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2003年10月10日発行187号ピースネットニュースより

写真の問いかける力

「戦場のフォトグラファー
ジェームズ・ナクトウェイの世界」を見て

曳地トシ(オーガニック植木屋)

 戦場の炎が上る中、真っ白いシャツ、黒いデイ・パック、肩から提げたカメラを構え、シャッターを切るロマンス・グレーの男。世界中の戦争をカメラに切り取る彼の名は、ジェームズ・ナクトウェイ。ロバート・キャパ賞を5回も受賞、その他の受賞も数知れず。彼の写真は、戦争や貧困という不条理の最たるものの中でうめく人々の悲しさが、突き刺さるように見るものの胸をとらえる。被写体である人物もその背景も、どちらも文句なく、戦争や貧困の悲惨さを表しきっている。戦場というとっさの判断が必要な場で、どうしてこのように計算され尽くしたような写真が撮れるのだろう。おそらく、あと一歩、彼の立ち位置がずれていたら、あの写真は撮れないと思う。狂乱の戦場にあって、そのベストな立ち位置がキープできる、驚くべき冷静さとセンスと経験を持ち合わせた男なのだ、彼は。
 戦場を取材する人物を取材するというこの映画、その方法は、ナクトウェイのカメラに取り付けられたマイクロ・カメラでの撮影だった。そのため、ナクトウェイの目線で状況を見、ナクトウェイの息づかいが聞こえてくる作品になった。
 だが彼は、戦争写真家にありがちな、ガツガツした欲望と野心の固まりのような人間とは対極にある。物静かで、控えめで、思慮深く、そして何よりも厳しいまでの孤独をあわせ持った、孤高の人だ。
 ナクトウェイは戦場写真家だが、彼の写真を撮る目的はハッキリしている。「戦争をやめさせるため」「ほんとうはすべての人間が戦場に来て、自分の目で戦争とはどういうものかを見た方がいいと思うのだが、それは無理なことなので、私の目を通して戦争の真実を知ってもらいたい」。
 また彼は、最大限の敬意を相手に向け、相手に受け入れられることで写真が撮れ、それによって自分で自分を受け入れることができるのだという。
 だから彼は、パレスチナの戦場で、イスラエル軍に打ち込まれる催涙弾の中でも、悪臭漂うジャカルタ(インドネシア)のゴミ捨て場でも、マスクもせずにシャッターを切っている。にもかかわらず、ゴミ拾いの子どもたちはゴム草履なのに、自分はゴム長を履いているとすまなさそうに語る。そういう彼の誠実さ、優しさに、撮られる人々も心を開いているからこそ、見たものが自分に問いかけずにはいられない写真を撮れるのだろう。「私はこれでいいの?」「ここにいていいの?」「私に何が出来るの?」「戦争をやめさせるために、何をすればいいの?
 自分のやりたいことを「選び取る」ということは出来ても、それを貫徹するために「捨てなくてはならないものがある」ということを知っている人間はどれぐらいいるのだろう。
 彼は、「選び取る」ことも「捨てる」ことも出来た、意志の強い希有な人間だ。彼は家庭を持たない。もし仕事が終わって、家に帰ってきたときに、あたたかいスープと優しい妻とかわいい子どもがいたら……彼は自分のことを嘘くさく感じるのではないだろうか。食べ物はなく、妻は殺され、かわいい子どもの足は地雷で吹き飛ばされる……それが戦場の現実なのだから。
 そんな意志の強いナクトウェイでも、写真を撮るうえでのジレンマは抱えている。危険と常に隣り合わせというプレッシャー、他人の不幸で飯を食っているのではないだろうかというジレンマ。それらの迷いに対して、彼がどう考え、どう折り合いをつけているかについても、彼の言葉で淡々と率直に語っている。
 いったい戦場という場にあって、公平・中立とはなんの意味を持つのだろうか? いや、最近では、戦争を進める側の論理「正義のための戦争」を演出するために、マスコミは利用されている。だが、ナクトウェイは常に虐げられる側に身を寄せ、人々の悲しみに近づいていく。
「戦争とは、一人の人間にさえ許されない行為を、万人にすること」というナクトウェイのことばが、頭の中から離れない。
 彼は、今日も真っ白なシャツに黒いデイ・パック姿で、真実を伝えるためにすっくと立って、静かに思慮深くシャッターを切り続けているのだろう。でも、願わずにはいられない。彼が写真を撮る必要のない平和な世界、貧困のない世界が来たらんことを。そのために、何が出来るのかを問い続けながら。

ジェームズ・ナクトウェイ
アメリカ人、1948年生まれ
美術史と政治学を専攻してダートマス大学を卒業(1966-70)ベトナム戦争とアメリカ公民権運動に影響を受ける。ロバート・キャパ金賞(5回)、ワールド・プレス・フォト賞(2回)、年間最優秀雑誌カメラマン賞(6回)、ICPのインフィニティ・アワード(3回)、ライカ・アワード(2回)、アルフレッド・アイゼンシュタット賞、キャノン・フォト・エッセイスト賞等を受賞。現在、王立写真協会の会員であり、マサチューセッツ美術大学の名誉美術博士。

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