のじれん・通信「ピカピカのうち」
 

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海外の活動紹介
ビッグ・イシューって?


最近の野宿者の運動体の中でイギリスの「ビッグ・イシュー」という雑誌の名がぽつぽつと挙げられるようになって来ました。それは野宿者が自立・自活を目指していく際、つまり生活資金を稼いでいくためには何ができるかという議論の中で、「こんなこともできる」「イギリスではこんなことをしているよ」というひとつの可能性を示唆するものだからだろう。

ではビッグ・イシューってそもそも何ナノでしょうか?筆者は昨年イギリス・ロンドンにあるビッグ・イシュー本社を訪問しました。そこから得た情報を基に説明したいと思います。

ビッグ・イシューとは

イギリス・ロンドンの街でも、スコットランドのエジンバラでも、まちを歩いていると、駅で、路上のあちこちで同じ雑誌を売っている人たちを見かけます。この雑誌はビッグ・イシュー(BIG ISSUE)、 英語で「大問題」という意味の週刊誌だ。ビッグ・イシューは1991年9月の創刊。ボディショップ(日本にもある自然派の化粧品フランチャイズ。動物愛護キャンペーンなど社会活動にも熱心な会社・財団も持っている)のゴードン・ロディック氏がニューヨークの路上でみた雑誌にヒントを得てイギリスで始まりました。初めの資金はボディショップ財団から助成を受けたそうです。当初はA3サイズの雑誌で月3万部の発行、現在はA4サイズで、週刊誌としてイングランドだけで12万7千32部、全国で25万7千部の発行数を誇るまで成長しました。ホームレスの人が販売人となって、雑誌を路上で売り、収入を得る事ができます。96年の調査では15―24歳にとってビッグ・イシューは3番目に人気のある雑誌 で読者の54 % が女性という結果が出ています。(筆者聞き取りによる)

ビッグ・イシューの目的

ビッグ・イシューの目的とは次の5つです。

  • ホームレスの人々が自助努力によって収入を得る
  • 利益をホームレスの人たちのために投資する
  • メディアの中でホームレスが声を挙げられる場を作っていく
  • 読者にとって興味深く、質の高い情報を提供する雑誌を作る
  • 社会的なニーズに対応するビジネスの見本となる

イギリスで「ホームレス」という場合、日本で言う野宿者とともにホームレス法の基でホームレスと認定され、生活保護・社会保障を受給して公営住宅などに住んでいる人たちをも含んでいます。この記事の中でも「ホームレス」という際にはイギリスで使われている定義を意味します。

ビッグ・イシューは株式会社で、ビッグ・イシューを発行・販売しています。これとは別にビッグ・イシュー財団は法人格を持った慈善財団があり、財団の様々な社会支援事業に対して会社組織のビッグ・イシューは資金援助を行っています。最近ではイギリス国内だけでなく、ロシアや東欧諸国のホームレスの団体の支援を行っています。

雑誌の編集方針

ビッグ・イシューは主にニュースと特集、カルチャー関連、社会行動・活動の3部構成になっています。社会行動・活動の誌面では「街灯」と題した連載で、ホームレスの声を掲載しています。これは他のメディアには見られないものです。雑誌の中には社会の厳しい現実に迫ったルポやキャンペーンを張る一方で一般的に関心を引く話題の特集も載せています。一見日本の「ぴあ」や「TOKYO WALKER」のような情報誌に見えますが、中を見てみると確かにイベント情報もあれば、ロシアのホームレスの状況や、ビッグ・イシューの販売人の1日紹介記事など多岐に渡っていて、読みやすく、手に取りやすい雑誌です。記事執筆・編集にはプロのライターや編集者が関わっていますが、ホームレスの人たちや売人の人たちが記事取材・投稿グループを作って活動しています。彼らのグループは「ライターズ・グループ」といい、レギュラーの頁を持っています。

