1.「斎藤次郎」陣中日記


十二月十七日 晴
 今日は南京入城式があるので各班は勤務者以外は参列する事にする。小行李では切(折)半して自分と××、武田、岡本の三君が勤務する事にして残の諸君が午前八時出発する、午前中当番を残し馬糧を徴発して来る、我が飛行機十数機が入城式に参加して爆音勇ましく我等の上空を翼を並べて飛んで居る様は勇壮だ、今日は旧の油しめ十五日だとて乗馬の××××君と合して五人で砂糖小豆をしてたべながら「内地に居るとなあー」と焚火を囲んで雑談に耽ける、我等も近々に揚子江対岸にあがり十余里行軍して守備につくらしい話し向きがある、避難民の有様を見たが実に哀な状態だ、どんな事をしても敗残国になりたくないものと思った、夕刻補充部隊が百五十名到着した、×の安藤房雄君や橋本佐武郎君に会ひ金吉君の消息なども聴く、残留部隊になつて居るそうだ。
十二月十八日 曇、寒
 午前零時敗残兵の死体かたづけに出動の命令が出る、小行李全部が出発する、途中死屍累々として其の数を知れぬ敵兵の中を行く、吹いて来る一順(陣?)の風もなまぐさく何んとなく殺気たつて居る、揚子江岸で捕慮(虜)○○○名銃殺する、昨日まで月光コウコウとして居つたのが今夜は曇り、薄明い位、霧の様な雨がチラチラ降つて来た、寒い北風が耳を切る様だ、捕慮(虜)銃殺に行った十二中隊の戦友が流弾に腹部を貫通され死に近い断末魔のうめき声が身を切る様に聞い(え)悲哀の情がみなぎる、午前三時帰営、就寝、朝はゆつくり起床、朝の礼拝をして朝食用意をして××、岡本、××の三君等と南京見学に行く、都市を囲んで居る城壁の構造の広大なるのに一驚する、城壁の高さ約三丈乃至四丈幅約十四、五間南京市内も焼け又は破壊され見るかげもない惨胆(憺)たる有様だ、敵兵の死体やら武装解除された品々が路傍に沢山ある、帰途は夕刻近く九時就寝する。
〔欄外記事〕銃殺捕慮(虜)の死体処理(十八日○時)