総理大臣  小泉純一郎 様

 

 

米国で起きた「同時多発テロ」に関する

日本政府への申し入れ書

 11日、米国で起きた「同時多発テロ」として報道されているこの国際的無差別暴虐行為は、世界中を震撼させました。いかなる国、またいかなる信条の下で行なわれたとしても、かけがえのない人の生命を生活を破壊するテロ攻撃やミサイル攻撃は、犯罪行為以外の何ものでもなく、それを認めるわけにはいきません。
私たちは、犠牲者の方々を深く哀悼し、瓦礫の下に助けを求めている人たちの一刻も早い救出と、傷ついた人たちの心身の癒しを、心から祈ります。

このような暴挙が誰によって、なぜ行われたのか、何をねらいとしているのかなど、真実は一日も早く究明され、その責任者は断罪されなければなりません。しかしこれは軍事的報復攻撃によってではなく、あくまで国際的な機関による、完全に法的、理性的、平和的方法でなされるべきです。
NATOは、同条約第5条に規定された集団的防衛権を発動する方向にあるようですし、ブッシュ大統領は、この「同時多発テロ」を「戦争行為」と非難したと言うことです。小泉首相は、米国への強い支持と協力を宣言し、自民党は、有事法制化の動きを早め、次期臨時国会での自衛隊法の改定を検討していると報道されています。また、政府の「安全保障会議」において、「国際緊急援助隊の派遣」、「状況に応じ、随時必要な措置をとる」と言われました。さらに、米国政府の報復を支持すると明言しました。これに先立っての日米外相会談で、田中外相は、米国に対して「軍事面でも武力行使の一本化の検討をすすめる」という意志を伝えられたとのことです。

「テロ」に対するたたかいには、武力報復しかないと、米国政府をはじめ西欧諸国も日本政府もこぞって、声高に主張しているように思えます。小泉首相は、米国とともに日本が報復戦争を遂行するために国内法を変更し、または拡大解釈を行おうとしているようにさえ思えます。
首相にとって最も大切な相手は、日本の民衆ではありませんか。冷静に見れば、沖縄をはじめ、在日米軍基地は、外国による「テロ攻撃」の危険にさらされているといいますが、より危険にさらされているのは地域住民です。そして、この国土には、非戦を誓った日本国憲法があるのです。首相は、今こそ、日本国憲法の前文と、特に第9条の精神を遵守することを確約すべきです。「有事法制の整備を急ぐ」などということは、平和的解決への道とは全く方向性が逆です。

テロ攻撃の映像を見て、日本で一番衝撃をうけているのは、かつて本土防衛の盾とされ、焦土とされた沖縄の人々でしょう。今また、沖縄が、もしこのような攻撃にさらされることがあれば、取り返しがつきません。米国の報復攻撃を、「当然だ」と言われる首相は、基地のおかれた地域の人々、特に沖縄への責任を認識されているのでしょうか。基地は、軍事的脅威と報復のための装置であり、平和の装置にはなりえません。基地は撤去されるべきです。そして、国際間の緊張は、あくまで、軍事的報復によらない完全に平和的手段によって緩和され、和解がはかられるべきです。「報復」は、敵意と軍拡の相乗作用を増幅させるだけで、平和を脅かし、人々を恐怖と不安に陥れるだけだからです。
今回の攻撃で、ミサイル防衛、宇宙防衛構想など、いかなる科学的先進的技術による防衛も、敵意のあみ出す巧妙な攻撃を完全に封じることはできないことがわかりました。軍拡競争への道を遮断し、和解と平和への道を模索する他、人類が生き延びる道はありません。日本が米国と真に協力していくことを望むとすれば、平和憲法前文の思想を共有するという原点に立って、対話を模索するべきでしょう。滅びに到る「報復」のワナにおちいってはなりません。

数千人にも及ぶといわれる直接の犠牲者とその家族の方々に、限りない哀悼を捧げます。瓦礫の下の人々の一刻も早い救出と手当てを、また、精神的にも深い傷を受けた人々への十分なケアがなされるように願います。日本にいて、現場にかけつけることもできず、悲嘆と心労に打ちひしがれている犠牲者や行方不明の方の家族に、政府はもっとも必要な情報とサポートを提供してください。同時に、このような残虐で悲惨な行為が二度と引き起こされることのないよう、いかなる暴力も許さない世界に向けた平和構築の努力を、平和憲法をもつ日本のイニシァティブをもって行ってくださることを強く求めます。


2001年9月13日

日本キリスト教協議会
総幹事    大津健一
  平和・核問題委員会委員長
小笠原公子

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