萩谷さん、ハリケーン・カーターとICFFMAJによる記者会見(25日ピッツバーグ)で明らかにされた新証拠についての翻訳をさっそくご投稿いただき、ありがとうございました。
 蛇足になるかもしれませんが、この証拠がどういう意味をもつのかについて、かんたんに説明を加えます。

 事件の発端となったのは、ムミアの弟ビリー(ウイリアム)クックが運転していたフォルクスワーゲンが、ローキャスト通りと13番通りの交差点付近で一方通行を逆に走った、という理由で白人警官のダニエル・フォークナーによって停止を命じられ、クルマからおりてきたビリーに警官が暴行を加え始めた。そこへタクシーを運転していたムミアがやってきて現場付近にクルマをとめて、二人に近づいていった、というところにあります。
 ここまでの事実関係については基本的には争いがありません。
 しかし、従来、フォルクスワーゲンにはビリー以外の人物も乗っていたのではないか、という憶測はあったものの、決定的な証言はなく、ムミアの裁判では、フォルクスワーゲンの乗員(新たに明らかになったウイリアム裁判でのシンシア・ホワイト証言でdriverと区別して passengerと表現されている人物)についてはまったくどの証人からも言及されていません。ただし、現場の交差点にいたデシー・ハイタワーやシングルタリー、半ブロックかそれ以上、ローキャスト通りを12番通り方向(東)に行ったあたりにいたヴェロニカ・ジョーンズ、ローキャスト通りぞいのホテルの自室にいたコダンスキーなどの証人が、現場から逃走する第三の人物を目撃した、という証言は繰り返し行われています。これがフォルクスワーゲンの同乗者である、という証言はいずれの証人からも出ていません。

 ホワイト証人も、ムミアの裁判では、第三の人物(ワーゲンの同乗者)についてはその存在を示唆するようなことはまったく述べていません。ところが、ウイリアムの裁判ではこれとまったく矛盾するやりとりがホワイトと検事の間でなされていたことが、ウイリアムの裁判記録から明らかになったというものです。

passenger(乗客)はどうしたのですか?
driverはどうしたのですか?
と二度に分けて尋問し、passengerとdriverと少なくとも2名がこのクルマにいたことを示唆しているところが重要です。
 これで、従来、検察が無視しようとしてきた第三の人物の存在を、彼らが最初から知っていたこと、にもかかわらずムミア裁判では現場から逃走し、一度も検察側からは存在が認められてこなかった人物の存在とそれを検察がムミア裁判では隠しとおしてきたことが明らかになった、というのが弁護側の主張です。

 ただし、ムミアが拳銃を手にしているのを見た、と唯一証言し、検察側立証の鍵となったシンシア・ホワイトは、そもそも現場にいなかったのではないか、という強い疑惑があります。したがって、この上記の問答も、それ自体が検察の誘導というか、検察の描いたストーリーをホワイトがなぞっただけではないかと考えられます。したがって、これは、検察側が、当初からワーゲンの同乗者の存在を知っていて、ムミアの裁判が始まる前に行われたウイリアムの裁判では、その存在を示唆する証言をホワイトにさせていたが、この人物の存在が明らかになると、犯人らしき第三の人物が現場から逃走したというハイタワーやヴェロニカ・ジョーンズ、コダンスキーらの証言を裏付けることとなり、ムミア犯人説に不利になると考え、その後ムミアの裁判ではこれをひっこめ、隠した、と考えられます。ちなみにウイリアム裁判でのこのやりとりは82年3月とあります。ムミアの裁判が始まったのはそれより3カ月遅い6月からです(ムミアが瀕死の重傷を負っていたことも、裁判の開始が遅れた理由の一つだと思います)。