教科書に書かれなかった戦争 59
少女たちへのプロパガンダ
   ―「少女倶楽部」とアジア太平洋戦争


長谷川 潮
著 
四六判 140ページ 並製
定価:1,500円+税 
ISBN978-4-8166-201-5 C0095
奥付の初版発行年月:2012年02月10日


【内容紹介】
 インターネットやテレビが生れる以前の時代は、雑誌が子どもたちの夢・憧れ・知識育み、子どもと社会をつなぐ重要な文化的チャンネルだった。
「少女倶楽部」を読み解くことによって、戦争当時における児童文化の実態を明らかにする。

【プロフィール】

長谷川 潮(はせがわ・うしお)
  1936年 東京都生まれ。
     法政大学卒業。
     国際基督教大学図書館に勤務(1962-97)
  現在 児童文学評論家。
  著書 『日本の戦争児童文学』久山社、1995年。
     『児童戦争読み物の近代』久山社、1999年。
     『戦争児童文学は真実を伝えてきたか』(梨の木舎、2000年)
     『子どもの本に描かれたアジア・太平洋』(梨の木舎、2007年)


【目次 】
第一章 満州事変が起こされる
軍国少年・軍国少女 8
『少女倶楽部』を取り上げる 10
『少女の友』との違い 14
満州事変への反応 19
〈肉弾三勇士〉 24
第二章 仮想の日米戦争
空襲されるという予測 32
少女の役割 35
日中戦争の中休み? 39
日米戦争は近いか遠いか 43
仮想の戦争と実際の戦争 47
第三章 支那事変に突入する
関心は空襲 52
千人針と慰問文と 54
〈感動〉を要求する 58
「長期戦となりました」 63
従軍看護婦たち (1) 67
第四章 太平洋戦争前夜
支那の少女たち 82
従軍看護婦たち (2) 87
「国策協力」キャンペーン 94
内務省からの圧力 99
軍の弾圧 102
第五章 破滅の太平洋戦争
ページ数の減少 108
読者に向けての精神指導 112
ミッドウエイ海戦の虚偽報道 116
学徒動員の低年齢化 119
国民を裸にする 125
従軍看護婦たち (3) 132
【あとがき 】より


 それが生まれる前と後とでは、世の中が大きく違うということはたくさんあります。一例をあげれば、インターネット以前と以後です。インターネットより古いことを持ち出せば、テレビ以前と以後です。日本でのテレビ放送の開始は一九五三年のことですから、テレビ以前を体験している人間はもう少数派になってしまいました。
 テレビ以前の時代において、子どもと社会をつなぐ重要な文化的チャンネルだったのが雑誌です。昭和のごく初期について言えば、たとえば講談社の『少年倶楽部』や『少女倶楽部』のような雑誌は、少年小説や少女小説といった読物で読者を引きつけるとともに、漫画(あえてマンガとは書きません)で大きな楽しみを与えていました。
 しかしそれだけではありません。口絵や各種の写真などでビジュアルな興味に気をくばり、社会の出来事や知名人の動静なども伝え、〈偉い人〉の訓話なども掲載しました。要するに『少年倶楽部』も『少女倶楽部』も、子どものための総合雑誌でした。ですから発行時点において、子どもたちがどういうふうに読んだか、また、どういう影響を受けたかということの検討は、雑誌を丸ごと見ることによって初めて成り立ちます。
 けれども雑誌を丸ごと見るのが困難であることは、本文において述べたとおりです。たとえば『少年倶楽部』の全冊を調べるといったことは、何かのプロジェクトにもとづく共同研究でなければできないでしょう。個人には無理な作業です。
 わたしは本書において、一部の時期についてのみ『少女倶楽部』に取り組みました。わたしの場合、その作業の動機は『少女倶楽部』という雑誌への関心というより、アジア太平洋戦争が子どもの雑誌にどう反映したかを見るというところにありました。しかし執筆を終えた今、この雑誌への親近感が生まれ、その全体を見てみたいとすら思っています。というのは、全体を見ることによってこそ、その一部分であるアジア太平洋戦争の時期のものの特質をいっそう明らかにできるはずだからです。ただし、その実行はむずかしいでしょう、残念ながら。
 本書は、季刊の同人研究誌『論叢 児童文化』の第37号(二○○九年秋季)から第43号(二○一一年春季)まで(ただし第38号を除く)に連載したものです。連載中は『少女倶楽部』そのものを見ることに追われて、論稿を十分にまとめることができませんでしたので、出版に当たってかなり細かく手を入れました。
 時期的な範囲は狭いですが、『少女倶楽部』という雑誌がどういうものだったかということと、戦争当時における児童文化の実態の一端を知っていただければと願っています。機会がありましたら、一冊でも二冊でも当時の『少女倶楽部』に目を通してみてください。
 本書は、梨の木舎から出版するわたしの個人著作の三冊目です。今回も同社の羽田ゆみ子さんにいろいろお世話になって本書が世に出ることになりました。
                               長谷川 潮
【少女倶楽部の表紙】