決定した。前回(10月)の会合以来、MAI交渉からの撤退を表明し交渉のテーブルについていないフランスを交渉に引き戻すことができなかったことを受けた決定である。ただしフランス政府を含め、OECD加盟29ヶ国は、国際投資ルールを策定する必要性と、これに資するような投資に関する何らかの作業をOECDで継続する必要性について合意しており、今後は、国際投資ルールをどこで作っていくのかという点と、OECDにおける作業はどのような内容にすべきかという点についてフォローアップするための会合が開かれる予定である。
 OECDはまた、99年1月28-29日にオランダ・ハーグで「海外直接投資(FDI)と環境」をテーマにOECD非加盟国やNGOも含めた国際会議を主催し、FDIの拡大と環境保全の両方を達成する国際ルールのあり方について、FDIの環境影響評価、投資基準、自主規制、ガイドライン、環境報告・監査、情報公開などの点から検討する。


●フランス政府のMAI交渉撤退の根拠となったラルミエール・レポートの内容(9月)
 昨年9月に発表された「多国間投資協定に関する報告書(ラルミエール・レポート)」は、フランス政府の諮問を受けたカテリーヌ・ラルミエール欧州議会議員とジャン・ピエール・ランドー大蔵総監(Inspector General of Finance)が作成、フランス政府がMAI交渉から撤退する根拠となった。このレポートでは、OECDにおけるMAIの締結には反対しつつ、各国NGOのMAI反対の根拠に基づき、WTOにおいて交渉し直す場合にどのような協定を目指すべきかの指針を示している。以下はその抜粋;
1)協定における投資の定義からポートフォリオ投資を外し、海外直接投資だけを対象とすること
2)紛争解決メカニズムは国家間だけに限定し、投資家による提訴は認めないこと
3)投資家の一般的待遇の中で規定している、(収用の際の投資家の)「完全かつ迅速な保護」という概念は、外国投資家がストやデモによる損失に対して国家賠償を要求する根拠とされるため、なくすこと
4)国有化や収用と「同等の効果を持つ措置」という概念は、あまりに広すぎるので廃止すること
5)外国投資に対するパフォーマンス要求の禁止項目を減らすこと
6)「スタンドスティル規定(各国がMAIに反する法規を再度あるいは新規に設けることを禁止)」をなくすこと


●MAIからの撤退と、多国籍企業行動規制のための国際ルール策定を求める約17,000名分の署名を提出(11月26日)
 市民フォーラム2001、アジア太平洋資料センター、APECモニターNGOネットワークなどが中心となり、昨年2月に立ち上げた「MAIにNO!日本キャンペーン」では、OECD(経済協力開発機構)で交渉が進められてきたMAIの問題点を広く知らせる活動の中で、日本政府に対して、MAI交渉からの撤退と、多国籍企業行動規制のための国際ルールの策定のを求める要請文に署名を呼びかけた。そして11月26日、集まった17,000名分の署名を外務省経済局国際機関第二課長に手渡し、申し入れを行った。
 MAIの交渉は、世界の市民・NGOによる大規模な反対キャンペーンによってフランスが10月に交渉から撤退してしまったため、申し入れの時点ですでにOECDにおける継続はほぼ不可能となっていた。(その後、12月3日の会合でMAI交渉は正式に断念された。)そのため、外務省に対する申し入れの内容は、今後のMAIのような国際投資自由化(海外展開する企業の自由と権限を拡大する一方で、政府から経済・社会政策を実施する義務と権利を奪う内容)のための協定がWTO(世界貿易機関)などの他の場で交渉される見込みがあるのかどうかに関する質問と、多国籍企業の規制という全く違う角度から国際投資ルールを考える必要があるというキャンペーン側の意見についての議論が中心となった。
 以前から要請してきた情報開示については、外交交渉という特殊性からかなり難しいとの返事であり、開示するもしないも全て外務省の一存であるという態度に本質的な変化は見らなかった。


