第9回外登法問題国際シンポジウム共同宣言

 

戦争の世紀と呼ばれた20世紀を引き継いで、私たちは、21世紀という新しい歴史に既に踏み入っている。東アジアの緊張した情勢下で、キリスト者の責任は重い。私たち日・韓・在日のキリスト者は、20021021日から24日まで北九州・筑豊の地において第9回外登法問題国際シンポジウムを開催した。今回のテーマは「21世紀東アジアの和解・平和・共生」である。主催者である外登法問題と取り組む全国キリスト教連絡協議会(外キ協)、日本キリスト教協議会(NCCJ)在日外国人の人権委員会、韓国基督教教会協議会(NCCK)人権委員会、韓国教会在日同胞人権宣教協議会は、祈りを一つに合わせ協議を重ねた。

 

―筑豊からの出発

私たちは、第9回外登法問題国際シンポジウムを、まず、筑豊の「苦難の現場」研修から開始した。私たちは、この筑豊の地を訪問したことで、東アジアに平和を作りだすためには、国を超えた共通の歴史認識に立つことがいかに重要であるかを改めて教えられた。現場研修を通して、日・韓・在日のキリスト者は、強制連行という日本国家の暴力の前に、名前さえも消されて生命を奪われていった多くの魂の叫び声を共に聴いた。私たちキリスト者は、歴史の事実を隠蔽することなく、神の前において悔い改める必要がある。特に、日本のキリスト者は、植民地支配という近代における大きな罪を具体的に償っていく責任があることを、神の声として強く受け止めた。

 

―歴史認識の共有

 日本では、「歴史教科書問題」に象徴されるように、日本が植民地下で行なった過ちを隠蔽しようとする動きが大きく拡がってきている。また、小泉首相の靖国神社公式参拝や、「有事法制」を強行採決しようとする動きもある。こうした動きは、日本の軍事大国化の流れを急速に進めるものであり、東アジアの平和を脅かしている。

歴史を学ぶことは、平和の時代を作りだすことであり、私たちは、日・韓・在日の若い世代がそうした歴史認識を共有出来る場を積極的に設けていかなくてはならない。

 

―日朝国交正常化

私たちは、東アジアの和解と平和の実現を求め、朝鮮半島の和解と平和統一を常に祈り続けてきた。2000年6月には、朝鮮半島における南北共同宣言が出され、南北対立の膠着状態に一条の光明が差し込み、統一への道が開けた。そして今年9月17日、日本の小泉首相が、朝鮮民主主義人民共和国を訪問した。

しかし、朝鮮民主主義人民共和国の金正日総書記が、日本人11名の拉致事実を認め謝罪したことで、日本国内には、朝鮮民主主義人民共和国に対する抗議の声が一挙に拡がった。そのような中で、朝鮮学校に通う子どもたちへの暴力、暴言がおこっている。私たちは、このことを決して許すことは出来ない。

さらに日本政府は、朝鮮民主主義人民共和国に対する戦後補償において、1965年の日韓条約と同様、日本の植民地支配の責任を問わない経済協力という形で解決しようとしている。しかし私たちは、「日本人拉致事件」において、被害者とその家族が納得する真相究明と謝罪がなされなければならないのであり、日朝国交においては、日本がなした植民地支配による歴史事実の徹底究明と国家としての謝罪・賠償がなされなければならないと考える。

戦後補償裁判の原告をはじめ、戦争犠牲者が相次いで死去している現実を前にして、日本の植民地支配の清算は一刻の猶予も許されない。また日本のマスコミは、植民地時代に行った強制連行・強制労働・性的強制被害の実態、被害者たちの苦難と苦痛を日本社会に知らせなければならない。

 

―平和を作りだす責任

 日・韓・在日のキリスト者は、これまで以上に国を超えて、この東アジアに安定と平和をもたらすべく、協力しあう時を迎えている。わたしたちは、「平和を作りだす者は幸いである」という御言葉をもとに、主の平和を作りだす責任を負っている。私たちはアジアのキリスト者として、和解と平和と共生のためにさらに強い絆を結び、以下の具体的な共同課題を確認する。

