ILO第181号(民間職業仲介事業所)条約に関する質問主意書

1999年8月13日

1、ILO第181号(民間職業仲介事業所)条約本文の正式な日本語訳について

(1)adequateという言葉が条約中に五箇所出てくるが、第2条、第8条、第11条は「十分な」と翻訳し、第10条と第14条は「適当な」と翻訳している。訳し分けた理由は何か、政府の見解を示されたい。
(2)第11条、第12条では、maternity protection and benefitsを「母性保護及び母性給付」と翻訳し、parental protection and benefitsを「父母であることに対する保護及び給付」と翻訳している。
 男女共同参画社会基本法が成立し、家族のかたちが多様化するなか、対象を限定しない訳語にすることが適当だと思われる。「母性」という言葉を使わず「妊娠出産における保護及び給付」にすべきではないか。また、1998年6月の仮訳文においてparentalは「親」という訳語を使用していたのを「父母」に変更した理由は何か、それぞれ政府の見解を示されたい。

2、労働者派遣法及び職安法改正法との関係について
 批准されたILO第181号条約(以下「条約」という。)の内容と、今般成立した労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律(以下「労働者派遣法改正法」という。)及び職業安定法等の一部を改正する法律(以下「職安法改正法」という。)との関係について、以下の点につき、法的論拠を明らかにして、説明されたい。

(1)今回の労働者派遣法改正法において、「適用対象労働者」のいわゆる「ネガティブ・リスト化」が原則とされたが、条約第2条の解釈として、この「ネガティブ・リスト化」は当然の要請となりうるのか否か、また、その解釈の論拠は何か。
(2)条約第4条に規定する「労働者が結社の自由の権利及び団体交渉権を否定されないことを確保するための措置」に対応する現行国内法を具体的明らかにされたい。
(3)条約第5条に規定する差別禁止において、「性」、「年齢」、「障害」に基づく差別のない労働者の取扱いについて、今回の改正法をはじめ、具体的に国内法でどのように規定されているか。
(4)条約第6条には、個人情報の保護について、「労働者の資格及び職業経験に関連する事項並びに他の直接に関連する情報に限(る)」とあるが、実効性を確保するために、今回の改正法によると、「限(る)」ための方策は何か。また、それは十分なのか。
(5)条約第7条に規定する「民間職業仲介事業所は、労働者からいかなる手数料又は経費についてもその全部又は一部を直接又は間接に徴収してはならない。」について、有料職業紹介に関するこれまでの取扱いはどのようになるのか、明らかにされたい。
 従来は、1996年の職業安定法施行規則の改正によって、職業紹介の基本サービスに対する手数料とは別個に、求人措置や就職援助の付加的な相談・助言や、特定条件での求職者の探索・調査のサービスについては、労働大臣の承認を得て付加的な手数料を徴収できることになっていた(同規則第24条第14項〜第19項)。
 しかし、本条約の批准に伴って、今後は、たとえ労働大臣の承認を受けた手数料であっても、「手数料又は経費」を徴収する形態であれば、「有料職業紹介」及び「ヘッドハンティング」等の「職業紹介」の類は、同条に抵触すると解されるのではないか。
 さらに、同条2に規定する「特定の種類の労働者及び民間職業仲介事業所が提供する特定の種類のサービスについて1の規定の例外を認めることができる。」について、「例外」をどのように解するか。また、原則との関連もあわせて明らかにされたい。
(6)条約第11条に規定する労働者の「十分な保護」について、「(a)結社の自由、(b)団体交渉、(i)支払不能の場合における補償及び労働者債権の保護」が、今回の改正法及び現行国内法でどのように保障されているのか。
(7)条約第12条に規定する「民間職業仲介事業所及び利用者企業のそれぞれの責任を決定し、及び割り当てる。」について、今回の改正法及び現行国内法でどのように保障されているのか。  

 右質問する。

 

ILO第181号(民間職業仲介事業所)条約に関する質問に対する答弁書

1999年9月17日

1の(1)について
 民間職業仲介事業所に関する条約(第181号)(平成11年条約第9号。以下「条約」という。)第10条及び第14条の「adequate」については、それぞれ各加盟国が確保する制度及び手続並びに各加盟国が定める救済措置の具体的内容が各加盟国の事情により異なることから「適当な」と訳し、また、条約第2条、第8条及び第11条の「adequate」については、労働者を保護するに足りるという趣旨であることを踏まえ、「十分な」と訳したものである。

1の(2)について
 お尋ねの「maternity protection and benefits」については、妊娠及び出産における保護及び給付のほか哺育に係る保護及び給付も含む意で用いられているため、「妊娠出産における保護及び給付」のように限定的に訳すことは適当でないと考える。また、「parental」については、関係国内法令において「parents」に該当する者を示す語句として「父母」が一般的に用いられているため、「父母」と訳したものである。

2の(1)について
 条約は、民間職業仲介事業所の運営を認め、条約第2条においてその適用範囲を船員の募集及び職業紹介を除くほか、すべての種類の労働者及びすべての部門の経済活動とした上で、一定の場合には加盟国がその例外(特定の部門の経済活動について民間職業仲介事業所によるサービスの提供を禁止すること等)を設けることを認めている。条約第2条は条約第1条1に規定する「民間職業仲介事業所」に該当する派遣元事業主の取り扱う対象業務の国内法上の規定の仕方について必ずしもいわゆるネガティブリスト化を求めるものではないが、今回の改正により当該対象業務をいわゆるネガティブリスト化したことは、我が国が条約第二条の規定を円滑に実施する上でより適切な方法であったと考える。

