2002年3月14日

内閣総理大臣
小泉純一郎 様

日本のエネルギー政策と京都議定書の締結、

    およびそれに基づく法律と政策に関する キリスト者の提言            

 私たちは、日本のカトリック教会の有志と、アシジの聖フランシスコを尊敬する日本のNGOフランシスカンズのメンバー、そして33を超えるキリスト教教派・団体からなる日本キリスト教協議会を代表している者です。世界のキリスト教界にとっても、また全人類にとっても大きな地球環境問題の一つである気候変動問題に関し、2月13日、あなたが本部長を務めておられる地球温暖化対策推進本部が、「京都議定書の締結に向けた今後の方針」を発表し、本年8月末から9月にかけて開かれる「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」での発効に向けて、京都議定書を今通常国会期に締結し、これに必要な国内法を成立させる姿勢を示したことを、私たちは歓迎いたします。

 しかしながら、私たちは、貴本部がその方針において「米国の建設的な対応を引き続き求める」と明記しているにもかかわらず、去る2月18日、記者会見であなたが、京都議定書を否定した効果の低いブッシュ政権の独自の気候変動政策案を肯定的に評価する発言をし、世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国である米国に京都議定書への参加・批准とそれに基づく政策を進めるよう働きかける姿勢を弱めてしまったことを、残念に思っております。

 また、その一方で、自民党が、エネルギー需給計画の最たるものとして原子力をあげ、その推進政策に法的位置づけを与え、住民投票による自治体や市民の自己決定権を無視しています。又、自然エネルギーの推進を阻害する「エネルギー基本法案」を提出しようとしていることに、私たちは異議を唱えるものであります。

 加えて、経済産業省の「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法案」は、CO2を排出し環境に悪影響をもたらすゴミ発電を助長し、それによって自然エネルギーの普及を駆逐するものであり、これを憂慮するものであります。

 あなたがすでにご承知の通り、日本は世界第4位のCO2排出国として、また気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)の議長国を務めた国として、大きな責任を負っています。アジアにおいても、国全体の排出量が大きくても人口の多いインドや中国とは比べものにならないぐらい、日本は国民一人あたりの排出量が大きいのです。さらに、1月31日、日本政府が1990年に策定した地球温暖化防止行動計画の「一人当たりCO2排出量を2000年以降1990年レベルに安定化する」との目標は達成できなかったことが明らかになりました。このような失敗が明らかになった一方、すでに気候変動による悪影響が小島しょ諸国など地球のあちこちで見られる今、日本が率先して、国外ではなく自国内の温室効果ガスを最大限に削減することは、地球規模の正義につながるものであり、同時に、世界の貧しくされた人々や未来の世代など、気候変動の被害者に対する緊急の責務といわなければなりません。

 欧州連合(EU)ではすでに京都議定書を批准する動きが進みつつあり、今後、EU諸国を先頭に、原子力から脱却して自然エネルギーを活用した持続可能な社会の建設に向けて国際的な競争が進むものと思われます。そのような文脈の中で、地球環境を守りつつ、日本経済を再生させるために、現内閣が最大の政策として掲げている構造改革を進めるのであれば、過疎化する地域や失業者など、社会的に弱い立場に置かれている人たちを切り捨てることなく、地域経済の自立的発展による持続可能な社会の建設を目標に、省エネと自然エネルギーの利用による気候変動対策を構造改革の中に組み込むことが必要です。そのためには、

1.ゴミ発電や原子力に頼ることなく、自然エネルギーの活用を最大化し、それによって雇用の増大をはかり、環境に調和した循環型の持続可能な地域経済社会の建設を促すこと。そのために、経済産業省の「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法案」や「エネルギー基本法案」など、これまでのエネルギー政策を抜本的に見直し、自然エネルギーの活用を中心に据えること。

2.「地球温暖化対策推進大綱」を見直し、「地球温暖化対策推進法」の一部改正案を閣議決定し国会に提出するにあたっては、京都議定書における1990年度比で6%削減するという目標を達成するために、国外ではなく日本国内における温室効果ガスの排出量の削減を最大化すること。同時に、京都議定書の国際的枠組みを運用する場合には、自国の利益を目的とせず、気候変動への対策に必要な資金をもたない気候変動の被害者との連帯と協力をその目的とすること。そして、排出量取引やクリーン開発メカニズム、京都メカニズムの活用、途上国の参加、森林整備等の吸収源対策、途上国の森林回復や排出削減へのODA等の活用といった国際的枠組みによって他国での排出量削減を自国の排出量削減として勘定する方策を、最小限に抑えること。

3.世界最大のCO2排出国である米国のブッシュ政権に対し、孤立主義的な独自案を破棄し、国際協力という観点から、京都議定書への参加・批准とそれに基づく政策を進めるよう、改めて強く働きかけること。

 聖書には、人間が、与えられたすべてのいのちを大切にし、自らを捨てて、他者のために、それもとりわけ弱い立場に置かれている人たちのために仕えるよう、招かれていることが示されています。すべての人に開かれているこのメッセージを耳にするとき、「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という、日本国憲法前文にある精神に現政権が立ち、持続可能な地球社会に向けて、上記の事項を政策に反映してくださるよう、要請いたします。

                 日本カトリック正義と平和協議会
                  会長  松浦悟郎

                 フランシスカンズ・インターナショナル・ジャパン
                  代表  戸田三千雄 

                 日本キリスト教協議会(NCC)
                  議長  鈴木伶子
                  総幹事 大津健一 
                 同 平和・核問題委員会 
                  委員長 小笠原公子


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