西新宿・ホームレス強制排除妨害の支援者無罪に
「撤去強行の都に落ち度」,「段ボール小屋ゴミではない」


東京・西新宿で昨年1月,都庁職員らが「動く歩道」の建設に反対した路上 生活者(ホームレス)を強制排除した問題で,工事を妨害したとして威力業務 妨害罪に問われた支援者の2被告に対し,東京地裁は6日,いずれも無罪(求 刑懲役1年6月)を言い渡した.村瀬均裁判長は「道路法に基づいて路上生活 者に段ボール小屋を撤去するよう命じ,それに従わない場合は代執行をするな どの手続きを踏むべきなのに,撤去を強行した都側の対応には落ち度があった」 などと述べた.

「動く歩道」は,新宿駅西口と都庁を結ぶ南北2本の地下通路のそれぞれに 200メートルにわたって設置された水平エスカレーター.1995年12月 に都が計画を発表すると,路上生活者や支援者が「生活場所が奪われる」など と反発.昨年1月24日の作業開始日には,2被告を含む約100人が座り込 んで卵や花火などを投げるなどして抵抗したが,都側はガードマンや警察官を 数100人動員して排除した.

裁判では,撤去された段ボール小屋の評価が争いになった.検察側は「自主 退去を促したにもかかわらず放置されたので撤去した」と説明し,都職員も 「小屋は古新聞や空き缶同様に清掃できるものと認識していた」と証言してい た.

これに対して判決は,撤去の対象になったのは,寝泊まりできる小屋状の工 作物で,現実に居住に使われていたとし,単に無価値のごみや廃材のように片 付けられるものではないと指摘.生活者の意思に反して撤去するには代執行な どの手続きが必要だとした.

そのうえで,▽段ボール小屋の代わりに臨時の保護施設を準備していた▽路 上生活者は公道を不法に占有し,苦情が出ていた▽事前に自主退去,撤去を求 めるビラを配布した――などの事情を考慮しても必要な手続きを取らずに撤去 した都側の落ち度は軽微とはいえないと判断.工事に抵抗した被告らに刑罰を 科すことはできないと結論づけた.

●都幹部「予想外」「都民の考えと違う」

路上生活者の強制排除をめぐる東京地裁の無罪判決に,都の幹部たちは「予 想外」と口をそろえた.

道路管理部の綿貫朝治・管理課長は「意外だ」と話したあと,「工事の概要 を何度も説明し,工事に入る直前まで自主撤去を呼びかけた.それでも工事を 妨害する人がいたので警察に出動を要請した.道路管理者として当然のことだ」. 硬い表情のまま言い切った.

土屋功一建設局長も「意外に感じる」とする談話を発表.そのうえで「地元 商店会から悪臭や通行阻害などについて陳情が寄せられているほか,多くの都 民から苦情が来ており,このまま放置しておけないと考えている.今後も西口 広場の正常化に努めたい」との姿勢を示した.

他の幹部たちも「刑事裁判だからコメントできないが」と言いつつ,無罪と いう結論には一様に首をひねった.

「多くの都民の考え方とは違うのではないか」との声も聞かれた.

◆認識の隔たり大きい

松尾邦弘・東京地検次席検事の話 判決は,段ボール小屋を所有権の対象とみており,検察官の認識と隔たりが 大きい.控訴については上級庁と協議する.


97/3/07 朝日新聞