また、ビッグ・イシューは他のメディアグループには属さず、ノンポリの立場を貫いています。 英国内の主要都市にオフィスを掲げているメディアは今のところBBC(英国放送協会)とビッグ・イシューだけです。北部、スコットランド、ウエールズ、南部ではそれぞれの版を制作していますし、それだけでなく、特別号として、例えば「イベントガイド」や「学生ガイド」、「クリスマスギフトガイド」、「女性号」、「消費者ガイド」、「路上生活スタイル号」など発行しています。なんだか楽しいですよね。

ロンドン以外のビッグ・イシュー

ではロンドン以外のビッグ・イシューとはどんな感じなのでしょうか?上にも書いたように、ビッグ・イシューはロンドン以外に4つの版で発行されています。それぞれの地方(北部、スコットランド、ウエールズ、南部)は独立した会社組織で運営されていますが、同じ理念原則の基で全国レベルでのアイデアや出版物の交換が行われています。。地方ごとでも様々な活動がその地方のニーズにしたがって展開されています。

ビッグ・イシュー./北部版は1992年12月に初めは付録として創刊されました。現在は週4万9千154部の販売数を誇る。北部版はマンチェスター、リバプール、リーズに配付センターをもっています。

ビッグ・イシュー/スコットランド版は1993年6月に 隔週刊誌として創刊され、96年8月から週刊誌となりました。グラスゴー、エジンバラ、アバディーン、スターリング、グレノロッツで販売され、週6万1千588部の販売数を誇っています。

ビッグ・イシュー/南西部版は99年11月で現在週2万53部がバース、ブリストル、プリマス、ボーンマス、エクスター、トーントン、グラストンベリで販売されています。南西部ではロンドンと共通版を売っていますが、各都市で週刊で8頁程の地元のニュースやイベント情報、特集を載せたものをつけて売っています。

ビッグ・イシュー/ウェールズ版は94年5月にロンドンとの共通版の付録として始まりましたが、今は独自の版の週刊誌を発行しており、カーディフやスワンシーで週1万3千980部を販売しています。

これ以外にも、バーミンガム、ブライトン、コルチェスター、コベントリー、ニューキャッスル、ノーウイッチ、ノッティンガム、サウザンプトン、ノーザンプトン、イプスウイッチで販売されている。

なんだか地名ばかりが並べてしまいましたが、つまりイギリス全国の都市でビッグ・イシューが知られ、その地方ごとに独自のカラーを出して発行され、市民から指示をえているということを言いたかったのです。ちなみに筆者はロンドン版とスコットランド版を比べてみましたが、どちらも負けず劣らずで、ローカルニューズにはその土地土地の特色がよく出ていました。

ビッグ・イシューの販売人

ではビッグ・イシューの販売人はどんな人たちなのでしょうか?また販売人になるためには何が必要なのでしょうか? 販売人のトレーニング

ビッグ・イシューの販売人になりたい人はまず自分がホームレスである事を証明するものを用意しなければなりません。その後から研修が始まります。研修ではビッグ・イシューのサービスや販売(路上での売り方や客への話し方)について詳しく 説明されます。

研修の後、取り決め(契約書のようなもの)にサインし、販売人は生活保護局(行政)に対して自分の収入の報告をしなければならないという説明を受けます。

ロンドンでは登録されると販売に関する10種類の書類を渡されるそうですが、システムは地方によって異なります。販売の仕組みとしては40ペンス(この記事執筆時99年5月25日現在、1ポンド=202円、40ペンスは80・8円)で仕入れ、1ポンドで売ります。 つまり一冊あたり60ペンス(121・2円)の利益が手許に残る訳です。

研修、登録が終わると担当の販売箇所を与えられます。市内の販売箇所はゾーン分けされていて、それによってつけるバッジの色が異なる仕組みになっています。

支援のワーカーが毎日、販売人の担当箇所をまわり、販売の問題から個人的な問題まで広い範囲の問題に対処する。関連機関への照会業務も度々行っている。

平均してロンドンでは年に3千人、全国では8千から1万人ほどが登録されているそうです。しかしこのうちでロンドンでは400人、全国では2千人ほどが同時期(時間帯で区切ると)に販売活動を行っているとみなされています。