2の(2)について
 我が国においては、勤労者の団結権及び団体交渉その他の団体行動を行う権利は憲法上保障されており(憲法第28条)、労働組合法(昭和24年法律第174号)において、労働者が労働組合を組織し、組合を通じて使用者と団体交渉を行うこと等が定められ(同法第1条等)、これを担保するため、使用者が行う不当労働行為(労働者が労働組合員であること等を理由とする不利益取扱い、団体交渉の拒否等)が禁止されているところである(同法第7条)。条約第4条に規定する労働者も、労働組合法の適用を受ける労働者であることから、同条の権利確保のための措置が講ぜられているものと考える。

2の(3)について
 条約第5条は「性」を事由とする差別的取扱いを禁止しており、我が国においては、職業安定法(昭和22年法律第141号)第3条により、職業紹介、労働者派遣等を行うに当たって、性別を事由として差別的取扱いを行うことが禁止されているところである。
 また、条約第5条は、加盟国において「年齢」、「障害」等が国内法及び国内慣行において禁止されている差別の事由とされている場合には、民間職業仲介事業所が労働者を取り扱う場合についてもこれらの事由による差別を行ってはならない旨規定している。我が国においては、「年齢」又は「障害」を事由とする差別的取扱いを禁止する国内法及び国内慣行は存在しないため、これらの事由による差別に関しては、条約第5条の適用はないが、民間職業仲介事業所が合理的な理由なくこれらの事由により差別的取扱いを行うことは不適切であるため、必要な指導を行ってきているところである。

2の(4)について
 職業紹介事業については、職業安定法等の一部を改正する法律(平成11年法律第85号)による改正後の職業安定法(以下「新職業安定法」という。)第5条の4において、個人情報の取扱いについて、職業紹介事業者が、求職者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合を除き、その業務の目的の達成に必要な範囲内で収集し、当該収集の目的の範囲内で保管し、及び使用しなければならず、求職者の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならないこととされているところである。
 また、労働者派遣事業については、職業安定法等の一部を改正する法律による改正後の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)(以下「新労働者派遣法」という。)第24条の3において、右の職業紹介事業と同様の規定を設けているところである。
 条約第6条(b)は、民間職業仲介事業所が処理する労働者の個人情報の範囲を関係する労働者の資格及び職業経験に関連する事項のほか、当該事業所が行う職業紹介事業、労働者派遣事業等に直接関連する情報に限定している。我が国における職業紹介事業者、派遣元事業主等が取り扱う個人情報は、それぞれの業務の目的の達成に必要な範囲内に限られており、その範囲は、条約第6条(b)の民間職業仲介事業所が処理する労働者の個人情報の範囲と合致するものである。
 なお、職業紹介事業者、派遣元事業主等が収集等を行うことができる具体的な個人情報の範囲については、今後制定する予定である指針で明らかにすることとしている。

2の(5)について
 条約第7条1は、労働者から手数料を徴収することを禁止しているが、労働者から手数料を徴収することが労働者の利益となるような場合には、手数料の徴収を認めることが適当であるとして、条約第7条2において、最も代表的な労使団体と協議の上特定の種類の労働者及びサービスについて例外的に手数料の徴収を認めることができることとしたものである。新職業安定法第32条の3第2項においては、原則として有料職業紹介事業者が求職者から手数料を徴収することを禁止することとし、例外的に求職者の利益のために必要があると認められるときとして命令で定めるときは手数料を徴収することができることとしており、現行の受付手数料等が考えられるが、具体的な内容、徴収方法等については、今後、新職業安定法の施行に合わせて改正する職業安定法施行規則(昭和22年労働省令第12号)により定めていくこととしている。なお、有料職業紹介事業者が求職者以外の求人者等から手数料を徴収することは、条約上制約されていない。

2の(6)について
 我が国においては、条約第11条(a)結社の自由及び(b)団体交渉については、2の(2)についてでお答えしたとおり、現行法で必要な措置がなされているところであり、また、(i)支払不能の場合における補償及び労働者債権の保護については、賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年法律第34号)に基づき、未払賃金立替払制度が設けられており、条約第11条に規定する十分な保護が保障されていると考える。

2の(7)について
 我が国においては、条約第12条(a)団体交渉については労働組合法により、(b)最低賃金については最低賃金法(昭和34年法律第137号)により、(d)法令上の社会保障給付については雇用保険法(昭和49年法律第116号)、健康保険法(大正11年法律第70号)、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)により、(e)訓練を受ける機会については職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)により、(g)職業上の災害又は疾病の場合における補償については労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)により、(h)支払不能の場合における補償及び労働者債権の保護については賃金の支払の確保等に関する法律により、(i)母性保護(労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条に規定する産前産後に係る休業に限る。)及び母性給付並びに父母であることに対する保護及び給付については、労働基準法、健康保険法、育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)及び雇用保険法により、それぞれ派遣元が責任を負うこととされている。
 また、(c)労働時間その他の労働条件については労働基準法及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)第44条(労働基準法の適用に関する特例)により、(f)職業上の安全及び健康の分野における保護については労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)及び労働者派遣法第45条(労働安全衛生法の適用に関する特例)により、(i)母性保護(労働基準法第65条に規定する産前産後に係る休業を除く。)については、労働者派遣法第44条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「男女雇用機会均等法」という。)及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律(平成11年法律第84号)による改正後の労働者派遣法第47条の2(男女雇用機会均等法の適用に関する特例)により、いずれも事項に応じて派遣元若しくは派遣先のいずれかが又は派遣元及び派遣先の双方が責任を負うこととされている。


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