●WTO投資と貿易作業部会:現状と将来(11/25-26)
 1996年のWTO閣僚会議で設立が決定された「WTO投資と貿易に関する作業部会」は、タイ政府の務める議長の下、30〜40ヶ国が参加し、過去2年間に合計6回の会合を重ねてきた。昨年11月25-26日に開かれた6回目の作業部会では、この作業部会が教育的プロセスの場であり、新たな投資協定の交渉やその準備を行う場ではないという公式の了解(WTOシンガポール閣僚声明)をよそに、EU(欧州連合)はEUの当初からの目的である投資協定の交渉開始を途上国に迫る場面もあり、インドを中心に途上国側の強い反発を招いた。インド、パキスタン、エジプトなどは作業部会の作業を延長することで、交渉への移行を避けようとしている。途上国NGOはこの作業部会を最低で2年間延長すべきだと主張しているが、EUは6ヶ月間の延長後、99年11月の閣僚会議の了解を得て投資協定の交渉を開始したいと考えている。1998年5月に開かれたヒアリングでは、少なくとも途上国8ヶ国がWTOにおける投資協定の締結に反対を表明しているが、投資を誘致したい途上国の間で足並みが乱れれば、一気に先進国の思惑通り、2000年に予定されているWTO次期交渉の議題に投資分野が含まれることになり、WTOでMAIが成立するという事態は避け難くなる。

 これまで、および今後のWTOでのスケジュール
1998年10月:WTO加盟国が既存のWTO協定の実施に関連した問題について検討する。
1998年11月:ビルトイン・アジェンダ(既に討議することが決まっている課題)について検討する。WTO協定の中に既に将来再交渉されることが明記されている分野がある。農業はこのような分野の一つである。
1998年12月:WTOが後発開発途上国(LDCs:GNP比較で最も貧しい48ヶ国)に対する特別な配慮について、および1999年の作業計画について検討する。
1999年1月:WTOは、引き続き1999年の作業計画について、および第一回シンガポール閣僚会議で設立された作業グループの報告書と新たな課題について検討する。
1999年2月の第三週目に一般理事会が開かれ、プロセスの評価を行うと共に、交渉プログラムを最終決定する。(MAIのような投資協定がWTOレベルで交渉されるようになるのかどうかもここで決定されることになる。)
1999年11月:アメリカでWTOの最高決定機関である閣僚会議が開催される。ここで2000年からの次期交渉の対象とされる分野を含め、今後のWTO交渉のあり方について決定される。


●日本とEUがWTO次期ラウンドに投資協定の交渉を含めることで一致(99年1月)
 OECDにおけるMAI交渉が打ち切りになったことを受け、2000年から予定されているWTOの次期交渉テーマに投資を含めるとの日本とEUの合意が成立、既に再交渉されることが決まっている農業、サービス、知的所有権などの分野とともに、ラウンド形式で交渉を行い、3年間以内のラウンド終結を目指すことで一致した。農業・サービスなどの分野は前回のウルグアイラウンド交渉において自由化スケジュールの終了する2000年に再交渉が開始されることが既に定められているが、投資分野については今年11月にアメリカで予定されているWTO閣僚会議の場で、新たに交渉の対象とされるかどうかが決定されることになる。なお、アメリカはこの次期交渉において分野ごとの個別交渉を行うことを強く希望しているが、各国の実状に合わせて分野横断的に自由化義務を取引したいと考えている日欧はこれに反発、対象分野を全て一括して交渉するラウンド形式での交渉を主張している。
 さらに最近の報道では、次期のサービス交渉では、二国間による分野ごとの交渉ではなく、一括して全てのサービス分野に適用される自由化スタンダードを定めていくという「トップダウン方式」(OECD/MAIで採用された方式。これに対し、従来の積み上げ方式の自由化はボトムアップ方式)を採用していくことが4月末の四極会合で合意される予定だという。この方式では、「行政手続きの透明化」や「パフォーマンス要求(外国投資に規制や受け入れ条件を課すこと)の一部廃止」などの新たなルールを全ての加盟国に一律に適用していくため、OECD/MAIについてNGOが指摘した「途上国の開発」や「全ての国の地域振興策・地域雇用創出策」などに多大な悪影響が懸念される。
 MAI反対キャンペーンを展開してきた各国のNGOは、WTOが情報公開・市民参加などの点で非常に不十分な国際機関であることや、実質的な協議を行っている非公式会合にほとんどの途上国が参加できていないこと、WTOにおいて投資ルールが締結される場合にも企業を一方的に優先し、各国の主権を奪うMAIの根本的問題が解決される可能性がほとんどないことなどを理由に、投資ルールを拙速にWTOで策定することに反対している。


