2. 冷戦後における米軍の戦略
1997年に発表された『(4年ごとの)国防評価報告(12)』(Report of the Quadrennial Defense Review、以下QDR)には米軍の状況について次のようにまとめられている。少々データは古いが参考になる。
1985年以来、米国は地球規模での状況の変化に対応して、国防予算を約38%、兵力を33%、調達費を63%、それぞれ減少させた。現在、国防予算は2500億ドル、国家予算の15%、国民総生産の約3.2%を占めている。現役兵力は145万人、20万人は海外に駐留している。予備役が90万人、さらに、80万人の文官が国防総省に属している。
『2000会計年度における国防予算概算(13)』のデータをもとに作成した米国防予算と兵力の変遷(1945〜2001年)を図1に示す。なお、国防予算の数値は2000年の貨幣価値を基準に算出してある。

この事実は米軍の戦略が軍事力中心から平和的方法へと転換したことを意味するのであろうか?残念ながら答えは「否」である。QDRには以下のように書かれている(14)。
短・長期の米国防戦略は、国益を増強させる方向に戦略的環境を構築(shape)し、あらゆる脅威に対応(respond)する能力を維持し、将来の脅威に対しそれぞれの時点で準備(prepare)を整えることを今後も続けることである。この戦略の根本にあるのは、地球規模で守るべき権益を抱える超大国として、外交的、経済的、軍事的に世界中との関わりを米国は持ち続けなければならないという逃れられない現実である。
同時に発表された『Joint Vision 2010(15)』には、「21世紀における我々の軍隊がめざすべき目標は“すべてにおいて優位であること”が基本的特徴となる(16)」とし、「平時においては交渉を基本とするが、戦時においては断固たる処置を執り、どのような紛争形態においても優位性を保つ、という総合的な力を持つ国家を形成するという共通の目標に向かって進む(17)」と述べている。一方、QDRには「国家経済が健全であることは、国力を維持し国家の安全を保障する上での要である(18)」ので、限られた資源を有効に使うという責任ある計画を遂行することが国防総省に求められている、と述べられている。
つまり、冷戦後の米国は唯一の超大国として、地球規模に広がった米国の権益を守るために、圧倒的に優位な軍事力を効率的(できるだけ金をかけず)に整備しようとしているわけである。外交努力よりも軍事力を背景に事を進めようとしている米国の姿勢は、イラクやコソボへの爆撃に如実に示されているが、これは何も最近だけのことではない。表1は、第二次世界大戦後に米国によって爆撃を受けた国のリストである(19)。爆撃によって多くの市民を傷つけた代償として、紛争の根本的な解決は得られたであろうか。このリストとその背後に横たわるおびただしい数の死者は、紛争の解決に軍事力は何の役にも立たなかったことの証明である。
| 中国 | 1945〜46 |
| 朝鮮・中国 | 1950〜53 |
| グァテマラ | 1954 |
| インドネシア | 1958 |
| キューバ | 1959〜60 |
| グァテマラ | 1960 |
| コンゴ | 1964 |
| ペルー | 1965 |
| ラオス | 1964〜73 |
| ベトナム | 1961〜73 |
| カンボジア | 1969〜70 |
| グァテマラ | 1967〜69 |
| グレナダ | 1983 |
| レバノン | 1983、1984 |
| リビア | 1986 |
| エル・サルバドル | 1980年代 |
| ニカラグア | 1980年代 |
| パナマ | 1989 |
| イラク | 1991〜99 |
| クエート | 1991 |
| ソマリア | 1993 |
| ボスニア | 1994、1995 |
| スーダン | 1998 |
| アフガニスタン | 1998 |
| ユーゴスラビア | 1999 |
効率的な軍事力整備を米国はどのように達成しようとしているのであろうか。指摘しなくてはならないことは、米国では議会・会計検査院・国防総省などがそれぞれの立場で、予算の執行を監督していることである。その現れが、本稿でも参考にしているさまざまな報告書の存在である。さらに重要なのは、これらの報告書が一般市民が気軽に利用できるかたちで公開されていることだ。公開するということは、批判に耐えうるレベルの報告であることが期待できるし、税金を払っている国民(米国民)も予算の執行に目を光らすことができるわけである。翻って、わが国における情報の公開度ははなはだお寒い状況である。一般市民にとって必要な情報を集めることはほとんど不可能だ。
さて、具体的に米軍の計画を見てみよう。本訴訟との関連で特に注目すべきは三つ、「基地の統廃合」「生活の質的向上」「同盟国に対する負担増の要求」である。