のじれん・通信「ピカピカのうち」
 

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仲間づくりと未来の展望と


―のじれん(渋谷・野宿者の生活と居住権を
かちとる自由連合)―

湯浅誠

 <はじめに>

 4月から3年目を迎えるのじれんの最重要課題は、相も変わらず、野宿者の/と の結びつきによる野宿者の主体的組織化である。野宿者自身の生活環境や野宿者 を取り巻く社会的環境がどのように変遷していったとしても、これだけは変わり ようがないし、また変えようもないだろう。ありとあらゆる種類の人間が野宿者 の利益という一点だけで結びついている以上、野宿者の主体的組織化を阻む要素 はその運動の内部にも無数に伏在している。だからこそ、組織化をどのように進 めていくかということが、目指す組織化の質と量の問題と関連して大きな課題に なってくるのだが、日々激しく入れ替わっていく担い手の流動性の中では、それ はまったく試行錯誤の繰り返しと言う他ない運命にある。その意味で、活動を紹 介するとはこの試行錯誤の軌跡をたどることに他ならない。  


 <目的としての仲間づくり――日常活動 > 

 日常活動の基本は、諸団体同様、パトロールである。のじれんでは、毎週土曜 日の渋谷駅周辺(「街」としての渋谷)パトロール、毎週金曜日の代々木公園パ トロールの他、世田谷区・大田区などの周辺区でも定期的なパトロールを始めて いる。パトロールの目的については、概数把握・安否の確認・情報提供など様々 挙げられるが、それらすべての基礎になるのは、対面してのコミュニケーション による関係づくりである。それがないところで「今度こういう行動があります」 「一緒に福祉に行きましょう」と言ったところで、誰もそんな気になりはしな い。その意味で、パトロールの第一の目的は仲間づくりである。 

 このことは実はパトロールに限らない。共同炊事・寄合・福祉行動・事務局会 議、すべてがそれぞれ固有の役割と機能を持ちつつ、同時に仲間づくりのための 手段である。そして、仲間づくりを通じた野宿者の主体的な参加がなければ、あ らゆる行動は停滞し、先細りしていく。越冬越年闘争とて例外ではない。冬は野 宿者の生命が脅かされる最も過酷な季節であり、それゆえに越年期には連日の炊 出し・パトロール・野営・医療相談・イベントなどが集中的に取組まれる。他 面、冬は多くの野宿者と接触する機会の最も多い時期であるとも言える。連日の 炊出し・パトロールの中で毎日のように顔を合わせていれば、自然と打ち解けて いろいろな話も飛び出してくる。重要なのは、それぞれの行動を通じてお互いに 知り合い、そして気遣う関係を構築していくことである。そのためのじれんは、 この冬、「仲間づくりのために冬を徹底的に利用する」ことを確認して越冬越年 闘争に臨んだ。それは、ともすれば過密スケジュールを予定通りこなすことに全 精力を使い果たしてしまいがちなこの時期において、時に冷静になって周囲に気 を配るための自戒として有益だった。周囲との人間関係があればこそ、寒さ・飢 え・病からの迅速かつ有効な防衛策を講じることもできる。野宿生活において孤 独であることは、それ自体危険なことなのだ。 

 「何かのための仲間づくり」という発想がそれ自体として間違っているとは思 わない。のじれんがやっていることも「野宿者の利益のための仲間づくり」に他 ならないから。しかし、仲間づくりを何らかの目的のための手段として従属視す る時には、往々にして重要な何かが失われる。というのも、その発想には、目的 としての「何か」が仲間づくりの「外から与えられる」ものだという考えを許容 する余地があるからだ。最悪の場合には、その「何か」を真に代表していると自 称する者が、野宿者にそれを「押しつける」ことにもなりかねない。その場合、 野宿者は道具視され、各人の多様な欲求はその多様さのゆえに抑圧される。要す るに、重要なことは具体的な行動内容なり獲得目標としての「何か」が仲間づく りとどれだけ密接で有機的な関連を持っているか、という点にあるのだが、活動 に携わる諸個人の使命感=独善性と活動のルーティーン化はそうした感受性をし ばしば鈍化させる傾向を持つ。「目的としての仲間づくり」が強調されなければ ならないのは、そのためである。 


 <1999年「就労支援プロジェクト」の総括> 

 しかし、仲間づくりが目的であるとしても、否そうであるからこそ、何を通じ て仲間を作っていくか、という媒介項への注視と工夫は重要である。共同炊事や 炊出しといった「食」の問題、福祉行動や医療相談といった「医療」の問題が日 常活動のスタンダードとして定着しているのは、それが大多数の野宿者にとって 最も基礎的で切実な欲求で、それを媒介にする時に仲間づくりは最も進み、仲間 づくりが進む時にまずそれらが要請される、という関係にあるからに他ならな い。ある行動への取組を検討する際には、それが野宿者の主体的組織化にどうい った点でどの程度資するものかを考慮しなければならない。 