販売人はビッグ・イシュー社とは雇用関係をもたない仕組みになっています。彼らは仲卸人であるので、税金の問題などは自分で責任を持たなければならないそうです。

ロンドンの街を歩いているとどこかしら、いろんな時間帯にビッグ・イシューの販売人を見かけます。ターミナル駅には何人かいますが、それぞれ離れていたり、人によって時間帯が違ったりしています。一つの場所に販売人が集中する事のないよう配慮されているようです。わたしもある時は午前中駅で売っているおばあさんから買ったり、またある時は自分の宿舎近くで夕方売っている若いお兄さんから買ったりしていました。販売人はなべて朝だったら「おはよう、今日もいい一日を!」とか夕方であれば、「今日はどおだった?またね!」などと挨拶をしてくれたり、声をかけてくれたりします。そうやって顔見知りを作って自分の販路を広くしていこうという姿勢なのでしょう。本社への聞き取りによると、一定のマナーなどには研修などを通じて関わるけれども、売り上げる冊数やペースなどが本人の自由裁量に任されているそうです。雑誌を売る、買うの中でホームレスの人と街を行き交う人たちとの間に交流が生まれたらという願いがこの雑誌には込められているのです。

ビッグ・イシューの海外との連携

ビッグ・イシューは海外のホームレス・野宿者の団体とも積極的に交流しています。海外との交流の中で主な働きは国際路上新聞ネットワーク( International Network of Street Papers―略して INSP) の支援です。このネットワークは94年7月に結成され、ネットには世界中の21の路上新聞が参加しています。

次の条件を満たしている団体がメンバーとして加盟できます。

  • ビッグ・イシューのような自助の精神を持つ
  • ホームレスや社会的に除外された人々に投資する
  • 販売人がメディアで声を出していく機会を作る
  • 質の高い路上新聞を作っている
  • 社会的に責任のあるビジネスの手本となる
  • 路上新聞活動を支援する(競争するのではなく)

INSPはEU内の路上新聞・雑誌のスタッフの交流や記事の提供などを奨励しています。またEU諸国と世界の他大陸の路上新聞との交流も推進していますし、またビッグ・イシューの毎号に国際関係の頁、たとえばロシアのホームレスの記事などを提供しています。

こうしてビッグ・イシューのメッセージは海外にも伝わっています。現にイギリス以外の国でも路上新聞やビッグ・イシューのような雑誌が発行され、ホームレス・野宿者の人たちが関わっています。例えば、ビッグ・イシュー・オーストラリアは96年6月にメルボルンで始められました。さらに南アフリカではビッグ・イシュー・ケープタウンがは96年12月に始められ、アメリカではビッグ・イシュー・ロサンジェルスは98年4月に始められました。

以上がビッグ・イシューの紹介です。長々と書きましたが、これから日本の中での取り組みを考える際のヒントになればと思います。最近はのじれんを始め様々な野宿者の出版活動が行われているそうですが、「読みやすく」、「読む事で交流が生まれ」かつ「自立支援への手がかり」ともなりえるというのがビッグ・イシューのアイデアの核にあるのではないかと思います。現にビッグ・イシューの取り組みはイギリスからアメリカ、南アフリカ、東欧にも広がっているようですし、日本でも可能性を考えてみるに値するのではないでしょうか?

(編集者注:残念ながらのじれんの現状では、人材不足、ノウハウ不足で、すぐにこれに取り組むような状況にありません。しかし、のじれん独自でなくても、いろいろなグループや人達と協力して、日本版ビッグ・イシューを日本の野宿者運動の中で立ち上げることが出来たらという期待も持っています。このような取組に強い関心のある方、積極的に作り上げていきたい方は、のじれん事務所までご連絡をいただけませんか。もし数人集まれば、何かを始めることが出来るかもしれませんので・・・)

 


(CopyRight) 渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合
(のじれんメールアドレス: nojiren@jca.apc.org