カリせっけんは人にも地球にも優しい

原料のココナツヤシは、森や人々と共栄し、環境も汚さない


 昔は、どこの床屋さんでも、シャンプーといえばほとんどこのカリ石鹸シャンプーを使っていた。緑色の液体で薄荷(はっか)の匂いのするあれである。最近では、合成洗剤のさまざまなシャンプーが出回って、カリ石鹸シャンプーを使っている床屋さんも少なくなったようだが、しかし、まだかなり使われているらしい。

views2.gif (2860 バイト) このカリ石鹸を製造している三重県桑名市にある三共油胎(株)を、12月中句に訪問、製造工程を見学し、社長の加藤さんからお話を伺うことができた。

 旧東海道沿いの町並の一角にある同社は、どこにでもある町工場という感じで、工場設備も古いものをそのまま大切に使っている。しかし生産高は月産50トンと業界第一位!……とはいっても、第二位の会社とともに、カリ石鹸を製造している会社は、全国で2社しかないという。

やし油と苛性カリが原料

 普通の石鹸が油脂を水酸化ナトリウム(NaOH=苛性ソーダ)で鹸化して作られるのに対し、カリ石鹸は、NaOHのかわりに、水酸化カリウム(KOH=苛性カリ)を使って鹸化して作られる。カリ石鹸は、ナトリウム石鹸にくらべて、はるかに水に解けやすく、シャンプーやボディシャンプー液体石鹸などに適している。

 原料の油脂は、椰子油が大部分というが詳しくは企業秘密?

 原料の油脂の種類によって、製品の石鹸の特性が違ってくる。油脂は、3価のアルコール(グリセリン)と3個の脂肪酸の結合したエステルであり、これを鹸化すると、脂肪酸ナトリウムまたは、脂肪酸カリウムになる。胎肪酸は、炭素数12から18の様々な種類があり、油脂に含まれる脂肪酸の種類と割合によって、出来上がる石鹸の特性が決まることになる。

 椰子油に水酸化カリウム50%水溶液を加え約8時間過熱しながら反応させ、さらに約8時間保温・反応させたのち、他の容器に移して自然に冷やすと、きれいに透き通った寒天状の製品となる。このように透き通って程よい固さにするには長年の熟練を要するようだ。

毛髪と肌に優しい

 椰子油を主原料とするカリ石鹸は、洗浄力は他の石鹸に比べて強くはないが、水に解けやすく泡立ちが良いなどの特長をもち、シャンプーやボディシャンプー、洗顔・手洗い用などに、ソフトな面で適している。また、カリ石鹸は、製造過程でできるグリセリンをそのまま含み込んでいる(ナトリウム石鹸の場合はグリセリンは分離される)。グリセリンは保湿・柔軟割として化粧品に多く使われているもので、洗った後にしっとりと潤いを残してくれる。

 さらに、カリ石鹸シャンプーで洗うと、パーマもかかりやすく、染め毛にも良く、手も荒れないという。床屋さんの根強い人気もこのへんにあるのだろう。毛糸洗いにも多く使われている。加藤さんは、これで自動車も洗っているとのことだったが、新車のようにピカピカしていた。

安く、環境に優ししヽ

 カリ石鹸はゼリー状の固体で、これを糸などで切り、容器に入れて5倍の水を加えておくと数時間で良く溶ける。1kgのカリ石験(市価750円)から6リットルの液体石鹸(シャンプー)ができるが、500ml容器で12本となり1本当たりの値投は、63円と、超安価と言える。

 それに加えて嬉しいのは、カリ石鹸の包装はラップに包まれて紙の箱に入れられているだけなので、ほかのシャンプーや台所洗剤のようにプラスチック容器も詰め替え用のポリ袋も捨てる必要が全く無いこと。シャンプーや洗剤などの空き容器が、ゴミ捨て場から風に舞い、川から海に流されて漂流し、魚や亀が誤って食べて死んでしまうという現実を知っていたら、これを捨てないで済むということは、精神衛生的にも非常にいい。