 そうした視点から、昨年のじれんが取組んだ「就労支援プロジェクト」を総括 したい。 

 「就労支援プロジェクト」は、昨年ののじれんが最も大きな希望を託した企画 だったと言っていい。それは日常活動から独立して取組まれたものでありなが ら、かつ日常活動をそれとの関連で考えなければならなかったほどの大きな「行 動」であり、その意味で活動全般の基調をなしていた。 

 プロジェクトは、月払いの就労を果たした仲間の屋根と生活を保障する「アパ ート構想」、そこまでの収入は見込めないものの日払いや週払いで生計を維持し ていく仲間のための「バラック構想」、一般に就労の難しい中高年齢層の仲間た ちの臨時収入の方策としての弁当隊・フリマ隊などの「仕事づくり」を三本柱と する企画だった。その起源は一昨年末から始まった東京都児童会館前での集団野 営にある。一般に分散して暮らす仲間たちが多い中で、児童会館の排除工事への 抗議を契機として始まった集団野営での闘争を通じた結束は非常に強固なものだ った。そして、年齢も経歴もバラバラの野宿者たちが生活の拠点を手に入れた 後、次に志向されたのは、やはり「職」の問題だった。しかし、一般就労能力の ある仲間が散見されたにもかかわらず、職安通いなどの実績は今一つ上がらなか った。様々な原因が考えられたが、当時の私たちが重視し、これまでの叙述との 関連でも重要なのは、「仲間の共同性」の問題だった。 

 様々な辛い目にあう中で培われた処世の知恵だろうと思うが、野宿者には人間 関係の構築に消極的な人が割と多い。パトロールなどの日常活動の中でそうした 人間関係の構築=仲間づくりに苦労していた私たちにとって、毎日の起居をとも にする中で形成されてきた「児童会館組」の結束力の強さは、やはり注目すべき ものだった。他方、一般就労の難しさは改めて繰り返すまでもなく、かつ、スポ ーツ新聞の求人や手配を通じて行く日払い仕事も過酷で劣悪な労働条件を強いら れている。「背に腹は代えられぬ」以上、多くの野宿者がそのような働き口を求 めている事実は事実としてあるものの、その事実は、それ自体が野宿生活の苛烈 さを逆に照らし出すような性質のものでしかない。たとえ野宿者が「死に物狂い で」働こうとしていないとしても、それが「人間失格」の証であるかのように考 えるのは、そもそもどこかで倒錯しているのではないか。気心の知れた仲間とと もにあることは、そうした労働の非人間性を、根本的にとはとても言えないにし ろ、いくらか緩和できるのではないか……。こうした認識の下で、のじれんは 「仕事と仲間の共同性の両立」を追求することに決めた。具体的には、アパート にもバラックにも複数単位で入居し、入居者の自治で運営していく、というグル ープホーム的な要素を盛り込んだ。また、弁当販売などのアルバイト仕事の諸作 業にも、できるかぎり複数で携わった。 

 アパート契約やバラック建設にはまとまった資金が必要だったが、「失敗して もともと」と貸してくれた理想的な資金提供者の存在で、プロジェクトはスター トした。月給仕事が見つかるか、自治運営がうまく行くか、借金返済の目処は立 つか等々、心配事を挙げ出せばキリがなかったし、先行きの見通しに悲観的な意 見もあったが、私たちなりの知恵と工夫を注ぎ込んだプロジェクトだったことは 間違いない。その後、当初からの入居志願者が徐々に月払い・週払いの仕事を決 め(アパートの就職率は100%だった)、入居者の自治会(「アパレン」=アパー ト・バラック連合)も発足した。弁当販売・援農作業などのアルバイト仕事も、 様々な好意に支えられつつ、軌道に乗っていった。 

 しかし秋口、相次ぐ入居者のトンコと新規入居者がいなかったことによって、 弁当販売・フリマ出店等のアルバイト仕事の継続を除き、このプロジェクトは事 実上崩壊した。失意の中、様々な総括が出されたが、ここで触れておきたいの は、やはり仲間づくりに関するものである。 

 プロジェクト発足当時、のじれんはそれまで独自に着手できていなかった仕事 への取組に、強い意欲を持って精力を集中していた。その傾倒ぶりは、プロジェ クトと直接の関連を持たない日常活動の端々にも表れていた。そして、仕事を強 く求める姿勢は、本来並列していたはずのアパート・バラック・アルバイト仕事 との関係、仕事をする/できる仲間と仕事をしない/できない仲間との関係を、 無意識のうちに階層化していった。その結果、就労した仲間はどことなく一段高 みに立ったように振舞い、就労していない仲間はどことなく遠慮がちに振舞うよ うになった。また、就労することがステータスであると同時に強いプレッシャー の対象となり、就労=入居者が何らかの事情で解雇されたとき、またやり直そう という気楽さで再び児童会館に戻ることができなかった。仲間づくりの延長線上 にそれをより一層拡大するはずのものとして始めたプロジェクトが、むしろ仲間 の中に分断を形作っていったことを、のじれんはあれよあれよという間に瓦解し たプロジェクトの顛末そのものによって思い知らされた。「あの頃は、のじれん は若いヤツの面倒しかみないと話していた」と、後に高齢の仲間が打ち明けてく れたが、たしかにそういった雰囲気があった。 

