のじれん・申入書
 

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公開質問状


渋谷区議会議員各位

私たちは、渋谷区およびその周辺で生活する野宿者と、それを支援する者によっ て構成された当事者のNGO団体です。 私たちは、野宿者自身がともに団結して支え合うことで人として生きがいのあ る生活を送れるよう、また、路上から脱却して「屋根」のある暮らしを送れる よう、 炊き出しや医療巡回で生活と健康を守り、福祉窓口への生活保護申請や入院治 療者への病院面会、保護受給者へのグループホーム活動等を日常的に取り組ん でいます。 また、行政や社会へ、この問題のよりよい解決へ向けた働きかけ等を行ってい ます。

(1) 野宿者問題の位置づけについて

野宿者の多くは、一九五〇年代六〇年代に、後に言う「金の卵」として都会に 出てきた人たちです。 彼らは、「ピンハネ」「タコ部屋」といった言葉に象徴されるような劣悪な労 働環境の中で日本の高度成長期を支え、そして今、病気・ケガ・高齢化などの 諸問題によって「現場」から離れている人たちです。 したがって、昨今の不況は野宿者問題に拍車をかけたとは言え、その根本的な 原因ではありません。野宿者問題は日本の高度成長が生み出すべくして生みだ した問題です。 むしろ昨今の不況は、「これから」の問題を提起しています。よく知られてい るように、最近の統計では日本の失業率は平均三、九%。二〇歳代六〇歳代は 一〇%に上ります。 これらの要因を考え併せたとき、どこの職場にも押し寄せている「リストラ」 の対象となる中高年齢者や不十分な社会保障や労働条件で働く人材派遣会社の 登録者たちが、 今後何かのキッカケでそれまでの生活を維持できなくなったとき、野宿者問題 はさらに深刻化するおそれがあります。 そしてすでにその兆候は現れており、渋谷区内の野宿者はすでに、私たちが把 握しただけでも三五〇名を超えています。 「権利」の問題としても、実態としても、野宿者問題は社会全体が深刻に受け 止め、早急に対処すべき問題であると考えます。

ところが、近年の福祉保健委員会の議事録等を拝見するかぎり、残念ながら、 こうした問題意識が議員の方たちに共有されているかどうか、非常に不安を感 じます。 野宿者問題をどのように問題として理解されているのか、貴殿の個人的見解を お教え下さい。

(2) 野宿者の「自立」について

福祉保健委員の方の中には、「(野宿者は)自由人」で「基本的には縛られる ことが嫌な性格の持ち主が多い」(居相氏、1997.3.13)、「収容施設に入れ ることを好まない諸君がほとんど」(篠崎氏、1997.7.22)という意見を持つ 方、 「仕事は用意をするんだけれども、皆さんがなかなかその気にならない(ので は)」(吉野氏、1997.11.4)という疑問を持っている方がおられるようです が、これらは野宿者の実態を正確に把握した上での発言とは思えません。

第一に、野宿者には強い就労意欲があります。しかし住居がない、住民票がな いという理由で、また、年を取りすぎているという理由で、職安行政から事実 上締め出されているのが実態です。 第二に、現在の生活保護行政は、原則として六五歳以上の人や病院で「就労不 可」と認定された野宿者にしか生活保護を適用しません。 仕事もない、かと言って行政の援助もない、となれば、野宿者本人がどれだけ 強く望んだとして、どうやって路上から脱却できるというのでしょうか。 野宿者とは、いわば労働行政と生活保護行政の狭間に置き去りにされた存在な のです。 池山保護課長は一九九六年度の「冬季臨時宿泊事業」での就職が一人に止まっ たことを報告していますが(1997.11.14)、高卒・大卒の若い失業者が日々職 安に溢れている昨今の状況を考えれば、 平均年齢五〇才半ばの野宿者が新聞・雑誌等の職業案内で就労できる機会がど の程度のものかは、容易に想像できるのではないでしょうか。 さらに生活保護行政について、池山保護課長は「生活保護制度につきましてよ く説明した結果、申請したいという方については申請書をお渡ししてお書きい ただいております」と発言していますが(1997.11.18)、 これは実態とかなりかけ離れた発言と言わざるを得ません。 実際には「申請したい」と言う野宿者は「その程度では申請させられない」と 言う面接相談員によって門前払いされているのです。そのような中で漸く保護 にこぎつけたとしても、野宿させながら通院させるという非人道的な対応がま かり通っています。 保護課の窓口に設置されていると言われた(1997.11.18)生活保護のパンフレッ ト(これも目に付く所に置いてあるわけではなく、窓口の職員の中にすら所在 を把握していない者がいます)の冒頭に掲げられた 「生活保護とは、生活に困っているすべての人々に対して、(中略)自分の力、 又は他の方法で生活できるようになるまで手助けをするしくみです」という立 派な理念がその理念通りに運用されていないことをよく認識していただきたい と思います。

その上で、野宿者の「自立」を支援するために、渋谷区としてできるどのような施策があると考えているのか、ご意見をお聞かせ下さい。

(3) 「自立支援センター」について

すでにご存じのこととは思いますが、東京都は今年四月に野宿者の生活と就労 に真剣に取り組むべく、「自立支援センター」を新宿区内二カ所に暫定的に設 置し、今後これを都内五カ所に設置する方針を出しています。 これは、これまでの冬季限定の施設と比べて、根本的に異なるものです。私た ちの数年来の諸方面に対する働きかけがもたらした一つの成果として、私たち は現状に応じた有効なこの施策を歓迎しています。

しかし、「センター」設置で問題が解決するわけではありません。依然として 多くの課題が残されています。 第一に、「センター」はあくまで生活保護法外の施策です。「センター」を口 実に生活保護が正当に適用されなくなるとしたら、それは大きな問題です。 第二に、現在新宿区に設置された「センター」は、新宿区だけの「地域対策」 として位置づけられ、その他の地域に関しては、依然目に見える具体的な取組 が始められていません。 受入先の二三区で作る「自立支援事業実施要綱策定検討委員会」は漸く先月立 ち上がったばかりで、「具体的な協議」(池山保護課長、1998.3.24)には程 遠い状況です。 私たちは、「都内五カ所」(同上)の設置がズルズルと先延ばしされることを 懸念しています。 私たちは、「路上生活者が区内に一五〇人以上いる区は七区」(同上)の一つ である渋谷区における「センター」の設置を強く望んでおり、先日そのことを 盛り込んだ申入書を渋谷区に提出し、現在話し合いをしています。 第三に、「センター」の運営方法も依然未確定な部分を多く残しています。実 効的な就労斡旋と生活保障が行われるか、野宿者は期待と不安をもってこの先 行きを注視しています。 そこで、「自立支援センター」の開設に向けて、渋谷区がどのような方針をもっ て取り組むべきと考えているか、貴殿個人のご意見を教えていただきたいと思 います。 特に入所方法や就労斡旋方法について、どのような運営が適切とお考えでしょ うか。

*回答は右欄に記入の上、同封した返信用封筒にてご返送下さい。回答は6月 4日(木)までにお願いします。ご協力よろしくお願いします。

1998年5月26日

 


(C)1998,1999 渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合
(のじれんメールアドレス: nojiren@jca.apc.org