1998.12.9
生物多様性国家戦略の点検結果に対する意見



市民フォーラム2001
環境法制プロジェクト


 関係省庁で国家戦略の点検結果をまとめられたことに敬意を表する。
 しかし、率直に言ってこの内容は、生物多様性に関係のありそうな従来施策を寄せ集めてホチキスで留めただけのような印象を受ける。温暖化防止政策では「地球温暖化防止行動計画関連施策」の大半が道路建設であったのと全く同様で、こうしたとりまとめは意味をなさないと考える。
 生物多様性保全については以前からIUCNやWWFなどがガイドラインの案を提案したり、また条約締約国会議でも国家戦略及び点検についてガイドラインの議論がなされているはずであるが、今回の点検作業ではこうした議論の結果が反映されていない。
 以下に、意思決定及び社会資本整備の視点から見た問題点を中心として、意見を提出する。



■国家戦略のための指針、指標等の整備、国家戦略の実施に関連する各種計画との連携及び地域レベルの取組への支援と連携

 第五次全国総合開発計画をはじめ、生物多様性保全と矛盾する計画の策定を阻止できなかったことや、こうした開発政策の意思決定課程に生物多様性保全の視点が入っていない事態について触れていない。問題点に触れた上で、破壊された生物多様性の現状回復に向けた方針を示すと共に、来年以降どう改めるかを記載するべきである。


■保護地域の指定及び管理

 保護区域の指定、解除が関係省庁の裁量に任され、基準が不透明であることについて触れていない。藤前干潟(ラムサール条約)、諌早湾(世界遺産)、など開発予定地の指定が進まない現状について触れる必要がある。


■社会資本整備に伴う生物多様性の保全と回復の取組

 こうした開発政策の意思決定過程に生物多様性保全の視点が入っていない事態について触れていない。
 長良川河口堰、諌早湾干拓等の生物多様性に対する問題の大きい公共事業が現に止まっていない事態について触れていない。
 環境影響評価法について、生物多様性保全に反する事業の中止の可能性があるならそのような記述をすべきである。
 以上の問題点に触れた上で、破壊された生物多様性の現状回復に向けた方針を示すと共に、来年以降どう改めるかについて記載すべきである。このような記載がなければ、現状を正しく認識した上での点検結果とはみなすことはできない。


■農林水産業

 林業関係では、大規模林道建設が進む一方で営林関係のリストラが進んでいる現状について触れていない。それに触れた上で、スーパー林道などで破壊された生物多様性の現状回復に向けた方針、大量伐採の跡地計画を示すと共に、来年以降どう改めるかを記載すべきである。


■野外レクリエーション及び観光
 国や民間事業者によるリゾート開発が、バブル崩壊に伴って中断・放置されている現状について触れていない。それに触れた上で、その現状回復に向けた方針を示すと共に、来年以降どう改めるかが示されないままでは、長期的展望にたった「国家戦略」の点検とはいえない。


■遺伝資源の保存と利用

 食品表示をはじめ公開性、透明性に問題のある施策が多いが、一切触れられていない。「今後の課題にバイオテクノロジーによる遺伝資源の利用を進める」とあるが、安全面でも市民への公開・市民の意思決定参加の面でも、その結論を導く前提が整っていないことは明白である。

■教育及び普及啓発

 地域での普及啓発では、国や自治体がトップダウンで行うよりも、地域で活躍するNGOによる活動を支援することの方が重要である。
 また、生物多様性に最も大きな影響を及ぼす政府開発部局の職員や、建設会社の職員への教育にも力を入れる必要がある。

■国際協力
 環境面での国際協力は重要だが、それよりも、現状の開発援助において生物多様性保全を前提にした意思決定、計画が行われているかどうかを点検すべきである。この点の記述がなく、その反省点・問題点と来年以降どう改めるかの記載がない本レポートを、よりよい今後のために真剣に点検がなされた結果とみなすことは到底できない。

 以上


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