地球環境問題に関する教科書検定についての申し入れ

市民フォーラム2001
気候ネットワーク

 小学校教科書での地球環境問題についての記述に対し、文部省が意見を付けて修正させたと報道されています。これに対し、下記の通り文部省宛に申し入れを行いたいと思います。賛同していただける団体・個人の方は、「団体名(または個人名(所属))、TEL、FAX、Email、住所」 を、7月31日(土)までに下記までお寄せ下さい。

●市民フォーラム2001事務局
 Email:pf2001jp@jca.apc.org  
   TEL:03-3834-2436 FAX:03-3834-2406

   多数のご賛同をお待ちしております。

                   



1999年7月
文部大臣 有馬朗人 様

地球環境問題に関する教科書検定についての申し入れ


 来春から使われる小学校教科書の環境問題に関する記述に対して、文部省が意見を付けて修正させたと以下のように報道されている。
<共同通信記事6月24日配信>
(前略)学校図書は6年の理科で、地球温暖化問題を取り上げた。当初の記述は「二酸化炭素の量が増え(略)さまざまな影響をおよぼしていると考えられています」。
 これについて文部省は「温暖化が既に起こっているかのような記述」と文書で指摘。調査官は「地球全体での二酸化炭素の増加は確認できない」と付け加えたという。
 このため同社は「いくつかの地点の測定によると、大気中の二酸化炭素の量が増加しているという結果が出ています。もし、このまま増え続けると、どのようなことが起こると、考えられているのでしょうか」と温暖化を「未来の話」に書き換えた。
 調査官は「極地の氷がとけると多くの陸地がなくなってしまうことも予想されます」の文言にも「危機感をあおらないでほしい」と指摘したといい、「海面が上昇することも予想されます」に変えた。



今回の検定について、地球温暖化問題を中心に問題点を指摘したい。

1.政府内での政策不一致あるいは国際合意への背信


 1995年、世界中の第一線の科学者の集まりであるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は第2次評価報告書を出し、「気候への人間活動の影響は既に現れており、その主因は化石燃料の使用と農業による温室効果ガスの増加である」と述べている。97年に京都で行われた「気候変動枠組条約第3回締結国会議(地球温暖化防止京都会議)」に至る国際交渉のプロセスにおいて、参加各国はこのIPCC報告を共有した上で、京都議定書を採択した(97年12月)。議定書で日本は2008〜2012年に二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を1990年比で6%減らすことを約束し、その目標達成に向けて、政府は地球温暖化対策推進大綱などを中心に施策を進めているものと認識している。
 にも関わらず今回の検定では、「地球温暖化がすでに起こっているかのような記述」は好ましくないとして検定意見が付けられている。このような意見を付けるということは、文部省が「温暖化は起こっていない」と考えていると理解される。それが日本政府の考えであるとすれば、IPCC報告を踏まえた京都議定書(日本政府は署名済み)に対する重大な背信である。そうでないとすれば文部省の教科書検定は、政府として国際的に認めたことに反するものであり、政府内一致を乱す行為として問題である。

2.環境問題に消極的な検定の姿勢によるマイナス影響

 文部省の説明によると、「危機感をあおるな」と言っている訳ではなく、科学的な不確実性を踏まえて、断定的な記述をしないようにという意見を付けているとのことである(酸性雨問題についても同趣旨の意見を付けている)。そうであるとしても、1992年ブラジルで開催された「国連環境開発会議(通称「地球サミット」)」で合意された「リオ宣言」の第15原則には、「完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための(中略)対策を延期する理由として使用されてはならない」と述べられている。これは、科学的不確実性が少しあっても、積極的に環境対策に取り組むべきだ、ということである。また、気候変動枠組条約でも同様のことが述べられている(
第三条原則)。
 検定は環境問題への取り組みに対して消極的と言わざるを得ず、これは教科書を通じて子供たちへ影響を与える。これは、「リオ宣言(第10並びに21原則)」並びに「アジェンダ21(第36章)」の精神に反している。科学的不確実さを理由とする環境問題への消極的な態度は改めるべきである。

3.検定における法的根拠のない「雑談」の問題

 さらに、教科書検定においては、法的根拠がなく記録にも残らない、調査官による「参考意見」「個人的な発言」「雑談」の問題も指摘されている。現行の検定制度では、文相の諮問機関である教科書図書検定調査審議会による検定意見を、教科書調査官が口頭で出版社に伝える仕組みとなっている。だがその際に、調査官が個人的にコメントすることがあり、それが出版社に対して大きな影響力を及ぼし、結果として自主規制に向かわせているという問題は、新聞記事でも指摘されている(例:共同通信記事6月24日配信)。
 今回報道された、「危機感をあおるな」と、「地球全体での二酸化炭素の増加は確認できない」というコメントについても、このような形で発言された可能性が高い。前者の発言は、現在さまざまな意識調査において、多くの人々が地球環境問題を危機的であると認識している中、「地球環境問題は危機的でない」という価値観を子供たちに強制するものである。後者の発言については、地球規模での二酸化炭素濃度の上昇は観測に基づく事実であるので、調査官は科学的な事実すら承知していないということになる。


 以上の点を踏まえ、次のような改善措置を求める。

1.教科書検定を密室で行わないこと。

 今回のようにマスコミの報道と文部省の説明にズレが生じるのも、教科書検定が公開されていないからである。検定のプロセス(調査官の全発言を含む)・資料等はすべて詳細に公開すべきである。また検定の各分野ごとに、関連する非政府市民団体(NGO・NPO)のメンバーを入れること。

2.教科書調査官の資質を選考すること。

 教科書の選定は重要な施策である。調査官個人に左右されて、政府内での政策齟齬を招いたり、国際合意に反したり、最新の科学的・社会的知見を無視したりしてはならない。調査官の資質をより厳格に選考し、さらにその選考過程及び氏名・専門分野・出身等をすべて公表すること。

3.「アジェンダ21」に基づき、教師や管理者、教育施策の立案者に対する環境教育を推進すること。

 今回このような問題が生じたのは、「広義の教育は、人類と社会が最大限の可能性を発揮するための一過程として認識」されず、「地域社会または非政府組織の適切な協力の下、(中略)教師や管理者、教育施策の立案者の(中略)研修計画(アジェンダ21第36章.5(C))」がなされなかった結果である。「アジェンダ21」に基づく「環境に関する研修計画及び教育」を、文部省の進めている環境教育だけでなく、教育施策立案者にも対象を広げて推進すべきである。

 日本の教育現場では、個性豊かな生徒が異端としてはじき出されることが以前から問題とされている。環境問題への対応の消極的な教科書検定によって、地球環境に危機感を持ち積極的に取り組む子供に対する異端視が生じることを危惧する。このことは文部省が推進しようとしているはずの環境教育を、真っ向から否定するものである。
 環境問題に積極的に取り組む子供たちを育て伸ばす教育が進められるよう願い、賛同する者の署名を添え、申し入れる。

市民フォーラム2001
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