●漏洩されたEC書類には、WTOにおいてOECD/MAIとほぼ同じ内容の投資協定を交渉する意向が示されていた(12/15)
 EU理事会の専門家委員会に提出された討議資料(ECが作成)の内容が、欧州のNGOを通じて明らかになった。これは、WTO次期交渉においてEUはどのような投資協定の締結を目指すべきかの大枠を示すものだったが、その内容は、ECがいまだにOECD/MAIとほぼ同じ内容の投資協定を作ろうとしていることを明確にした。この資料の日付はこれは、MAI交渉中止が決まった後の12/15となっている。内容の一部を要約すると;
1.「投資」を広く定義する(MAIが為替投機などを含む「あらゆる投資」に適用されることには、NGOを始め、フランスなどが反対しており、ドイツもMAI交渉中に投資の定義を狭く限定することを提案している。)
2.内国民待遇(NT)と最恵国待遇(MFN)(この二つの原則の併用により、国内企業が逆に差別される問題があり、また逃げ足の早い外国からの投資に内国民待遇を徹底する必要性そのものが疑問。)
3投資保護(収用と補償)(NAFTAの類似条項は、すでに外国企業が受入国の環境法制を改悪したり、不当に多額の補償を要求する根拠を与えている。)
4.外国送金の自由(MAIが為替投機などを含めば、当然ながらこのルールによって金融危機が発生しやすくなるだろう。)
5.パフォーマンス要求を制限(現地調達比率や輸出要求、現地雇用要求などは、先進国も自国の発展のために多用してきたルールであり、制限されることで途上国の発展や自治体の地域振興策などが大幅に制約されることになる。)
6.キーパーソネル(重役や専門職)の入国の自由化(モノ・カネ・サービスなどが自由化される中、唯一自由化されていない生産要素が「労働」なのだが、外国企業の経営陣だけを自由化すれば、その非対称性はますます拡大する。)
7.実効性のある実施メカニズム(この中で、既存の紛争パネル(国家間のみ)とは別に、「投資家VS.国家」紛争解決メカニズムをWTOの中に設けることを提唱。投資家が提訴権を持つことは、OECD/MAIでもNGOを始め多くの国が反対してきた。)
8.新規投資の自由化(設立前の外国投資の新規参入の自由化を意味し、市場アクセスの議論である。)


●外務省が日本の民間団体に対し、WTO次期交渉についての説明と意見聴取を行う(3/9)
 OECD/MAIのとん挫を受け、国内における国際経済協定に対する意思決定プロセスが変わりつつある。今回、外務省はWTO次期交渉についての説明と意見聴取を行う機会を新たに設け、民間団体(NGOだけではなく、企業や外郭団体なども含まれると推測される)にもっとも消極的な形で意思決定プロセスに関与することを認めた。しかし外務省は次期交渉をラウンド形式(多角的交渉)とすること、および「投資」を交渉対象に含めることを既にEUと合意しており、国内で行われる意見聴取が今後どれだけ対処方針に影響を与えられるかは全く不明である。外務省の方針をまるで国際合意のように伝える情報操作についてきちんと正していく必要、および個別の技術的な議論ではなく、日本政府が「自由化」を進めること自体について、その論理的根拠を問いただしていく必要があるだろう。


●MAIと同様の中身を持つ協定がさまざまなフォーラムで交渉される

 OECDで交渉されてきたMAIと同様の内容を持つ投資協定がEUとアメリカの間で話し合われている貿易・投資に関する協力のための枠組み、大西洋間経済パートナーシップ(TEP)にも含まれていることが明らかになる中、EUがアフリカ・太平洋州・カリブ諸国と結んでいるロメ協定(本来はこれら諸国の経済発展を、貿易を通じてサポートするための協定)の再交渉の中身にもMAIと要素が含まれていることが判明した。
 一方、日本政府が新たに締結または交渉している二国間投資協定(BIT)においても、今まで日本が結んできたBITにはなかった「パフォーマンス要求の禁止」などの規定が盛り込まれるようになってきている。11月に政府がロシアと締結したBIT、および現在韓国と交渉中のBITがまさにそのような規定を含んでおり、これは明らかにMAI交渉およびそれと類似するアメリカのBITの流れに追随する動きである。 

(市民フォーラム2001 佐久間智子)


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