 安定した寝場所と食費・交通費等の生活費がないから野宿者は働けないのだ、 と私たちは主張し続けてきた。それは嘘ではない。どんなに頑張ったところで、 体がもつわけはないのだから。どんなことでも得手不得手・向き不向きがあるこ とも当然のことで、万人が万人、丸ごと参加できる「仕事」などありはしないこ とも確かなことだ。しかし、だからと言って、寝場所と生活費さえ用意すれば仕 事ができるということにはならないし、多くの仲間にとってのプロジェクトのハ ードルが高すぎるという事実に無自覚であっていいということにもならない。 

 多くの仲間が、拾い・並び・アルミ缶集め・ダンボール集め等々の都市雑業、 建設現場・引越し手伝い等々の日払い仕事に従事している。しかし同時に、そこ で得られる日銭が、一杯の酒やギャンブルに消えているのも事実である。「その 日暮らし」を地でいくそうした生活形態の背景には、いつまで続くかわからない 不安定な就労形態・アルコール問題・借金問題・保証人問題・社会的な差別と偏 見の問題・家族との軋轢等々の、自分一人だけでの力ではどうにもならないよう な諸問題が横たわっており、それが未来への展望を持つことそれ自体を抑圧して いる。そして、野宿者運動体に独自の役割があるとすれば、それは一人だけでは 解決できない諸問題を集団の結束力で打開することに他ならない。それが未来へ の展望を開く。しかし他方で、集団の結束力で「かちとる」意欲の源泉は未来へ の展望から汲み取ってくる他ない。そのために、この問題は集団の結束力と未来 への展望が相互に他方の原因でありかつ結果であるという循環した構造を形作る ことになる。活動の歯車がうまく噛み合うとき、平面的な循環構造は上昇螺旋と なり、新たな展望が新たな結束を生み、そこからまた新たな展望が生み出される という経緯を辿るだろう。しかしそうであればこそ、両者の有機的連環を提示で きない場合には、最悪下降螺旋が形作られてしまう。 

 寝場所と生活費の問題解決はたしかに未来への展望を開く。しかし、その間口 の狭さと関われる人数の少なさは、その展望がより広い集団の結束力の強化へと 結びつくことを妨げた。未来への展望に飛びつくことで、地道で着実な仲間づく りとの有機的連環を置き去りにしたこと、プロジェクト失敗の最大の原因は、こ こにあったと言うことができる。 


 <仲間づくりと未来の展望と――今後の方針> 

 この半年間、のじれんがとりわけ仲間づくりを意識し強調してきたことの背景 には、このような苦い教訓があった。その上で、活動3年目を迎える今、今後を どう展望していくかが議論されている。半年間で振り子は急激に揺れたが、仲間 づくりの自己目的化が活動全体の日常活動への収斂を意味するとき、具体的な展 望の欠如ゆえに仲間づくりそれ自身がうまくいかないという逆の問題に突き当た る。話し込みの強化を謳ったところで、さてでは何を話すか。人は天気の話しで 信頼し合えるわけではない。 

 しかも活動は真空管の中で行われるわけではない。史上最悪の失業率の中、野 宿者は大都市圏を越えて地方都市にも相当数現れ始め、深刻さの度合いをさらに 増している。政府の「ホームレス問題連絡会議」も件の三分割に基づいた最終報 告をまとめつつあり、余談を許さない。同時に、野宿者を支援する様々な動きが 各地に広まりつつもあり、共同・共闘から摩擦・軋轢をも含めた様々な関係が相 互に生じてもいる。野宿者を取り込みつつ食い物にする右翼暴力団の策動も軽視 できない段階に達している。  

 渋谷を根拠地としつつ、渋谷の枠組を越えた広がりを持てるような野宿者の主 体的組織化に向けた動き、仲間づくりによる集団の結束力と未来への展望を有機 的に結びつけて両者を相乗的に進展させるような動き、そのような活動の展開を のじれんは目指したいと思っているが、現時点で具体的方針は依然明らかになっ てはいない。この報告が出る頃、同時にのじれんの新しい方針が読者の耳に届く ことを願いつつ、筆を擱くことにする。(2000.4.5記) 

 


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(のじれんメールアドレス: nojiren@jca.apc.org