法務大臣   森山真弓 様

厚生労働大臣 坂口 力 様            2002年10月7日

                         日本キリスト教協議会

                         「障害者」と教会問題委員会

委員長 中村雄介

       心神喪失等処遇法案の廃案を訴えます

 

  政府は、2002年3月15日「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律案」(以下法律案)を閣議決定し、第164回通常国会に上程しました。政府が可決しようとしたこの法律案は、いずれも過去に挫折し不成立に終わった改正刑法草案(1974年)及び法務省刑事局案の骨子(1981年)による「保安処分」を踏まえた新たな立法化であり、私たちは以下の理由により、強く反対いたします。

  この法律案の要点は、1)検察官が地方裁判所に対して、対象者(重大な犯罪行為を行った精神「障害者」)を入院、または強制通院させる、あるいは必要なしと決定をするよう審判の申し立てをする 2)審判申し立てに対して処遇の賛否を裁判官1名、精神科医1名の合議体で、両者の一致にもとづき判断する、というものです。この精神科医は精神保健審判員と言われ、厚生労働省から最高裁に提出した医師名簿から、事件毎に地裁が任命するシステムになっています。

  政府がこの合議体のなかで、精神科医に判断させようとする「再犯のおそれ」は、判定すること自体極めて困難なことであり、結果的には対象者を、医療的観点からは「他害へのおそれ」により、裁判官からは、「重大な犯罪行為に対する制裁」としての長期強制入院や強制通院をさせることになるのは明らかです。適切に治療し、可能な限り早期に社会復帰させることが最も望ましいにもかかわらず、対象者をただただあいまいな再犯のおそれによって、一般社会から隔離しようとすることは、極めて差別的であり、基本的に自由に生きる国民の権利を侵害することです。

1991年国連総会決議「精神障害者の保護及び精神保健ケアの改善のための諸原則」では、「患者の身体的拘束または非自発的隔離は行わないものとする」として、患者自身や他の者への危害を防ぐために非自発的隔離を行う場合においても、「この手段は当該目的のために、厳密に必要とされる期間を超えて延長されないものとする」とあります。このように、すべての人は精神疾患を理由とする差別があってはならないとされています。

日本キリスト教協議会は、日本におけるプロテスタント諸教派・団体が加盟するキリスト教団体であり、創造者の神から与えられた一人一人のいのちが、かけがえのない存在であることを信じるがゆえに、「心を病む者」には、ことのほか慎重な手厚い対応と支えが実施されるべきであり、不当な差別処遇ではなく、その病を癒す治療を受ける権利があることを強く訴えます。同法律案は、今秋第155回臨時国会での継続審議が予定されていますが、同法案の問題性を改めて認識し、廃案にされることを強く要望いたします。

 

 

 

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