 もちろん、環境に良いのは容器だけでなく、石鹸自体が自然界では1日で分解されて無害のものになる。一方、合成洗剤・合成界面活性剤は、手あれ・湿疹やアトピー性皮膚炎などの皮膚障害や内蔵疾患の原因となるほか、環境に出ても長期間分解されず、生態系に甚大な悪影響を与えるほか、トリハロゲン化メタンのような発癌性物質となって、水道水から人体に入ってくる、大変恐ろしい物質である。

 日本で使用される界面活性割の約9割が、合成界面活性剤で、石鹸(脂肪酸ナトリウム・脂肪酸カリウム)は1割に過ぎないというから、テレビ・コマーシャルの影響の強さを思い知らされる。

パーム油原料でも合洗

 原料が植物生まれだから安全、などといってシャンプーや台所用洗剤を売り込むテレビ・コマーシャルが近年増えているが、その原料とはあぶら椰子から採るパーム油のこと。

 カリ石鹸シャンプーの原料である椰子油は、ココナツ椰子の実を乾燥させて搾油する、昔からある椰子油で、あぶら椰子から採るバーム油とは脂肪酸の組成も全く異なるものである。

 パーム油は、牛脂に近い組成をもち、何よりも非常に安価のため、揚げ油、マーガリン、石鹸、洗剤、その他さまざまな原料として利用が拡大している。したがって石鹸の原料としても利用されているが、ラウリルエーテルやアルファスルホ脂肪酸エステルなどの合成洗剤にも加工され、「植物原料」のシャンプーや台所用洗剤として売り出されている。

 植物原料だから安全とは言えず、合成洗剤特有の危険性は払拭されておらず、また、環境への影響も、石鹸にくらべて分解性がはるかに悪く、環境負荷は大きい。そしてさらに問題なのは、パーム油を生産するあぶら椰子の林は、広大な熱帯林を皆伐して造成されるので、その点で環境負荷が非常に大きいことである。

熱帯林破壊するパーム油

 パーム油は、摘果してから24時間以内に搾油しないと、製品の品質が劣化するため、広大な面積のあぶら梯子畑をつくり、その真ん中に搾油工場を建てて営業する形態を取らざるをえない。搾油方法も、一房が10〜15kgもある房を蒸気で過熱したのちに圧搾・搾油するため、大きな設備を必要とし、工場も大きくならざるをえない。したがって、パーム油は、搾油工場を備えた巨大なプランテーションで作られることになり、広大な面積の熱帯林を破壊して作られているのが実情である。

 パーム油の輸出は、マレーシアが最大で、日本の輸入もマレーシアからが96%を占めているが、そのマレーシア、サラワク州では、先住民が生活し共有している森を取りあげて、あぶら椰子のプランテーションにし、森を追われた先住民をそこで農奴のように酷使する。そのようにして安いパーム油が生産され、破格の安値で日本に輸出されてくる。そこでは農薬も大量に使われ、働く労働者が被害を受けていると同時に、パーム油の中にも混じって、食する人間の健康を害することになる。

アジアにカリ石鹸を

一方、椰子油の原料となるココナツ椰子は、東南アジアのほぼ何処でも、農家の庭や道端などで見掛けるが、実が完塾したものを収穫し、中の胚の部分を乾燥してから搾油すればよく、小規模の工場で可能であり、熱帯林とも農民の生活とも共存共栄出来る。

 日本の大手洗剤メーカーは、東南アジアに進出して、合成洗剤を売り込もうとしており、これに対して、人々が合成洗剤の害悪について正しい知識をもち、ココナツ柵子油などの利用できる原料から石鹸を作る技術を修得して、広く利用できるよう、情報提供と技術支援が望まれる。


(この記事は、未来バンク機関誌「未来バンクニュース」1995年冬号に掲載されたものであり、一部最新の状況とは異なっている場合があります)