 

共同課題

1.私たちは、すでに日本の国会に上程されている「戦時性的強制被害者問題解決促進法案」「恒久平和調査局設置法案」の早期制定をめざし、国会議員に働きかける。

2.私たちは、日本軍「慰安婦」問題・戦時強制労働問題に関して、日本政府が国連人権委員会とILO基準適用委員会の勧告を履行するよう、世界教会協議会・国際NGO・労働団体などと連帯し、活動する。

3.私たちは、日本の歴史教科書の歪曲を許さず、日・韓・在日の教会の出会いと共同の歴史学習を深めるために、取り組みを強化する。歴史をひらくとき』(韓国語版『人さし指の自由』)改訂版を出版する。

4.私たちは、日韓両国において、多民族・多文化共生社会の実現に向けて、「すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する国際条約」を批准し、未登録移住労働者のアムネスティと合法的な在留資格・労働権を付与することをめざす。

5.私たちは、韓国政府に対し、移住労働者に対する強制追放政策を即時中止し、合法的外国人労働者政策を樹立することを求める。日本政府に対し、すべての外国人が、住民としての権利が保障されるよう、「外国人住民基本法」の制定を求める。

6.私たちは、世界経済のグローバル化と相次ぐ戦争によって「生の安全」を脅かされ、故郷を去らざるを得ない人々に対して、国際人権基準に合致した法制度を早急に整備し、難民として受け入れるよう日韓両政府に求める。

7.私たちは、日・韓・在日キリスト者青年交流プログラムを積極的に協力・支援する。韓国教会の「在日同胞苦難の現場訪問プログラム」を継続する。

8.「第10回外登法問題国際シンポジウム」を2003年10月、韓国で開催する。

 

 2002年10月24日  第9回外登法問題国際シンポジウム参加者一同

              外登法問題と取り組む全国キリスト教連絡協議会(外キ協)

日本キリスト教協議会(NCCJ)在日外国人の人権委員会

韓国基督教教会協議会(NCCK)人権委員会

韓国教会在日同胞人権宣教協議会



緊急アピール

 

 9月17日の日朝首脳会談で明らかになった日本人拉致についての内容は、私たちにとって衝撃的なものでした。しかし一方では、それ以降、各地で在日韓国・朝鮮人、とりわけ朝鮮学校に通う子どもたちへの暴行・脅迫などの迫害が急増し、すでに全国で100件以上が報告されています。

 これらの暴行・脅迫事件は、朝鮮民主主義人民共和国に対する非難を在日韓国・朝鮮人に向けようとする点で、全く筋違いであるばかりでなく、マイノリティを攻撃の対象にする点でも決して許されるべきものではありません。

 日本社会は、1988年の“パチンコ疑惑”、94年の“核開発疑惑”、98年の“ミサイル発射実験”と、日本と朝鮮民主主義人民共和国との関係が悪化するたびに、その潜在的なパニック体質と排外主義を露にしました。すでに日本は人種差別撤廃条約に加入したのにもかかわらず、民族差別禁止法をいまだ制定していません。このような中で再び今回、同じような人権侵害事件を引き起こされています。しかも、“日本の国民感情”という使い古された言説によってナショナリズムを煽り、日本が果たすべき歴史責任も、在日韓国・朝鮮人への暴行・脅迫事件も、今や後景に追いやられてしまっています。

 私たちは、こうした在日韓国・朝鮮人への迫害事件が繰り返し発生していることに強く抗議します。

 

20021024日 第9回外登法問題国際シンポジウム参加者一同

外登法問題と取り組む全国キリスト教連絡協議会

日本キリスト教協議会在日外国人の人権委員会

韓国基督教教会協議会人権委員会

韓国教会在日同胞人権宣教協議会

 

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