1998.6.30
PRTRパイロット事業ならびに今後の制度化に関する意見書


市民フォーラム2001
環境法制プロジェクト


 PRTR(環境汚染物質排出・移動登録制度)は、環境汚染物質を広く定義してその使用量、排出量などを広く公開することを通じ、有害化学物質や重金属などによる環境汚染を未然に防止し、産業活動等を環境保全型に転換する一制度として期待されている。
 この点で今回のパイロット事業は幾つかの問題点を有していると考える。以下に成果と限界、今後の制度化に向けた提案を示すので、秋にも制度化が伝えられる中、こうした意見を反映すると共に、決定プロセスに市民・NGOが加わるよう要請する。

■PRTRパイロット事業の成果
・大規模事業所から、人体への有害性がかなり認められているような環境汚染物質が大量に環境中に排出されていることが明らかになったこと。
・事務局の調査により、中小規模の工場・事業所からも業種によってはかなりの汚染物質が排出され、これらについても事業者から直接排出量を報告させる必要性が明らかに
なったこと。
・規制対象物質をはじめ、人体への直接影響のある物質以外の環境汚染物質も大量に排出されている可能性が強く示唆されたこと。

■PRTRパイロット事業の限界
・せっかく広範な汚染の事実が判明したのに、工場毎の排出量が発表されなかったため、行政対応(将来の規制など)はともかく、汚染を企業が自主的に抑える努力につながらないこと。
・地域の生態系や地球環境破壊につながる物質、まだ定量的データがないものの環境汚染の潜在的な可能性がある物質について対象外とされたこと。
・パイロット事業のプロセスに際して市民参加が行われなかったため、上記のような環境に関心のある公正な市民であれば誰でも感じる疑問に答えられない事業になったこと


■PRTR制度化に際しての提案
・PRTRは運用で行わずに法律を制定すること。その際、環境保全を目的とした新法とし、短期的経済成長との調和条項などは加えないこと。
・対象物質は広範に定めること。具体的には、意図的に用いている物質(原料、最終生成物、触媒など)は法で特に除外しない限り全部対象とし、中間生成物も排出・漏洩の可能性があるものは全て対象とすること。
・事業所は従業員規模での足切りを行うことなく、全て対象とすること。明らかに環境汚染物質を扱っていないことが保証される業種のみを限定列挙の上で除外すること。
・事業者には国への報告義務を定めること。
・国は事業者毎のデータを含めて公表すること。
・これらの決定プロセスについては市民参加の決定機関を設け、また市民意見の募集やヒアリングなどをあらかじめ規定すること。






(参考)
PRTRパイロット事業中間報告の公表について


                      

平成10年5月1日(金)
環境庁環境保健部環境安全課
課 長:吉 田 徳 久(6350)
補 佐:早 水 輝 好(6353)
担 当:太 田 志津子(6358)


【概 要】

 PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)は、“環境汚染のおそれのある化学物質の環境中への排出量又は廃棄物としての移動量を登録し公表する仕組み”で、行政・事業者・市民がこうしたデータを共有しつつ化学物質のリスク管理に役立てようとする、環境保全のための新しい手法である。              |
 環境庁では、我が国にPRTRを導入するための準備として、平成9年6月より神奈川県及び愛知県の一部の地域でPRTRパイロット事業を進めてきたが、このほどその集計結果を中間報告として取りまとめたので、事業の一環として公表するものである。              
 パイロット事業の主たる目的は、今後のPRTRの導入に向けて、技術的及び制度的な課題を抽出し検討することにあり、環境庁では、本中間報告をインターネット上で公表するとともに、全国7都市でセミナーを開催し、国民各層からの意見を本年6月末日まで募集する。                               |
 今後、寄せられた意見などを踏まえ、本年8月を目途にパイロット事業の最終的な評価を取りまとめ、我が国にふさわしいPRTR制度の構築を目指す。


1 背景

(1)PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)について

 今日、多くの化学物質が様々な用途・目的で製造・使用され、その過程で大気や水、土壌へ排出されたり、廃棄物になったりしている。これらの中には環境を経由して人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすおそれ、すなわち「環境リスク」を持っているものも少なくない。環境保全の観点からは、法令による規制が必要と判断された有害な化学物質ではないとしても、環境リスクを有する化学物質の環境への排出量全体をできるだけ低減させていくことが重要である。
 こうした中で、PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)と呼ばれる仕組みが、新しい化学物質管理の手法として特に注目されている。PRTRとは、一般に、事業者の報告などに基づき行政が化学物質の排出量又は廃棄物としての移動量のデータを収集し、収集したデータを目録などの形に整理し、これを広く公表するという仕組みである。

(2)国際的な動向

 国際的に見ると、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で採択された「アジェンダ21」の中で化学物質の環境リスクの低減のための手法としてPRTRの導入が推奨され、また、1996年にはOECD(経済協力開発機構)が加盟各国に対しその導入に向けて取り組むことを勧告している。現在、米国、オランダなどの国々で、環境保全を所管する行政機関が中心となってそれぞれ特徴のあるPRTR制度が実施されている。

2 PRTRパイロット事業の概要

 環境庁においては、このような化学物質をめぐる内外の状況を踏まえ、我が国にふさわしいPRTRの構築を目指して、平成9年6月からパイロット事業を実施してきた。事業の概要は以下のとおりである。

