シリーズ・平和をつくる5 
韓流がつたえる現代韓
  ――「初恋から」ノ・ムヒョンの死まで

イ・ヨンチェ著

A5判 180ページ 並製
定価:1,700円+税 
ISBN978-4-8166-1001-1 C0022

2010年3月刊

朝日新聞「ぴーぷる」で紹介されました
読書新聞書評4月24日掲載
韓国併合100年、光州民主化運動30周年におくる
 「ドラマは社会現実を反映する」(金鐘学)。韓流ドラマや映画は、歴史に翻弄された人間の生身の姿を描きながら現代史をつたえ、多くの日本人に新鮮なインパクトを与えました。韓国ドラマの中にはその時代の社会像とその時代を生きた個人の価値観や人間像がリアルに描かれているからです。
 韓国現代史を理解するために必要なキーワード――植民地、分断、反共、民主化、そして格差―を織り込みながら、体験者である386世代の著者が語ります。
【著者紹介】
1971年、韓国全羅南道生まれ。恵泉女学園大学教員。98年来日、慶應義塾大学大学院
法学研究科卒業。専門は日韓・日朝関係。日韓の市民団体の交流のコーディネーター、
韓国語、韓国映画や映像を通して現代を語る市民講座の講師を務める。
共著に『なるほど!これが韓国か---名言・流行語・造語で知る現代史(朝日新聞社)』、
『朝鮮半島と国際政治(慶応義塾大学出版会)』、『危機の朝鮮半島(慶応義塾大学出版会)』など
【目次 】
T部 ヨンチェさん、信州で韓流をかたる
1 『初恋』のうしろにあるもの
2 光州を乗り越え、民主化の海へ
3 映画ドラマでよむ現代史
4 「過去清算」とノ・ムヒョン
5 民主化運動の記憶を引き継ぐ

U部 ヨンチェさん、課外授業
6 韓国の若者にとって兵役とはなにか
7 韓国映画は北朝鮮をどう描いてきたか
【まえがき】から
はじめに
昨年10月、東京ドームで5年ぶりにぺ・ヨンジュンの東京イベントが開かれた。アニメ『冬のソナタ』と著書『韓国の美をたどる旅』の出版記念のための来日だった。『冬ソナタ』が放映されて5年も発ったので、韓流のファンももう飽きているのではないかと思っての参加だったが、ドームを埋め尽くした4万5千名の熱気は予想をはるかに超えていた。雪だるま模様の風船に乗って3Fに座っている観客の目の前まで来て手を振ってくれたペ・ヨンジュンとチェ・ジウ。ほとんどが女性層のように見えたが、それに応じて4万5千名が一斉に振り回す白いハンカチの波。韓流はもはや流行を超えて日本社会のあらゆるところに浸透していることが改めて分かった。
 韓流が始まった頃、ある市民講座で、「映画とドラマから読み取る韓国の現代史と文化について」という題で話をしたことがある。受講生の大半はペ・ヨンジュンやソ・ジソップなど韓流スターのファンであった。韓流ファンから発せられる韓国社会や文化に関する様々な質問と情熱的な勉強ぶりはわたしを驚かせた。戦後補償や歴史認識問題など硬い枠にはめられてきた私の日韓関係へのアプローチを、一人の市民の立場から考えさせるきっかけになったのが、「韓流」であった。
 韓国ドラマをリードしてきたプロデューサー金鐘学(キム・ジョンハク――ルビ)は「ドラマは社会現実を反映する」と言う。確かに韓国ドラマの中には、その時代の社会の姿とその時代を生きる個人の価値観や人間像がリアルに描かれている。歴史大河ドラマの主人公も、善良で道徳的な側面だけではなく、不道徳な行為をせざるを得ない苦しみや内面の世界をリアルに表現する。
ドラマはいまの時代を生きるわたしたちに、自分を振り返らせるメッセージをもっている。このようなドラマを韓国人は「国民ドラマ」と呼ぶ。お年寄りから孫の世代まで家族みんなが一緒にはまってしまうからそう呼ぶのだが、ドラマと映画が新しい時代意識を広げる良いテキストとして社会的機能を果たしているという意味でもある。
私が出会った韓流ファンも最初の入り口は、ペヨンジュンとか有名な韓流スターであった。ところが、そのドラマと映画の時代背景や韓国の文化を説明していくうちに、徐々にスターを乗り越え、自分の「韓国観」を見つけて、その興味分野も多様化していった。今はすでに私より詳しい韓国専門家であり、日韓市民交流を作っていく伝道者の役割を果たしている。韓流映像の力を改めて感じてきた4−5年であった。
韓国現代史を理解するためのキーワードに――植民地、分断、反共、民主化、そして格差――がある。
韓国はいまでも、いつ銃弾が発射されるかもしれない分断国家である。北朝鮮を同胞として擁護し理解することは、「国家保安法」によって禁止されている。大韓民国政府樹立、韓国戦争(朝鮮戦争)以後の長い軍事独裁政権の間には、「反共が国是」だった。政権を批判して民主主義と自由を求めるものはみな、「親北朝鮮、左翼、アカ」と烙印を押され正常な社会生活をおくることは不可能な時代であった。
しかし、87年の民主化宣言以後、とくに98年金大中大統領の当選による初の政権交替と2002年のノ・ムヒョン大統領につながる民主化10年の間、韓国社会はそれまで押さえられてきた意識の解放の時期を迎えた。同時に98年の通貨危機以後、新自由主義が浸透する中、中産階層の崩壊に伴う格差社会も迎えた。このような民主化時代と格差社会を経験した世代が、今現在韓国の映画やドラマの作り手であり、俳優として演技している。また、その時代を経験した人々がそれをみる観客でもある。
韓流の映画やドラマはもちろん商品であり、事実とは離れた表現も多くある。しかし、そのなかには民主化運動や格差社会を経験した作り手の「時代精神」や心を込めたセリフが潜んでいる。それを読み取ることこそ本やメディアが伝えてない韓国一般市民の意識を共有することができる。
隣国の歴史や文化を知ることは、その社会を理解する第一歩であり、皮肉ながら、そうするうちに、日本の歴史や文化を知るようになり、東アジアの共通文化を見つけていくきっかけになる。現在韓国社会をリードしている人々、そして一般庶民が、どんな経験をして、どういう状況におかれているのか。韓国併合100年、光州民主化運動30年目を迎える今年、この本が、ペ・ヨンジュンを乗り越え、ダイナミックな韓国社会を理解する道案内人になれば、その役目を十分果たしたといえるだろう。

2010年2月                      イ・ヨンチェ
【朝日新聞(夕刊紙) 「ぴーぷる」で紹介されました】


4月24日掲載「読書新聞」書評