●対象地域:神奈川県川崎市、湘南地域及び愛知県西三河地域
●対象物質:有害性や暴露可能性が高いと考えられる178物質
●対象事業所:一定量以上の対象物質を取り扱う一定規模以上の事業所(製造業及びサービス業等の一部)(約1,800事業所)
●報告内容:大気・水・土壌への排出、廃棄物としての移動等
●スケジュール:平成9年9月に調査票送付、平成9年12月1日を目途に回答。


 パイロット事業では、事業者に排出・移動量の自主的な報告をお願いしたほか、実施の際の問題点などを把握するためのアンケートやヒアリング調査を行った。また、環境庁では、農薬の散布、自動車のような移動発生源、家庭からの排出などについて、「非点源」からの排出量として推計を行った。
 また、事業の実施にあたり、PRTR技術検討会、同ワーキンググループ及び各地域の地域推進委員会(関係地方公共団体・事業者・市民の代表者及び学識経験者から構成)の助言をいただいたほか、関係地方公共団体及び関係業界団体にも御協力いただいた。

3 中間報告(排出・移動量集計結果)の概要

 今回のPRTRのパイロット事業は、我が国で初めての試みである。
 このため、パイロット事業の実施とこの中間報告の公表を通じて、行政、事業者、市民・NGOなどの関係者の理解が深まるよう、中間報告においては、

 {1}対象化学物質毎の排出・移動量のデータに加え、毒性等に関する資料も掲載したほか、
 {2}報告書本体に加えて「解説版」を作成した。

(1)デ−タの報告状況

 全体で約1,800事業所に対して調査票を発送し、約52%の事業所から回答が寄せられ、そのうち約53%の事業所から「対象化学物質を取り扱っている」として、排出・移動量の報告があった。

(2)報告又は推計された化学物質

 178物質のうち、事業所(点源)から排出・移動について報告があった化学物質は96物質(約半数)であり、その他の発生源(非点源)からのものをあわせると134物質(約75%)について何らかの報告・推計が行われた。
 点源からの排出量を媒体別にみると、大気への排出が物質数、報告件数ともに多く、総排出量でみても98%が大気への排出であった。次いで公共用水域への排出であり、土壌への排出は極めて少なかった。廃棄物やリサイクルとしての移動量も把握できた。

(3)排出量の多かった化学物質の例

 ・キシレン類(溶剤、工業原料等)
 ・トルエン(溶剤、工業原料等)
 ・ジクロロメタン(溶剤、金属洗浄剤等)
 ・1,3−ブタジエン(工業原料等)
 ・p−ジクロロベンゼン(防虫剤等)
 ・ホルムアルデヒド(工業原料、接着剤、防腐剤等)
 ・ベンゼン(工業原料、ガソリンの成分等)

(4)業種別の排出状況

 業種別にみると、排出量の多いキシレン類、トルエンは概ねどの業種からも排出されるが、中でも機械系製造業からの排出が最も多かった。ジクロロメタンは金属系・機械系製造業からの排出が多く、1,3−ブタジエンは化学系製造業からの排出のみであるなどの特徴がみられた。

(5)非点源からの排出状況

 農薬散布、自動車などの移動発生源からの排出ガス、家庭からの塗料、接着剤、防虫剤などの排出、中小事業所からの塗料などの排出等について、環境庁において可能な範囲で推計を行った。点源より非点源の寄与が大きい物質や、非点源からの排出のみの物質も少なくなかった。

(6)地域別の排出状況

 今回は、川崎市、神奈川県湘南地域、愛知県西三河地域の地域ごとに集計するとともに、川崎市については、地域の特性を考慮して、さらに臨海部、内陸部、丘陵部の3地域に分けて集計した。
 地域別にみると、事業所数が最も多く面積も最も大きい愛知県西三河地域での排出が最も大きかった。また、川崎市内の3地域を比べると、排出量に対する点源と非点源の寄与の割合が地域によって大きく異なるなど、様々な違いが認められた。

4 今後の対応

(1)閲覧方法と意見募集

 環境庁では、中間報告の報告書及び解説版を各都道府県・政令市に送付し、環境担当部局又は一部の公共図書館などで閲覧ができるようにするとともに、環境庁のインターネットホームページ(下記参照)に全文を掲載することとしている。これらに加え、全国7都市で「化学物質のリスク管理とPRTR」と題するセミナーを開催し(別紙参照)、パイロット事業の成果を広く国民に説明していく予定である。
 また、パイロット事業及び中間報告についての意見を本年6月末日を期限として募集する。意見の送付先は下記のとおりである。なお、「PRTR」の親しみやすい呼称についても併せて募集する。

(2)パイロット事業の評価と今後の予定

 環境庁では、今後、各方面からの意見及び昨年度実施した対象事業所に対するアンケート・ヒアリング結果等を踏まえてパイロット事業の評価を行い、我が国にふさわしいPRTR制度の導入に向けて、化学物質の環境リスクの管理方策全体におけるPRTRの位置づけをも含め、検討を進めていく。
 なお、パイロット事業の評価については、産業界・市民の立場の委員が加わった「PRTR技術検討会」で議論していただきつつ、本年8月を目途に取りまとめ、9月に東京で開催されるOECDのPRTR国際会議に報告する。